新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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12 逃げ場なし

ぼんやりと視界が戻ってくる。

世界が90度回っていた。いや、私が倒れているのだ。

 

バチバチとそこら中で火花が散る。

施設のコンソール、転送装置、私のガントレット。

 

ぼんやりした頭が急速に現実に追いついてくる。

ああそうだ。ネプギアが私たちをかばったのだ。

 

私はあたりを見渡した。

そこかしこが炎上しているほかは吹き飛ばされる前と変わらない。

ネプギアが守ってくれたおかげで、うずめも海男も傷ついていない。

そのネプギアも少々のダメージと火傷を負っているが、治る傷だ。

 

感情に任せた攻撃をしたマジェコンヌは、自身の攻撃の余波を受けてよろめいていた。

 

「大丈夫か、イヴ!?」

 

「ええ、なんとか」

 

うずめに引っ張られ、よろめきながら起き上がる。

私の身体も無事だ。

痛みは残っているものの、どこも折れてはいない。

 

しかしそれよりもまずいものが壊れていた。

 

「転送装置が……」

 

うずめも気づいた。転送装置が跡形もなく消え去っていた。

部品はもう作りなおすことができなくなるほどに粉々に砕け散っている。

ネプテューヌは転送できたらしいのが幸いだ。

 

「うずめさん、イヴさん、大丈夫ですか?」

 

「馬鹿野郎!お前、自分が何をしたのかわかってんのか!!」

 

こちらに駆け寄ってくるネプギアに、うずめは怒号を発した。

その顔は怒りか炎に照らされてか、赤くなっている。

 

「だってあのままじゃ……」

 

「だってもヘチマもねえ!せっかく帰れるチャンスだったんだぞ!!」

 

私はうずめに肩を貸してもらい、服を整えながら咳き込む。

胸の骨が痛む。

 

「うずめ、こうなった以上は仕方がない。今は逃げることを考えるんだ」

 

「ええ、幸いなことに、あいつはあんなことになってるしね。今は逃げましょう」

 

熱風が強く吹きつける。ここはもう崩壊してしまう。

歯ぎしりするうずめを引き連れ、私たちは急いでその場を離れた。

 

先ほどまでの戦いの衝撃は身体に残ったままだった。

一歩歩けば全身に激痛が走る。ないはずの右腕さえずきずきと疼いた。

私にはこの痛みに覚えがあった。

無力という絶望が痛みとなって私を虐めてくる。

意識がショックでもうろうとするが、寸前のところで踏みとどまる。

 

正直、なんとかなると思っていた。

公園での戦いで、マジェコンヌを退けられたことに私は自信を持っていた。

だが実際はどうだろうか。ネプギアがいなければ死んでいたかもしれない。

 

押し寄せる情けなさを振り払うために、私は立ち止まった。

あの施設からは遠く離れ、周りに遮蔽物はない草原だが、敵が追ってくる様子はない。

 

「ここまでくれば大丈夫でしょう。あっちも相当ダメージがあったみたいだし」

 

私はその場に座り込んだ。

思ったよりも体力と精神が削られている。

幸いなのは、まだそのどちらも途切れていないことだ。

 

「おい、ぎあっち。なんであんなことをしたんだ」

 

うずめがネプギアに詰め寄る。

その顔には怒りと心配、そして無力感がうかがえた。

 

「だって、うずめさんたちが危なかったから……気づいたら、身体が勝手に動いていたんです」

 

「俺のことなんかどうでもいいんだよ!せっかく帰れるチャンスだったんだぞ!それを俺なんかのために無駄にしてどうするんだよ!」

 

「落ち着いて、うずめ。あのままじゃ、命が危なかったことくらいわかってるでしょ。ネプテューヌだけでも転送できた事実と助けられたことは無駄じゃないわ」

 

私は座ったまま、うずめをなだめた。

彼女もまた、私と同じなのだ。

自分の力のなさを痛感し、そして帰るはずだったネプギアをこの世界に残させてしまった。

責任感が強いうずめにしてみれば、より落ち込みたいところだろう。

だからこそ、これが無駄だと思わせてはいけないのだ。

 

「だからってよぉ……」

 

「うずめ、これは過ぎたことだ。今は次に何をするか考えるんだ」

 

「そんなの、今すぐ戻って一匹残らずぶっ飛ばすに決まってる!」

 

海男の言葉に、うずめは後ろを振り向いた。

その目が見据えるのは、先ほどまでいた施設だ。

 

「ダメに決まってるでしょ。危険だし、転送装置はもう直せないくらいに壊されてたわ。今はここを離れて、傷を癒さなきゃ」

 

「アイツから逃げろっていうのか?」

 

「違う。態勢を立て直すんだ。こちらから打って出るために作戦を立てるんだ」

 

私と海男の説得に、うずめはやっと戦いっ気を下げてくれた。

にやりと笑って拳を合わせる。

 

「ようやくこっちから打って出れるのか。受け身ばかりで飽きてきたところだったぜ」

 

「では、本拠点に戻ろう。あそこなら、仲間はたくさんいるし、何か方法が見つかるかもしれない」

 

「あの、本拠点ってなんですか?前にいたあそこが拠点じゃ……」

 

ああ、とうなずいて、私は首を横に振った。

そういえば、ネプギアは零次元に来てからずっとあの拠点にいたから、知らないのね。

 

「あそこは仮の拠点。ダークメガミと戦うために一時的にあつらえた場所よ。本拠点は別の場所にあるの」

 

「ぎあっちへの説教はそこに着いてからたっぷりさせてもらうからな」

 

「お、お手柔らかに……」

 

 

 

 

 

かつんかつんと足音が反響する。

ぽたぽたと水滴の落ちる音がする。

ぬめる足元に注意しながら、海男を先頭に私たちは進んでいた。

 

ここは先ほどまでいた場所より東にある洞窟。

かつては通行に使われていたのか、ぼろぼろになったてすりや寿命を迎えた照明機器など、人の手が加えられている。

辺りを見渡せるように広く切り開かれており、声が響いては返ってくる。

 

「この洞窟が本拠点なんですか?」

 

「違うわ。この先を抜けたところ」

 

「地上を通るより、地下を抜けていった方が見つかるリスクは低いからね」

 

「はあ……」

 

以前海男が偶然見つけたこの洞窟は、こける心配はあるものの、敵と遭遇してしまうより何倍もましだ。

怪我しているこの状況では、たとえどんなモンスター相手でも油断するわけにはいかない。

 

「それよりも、ネプテューヌと連絡はとれないのかしら?」

 

「さっきのでNギアは壊れてしまってますし、お姉ちゃんの通信機器には次元チューナーがついてないから……あと通信環境も揃ってませんし」

 

「じげんちゅーなー?」

 

聞きなれない単語に、うずめが首をかしげる。

私でも聞いたことのないものだ。それほど超次元というのは発達しているのかしら。

 

「異次元間でも連絡が取れるように開発したものなんですけど、女神候補生のにしか組み込んでなくて……」

 

「へえ、便利ね」

 

本当に大した女の子だ。

強く、芯があり、頭もよく回る。

そんな彼女だからこそ、いて安心、帰せなくて残念という気持ちが膨らむ。

 

犯罪神を倒した経緯は聞いた。

壮絶で悲惨なその戦いこそが、きっとネプギアを強くしたのだろう。

 

感謝の言葉を口にしようとしたその時だった。

 

「ハーッハッハッハ!!」

 

後ろから耳障りな笑い声が聞こえた。

 

「楽しい時間は終わりだ、小娘ども」

 

マジェコンヌだ。

あちらも傷は癒えていないものの、体力的な面では戦いにそれほど支障はないだろう。

 

「テメエは、ポッと出の紫ババア!」

 

「あら、誰かと思えば自分の攻撃でダメージ受けてたうわキツおばさんじゃない」

 

「貴様ら……言ってくれるな……」

 

マジェコンヌがぎりりと歯噛んだ。

強者は余裕が溢れるものである、というのを聞いたことがあるが、マジェコンヌは割と煽り耐性がない。

 

「ここは地図にも載っていないような洞窟のはず。なぜお前がここに……」

 

「簡単なことさ。貴様らを尾けさせてもらったのだ」

 

「げっ、キモっ!?ストーカーとかマジキモいんですけど!?」

 

ふふんと得意げに笑ってみせるマジェコンヌだったが、うずめが取り乱すほどに気持ち悪い。

わざわざ逃げ場のないここまで尾行してきたのだ。

その様子を浮かべてみれば無理もないほど嫌な気分になる。

 

「落ち着いてうずめ、キモいのは最初からだったじゃない……」

 

「貴様らなぁ!」

 

変わりないリアクションをするマジェコンヌに、うずめがぐっと拳を構える。

 

「まあ、ここで倒せばいいだけのことだろ」

 

「覚悟してください、マジェコンヌ!ここであなたを倒させてもらいます!」

 

ネプギアもビームソードを構えて、先をマジェコンヌに向ける。

 

「な、なに!?貴様、いま何と言った!!」

 

「……へ?『マジェコンヌ!ここであなたを倒させてもらいます!』ですけど」

 

マジェコンヌがくわっと目を見開いて、身体を乗り出した。

やだ、情緒不安定……

 

「最初だけ!最初のほうだけもう一回!」

 

「最初って……名前ですか?マジェコンヌ……」

 

「最後に、さん付けでもう一回だけ!」

 

「マジェコンヌさん」

 

「くうぅぅー……」

 

いやいやながらネプギアがマジェコンヌの言う通りに呼び、当のマジェコンヌは身体を震わせている。

怒りではなく、どうやら歓喜のご様子で。

 

「初登場以来、ポッと出だの紫ババアだのおばさんだの言われ続けたが……ようやく……」

 

「そんなのいいから早くしなさいよ」

 

いちいちこいつの感情に付き合っている暇はない。

私は銃を引き抜いて撃った。

衝撃弾は大した傷を負わせられなかったが、逆上させるにはじゅうぶんだった。

 

「いたっ、貴様少しは余韻に浸らせろ!誰かが私を名前で呼ぶことなんて少ないんだぞ!!」

 

「知らないわよ。うずめ、行くわよ」

 

私はつとめて冷静に振る舞った。

怪我ありシェアクリスタルなし。

勝てる見込みは薄いが、それを一度感じてしまえば恐怖に呑み込まれてしまう。

いまはただ、この場を切り抜ける方法だけを考えるべきだ。

 

「ああ、ぎあっちも本気で行くぞ!」

 

ネプギアはうなずき、二人とも女神の姿へ変身する。

味方から得られるシェアの力では、フィールドを創るのには足りないが、女神化するぶんには大丈夫だ。

問題はそのシェアで倒せるかということと、先ほどの戦いの影響。

そして……

 

「ふん、ならばこちらも真の力を見せてやろう!」

 

こちらの女神化の応じて、マジェコンヌも拳を掲げた。

すると、黒い光の柱がマジェコンヌを包んだ。

それはだんだんと大きくなり、禍々しく殺気を放ってくる。

 

そこに立っていた、いや佇んでいたのはお世辞にも人と呼べる存在ではなかった。

見上げるほどの巨躯に、四本の図太い脚、四本の腕。

前脚の間に生えている獣のような顔には何本もの牙。それ以上に上半身のさらに上、首のないそこに取り付けられたような巨大な単眼が威圧感を与えてくる。

 

これが真の姿ってことだ。

以前マジェコンヌと戦った時に感じた違和感はこれだ。

公園でのときも、先ほどの施設のときも全力を感じなかった。

 

「そ、その姿は!?何であなたがその姿に……」

 

いち早く反応したのはネプギアだった。

ネプギアが話した犯罪神の特徴と一致している。

 

この次元か別の次元か、なんにせよこのマジェコンヌはどこかの犯罪神であることには違いないだろう。

 

「うげっ、きもっ!?わたし、あいつと戦いたくないかもー。触るのやだなー」

 

「とか言ってる場合じゃないわよ。これはちょっとまずいかもね」

 

私は頭を回転させた。

真の姿になったからには、油断もなしに攻撃してくるだろう。

その気になればきっと、全てを破壊することだってできるはずだ。

 

私のいた世界のように。

 

「ちょっと、で済めばいいがな。くらえ!!」

 

意気揚々と、マジェコンヌは脚の間にある顔から火球を吐き出した。

今までのとは比べ物にならないほどのでかさがいつの間にか目の前に迫ってきていた。

 

とっさに行動を開始していたオレンジハートが私を抱え、すんでのところで攻撃をかわすことに成功した。

焼けるような熱さを感じ、右肩を見るとパーカーが煙を上げて煤けていた。

義腕の損傷はないのが救いだ。私は肩を軽く払って、立ち上がった。

 

「ぎりぎりだったねー……」

 

「八方ふさがりかしら……」

 

満足そうに身体を震わせるマジェコンヌを退けなければならない。

だがそれにはなにか手が必要だ。

あの巨大な攻撃を流して、巨躯を下がらせるようななにかが。

 

「あれ?」

 

「どうしたの、ぎあっち?」

 

「いま、お姉ちゃんの声が聞こえたような気がして……」

 

「ネプテューヌの声……?」

 

私は辺りを見回した。

彼女は超次元に転送されたはず……まあ、あの子の性格上イストワールの力をつかってすぐに戻ってくることも考えられるけれど。

だけどというべきか、やはりというべきか、ネプテューヌの姿は見えない。

 

「そんな時間稼ぎのはったりにこの私が引っかかるものか!死ねえ!」

 

マジェコンヌが腕を振り上げたその瞬間だった。

 

「どいてー。どいてどいてー。ぶつかるううううううう」

 

今度は私にもはっきりと声が聞こえた。

その次の瞬間、私たちとマジェコンヌの間に何かが落ちた。

何かが高速で地面にぶつかったせいで、土煙が立ち上がった。

視界が奪われる。

 

「な、なんだ!?何が落ちてきたのだ!?まさか、本当に小娘どもの援軍だというのか!?」

 

突然の来訪者に、マジェコンヌはたじろいだ。

だが援軍かどうかはまだわからない。

私は銃を構えて、土煙を見た。

煙が収まっていくにつれて、緊張感が増していく。

 

「いやぁ、落ちた落ちた。もう少しでスカイフィッシュが捕まえられそうだったんだけどなあ。けど、高いところから落ちても大丈夫なように身体って意外と頑丈にできてるんだね」

 

しかし、煙の中から聞こえてくる声は私たちの警戒を解いた。

ネプテューヌの声だったからだ。

だけど、少しばかり大人っぽい声だったような?

 

「あ、下にいた人だ。ねえ、怪我とかない?大丈夫だった?」

 

ようやく煙が収まった。

ネプテューヌがいれば、戦力としてはじゅうぶん。

 

 

だが現れたのは、ネプテューヌであるがネプテューヌじゃない。

彼女をそのまま大きくしたような女性がそこにいた。

いや訂正しよう。黒いパーカーワンピから覗く胸は相応に成長している。

それに腰まで届くような長い髪。

顔と言動だけ見れば変わりないように見えるが、身体は妖艶と言えるほどになっている。

 

「だ、誰ええぇぇー!?」

 

思わず、私たち三人は叫んだ。

 

「……私?私の名前はネプテューヌ!何を隠そう、次元を股にかける通りすがりの昆虫ハンターだよ!!」

 

 

 

 

 

「どうしたの、ユウ?」

 

俺が小型の端末を操作していると、コンビニで買い物を済ませたネプテューヌが問いかけてきた。

 

「いや、とある奴と連絡が取れなくてな。まああいつはあいつでなんとかやってるだろ」

 

先ほどまでいた次元で出会い、はぐれた女だが、もとからふらふらしているような奴だ。

実力も、あの次元から抜け出す方法だって持っている。

心配はないだろう。

 

「ふーん」

 

「で、お前は何読んでんだ?」

 

「これに情報とか乗ってないかなーって」

 

ネプテューヌがコンビニ袋から取り出して読んでいたのは、『ねぷねぷミステリー調査班』と書かれたオカルト雑誌だ。

未確認生物や都市伝説、果ては街で流れているちょっとした噂まで。古今東西の情報を集めている。

信憑性は……まあお察し。

 

「わかったお前馬鹿だろ」

 

「失礼な!ほらここのページとか聞いたことないものが載ってるでしょ!」

 

ネプテューヌは得意げに雑誌のあるページを広げて、音読し始めた。

 

「『その者 金色の鎧を纏いて ゲイムギョウ界に降り立つべし 失われし信仰と民の絆を結び ついには民を 黄金の頂へと導かん』」

 

「すっごい……どっかで見たことあるあれなんだが……」

 

「でも、これも探してるアイテムと関係なさそうだね」

 

そう言うと、ネプテューヌは雑誌をぽいとごみ箱に捨てた。

ごみ箱の口のところにひっかかり、先ほどのページが見える。

 

黄金の頂……それに金色の鎧ね。

そんなものがあれば、さぞかし金ぴかに輝いて豪勢な国になってるだろうよ。

 

 

約束の二時間が経過していた。

たいした情報は得られず、手がかりもない。

サンシローの入魂パッチなんて物は俺も聞いたことがない。

正直に言ってお手上げだ。

 

腕を組んで思案していると、ラステイションの姉妹の姿が見えた。

手を振ると、あちらもこっちに気付いて駆け寄ってくる。

 

「待たせたわね。そっちは何か見つかった?」

 

「それが本とか買って調べてみたけど、全然だめでさー」

 

「ノワール、こいつ真面目に探す気0だぞ」

 

情報を集める気はあるのだろうが、少しばかし聞き込みや調査をしたくらいでコンビニによろうとするネプテューヌ。

危機感があるのやらないのやら。

この感じがネプテューヌの悪いところでもあるが、良いところでもあると言われれば否定ができない。

 

「はあ……だと思った。とりあえず探しっぱなしで喉も乾いたし、冷たいものでも飲みながら話さない?」

 

 

 

 

 

「ここなら静かだし、落ち着いて話せそうね」

 

「おおーっ、まさかプラネテューヌにこんなオシャレな場所があったなんて驚きだよー」

 

「ツッコまんぞ……」

 

ノワールの提案通り、俺たちはホテルのロビーでゆったりとしたソファーに座り、各々飲み物を口にする。

自国のことに無関心すぎやしないか。

娯楽ならともかく、他のことはイストワールやネプギアに任せっきりなのだろう。

 

「せっかくいるんだからツッコミ手伝いなさいよ。ネプテューヌ一人に三人がかりでも足りないくらいだわ」

 

俺は首を横に振った。

 

「……まあ、いいわ。ベールとブランも独自に調査してくれたみたいだし、通信端末のグループ会話機能を使って打ち合わせしましょ」

 

ユニが早速連絡を繋げる。

画面には金髪の長髪女性が現れた。

リーンボックスの女神ベールだ。

余裕のあるたたずまいは、女神の中でも一番の大人の女性だと思わせる。

 

『お待ちしていましたわ』

 

『そっちは何かめぼしい情報はあった?』

 

画面を分割して現れたのはルウィーの女神ブラン。

ベールとは反対に、コンプレックスのある発展途上の身体だが、それがルウィーの国民にはドストライクのようで、他の国にはない魅力だそうだ。

 

「それが全然ダメ。そっちは?」

 

『古い文献を調べてみたけど、あなたたちが言うアイテムについての記述はなかったわ』

 

ブランは女神の中でも知識量は飛びぬけているはずだが、それでも知らないとなると厳しくなってくる。

 

『確信のある情報ではありませんが、初代プラネテューヌの女神が聖地としていた場所なら可能性はあるかもしれませんわ』

 

「初代プラネテューヌ女神の聖地ねえ……場所は?」

 

『そこまでは……』

 

「聖地だろ?知ってるよ」

 

口をはさんだ俺を、その場にいた全員が驚いた表情で見た。

先に口を開いたのはネプテューヌだ。

 

「えっ、ほんと?私でも知らないのに?」

 

「知っとけよ。俺はもともと普通の旅人だったからな、珍しいところもだいたい回ったし、聖地もその一つだ」

 

実際に俺が旅したのは違う次元だが、ここはそこと相違ない。ならば場所も同じはずだ。

 

『あれ?』

 

『ちょっと待ってくださいまし、今の声……ユウですの?』

 

「そうだけど」

 

ノワールもユニも、俺が戻ってきていたって言ってないのか。

あっちの画面にはノワールとユニしか映っていなかったようで、俺に気付いていなかったらしい。

 

『そうだけど、じゃねえだろ!』

 

いきなりブランの怒号が飛んできた。

ロビーにいる何人かがこちらを向く。

 

『お前のせいでうちの妹たちが寂しい寂しいってなあ!!』

 

「ごめんごめん、これが終わったらすぐ会いに行くから、な。ほらユニ切って」

 

「え、ああ、えっと……」

 

『ちょっと待て!テメェ先にこっちに……』

 

ブランが続ける前に、ユニが通信を切った。

 

「相変わらず怖ぇ……」

 

彼女の妹であるラム、ロムの双子含めて女神候補生は俺を慕ってくれてはいるが、こうも寂しいと言われるとうれしい反面罪悪感が……。

それにしてもブランがあれだけ怒るのは久しぶりに見た。

会いに行くと言ってしまったが、斧で真っ二つにされないように気を付けよう。

 

「まあ、大丈夫よ。ベールさんもブランさんも自分の国で忙しいはずだから……」

 

「いまは女神の転換期でね、信仰が落ちる時期なの。いろんなデマだったり工作だったりも起きて、私たちも手一杯」

 

俺はユニとノワールの言葉に頷いた。

イストワールが倒れてしまったのも、その転換期とやらが一因だろう。

アイエフでさえ駆り出されるような期間だ。各国でも教会員が慌ただしく動いているに違いない。

教会の人が出払っていたのはそういうわけか。

 

「そういうわけで、私たちが手伝えるのもここまでだわ。事前に手は打っておいたんだけど、ラステイションもいまごたごたしてるから……」

 

「えー、じゃあ何で来てくれたの?大変なんでしょ?」

 

「そ、それは……そうよ。ユニよ、ユニ!」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

ノワールがおどおどしながらユニを指さすと、さされた本人は飛びのいた。

 

「ユニがどうしても、ユウに会いたいし、ネプギアが戻れるように手伝いたいって言うから妹の友情に感銘を受けて、姉として手伝いに来たってわけよ!」

 

「ちょっとお姉ちゃん、なに言ってるのよ!そのことは内緒って言ったでしょ!」

 

「ほぉぉん?」

 

俺は顎に手を当ててにやついた。

 

「てか、むしろお姉ちゃんのほうがネプテューヌさんに会いたいとか私がいないとあの子はダメだからとか言ってたくせに!」

 

「のわーー!?な、なに変なこと勝手に言ってるのよ!」

 

「ほう、ノワールが……そうですかそうですか。にやにや」

 

ユニの反撃に、今度はノワールが飛びのく。

ネプテューヌも俺と同じようににやつく。ご丁寧に口で擬音を発しながら。

 

「いやあ、愛されてますなあ、ネプテューヌさんや」

 

「いやいや、ユウのほうこそ」

 

「そこっ!ニヤニヤしない!もう、帰るわよユニ!ネプテューヌも、手伝ってあげたんだからあとは自分でちゃんとしなさいよね!」

 

「それじゃ、ユウ。ネプギアのことお願いね」

 

「おう」

 

顔を真っ赤にして去っていく二人を見送りながら、俺は寂しさを覚えた。

ああ、いきなり置いてかれる寂しさってこういう感じかぁ……。

 

「あーあ、行っちゃった。もうちょっといてくれてもよかったのに」

 

「忙しいんだろうさ。俺もこのあとの言い訳考えとかないとブランに殺されそうだなあ……」


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