てなわけで、外伝1になります。
本編1人と1匹をある程度読み進めていただけるとより、楽しめると思います。
さて、それでは始まり始まり〜
「いるわけないだろう、そんな男」
「大事なのは、3K思うんですよ!」
「何?
「どんだけ気分悪いんですか。病院行ってください」
エレンピオスの軍の訓練場で頭の悪い会話をしている女教官二人。
目の前では、訓練生たちが延々と走っている。
苦しそうに走っている訓練生達を前にそんな下らない話をしている二人は、中々にいい性格をしている。
「そうではなくて、結婚するいい男の三つの条件。ルイーズ、知らないんですか?」
茶髪でたれ目の童顔の女、ルイーズは面倒臭そうな顔した後、隣の女を見る。
「………そんな馬鹿の妄想みたいな実りのない戯言聞きたくないけど………」
「言い過ぎじゃないですか!?」
「まあ、他にやることないし聞いてあげるよ、クイーン」
金髪にエメラルドのような緑色の瞳をしたクイーンは、嫌そうに顔をしかめる。
「………恥ずかしいので、出来れば本名で呼んで欲しくないんですけど……」
ごほんと咳払いをすると指を一本立てて得意げに話し始める。
「3Kというのはですね、
ルイーズは、クイーンの発言に呆れたような顔をしている。
「何ですか?」
「その3Kとやらの基準は、自分かい?」
ルイーズの言葉に胸を張る。
「当然でしょう!自分にないものを求めなくてどうするんですか!?」
ルイーズは、目の前を走る訓練生に視線を戻す。
「君、IQいくつだっけ?」
「ざっと130は、超えてましたけど」
「収入は?」
「収入というか、祖父の遺産があるので、まあ、遊んで暮らせますけど?」
「うん、それとね………」
そう言ってクイーンを見上げる。
「君、身長いくつだっけ?」
「189cmですけど?」
普通の男性よりも下手すれば遙かに高い。
そして、反対に身長の低いルイーズは、腕を組む。
「IQは少なくても140は超えていて、遊んで暮らせる以上の金があって、身長は190cm以上の男性?」
「そうです!!」
「いるわけないだろう、そんな男」
ルイーズの冷めた声が届く。
スラリと身長の高いクイーンを見上げながらルイーズは、言葉を続ける。
金髪にエメラルドのような緑色の瞳、そして高身長のクイーンは、とにかく目を引く。
だからこそ、発言がもったいない。
「どうして、私の夢を一言で潰しまうんですか!!ルイーズには、分からないんですよ!デートのたびに『今週お金ないんだって』毎週言われてたかられたり!告白した男性に『自分より身長が高いのは……』って言ってフラれたり!得意げに彼氏が出してきたクイズをスラスラ解いて『君といてもつまらない』って言ってフラれる私の気持ちなんて!!」
すでにクイーンは、涙目だ。
「あぁ、もう悪かったよ。いるといいね、そう言う王子様というか、もう神様みたいだけど………」
「ううぅ………ルイーズは、いいですよね。アタックしてくれる男性がいるんですから」
クイーンの言葉にルイーズは、ため息を吐く。
「アタック、ねぇ………」
ルイーズは、振り返ると同時に後ろに現れた人影に向かってアイアンクローをかます。
そしてそのまま地面に叩きつけた。
「ぐっ…………」
人影は、苦しそうに呻く。
「アタック(物理)なんだよね………代わるかい?」
「私はもっとロマンチックなのが好みです」
「そりゃあ、私だってそうだよ」
ルイーズは、頭から手を離し代わりに足で踏みつける。
「さて、今日も君の負けだねえ、ベイカー」
ルイーズは、ニヤリと笑う。
ベイカーは、忌々しそうにルイーズを睨む。
ルイーズは、口笛を軽く吹いてベイカーから、足をどかす。
ベイカーは、ルイーズを指差す。
「いいか!絶対、教官に勝って見せますからね!!」
「あーはいはい」
ルイーズは、ひらひらと手を振ってそれからにっこりと笑う。
「ところで、君、訓練は?今回の訓練は走り続けることにしたはずだけど?」
ベイカーの頬を冷や汗がつたう。
目にも止まらぬ早さで胸倉を掴む。
「ざぼったね?」
そしてそのまま………
「とっとと走ってきたまえ!このバカタレがぁ!!」
訓練場の中に放り投げた。
カエルが潰れたような声と共にベイカーは、訓練場に落ちる。
「はーい、それじゃあベイカー以外引き上げていいよー」
『『はい!!』』
訓練生達の揃った返事と共にルイーズは、ベイカーを見る。
「それじゃあ、君は、早くここを十周したまえ」
「いや、もう直ぐ昼食なんですけど……」
「別に食うな、なんて言ってないだろう?十周済ませて食べればいいだけの話だ。寧ろノルマを減らしているんだから君は、私の優しさに感謝したっていいくらいだろう?」
「だから、十周してる間に昼食の時間が………」
そうこうしているうちに昼食を知らせる鐘がなる。
ルイーズは、ニヤニヤと面白そうに笑っている。
「私の言葉に反論している間に走った方が得策だと思うよ、ベイカー訓練生?」
ベイカーは、歯軋りをした後走り出した。
隣で見ていたクイーンは、あきれ顔だ。
「…………ルイーズって、だいぶ性格くそですよね」
「ちょっと、私の八歳の時のニックネームをなんで知っているんだい?」
「ニックネームどころか蔑称ですよ。何現実から目をそらしているんですか?」
「そのセリフ君にだけは言われたくない」
ルイーズの返答に思わず涙目になるクイーンを手で追いやる。
「ほら、私はベイカーを見てるから君は昼飯食べてきたまえ」
その言葉を見た瞬間クイーンが、ニヤリと笑う。
「もしかして、ベイカー訓練生の事が心配なんですか?優しいところあるじゃないですか!ルイーズ!!」
そう言って頭をわしわしと撫でる。
身長差のある頭を撫でるその行動にルイーズは、されるがままだ。
そんなことをされながらもルイーズは、胸を張る。
「もちろん!私は、優しいからね!これでも胸を痛めているのだよ。あぁ!今日もご飯が喉を通らない!」
そう言いながら拳大のおにぎりを取り出しモグモグと食べ始める。
ベイカーは、それを視界の端に捉えながらぎりっと歯をくいしばる。
「教官、本音は?!」
「サボるかどうか、不安だから見てる」
「サボりませんから信用して下さい!」
「ついさっきの行動思い返してみたまえ」
訓練をサボってルイーズに攻撃を仕掛けていた。
それを言われてしまえば、グゥの音も出ない。
「………っ!だったら!せめてここでおにぎり食べるのやめて下さい!!」
「嫌だよ。私はお腹空いてるんだから」
にべもなく断るルイーズ。
「クイーン教官!何とか言ってください!」
「喋りながら走ると疲れますよ」
「そうじゃなくて!!」
「じゃあ、クイーンはとってください」
「そうでもなくて!」
「ほらほら、早くしないと私が二つ目のおにぎりを食べ始めるぞ〜」
「まだ食うんですか!!」
その突っ込みを最後にベイカーは、スピードを早めた。
ベイカーの走っている周回を数えながらルイーズは、クイーンを見る。
「それで、君は昼飯食べなくていいのかい?」
「いいえ。だから個人的には、ルイーズには早く切り上げて欲しいんですけど」
クイーンの言葉にルイーズは、肩をすくめる。
「教官だからね。流石に離れるわけにはいかないさ」
「なら、私も残りましょう。誰かと食べないご飯なんて美味しくないですからね」
「………じゃあなおさら食べてきなよ。同期何人いると思っているんだい?」
「ルイーズは、どうしてそういう事しか言えないんですか!!」
涙目になりながら頬を引っ張る。
「あぁもう悪かったよ。今日は、私と食べる約束だったもんね」
そう言ってルイーズは、二つ目のおにぎりをクイーンに渡す。
クイーンは、礼を言っておにぎりを受け取った。
おにぎりを口に運びながらクイーンは、ルイーズに尋ねる。
「これで何回目でしたっけ?騙し討ち」
「五十を超えたあたりから数えていないなぁ……」
ルイーズは、どうでも良さそうに返す。
「今まで聞き損ねてましたけど、なんで、ベイカー訓練生は、ルイーズに突っかかってくるんですか?」
「あぁ。それね……」
頬張ったおにぎりを飲み込む。
「訓練初日私があの子に勝ったろう?」
「えぇ。遠目から見て、なんて命知らずなんだろうって思ってました」
ルイーズは、モグモグとおにぎりを食べる。
「不意打ちでも勝ちは勝ちだろう?実戦形式なんて言われれば」
「まあ、実戦なんて不意打ち、闇討ち、騙し討ちが当たり前ですからね」
「あと通り魔もね。まあ、そう言ったら、それから至る所で不意打ちを仕掛けてくるようになったんだ」
クイーンの顔が引きつる。
「…………愛されてますね」
「いやぁ本当、嬉しくて涙が出るよ」
そんな会話をしているうちに時間は流れ、ベイカーは、何とか十周を終えた。
ルイーズは、パンパンと手を叩く。
「十周完走おめでとう〜。昼食までまだ時間あるよ、急ぎたまえ」
ルイーズは、立ち上がると食堂へと歩いて行った。反対にベイカーは、クールダウンの最中でそれどころではない。
「あの……ベイカー訓練生?」
クイーンがこっそりとベイカーに近づく。
「なんですか………ク………教官」
クイーン教官と言いそうになり、慌てて外した。
「そうまでして、ルイーズに勝ちたいんですか?」
「俺が勝ったら教官を辞めると約束してくれました」
「何を湾曲しているんだい」
いつの間にやらベイカーの後ろにいたルイーズが、軽くチョップをする。
「君が教官として認めて欲しいなら実力を示して見ろと言ったから見せたんだろう?」
ルイーズは、欠伸をしながら何てことなさそうに言う。
「じゃあね〜。それじゃあ、クイーン。行くよ」
「え、嘘、置いてくんですか?ってあぁ、もう待って下さい!!」
◇◇◇◇
「間に合った!!」
ベイカーは、ガタガタと音を立てて座る。
お盆には今日の昼食、オムライスを載せている。
「随分と遅いではないか」
ベイカーの目の前には、あきれ顔の男が一人。
ベイカーは、ため息をつきながらオムライスをスプーンで突く。
「で、今日は何があった?」
「聞いてくれるか、エラリィ!!」
「聞かなくても喋るのだろ」
冷めた口調の黒髪短髪のエラリィは、黒い瞳を向けながらベイカーの愚痴を聞いている。
「…………お前も尽きんな……」
飽きる通り越して尽きることのない話題にエラリィは、あきれ顔だ。
そんなエラリィに構わずベイカーは、喋る。
「そりゃあ訓練サボったのは、俺が悪いけどさ、罰として十周、しかもこんなギリギリにやることなくね?確実にいやがらせだ!」
「…………まあ、全部訓練サボったのはお前が悪いけどな」
「そこだよ!そう言う言い訳できない状況に罰をつぎ込むところが凄く性格悪い!あんなじゃ、嫁の貰い手なんて絶っっっ対いないね」
「…………いや、そんなことはないと思うぞ」
エラリィの意見をベイカーは、鼻で笑う。
「そりゃあ、あんなチビで童顔だからな……」
「…………おい、ベイカー!」
「マニアックなファンがいたって普通だろ!」
「ベイカー………!」
「何だよ、エラリィ?今いいところなのに………」
「僕は止めたぞ!いいな!」
エラリィは、視線をベイカーの横に移す。
「やっほー。ベイカー君」
ベイカーは、エラリィの視線を追うとその先には、ルイーズとクイーンがいた。
ベイカーの顔の筋肉が凍りついた。
「ル、ルイーズ教官………」
「ルイーズ教官は、筋の通った事をやっていると思いますよ」
「分かってるじゃないか!」
エラリィは、ルイーズにぺこりと頭を下げるとさっさと片付けて席を立つ。
そんなエラリィの服の裾をベイカーが、掴み必死の形相で訴える。
「(俺を見捨てていくつもりか、エラリィ!)」
「(自分で蒔いた種だろ!自分で始末しろ!!)」
エラリィは、視線だけで告げると服の裾を引っ張りさっさと食堂から出て行った。
じっと何も無くなった手を見つめるベイカー。
そして、おもむろに立ち上がる。
しかし、そんなベイカーの動きががくんと止まる。
油の切れた人形のようにゆっくりと振り返る。
すると満面の笑みを浮かべるルイーズが、いた。
「そうか………マニアックな層からの人気か……」
「い、いや、あの……その」
「そんなことはありませんよ。ルイーズは、そもそも男性からの人気なんてないんですから。その性格のせいで」
「クイーン教官、フォローになってないです」
「クイーンはとって下さい。恥ずかしい」
「まあ、それはともかく!」
ルイーズは、ベイカーのオムライスにケチャップをかける。
「あ、あの?ルイーズ教官?」
冷や汗が引かないベイカー。
「マニアックな層への人気とやらを取っていこうじゃあないか。確か、制服をきた女の子にこんなことをやられると男は喜ぶんだろう?」
「制服は制服でも軍服ではやって欲しくないです………」
冥土まで一直線だ。
そんなベイカーの言葉を無視してオムライスにハートを描き、最後にケチャップをぶちまける。
それはさながら
「き、教官?これは?」
「君、今日の訓練なんだか知ってるかい?」
そう言って訓練表を机に叩きつける。
そこに書かれているのは、
「内容は…………ターゲット確保?」
「そ。私をターゲットととして、班員全員で確保にかかる。チームワークが試されるんだけど………」
ベイカーの顔から血の気が引いていく。
それはつまり、ルイーズに立ち向かわなければならない。
今のルイーズに。
もうこのケチャップまみれのハートが、死の宣告に見えて仕方がない。
「…………ルイーズ教官、今から教官の良いところ十個言うので許してくれませんか?」
「ルイーズに良いところなんて五個もないですよ」
「クイーン教官!?友達ですよね?」
「だって、嘘は、感心しませんし」
「それぐらい見逃してくださいよ!」
「君たち、口は災いの門って知ってるかい?」
昼食終了の鐘が鳴り響き、ベイカーの顔から血の気が引いていく。
「頑張ってください、ベイカー訓練生」
「だったら、俺と代わってください………」
ハイ、変な子しかいません。
ルイーズが大分変な子なので、それに負けないようにと作ったらなんでかこうなりました………
てなわけで、次回がいつになるかわかりませんが、また次回!