新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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プロローグ2 黄金の少女たち

「ユウ……」

 

荒廃した地面には文明が感じられるようなものはなく、空は黒い雲に覆われ、遠慮の無い風が吹く。

ここは墓場だ。

死にいく者がたどり着く場所。

そしてそこは犯罪神との決着の場でもあった。

 

その墓場で、か細い声が俺の名前を呼んだ。

地面に倒れている、綺麗な青い長髪の女性が手を伸ばして、俺の頬を触れる。

女性の顔は半分ただれていたが、目はまっすぐ俺を見ていた。

 

「私は間違ってた…?」

 

「俺には…わからない」

 

女性の力が抜けていくのを感じる。

それが嫌で、俺は彼女の身体を強く抱きしめた。

 

殺したことを後悔していた。

ネプテューヌ、ネプギア、ノワール、ユニ、ブラン、ラム、ロム、ベール。

それだけじゃない。それまでに戦ってきた仲間たち。同じ世界に住む罪の無い人々。

ともに育ってきた家族とも言える友人でさえも。

 

その何もかもが俺のやったことだ。俺の弱さが招いた結果だ。

だから……だから止まるわけにはいかない。

葬った命のぶん……俺は……

 

「これからもまだ、戦い続けるの?」

 

 

 

がばっと起き上がって、いまいる場所を確認する。

プラネテューヌの教会の一室だ。

息が乱れていた。頭が少し痛い。深呼吸して、心を落ち着かせる。

 

「またか」

 

何年経ってもあのときの夢を見る。

俺の戦いの終わりと始まりのきっかけとなった、超次元での最終決戦。ギョウカイ墓場での犯罪神との戦いを。

忘れるわけにはいかない戦いだが、正直見返したい記憶でもない。

長い時間を経ても、まだ心の整理がついていないのだ。

 

誰かがドアをノックした。

俺は反射的に身体を固くして、攻撃に備える。だが、すぐに力を抜いて頭を振った。

ここは超次元だ。女神の転換期で少々騒がしいものの、敵はいない。墓場じゃないんだ。

 

すぐに立ち上がってドアを開ける。

そこには、笑顔でネプギアが立っていた。

 

「ああ、どうした?」

 

「もうすぐで始まりますよ。一緒に行きませんか?」

 

この次元に帰ってきてから、ネプギアはできるだけ俺と行動をともにすることを望んだ。

何年も顔を見せなくなったせいで、さびしさを感じてくれていたみたいだ。

ただこれに関しては、俺も望んだことだ。

自ら戦いへ身を投じたが、だからといって離れたかったわけじゃない。

 

「行くよ。ちょっと待っててくれ」

 

 

 

 

零次元での戦いから数か月が経った。

新しい女神を欲する時期、女神の転換期によってネット上では悪い噂やガセネタが蔓延、女神たちは対策を講じるものの、日に日にストレスが溜まっていった。

そんななかネプテューヌがとあることを提案した。

四国共同での祭。国ごとでの対策に限界を感じていた女神たちはこれに快く賛成し、瞬く間に準備が進められて『ゲイムギョウ界感謝祭』が開かれた。

思ったより反発はなく、ネットでのネガティブキャンペーンはみるみる減少。シェアもどんどん回復しているらしい。

 

犯罪神や古代の女神との『戦い』とはまた違う、守るべき対象から受ける一種の攻撃は、対処にも相応の配慮がいる。

その鬱憤を晴らす意味も込めてか、女神たちは笑みを浮かべながら武器を振り回している。

 

「あ、ネプギア、ユウ。こっちこっち」

 

ドームの中は熱気に包まれ、おびただしい数の観客の注目が中央の闘技場に向けられている。

ずらりと並べられたイスは超満員で、立ち見ですらいっぱいいっぱいだ。

その上に建てられた貴賓席にはすでにユニ、ロム、ラムが座っている。

 

「あいつは?」

 

ユニの隣に座りながら、俺は闘技場を見る。

予選では腕に自信のあるものが分け隔てなく参戦したが、やはり勝ち残ったのは四女神。

女神候補生の四人も準決勝で敗退したそうだ。

 

「イヴさんですか?」

 

「うちで預かってるわよ。空いてる一室を渡したわ。一応、欲しいものはなんでも与えてるけど、何してるかさっぱり。こっちに来てからずっと缶詰よ」

 

「誘ったんですけど、『来ない』の一点張りで……」

 

零次元で出会ったイヴォンヌ・ユリアンティラ、通称イヴという少女は超次元に来るなりラステイションの教会にお世話になっている。

そこを希望したのはイヴ自身で、最初ノワールとユニは渋ったものの、プラネテューヌの姉妹にお願いされて断り切れなくなった。

それからは一切姿を見なかったが、まさかユニにも状況がわからないとは……

 

「よく一緒に戦えたもんだ」

 

「悪い人じゃないんですよ? ただ、急いでますから」

 

「急ぎねぇ……」

 

俺はネプギアを見た。

犯罪組織との戦い、神次元、そして零次元と様々な経験をしたのだ。見る目はあるはず。

なにより、俺なんかよりはイヴのことをよく知っているネプギアが言うなら信じるしかない。

 

「ねぇねぇ、ユウ。なんでG-1グランプリに出なかったの?」

 

「お兄ちゃんならいいところまでいけそうなのに……」

 

「万が一にでも誰か一人にでも、俺の力に勘づかれでもしたらまずいだろ。『犯罪神を招待』ってネットが盛り上がる」

 

ラムとロムの問いは、まあまともなものだった。

しかし、このG-1グランプリ決勝戦はほぼ全世界の人間が見ているのだ。俺の中にある犯罪神の力を誰かに不審に思われ、まずくなるのは避けた方がいい。

一応抑えることもできるが、何かの拍子に力が出るかもしれない。

ただでさえ、ここ最近は厄介ごとが多くて変身を多用しているのだ。

 

「誰!?」

 

ノワール=ブラックハートの声が響く。

そこには黄金に輝く武器を携えた少女四人が女神と対峙していた。

大砲、銃、手甲足甲、剣。

武器の種類自体は珍しいものでもないが、気になったのはその力だ。

今まで戦った、あるいは共闘したなかにはあんな種類の力は感じたことがなかった。

 

「なんだあれ」

 

「挑戦者みたいですね」

 

「お姉ちゃんたちに向かっていくなんて、身の程知らずね」

 

「あんなやつら、お姉ちゃんだけでじゅうぶんよ!」

 

彼女たちの力がどういったものかはわからない。だが大きさは感じる。

いまの黄金の少女たちは……

 

「いいや、まずいぞ」

 

俺は勢いよく立ち上がって跳んだ。観客席の通路に降りたち、闘技場へ一目散に走る。

黄金の少女の一人がベール=グリーンハートとの距離を詰める。

槍で防ぐが、剣の一撃で闘技場の端まで吹き飛び、変身が解かれる。たった一撃で。

 

別の少女がブラン=ホワイトハートへ近づく。女神一の防御力を誇るホワイトハートでさえ、そのパンチとキックには防戦一方だ。

少女がぐるりと回転させ、回し蹴りを喰らわせると、ホワイトハートも力なく伏した。

 

大砲から砲弾が飛び出す。

俺は闘技場の外からジャンプし、弾がパープルハートに当たる直前に、彼女を抱きかかえて着地した。

ドームの壁に派手に穴が開き、空が見える。

 

ブラックハートへ向けられたレーザーを、二つのビームが迎えうった。

ユニとネプギアが変身して、俺の隣に着地する。

ギリギリのところで防いだいまの攻撃も、当たっていれば大ダメージは必至だっただろう。

 

突然の激しい四人の攻撃も、時間にすればわずか数秒。

シェアが減っているとはいえ、その圧倒的な差に冷や汗をかいた。

 

「誰だ、お前ら」

 

俺はパープルハートをゆっくり下ろし、目の前の少女たちを睨んだ。

魔剣はプラネテューヌの教会だ。戦うなら、今は武器なしで相手しなければならない。

 

「私たちが誰かって? ……そうだね」

 

不敵に笑ったのは、ブランを吹き飛ばした女性だ。

胸の半分以上が見えるほど露出が多い服に、薄手のタイツ。

近接戦に特化したそのたたずまいからは、絶対の自信が見える。

 

「四つの黄金の頂に君臨せし者……ゴールドサァド、とでも名乗らせてもらおうか」

 

言葉を継いだのは、剣を持ったクールな女性。

棘のある雰囲気を持ちながらも、余裕からか決して急ぐことのないゆったりとした動きをしている。

先ほどのベールへの一撃を見るに、緩急のつけ方が脅威だ。

 

「目的はなんだ」

 

「目的? なんだっけ」

 

ふざけたように首をかしげるのは、一番幼く見える少女だ。

武器の威力も驚くべきものだが、身長以上の大砲をぶっ放すくらいだ。その身体能力にも気を付けなければ。

 

「手合わせだ。ただこの力がどれほどのものか知りたかっただけさ」

 

眼帯をした、どこかの高校の制服女子が銃口をこちらに向けた。

服装と雰囲気、口調がアンバランスだが、有無を言わせないほどの冷徹な目つきをしている。

 

「そのためだけにネプテューヌたちと……?」

 

ゴールドサァドが何者であれ、その黄金の力は強大だ。

ネプギアたちがいるとはいえ、倒せるかどうか。

 

「変……」

 

危険はあるが、仕方なく変身しようとしたその瞬間だ。

ぞくりと背筋に悪寒が走った。

 

「……時は満ちた。オレはこの時を待っていた」

 

その声は聞き覚えのあるものだった。

零次元で戦った、あの黒い少女。

姿は見えないが、嫌な予感だけは強まる。

 

「さぁ、はじめようか。世界の、ゲイムギョウ界の改変をね」

 

俺たちと少女たちの間に光が現れた。

それは徐々に広がって拡散していき、俺たちを、この場のすべてを包み込んでいく。

黄金の少女たちでさえ目を伏している。

俺はその光の正体を暴こうと限界まで目を細めていたが、あまりの眩しさについに目を瞑った。


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