お父さんが鎮守府に着任しました。これより私たちのお世話を始めます!!   作:先詠む人

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久しぶり。

待っていてくれた人、本当にありがとう。
流石にこれ以上未完のままで放置するのは自分としても嫌だったからきちんと〆るためにも動くことにしたよ。

元々の予定では決戦後、エピローグがあってそれで終了の予定だから後数回で終わると思う。(決戦が何話かかるかはわからない。)

それじゃあみんな。あとちょっとお待ちを……


決戦前夜よ…しっかり準備なさい!!

「あの子がああなった原因の奴が今いる居場所が分かったわ。」

 

 ドパン!!って大きな音を立てて扉を開けて部屋に入るなり叢雲ちんはそう言ってキリッとした顔を見せる。

 

「ホントなのですか!?」

 

「すごいよ叢雲ちゃん!!」

 

「だったら早くしないといけないですね!!あっ!」

 

 電が喜び、吹雪が叢雲ちんに駆け寄り、五月雨が立ち上がろうとして転んだ。

 

「……で、なんであんたはそんな半裸で知らせを聞いてもぐだってしてる訳?」

 

 叢雲ちんがそう言いながらこちらへとずかずかと歩いてくる。

 

「ほら!さっさと服を着る!!」

 

 そう言いながら怒った表情で私の顔にその辺に脱ぎ散らかしていた”(わたし)”のセーラー服をぶつけた。

 

「そんなに怒んなくてもいいじゃーん。」

 

 あの子がらみだからかいつも以上にカリカリしている叢雲ちんにのんびり声を掛けながらセーラー服の上着に袖を通しながら続ける。

 

「それにその場所で本当にあってるの?前みたいに嘘情報に踊らされてない?」

 

 首の所をとおして頭をスポンと出しながら尋ねると叢雲ちんを含めてみんな「あ。」と言った風に固まった。

 

 どうもみんな忘れていたみたいだけど前に私たち全員が捕まって生体サーバーにされたときは嘘情報であの子が危ないって回ってきたのに碌な準備もしないで基地を飛び出したらそこにいたのは深海棲艦と捕まったあの子じゃなくて完全武装の暗部の特殊部隊でそのまま制圧されたってわけ。

 そしてそのまま捕まって生体サーバー化されてそのままずっと……ずーーっと拘束され続けてた。

 あの子に会いたくても夢の中でごくごく限られたタイミングでしか会えない。

 しかもその権利を使うのは基本的に早い者勝ちで長い時間使えるからいつも張り付いてた叢雲ちんが一番長くて遠慮してた五月雨ちゃんが一番短くて私はいつも中途半端な時間しかあの子に会えなかった。

 多分私は原点(オリジナル)の黒い部分を多めに受け継いでしまってるのかもしれない。そうじゃなかったら同じ私にここまで嫉妬しない。原点(オリジナル)が分裂したのが吹雪、叢雲、五月雨、電、漣(わたしたち)なんだからその嫉妬は結局自分自身に嫉妬しているのと同じだから。

 

「……間違いないはず…よ。一応、この鎮守府の人に協力してもらって艦載機飛ばして確認は済ませてるから。」

 

 そう自分自身の嫉妬深さにあきれながらやれやれとしていると叢雲ちんは震えた声でそう言った。

 

「なら、この鎮守府のみんなで行くんですか?」

 

「えぇ。さすがにこの鎮守府の人に協力を要請した関係であの子ともともと関係があった空母の人とか戦艦の人とかには一気にバレたわ。」

 

 五月雨ちゃんが叢雲ちんに聞いたことに対して叢雲ちんはそう言って肩をすくめながら答えた。

 

「なら、早く準備してから出撃要請でも出すのですか?」

 

「だったら書類盗ってこようか?」

 

「待ちなさい吹雪それはアウトよ!?」

 

 電ちゃんが不安そうにそう聞いて、それに続くように吹雪ちゃんがそう言いながら指を閉じたり開いたりしながら叢雲ちんに尋ねて止められた。

 

「それよりもまず先にあの子に対して言うのかどうか決めるべきじゃないの?」

 

 私が宣言するかのように言うと、場がシーンと静まる。

 

「いや、言わない気なの?」

 

 追い打ちをかけるかのように叢雲ちんの目を見ながら尋ねると叢雲ちんは顔をサッとそらした。

 

「言わない気なのね……バッカじゃないの!?」

 

 あまりにも不甲斐ないその様子に怒声を上げる。周りの4人はその声にビクッとした様子で肩をすくめた。

 

「今でさえも不安で夜もまともに眠れなくなることがあるあの子を置いて私たちがいきなりいなくなったら情緒不安定になるのは間違いないでしょうが!」

 

 脳裏に浮かぶのはからかいに部屋まで行ったあの時に頭を抱えて毛布にくるまって自分じゃない誰かの身体のはずなのに自分であるという違和感に押しつぶされそうになって震えているあの子の様子。

 普段は文月ちゃんとか自分をお父さんと慕ってくれる子たちがいるから毅然に振る舞っているけれど本当はそれどころじゃないのを無理やり胡麻化しているあの子の脆い部分だった。

 

 その光景を脳裏に描きながら喉から吐き出される言葉が止まらない。

 

「それに前の時も私は最後まで反対してたよね!『なんか怪しくな~い?』ってさぁ!!」

 

 止められない。

 

「あんたらに留められたとしても私はあの子が同伴する、もしくは何か一言あの子に対して言ってからじゃないと出撃しないから!!」

 

 言い切った。

 肩で息を切らしながらそのまま部屋を飛び出す。

 

「あ、待って漣ちゃん!!」

 

 五月雨の声が後ろからしたけど私はそのまま廊下を駆け抜けた。

 

 

 

 

 どのぐらい走っただろうか。階段を何個も上り下りし、いくつもの廊下を駆け抜けた。

 

「あ……」

 

 気づいたらあの子の部屋の前についていた。

 

「………」

 

 無言でそっとあの子の部屋の扉を開ける。

 キィッっというわずかばかり高い音を立てて扉は開き、奥のベッドの上で布団にくるまっている小さな背中が見えた。

 

「起きてる?」

 

 小さな声でそっと呼びかける。もう既に眠っているのか返事はない。

 

「……」

 

 返事がないから眠っていると確信した私はその小さな背中に近づいた。

 

「ん……」

 

 私が近づくとちょっとした声を挙げながら小さな背中が寝返りを打つ。

 さらさらとした白い独特の光沢を持った髪が瞳に少しばかりかかる様に被さり、雪のように真っ白な瞼によって真っ赤に染まった瞳が隠されている。

 私はそっとあの子の顔にかかっている髪をわずかばかり持ち上げて落とした。捕縛した当初からずっとリンスを使っているせいで髪質が変わったのかごわごわしていたレ級の時の髪とは大違いの感触が手に残る。

 

「……ねぇ、君はどっちがいいのかな?」

 

 髪の下に隠されていた穏やかな寝顔を見て、眠っているから返事がないことはわかり切っているけれども、私はそう語りかけずにはいられなかった。

 

「スゥ……」

 

 語りかけた問いに返事はない。だけど、この子の顔のすぐそばに置いていた手がぎゅっと握られた。

 その手には生気も、温かみもともにない。

 それもそうだろう。仮に中身があの子だとしても今宿っているその体は本来死者の肉体(もの)をいじくって作られた深海棲艦のもの。その身に心臓はあっても動いていない。

 戦闘時に深海棲艦が負傷したときに噴き出す血のようなものは彼女たちの血液ではなく彼らの艤装に積まれている凝固防止剤でしかないのだから。

 人の身は、死亡してから一定時間を置くと固まり、それから再び時間を置くと柔らかくなる。そしてそれは人の身に限りなく近づけた私たち艦娘にも当てはまる。

 その理由は始まりの5人(わたしたち)はその中で進化するにあたって人に、この子に近づこうと心臓を、人が持っているものを得たからだ。

 

 5人に分かれたときに気付いた。胸の鼓動が熱く燃え滾っているのを。だけど、すぐに冷めた。だってあの子がいないから。

 

 それから紆余曲折会って漸く会えたと思った。だけど、その体は私たちが捨てたものを寄せ集めたものになり果てていて。だからどうすればいいのかわからない。

 

「もうわかんないよ…」

 

 誰に問うわけでもない。零すことしかできない本音が涙とともにこぼれた。

 

「漣おねえちゃん泣かないで…。」

 

 優しい声音が部屋に響く。伏せていた顔を上げるとそこにはまだ寝ぼけているのか少しとろんとした目をしながら私の頭をなでる赤い目の少女がベッドの上で体を起こしていた。

 

「漣おねえちゃんが元気でいないと俺も寂しいから…」

 

 そう言うなり再び欠伸をしながらポンと言う軽い音とともに布団に身を投げ、そのままこの子は寝入ってしまう。

 

「元気じゃないと寂しい……か。なら私も頑張りますか。」

 

 目の前でスゥスゥと寝息を立てているあどけない寝顔の額にキスをして、

 

「行ってきます。」

 

 その一言だけ告げてから部屋を出る。部屋を出るとそこには

 

「遅いじゃない。」

 

 対してない胸の前で腕を組みながらこっちを見る叢雲ちんの姿があった。

 

「まぁ、漣はこれから頑張りますし~。それで、叢雲ちんは一体何の用でここに~?」

 

 一体いつからここに居たのかわからない以上適当にはぐらかしながらいつからいたのか探ろうとする。

 

「あんたが弱音を吐いた辺りからずっといたわよ。ええ、もちろん額にキスをしたのを見過ごす私だと思った?」

 

 背中辺りに一気に寒気が走る。本来私たち5人はもともと同じ存在。そのせいであの子に抱いている感情も共通して一緒。そして私が原点(オリジナル)のあの子が自分(わたし)以外の誰かに懸想されているのに対して感じる嫉妬の部分を多く引き継いだようにみんなあの子に対して原点(オリジナル)の何かしらの感情を引き継いでいるわけで……

 

「ええ……ええ………。あの子は私のものなのにキスしちゃうとはねぇ…」

 

 吹雪が引き継いだのは保護欲、五月雨が引き継いだのは愛情、そして電が引き継いだのは本人曰く親心。

 ここまでは別に普通。それだけなら私も嫉妬したりしない。ただ叢雲ちんが引き継いだやつが色んな意味でやばすぎる。

 

「さて、どうしてくれようかしら。」

 

 叢雲ちんが引き継いだのは独占欲(・・・)。私は嫉妬する程度で収まるけれど、叢雲ちんの場合は実力行使も余裕で辞さない。だってほら今この瞬間も

 

「この抑えきれない昂りをどうしてくれようか。」

 

 ……目の色とかしゃべり方とか完全に原点(オリジナル)に戻ってるもん……

 

 口を三日月のように開き、目の色を真っ赤にした状態で艤装の槍を構えたその瞬間、私は脱兎のごとく逃げ出した。

 

「逃がすと思った?」

 

「アーッ!!」

 

 ………二秒もたたずに即座に大破させられた。私の記憶はそこから決戦前夜までない。気づいたらあの子が妖精さんと一緒になって作ったドックであの子の本来の身体の横で液に浸かってた。

 

 

 ドックのアラームが鳴って、バケツの中身をまったく薄めていない原液がシリンダーの中から排出される。

 

「プハッ!」

 

 口にあてがわれていた酸素マスクを外して即座にシリンダーから飛び出す。一体今がいつなのか。答えはシリンダーのすぐ横にいた吹雪が教えてくれた。

 

「漣ちゃん、叢雲ちゃんを怒らしちゃだめだよ~。ほら、タオルと服。」

 

「ありがと。ところで今はいつよ?」

 

 先にタオルを受け取って体をふきながら吹雪に尋ねると教えてくれた。

 

「あれから3日経ってるよ。」

 

「うげ」

 

「それと、明日。実行するって。」

 

「分かった。それで何か特殊な準備いる?」

 

「それが……」

 

「?」

 

 流れるような問いと答え。その最中に吹雪が何故か口ごもったので髪に残った水分をふき取りながら首をかしげる。するとドックの入口の方から叢雲ちんの

 

「あの子も行くって言ってきかなかったのよ。」

 

 と言う呆れたような、でも子供の成長を喜ぶようなどっちとも取れそうな声が聞こえた。

 

「へ~……って正気なの!?」

 

 驚いて問い返す。すると叢雲ちんは肩をすくめながら

 

「正気も何も、『これは俺の戦いだし、俺が原因でみんなに迷惑をかけてるんだから俺自身もできることをしないと』って話を聞いてくれやしない。説得は諦めるしかなさそうよ。」

 

 と言いきった。

 

「あちゃー……ヤバくね?」

 

「やばいも何も大変よもう…」

 

 そう言って肩を落とす叢雲ちんはいつになくつかれているように見えた。

 

「とにかく、明日。全部ケリをつけるわ。これまでにつけられた分全部熨斗つけて返してやるんだから!!」

 

「おーおー燃えてるね~」

 

「叢雲ちゃんも落ち着いてね。」

 

 フンスとでも言いそうな顔でそう言い切った叢雲ちんを冷めた目で見ながら私は服を着た。

 

 服を着て、髪を留め。気持ちを切り替える。

 

「やるしかないっしょ!!」

 

 私は自分の顔を軽くはたく。そんな私の様子を見てから叢雲ちんは

 

「そんなわけで今夜は決戦前夜よ…しっかり準備なさい!!」

 

 と言ってドックから離れていった。吹雪もそれに続く。私はさっきまで入っていたシリンダーのすぐ横のシリンダーで今もなお強制的に生命を維持させられながら眠っているあの子の顔をガラス越しに撫で、

 

「絶対助けるから。」

 

 と言ってドックを出る。

 

 そうして誰もいなくなったドックにはうっすらと光る半身を深海棲艦の体を構成している鉄のような物質で覆いつくされた小鳥遊佑太が入ったシリンダーだけが残っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして夜が明ける。

 

 小鳥遊佑太、「お父さん」と慕われる青年を救うための作戦が今、夜明けとともに始まる。

 

 鎮守府からは4艦隊分、24人の艦娘たちと紐で繋がれた手漕ぎボートが出撃した。

 当座として目指すは鎮守府近海航路の途中にある地点J。そこから鎮守府の方に進むのではなく、西へ進めと指示する羅針盤を無視して北へ。本来進むことができない方へと進む。

 

 作戦の最終目的地はその先の孤島。原点(オリジナル)に限りなく近い姿を持った少女の半身を持つ新種の深海棲艦が部下を引き連れて住まう島。

 

 

「♪~♪~」

 

 鎮守府から出発した艦隊が迫ってきていることを気もせずに少女は歌う。

 その少女の半身は、とある船で行方不明になった少女のものと酷似していた。

 

「♪~」

 

 少女の口が奏でる旋律はどこか悲愴めいた物。それが止まる。

 

「あら?やっと来たの。遅かったわね………クソガキ。」

 

 その生前と違って二つのたわわな実を宿した裸身を恥ずかしそうに隠すことすらせずに、兎のように紅い瞳で少女は手漕ぎボートに乗った白い姿の少女を睨みつけた。




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