お父さんが鎮守府に着任しました。これより私たちのお世話を始めます!!   作:先詠む人

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作者アンチによる低評価が入って日刊週刊両ランキングから外れてもモチベは全く下がらずにほぼ連日投稿継続中です。

前回、文ちゃんが見つけ、佑太が慌てて隠しドックへと運んだ白い少女。
彼女は一体……?


ココハドコ?ワタシハ……(by???)

「お父さんあの子大丈夫そぅ~?」

 

 妖精さんにあの白い小さい子を預け、工廠の隠し扉を通って駆逐艦の子たち用にこっそり作った隠しドックから出るときに、さっきからずっと黙っていた文ちゃんがそう言って口を開いた。

 

「たぶん大丈夫だろ……妖精さんがなぜか少しおびえてたのは気になったけど。」

 

「でもさぁ~、お父さんあの子見てたら何か感じなかったぁ~?」

 

「あ、やっぱ文ちゃんも?あの子見てたら誰かに似てるんだよな~って思ったんだよな~。」

 

 俺と文ちゃんがそう話しながら鎮守府の奥の方にある駆逐艦娘寮へと歩いていると

 

「あ、お父さんどうしたんですか?」

 

 桃色の髪の帽子をかぶった少女が変態がいつもいる本部棟の方からそう声をかけてきながら歩いて来た。少女自身はただ声をかけただけのつもりだったかもしれないが、それを見て俺も文ちゃんも同時に

 

「「あ(ぁ)------!!!!」」

 

「!?!?!?!?!」

 

 と天啓を受けて反射的に叫んでしまった。俺も文ちゃんもその行動に全く悪気はなかったのだが、そのせいで目の前の少女は驚いて被っていた帽子を落としてしまった。

 

「ちょっと一緒に来て!!」

 

「来てぇ~。」

 

「え!?え!?ちょっと待ってください!!どういうことか説明してくださいぃ!!」

 

 だがそんな風に混乱している状態の少女を無視して俺はその手を握り、文ちゃんは少女が落した帽子を持って秘密ドックの方に走り出した。

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ…………ここって一体?」

 

「俺があの変態の意志に反して妖精さんと一緒に作った秘密ドックだよ。」

 

「まだ春雨ちゃんはここ来たことなかったっけぇ~?」

 

「そうですね…。多分そうだと思います。もしかしたら一回大破して気を失ったのに気付いたら完全回復していたことがあったのでその時に使ったのかもしれないですけど……。」

 

「あぁ、あん時か。あん時はこのドック自体はまだ作ってる途中だったけど改良型のお風呂の方は完成してたから急いで春雨ちゃんを入れたんだったっけな。あの変態(クソヤロー)春雨ちゃんが大破してるのにバケツも使わず、そのまま工廠の隅の方に投捨てやがって。艦娘は戦える力を持ってること以外は女の子だってこと何回言えばわかるんだっつーの。」

 

 俺が春雨ちゃんが言ったときのことを思い出してその流れで悪態をついていると

 

「なるほど…その時は本当にありがとうございました。それで私を連れて来た理由って一体なんですか?」

 

 俺に一礼してから、そうたずねて来た春雨ちゃんの方から振り返って俺は目の前にある大きな機械と相対(あいたい)した。

 

「その質問に答える前にさ、この映像(この子)見てもらってもいいかな?」

 

 俺は目の前のコンソールを操作してこの隠しドック内に5個ある改良型お風呂(妖精さん印)の浴槽(ポッド)の内の一つのリアルタイム映像を流した。

 

「え……これって……()…………?」

 

 俺が出した画面に映っていたのは、改良型お風呂の中で口元に酸素マスクをつけられて超高濃度の修復液の中で病人服を着せられて浮いている先ほど文ちゃんが見つけた白い少女だった。

 

「うん。なんか顔だちとかがさ、春雨ちゃんにすげぇそっくりなんだよ。だからさっき驚いたのと、ここに連れてきたのはその確認もかねてってところかな。」

 

 俺は画面を背中に向けながら春雨ちゃんの方を向いてそう言った。

 

「それにしてもなんで手足捥がれて色素が抜け落ちるほどのひどい目にこの子はあってんだろうか…。普通ありえないだろ…。」

 

 俺は件の白い少女についてあごに手を当てて考え出したが、その前に考える以前の問題で確認しなくてはいけないことがあるのを思い出した。

 

「ねぇ春雨ちゃん。この子ってさ、多分別の鎮守府の春雨ちゃんだよね。」

 

 俺は春雨ちゃんの方を向いてそう言ったが、

 

「そうかもしれないですし…ちょっとわかんないです。」

 

 との答えが返ってきた。春雨ちゃんが分からないならば今できることも考えれることもすべてお手上げだ。

 

「う~ん。ま、いっか。目が覚めてから聞けばいいし。」

 

 だから、とりあえず件の白い少女が目を覚ますまで待つことにした。幸いこの超高濃度修復液の効果は先ほど治療を始めたにもかかわらず既に出ているようで、両腕両足の再生が始まっているとのデータが今使用中のポッドの状態を示すコンソールの操作画面に表示されていた。

 

「そうだねぇ~♪」

 

「じゃ、帰ろっか。」

 

「そうですね。……この子のことが少し気にはなりますけど……。」

 

 俺は後ろ髪魅かれるような感じの春雨ちゃんの背中を文ちゃんと二人で押しながら隠し扉の方へ歩き出した。

 

 

 

 ………実は、春雨ちゃんには敢えて言わなかったけどこの隠しドックでの治療は、資材が減って変態(クソ野郎)に存在がばれたらいけないから一切の資材を使ってない。

 その代わりに超高濃度修復液…………要はバケツの原液で効果を出しているだけだ。

 

 この原液に関しては、妖精さんがこの世界のどこかに存在しているらしいバケツの原液が出てくる水源と、この隠しドックを繋いでくれたから確保できるようになった。

 

 まぁ、そのせいで尚更この隠しドックの存在を隠さなきゃいけないことになったのは俺と妖精さんもわかりきっていた。なぜならこの場所はある意味バケツ取り放題の場所と言っても過言になりかねない場所になってしまったからだ。

 

 だけど、このバケツの原液はそのまま使った場合薄めた修復液(通称バケツ)よりも効果が出にくい。だから時間がバケツを使うよりもかかってしまうという難点があった。

 

 それでも普通にドックに入れた時にかかる時間よりも短い時間で済むし、大本営が決めた轟沈の基準を超えてしまった艦娘でも完全回復できる()()()からそれほどデメリットはないように思えるのだが。

 

 ……先ほど()()()って言った理由は、理論的にそうと言うだけで妖精さんもそれをやりたがらないからだ。

 

 ただ、だからこそ今回のように轟沈していてもおかしくないような大けがを負っている艦娘と思われる少女を治療することができた。

 

(一応、表示上では明日のお昼頃には回復してるはずだから明日また来て話を聞くか。)

 

 俺は駆逐艦娘寮に文ちゃんたちを送った後、もう一度隠しドック内に入ってコンソールに表示されている時間を確認してから夕飯を食べるために食堂の方へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………その日、否。次の日の深夜…

 

 PiPi!!Piiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!!!PiPi!!Piiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!!!

 

 

「ん~?この信号ってことはええっと…」

 

 俺の部屋の枕元に置いていた妖精さん作の通信機が事前に決められていた間隔で音を鳴らし、その音は眠っていた俺を起こした。

 

「…………早すぎじゃね?あの時表示されてた終了予定時刻は明日の昼ごろだったはずだぞ?」

 

 俺は顔を青ざめさせた。なぜならさっきの間隔で鳴った音は隠しドックのポットが排水したという時に流れる合図だった。

 

 ドックのポッドは治療が終了するか、もしくは外部からの排水コマンドを受け入れない限り排水することは無い。

 普段は治療終了時にしかならない合図だったためにそんなに気にすることは無かった。

 だが今回の場合は、先ほどの通信機に来た合図だけだと治療が終了したのか、それとも誰かが隠しドックに侵入して排水コマンドを入力したのかどちらなのかわからないのが問題だった。

 

「……とにかく行くか……ってまだ朝の3時じゃねぇか………。一体誰だよ排水コマンドで排水したんなら打ちこみやがったの……」

 

 俺はベッドの上でのそのそと動きだしてから通信機と懐中電灯を持って部屋を出た。

 

 

 隠しドックの入り口を開いて部屋の電気をつける。

 入口入ってすぐはコンソールが置いてあるコントロールルームがあり、先ほど文ちゃんたちと話していた場所はここだ。

 そしてその先にある今件の少女が入っているはずのポッドが置いてある部屋へ行くためには、この隠しドックを作るときに手伝いをしていた俺、もしくは妖精さんの生体情報が必要になる。

 

 誰かが隠しドックに侵入して排水コマンドを打ち込んだのならこの先の部屋に入れないからコントロールルームで立ち往生している可能性が高い。そう思って俺は警戒していたが、部屋には誰もいなかった。となると、合図の誤送信かもしくは本当に治療が終わったということになる。

 

(合図の誤送信であってくれよー。)

 

 そう思いながらコンソールに表示されている画面を覗いてみるとそこには

 

 ポッド1  All Order Complete

 

 の文字が表示されていた。

 

「合図の誤送信とかじゃなかったか…。個人的にはそっちのほうが良かったんだけど……。」

 

 俺は困惑しながらほほを掻いた。

 

「とりあえず、濡れてる病人服を妖精さんに変えてもらって一旦俺の部屋にでも連れて行く……いや、憲兵さん呼ばれるかもしれないからそれはよした方が良いか。」

 

 表示に書いてあることはどれだけ見ても変わらないので、これからどうするか考えていると

 

 ドンと、このコントロールルームとポッドが置いてある部屋を隔てる扉が殴られたかのような音を立てた。

 

「え?」

 

 俺がその音に困惑していると再びドンと今度は先ほどよりかは弱弱しく扉が叩かれた。

 

「ちょっと待って!?今開けるから!!」

 

 俺が急いで扉のセキュリティを解除してポッドが置いてある部屋とを隔てている扉を開けると

 

「……」

 

 ポッドに入っていたはずの少女がこちらに力尽きたかのように倒れ込んできた。

 

「おぉっと。大丈夫?けがは……治ったみたいだな。良かった。」

 

 倒れ込んできた少女を抱きかかえ、その様子を見てみると捥がれていた腕と脚は体同様に病的なほど白いとはいえ再生されており、それ以外についていた細かい傷も、もともとなかったかのようにもちもちとした肌を取り戻していた。

 

 そして、少女は無言で吸い込まれそうなほど暗い瞳に俺を映していた。

 

 俺も少女に聞きたいことがあったが、少女の瞳が何かを訴えているような気がしたから黙って少女が話し出すのを待っていた。

 

 二人で見つめ合うそんな無言の時間が

 

「ココハドコ?ワタシハ……ダレ?」

 

 と、少女が口を開き。俺が

 

「何も覚えてないのか?」

 

 と聞き返すまで続いた。

 

 そして、少女は俺の質問に小さく首を縦に振ることで肯定した。

 

 

 そんな短い会話が、俺が2回生として大学に行けるかどうかで迷っていた時にその後の俺の身の振り方を決めるきっかけになった秋雨と初めてした会話だった。




感想、評価を待っています。


………白い少女の正体は何なんでしょうねぇ~。

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