ひんやりとしてきて秋らしくなってきましたね。
皆さま風邪など引かないよう気をつけてください。
てなわけで、どうぞ
「ふぁあ」
ルイーズは、寮の屋上で欠伸をしながら一人ビールを飲んでいた。
部屋にロクに帰らないルイーズは、ずっとここで時間を潰していたのだ。
もちろん立ち入り禁止である。
鍵だってかかっているはずなのだが、毎度毎度ピッキングしてルイーズは、侵入していた。
「今日は、満月だからなぁ………星もロクに見えないねぇ…………」
つまらなそうに呟くとドアノブがガチャリと回る。
「?」
屋上に出る時ルイーズは、必ず鍵をかけている。
だから扉は開かない。
今までも何回か試みるものは、いた。
しかし、鍵がかかっていると分かると諦めるものが殆どだった。
「おいおい、マジかい」
ゆっくりとドアノブの鍵が回り始めた。
「寮監かねぇ………こりゃあ、怒られるの覚悟しなきゃ……」
ため息を吐いてドアが開くのを待つ。
鍵は、カチリという音を立てて回った。
そして、直ぐに扉が開き、人が屋上に踏み込んだ。
「やっぱりここにいましたね、ルイーズ教官」
ルイーズは、目をパチクリさせる。
「何で君がここにいるんだい?ベイカー」
松葉杖をついたベイカーは、誇らしげに胸を張っていた。
◇◇◇◇
ベイカーは、屋上の柵に体を預けて座り込んでいた。
因みにルイーズは、ベイカーの側で屋上の柵にもたれかかりながら立っている。
「取り敢えず教官がいそうな場所を絞り込んであとはしらみ潰しに探してたんですよ」
「うん」
「そしたら、どこにもいなくて後はどこだろうと考えたんですよ」
「うん」
「そしたらまだ立ち入り禁止区域を探してないと思って、それで更に候補を絞り込んだんですよ」
「それで?」
「それでもまだ、一つに絞りきれなくて、それで一つことわざを思い出したんですよ」
「どんな?」
「『馬鹿となんちゃらは高いところが好き』って奴です」
「なんで煙のところを隠してるんだい?喧嘩売ってる?」
「それで立ち入り禁止で高いところって
選択肢を絞って絞ってここを見つけたようだ。
若干得意げなベイカーにルイーズは、頭痛を堪えるように額に手を置く。
「君、怪我人のはずだけどそれでもわざわざここに来たのかい?」
「えぇ。まあ。ちょっと大変でしたけど何とかなりましたよ」
ルイーズは、もう一度ため息を吐く。
「君ねぇ………まあ、いいや。それで、私に何の用だい?私の天体観測兼晩酌の邪魔したんだからそれなりの理由なんだろうねぇ?」
眠そうな目でジトっとした目をベイカーに向ける。
ベイカーは、ポケットから先ほどの記事を渡す。
ルイーズは、記事を見た瞬間今日何度目か分からないため息を吐いた。
「………それで、何が聞きたいんだい?」
「教官、その記事のことって本当のことなんですか?」
ど直球の質問にルイーズは、こめかみが引きつる。
「……君、少しは駆け引きってのをしたまえよ」
「教官相手に駆け引きなんて無理です。頭が良くて性格の悪い馬鹿なんですから」
「君、ついに言ったね?今までスルーしてたけど、これは聞き捨てならないよ」
ジロリと睨むルイーズにベイカーは、若干、距離を開けながら尋ねる。
「いいから!どっちなんですか!?これは、教官のせいで引き起こされたことなんですか?」
ベイカーの質問にルイーズは、少し考える。
ベイカーは、唾をゴクリと飲み込む。
「そうだよ」
その短い言葉にベイカーは、息を飲む。
「本当に?」
確認の意味込めてベイカーが尋ねるとルイーズは、ニヤリと笑う。
「嘘だよ」
さっきと全く反対のことを言った。
ベイカーは、ポカンとした後、キッとルイーズを睨みつける。
「どっちなんですか!?」
「さあ、どっちでしょう?」
ルイーズは、くすくすと笑いながらそう返す。
「ふざけないでください。俺はそれを聞きに来たんです」
そんなルイーズにベイカーは、イラつきながら問い詰める。
ルイーズはくすくす笑いを引っ込めると肩をすくめた。
「逆に聞くけど、君はどんな答えなら納得するんだい?」
そう言って手すりから体を離しベイカーの前に立つ。
目の前に立つルイーズの瞳には感情がない。
思わずベイカーの背筋が凍える。
感情のない瞳をここまで怖いと思ったことはない。
だが、ここで怯んでは何のためにルイーズを探し出したか分からない。
「俺は、本当の事が知りたいです。嘘偽りのない本当の事が」
ベイカーの真っ直ぐな瞳を見てくくくと悪役のように笑う。
「それは諦めたまえ。何せ……」
ベイカーは、人差し指を口元に持っていく。
「嘘を吐くのが女というものなのだから」
ルイーズは、そう言ってウィンクをする。
その言葉がどういう意味か分からないほどベイカーは、馬鹿ではない。
ベイカーは、ぐっと言葉に詰まるがそれでも何とか口を開く。
「話す気はないってことですか?」
「当然だろう?」
「でも……」
「君にとって私は何だい?」
なおも食い下がるベイカーにルイーズが言葉を投げかける。
「教官ですけど………」
ベイカーの問いにルイーズは、満足そうに頷く。
「そう。私は君の教官だ。友達や恋人や仲間とは違うのだからそれ以上踏み込む話じゃあないよ」
これ以上ルイーズと言う人間に踏み込むことは許さないと明確に線を引いてきた。
ここまで言われてしまえばベイカーも引き下がるしかない。
下を向いて押し黙るベイカーにルイーズは、呆れたように笑う。
「まあ、これに懲りたら乙女の秘密なんて暴こうなんて思わないことだねぇ」
さて、と言いながらルイーズは、手を叩いて話を変える。
「私の話はこの辺でいいだろう?今度は君の話だ」
「俺の?」
「そう、君の話。例えば、希望部隊の話とか」
ルイーズは、そう言って話を続ける。
「希望部隊、君は決めたのかい?」
「いや……まだです」
ベイカーの返答にルイーズは、大きくため息を吐く。
「そう言うのは早く決めた方がいいよ。君みたいな奴が、そう言う進路選択でギリギリになって適当な進路を書いて理系の学校受けるのに必要な科目を取り損なうとかやるんだよ」
「なんか妙にリアルなんでやめてください」
「そして思うんだよ。『あの時もっと真剣に考えていれば……もう今更間に合わない、どうしよう………』みたいな?」
「やめてくださいって言いましたよね!?」
ベイカーのツッコミにルイーズは、からからと笑っている。
「まあ、君が将来、どんな仕事をしたいかで選ぶのが一番妥当だよ。何か目標があって軍に入ったんだろう?」
「強くなりたくて入りました」
「君ってそればっかりだよね」
即答したベイカーにルイーズは、大きくため息吐く。
「まあ……それなら、憲兵系の部隊はやめた方がいいかもしれないねぇ……本格的な軍属のほうがいいかも」
ルイーズは、ふーむと考え込む。
「私としてはクイーンのところを勧めようかなって思ってたんだけど………彼女、憲兵系だからなぁ……」
「クイーン教官ですか?」
「うん。あの子ポンコツ美人だけど、結構高スペックなんだよ」
「いや、ポンコツ美人の情報いらないでしょ」
ベイカーのツッコミを無視してルイーズは、続ける。
「別に唯一の友人だから贔屓してるわけじゃあなくてね、あの子かなり頭もいいし、身長も高い上にちゃんと鍛えてるから戦闘力も申し分ないんだよ」
「今悲しいワードが聞こえてきたんですけど、唯一の友人って言いました?」
「君に言われたくないよ。君がエラリィ以外と食事してるとこ見たことないんだけど」
「失礼なこと言わないでください。食事するほど仲のいい友人がエラリィしかいないだけです。適当に話す程度の友人ならかなりいますよ」
「具体的に名前は?」
「さあ?」
詫びれもせずに首を傾げるベイカーにルイーズは、頭を押さえる。
「やっぱ、君クイーンの隊を希望したまえよ。その友達の友達だらけみたいな淡白な人間関係をどうにかする方法含めて学んできたまえ」
はぁ、とため息を吐く。
何がタチが悪いと言えばベイカーは、それを問題と思っていないところだ。
「………まあ、今週はしっかり悩みたまえ」
ここで答えは出ないと踏んだルイーズは、むんと伸びをしながら話を打ち切る。
「教官、一ついいですか?」
「えぇ〜………やだけど」
「隊の希望が一人もいなかった、教官ってどうなるんですか?」
「わお。私の意見ガン無視だねぇ……」
ルイーズは、そう言って考え込む。
「私もよく知らないけど、多分人数調整に使われると思うよ」
ルイーズの答えを聞いたベイカーは、ふむと、頷く。
「ということは、教官でも何とか隊長になれるってことですね」
「君さぁ、私になら何言っても良いわけじゃあないんだよ」
ルイーズの言葉を無視してベイカーは、松葉杖を使って立ち上がる。
「なら、安心しました。それだけが心配だったんです」
ルイーズは、眠そうな目でそんなベイカーを見送ろうとして、ふと思い出す。
「あぁ、そうだ。松葉杖で階段降りるのかなり大変だよ」
ベイカーは、その言葉を聞きながら階段で立ち尽くしていた。
普段ならどうってことないこの場所が、今では難攻不落のダンジョンに見えてしょうがない。
しかし、ここを降りねば部屋には帰れない。
「まあ、今回は私が送ってあげるよ」
ルイーズは、そういって残りのビールを捨てるとベイカーをおぶった。
エグゼイドロスを克服するべく、ブルーレイを買いました。
放映されていないシーンがちょいちょいあって楽しいです
では、また外伝7で( ´ ▽ ` )ノ