新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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プラネテューヌ編6 襲撃される街

「ということがあったんだ」

 

「やたら外が騒いでると思ったら、ワレチューにゴールドサァド両方に遭遇してたんだな。疲れ切ってるから、何かと思ったよ」

 

ぼくは疲弊していた。

戦ったのもあるが、ビーシャの特徴とツッコミどころのありすぎる言動が一番の原因だ。

伸びていたワレチューを捕まえて、戻ってきてもいまだに飲み込めてはいないが、飲み込むつもりもない。

 

「実際には、そんなに動いてはないつもりなんだけどな。ワレチューは?」

 

「アイエフに任せてるよ。こっちの事情はこっちの人間のほうが詳しいだろうし、コンパがいたほうがスムーズだろうし。僕が訊きたいことはまた後で」

 

そうか。と頷いてぼくは壁にもたれかかり、正面の扉を見つめる。

通常なら女神ネプテューヌの部屋であるそこは、いまはビーシャの部屋らしい。

しかし、そのビーシャは外で遊んでいるか、さっきのようにプレスト仮面として治安維持をしているかでたまにしかここに寄らないそうだ。

他に場所もない。ワレチューの尋問に使わせてもらうことにして、ぼくたちは終わりを待っていた。

 

「どうだった。ゴールドサァド」

 

「見た目は普通の少女ってところは女神と変わらないな。異常な力を持ってるっていうのも」

 

「強さは?」

 

ここでふと、ヤマトの目を見た。

興味津々というわけでもなさそうだが、だからといって訊かないという選択肢はないのだ。

現時点において、ゴールドサァドが敵かどうかはまだわからない。

シェアがほとんど得られないネプテューヌに代わって、いま一番戦力があるのはヤマトだ。いざというときのために相手のことを知っておく必要がある。

だが、ぼくは首を横に振った。

 

「さあ。差がありすぎてわからない」

 

事実だ。

手ごたえを全く感じなかった。ぼくの攻撃をいとも簡単に受け止めるビーシャは、それでも全力でなかったに違いない。

ぼくではその奥にあるエネルギーを引き出すことはできなかった。

次元が違いすぎる。

ヤマトやアイ、プルルートにも同じものを感じたことが多々ある。

人間でないゆえの強さ、ぼくとは比べられない強さがそこにある。

 

答えてすぐ、扉が開く。

 

「いやぁ、終わった終わった」

 

「ふう、コンパのおかげで簡単に情報を引き出せたわね」

 

「ねずみさん、快く協力してくれたですね」

 

ネプテューヌ、アイエフ、コンパがそろって出てきた。

顔色とセリフから察するに、結果は上々のようだ。

 

「結構答えてくれたわ。あいつは頼まれただけらしいわね。あのエコーってやつに」

 

「エコー……」

 

あの異様な雰囲気の機械。あれの目的は不明だが、あのロボット軍団で押し寄せられては、厄介なことになる。

なにより他のロボットと違って、エコーの実力はわからないままだ。

どんな機能が搭載されているか見当もつかない。

 

「渦巻きマークのついたゲーム機を探しているらしいわ。盗みに関しては、マジェコンヌと共同でやってるみたいだけど、そいつが何者でなんの目的で動いてるのかも知らないみたい」

 

「まあこれで、ワレチュー、マジェコンヌ、エコーが関係してるってのが分かったわけだ。ずいぶんな進展だね」

 

ヤマトは腕組みをした。世界の改変をしたのが誰にせよ、その後の世界で悪事を働いている面々がわかったのだ。それだけでなくゴールドサァドの姿も見た。わけのわからない状況からは一変、手がかりが増えた。

しかし渦巻きマークのゲームか……そんなゲーム機ごときにマジェコンヌまで奔走してるなんて……。

ぼくの世界のマジェコンヌは口は悪くとも悪事を働くような女じゃなかった。ヤマトたちの話では、昔はそうとうあくどいことをしてたみたいだが。

 

「うずまき……うずまき……うんん?」

 

『ピンポンパンポーン♪ 業務連絡、業務連絡。えー……ネプテューヌは大至急謁見の間に来るように』

 

うなっているネプテューヌにものを訊こうと口を開く前にアナウンスが鳴った。

この声はあのプレスト仮面、ビーシャだ。

 

「珍しいわね、ビーシャ直々に呼び出しだなんて」

 

「ゴールドサァドの呼び出しだなんて、嫌な予感がするなぁ」

 

「とにかく行ってみましょ。あんたたちも来るわよね」

 

ぼくとヤマトは頷いた。

せっかくのゴールドサァドからの接触だ。静観しているわけにはいかない。

 

「ネプテューヌだけ呼び出しか。ぼくも嫌な予感がする」

 

「そう? 僕はそう思わないけど、ついていけばわかるさ」

 

心なしか少し笑うヤマトがフードを深く被りなおす。

顔の右部分に影が都合よくつくられて、その本当の姿を隠す。

 

ああ、そうだ。とぼくはアイエフに向き直った。

 

「ワレチューは?」

 

「牢屋にぶち込むように手配済みよ」

 

 

 

 

謁見の間。以前までは女神の女神としての姿を見ることができる数少ない場所である。

他所ではできない話をする場所でもある。

プライベート部屋でも勝手に入ってくる教会員はいないが、ここはより聞かれたくない話をするのに向いている。

 

「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! ネプテューヌ参上!」

 

そんなことはお構いなしに、ネプテューヌは扉を開けるなり大声で言う。

扉を閉めたのは、しんがりにいるぼくたちだ。

大仰しい装飾で彩られた柱。壁の照明は淡く光って、神秘的な雰囲気をかもしだしている。

隙のない部屋の造りは、隙のある話を許してくれそうにない。だが、ネプテューヌは別。

 

「よく来たね、ネプテューヌ。エキシビジョンマッチ以来だね」

 

部屋の中心で浮遊するイストワールの隣で、仁王立ちするのはビーシャ。

もちろん今はサングラスは外しているが、それを抜きにしてもとてもあの力を持っているような少女だと思えない。

 

「あれ?もしかして、わたしが女神だってこと覚えてるの?」

 

「もちろん。そして、今もいろいろ協力してくれてることもね」

 

ビーシャは笑った。

それがなんらかの理由、あるいは誰かの意図があってのことかどうかはともかく、ゴールドサァドは改変の影響を受けていないのだ。

 

「けど、今日はその話をするために君たちを呼んだんじゃないんだ。大至急、ハネダシティに向かってほしいの」

 

ぼくは顔をしかめた。

訊きたいこと、問い詰めたいことはたくさんある。それはネプテューヌたちも同じで、改変の原因がビーシャでなければ彼女も同じはずだった。

だがそれを置いて、頼み事とは腑に落ちなかった。

 

「ハネダシティって隣町ですよね? 何があったんですか?」

 

「それが、困ったことにモンスターの群れに襲撃を受けてるみたいなんだよ。だから、急いで行って助けてきて」

 

「モンスターの群れ?」

 

「そうです。最近、モンスターが凶暴化していることについてはヤマトさんも知っていますね」

 

イストワールが説明をする。

アイやネプギアからも報告を受けてる。ルウィーとリーンボックスが一番被害が出ているみたいだ。

それぞれがハンター、ソルジャーという職業を与えて事の収束を図っているようだが、いまいち成果は上げられていないらしい。

 

「だからわたしを呼んだんだね」

 

たしかにモンスターが凶暴化していようとも、女神であるネプテューヌならやられることはないだろう。

シェアがほとんどない今の状況でも、普通の人間よりはるかに上だ。

 

「ぼくたちは?」

 

「これは私たちの問題です。ヤマトさんやヴァトリさんに力を借りるわけには……」

 

イストワールの言葉に、ヤマトは首を横に振った。

 

「いまさらだよ。それに、僕たちと君たちの敵は同じようだとわかったところだし、助け合いしたほうがいい。それに借りっていうなら、僕は借りてるほうだ」

 

イストワールが申し訳なさそうにヤマトを見たあと、ぼくを見る。

現状、手が足りないのはプラネテューヌも同じだ。それはこの数日間で痛感した。

 

「ぼくはヤマトについていくだけだよ」

 

「なら、よろしくね!」

 

ネプテューヌが輝いた顔で手のひらをこっちに向ける。合わせてハイタッチ。

 

「その話ですが、ビーシャさんにも一緒に行っていただきます」

 

「ええっ!? わたしも!?」

 

ビーシャは目を丸くして、手をぶんぶんと振る。

 

「だ、だけどさ、ゴールドサァドがここを離れるといろいろ問題が起きない? ほら、今はこの国の統治者なんだよ!?」

 

「問題ありません」

 

「まぁ、トップが不在なだけで国が傾くんじゃ、ネプ子の時代にすでに潰れているわ」

 

きっぱりと言ってのけるイストワールに、アイエフがうんうんと頷いた。

その言葉からは苦労がにじみ出ている。

 

「大変だね、イストワール」

 

「本当に、ヤマトさんたちが来てくれて助かりました」

 

こっそりとにやけながら話すヤマトと対照的に、イストワールはため息をついた。

 

 

 

 

急いでハネダシティにたどり着いたぼくたちは目を丸くした。モンスターの数は予想以上だった。

街の人の大体は避難済みだろうが、まだ逃げまどっているのが何人もいる。

衛兵が応戦しているが、あまりにも敵の数が多すぎる。

 

「うわっ、モンスターがいっぱいだよ!」

 

「さっさと片付けよう。被害が広がる前に」

 

驚くよりも前に、ヤマトはさっそく弓を手に持って、エネルギーの矢を打ち込んでいく。

ぼくもモンスターの大群に突っ込んで、できるだけ目をこちらに向けるために派手に跳び回りながら戦う。

スライヌの体当たりなど、軽い攻撃はあえて無視して、くちばしや角、爪など鋭い攻撃のみを盾で防ぐ。

 

「ヴァトリ!」

 

その声に、ぼくはヤマトの視線の先を見た。

逃げようとしている女性にモンスターが五匹向かっていっている。

距離はかなり離れてしまっているから、ぼくだけではどうしようもない。ぼくは盾をヤマトに向かって投げた。

回転する盾を、ヤマトはぐるんと回って蹴り返すと、勢いを増した盾はモンスターに次々とヒットして蹴散らしていく。盾はそのままぼくのほうへ帰ってきた。

とりこぼした一体を、颯爽と現れたパープルハートが一閃。

女性は無事を喜んだあと、ぼくたちに礼をしてすぐさま逃げ去った。

 

奮闘で数が減ってきたおかげで、周りを見渡す余裕ができた。

いま逃げている人に近い敵はいない。とりあえずここの脅威はほとんど去った。

残っているのは、ビーシャの前にいる一匹だ。

 

「あいつなにやってんだ」

 

鳥型モンスターが近づいていく。ビーシャならあの程度朝飯前だろう。

だが、ビーシャは震えるだけで動こうとしない。

ぼくは走って、モンスターがくちばしをビーシャに突き立てる前に、盾でそれを防いだ。

回し蹴りでモンスターを吹き飛ばした。

 

「ビーシャ! 大丈夫か」

 

「っ!?」

 

ビーシャはびくっと身体を飛び上がらせて、ぼくの顔を見る。

目に涙すら浮かんでいる。おかしい。あの実力なら、パンチ一発で終わりのはずだ。

そんな力を持っているはずなのに、雑魚に恐怖を感じているのか?

 

ぼくが違和感に眉をひそめると、ビーシャはだっと走り去ってしまった。

 

「っおい!」

 

なにがなんだかわからないが、とりあえずビーシャを追おうとしたとき、別の方向から悲鳴が聞こえた。

ぼくはヤマトを見る。彼は悲鳴のしたほうを向いて頷いた。

この街をどうにかするのが先だ。

ビーシャのことも気になるが、なぜ逃げたのかはわからないが、少なくともケガを負うなんてことはないだろう。

 

角を曲がると、へたりこむ二人の衛兵の前に巨大な影があった。

5メートルはあろうかという怪鳥が風を巻き起こしながら、旋回している。

先ほどまでの雑魚とは全く違う様子に、ぼくは素早く盾を構えた。

 

「くそ、なんだこいつは!」

 

「こういうとき、女神様がいてくれたら……」

 

吐き捨てるように衛兵が言う。

 

「女神様はいない。俺たちが命を張ってやるしかないんだ!」

 

その衛兵を叱るように、別の衛兵が立ち上がった。

それを見てとって、怪鳥がまっすぐと降りてくる。

くちばしを衛兵に向けて、いまにも衛兵を貫こうと直下。もうすぐで衛兵に激突、といったところで、突然その顔が爆発した。

ヤマトの矢が直撃したのだ。

 

「女神のことを思うなら、命は軽々しく捨てるもんじゃないよ」

 

ヤマトは呆れたようにそう言った。

シェアのことを抜きにしても、女神は国の者が命を散らすことを美徳とするような存在じゃない。

衛兵は飛び上がるほど驚いて、後ろを振り返った。

 

「ネプテューヌ様!?」

 

「よかった、生きていたんですね」

 

「下がって、他のところに回ってくれ。あれは僕たちがやる」

 

ヤマトが前に出て、弓を構える。怪鳥は警戒しているようで、空高く旋回しながらこちらを伺っている。

衛兵はといえば、生で見るパープルハートの姿に感激しているようだ。口を開けたまま、阿呆のように固まっている。

 

「あ、あの……俺、ネプテューヌ様のために教会に勤めたかったんだけど、試験に落ちて、でも役に立てると思って……」

 

「わかった。オーケー。ぼくを見ろ」

 

こんな話をしている場合じゃない。

ぼくは衛兵たちの顔を無理やりこっちに向けて、ゆっくりと言葉をつづけた。

 

「いまこの街が危険なのはわかってるな?」

 

「ああ」

 

「だけどネプテューヌやぼくたちだけの手じゃ足りない。だから君たちの手がいるんだ。ネプテューヌが君たちを必要としてる」

 

「ああ、俺たちもネプテューヌ様が……」

 

「わかってる。君たちが必要だ」

 

「りょ、了解」

 

「握手ならあとでさせるように言うから、早く行ってくれ」

 

「はい!」

 

ぱっと顔を輝かせて、衛兵がその場を離れる。

これでようやく敵に集中できる。

ちらり、と隣を見ると武器を構えたままヤマトがこっちを見ていた。

 

「なんだ?」

 

「乗せるのが上手くなった」

 

「気持ちはわかるからな。さあ、やるぞ」

 

「ああ。ネプテューヌ、前衛は任せる。僕とヴァトリで援護する」

 

「わかったわ」

 

パープルハートが空へ飛んでいき、太刀を振るう。怪鳥はさっと避け、おおきな翼を当てようとした。だがヤマトの光の矢が翼を貫き、怪鳥は体勢を崩した。

追撃のために、女神は綺麗にくるりと回り、再び太刀を振った。腹を切り裂かれた痛みで、怪鳥は甲高い悲鳴を上げた。

怪鳥はぎらっと睨みをきかせて、今度はヤマトを見た。

パープルハートを無視して、こちらに向かってくる怪鳥に、ヤマトは立て続けに爆発矢、衝撃矢、光の矢を放つが、止まらない。

目の前まで迫った怪鳥を盾で抑えたが、勢いは止まらず、ずるずると押されてしまう。

ぼくはくちばしを掴んで、一本背負いの要領で思い切り力をこめる。

巨体はぐるりと弧を描いて、地面に激突した。

どすん、少し地面が揺れ、その衝撃で怪鳥は喘ぎ声を上げた。

 

「デュエルエッジ!」

 

急降下とともにきらめいたパープルハートの一閃が、怪鳥の首と身体を斬り離した。

すっかり大人しくなった身体を見て、ようやくぼくたちは一息ついた。

 

「よし、終わった」

 

「他のモンスターも引いていっているみたいね」

 

怪鳥がボスだったのか、目の端に映っていたモンスターたちがせわしなく動き出す。

避難所とは別、どうやら町の外へ向かって言っているらしい。

とりあえず、ハネダシティは無事のようだ。

 

「ビーシャのことが気になるな。あれだけの力を持っておきながら逃げ出すなんて」

 

ぼくは盾を背中に直しながら呟く。まだそう経っていないから、近くにいるはずだ。

ヤマトは戦いでずれたフードをかぶり直し、ぼくと変身を解いたネプテューヌを見た。

 

「二人にビーシャのことは任せるよ。僕はイストワールのところに戻って報告してくる」

 

「いーすんのところに? ヤマトもビーシャを探さないの?」

 

ぼくの頭に浮かんだ疑問を、先にネプテューヌにとられてしまった。

 

「僕はたぶん行かないほうがいい」


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