へっぽこ冒険者がダンジョンに挑むのは間違っているだろうか   作:不思議のダンジョン

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 感想を書いてくださった方々、お気に入り登録していただいた方々、真にありがとうございました!
 筆不精の為、感想に対し返信ができなかったのですが、毎日仕事の合間に読ませていただきました。



第二話

「さ、服を脱いでこっちのベッドにうつ伏せになってくれ。恩恵を与えるには背中に神聖言語を刻まなくちゃいけないからね。あっ、刻むといっても本当に刻むわけじゃないから痛みとかはないよ、安心してくれ」

 

「うん。分かったよ、ヘスティア」

 

 お互いの自己紹介が終わった後、二人は早速契約を行っていた。ヘスティアとしては異世界転移をしてきたイリーナを気遣い、一晩休んでから明日の朝に行いたかったのだが、イリーナが強硬に反対したのだ。

 曰く、明日から冒険者として動き出すのであれば準備等に時間を割きたい。その為にも今夜のうちに済ませることができることは済ませた方がよい、と。

 もっともらしい意見ではあったため、その場では納得したが、神の恩恵を受けるという未知の体験を前にして期待に胸を膨らませている今の様子を見るに、どうやら本音は別のところにあるようだ。

 苦笑しながらヘスティアは傍らの針に手を伸ばすと、人差し指を突いた。白魚のような指先にぷっくりとした血の玉が浮かぶが、それを気にすることなくイリーナの背中に触れる。瞬間、光輝く文字が彼女の背中に浮かび上がり、刻まれていく。どうやら、神の恩恵の付与は問題なく成功したようである。

 

(ふう……どうやら上手くいったようだね。なにせ、異世界人に神の恩恵を与えるのは前例のないことだったからね、失敗したらどうしようかと思ったよ)

 

 ほっと一息をつくヘスティア。何はともあれ、これで儀式は終了である。あとは浮かび上がったステータスを確認するだけだ。

 

(はてさて、イリーナのステータスはどれくらいなのかな? 本人が言うには結構有名な冒険者だったらしいし、レベル2ぐらいかな? ひょっとしたらレベル3なんてことも……!)

 

わくわくとした気持ちで浮かび上がる神聖言語に目を落とし、ステータスを確認する。

 

 

 

 

――そして、動きが完全に止まった

 

 

 

 

「ヘスティア、どうかしたの?」

 

「はっ! う、ううん! な、なんでもないよ!」

 

訝し気なイリーナの呼び声によってようやく覚醒し、何とか返事をすることはできた。しかし、その視線は背中の文字に釘付けであった。目をこすり、何度も見直すが見間違いなどではなかった。のろのろと緩慢な動きで羊皮紙にステータスを書き写していく。

やがて書き上げられたステータス表はそっとイリーナへと手渡された。そこには震えた文字でこう書かれていた。

 

 

 

イリーナ・フォウリー   Lv.7

 

基礎アビリティ

 

 力……SS   1057

耐久…… S    934

器用…… I     67

敏捷…… E    452

魔力…… G    304

 

発展アビリティ

【怪力】 【勇猛】

 

 

「……これって、すごいの? ヘスティア?」

 

 オラリオの常識をさわり程度に聞いたイリーナだったが、その中には一般的な冒険者のステータスという項目はなかった。一応、大半の冒険者はLv1ということは聞いていたのでまあ、弱いということはないんだろうなあという感想しか抱けなかった。

 

「すごい……? 今、すごいって言ったのかい!?」

 

 がばりとヘスティアは伏せていた顔を勢いよく上げる。その顔は驚き、喜び、混乱、様々な感情によりぐしゃぐしゃに歪み切っていた。思わずのけぞるイリーナにヘスティアは抱き着く。

 

「すごい! すごすぎるよ、イリーナ! 一体君は何者なんだい!? Lv7なんてこのオラリオにだって一人しか存在しないよ! 間違いなく君はこの世界最強クラスの戦士だよ!」

 

「ええっ!?」

 

 驚くイリーナ。当然だ。イリーナとて元の世界では自分が強者に位置するということは分かっていた。だが、それでも自分以上に強い人間がたくさんいることを知っていた。

吸血鬼退治の際に協力してくれたローンダミス、そのローンダミスを一合で破ったリジャール王、そして呪われた島と呼ばれるロードス島の数多の英雄たち。

 無論、いつまでもただの強者に甘んじるつもりはないが最強という言葉は今の自分には早すぎるのではないだろうか。

 そう、疑問を口にするイリーナにヘスティアは引きつった顔で尋ねる。

 

「一体、君のいた世界はどんな世界だったんだい……?」

 

「あれ、ヘスティアはフォーセリアのことが知りたいの?」

 

「え? いや、別にそういうわけじゃあ……いや、せっかくだし聞かせてもらおうかな?フォーセリアのこと、そして君の冒険譚ってやつを」

 

「うん、分かったよ! あのね、始まりはヒース兄さんが……」

 

 喜々としてイリーナは自分の冒険譚を話し始める。ヘスティアはその話一つ、言葉一つ一つに相槌を打ち、時に目を丸くし、時に歓声を上げる。その様にイリーナも調子に乗っていき、口舌の滑りを良くしていく。

 やがて夜空に浮かぶ月が東の空から南の天頂へと高度を上げていっても、二人の話し声が途切れることはなかった。

 

 

 

 

 冒険者の朝は早い。昨日は夜遅くまで話し込んでいたというのに、日が昇ってすぐにイリーナは目を覚ました。

 

「う……んん……! 昨日はちょっとはしゃぎすぎちゃいました……」

 

 あくびをしながら傍らにいるヘスティアを向く。冒険者でもないヘスティアには夜更かしした次の日の早起きは少々難しかったらしく、静かに寝息をたてながら熟睡していた。

 

「昨日は町の案内をするって意気込んでいたのになぁ……」

 

 思わず苦笑しながら、イリーナは傍らの友神を起こさないように気を付けながら体を起こしていく。

 と、そこで肘のあたりに紙が接触し、カサリと軽い音がした。視線を向ければ、昨日の夜にヘスティアが写したイリーナのステータス表だった。

 ヘスティアが驚嘆したそのステータスとLv7という規格外のレベル。だが、あの時イリーナが真っ先に確認したのはその二つではなかった。

 穏やかな瞳でもう一度確認するようにそこを眺める。

 

 

 

魔法

【神聖魔法】

 

 

 

 

 そっけなく書かれていたが、その文字の持つ意味は重大なものだ。

 神聖魔法。神の奇跡の御業を限定的ながら再現するその魔法は当然ながら、冒険者にとって心強いものだ。

 だが、その使い手である信徒にとってそれはただの便利な力などではない。

 神は自らの御業を易々と貸し与えない。信徒の中でも自らの声を聞くことができる特別な者にだけその奇跡は与えられるのだ。そう、信徒にとってその力は神からの期待と信頼の象徴なのだ。故に、その信頼に背けばその奇跡は信徒の元から永久に離れることになる。例えば、背信行為――異教の神々と関係を持つことなどその最たる例であろう。

 あの時、善神とはいえ異教の神と契約をしたことはイリーナにとって非常にリスクの高い行為であった。

 ひょっとしたら見放されてしまい、御声を聞くことすらできなくなるかもしれないと恐怖に震えた。

 だが、それでもあの時イリーナにはヘスティアの手を振り払うという選択肢などなかった。こちらの勝手な都合で契約を断ろうとした非礼に対し、ヘスティアは怒るどころか神でありながら友人になろう、とこちらに気遣いまでしたのだ。その好意を踏みにじることこそファリス神の教えに背くのではないか、イリーナはそう思った。

 

 

 果たして、ファリス神はその意思を理解してくださった。

 

 

 

 

 寝室を出て、階段を上り聖堂へと移動する。昨晩は暗かったためによく分からなかったがひどい有様である。祭壇には埃がべったりとたまり、椅子は荒れ果て、窓には所々に破損が見られた。神職としてこの有様には心を痛めるが、今はするべきことをするべきだ。

 比較的汚れていない場所を探すとイリーナは跪き、至高神への祈りを始めた。

 

「ファリス様……御寛恕を賜り、感謝いたします。そして、お許しください。貴方様を疑ってしまったこの私を……」

 

 朝日がこぼれ始める教会の中、イリーナは跪き祈りを捧げる。途端、傍らに置いてあったステータス表が隙間風にあおられたのであろうか、ふわりと光り輝くステンドグラスの前へと飛ばされる。

 

 日光に照らされ、【神聖魔法】と書かれた文字が黒く輝く。それはまるで至高神が自らの信徒を祝福するかの様であった。

 

 

 

 







 イリーナのレベルですがLv7ということにさせてもらいました。この数字に疑問を持たれる方もおられると思いますが、ここでは単純に冒険者レベル=Lvということにさせてもらいました。ちなみにここのイリーナは原作終了後、ファイターレベルが7に上がった後にやってきたという設定です。
 それでは皆さんのちょっとした楽しみになれたことを祈って筆を置かせてもらいます。




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