闇のミス・ポッター   作:ガラス

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第4話:ダンブルドア……生意気だ

 

 

「物の見事にやってくれたわね……」

「…………」

 

ベンチに座りながら落ち込んでいるマルフォイに対して、私は呆れを通り越して最早感心するしかない、と言った態度で大きくため息を吐き、言葉を掛ける。

すると彼はつい先程自分が行った失態を思い出したのか、その青白い肌は一層青くなり、まるで死人のように成り下がった。

 

つい先程、私達はグリフィンドールとの合同授業で飛行の訓練をしていた。

箒に股がって少しの間浮遊する、と言った実に簡単な授業であったのだが、そこでとあるアクシデントが起きた。

 

私が退屈な授業だ、と思いながら箒に股がっていると、突如グリフィンドール生のネビルが飛行し始めたのだ。慌てて先生が止めようとしたが間に合わず、彼は高所から落下して怪我を負う羽目になった。

それを見て先生がネビルを保健室に連れて行っている間、マルフォイはネビルが持っていた“思い出し玉”を手に取り彼をからかった。

 

すると当然正義感の強いハリーが友達の為にとマルフォイに食って掛かった。マルフォイは思い出し玉を遠くに投げて取ってみろと挑発したが、何とハリーは信じられない程のスピードと反射神経でその思い出し玉をキャッチして見せたのだ。

 

直後、グラウンドにはマクゴナガルが来てハリーを連れて行ってしまった。

それを見てマルフォイは「ポッターは退学になるぞ」と喜んでいたが、結果はハリーは一年生でありながらクディッチのシーカーになるという大挙を成し遂げた。

 

「有り得ない……なんでだ。なんであんな奴がシーカーに……しかもまだ一年生だぞ?」

「ハリーにはそれだけの実力があったって事よ。全く、余計な事をしてくれたわね……今じゃ彼はグリフィンドールの期待のルーキーよ」

 

マルフォイは何度も自分の頭を叩きながら起こった出来事に納得いかないという不満を零した。同様に、私も不満が溜まっていた。

臆病で、泣き虫で、なんの抵抗する力も持たなかったハリーが、己の才能に気づき始めた。これは双子の姉としては喜ぶべき事なのだろうが、スリザリンの生徒である私にとっては目の上のたんこぶである。

 

ハリーには少なからずとも私と同じ才能がある。問題はそれにいつ気づけたか、という事であって、私が彼よりも気づくのが少しだけ速かった。だがハリーはホグワーツにやって来た事によって遂に自分の才能に気づいた。

この調子で成長して行けば……あの正義感と言い、面倒な障害となるかも知れない。

 

「ほら、いつまでも落ち込んでないで。授業に行くわよ」

「うぅ……」

 

 

 

ホグワーツで一番の問題児は誰かと問われれば、誰もが“双子のウィーズリー”だと口を揃えて言う。

彼らの悪戯は数々の伝説を残しており、ある時は雨雲を作って教室中を水浸しにしたり、ある時は廊下一面にくっ付くガムを仕掛けたり、またある時は魔法でドラゴンに見立てたケーキを広間にぶちまけるという悪戯もあった。

 

彼らの悪戯は最早芸術の域に達していたが、中でも彼らの恐ろしい所は悪戯する瞬間を目撃する事が出来ず、突然パッと姿を消したと思ったら別の所へ現れる通常なら不可能な事をしていた。

この謎は未だに解明出来ず、双子は誰も知らない秘密の通路を知っているのではないか?という噂が流れた程だった。

 

そんなフレッドとジョージは今日もまた、大好きな悪戯を仕掛ける為にあるターゲットを絞っていた。

ターゲットの名前はシェリー・ポッター。最近噂の“生き残った双子”の姉の方である。

 

「シェリーにはどんな悪戯を仕掛ける?」

「そうだなぁ、挨拶程度に頭上から大量の蛙が降って来るってのはどうだ?」

「良いね、それで決まり」

 

何処が挨拶程度なのか分からない悪戯の内容を決めながら双子は笑みを浮かべた。

フレッドとジョージにとって、シェリーは最高の標的であった。“生き残った双子”というただでさえ有名な肩書きに更にスリザリンの中でも一際輝く存在として彼女は有名であり、そんなシェリーに悪戯が成功すれば二人は大喜びであった。

 

悪戯内容が決まると二人は早速シェリーが通るであろう廊下に先回りし、そこに悪戯用の魔法を仕掛けた。

天井で魔法で作り上げた大量の蛙を浮遊させ、シェリーがこの真下を通ると落ちて来るように手を加える。そして仕掛けが完了すると、二人は物陰に隠れてシェリーが現れるのを待つ事にした。

 

しばらくすると、予定通りシェリーが現れた。

赤い髪を腰まで伸ばし、美しい容姿をした少女。まだ幼く、子供らしさが残るその姿を見ると双子は何だか心が痛んだが、それでも悪戯を止める気など毛頭無かった。

 

シェリーが廊下を通り過ぎようした際、カチリと何かを押すような音が響いた。それを聞いてシェリーは思わず立ち止まる。するとその瞬間、彼女の頭上から大量の蛙が落下してきた。

 

普通なら此処で少女の叫び声が聞こえるはずだった。双子も蛙が落ちたのを見た瞬間、やった、と拳を握りしめた程だった。だが結果はシェリーは叫び声一つ上げるどころか、彼女は杖を使わずに大量の蛙を宙で静止させ、全てを受け止めていた。

 

「あら、こんな陳腐な悪戯を仕掛けるのは誰かしら?」

 

蛙達を浮かせたまま、シェリーはそう呟くと隠れて見えないはずのフレッドとジョージの場所に視線を向け、優しく笑いかけた。

見られて体勢を崩してしまった双子はそのまま降参するようにシェリーの前に現れ、苦笑いをした。

 

「なっ、なんて俺達が悪戯を仕掛けている事に気づいたんだ?!」

 

先に質問をしたのはフレッドだった。

自分の絶対自信がある悪戯が見抜かれ、更に全てを受け止められてしまった。それを屈辱と言わずなんと言えば良いのか、いつもは余裕の笑みを浮かべている双子も、焦りが見えていた。

そんな二人を見ながらシェリーはおかしそうに笑った。

 

「だってバレバレだもの。二人の気配だってすぐに分かったし、何より魔法の痕跡が残ってたわ。これだとどうぞ見てくださいって言ってるようなものよ」

「そんな……まさかそこまで分かってたなんて」

 

何故悪戯に気づけたかの種明かしをし、シェリーは余裕の表情を見せた。

だがそれは決して魔法を覚えたばかりの一年生では出来る芸当では無く、フレッドとジョージは落ち込む様に顔を俯かせてしまった。

 

「ちぇ、やっぱり優等生様は違うぜ。俺達のやってる事なんて下らな過ぎて全部お見通しってか」

 

シェリーの完璧過ぎる観察力にジョージが不満を零すようにそう言った。

元々悪戯を仕掛けた方が悪いのに何を言っているのか、と思う所だが、奇妙な事にシェリーがそれに対して嫌悪な表情を見せる事なく、むしろニコリと微笑んで快く受け入れるような素振りを見せた。

 

「あら、そんな事は言ってないわよ。ただ私だったらもっと上手くやる、ってだけ」

「「へ?」」

 

シェリーの意味不明な言葉に双子は同時に疑問を述べ、首を傾げた。

 

 

 

 

ロンは急いでいた。次の授業に出る為には後階段を二つは登らなければいけなかった。乱れた服装を整えながら必死に足を動かし、彼は目的地へと向かう。

途中、ロンは階段の隅に雑誌が落ちている事に気がついた。それは今月のクディッチの試合チームが載っている雑誌であった。何故こんな所に?と思いながらも気になって仕方が無かったロンは歩みを止め、その雑誌を手に取ろうとした。

 

その瞬間、パフーとラッパがだらしなく吹くような音が鳴り響き、その雑誌が破裂した。何が何だか分からないロンは困惑するが、次の瞬間、バラバラに飛び散った紙切れが無数の蜘蛛に変身し、ロンへと襲い掛かった。

 

「うわああああああぁぁぁ!!? く、く、蜘蛛だぁぁああ!!??」

 

蜘蛛が大の苦手であるロンは当然叫び声を上げ、すぐさま登って来た階段を駆け下りた。しかし蜘蛛はすぐ後ろに付いて来ており、ロンは今まで必死に登って来た階段を全て降りる羽目となった。

そしてロンが一番下の階まで降りて行くのを見届け、廊下の角からシェリーが現れた。その背後にはフレッドとジョージの姿もあり、三人は怪しい笑みを浮かべていた。

 

「どう?本当の悪戯ってのは相手の趣味や趣向をよく理解し、そして最も嫌がる方法で陥れるのよ。これが私の悪戯よ」

「すっげぇぜシェリー! ロンの奴、めちゃめちゃ怯えてたぜ!!」

「単なる真面目子ちゃんだと思ってたけど、話しの分かる奴じゃん!」

 

フフン、と鼻を鳴らしながら自慢げに自分の悪戯を披露したシェリーは双子を見た。すると二人はシェリーの完璧な悪戯に敬服し、彼女を尊敬すると同時に自分達と同じ悪戯仲間として認め合った。

 

 

 

 

双子との悪戯を終えて授業を受けた後、私は自主勉強として図書室でありとあらゆる本を机の上に置きながら頭を回転させていた。

魔法の効率的な唱え方、強力な呪文、杖の振り方のコツ……様々な本の記述に目を通しながら私は研究する。

 

「もっと強力な呪文がいる……少なくとも、大人一人倒せるくらいの呪文が」

 

誰にも聞こえないよう、ポツリと私はそう言葉を零す。隣ではマルフォイがまだブツブツと呟きながら暗い表情をしていたが、どうやら私の発言には気づいていないらしい。

 

大抵の呪文はもう覚えた。衝撃魔法や武装解除魔法も。だがそれらは子供の私では大した威力では無い。ひとえに言えば魔力が足りないのだ。だから敵を倒す為にはもっと強い魔法がいる。

 

「ほぅ、こんな時間にも勉強とは感心じゃのぉ、シェリー」

 

突如、私の前から声が聞こえて来た。

見上げるとそこにはダンブルドアの姿があり、彼は頬を微笑ませながら私の事を見つめていた。

 

「ダンブルドア! ……先生」

「んん、結構。勉強を続けたまえ」

 

思わず立ち上がろうとした私を静止させ、ダンブルドアは私に勉強を続けるように促せた。

隣のマルフォイは顔を俯かせているせいでダンブルドアの事に気づいていない。私は警戒心を強めながら静かに椅子に座り直し、ダンブルドアの事を見た。

 

一体何時から此処に居たのだ?全く気配は感じなかったし、彼が図書室に入って来る瞬間なんか目にしなかった。そもそも一番重要なのは何処から私の様子を見ていたか、だ。

私はもう一度ダンブルドアの事を見る。彼は相変わらず笑顔のまま、本当に優しい老人、という雰囲気を醸し出しながら私の様子を見ていた。

 

「いつからこちらに……?」

「最初からじゃよ。君とドラコが図書室に来た時からじゃ」

 

私の疑問に何の警戒心も持たずダンブルドアはあっけらかんと答える。

その答えを聞いて私は肩を振るわせた。まさか……ダンブルドアは私達が図書室に来るより先に来ていたという事か?何故?ただの偶然?

様々な疑問を頭の中を巡り、私は冷や汗を掻く。

 

「シェリーよ。君はどうしてそこまでして力を求める?此処にある本は全て強力な魔術に関しての事じゃ……何故力を欲するのじゃ?」

 

おもむろにダンブルドアはそんな質問をして来た。

一見それはただの質問にも見えるが、彼の瞳はまるで私の心の中を見据えているかのように光っている。いや、実際見抜かれているのかも知れない。そう思わされる程、ダンブルドアからは威圧感を感じられた。

 

「……もちろん、将来の為です。父や母のような立派な魔法使いになれるよう、日々鍛錬しているんです」

「うむ、立派じゃ。実に立派じゃ。リリーに似て真面目な子じゃのぉ」

 

一度唾を飲み込んでから、出来る限りの笑顔を見せて私は答えた。

言っている事は全てデタラメではあるが、人を騙すにはこれがうってつけである。だが、ダンブルドアに対してそれが効くかどうかは分からない。

一応ダンブルドアは自身の髭を弄りながら笑って私を褒めてくれた。だが、次の瞬間彼の瞳はとても鋭くなった。

 

「じゃがその顔はジェームズのものじゃ……何かを企んでいる時のような、悪戯っ子の顔じゃの」

「……!!?」

 

ダンブルドアの発した言葉が私の心臓を射抜いた。

だがそれは決して感動や感激と言った物では無く、鋭い矢が身体に突き刺さったような激痛であった。

 

気づかれている……のだろうか?ダンブルドアの表情はすぐにいつもの笑顔に戻ったが、つい先程見せた鋭い視線は確かに記憶に残っていた。

やはり間違いない、ダンブルドアは一流の魔法使いだ。きっとこんな魔法使いは世界中を探しても早々見つからない。例のあの人は……こんな奴と戦おうとしたのか。

 

あまりの恐ろしさから、私は腕を動かす事さえ出来なくなっていた。先程まで見せていた笑顔が張り付いてしまい、表情を戻す事が出来ない。それを見て、ダンブルドアは静かに私に向かって微笑むと肩をポンと叩いて来た。

 

「あまり悪戯のし過ぎぬのようにな。でないと双子のウィーズリーのようになってしまうぞ」

 

最後にダンブルドアはそれだけ言い残すと図書室から去って行った。

ダンブルドアが完全に居なくなったのを確認してから、私はドッと椅子に座り込んだ。緊張が解け、額から汗が滝のように流れ出る。

 

なんだったのだ、さっきの威圧感は……?あれがダンブルドア……なるほど、流石は例のあの人が恐れたと言われるだけはある。

それにきっと彼は私の目的に気がついている。悪戯のしすぎないよう、は私が裏で計画を進めないようにの忠告。そして双子のウィーズリーのようになってしまう、は遠回しに私が例のあの人と同じ道を辿ってしまう事を暗示している。嫌みな老人だ。

 

「ダンブル、ドア……ッ!!」

 

歯を食いしばりながら私は拳を握りしめる。

まるで忠告されたような気分だ……この学校でよからぬ事をすれば、儂が黙っていないぞ、と。いや、実際にそうなのだろう。彼は私に釘を刺しに来たのだ。だがだからと言って私が止まる事は無い。

 

上等では無いか、相手になってやる。ダンブルドア。今はまだ敵わないかも知れないが、いずれお前を超えてやる。

そう心に誓いながら、私は握りしめた拳で思い切り机を叩き付けた。

 

 

その夜、あまりにもダンブルドアの件がむかついたので私はペットのクロウをめちゃくちゃ愛でる事でストレスを解消していた。

別段手紙を送る相手も居ないので部屋の中で飼っているクロウは大人しく籠の中に入っており、泣き声など一つもせずに静かに窓の外を眺めている。そんなクロウの喉辺りを何度も撫でながら、私は大きくため息を吐いた。

 

「よしよし、クロウ、お前は良い子だね……」

 

あまりにも撫でまくったせいでクロウの毛は逆立ち、何だかライオンのようになってしまった。これはこれで可愛いのだけれどやっぱりクロウはスマートな方が可愛らしい。

というか先程からずっと撫でているのにこの子はちっとも嫌そうな素振りや泣き声を漏らす動作が見られない。何だか人形のようだけど、それも一つの個性なのだろう。

 

「今日はダンブルドアにしてやられたわ……でもいずれ目に物見せてやる。私があの老人を屈服させる日が、いずれ」

 

クロウの喉を撫でながら私は語りかける様に愚痴を零す。

ダンブルドアはきっとこれからも私の事を監視したり忠告したりするだろう。だが此処はあくまで学校の中、向こうだって思いきった行動をしてくる事はあるまい。だから、その間に私は力を付けてやる。

 

ひとまずの目標としてはスリザリンの得点を集め、私がスリザリン生の指揮権を手に入れる事だ。一人でも多く仲間が居る。マルフォイのような忠実な奴隷が必要だ。

その為にも私がこの寮を支配する必要がある。

 

「負ける訳にはいかない。誰であろうと」

 

握りしめた拳は杖を掴み、勢い良く振るって棚の上に置いてあった花瓶が破裂した。

花瓶の欠片が床に飛び散り、寝ていた生徒達が何事かと起きあがる。そんな光景を眺めながら、私は静かに瞳を燃やした。

 

 

 





感想や評価等が頂ければ幸いです。

何とか完結まで持っていけるようにしますので、これからもどうか宜しくお願いします。

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