新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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プラネテューヌ編10 ヤマト変身

ヤマトの侵食された右半身がどんどんと範囲を広げていく。そこに人間の顔はなく、緑色のエビのような外見が現れる。

堅い鱗のような表皮が全身を覆った瞬間に、ヤマトはいまにも飛び掛らんと鋭い爪を構えた。

いつものしっかりとした姿と違って、野生を感じさせるその姿はまるで……モンスターだ。

 

ヤマトは敵へとまっすぐ向かっていった。

迎えうつワレチューは尻尾の先を突きたてようと、鋭く放つ。

だが、それはヤマトを貫くことなく、胸で止まった。うっとうしそうにその尻尾を睨んだあと、ぐいっと引っ張った。

ヤマトよりも何倍もあるはずの巨体が軽々と引っ張られてしまう。

抵抗する間もなく、ワレチューはヤマトのもとへ引きずられていく。

待ち構えていたヤマトの力任せの一撃がワレチューを襲う。

 

「ヂュッ!?」

 

低いながらもワレチューの名残がある悲鳴が上がる。

地面を転がっていくワレチューの口から黒いもやもやとした煙のようなものが漏れ出たと思うと、少しばかりその巨体が縮んだ……ような気がする。

 

「うおおあああ!!」

 

野獣のような雄たけびを上げて、跳躍する。

ニードロップをかまし、ワレチューの上に乗っかかった。

戦闘服の腕部分から刃が飛び出し、爪とあわせて何度もめちゃくちゃに斬りつける。

そのたびにつけられる傷から、絶え間なく黒いもやが噴出する。

 

普段の戦い方からはまったく逆のような、本能に従ったような戦い方を見て、ぼくは戦慄する。

弓から変形したベルトは、かつてアノネデスが造ったらしい、女神の力を無理やり増幅させる機械を応用したものだ。

半分で止まっているヤマトの中にある力を引き出して、圧倒的な攻撃力と防御力を兼ね備えた姿へと変える。

デメリットは今見て分かるとおり。女神メモリーの力を引き出すということは、ヤマトのモンスター化が進むということでもある。

頭の中まで侵食され、理性が追いやられるのだ。

繰り返して、なんとかある程度制御できるようになったいまはまだマシなほうで、初めてこの状態になったときはバッテリーが切れるまで数時間暴れ続けた。

 

恐るべきはその防御力だ。

マウントを取って攻撃し続けるヤマトを、ワレチューは全身を使って抵抗するが、ほとんど傷がつかない。

やたらめったらに切り裂くと、ヤマトは軽々とワレチューを持ち上げ、地面に叩きつけ、真上に放り投げた。

 

ヤマトが腰を低くして構えると、腕から生えた刃がよりいっそう鋭く長く研ぎ澄まされる。

空気がビリビリと振動するほどの叫びを上げて、落ちてくる敵をぎらりと睨む。

腕を容赦なく振り上げると、巨体に飲み込まれるように、腕ごと刃が深々と突き刺さる。

圧縮された空気が勢いよく抜けるように、ワレチューから黒い煙が噴出して消えていく。

 

煙が晴れたところには、元に戻ったワレチューとその首をつかむ変身したままのヤマトがいる。

ヤマトは乱暴にワレチューを地面に激しく打ちつけると、追撃のために腕を振り上げた。

 

ぼくはワレチューをかっさらうように抱え上げ、ヤマトの攻撃が空振りする。

とげとげしい歯をぎらつかせてたヤマトが一瞬にして間合いを詰めてきた。

振り上げられた爪が盾を斬りつける。衝撃が伝わって、腕が痺れる。

 

「解除だ!」

 

ぼくがそう叫ぶと、ピピっと音が鳴って、ベルトが外れた。

すると、侵食されたヤマトの左半身がみるみる肌色に変わり、人間のものへと戻っていく。

さっきまでの凶暴さが嘘のように抜けていき、息を切らしながら膝をつく。

 

安全装置。

特定の人物が「解除」と言うことで、強制的に変身を解くのだ。

 

「助かったよ、ヴァトリ。被害は?」

 

「君による被害は地面が削れた程度だ」

 

「よかった」

 

よろよろと立ち上がるヤマトに肩を貸す。

変身は消耗が激しいのが難点だった。

シェアの力を借りているわけではない。自分の中にある力を、限界を超えて引き出しているのだ。

いくら人を超えた存在だからといって、さすがのヤマトも堪えたようだ。

 

「ヤマト、ヴァトリ、大丈夫? 避難完了したんだけど」

 

たたたっと走りよってきたのはネプテューヌだ。

こちらも相当疲れているようで、かなりくたびれた様子だった。

 

「ああ、なんとか。ビーシャは?」

 

気絶していたビーシャを任せていたが、その姿はどこにもない。

 

「あのあとすぐに目を覚ましたんだ。すっかり元通りになってたよ。いまは住民の避難を手伝ってくれてる」

 

ぼくは胸をなでおろした。

とりあえず、ビーシャとワレチューに関しては元に戻った。

エコーやモンスターが襲ってくる様子もないし、ひと段落といったとこだろう。

 

ヤマトの姿を誰かに見られないように、フードを被りなおさせた。ところどころ穴が開いて、ちらりと緑色の肌が見えるが、なんとかごまかせるレベルだ。

 

不意に、小脇に抱えていたワレチューがもぞもぞと動いた。

 

「……あ、あれ? オイラはいったい……」

 

きょろきょろとあたりを見回して、混乱した顔で首をかしげた。

ぼくに抱えられていると分かっても、とくに暴れる様子も無くおとなしくしていた。

 

「起きたか。覚えてることは? 黒い影とか」

 

「お、覚えてるっちゅ。あれに取り込まれた瞬間、オイラの胸の底から暴れたい衝動が湧き上がって……」

 

「その話、詳しく聞かせていただけますか?」

 

どこからともなくひょいと現れたイストワールに内心驚いたが、身体は疲れきっていて反応できなかった。

 

「騒ぎに駆けつけたのですが、もう解決したみたいですね。ありがとうございます。ヤマトさん、ヴァトリさん」

 

被害者の数は不明で、かなり建物が壊されたものの、事件が発生してからすぐに片付けられたことは幸いだった。

これから後始末に追われることになるだろうが、それは他の者に任せよう。

 

「ああ、それはいい。それより、詳しい話は後にしてくれ。こっちは全員満身創痍なんだ」

 

「そうですね。まずはゆっくりと身体を休めてからにしましょうか」

 

ぐったりとしているヤマトとワレチューを抱えたまま、ぼくたちは教会へと向かった。

これだけへとへとになったのは、久しぶりだ。

 


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