へっぽこ冒険者がダンジョンに挑むのは間違っているだろうか   作:不思議のダンジョン

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 初投稿です。懐かしい作品を目にする機会があり、懐かしさから徹夜して書き上げてしまいました。古い作品の為、設定をほとんど忘れている上に、ダンまちはアニメを一回見ただけであり、両作品の設定に矛盾等あるかもしれませんがどうか温かい目で見ていただけたら幸いです。






第一話

 

 今日も迷宮都市オラリオに夜の帳が訪れる。

 

 都市の中心から八方向へと伸びるメインストリートではそれぞれの店先で今日一日の最後のもうひと踏ん張りと呼び子たちが大声を通行者へと投げかけている。あたりに漂う匂いは多種多様な料理のそれが混ざり込んだ得も言われぬ、しかし暴力的なまでに食欲を湧きあがらせる。

 典型的な活気のある大都市の日暮れの風景。しかし、この町においてはこれでもまだ前哨戦。本格的な賑わいではないのだ。

 そして、彼らが戻ってきた。

 町の中心にそびえ立つ摩天楼。その一階にある大広間にある地下への入り口、10m程の大きさの入り口から大量の人影があふれ出す。

 

「あー、今日も疲れたなあ……食事すんのもめんどくせえよ」

 

「うう……あんな所にゴブリンの集団がいるなんて聞いてないよぉ……どうしよう、ポーション代も考えたら赤字だわ……」

 

「よしっ! 今日は俺の奢りだ! 青い小鳥亭で打ち上げだ!」

 

 思い思いの武器で武装した彼らは冒険者。この迷宮都市オラリオの名物、ダンジョンを生活の場とする無頼漢たちだ。

 

 世界で唯一ダンジョンを有するこの町はその恩恵である魔石産業により莫大な利益を上げており、その発展具合から名実ともに世界の中心である。

 

 冒険者たちの帰還により、ただでさえ活気づいていたメインストリートが熱狂的な空気に包まれる。当然の話だ、莫大な報酬を得ながらも毎日が命がけの彼らは基本的に貯金というものをしない。宵越しの銭など要らぬとばかりに散財していく彼らは経営者にとって格好の上客である。店主たちは我先とばかりに冒険者を呼び込み、冒険者は一時の興奮の為に稼いだ金を浪費する。飛び交う快哉、怒号、万歳。そう、ここはまさに世界の中心。世界で一番エネルギーが渦巻く魔都なのだ。

 

……そして、それはつまりは世界で一番貧富の差が激しいということでもある。

 

「うう……あんなに頑張ったのにこれっぽっちだなんて……世の中間違ってるよ」

 

 そんな貧乏人の……いや、貧乏神の一柱であるヘスティアは今日一日の稼ぎに肩を落としていた。

 本来であるならば神として人々に敬われる彼女がどうして日雇い労働をし、あまつさえ薄給に嘆いているのか? 端的に言えば自業自得である。

 下界に降りてきてからというもの、友人であるヘファイストスに寄生して毎日ゴロゴロと過ごし、果てには食事の献立にまで口をはさみ始める始末だ。

そして遂にヘファイストスはキレた。

 

――その、甘ったれた根性を叩き直すまで顔を見せるな!――

 

 自身の真紅の髪と同じぐらいに紅潮させながらたたき出した時の顔はまさに鍛冶と炎の神と言えよう。もっとも、最低限の住居と職場は紹介するあたり、彼女の甘さがうかがえるのだが。

 

「これじゃあ、今日もじゃが丸君しか食べられないよ……っきゃ!」

 

 ずっと手元ばかり見ていたのが悪かったのだろう。つまずき、盛大に転ぶ彼女の手からはなけなしのお金が飛び出す。貧相な音を立てて、人でごった返す大通りに小銭がばらまかれる。

 

「あっ、あああああ! すみません! すみません!」

 

 大声で周囲の人に謝りながら、四つん這いになって小銭を拾い集める。すりむいた膝小僧を地面に押し付けるとひりひりと痛むがそんなことを気にしてはいられない。慌てて拾い集めていくが、この人ごみの中である。到底全てを拾うことなどできない。結局、明らかに迷惑そうにしている周囲の人間たちの視線に負け、すごすごと裏通りへと逃げ込む。その手に握られたお金は明らかに先ほどよりも目減りしており、じゃが丸君すら買えるか怪しいものであった。

 

「う、ううううっ……!」

 

 じわり、と視界がゆがんだ。悲しかった。夕飯が食べられなくなったからではない。あまりに自分が惨めだったからだ。

 神、それも家庭をつかさどる神でありながらヘスティアは独りぼっちだった。眷属を探そうと躍起になって勧誘したが、実績も団員もいない彼女のファミリアに入ろうとする人間は皆無であった。友人には見限られ、家族もいない孤独の中で糊口をしのぐ毎日。孤児たちの守り神であるはずなのにまるで自分こそが孤児ではないか。

 

「うう……うっ! う、ううううう……!」

 

 半ベソをかきながら住処である廃教会へとたどり着く。色あせた扉を前にし、今日もこの寂しい場所で一人寂しく夜を過ごすかと思うと涙がこぼれ落ちそうになる。だが、このまま外にいては余計に惨めになるだけである。目元をゴシゴシとふくと教会の扉を開けた。

 

「へあ?」

 

「ふあ?」

 

 教会に入ったところで間の抜けた声が二つ。片方はヘスティアのもので、もう一つは祭壇でたたずむ少女のものだ。

 歳は十代中ごろだろうか。背丈は小柄であり、体型も女性らしさを感じさせない。顔つきは美しいというよりも可愛らしいという言葉が合い、口元の八重歯と闇夜であっても力強く輝く瞳が印象的だった。

 

「えーと、君は?」

 

「あっ!? ち、違うんですよ!? 私、泥棒とかそういうんじゃなくて! ただ、教会があったから思わず入ってしまったというだけで……!」

 

 大慌てで手を振りながら弁明を始める少女。普通は慌てれば慌てるほどに怪しく見えるものだが、不思議と彼女の姿からはそういったものを感じない。それは当然ヘスティアが神であるということも一因なのだろうが、それ以上に目の前の彼女が見るだけで善良と分かってしまうほどに根が真っすぐな為であろう。思わずクスリ、と笑ってしまう。

 

「大丈夫、僕はこれでも神様だよ? 君が嘘を言ってないなんてことはお見通しさ」

 

「へ? 神、さま?」

 

 ぽかん、とつぶやく少女はまるで狐につままれたようにヘスティアの顔を眺める。そう、まるでありえないものを見たかのように。

 

「えっと……それは、どういう意味ですか?」

 

「ん? どういう意味も何もそのまんまの意味だけど? 君もこのオラリアに住んでいるのならば一回ぐらい神様を見たことぐらいあるだろう?」

 

「えっ!? え、え、ええええええ!? な、無い、無いですよ!? そんな恐れ多いこと! 御声を聞いたことはありますけど、そんなこと、とても、とても……」

 

「ん?」

 

 この時点でヘスティアは何かおかしいということに気が付いた。先ほど言った通り神であるヘスティアには嘘かどうかはすぐに分かる。そして、すぐに分かった彼女が嘘などついていないことに。しかし、そうなると彼女は生まれてから神を見たことがないということになる。このオラリオの町で、だ。

 訝しげに少女を見るヘスティア。その視線を少女は勘違いしたのか、先ほどよりも慌て始める。

 

「違うんです! 私は怪しいものじゃありません! そ、その……本当に訳が分からないんです。何が起こったのか、ここがどういう場所なのか。私たちはただ、古代文明の遺跡を探索していただけなんです」

 

「ふむ……どうやら、込み入った事情があるようだね。うん、分かった。是非、君の事情を僕に聞かせて? もしかしたら、力になれるかもしれない」

 

「は、はい! ええっと……始まりは魔法学院からの依頼から始まったんです」

 

 

 

 

 

「ふーむ、古代魔法文明の遺跡を探索中に突如として鎮座していた装置の発動に巻き込まれたら、どういう訳かここにいた、と」

 

「は、はい。おかげで仲間とは離れ離れに……」

 

「そっか、それはつらかったね……」

 

 あれから一時間、ヘスティアは目の前の少女と互いの詳しい事情を交換することに成功していた。少女の話は正直、神であるヘスティアをもってしてもにわかに信じられるものではなく、下界の子供たちの嘘を見破れるという力がなければ一笑に付すものであった。

 なんと、この少女は異世界からやってきたようなのだ。無論本人がそう言ったわけではない。しかし、話を聞いたヘスティアとしてはそう結論づける他はなかった。古代魔法文明の興隆、増長する魔術師たちとそれによって引き起こされた魔法文明の崩壊。およそ、この世界の歴史からはかけ離れた歴史と聞いたこともない地名。彼女が狂人でもない限りこの結論は間違っていないだろう、とヘスティアは踏んでいる。

 そして、ヘスティアからこの世界の常識を教えられた少女も同じ結論に至ったのであろう、若干青い顔でうめく。

 

「うう、まさかこんなことになるだなんて……」

 

「うん、本当だよね。こんなひどい話、そうそうないと思うよ」

 

 自分の窮状を棚に上げてヘスティアは少女に同情した。一切の寄る辺を失うなどこの歳の少女にとってあまりにむごい仕打ちである。ヘスティアはやり場のない怒りがこみあげてくる。

 

「それで、どうするつもりなんだい?」

 

「え?」

 

「その……こんなことを言うのは情けないんだけど……僕は眷属の一人も見つけられてなくてね……満足に君の世話をすることができないんだ」

 

「お世話だなんて! そんな! 会ったばかりの人……じゃない神様にそんなことさせられません!」

 

「いや、君の話を聞かされたらほっておくことなんてできないよ! 見ててよ、これでも僕は神様なんだぜ! 不幸な少女の一人や二人ぐらい……!」

 

「大丈夫です! 私、冒険者をやってましたから。自分の食い扶持ぐらい自分で稼げます!」

 

「ん? そういえば、そんな事を言っていたね」

 

「はい! これでも、結構有名な冒険者でした!」

 

「うーん、そうは言ってもねえ……」

 

 自信満々に言う少女の姿にヘスティアはうなる。少女の体格はどう見ても荒事に向いているとは思えない。何より、ここオラリオのモンスターは特別なのだ。外の魔物と比べ、圧倒的な強さを持ち、同じ種類でも全く別次元の強さを誇っているのだ。そんなものに目の前の少女が打ち勝てるとは……

 と、そこまで考えたところでヘスティアは気が付いた。

 

「あ、そうか、契約すればいいんじゃないか!」

 

「へ? 契約って眷属のことですか?」

 

 そう、この町の冒険者は神と契約し、眷属となることで魔物と戦う力を得ている。目の前の少女もその恩恵にあずかれば、どうにか対抗できるかもしれない。それに……まるで少女の窮状につけ込むようで気が引けるが、自分にも家族ができるのだ。お互いにとって有益な提案といえるだろう。

 自分の名案にうんうんとうなずくヘスティアだが、少女の顔は暗かった。

 

「あの……ヘスティア様……?」

 

「うん、なんだい?」

 

「その……申し上げにくいのですが……できれば遠慮させてもらいたいのですが……」

 

「ええ!? なんだって!?」

 

 まさか、断れるとは思っておらずヘスティアは大声を上げる。と同時に引っ込んだはずの涙があふれてくる。まさか、寄る辺をなくした少女にまで拒否されるとは思わなかった。やっぱり自分はダメなのか? そんなに頼りないのか? 神様なんて向いていないのだろうか?

 突如として涙ぐむヘスティアを前に少女は慌てる。

 

「ああ! 違うんです! 別にヘスティア様が嫌だとかそういうんじゃないです!」

 

「ひっぐ……だ、だって……えっぐ……い、今……う、うううう……僕の眷属なんか……い、嫌だって……嫌だって……!」

 

「わわ、私は既に信仰している神様がおりましてね! その……やっぱり信者としては他の神様の眷属になるというのはまずいかな……と思っただけで!」

 

「ほ、本当に……?」

 

「はい、もちろんです!」

 

 そっか、とつぶやき。鼻をかむ。未だ目は赤く、鼻声だが気を取り直して少女に向かい合う。

 

「でもね、やっぱり恩恵は必要だよ。ここのモンスターは特別なんだ。強くなっておくに越したことはないよ」

 

「ううっ……! でも……」

 

 未だに難色を示す少女に何とか説得を試みるヘスティア。そうするのは決して自分の眷属が欲しいからではない、純粋に少女の身を案じているからだ。そして、それがわかるからこそ少女は強く断れないでいた。

それじゃあ、とヘスティアは告げる。

 

「眷属じゃなくて、友達ってことにしてくれないかな」

 

「へ? 友達、ですか?」

 

「うん、友達。眷属じゃなくて、友達になるんなら君のところの神様を裏切ったことにならないし、友達なら贈り物を贈ったって変じゃないだろう?」

 

 思いもよらぬ提案に自失する少女を前に居心地悪そうにヘスティアは身をよじる。自分でも詭弁だということは分かっている。

 

「そ、その……それに僕も正直、眷属だなんてまるで下界の子供たちを部下みたいに扱うのは好きじゃなくて、できれば家族とか、そんな感じの付き合いのほうがいいというか……」

 

「くすっ」

 

「ムッ! 何がおかしいんだい!?」

 

「いや、まさか神様とお友達になれるなんて夢にも思えなかったから。えへへ、みんなに会ったら自慢できます」

 

「友達になれるって……えっ? それじゃあ……!」

 

「はい! 私、ヘスティア様の友達になります!」

 

 ヘスティアはその瞬間、頭が真っ白になった。霞がかかったかのように頭が働かない。自分は今、何を言われたのか分からなかった。だが、その言葉の意味が徐々に頭に染み込むにつれ口元が緩み、そして――

 

「や、やったああああああ!」

 

 快哉を上げた。遂に、遂に自分に眷属――いや、家族ができたのだ。これまでの苦労が一気に吹き飛んでしまった。

 子供の様にはしゃぐヘスティアを見て少女もニコニコと八重歯を光らせ、祝福する。

 

「よかったですね、ヘスティア様!」

 

「うん、ありがとう! それから、様なんてつけなくていいよ。僕たちは友達なんだから! 敬語もやめてくれ」

 

「うん、分かったよ、ヘスティア!」

 

「へへ……」

 

 全く今日は素晴らしい日だ。まさか、自分にも家族ができるなんて。

これから先がどうなるかなんてヘスティアには分からない。何せ、相手は異世界の住人なのだ楽な道ではないのは確かだ。しかし、二人で力を合わせればどんなことだってできるに違いない。そう、自分はこの少女と……

 

「あ……」

 

「どうした? ヘスティア?」

 

「僕、君の名前を聞いていない」

 

「あ……そういえば言ってなかった」

 

「…………」

 

「…………」

 

 見つめあう二人。数瞬の後

 

「「プッ――」」

 

 お腹を抱えて笑いあう。名前を知らずに友達になるなんて見たことも聞いたこともなかった。どうやらお互い相当抜けているようであった。

 やがて笑いの発作が止まり、二人は呼吸を整える。そしてヘスティアは向かい合う少女に手を出し自己紹介を始めた。

 

「僕の名前はヘスティア。よろしくね、異世界の冒険者さん」

 

「よろしくお願いするね! ヘスティア! 私の名前は……」

 

 そして、少女はその手を握り、この世界で初めての名乗りを上げた。

 

 

 

 

 

「私の名前はイリーナ! 至高神ファリスの神官戦士イリーナ・フォウリーです!」

 

 

 

 

 

 それは、神々の専横がまかり通るオラリオに、秩序の至高神ファリスの信徒が舞い降りた瞬間であった。

 

 

 

 




あとがき


 題名で分かった方も多いと思いますが、へっぽこーずとのクロスオーバーです。続きを書くかはちょっと分からないです。思い付きで書いただけですので。それでは皆さんのちょっとした楽しみになれたことを祈って筆を置かせてもらいます。




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