お父さんが鎮守府に着任しました。これより私たちのお世話を始めます!! 作:先詠む人
「ナスは嫌いなのです!!こればかりはいくらお父さんに言われても無理なのです!!」
「そうか…。これもダメだったか……。先は長いなぁ………。」
「あっちゃー、また始まったわよ。お父さんも大変ね。」
ナスは嫌い!!と目から光を失った状態で叫ぶ
今日は、お父さんが鳳翔さんに代わって料理を作ってくれたんだけど、その際にお父さんが電のことを考えていつもある食材を使うせいでもめるのよね~。
今私たちの目の前にあるのは、お父さんが作ったナスの揚げ浸し?っていう料理で、私はさっきもめているお父さんと電の様子をしり目に食べてみたけどすごくおいしかったわ!
だけど、電はナスが嫌いだからお父さんに駄々をこねて結局…
「しょうがない。電ちゃんには夜ご飯のメインは今日も無しだな……。」
と、お父さんが世界の終わりを見たかのような顔で言って
「あわわわわわ!!!!電の本気を見るのですぅ!!!」
電が慌てて泣きながら嫌々目の前のナス料理を食べるところまでが最近の一連の流れになってきてるのよね~。
普段ならお父さんは苦手なものを食べたら頭を撫でてほめてくれるんだけど
「アハハ、俺はやっぱり駄目かもしれない……」
みたいな感じに電とナスが絡んだ時だけは必ずなるから、電は損しかしてないのよ。
「雷お姉ちゃん、もう限界なのです……。これ食べてほしいのです…。」
……あ~、やっぱり無理だったか……。仕方ないわねぇ~。
「この雷に任せなさい!!!」
私は腕まくりをしてお箸を片手に自分の席から立ち上がったわ。
「これもダメ……。あれもダメか……。今日のナスの揚げ浸は俺がナスを食べれるようになったきっかけの料理だったからイケると思ったんだけどなぁ・・・・。」
今俺の目の前にあるのはナスを使った料理のレシピだ。
「麻婆ナスは春雨ちゃんとか重巡の子とかにはウケが良かったけど、他の子達からはあまりウケが良くなかったしなぁ…。」
そんなことをつぶやく俺の脳裏に浮かんだのは、辛いのが苦手だったせいで涙を流しながら麻婆ナスを食べる吹雪ちゃんを筆頭とした駆逐艦娘たちの姿。
「かといって一回ナスのはさみ揚げをしてみたら
次に俺が思い出したのは3週間前にナスのはさみ揚げを作ったときに起きた惨劇だった。
『これは良いですね。気分が高揚します。』
『あ、ちょっと!!それは一人二つずつで』
『これはいただいていきますね。』
『だから一人二つずつ…って大皿ごと持ってくなぁ!!』
そんな感じで俺と加賀さんが揉めているうちに
『モキュモキュ……お替りはありますか?』
『……ウソだろ!?』
後ろで全部揚げた後に余計な油を落とすために新聞紙を敷いたパッドの上に網を置き、その上に置いていたナスのはさみ揚げをすべて食らいつくしたバカ城の姿だった。
『フフフ…慢心ダメ……ですよ。佑太さん。』
『それを慢心と俺は認めねぇ!!!!』
「結局、あの後鳳翔さんに二人とも叱ってもらってる間に残ってたもん使ってつみれ汁作ったんだったか…。」
あれ?おかしいな目から汗が……。
俺は、急にあふれ出した汗をどうにかして納めてから再び目の前の机の上にまき散らした大量にあるメニューを一つずつ精査し始めた。
「電ちゃんにナスを見た瞬間から自発的に食ってもらえる料理は……ん?これいけるんじゃね?」
俺はあるメニューが書いてあるページを見て電ちゃんにナスを食べさせる攻略法を見出した気がした。
「きっと今日もナスが出てくるのです。もうナスは見たくないのです。」
「いい加減しゃんとしなさいよ!!もぅ。」
雷よ!雷じゃないわ!!そこのところもよろしく頼むわね!!!
昨日ナスの揚げ浸が出て電とお父さんの目から光が消えたせいで鎮守府の中がきょーてんどーちって言うんだっけ?な状態になったけど辛うじて大丈夫だったわ。
ただ、電が出撃する前に鳳翔さんとお父さんが話してたのを偶然聞いちゃったみたいで、その時に
『今日の料理もナスを使おうと思います』
ってお父さんが言ってたんだって。
私個人としてはお父さんが作る料理はこの間作ってくれたまーぼーって奴以外は好きだからいいんだけど、電のこの様子を見てたらちょっと…って思っちゃうわよね。
「雷ちゃんお帰りさぁ僕の胸へと飛び込んでおいで!!はぁはぁ」
「ヒッ!!艦隊が帰投したわ。お疲れっ様ぁっ!」
「アビシ!!」
帰投するなりこちらに息を荒げながら迫ってくる
「あんたに触られるぐらいならまだお父さんに撫でられた方が数千倍良いもんね、だ!!べー!!」
勿論アイツの視界から消える前にあっかんベーをするのも忘れない。あいつはおなか周りに乗った脂肪のせいでまともに起き上がれてないから見えないのはわかってるからするんだけどね。
「……雷お姉ちゃんあんなことして大丈夫なのです?解体されないのですか?」
暫く走って食堂の近くまで来たころに電がそう聞いて来たわ。
「いいのよあんな変な指揮しかできない無能なんか。それにもし解体されそうになったらお父さんが助けてくれるって。あ~あ、お父さんに指揮の才能があればよかったのにな~。」
私が後ろ手を頭に沿わせながらついぼやいたら
「それは言ってあげないお約束なのです。お父さんだってそこのところをすごく負い目に感じてるみたいなのですから。」
電が私の肩に手を置いて目を合わせてからそう言ったわ。
さっき簡単に触れたけど、お父さんには私たち艦娘を建造したり、装備を開発することはできても、提督として肝心要の能力とされている私たちを指揮する才能が無かったの。
だから今ここの鎮守府にはお父さんと変態の二人が責任者として存在しているわ。
しかも、その変態が変な指揮しかしないでまともな艦隊運用ができないから私たち駆逐艦娘たちはいつも
それを見たお父さんが
「いくらなんでもその指揮はおかしすぎないか?あの子達は無機質な兵器なんかじゃなくて血の通った女の子なんだぞ!!」
って変態に私たちの様子を見て文句を言ってくれてはいるんだけど、その変態は
「指揮ができずにいて妖精どもに運よく好かれたために生き延びている無能が口を出すんじゃない!!」
と言ってお父さんを追い出すから取りつく島もないの。だからいっつもお父さんは
「ごめんな。お父さんに才能が無いからお前らに迷惑かけちゃうな…。ごめんな…。」
って泣きそうな顔で言いながら出撃した後の私たちの頭を撫でてくれるんだけど、あの変態はそれが気に入らないんだって。前に秘書艦をしていた霧島さんが鳳翔さんに愚痴っていたわ。
だから……とは一概に言えないとは思うけれど、あの変態はお父さんへのあてつけなのか、いつも駆逐艦である私たちを入渠ドックに入れるのは最後の方なの。
「ん?雷たちどうした?小破してんじゃん。」
「あ、お父さん。」
どうも考え事をしている間に食堂についてしまったみたい。
「そうだ。今ちょっとした甘味作ってんだけど二人とも食ってみるか?」
「甘味!?食べたい食べたい!!!」
「食べたいのです!!!」
私と電がそう必死に言うと、お父さんは
「オッケー。じゃあ、ちょっと待ってて。」
そう言って冷蔵庫から何かを取りだしてきたわ。
「はい、どーぞ。」
そう言ってお父さんが私たちの目の前に差し出したのは
「「うわぁ~!!」」
黄色い何かが上に乗ったおいしそうなグラスに入ったゼリーだったわ。
「見た目がすごいきれ~。」
私がその透き通るようなゼリーと上に乗った何かの様子を見てきれいだと思っていたら
「おいしいのです!!おいしいのです!!!」
電が無我夢中でそのゼリーを食べていたわ。
「あ…なくなっちゃったのです。」
「もう。何もそんなにがっつかなくてもなくなったりしないわよ。ほら、私の上げるから。」
「ありがとうなのです。」
名残惜しそうに空になったグラスを見ている電の様子を見てかわいそうに思えた私は自分の分としてお父さんに渡されていたグラスを電に上げたわ。だって雷はお姉ちゃんだもの。だから電が羨ましくない…わ。……多分。
「はいはい雷えらいえらい。ほら、追加だよ。」
電が無我夢中で私があげたゼリーを食べている様子を見ていると、お父さんが頭をポンと叩いてから追加のゼリーを持ってきてくれたわ。
「夕飯があるからこれで最後な。」
そう言ってからお父さんは私たちが座るテーブルの横の方に会った椅子に普通の向きと反対側に座ったの。
「いただきます。」
グラスに載せられているスプーンを手に取ってプルプルしているゼリーを持ち上げる。
「おいし~い!!」
なにこれ!間宮さんの羊羹もおいしいけれど、このゼリーはそれに匹敵するぐらいおいしいわ!!!
それにしても、この黄色いの……なんなんだろう…?それがつい気になった私はお父さんに聞いてみたの。
「ねぇお父さん。この黄色いのってな~に?」
「ナス。」
お父さんが私の質問にそう答えた瞬間だったわ。
カランカラン
と電の方から高い音がしたのと同時に
「私……ナスをおいしく食べてたのですか?」
と、目から光が消えた状態で電が喋り出したの。
「そうだぞ。これで電もナスのおいしさが分かったかな…。」
お父さんが何やら一仕事終えたかのように言った次の瞬間
「なんでこれを真っ先に出してくれなかったのですかぁーーーー!!!!!!!」
電の叫びが食堂にこだましたわ……。電…あなた声出そうと思えば出せたのね…。お姉ちゃん知らなかったわ…。ガク
「あ、雷が気絶した。」
「この人でn「止めなさい。」…はーい、なのです。」
「ところで何でお父さんは電がナスを食べれるようにしたかったの?」
電がナスを食べれるようになってから数日後、私はふと思いついた疑問をお父さんに聞いてみたわ。そしたら
「だってそりゃ。みんなが終戦後に恥をかかないように…と思ってさ。俺も恥かいたし…」
お父さんはさびしそうな顔をしてそう言ったわ。
「大丈夫。だって私がいるじゃない!!!」
お父さんにそんな顔をしてほしくない。そう思って私はお父さんにそう言いながら抱き着いたら
「あ。」
柱の陰でナスを目の前にしたときのように目から光りが消えた電と目が合ってしまって
「「…」」
目線の先の電は口を悪魔のようにゆがめたままで首もとに親指を下に向けた右手を持ってきてそのまま首を掻っ切るかのように動かしたの。
そしてそのまま私とお父さんの方に近づいてきて
「(後でO・SHI・O・KIなのです)」
と小さい声で耳元でささやいてから歩き去って行ったわ。
その後のことは言いたくないわ。ただ、ひどい目に遭ったことだけは言っておくわ…。
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この鎮守府の電はファザコンをこじらせているのかもしれない……。