お父さんが鎮守府に着任しました。これより私たちのお世話を始めます!! 作:先詠む人
佑太の容姿は「パパの言うこと聞きなさい!!」の主人公瀬川裕太の髪型をウルフカットにしたものです。
今回の話は供養みたいなもので、自分がかなり前に共同著者として参加した作品に、今回のコンセプトで寄稿したんですが、載る前にその作品自体がエタっちゃいまして……
その結果、世に出ることがなかった話をベースとして一部書き変えたのですぐに出せました。
やったぁ!(byドジッ娘)
いろんなことがあった春休みを越えて漸く可能になった大学2年生としての生活。
そして、その記念すべき第1日の2コマ目と3コマ目の間の昼食を食べるために集う学生たちがごった返す食堂で
「なんでこうなったし…………。」
俺は周囲から突き刺さるような視線を受けて、眉のあたりを押さえながらそう嘆いた。
「お父さんどうしたんです?明石さんから一応預かってきた頭痛薬飲みますか?」
「あぁ、大丈夫大丈夫。だから取り敢えず俺の膝の上から降りてくれるとうれしいかな……。」
そんな俺の様子を見て、心配そうに膝の上から俺の顔を見上げるきれいな空色の髪にノースリーブのセーラー服を着た少女の心配を解いてから俺はそうお願いした。
「わかりました……。」
俺がそう言うと、残念そうに俺の膝の上から少女は降りて、今度は俺の横に座って俺の前に現れた時からずっと持っている風呂敷を胸の前に抱えてニコニコしていた。
「…………あの~、五月雨ちゃん?」
「はい?なんですか?」
「俺の弁当持ってきてくれたんなら出してくれなきゃ食べれないんだけど…?」
「あ!」
「ぅお!!危ね!!」
………このどじっこ属性さえなければホントにいい子で済ませられるんだけどなぁ~。
俺の言葉を聞いてから慌てて風呂敷の中から俺の弁当を出そうとし、今度は椅子の上から転びかけた五月雨ちゃんを支えつつ俺はさっきまでのことを思い出していた。
『~~~~~となることから◯◯◯は、×××になると思うのでこの辺りを少し深めたほうが卒業論文としては良いんじゃないでしょうか?』
『なるほど…わかりました。ですが、私個人の見解としては×××は今自分が掲げているテーマにそぐわないと思うんですがどうすればそうなるのか教えてもらえますか?』
様々な見解や意見が飛び交う中、俺は
『ふぁ~。』
周囲にばれないようにあくびをかみ殺しながら、妖精さんに『非常事態が発生したらこちらに連絡します』と渡された小型通信機を机の下に隠して手の中で転がしていた。
今日はまだあの変態の後釜を受ける提督が来ていないということで鎮守府の運営は完全にストップ。
出撃も遠征もなしで、艦娘たちみんなにとっては事実上のオフとなっていた。
そんな中、俺はあの事件の前に立てていた当初の予定通りに大学に鎮守府の近くから出る朝一番のバスに乗って大学に向かい、1コマ目から授業を受けていた。
そして必修科目になっていた教授のゼミに参加して、もともと興味のない内容を取り扱っていたせいか今にも眠りそうになっていた。
その時だった。
<緊急放送です。現在、近隣に深海棲艦が現れたとの連絡が入りました。学生は直ちに山側に建てられたシェルターに避難してください。>
『『『『『『はぁ!?』』』』』』』
そんな放送が流れた瞬間、俺がいた教室では阿鼻叫喚の大混乱が始まった。
その一方で俺は
『……?妖精さんから何の連絡もないけど、どういうことだ?』
と、うんともすんとも言わない通信機を軽くたたきながら首をかしげていた。
そうやって教授が真っ先に逃げ出してそれに続くようにみんなが逃げ出した結果、一人だけとなった教室で首をかしげながらうんともすんとも言わない通信機をトントンと叩き続けていると
『あ、お父さん、お弁当忘れてたので持ってきましたよ~。』
笑顔で五月雨ちゃんが教室に入ってきた………ってあれ?
『ねぇ、五月雨ちゃん。いろいろ聞きたいことあるんだけどそれは置いておいて、深海棲艦出てるってさっき構内に放送入ったんだけどさ。』
『はい…?』
『もしかして五月雨ちゃん何か守衛の人に言った?』
『…?いいえ、私は何も言ってませんけど…。』
『?…そっか。それじゃあ、とりあえずそれは置いておいて……五月雨ちゃんここに一人で来た?』
『はい。そうですけど…って痛ぁい!!』
俺は五月雨ちゃんの答えを聞いてからおでこに軽くデコピンした。
『昨日来た軍の人に言われたはずだよ?勝手に一人で鎮守府の外に行っちゃダメだって。もし鎮守府の外に出たい場合は俺か、もしくは憲兵さんの誰かと一緒に行動しなくちゃいけないって。』
実際、一昨日のあれから昨日までの間に家の鎮守府の環境はそれまでと完全に別物になった。
例えばあの変態が目を光らせていたせいで雨漏りしていても妖精さんの力を借りて直せずに、俺が日曜大工レベルで直していた艦娘寮は、一昨日のお昼から昨日の朝までの間に妖精さんの謎の力で新しく建てられた物へと移動することになった。
そして、食堂など分配するためのお金の管理権がなぜか俺の方に回ってきたから色々と頭を抱えて大淀さんと相談しながら娯楽関係のものを買い始めた。
その関係で昨日は大淀さんと話し合っている途中で寝落ちしてしまい、寝坊したことで今朝慌てて鎮守府から飛び出した結果、弁当を忘れてしまったのである。
その上更に、あの元帥の部下だという憲兵さんが鎮守府に居る全員を集めて伝えたのは
”艦娘の外出許可”
と言うものだった。
これにはみんな驚き、そして手をあげて大喜びした。
ただ、やっぱりそれには条件があってそれがさっき言った二つだった。
そして、五月雨ちゃんに確認してみたらそれを守らずに俺の大学の位置だけを守衛さんに聞いてから一人だけで風呂敷に包んだお弁当を抱えて鎮守府から出て来たらしい。
『バスのお金はどうしたの?』
と、不安になって聞いてみたら
『守衛さんが渡してくれたこれでお支払しました!』
と俺に軍属である証拠の身分証を見せてくれた。多分、後払いで俺か軍に請求が来るんだろうと勝手に判断して俺は
『それならお金の心配はないけどちゃんと決まりは守んなきゃだめだぞ。』
『……はい。』
俺がそう言って優しく叱ると五月雨ちゃんはそのままうつむいてしまった。その時だった
『…太さん。佑太さん聞こえますか?』
通信機から妖精さんの声が聞こえてきた。
『こちら佑太。なんか、深海棲艦が出たって騒ぎに大学の方はなってて五月雨ちゃんもこっちに来ちゃってるけど鎮守府の方はどうなってる?』
俺がすぐに返事をして聞き返してみると
『深海棲艦の方は先ほど着任された提督さんが大鳳さんをひきつれて出撃し、撃破しました。それと五月雨さんのことですが……』
『ことですが?』
『もういっそのことそのまま佑太さんと一緒に大学で授業でも受けさせておけば?とのことでした。』
『……それでいいのか情報統制……。』
俺が妖精さんの言葉を聞いて呆然とする中
『え?お父さんと今日一緒に居て良いんですか?やったー!!』
俺のすぐ横でうれしそうに五月雨ちゃんは上下にその神を揺らしながらはしゃいでいた。 俺のすぐ横でうれしそうに五月雨ちゃんは上下にその「髪」を揺らしながらはしゃいでいた。
『やったー!!やったー!!やっ(キュークルル)…………』
…………そしてそのおなかは可愛い音をかき鳴らした。
俺は時計を見て、授業自体が終わっていることを確認してから
『……食堂行ってご飯食べる?』
と、一応聞いてみると五月雨ちゃんは顔を赤く染めてうつむきながらも小さくうなずいた。
そんな経緯を経て食堂に移動中にシェルターに移動した全員がシェルターから出てきて、俺と五月雨ちゃんが食堂に着くころには多くの人が食堂に駆け込んでいた。
『とりあえず席とって…と。五月雨ちゃんこっちこっち。』
もし何かがあったときにすぐに食堂から逃げ出せるように食堂の出入り口の方にある席にカバンを置き、振り返ると風呂敷を持ったまま五月雨ちゃんがぼーっと入り口で立っていたから俺は近づいて声をかけた。
『あ、お父さんごめんなさい。ちょっとこんなに人がいるのを見たことが無かったから気圧されちゃって…』
すると五月雨ちゃんは申し訳なさそうな顔をしながら俺の方を向いた。
『ん~、まぁ、いつかはみんな通る道だから大丈夫だって。』
五月雨ちゃんのそんな様子を見て俺は笑いながらそう言い
『ほら、席取ったから座ろ?』
五月雨ちゃんの手を取って席の方に誘導した。
そして、二人とも席に荷物を置いてから五月雨ちゃんを連れて注文する場所へと行ったときには俺たちの周囲には人だかりができていて……
『あの子すげぇかわいな!!』
『あの男誰だよ?あんなかわいい子とどこで知り合ったのか吐かそうぜ。』
『やめとけ…と言いたいが、やはり気になったものは仕方がない。』
と言った感じで不穏な会話からあの子可愛いといった会話まで漏れていた。
(ヤバ……いろいろと選択をミスってたかも…)
俺が内心冷や汗を流していると
『お父さんこの味噌ラーメンっておいしいですか?』
と、メニューの前でどれを食べようか迷っていた五月雨ちゃんが笑顔で振り向きながらそう言ったもんだから
『お父さんだって……』
(ザワ)
『お父さんだってよ。』
(ザワザワ)
『………(ヤバーーーーー!!!)』
周囲に居た奴らから突き刺さるような視線を浴びせられるようになった。
『………お父さん?』
その視線に焦った俺が反応しないことに気付いたのか、五月雨ちゃんはそう言って上目づかいをしながら俺の服の裾をつかんだ。すると
バタッ
という音とともに数十人が倒れた。
『………ここの食堂は味噌よりしょうゆがお奨めかな。』
俺が倒れた奴等が五月雨ちゃんの視界に入らないように体の位置を調整しながらそう言うと、
『お父さんがそう言うのなら醤油ラーメンにします!』
五月雨ちゃんが笑顔を見せながら醤油ラーメンを食べることにしたと宣言したらまた倒れる人が出た。
『あかんこれ……。』
俺がその様子を見てそう思っている間に、五月雨ちゃんは食堂のおばちゃんに醤油ラーメンを注文して受け取っていた。
『お父さん、お金がいるんですって。どうしたらいですか?』
『あ~、ちょっと待って。今から払うから。』
ズボンのポケットから財布を出し、小銭で料金を支払って振り返ると席までの道は完全に人だかりで埋まっていた。が、
『あー、ちょっと通してねぇ~。』
『そこを退くクマ~。』
『はい、そこ邪魔ぁ!!』
『はいはい、通してにゃ。』
マスクをつけた数人の女性が、モップで床を拭きながらこちらに歩いてきて皆が反射的にそれを避けたから道が出来た。
『いこうか。』
『ふぇ?あ、はい!!』
俺はその隙に五月雨ちゃんからラーメンが乗ったお盆を受け取って席の方へ歩き出した。
(………で今に至る………。)
「お父さん美味しいです!!」
弁当をつまむ俺のすぐ横でラーメンを啜る五月雨ちゃんは本当に幸せそうで……
「ん?そうか、良かった良かった。」
無意識にその頭を撫でた。
「あ……エヘヘ……」
頭を撫でられたことではにかんだ五月雨ちゃんの姿を見てまた大量に倒れる人が出て、最終的に食堂は深海棲艦が出たときとは別ベクトルで阿鼻叫喚の騒ぎが起きた。
………結局、その日の授業は3コマ目で終わりだったから、3コマ目の授業を受けて鎮守府に帰ると、
「五月雨ちゃんだけずーるーいー!!」
「お父さん夕立も連れてって!!」
「父上ぇぇぇぇ!!」
目を血走らせた皆が待っていて、その圧力に負けて日替わりで大学に連れていくことになった………
(……………俺の"お父さん"を兼ねた大学生活こんなスタートで大丈夫なのかなぁ………)
そんな不安を抱きながら俺は皆に引きずられ、そんな情けない姿で皆がいる鎮守府の食堂の扉を潜ったのだった…………
感想、評価を楽しみにしています。
次はいつ投稿できるかなぁ………。