新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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16 理想のために

テントから出た私たちを待っていたのは、ネプギア、ネプテューヌ、そして……

 

「ハーッハッハッハッハ!やっとだ……やっと、私は自由を手に入れたのだぁー!!」

 

マジェコンヌだ。

魔女姿のマジェコンヌが高らかに笑い、私たちと対峙している。

 

「マジェコンヌ……あなたどうやって……」

 

「うそっ!?あのオバサンがマザコングなの!?」

 

ネプテューヌは目を丸くしてマジェコンヌを指さした。

 

「そういえばでっかいねぷっちは、こちらの姿をまだ見たことがなかったんだね」

 

「どうして……お姉ちゃんの標本の中に閉じ込められていたはずなのに」

 

ネプギアの言う通りだ。マジェコンヌはあのノートに封印されたままのはずだった。

敵が内部にいて、マジェコンヌの手助けをした?いいや、それは考えられない。

ネプテューヌはノートを肌身離さず持っていたし、その様子は私たちもずっと見ていた。

 

「私が本気を出せば、あの程度の封印を破ることなど他愛もない。もっとも、空腹で力が出ない私に食べ物を与えたのは貴様らだがな」

 

私はちらりと仲間を見る。

うずめとネプテューヌ、さらには海男まで目をそらしていた。

 

聞けば、天からの声とやらがうずめたちに話しかけ、巧みに各々の嫌いな食材をマジェコンヌに与えるように仕向けたと。

うずめはしいたけ、ネプテューヌはナス、海男は川魚。

どおりで、あれだけあった大量の料理が平らげられていたわけだ。

他の目を盗んで、マジェコンヌに食べ物を与え、力を吸収されて空腹だったマジェコンヌを復活させてしまったと。

 

私とネプギアはため息をついた。

 

「けど、こうなってしまっては仕方ありません。もう一度、あなたを倒してみせます!」

 

「ええ、覚悟しなさい。今度は吸収なんて生ぬるい真似はしないわよ」

 

私たちは武器を構える。

マジェコンヌは復活したばかりだ。そしてこっちの準備は万全。

状況は確実にこっちに有利。

 

「ふん、多勢に無勢のこの状況。誰が貴様らと正面から戦うものか!」

 

マジェコンヌは身を翻し、飛び立った。

ここで逃がしてしまえば、どれだけの被害が増えるかわからない。

倒すにしろ、また拘束するにしろ、ここで逃す手はない。

 

「追うぞ!」

 

うずめの号令に異を唱える者はいなかった。

 

 

 

マジェコンヌを追って競技場までたどり着いた私たちは目を見張った。

 

外面は風化が目立つが、内部は傷がほとんどついていない。

これほどまでに綺麗な状態で残されている場所は珍しいどころか、唯一かもしれない。

新しい拠点としての可能性や、あるいは失われた歴史を模索するための手がかりになる。

もちろん、こんな状況でなければの話だが。

 

控え室、練習室を無視して、廊下を抜けてその奥。

天井が開いた、万を越える客を収容できそうなアリーナにはライトが浴びせられている。

壁には大きなモニターがかけられており、仁王立ちするマジェコンヌが映されていた。

 

「決着をつけるわよ」

 

「ああ、ここで終わらせる」

 

私とうずめが先頭に立って構える。

アリーナを選んだのは偶然か、狙ってか、自己顕示のためか。なんにしてもこんな逃げ場のないところに連れてきたからには奥の手があるはずだ。

 

「おいおい、血気盛んなやつらを相手にしてんなあ。俺にも喋らせろよ」

 

なだめるようなゆったりとした声と同時に、イストワールに似た小さい女の子がぬっと現れた。

褐色の肌に、この状況を楽しんでいるかのようなにやけた目つきはイストワールとは逆のものだったが。

紫の魔法陣の上に乗る手乗りほどの少女は、マジェコンヌの横にふよふよと浮かんでいる。

 

「ネプテューヌじゃないか。久しぶりだな、楽しんでるか?」

 

「楽しんでるも何もないよ!私、置いてかれてすごく寂しくて苦労したんだからね!」

 

「はあ?あのユウってやつはどうしたんだよ」

 

「ユウも私のこと置いてったよ!」

 

「お前……人望ないんだな」

 

私は銃口をマジェコンヌに向けながら、褐色の少女を見た。

ネプテューヌの知り合いらしいそれは、大した力を持っていないように思える。

 

「ねぷっち、こいつがお前のクロちゃんってやつか?」

 

「その通り、俺様がクロワールだ」

 

予想通り、『クロちゃん』ことクロワールだった。

話が本当なら次元を越える能力を持っているはずだ。それはそのままネプギアの帰還に利用できる。

こちらが探すまでもなく見つかるとはラッキーだが、このタイミングで出てきたことが気になった。

 

「黒いからクロワールっていうんだよ」

 

「ちげーよ!クロニクルのクロだよ!オメェは何回言えばわかんだよ」

 

むっとした表情でクロワールが訂正した。

 

クロニクル。

年代記、編年史と訳される。

話によれば、クロワールは次元を渡ってはその歴史を記録するという役割を持っているらしい。

厄介なのは『面白おかしく』という文言がつけられること。

つまり、歴史に干渉することを意にも介さずに能力を振るっているようだ。

 

「そんな奴がなんで紫ババアと一緒にいるんだよ」

 

「そりゃあ、こいつと一緒にいた方が、歴史が面白くなりそうだからに決まってるだろ。だって、世界を滅ぼす一歩手前なんだぜ?世界の滅亡なんてめったに見ることなんてできねえよ。ぜぇんぶぶっ壊れていくさまはそりゃあ病みつきになるぜ」

 

「思ったよりもいい趣味してるみたいね、あなたは」

 

犯罪神か、悪の力によって壊された世界は最低でも一つはあるのだろう。

クロワールはそれを見て、あるいは干渉して悦に入っていたのだ。

そして今の標的はこの零次元。

 

「与太話はそこまでだ、クロワール。そろそろ、そいつらを始末させてもらう。あの力を私に貸せ。貴様の持つ、異世界の女神の力をな!」

 

「あー?まあ、面白そうだから、この力貸してやるよ」

 

痺れを切らしたマジェコンヌがクロワールに指示すると、魔法陣から盛る炎が出現した。

ぎりぎりのところで安定しているような赤黒い炎がじわじわとマジェコンヌに近づき、触れたかと思うと呑み込もうとするように手を伸ばした。

 

「それってまさかタリの女神の!?」

 

「ネプギア、あれは……」

 

「以前、私やお姉ちゃんが神次元という世界で戦った最古の女神の力です」

 

「まさか、そいつをマジェコンヌに使うってのか!?」

 

「そのとおり!さあ、どうなるかは見てのお楽しみだぜ!」

 

私たちの戦慄とは逆の、うきうきとした様子でクロワールが目を輝かせる。

マジェコンヌはさしたる抵抗もなく炎を身体に取り込んでいく。

ついにそのすべてがマジェコンヌの中へ消えたとき、彼女の影がより大きく、暗くなったような気がした。

 

「ハーッハッハッハッハ!力が……力が満ち溢れてくるぞ!」

 

マジェコンヌが手を挙げると、私の背筋が凍りついた。

 

「避けて!」

 

どこから来るのかわからなかったが、確実に攻撃が来る予感があった。

その本能に従って、私は叫んだ。

空から何かが落ちてくる。

私たちは飛びのき、近づくにつれ影を大きくするそれを避けた。

それが地面にぶつかりアリーナに傷をつけたとき、形を見ておののいた。

巨大な拳、腕。

そしてそれを落としてきた本人は無表情でこちらを見つめていた。ドームの外、はるか上空から。

 

「……そんな」

 

「おいおい、マジかよ……」

 

口も目も開いたまま、私たちは信じられないという気持ちで空を見上げた。

ダークメガミだ。

倒したはずのダークメガミがそこにいた。

 

ダークメガミを復活させるほど力を増したマジェコンヌがぐぐぐっと拳を握る。

腕を引いたダークメガミも同じように再び拳を固めた。

 

「まずいわ」

 

どちらか一方を相手にするのでも大変なのに、シェアリングフィールドを作ることのできるクリスタルが無いいま、戦おうとするのは危険だ。

本拠点なら大量にクリスタルはあるが、誘い出すには距離は相当あるうえに仲間が巻き添えになってしまう。

 

腰につけていた人差し指ほどの筒を取り出して、マジェコンヌにぶん投げた。

マジェコンヌは弾こうとしたが、その瞬間光が瞬き、目を奪った。

シェアクリスタルを利用した、閃光手榴弾だ。マジェコンヌと相反するその力と光で少しは時間稼ぎができるはずだ。力を増したいま、計算よりも余裕がないのは確かであろうが。

 

「グっ、逃がすもノか!!」

 

ダークメガミが手当たり次第に競技場を壊し始める。

自立で私たちを仕留めにかからないのは、マジェコンヌが操っているゆえの弱点であるが、何もかもを壊そうとするマジェコンヌにとってそれはさして問題にならないのかもしれない。

 

「や、やべぇ!?こいつ、力のオーバーフローで完全に頭のネジが吹っ飛んでやがる!」

 

クロワールにとっても暴れまわるというのは予想外だったのだろう。マジェコンヌの様子を見ても理性が吹っ飛んでいるのは一目瞭然だった。

反するはずの女神の力を取り込んだからか、それとも単純にキャパシティオーバーか。

余裕があればぜひとも調べてみたいところだが、そんなことも言ってられない。

 

「今のうちに逃げるわよ!」

 

だがうずめは足踏んでいた。

ネプギアの帰還方法であるクロワールが目の前にいるのだ。

できればダークメガミもろともマジェコンヌを倒して、クロワールを捕獲したいというのはわかるが……

 

「うずめ!」

 

「……でも」

 

「ああ、もう!ネプテューヌ!」

 

私は右腕のスイッチを押した。

義腕は肩から外れ、おろおろするクロワールへと飛んでいく。小さな身体を強引に掴むと、その勢いのまま戻ってきた。肩にはまった衝撃で少しよろめいたが、なにが起きたかわからないまま目を回すクロワールをそのままネプテューヌへと投げる。

 

今の一連の動きにネプテューヌも首を右往左往させていたが、とっさにねぷのーとを広げて、クロワールを吸収させた。

 

「わっと、ナイス、イヴ!テープで張り付けて、と」

 

「これでいいでしょ。いまは逃げるしかないわ。焦る気持ちもわかるけど、作戦を立てれば勝てないわけじゃない。いままでもそうだったでしょ」

 

いま立ち向かっても勝てる確証があるわけじゃない。

でも大事なのは、仲間の誰も傷つかずにこの世界を平和にすること。

私たちはそれを理想として戦った。それがあと一歩、もう一歩で現実になる。

こんなところで私たちが倒れてしまうのは負けを意味するだけじゃない。仲間の希望が断たれてしまうことも意味している。

うずめは戦いの迷いを断ち切って私を見た。

その目に未練はない。

言葉を聞かなくても、言いたいことはわかっていた。

 

 

 

本拠点に戻ってきた私たちは各々頭を冷やしていた。

研究開発用にこしらえたテントの中で状況を分析しながら、海男と面を合わせた。

 

「私たちは全員ほぼ無傷、ネプテューヌのもとにはクロワールが戻った……マジェコンヌの力が増して、ダークメガミが復活したとはいえ最悪は免れたわ」

 

ネプテューヌはクロワールを尋問中、うずめとネプギアはいまマジェコンヌとダークメガミを偵察中だ。

海男と作戦を練るのが私の役目だ。

マジェコンヌがこの場所を知っている以上、時間はそれほど残されてはいない。

フィールドを作るほどのシェアクリスタルはここにあるが、パワーアップした敵を抑えつけられるかどうか。

 

「でもやっぱり、ダークメガミとマジェコンヌをどうにかするまで帰る気はないみたいよ、ネプギアは」

 

「ぎあっちらしいね」

 

ネプギアだけじゃない。人間であるネプテューヌもここから去る気はない。

何も言わずにいなくなったところで、『逃げ』ではない。

それでも彼女たちの顔にはその選択肢すら浮かんでいないようだった。

命を投げ出して戦うのではなく、勝つ以外の道を見ていないようだった。

 

「イヴ、君は大丈夫か?」

 

「わからないわ。姿を見ればまた銃を向けるかも」

 

クロワールもマジェコンヌも 私がいた世界を壊した者の正体を知っているかもしれない。あるいはその張本人か。

どちらにせよ、あの二人を目の前にして冷静でいられる自信はもうない。

底から手を伸ばしてくる怒りが、無いはずの右腕の痛みが突き動かす。

痛みは怒りを増幅し、怒りは痛みをより意識させる。そんな悪循環が私を衝動の虜にする。

私はまだあの失われた次元に生きているのだ。

冷たいはずの金属の腕が熱く感じる。私はその右手をぎゅっと握った。

 

「作戦を立てるわよ」

 

 

 

 

テーブルにいくつもの設計図を散らしながら、私は脳を二つにわけて考えていた。

これからに必要な作戦と、これからに必要なもの。

偵察から戻ってきたうずめ、ネプギア。そしてネプテューヌとともに、その持ち物であるノートに封じられたクロワールを囲んで睨みながら、私は図を書き足していく。

 

「現状?」

 

「マジェコンヌとダークメガミが融合してゆっくりとですがこっちに向かってきています」

 

私の様子をじっと眺めていたネプギアが口を開く。

マジェコンヌが奇妙な力を手に入れて、頭が狂ってしまった以上なにをするかは不明。

何が起ころうが、理由を求めるのは時間の無駄だ。

結果だけ知られればいい。

 

「ダークメガミが意志を手に入れたってことね」

 

「いまは新しい身体に不慣れみたいで、何度か転んでたぜ」

 

同じく偵察に行っていたうずめが補足。

あの巨体が転ぶことで被害が増すばかりだが、いまは時間が稼げるのだ。目を瞑ろう。

 

「完全に慣れるまでに叩いた方がよさそうね。能力は?」

 

「単純に力を増したって感じだな」

 

答えたのはクロワールだ。

かつてのマジェコンヌと同じようにテープで張り付けられているが、あまり抵抗の意志を見せていない。

まぁ、マジェコンヌの一例があるのだ。ここにいる全員が食べ物を与えて逃がすような真似はしないはず。

それに、ねぷのーとから逃れるにはマジェコンヌのような異常な力を持っていることが前提となる。

危険はないと考えて大丈夫だろう。今のところは。

 

「シェアエネルギーに対する耐性はそのままって考えていいのかしら?」

 

「ああ、ベクトルはそのままに、パワーアップしたって考えていいぜ」

 

「シェアリングフィールドはまだ使えるってことね。ならやることは決まったわ」

 

ペンをバンと机に置いて、設計図を重ねた。

甲冑よりもごつい人型のシルエットがそこにはあった。

 


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