新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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プラネテューヌ編3 魔女と機械

 

 

アイエフが向かったのは、サクラナミキという場所だった。

名前の通り桜がそこかしこで咲き乱れ、遊びに来る人がたくさんいたらしいが、最近モンスターが出没してきてからは立ち入り禁止区域になっているそうだ。

 

馬に羽が生えたモンスター、馬鳥の突進を盾で防ぎ、そのまま盾でアゴを打ち付ける。

悲鳴をあげた馬鳥は粒子となって消え去る。

 

「あんたなかなか戦えるのね。見た目だけかと思ったわ」

 

「どうも」

 

言いながらぼくはアイエフのほうへ盾を投げる。

盾はびくっと首を縮めたアイエフのすぐそばを通り過ぎ、後ろのスライヌへ激突した。

スライヌは消え、盾は回転しながらぼくへ戻ってきた。

 

「あんた……」

 

いきなりのことに怒るべきか、それとも感謝すべきかわからずに、アイエフはとりあえずため息をついた。

 

「次やるときは言ってよ」

 

「善処する」

 

そんな調子でぼくたちは敵を倒しつつ進んでいった。

だがいっこうに目的の姿が見えない。

アイエフいわく魔女みたいなやつらしいが、ここにいるのは弱いモンスターだけ。

長時間探し続けているが、ここまで見つからないとなると、もういないことも考えるべきだ。

アイエフもそれを思ったのか、くるりとこっちを見て、首を横に振った。『お手上げ』のサインだ。

 

「もうどこか行ったのかしら……いったん戻り……」

 

アイエフがしゃべっている途中、その後ろから何かが飛んできた。

ぼくはアイエフに覆いかぶさるようにして盾を構える。

飛んできたなにかは盾に当たり、身体が押されそうになるもなんとか踏ん張る。

 

ぼくは盾から顔を出して、何かが飛んできた方向を見る。

桜木の陰から、赤く光る目の人間がゆっくりと姿を現す。

いや、人間じゃない。全身は銀色で、右手は大きな銃口のような形をしている。

機械人形。しかもヤマトの報告にあったロボットに酷似している。

あちらから来てくれるとはありがたい。ぼくは盾を前に構えながら、ゆっくりロボットに近づく。

ロボットは右手の銃口を向けながら、ぼくの頭から足まで観察し、興味深そうに頷いた。

 

「どうやら無事こっちに来たみたいだな。お前が来るのは予想外だったが……」

 

ロボットはやけにざらりとした声を発した。

 

「やっぱりお前はあのロボットだな」

 

『こっち』というのは『超次元』のことを指しているのだろう。

とすれば、このロボットを操っているのは明らかに神次元で犯罪組織に依頼をした人物と同一人物だということになる。

 

「二人で来るとは度胸がある」

 

「そっちは一体だ」

 

「それはどうかな?」

 

その言葉は目の前からではなく、後ろから聞こえてきた。

まったく同じロボットがそこにいた。しかも二体。ぼくたちは挟まれる形で、形勢逆転を許してしまった。

 

「罠にかかったみたいね」

 

「嘆いてる暇はないぞ」

 

ぼくは腰を低く構えた。

三体とも銃口はこちらに向けている。そんななか先に動いたのは……

 

「わかってるわ!」

 

アイエフだった。

手に持ったダガーで、前の一体を素早く切りつけていく。

ぼくは後ろの二体が動き出す前に、盾を投げた。

鈍い音がして左の一体に激突する。ロボットはよろめいたものの、傷ついている様子はない。

そいつが立て直す前に、ぼくは地面をバウンドして戻ってきた盾をつかみ、もう一体のほうへ駆け寄る。

右手から繰り出される光弾を盾で防ぎ、間合いを詰めると、その顔をパンチする。だがこれも大したダメージは通っていない。

続いてくるりと身体を回転させ、盾で殴りつける。ロボットはもう一体を巻き込んで桜の木へと激突した。

ちらりとアイエフを見ると、苦戦はしているが優勢だ。

目線を戻す。一体が飛び上がり、もう一体は走って近づいてくる。

ぼくはぐるんと身体を回転させて走ってくるロボットへ盾を投げる。

ロボットは盾が当たるなりガシャンという音がして、真っ二つに割れた。盾はそのまま跳ね返って飛んでいたロボットに衝突、ぼくにたどり着く前に地面に伏した。

ジジジ、と音を発しながらまだ戦おうとするロボットの頭を蹴り飛ばすと、ようやく動かなくなった。

ぼくはすぐさま盾を拾って、再びアイエフのほうを見る。

 

「魔界粧・轟炎!!」

 

地面から迸る火の柱がみるみるうちにロボットを溶かす。

そうか、アイエフは魔法も使えたんだ。

機械系のモンスターには、魔法が効くと相場が決まっている。げんに、あのロボットも抵抗する間もなくその身を消滅させた。

 

「大丈夫か?」

 

「平気よ、これくらい。だけど……」

 

「やっぱり危険だな、このロボットは……」

 

「やっぱり……? ねえ、あんた……」

 

「危ない!」

 

目の端にちらと見えた、高速で近づく黒い塊をとっさに盾で防ぐ。しかし吹き飛ばされ、身体は地面を転がる。

突然の衝撃に、ぼくは少し混乱した。すぐ頭を払って、冷静になろうと努める。

立ち上がって、盾を前に構えながら攻撃の来た方向を見る。だけどそこにはなにもいなかった。その代わりに……

 

「くっ……」

 

「ハーッハッハッハ!お前たちか、私を尾けているというやつらは」

 

爆発の余波でダメージを受けたアイエフを、魔女のような格好をした全体的に薄紫の女性が捕まえ、その首に鎌を突き付けていた。

ぼくはその女性を知っている。

マジェコンヌ。神次元ではぼくたちの仲間であり、ナス農園を営んでいるはずの彼女が、高笑いをあげてこちらを見下げている。

彼女が危険人物であったということは聞いている。この次元では明確に敵であろう。

 

ぼくはファイティングポーズをとる。

面白い、というふうにふんと鼻を鳴らし、鎌の先をこちらに向けた。

ぎゅっと距離を詰めて、アイエフに当たらないように思い切り盾を振り上げる。マジェコンヌは片手なのにもかかわらず、ぼくの攻撃を次々といなしていく。

歯を食いしばって盾を投げるも、簡単に弾かれてしまった。

防御手段がなくなったぼくに、マジェコンヌは鎌の先から黒い光弾を放つ。

腕を交差させて防ごうとするも、またも吹き飛ばされてしまい、背中から木にぶつかってしまった。

ずるずると地面に倒れ、げほげほとせき込むと、マジェコンヌは鎌を振り上げる。

 

「貴様らを生かしたせいで足取りがついては困るのでな、ここで始末させてもらう」

 

くそっ、実力が違いすぎる。

マジェコンヌはにやりと笑って鎌を振り下ろした。急いで盾を拾おうとしたその瞬間、ギィンと甲高い音がした。

恐る恐る前を見ると、アイエフの首はまだ繋がっていた。それだけじゃない、マジェコンヌが手に持っていた鎌はくるくると回りながら弧を描いて地面に突き刺さった。

 

「あいちゃんを放しなさい! デュエルエッジ!」

 

何かが目にもとまらぬ速さでぼくの目の前を過ぎ去っていき、マジェコンヌを太刀で一閃した。

凛とした雰囲気の、艶やかなその女性はマジェコンヌからアイエフを救い出すと、いったん距離を置いた。

 

「安心して。あいちゃんの仇は私が討つわ」

 

「勝手に殺すんじゃないよ」

 

いつの間にかぼくの後ろに立っていたヤマトだった。マジェコンヌの武器を弾いたのは彼だ。

女性はそっとアイエフを降ろすと、両手で太刀を構えた。ヤマトも弓を構えて、彼のエネルギーでできた光の矢を具現させる。

 

「ちょうどいい、零次元で味わった屈辱、ここで晴らさせてもらう!」

 

「僕もちょうど聞きたいことがあるんだ。だけど君の性格上、おいそれと話してくれるわけじゃなさそうだし」

 

「ふん、当たり前だ。私がやることは一つ。お前たちを血祭りにあげることだ!」

 

マジェコンヌがぐっと腰を低くする。それを見て女性とヤマトも武器に力をこめる。

その場の全員が動こうとしたその瞬間、両者の間に何かが落下した。重い音と土煙を上げながら、それはゆっくりと立ち上がる。

 

「危ないところだったな、マジェコンヌ」

 

耳障りなざらざらとした声、先ほどのロボットと同じ声だ。

だけど、目の前に現れたのはいままでのロボットよりもずっと頑強そうだった。

三メートル手前ほどもある身体はどこを攻撃しても傷つかなそうなほど重厚に見える。

何よりも目を見張ったのは、その動きだ。さっき戦ったときに感じた、ロボットの一部ぎこちない動きがこの機械人形には感じられない。

ゆったりとしたその一挙手一投足が、まるで人間のようにしなやかに動いている。

映画によく出てくるような、人間を模した皮を被っていないにも関わらず、そいつはそれ以上に人間に近かった。

 

「手伝え。あいつとは因縁があってな」

 

「断る」

 

マジェコンヌの言葉を遮るようにして、機械が即答すると、こちらを向いた。

 

「こっちの身体で会うのは初めてだったな。おれの名前はエコー。以後よろしく。会う機会があれば、だが」

 

エコーは表情を変えずにぽいと何かを投げた。

目の前にころころと転がってきたそれは、手りゅう弾だ。まずい、盾はいま手元にない。反射的に身体を丸めて凌ごうとする。

くぐもった爆発音と同時に振動と熱が襲ってくる。けれどもなぜか痛みはほとんどなかった。

恐る恐る目を開けてみる。

 

「大丈夫か?」

 

そんな言葉が投げかけられる。

ヤマトがぼくを覆うように、その身を盾にしていた。

かなりの威力があったのだろう。高い硬度をほこるヤマトの身体でさえ一部が欠け、緑色の血が伝っている。

 

「ヤマト……」

 

「無事みたいだな。ネプテューヌ、そっちは?」

 

「さっきの爆発は問題ないけれど、あいちゃんはちょっとケガしてるわ……はやく治さないと……」

 

ヤマトが女性のほうへ近づき、なにやら話し出す。だけどもうぼくの耳には入ってこなかった。

ただ茫然と爆発の跡を見ることしかできなかった。


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