新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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プラネテューヌ編5 プレスト仮面

ネプギアがリーンボックスへと向かってからまた時間がたち、ぼくとアイエフはあらゆるゲーム屋で聞き込みを続けていた。

 

「別についてこなくてもいいのに」

 

「と言われてもな」

 

正確には、アイエフの聞き込みについていっているだけだ。

口では大丈夫と言いつつも、怪我が癒えているかどうか、本当のところはわからない。

まさか脱がして確かめるわけにもいかないし、無事と確信できるまではついていくことにした。

 

「あんたみたいにいらないものまで背負うやつ知ってるけど、ろくな結果にならなかったわよ」

 

懐かしむような顔をして、少し顔をゆがめる。

普通なら両立しないはずの表情に、ぼくは興味を持った。

 

「どんなやつだ?」

 

「どんなやつって……一見頼りなさそうに見えて、なんというか……」

 

そこまで言って、アイエフが口ごもる。どの言葉が正しいか、迷っているのだ。

 

「知り合いなんだろう?」

 

「そんな簡単に言える奴じゃないのよ」

 

それ以上は何も言わず、にぎわっているゲーム店のドアを開く。

ここらでは大きいゲーム店だが、まだ被害のないところだった。

こういうところにいると、自分のことがひどく場違いに思える。神次元でもゲームは衰えない流行だが、ぼくはほとんどやったことがない。

エディンが運営する孤児院にもたくさんのゲームがあるが、ぼくは身体を鍛えるので夢中。興味がないというわけではない。それよりもやるべきこと、やりたいことがあるのだ。

 

アイエフがさっそく店長を呼び出し、一枚の写真を見せる。

 

「このネズミ、見たことない?」

 

清潔感のあるエプロンは制服だろう、胸に『店長』と書かれた男性に写真を見せる。

ワレチューという、灰色のネズミの写真だ。残念ながら、相手は首を横に振った。

 

「そう……最近騒ぎになっている強盗よ。なにかあったら教会まで連絡ちょうだい」

 

「あの、それなら……」

 

おそるおそるといったふうに人差し指をこちらに向けた。いや、ぼくたちの後ろだ。

 

「ぢゅっ!?」

 

そこにはちょうど、緩衝材できれいに梱包されたゲーム機やソフトを台車で運ぶ一匹の姿があった。

神次元で散々見たぼくにとっては、写真を見るまでもない。ワレチューがそこにいた。

アイエフに気づくと、店に一歩入った状態で固まってしまった。かと思うと台車を置いてすぐさま来た道を走り出してしまった。

 

「あ、あんた!」

 

アイエフが追い始める。ぼくもすぐさま反応して、道路を走るアイエフに並ぶ。

 

「どうする?」

 

「とりあえず捕まえて、尋問ね」

 

「冗談じゃないっちゅ!」

 

アイエフの言葉を聞いて、先を走るワレチューがさらに速度を上げた。

ワレチューの身体は小さいのにも関わらず、少しずつ距離が広がっていく。

 

「あいつ……逃げ足だけは速いな」

 

「言ってる場合じゃないでしょ、早く捕まえないと」

 

盾を投げれば止められるかもしれないが、手元が狂ったり、避けられてしまえば道を歩く人に当たってしまうかもしれない。

うかつに行動を起こすことができないのがわかりつつも、背中の盾を腕に装備する。

 

「ぢゅっぢゅっぢゅー。誰がお前らみたいなノロマに捕まるかっちゅ」

 

ぼくたちが追いつけないと分かったのか、余裕を出して、こちらを向いて舌を出したその瞬間だ。

よそ見をしたために、正面の子どもにどんとぶつかってしまった。

 

「うわあああああん!」

 

「ふん、すぐ泣くから人間の子どもは嫌いっちゅよ」

 

勢いよく転んでしまった子どもが泣き出したのに、ワレチューは嫌な顔をして再び逃げ出す。

ぼくは止まって、倒れた子どもを座らせる。少し血が出るほどの傷が足にできている。

同じく立ち止まったアイエフがポーチから傷薬を取り出す。

 

「ぼくが追う!」

 

この場はアイエフに任せ、ぼくはワレチューを追うために足を動かした。

かなり距離が開いてしまったが、このまま逃げ切れるはずがない。これだけ目立つ逃走劇を繰り広げているのだ。見失ったとしても、人か防犯カメラが姿を捉えている。

とはいえ、この場で逃がすつもりはない。人の往来が少なくなれば、なにかしら足を止める手段はある。

 

「まてーーーい!」

 

突如、よく通る声が響き渡った。

思わずワレチューもぼくも止まってしまう。

声の主は、なぜかとがったサングラスをかけている金髪の少女だ。立っているのは、よりにもよってワレチューの正面。

 

「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ! 悪を倒せと我を呼ぶ! 聞け、悪人共!」

 

ババッとキレのいい動きでいくつかポーズをとったあと、ぼくとワレチューを交互に指差す。

『共』って、一緒にされちゃったよ。

 

「我は正義のヒーロー、プレスト仮面! 子どもを泣かせるなんて言語道断! 成敗してくれる!」

 

プレスト仮面はファイティングポーズをとる。

だが、ワレチューはお構いなしに突進していく。

 

「変なマスクを着けてわけのわからないやつっちゅ! どかないなら、力づくでいくっちゅ!」

 

「そうはいくか! くらえ! 必殺、プレストキーック!」

 

まずいと思い、ぼくが盾を投げようとしたとき、プレスト仮面は跳躍し、空中で一回転するとまっすぐワレチューへと飛んでいく。

背中にジェットをつけているわけでもない。だが、それ以上の勢いでプレスト仮面はキックをかました。

 

「ぢゅーーっ!?」

 

断末魔をあげて、ワレチューがこちらに飛んできた。ぼくはそれを身体で受け止めると、地面に落として手錠で拘束する。

いまの攻撃で完全に伸びきっていたおかげで、抵抗なく捕らえることができた。

非戦闘員とはいえ、一撃でワレチューをのしたその実力。格好は伊達じゃないということだ。

 

「次はおまえだ!」

 

プレスト仮面がぼくを睨む。といってもサングラスをしているから、ほかの部分から推測しただけだが。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

違う。という間も与えずに、プレスト仮面が再び跳躍する。

さきほどと同じように一回転して、足を先にこちらへ向かってくる。

 

「プレストキック!」

 

空を切る音が聞こえた瞬間、盾で防ぐが、思い切り吹き飛ばされ、転げ回ってしまう。

盾は身体を守ってくれたが、その衝撃はしっかり叩き込まれた。

特に盾をつけている右腕がじんじんと痺れる。

 

「やってくれる……」

 

先に仕掛けたのはそっちだぞ。

ぼくは力を入れて立ち上がり、プレスト仮面へと向かう。

間合いを詰めて、容赦なくパンチを繰り出すと、ぼくはあのロボット、エコー以来の衝撃を受けた。プレスト仮面はいとも簡単にぼくの拳を受け止めたのだ。

エコーとの一戦以来、少し疑問を感じることもあったが、鍛え上げた身体には相応の自信があった。だが、目の前の少女は動じずにぼくの固めた手を取った。

プレスト仮面はぼくを押し出すと、お返しと言わんばかりにパンチを出してくる。防御に成功すると、今度は後ずさるだけで済んだが、さらに痺れが増した。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

構えた両者の間にアイエフが割って入った。

ワレチューの写真と諜報員の証明証を見せると、ようやくプレスト仮面はわかってくれたようで、構えを解く。

 

「こいつと私は悪くないわ。強盗のあのネズミが逃げたから、追ってたの」

 

「なーんだ、そうだったんだ。なら迷惑料含めて一万クレジットでいいよ」

 

「迷惑料?」

 

ぼくは眉をひそめた。

ワレチューを捕らえるのに協力してくれたのは感謝するが、迷惑をかけられたのはこっちも同じだ。

 

「そんなお金持ってないわよ」

 

「ま、今回はわたしの勘違いもあったし、特別にタダにしてあげる。ただし、次からはちゃんともらうからね!」

 

言うだけ言って、プレスト仮面は高笑いしながら去っていった。

嵐のような登場と退場に、ぼくは立ちすくんでいた。

ちらりと後ろを見ると、さっきの子どもは親に抱きかかえられていた。治療は済んでいるようで、泣き止んでいる。

 

「ずいぶん驚いた顔してるのね」

 

「そりゃそうだろう。まさか金を請求されるとはな」

 

「そういう子なのよ。悪く思わないでね」

 

「良いやつなんだろうけどな」

 

子どものことを思っているヒーローっていうのはわかるが、金を要求するヒーローは初めて見た。

驚くぼくに、アイエフはさらに言葉をつづける。

 

「あれがあんたたちの探してるゴールドサァド、ビーシャよ」

 

「ゴールドサァド……」

 

ぼくは唖然とした。同時に、この腕の痺れを納得することができた。

 


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