新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
パープルシスターもオレンジハートもぽかんと口を開けるだけだった。
空から少女が降ってきたかと思ったら、大人になったネプテューヌでした、だなんて話。
私でも理解がいまいち追いつかない。
「ええと、あの、ネプテューヌ……なのよね?」
「うん、あらゆる次元を巡る超絶美少女主人公ネプテューヌとは私のことだよ!よろしくね、えーと……」
「イヴ……」
「よろしく、イヴ!」
ああ、やっぱりネプテューヌだ。
しかも違う次元の。
やっぱりどう転んでもネプテューヌの性格って変わらないのね。なんだか安心したわ。
って、ほんわか頷いてる場合じゃないのよね。
頭が追いつかないまま握手をしたが、今はまだ戦闘中なのだけれど……。
「……ふむ。状況は大体わかった!」
それはたぶんわかってない人のセリフなんだろうなぁ。
渡った次元の戦士に変身できるような人の。
「可愛い子の味方の私としては、状況的にもこっちの助太刀をするよ!」
うーん、これはわかっているのかいないのか微妙なラインね。
モンスターと人間を見れば、人間に味方するのは自然に思えるけど……。
「え、えと……」
やっとのことでパープルシスターが口を開いた。
この中で一番驚いているのはネプギアだろう。
姉が故郷に転送されたかと思ったら、成長した姉が降ってきたのだから。言ってて頭が痛くなってきたわ。
「ねえ、そこの桃色の髪のかわいい子、名前はなんてーの?」
「ネプギアです」
パープルシスターもおそらくよくわからないまま答えたのだろう。
とりあえず笑顔で返した。
「わーっ、名前にネプってつくなんて奇遇だね!海王星の私としてはセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられないよー」
「おい」
まくしたてる大きいネプテューヌをよそに、私とオレンジハート、海男は顔を合わせた。
「ねえねえ、海男。これってどういうことなの!?」
「こればっかりはオレにもわからない。けど、協力してくれるならありがたい限りだ」
「そう、ね。今はこの状況を切り抜けられるならなんでもいいわ。あのネプテューヌに関しては後で話を聞きましょう」
だが戦闘の緊張感が残っているのにもかかわらず、ネプテューヌはご機嫌な様子でこっちに向かってきた。
「なになに?君たちはイヴとネプギアのお友達?あなたの腕にくっついてるのカッコイイね!見せて見せて!」
「カッコイイ!?ふふーん、これのカッコ良さがわかるなんて、大きくてもねぷっちはわかってるじゃーん」
オレンジハートが得意げになって盾を見せる。
べたべたと触るが、不快に思わせないのは私たちの知っているネプテューヌと全く同じだった。
これってある種の才能よね。
「おい!」
「てか、その魚なに!?あはははははははは!真顔でおっかしーのー!」
海男も言われ慣れたのか、気にしていないようだ。
「あなた本当に馴染むの早いわね」
「卓越されたコミュ能力はいまや就活で必須のスキルだからね!目指せ一流企業!!」
最近はコミュニケーション能力を重視する会社が多いそうで、毎年『会社が欲しい能力ランキング』では上のほうに来るらしいです。
みなさんも推してみてはいかがでしょうか。
あ、でもネプテューヌみたいなやつはまたその能力とは別よ。
「おいと言っている!!」
「うわわわわっ!?急に変なのがキレた!?」
無視してきたが、ついに耐えきれなくなってマジェコンヌが叫んだ。
ネプテューヌは本気で気づいていなかったみたいで、ビクッと身体を震わせた。
「くだらんお喋りはそこまでだ!よくも私を無視してくれたな!!」
「あ、もしかして、私たちとお話ししたかったの?けど、女の子をいじめるような悪い人は、私的にはお断りかな。見た目もなんか気持ち悪いし」
「貴様ぁ……好き勝手言いおって……!このマジェコンヌ様を馬鹿にしたことを死を持って償わせてやる!」
「マザコング……?あっははははは。変な名前ー」
「マザコングではない、マジェコンヌだ!マ・ジェ・コ・ン・ヌ!」
「マ・ザ・コ・ン・ヌ!おおーっ、一文字言い忘れるとマザコンだ!」
「きっさまああああああああ!!!」
マジェコンヌが地団太を踏んだ。
その巨体が揺れるごとに洞窟も揺れる。
地震が起こったかと錯覚するほどの揺れに、私たちはバランスを崩す。
「さ、さすがねぷっち!おばちゃんをあおらせたら右に出る者はいないね!」
「それ以上にあの人の煽り耐性のなさが問題なような……」
「というより、私たちはいつまでこのコントを見ていればいいのかしら」
すっかり興奮も冷めてきて、頭も落ち着いてきた。
冷静になったせいで痛みを自覚するが、アドレナリンに任せて特攻するよりはましだ。
「いやいやだって、これだけいいリアクションされるとねー」
「やるなら早くやるわよ。いつまでも待ってられるほどこっちは暇じゃないんだから」
「はいはーい。あ、ちょっと待って」
ネプテューヌはごそごそと懐からビンを取りだした。
空へ掲げると、紫色をした中身がよく見える。
「戦闘前の回復はRPGのお約束だからね。今回は特別に私が作ったスペシャルなネプビタンVⅡをプレゼントしちゃうよ!」
「これはRPGじゃありませんけどね……」
ネプテューヌに渡されたビンの中身を観察した。
毒々しい色をしてるし、粘り気もある。すんすんと嗅いでみれば、なにやら畳のようなにおいがする。
しかも……
「ぼこぼこ言ってるんだけど、これ大丈夫なの?」
「良薬口に苦しっていうし、ちょっと苦いのはご愛嬌だよ」
「苦いとかそういうあれじゃ……まあいいわ」
出会ったばかりの人を信じるのはいささか問題があるが、この、というよりネプテューヌならなぜかその心配がよぎらない。
数秒顔をしかめて、私は覚悟を決めた。
鼻をつまんでぐいっと一気に飲みほす。
漢方か、粉薬以上の苦さが口に広がって薬を口に含んだまま咳き込んだ。
しかも粘りがのどに詰まりそう……。
戻しそうなのをなんとか抑えて、上を向いて無理やり飲み込んだ。
「苦い……」
「けどすごい……傷が癒えてく……」
パープルシスターもオレンジハートも私と同じ感想だ。
身に受けた傷がみるみるうちに塞がっていき、ここまで走ってきた疲れもとれた。
「これならなんとかいけそうかしら」
ぐっと拳を握る。
傷つけられた機械の腕が直るわけではないが、なんにしても身体が資本だ。
動くことができれば、あとはどうにでもなる。
「それじゃあ、今度こそ張り切ってボス戦闘いってみよー」
ネプテューヌはその身体ほどの大きさの大剣を二つ、片手ずつで持った。
あんな大きな剣で二刀流?
てっきり、超次元のネプテューヌのように太刀一刀流かと思ったが、これほど『規格外』という言葉が似合うのも珍しい。
先に動いたのはマジェコンヌ。
大きな腕を振り回して、興奮のもとであるネプテューヌを狙った。
だが、ネプテューヌは軽々と飛んで避けてみせると、そのまま斬りつけた。
一、二、三、四。リズミカルに大剣を振り回すが、一撃一撃は見た目よりも重い。
マジェコンヌの身体に深い傷がつけられていく。
トドメと言わんばかりの五撃目を与え、すぐさま後ろに飛びのくネプテューヌを見て、私は安心した。
女神化はしないのか、それともできないのか。姿を変えないネプテューヌだったが、その能力は通常の人間とは桁外れに強い。
これなら……
△
初代プラネテューヌの女神の聖域といっても、それを知るものは数少ない。
実のところ、それほど入り組んだところにあるわけではないが、周りに凶暴なモンスターが多すぎる。
そのせいで辿りつける者がいないのだ。
だが……
「ふん!」
俺は大剣を一振りする。
行く手を邪魔していた人型トカゲモンスターが粒子となって消えた。
ネプギアたちとともに犯罪神を倒し、いまや様々な次元を渡っている俺にとっては、それほど脅威でもない。
「おー、さすがユウ!」
うしろでパチパチと手を叩きながらネプテューヌが言った。
「さすが!じゃなくてお前も手伝えよ。これくらいなら手こずらんだろうに」
「いやぁ、ほら転換期でシェアが減ってるから、わたしいま省エネ中なんだよ」
「いつでも省エネだろう。あのときのお前は頼りになってたのに……」
大剣を背中の鞘に納めながら、昔のことを思い出した。
犯罪神と戦った時、俺はネプテューヌが『女神』であり、『ネプギアの姉』だということを目の当たりにした。
自信とみんなを引っ張る力。そしてなにより前を見て諦めない姿は眩しいくらいに輝いて見えた。
それが、普段はあまり仕事をしないという姿を幾度か見せつけられると、本当に同一人物か怪しくなる。
まあ、普通の人間のように二面性があると考えれば、不思議ではないが。
零次元のことを聞きながら(というよりネプテューヌが一方的にしゃべってきた)、俺たちは先へ歩を進めた。
ガラスのような足場を進んでいく。
ときおり空中に走る細い光を目で追いながら、俺はネプテューヌの言葉を頭でかみ砕いていた。
人間であるイヴとやらはともかく、天王星うずめという女神が気になった。
次元が違えばもちろん、存在する女神やそれまでの歴史は微妙に、または大きく異なったりする。
ネプテューヌ、ノワール、ブラン、ベールの四女神が存在する次元が大半であったが、たまにプルルート=アイリスハート、ピーシェ=イエローハートなる女神がいる次元もあった。
ここにきての新しい女神、オレンジハートの存在はどういった意味を持つのだろうか。
イレギュラー。
そういえば、以前超次元との関係があった神次元においても篠宮アイ=ローズハートという女神がいた。
あいつも神次元以外では会ったことがない。
ネプテューヌが女神じゃなく人間だっていう場合もあるのだから、そういうのはレアな存在と見て、それほど気にすることではないのだろうか。
「で、ネプギアがあっちに残っちゃったってわけ」
「そういうやつだからな、ネプギアは」
ネプギアのことだ。
そのうずめか、あるいはイヴと話していま戻るべきではないと思ったのだろう。
こういうときのあいつは頑固だから、帰る方法があったとしても、はいそうですかとほいほい戻ってはこないだろう。
連絡を取るにせよ、助けに行くにせよ、やはりイストワールを元に戻さないといけないわけだ。
話し込んでいると行き止まりまで来てしまった。
先には大きな足場があるだけで、さらにその先は虚空だ。
「ここが一番奥っぽいけど、それらしいものはなにもないっぽいかも。ねえ、ほんとにここなの?」
「そのはずだが、俺のいた次元でも何もなかったからなぁ。無駄骨だったか?」
「いやいや、ここまで来て無駄骨はないはずだよ。展開的にはボスモンスターが現れて、倒して入手ってパターンだったりして……」
あっはっはと笑うネプテューヌに応えるように、突風が吹いた。
目を細めて上を見上げると、大きな翼をはためかせながら何かが落下してきた。
巨大な足に踏みつぶされる前に後ろへ下がると、ようやくその全貌が見えた。
くすんだ茶色の二足歩行ドラゴン。
こういうときに出てくるボスモンスター、エンシェントドラゴンだ。
「ねぷっ!?まさか、私の予想が当たっちゃった!?」
「ということは、こいつを倒せばアイテムゲットってことか」
俺は鞘から大剣を抜き、構える。
ドラゴンが咆哮をあげると同時、剣を突き出して腹をえぐる。
たったそれだけだ。
「さあ、本気で行かせてもらうわ……って」
ネプテューヌは女神化して太刀を構えるが、すでにドラゴンは消え去っていた。
俺はといえば、もう剣を納めている。
「ちょっとユウ!私の見せ場無くなっちゃったじゃない。いつも戦闘シーンはもうちょっと長めでしょ!」
「見せ場ってなぁ、いまさらエンシェントドラゴンくらいで尺稼げねぇよ。それに省エネ中だったんだろ?」
俺自身には犯罪神の力、それにこの剣『ゲハバーン』には女神八人ぶんの力が宿っている。
そこらの危険種程度じゃ止められるはずもない。
「もー、せっかく変身したのにー。あれ?」
ネプテューヌは文句を垂れながら変身を解き、モンスターのいたところを指さした。
俺がそっちを見ると、一抱えほどある古臭い鉄の箱があった。
先ほどまでなかったものだが、ドラゴンを倒したことで現れたのだ。
カギはかかっていない。ネプテューヌはさっそく箱を開けた。
「おおー!カセットタイプのゲームソフトだ。ってうわ!?懐かしいのばっかりだよ!」
「そうなのか?」
中を覗き込んだが、ゲームをしないせいで古いものなのかどうかわからない。
ネプテューヌの目の輝きようからいって、相当珍しいものであることはわかるが。
「ほら、これとかこれとか。まさかこんな考古学的レトロなゲームソフトが埋まってるだなんて……もしかして、これが初代女神の遺品なのかな?」
否定はできんな。
プルルートといいこいつといい、プラネテューヌの女神は抜けているところがなきにしもあらずなところが……。
俺は底にあるひときわ古そうなカセットを手に取った。
他のゲームソフトのようにキャラが描かれているわけでもなく、ただ『入魂』と手書きで書かれていた。
「これ……か?」
「他はゲームソフトだし、これみたいだね。よかった、見つかって」
俺はうなずいた。
思ったよりもあっさりだったが、見つかるに越したことはない。
問題は本当にこれでイストワールが治るかどうかだが……