やっとストックがたまってきました。
不定期で申し訳ないです。
新ライダーも始まりましたね。
久々になんの文句もなくカッコいいライダーが来ましたねは。
余りにも文句がなさ過ぎて、物足りないと思ってしまう私は、もう末期かもしれないです…………
てなわけで、どうぞ
「人にものを教えていると逆に教わっている時ってあるよね」
「なんで今その話をしたんですか?」
見事に足を挫き、歩けなくなったベイカーは、ルイーズに背負われていた。
「いや、私も調子に乗らないように気をつけようと思って」
「…………今の状態だったらチョークスリーパー決められますからね。言動に気を付けた方がいいですよ」
「私の意識を飛ばすのと背中から落ちるのとどっちが早いだろうねぇ?」
「…………尻からじゃなくて?」
「投げ技だって使えるよ、私」
「調子に乗ってすいませんでした」
背中から地面になんて叩きつけられたくない。
大人しくなったベイカーを背負いながら、ルイーズは、医務室へと向かっていた。
「にしても、君、随分身体がっしりしてきたね」
ルイーズは背負いながらそんなことを言った。
「言葉に気をつけてくださいね。男女逆だったらセクハラですよ」
「逆じゃないから別にいいだろう?」
更に言葉を続ける。
「だいたい、なんで分かるんですか?俺の身体いつ触ったんですか?」
「君が、出会い頭に喧嘩売った時」
「あの………人の黒歴史掘り返さないでください」
アレだけ偉そうな口を聞いておいて自分は強いんだぜアピールをしておいて、真っ先に負けたのだ。
どっかの黒猫と違うのは、自分が完全に勝てる気でいたことだ。
ベイカーは、観念したように言葉を続ける。
「そりゃあ、あのメニューを守ってればこうなりますよ」
「あのメニュー?」
「忘れたんですか?教官が俺をぶっ飛ばした時に渡したアレですよ」
確かにルイーズは、あの時ベイカーに練習メニューを渡している。
ルイーズは、少し驚いた顔をしてベイカーの方を振り返る。
「毎日こなしていたのかい?アレを」
「えぇ、まあ………ていうか、なんですか、その反応は!さては、あのメニュー、何か悪ふざけでも入っているんじゃ………」
「まさか。アレは、私が真剣に考えたメニューだよ」
ルイーズは、そういうとベイカーを背負い直し、自分の背中にいるベイカーを確認する。
「ふむ。胸板もしっかりしてきたし、本当にちゃんとこなしてるんだねぇ」
「ねぇ、やっぱりそれ、セクハラに近いと思うんですけど………さっきも言いましたけど男女逆でやったら、一発アウトですよ」
「はいはい、そだね」
頬を引きつらせながら言うベイカーにルイーズは、適当に返事をすると医務室の扉を足を使ってあける。
「お邪魔しますよ〜」
扉を開けるとそこには、初老の婦人がいた。
ルイーズを見ると目を丸くする。
「あら?ルイーズじゃない。どうしたの?」
そう言いながらルイーズに負ぶわれているベイカーを見る。
「怪我?」
「ええ、まあ。とりあえずエマ先生のところに連れてきました」
ルイーズは、そう言いながら椅子にベイカーを降ろす。
エマは、ベイカーの足を見る。
「なんでこうなったの?」
「ベイカーが訓練で調子に乗って走って足くじきました」
「走って足くじいただけでいいでしょう?なんで調子に乗ってっていうんですか」
決まり悪そうなベイカーに構わずルイーズは、エマに尋ねる。
「それで、どうです?骨折ってことはないと思うんですけど……」
エマは、ベイカーの足を見ながら考え込む。
「そうね。ただの捻挫よ。まあ、一週間は、安静が必要ね。その間は、走り込みとか禁止」
そう言いながら包帯でベイカーの足を固定する。
「後は……」
松葉杖をベイカーに渡す。
「まあ、今日明日ぐらいはそれで過ごしたほうがいいわ」
「わかりました。その、ありがとうございます」
ベイカーは、松葉杖を受け取るとそれを使って立ち上がる。
「また、おんぶしたあげてもいいんだよ」
意地の悪い笑みを浮かべるルイーズにベイカーは、頬を引きつらせる。
「遠慮しときます」
ルイーズは、カラカラと笑いながら医務室を後にする。
ベイカーもそれに続いた。
廊下に出ると、ルイーズは、伸びをする。
「さて、私は、事務室に行ってくるよ。君の怪我を報告しに行かないといけないしね」
「なんかすいません」
ルイーズの言葉にベイカーは、気まずそうに目をそらす。
ルイーズは、大きくため息を吐く。
「なんかじゃないよ。始末書いくつ書くと思ってるんだい」
「いくつなんですか?」
「一枚。過去の例文適当に書き換えないといけないんだよねぇ……あぁ、面倒臭い」
「あ、やっぱり謝るの取り消してもいいですか」
「や〜だ〜よ〜」
ルイーズは、妙に間延びした言葉を吐きながらベイカーの前から姿を消した。
「まあ、俺が悪いんだけど………」
ベイカーは、松葉杖をつきながら食堂を目指した。
もうすっかり夕食の時間だ。
◇◇◇◇
「いただきます」
ベイカーは、うどんを一人で食べていた。
いつも一緒に食べるエラリィの姿が見つからない。
どうやらエラリィは、先に食べて帰ったようだ。
(ぜったい部屋に戻ったら馬鹿にされるんだろうな……)
ため息を吐きながらうどんすすり続ける。
「美味しい………」
一人、そんな感想を漏らすとベイカーの前に突然、一人の男が座った。
「ここいいかな?」
「別に構いませんよ」
(座ってから聞くことじゃないよな……)
若干呆れながらもベイカーは、許可を出す。
「それで、夕飯も食べずに何のようです?」
「そう警戒しないでよ。簡単な勧誘なんだから」
「勧誘?」
うどんを口に運ぶのを止める気配も見せずベイカーは、聞き返す。
「君たちのところに部隊の希望調査が来ただろ?」
「えぇ」
ベイカーは、そう返しながらひとつの結論にたどり着く。
「あぁ。あなたも教官で隊長候補なんですね」
「そういうこと。希望者は多いに越したことがないからね。だから、こうして勧誘してるわけだ。ぜひ、セーヌ隊にと思ってね」
「なるほど〜」
希望は、今週中。
ベイカーは、うどんをすすりながら少し考える。
まだ迷っている身としては、ここで安易にいいですよとは言いづらい。
「もしかして、ルイーズのところに行こうなんて考えてる?」
「へ?」
思いもしない発言に初めてうどんをすするのを止めた。
「図星か……」
「いや、そんなこと一言も言ってな」
「悪いことは言わない止めておいたほうがいい」
(聞けよ!!)
勧誘しに来てるくせにこちらの話を一切聞く気のない教官にベイカーは、心の中で突っ込む。
「彼女は、元々技師なんだ」
「え?」
思いもしないルイーズの経歴にベイカーは、間抜けな声を出した。
「そんな奴が現場の指揮をとる隊なんて、ロクなものじゃない。これだけは保障する」
「ちょっと待ってください!!」
このままでは、こちらの話を聞いてくれないと判断したベイカーは、語気強める。
「なんで技師の人が現場の教官の担当になったんですか?」
ベイカーの質問に目の前の男は僅かに笑った。
その笑みを直ぐに引っ込める。
だが、ベイカーは見逃さなかった。
(こいつ、俺が聞き返すこと分かってたな!!)
「そんなの技師に彼女の居場所がなくなったからさ」
「どういう意味です?」
「彼女はね、功を焦って安全性が確立させていない実験をおこなったんだ」
「…………!」
「幸い死傷者は出なかったけど、かなりの重傷者を出したはずだよ。噂だと足だか腕だかが吹き飛んだ人もいたらしい」
ベイカーは、押し黙る。
「こうして技師としての立場を失った彼女は、まあ、それ以外もそこそこ優秀だったから上層部がこちらに移動させたんだ」
目の前から語られるルイーズの過去にベイカーは、どう反応すればいいか自分でも分からなくなっていた。
「普通、そんな事故を起こしたら辞表出すのが礼儀だと思うけどね。上層部のコネを使ってこんなところに収まるなんて、どうかしてるよ」
確かにお世辞にも尊敬出来るとは言いづらい人だ。
自分との関わりだって恐ろしく浅い。
だが、それでも動揺せずにはいられなかった。
「でも、上層部にだってまともな人はいる。彼女の出世は阻止するだろうさ」
目の前の男は、そこまで言うと身を乗り出す。
「出世の道のない隊長の元には、いないほうがいいと思うよ」
言葉が出ないベイカーを見てセーヌは、更に言葉を続けようとする。
「ネガティブキャンペーンは、感心しないですよ。セーヌ」
セーヌの言葉をクイーンがさえぎった。
「クイーン……教官?」
「クイーンは、取ってくださいと言ったはずです」
クイーンは、嫌そうに顔をしかめながらそう返すとベイカーの隣に座る。
「勧誘だったら、自分のアピールポイントを話すべきですよ」
クイーンの言葉にセーヌは、鼻で笑う。
「本当のことを言って何が悪い?」
「性格」
小馬鹿にしたようなセーヌの言葉をクイーンは、一言で返す。
間髪入れずに告げられた宣告にセーヌは、返す言葉もない。
「ネガティブキャンペーンなんてやればやるほど、自分には語るほどの魅力がないと言っているのと同じですよ」
クイーンは、そう言うと心底馬鹿にした笑みを浮かべる。
「そんなセーヌに隊長は、無理ですね。出世もなさそうです」
ルイーズに泣きついていた様子からは、想像も出来ない程ふてぶてしい。
口で負かされたセーヌは、ジロリとクイーンを睨みつける。
「調子にのんなよ。テメーがルイーズ庇ったって言いふらせばテメーの立場だって危ういぜ。あんな女を庇ったなんて評判が広がればテメーのところにだって入隊希望者が来るはずがない」
今までの丁寧な口調は、どこへやら。
最早完全にゴロツキだ。
たちの悪いことに脅し文句は、小声で周りには聞こえない。
セーヌは、にやにやと笑いながら向かいに座るクイーンに詰め寄る。
「さっきの無礼な発言を謝」
「ネガティブキャンペーンに引っかかるゴミなんて私の隊にはいらないです」
セーヌの発言を最後まで聞くことなくクイーンは、言い放った。
「私にその手の脅しは通用しないです。分かったら早く私の視界から早く消えて欲しいですね」
「テメ、ナメたこと」
「聞こえなかったんですか?」
平坦な声でセーヌに最後まで言わせない。
「分からなかったんですか?」
クイーンの目も声もぞっとするほど冷たかった。
自分に向けられたセリフでもないのにベイカーの背筋が凍りつく。
「もう一度聞きたいんですか?」
蔑んだ目でクイーンは、セーヌを見る。
その迫力にセーヌは、押し黙ると逃げるように食堂を後にした。
「やれやれ。啖呵切った割には情けないですね」
クイーンは、そう言ってうどんをすすり始めた。
そんなクイーンにベイカーは、少し迷ってから声をかけた。
「あの、教官」
「何ですか?」
「その………ありがとうございました。正直混乱してしまって」
ベイカーのお礼にクイーンは、きょとんとした顔をしている。
ベイカーは、決まり悪そうに笑う。
「何ででしょうね。別にルイーズ教官の信頼してるわけでもないし、尊敬してるわけでもないのにあんな話聞いたら何だか訳分からなくなっちゃって」
「まあ、身近な人のそんな話を聞いちゃえばそうなるのが当たり前ですよ」
クイーンは、そう言いながらうどんの汁をすする。
「嫌いな人でも鬱陶しい人でも身近な人ってのは、そんなものです」
ベイカーは、心底嫌そうな顔をする。
「どうすればいいんでしょね」
「そういう時は、目の前のことから片付けるといいですよ」
そう言ってベイカーのうどんを箸で差す。
「例えば、汁吸ってぶよぶよになったうどんを片付けるとかです」
クイーンに言われてベイカーは、目の前のうどんを見る。
そこには、麺が器の大部分を占める無残なものがあった。
「あー…………」
ベイカーは、その光景を見ると大きくため息を吐いて肩を落とした。
そして、もそもそと食べ始めた。
さてさて、ではまた、外伝5で( ´ ▽ ` )ノ