魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

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はい、どうもです。

ついにモノリス・コードに入ります。

ここまで長かった。

ではお楽しみください。

2020/10/19:文章を修正しました。


ドレッドノート

 新人戦もついに四日目に入り、九校戦のメインと呼べる競技が始まる。

 モノリス・コードとミラージ・バット。

 どちらも最も注目が集まる競技であるのは間違いなく、競技の結果によって新人戦の順位は大きく影響される。

 そんな競技の試合開始を前に禅十郎、森崎、井上は控室で待機しており、様子を見に上級生達が数名やってきていた。

 

「三人共、調子はどうだ?」

 

 男子のリーダーである克人も三人を労いに来ていた。

 

「はい、大丈夫です」

 

「問題ありません」

 

 森崎と井上は克人を前に少々緊張気味になっていたが、問題はなさそうである。昨日も担当のスタッフと入念に確認を取っており、二人の準備は万端だ。

 森崎は達也の件を頭から切り離しており、今向き合うべきことが何なのかを理解しているようで禅十郎も内心安心していた。

 

「二人共肩に力が入りすぎじゃねぇか。もう少し力抜いていこうぜー」

 

 一方、禅十郎は試合を直前に控えてもなお上級生達を前にして落ち着いているを通り越して気が緩みまくっていた。先輩達がいる前でありながら控室の長椅子にだらーんと横たわっているのである。だが、それは体を力ませないための行動であると理解しており、態々注意することもしなかった。

 体は緩み切ってはいるが、彼が纏っている覇気からいつでも試合に臨める万全のコンディションであることが伺えた。

 

「第一試合は七高で岩場ステージだ。井上、森崎、作戦通りにいくぞ」

 

 時計を見てそろそろ会場入りするべき時刻となり、禅十郎は最終確認を取る。

 

「ああ」

 

「了解」

 

 二人も気を引き締め直し、椅子から立ち上がる。

 

「じゃ、行ってきます」

 

 上級生達に見送られ、三人は会場へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 モノリス・コードの第一試合が始まる前。

 ミラージ・バットと時刻が近い為に深雪と雫は本部の暗幕で試合を観戦することにした。

 そこには真由美や克人など男女問わず、半数近くの本戦メンバーが揃っており、モノリス・コードが始まるのをじっと待っている。

 モニターに第一高校の選手が映ると、禅十郎を先頭に森崎と井上が並んで待機している姿が見えた。

 禅十郎は腕を組んで試合の開始をじっと待っており、その姿はまさしくリーダーと呼ぶに相応しい風格があった。

 

「禅、気合入ってる」

 

「ええ、あんな顔をした禅君を見るのは九重先生の所でお兄様や九重先生との試合をするくらいね」

 

「そう言えば、深雪さんは禅君の試合を見るのは初めてなのよね?」

 

 禅十郎と試合が被っていた為に、深雪が彼の試合を見たことがなかったことに真由美は今になって気付いた。

 

「はい。クラウド・ボールでは色々あったのは聞いていますが、実際に目にするのはこれが初めてです」

 

 随分と色々やっていたことはエリカ達から聞いており、スタイル変更という前代未聞の戦術を聞いてもそれほど驚くことはせず、禅十郎らしいと感じたのは彼の行動に慣れてしまったからだと深雪も内心気付いていた。

 達也からの話ではこれはまだ序の口の奇策だろうとのことで、一体どんな戦術を練ってきたのか深雪も興味があった。

 

「でも、あんな真剣な顔をしても禅君は禅君なのよね。真面目な顔して腹の中では一体何を考えてるんだか分からないんだもの」

 

 クスクスと笑う真由美に雫も深雪も心の中で頷いた。

 

「それに今回の試合で出してくると思うわ。これまでのモノリス・コードをひっくり返すようなことをね」

 

 真由美の言葉に深雪達はキョトンと首を傾げる。

 その真意を聞こうと思ったが、タイミングが悪かった。

 真由美が言い終わった直後に、モノリス・コードの試合が開始されたからである。

 

 

 

 

 

 

 

 開始の合図が鳴り響き、第一高校と第七高校の試合が始まった。

 第七高校の選手達に動きはない。一高の出方を伺っているのは目に見えていた。

 世間一般では第一高校と第七高校の生徒では上位成績者の実力差は大きいと考えられている。

 実際、篝と森崎という名字を聞いただけで、一高の選手のうち二人は名家の出であることが直ぐに分かり、警戒せざるを得なかった。

 森崎家は『クイック・ドロウ』という数字持ち(ナンバーズ)に引けを取らない魔法技能を持ち、魔法研究を行いつつも副業としてボディーガードの仕事も請け負っている。その息子が家業のいろはを教わっていないはずがなく、実践もそれなりに経験しているはずだという七高の戦術スタッフの見解は的中していた。

 そして森崎以上に警戒されているのが禅十郎である。

 魔法による高い近接格闘技術を保有しており、篝家が開いている道場は近接戦闘特化の魔法師にとって高い支持を得ている。しかし、その指導方針についていけない者は問答無用で切り捨てることでも有名である。その反面、上段まで昇った魔法師は軍や警察の中で大成するとさえ言われている。

 その厳しい修練を若くして乗り越え、あまつさえ師範代となった禅十郎はその手の界隈で知らぬものはおらず、新人戦でのダークホースだと各校から注目を浴びている。

 故に彼らは無謀な行動を起こさず、相手の出方に応じて慎重に動くことにしていた。

 しかし、彼等の思惑は外れることになる。

 

「たった一人で特攻だとっ!?」

 

 七高の選手の一人が思わず叫んだ。

 禅十郎は自己加速術式による超高速移動で相手のモノリスに向けて岩場ステージを駆けていた。

 岩場ステージは平原ステージの次に遮蔽物が少ないステージではあるが、高速移動に向いている地形かと言われれば厳しいと答える者が多いだろう。

 遮蔽物がないということはそれだけ相手に自分の位置を知らせることになる為に、高速移動が可能だとしても選手が丸見えの状態では、敵からの攻撃が受けやすくなる。加えて、相手の陣地へと進むのであれば岩と岩の間をすり抜け、なるべく平坦な場所を進む方が危険度は下がる。岩を足場にした時に、相手の移動魔法などで足場を崩されれば、一気に形勢逆転された試合は少なくないのだ。

 だが、その当たり前を無視するのが禅十郎という男だ。

 一歩踏み込むごとに速度を上げて迫ってくる禅十郎に第七高校の選手達は即座に迎撃を開始した。

 岩場ステージに転がっている石や岩を移動魔法で投げつけ、圧縮した空気塊を禅十郎に向けて放っていた。

 出鼻を挫かれたが、物量で押せば必ず当たると七高の選手達は思っていた。

 しかし、その考えは誤りだったと彼らの眼には映ることになる。

 

「当たらない!?」

 

 先程から無数の岩や空気塊を放っているにもかかわらずにも拘らず、禅十郎は自己加速術式を掛けたままそれらを紙一重で躱していく。

 飛んでくる岩の間を空中で紙一重にすり抜けていく。

 進行方向が遮られたことで自陣との距離を一気に詰めることは抑えても、禅十郎の動きは落ちるどころか更に加速していく。

 

「この足場で何であんな動きができるんだ!」

 

「知るか! とにかく撃ちまくれ!」

 

 一度も掠ることなく避け続けながら距離を詰めてくる禅十郎に七高の選手達は徐々に苛立ちを募らせる。しかも相手陣地にいる森崎と井上も援護することなく、唯その場に立ってこちらを観察しており、それがより彼らの苛立ちを募らせていく。

 

「これならっ!」

 

 禅十郎との距離を捉えた一人の選手が、加重魔法を広範囲に掛ける。

 直径二十メートルまで展開された加重魔法は禅十郎を捕え、禅十郎はその足を止めて地面に押し付けられた。

 使用した加重魔法は対象物の重力を大きくし、普段とは比較にならないほど体が重くなる。

 これで相手の動きを封じたと三人は思い込んだ。本来であれば、立ち上がることさえ出来ないというのが彼らにとって当たり前の常識だからだ。

 だが、現実はその当たり前を悉く嘲笑う。

 第七高校の選手達は揃って自分の目を疑った。

 

「嘘だろ……」

 

 彼らの目には加重魔法に掛かりながらもゆっくりと立ち上がる禅十郎の姿が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 その異様な光景を千景と泉美と香澄は会場から見ていた。

 

「相変わらずの力押しだな」

 

 苦笑を浮かべる千景に対し、泉美は両手で口元を抑えて驚いていた。

 

「加重魔法を掛けられても動けるなんて……流石ですわ」

 

 驚いた顔はすぐさまはうっとりとした顔に変わり、禅十郎に羨望の眼差しを向けていた。

 

「相変らずの非常識だよね、あいつ。でも何で無効化しないのさ。あいつならあの程度の魔法なんて相殺できるじゃん」

 

 そんな双子の妹の様子に気付かない香澄が疑問を浮かべているが、千景は首を横に振ってその考えを否定した。

 

「相手の魔法が広範囲だからな。相殺するには禅には広すぎる。ま、流石に九校戦に出てくるだけあってなかなか出来る後輩がいたようだ」

 

「そう言えばあいつって広域干渉って苦手分野だったっけ」

 

 割と何でも出来るようなイメージを抱いていた香澄は思い出したように呟いた。

 

「香澄ちゃん、禅さんをあいつ呼ばわりしてはいけませんってお姉様に何度も言われてるでしょう」

 

「えー。だって本人がいないんだから良いじゃん」

 

「本人が目の前にいても言ってるでしょう」

 

 禅十郎が相手の魔法に掛かっているにも拘らず、三人は心配している素振りさえ見せていなかった。彼がその程度でやられるような男ではないことをよく知っている為に三人の会話は周りから若干浮いているのだが、当の本人達は気付いていなかった。

 

「別に呼び捨てでもあいつ呼びしても良いと思うわ。まったく、七高も情けないわね。もっとマシな選手はいなかったの。アレじゃ、あいつのトレーニング相手になってるだけじゃない」

 

 三人の隣から禅十郎に対し悪態をつく少女がいた。

 

「千香ちゃん。そんな言い方は……」

 

 泉美の隣に座っている少女、篝家六人兄弟の末っ子の千香はつまらなそうに試合を見ていた。

 

「あいつのことだから範囲が広くても狭くても、あの程度の加重魔法なら相殺する気もないわよ。この程度の威力なら魔法を使うまでもないって言いたいのよ、あのボンクラ男は」

 

 泉美から見ても威力はともかく、加重魔法を広範囲に展開している技量は新人戦の出場選手の中でも高い方だと感じている。

 普通であれば立ち上がるのも困難だろうが、確かに禅十郎には効果があるようには見えなかった。ゆっくりと魔法の範囲内を歩いている姿がその証拠である。

 彼女の言う通り、問題ないから魔法を使わないという捉え方はあながち間違っているとは言い切れないのかもしれない。だが、それはあまりにも悪く捉えすぎていると泉美は思った。

 

「禅さんはそう言う自分の力を見せつける戦い方はしないと思うのですが……」

 

「本人がそう思っててもね、私からしてみれば自分の力を見せつけている目立ちたがり屋にしか見えないのよ、あの碌でなしは!」

 

「まぁまぁ、千香ちゃん、少し落ち着いて」

 

「ねぇ、千景さん、あの二人まだ喧嘩中なんですか?」

 

 千香の愚痴に泉美が付き合っている最中、彼女に聞こえないように香澄が千景にひそひそと尋ねた。

 

「まぁな。ただの誤解なんだが、あいつももう少しちゃんと説明してやればここまで拗れることは無かったろうな」

 

「本当に何しでかしたんですか、あいつ?」

 

 千香が禅十郎に対しあのような態度をとる理由を千景はよく知っていた。

 どちらかといえば、今回は禅十郎が悪いのだが、体術における彼の厳しさは道場の指導方針に沿っている為、道場に関わっていない千景はあまりとやかく言うことが出来ない。禅十郎が気付くか、千香が彼の言葉の意味を理解するしか拗れた二人の関係を戻す解決策はないと思い、傍観するしか千景には出来ないのだ。

 

「ま、私からもあまり多くは言えんな」

 

「えー」

 

 二人がそんな話をしているうちに、試合は新たな展開に進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 重力魔法の影響下で平然と歩いてくる第七高校の選手達は驚愕していた。

 何かしらの魔法を使っている訳では無いのは理解しているのだが、それを頭が受け入れてくれない。

 クラウド・ボールの最後の二試合で身体能力が相当高いとは思っていたが、実際に目にしてみるとそんな生易しい言葉で片付けていいのか怪しいほどだ。

 

「おい、出力を最大まで上げろ!」

 

「もうやってるっ! でも、止まらねぇんだよ!!」

 

 理解出来ない現象に加え、ゆっくりと禅十郎が近づきながら彼から発する覇気に恐怖を覚え、誰もが怯み始める。

 そして、ついに禅十郎は重力魔法の効果範囲を越えようとしていた。

 

「っ、このっ!」

 

 それに気付いた選手が再び移動魔法で岩を禅十郎に投げつけた。

 今まで投げてきた物より一回り以上巨大な岩が禅十郎に襲い掛かり、衝突のタイミングはほぼ禅十郎が効果範囲を越える瞬間を捉えていた。これなら出た瞬間に自己加速術式で避けることはほぼ不可能と言えた。

 そして予測通り、岩は禅十郎が効果範囲を出た瞬間に襲い掛かる。

 これで本当に一人脱落させたと誰もが思った。

 思った()()()でいた。

 彼等は無意識に不安を抱いていた。これまで予想外の行動ばかりをする禅十郎が普通の人なら太刀打ちできない程度の脅威で足を止めるのかという不安が頭をよぎった。

 そして、その『恐れ』はすぐさま現実となった。

 禅十郎が片手でその岩を受け止める姿を彼らは目にし、再び驚愕することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、第一高校の本部にて同じ光景を彼らは見ていた。

 

「本当に物好きというか、何というか。いつ見ても心臓に悪いのよね、あの魔法」

 

 深雪は同じような光景を九校戦に向かう途中で起こった事故で見たと気付いた。

 

「会長はあの魔法を知っているのですか?」

 

 真由美の口振りからするに禅十郎の魔法の正体を知っているようである。

 

「まあね。物理攻撃になると絶対あの魔法で対処するって聞かないのよ。変な所で禅君たら頑固なんだから」

 

「真由美、あいつはどんな魔法を使ったんだ? あんな魔法、私は見たことないぞ」

 

 摩利の言葉に誰もが同じ気持ちだった。事故の後、あの魔法について尋ねたが説明するのが面倒だと言って有耶無耶にされたのである。

 自分達の知識の中であれ程の高速で突進してくる物体を破壊することなく停止させる魔法など見たことも聞いたこともなく、興味を抱く者は少なくなかった。

 

「渡辺さん、他人の魔法について詮索するのはマナー違反ですよ」

 

 だが、あのような光景を見せつけられれば、聞いてしまうのは仕方のないと鈴音は思ってもいた。実際、自分も聞かされていなければ自制出来ていたかも怪しいからだ。

 

「大丈夫よ、リンちゃん。アレは使える人どころか使おうとする人すらいない魔法だから。知ったところで誰も真似しないわ」

 

 使おうとする人がいない、という言葉に誰もが引っ掛かった。捉えようによっては、アレは禅十郎のオリジナルの魔法と呼べる代物となるのではないだろうか。

 そんな疑問を多くの者が抱いてるとは露知らず、真由美は禅十郎の試合を見つつ話を続けた。

 

「あの魔法の固有名称は『ドレッドノート』。禅君が最も多用する対物理攻撃の魔法よ。ちゃんとインデックスに登録されてるんだけど、その性質から殆どの人が使おうとしない。その所為で欠陥品と呼ばれた魔法なの」

 

「登録されているのに欠陥品だと?」

 

 そんな魔法があったとは思いもよらなかった。

 インデックスに登録されたと言うことは登録された当時は新種の魔法としてもてはやされたのだろうが、欠陥品と呼ばれるとは当時の開発者が聞けばうかばれない話である。

 

「大雑把に言うと『ドレッドノート』は移動してくる物体に()()触れることで本来伝わる衝撃を地面に受け流す魔法なの。発動中であればどんな衝撃もすべて地面に受け流される。例えば爆風とかもね。今の禅君なら銃弾だって防げるはずよ」

 

「直接……ですか?」

 

 一字一句聞き逃さずに聞いていた深雪は、その内容に動揺していた。

 真由美の言っていることが間違っていなければ、直接触れると言うことは、使用者は必ず高速で飛んでくる物体や爆風を一度その身で受けなければならない。それは生半可な覚悟で出来る事ではないし、覚悟があったからといって出来る事でもない。

 必ず攻撃をその身で受け止めなければ使用できない魔法であるなら、障壁魔法を使った方がどれだけ安全かなど口にする必要も無いことだ。

 

「物理攻撃において完全に防御できたとしても失敗すれば確実に怪我じゃすまない。そんな魔法を使う魔法師は『恐れ知らず(ドレッドノート)の愚か者』だと囁かれてるから、そんな名前が付けられた、なんて謂れもある魔法なのよ」

 

 真由美の説明を聞いて、誰もが息を呑んだ。

 確かに、そんな危険が伴う魔法を使うことが出来ても使いたいとは思わない。大怪我を負うリスクが高い魔法を使うくらいなら、障壁で守った方がどれほど安全かなど言うまでもないことだ。

 そんな魔法を何故禅十郎が好んで多用するのか、理解できる者は誰一人としていなかった。

 

「凄いですね」

 

 だが、理解は出来なくてもその決断力を深雪は素直に称賛した。

 自分には出来ないこと故にそれをやり遂げる禅十郎に敬意を表したくなってしまうほどだった。

 

「何事においても、ロウリスク・ハイリターンが最も望まれるものだけど、禅君の場合、リスクが高くても見返りが大きければ、それを決断することを躊躇わない。もしその選択をすることになっても、失敗しないよう最善を尽くせば良いって開き直るわね」

 

「あまり褒められたやり方じゃないけど、禅はそういう性格だって諦めるしかないですね」

 

 雫がそう言うと、真由美は苦笑を浮かべて頷いた。

 

「本当は怪我を負う前提って考え方を止めてほしいんだけど、禅君って万が一の時の対策も考える子だから何を言っても聞かないのよね」

 

「少しは周りが心配しているのを自覚するべきですね」

 

「ほんとよね」

 

 禅十郎に対するちょっとした不満を口にした真由美と雫はモニターに視線を移す。

 相手選手が投擲してくる岩や爆風をひたすら受けながら前進する禅十郎の姿がそこには映っていた。

 その歩みは一切止まることを知らず、着実に相手の陣地へと距離を縮めていく。

 

「あ、そうそう。間違いなくもう一回驚くと思うから気を付けてね」

 

 ふと何かを思い出したように言う真由美はクスリと笑みを浮かべた。そんな楽しそうな彼女に深雪を含め誰もが首を傾げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ドレッドノートで相手選手の攻撃を禅十郎は全て受けていた。

 

「何だよ、あれ……。あれじゃあ、まるで『鉄壁』と同じじゃないか!」

 

 もはや避ける必要さえなくなった禅十郎は全ての攻撃を受けながら確実に前進していく。

 その姿を七高の選手達は知っている。それは去年の克人のモノリス・コードでの試合運びと瓜二つだった。使用している魔法は全く別だというのに、こちらの物理攻撃を一切受け付けない。

物理攻撃が効かない。

 放出系魔法による電撃も試したが、禅十郎は避雷針によって自身の装備の伝導性を改変し、その電撃を地面へ逃がしている。

 彼等は混乱していた。今まで見たことが無い規格外の魔法師と戦う経験のない彼等には禅十郎が恐怖の存在に見えていた。

 だが、彼等は気付いていなかった。禅十郎の戦法はいたってシンプルであったことに。

 ドレッドノートは肉体の表面に作用する魔法である為に、装備に魔法を掛けても一切干渉しない。完全な物理攻撃の壁から纏っている装備に物理攻撃以外の魔法に対応する魔法を掛けることで、禅十郎は相手選手の魔法を完全に無効化しているのである。

 それさえ気づけば、いくらでも対処方法は浮かべられるが、残念ながら混乱している彼等にはそれに気付く余裕は一切なかった。

 前進している禅十郎はそろそろ次の段階に進めること決めた。

 まずはこの攻撃の雨を黙らせる為に、足を止めた禅十郎は大きく息を吸い込んだ。息を一気に吐き出して大声を張り上げると同時に音を増幅させる振動魔法を発動させる。

 その効果は絶大だった。

 鼓膜を破る程ではないが、突然の大きな音に相手選手は揃って耳を塞ぐ。

 その所為で彼らの発動していた魔法がすべて止んだ。

 この魔法には自分がダメージを負わないように自分の耳の周りに音を遮断する術式も組み込まれている為、攻撃が止んだ瞬間に禅十郎は即座に行動を開始する。

 ドレッドノートを解除して自己加速術式で一気に相手の一人に急接近する。

 突然目の前に現れたことに相手は驚いた顔を浮かべている。

 

「まずは一人っ!」

 

 そう口にするのと同時に、禅十郎は左拳を相手の鳩尾に()()()()()

 魔法による人間の限界を超えた一撃に相手は肺に溜まっていた空気を吐き出すと同時に地面から足が離れさせ後方へと吹き飛ばされる。

 その後の禅十郎の行動は迅速であった。

 新たに標的を定め、再び自己加速術式で距離を詰める。

 

「お前! ル……反だぞ!」

 

 相手が何かを叫んでいるが、そんなことにいちいち耳を傾けるつもりは毛頭なかった。そもそも何も気にする必要などないのだから。

 そのまま容赦なく右の脇腹に左足で回し蹴りを叩き込む。相手は勢いよく横に吹き飛ばされ、進行方向にあった岩に激突して意識を失った。

 二人を行動不能にし、最後の一人を視界に入れ、禅十郎は再度自己加速術式で近づく。

 最後の一人は何もせずに目の前の光景を見て呆然としていた。自分が見ているものが信じられないと言いたげであったが、禅十郎の知ったことではなかった。

 

「こいつで終いっ!」

 

 相手の顎に掌底を叩き込み、脳震盪によってその場から倒れて行動不能となった。

 第七高校の選手達すべてを戦闘続行不能にし、禅十郎は一人その場に佇んていた。

 そして試合終了の合図が鳴り響き、第一高校の勝利がアナウンスされる。

 だが、この時、観客席では勝利による歓声を上げる者は誰一人として居なかった。




如何でしたか?

今回の話は分かり易く言えば、禅十郎の無双話です。

本当に、このシーンを書きたかっただけです。

オリジナルの魔法とか作ってるけど、ちゃんと説明できてるのか不安です。

まぁ何とかなるでしょ!

では、今回はこれにて。


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