闇のミス・ポッター   作:ガラス

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第2話:ホグワーツって楽しい所?

 

 

「いやぁ、それにしても二人共両親に本当そっくりだなぁ。まぁ性格は真逆だが……まるでリリーとジェームズが入れ替わったみたいだ」

 

私達は今ダイアゴン横町と呼ばれる所に来ている。見た事も聞いた事も無い奇妙な町並み。並んでいる商品も、通り過ぎて行く人達も皆普通とは違う。

そんな奇妙な場所で私とハリーは昨夜の来訪者ハグリッドと共に道を歩いていた。

 

ハグリッドはホグワーツの番人らしく、昨日は私達に入学案内の手続きなど諸々を教えてくれる為に来たらしい。その為、私達は今ホグワーツに通う為の必要な教材と道具を買う為に此処へ来ていた。

既にグリンゴッツという銀行でお金は下ろした。どうやら私達の両親はたんまりと貯金しておいてくれたらしい。今の私の懐はとても暖かい。まぁ、見た事も無い硬貨なのだけれども。

 

「そんな事良いから。ハグリッド。次は何を買うの?」

「うんにゃ、そうだな……次は杖だな。杖はオリバンダーの所に限るぞ」

 

私はハグリッドの言葉にふと疑問を感じた。

杖?それは演奏者などが使う杖と同じものなのだろうか?というか何故魔法使いに杖が必要なのだろう。確かに絵本とかで呼んだ時大きな杖を振るって魔法を使う魔女の姿が描かれていた時があったが……私は杖が無くとも魔法が使える。

 

「どうして杖が必要なの?別に無くても使えるじゃない」

「確かにある程度はな。でも杖があった方が色々便利なんだ。何より勝手が良い」

 

試しに尋ねてみたがあまり納得の行く答えが帰って来なかった。

要は杖を使う事で魔法の制御が出来たり、より強力になったり精密になったりするという事だろうか?でも絶対杖無しの方が楽だと思うんだけど……まぁ教材には必要みたいだし、素直に買った方が良いのだろう。

 

「おお見なされ、“生き残った双子”じゃ」

「あれがポッターさん達か……二人共両親にそっくりじゃのぉ」

 

オリバンダーの店へ向かう道中、私達は行く人々の視線に当てられた。皆が口を揃えて「ポッターさん達だ」と言い、じろじろと見て来る。まるで有名人でも見つけた様な反応だ。いや、実際そうなのだろう。

ハグリッドが言うらしく、私達はこの世界では有名らしい。何でも名前を呼んでは行けない“例のあの人”を倒したとかで。

 

そんな視線を横切りながら私達はようやく目的地に着いた。その際、ハグリッドは用事があると言って別の所へ行ってしまった。

私とハリーが店の中に入ると、奥から小柄な老人が現れた。その視線は曖昧で、私達を見ているようで別の何かを見ているような不思議な瞳をしている。

 

「おお、ハリー・ポッターさん。シェリー・ポッターさん。いらっしゃい。お二人ともご両親によく似ておられる……さぁ、こちらへ」

 

オリバンダー老人はそう言うと私達を近くに寄せた。そして棚から箱を取り出すと、中から杖を取り出し、それをまずハリーに渡して来た。

どうやら振って確かめろ、という事らしい。試着と同じ感じか。ハリーは少し戸惑いながらもゆっくりと杖を振るった。その瞬間、棚に置いてあった杖の箱が飛び散った。どうやら駄目だったらしい。

 

次にオリバンダーは私にも杖を持たせて来た。ハリーと同じ様に私もそれを振るうと、机の横に置いてあった大量の本が吹き飛んでしまった。ハリーと同じく、私も駄目だったらしい。

 

「ううむ、難しいお客達だ……次はこれを……あいや駄目だ! ではこれ……ううむ、これもいかんか」

 

それからオリバンダーは何度も私達に杖を持たせたがどれも駄目だった。

そのうち何とかハリーの杖だけは決まった。けれど私だけの杖だけは決まらなかった。これならいっそ杖は無くても良いんじゃないかと私が思ったその時、オリバンダーは突然動きを止め、店の奥へと行ってしまった。

 

それからしばらくして戻って来る、一本の小さな杖を持って来た。

真っ黒で、とても細い。鉛筆くらいの長さしかないその杖は他の杖と比べれば明らかに異質であった。恐る恐る私がオリバンダーからそれを受け取ると、突然激しい火花が散った。

 

「……ッ!?」

 

慌てて私は両手でその杖を抑え、何とか杖を落とさないように耐えた。

するとそのうち火花は収まり、杖はまるで私の体の一部になったかのように大人しくなった。

 

「おおー! 素晴らしい。どちらも杖に選ばれたようで良かった……じゃが不思議だ。不思議な事もあるものだ」

「何よ?不思議な事って……」

 

ようやく私達の杖が決まった事を見てオリバンダーは嬉しそうに声を上げるが、突然難しそうな顔をして顔を伏せてしまった。気になった私が問いかけ、ハリーも同じ様に興味がありそうだった。

オリバンダーは少し言いづらそうな顔をしてから、顔を上げてゆっくりと口を開いた。

 

「ハリー・ポッターさんの杖は傷跡を付けた者の杖との兄弟杖……世の中にはこういう不思議な事がある。そしてシェリー・ポッターさん。貴方の杖はもっと不思議だ」

 

オリバンダーはもったいぶるようにそう言った。

ハリーの杖が傷跡を付けた者の杖と兄弟杖……それは恐らく、皆が“例のあの人”と形容するヴォルデモートの事なのだろう。それよりも不思議だなんてとても想像出来ないのだが。

 

「杖には様々な逸話がある。ニワトコの杖程とは言わんが、その杖にはある言い伝えがあるんじゃよ」

 

オリバンダーは話している時も私の杖をじっと見つめていた。まるで杖自身に話し掛けているかのように、その瞳は決して私の事を捉えていない。

 

「“杖を所持せし者はその杖で裁かれる”……そう言われておる。気をつけなされ、きっと貴方は偉大な事をするでしょう。じゃが、大いなる事をすればそれだけの代償が返って来る」

 

オリバンダーはそれを最後にもう何も言わなくなってしまった。

お代を払い、私達は店を出る。そしてハグリッドが戻って来るまで私達はベンチの所で休憩を取る事にした。その間、私は先程買ったばかりの自分の黒い杖を見つめた。

 

十五センチという手で覆えば半分は隠れてしまう程短い杖。オリバンダー曰く、闇の魔術に適した杖らしい。闇の魔術というのがどういう物かは分からないが……あまりおおっぴらに人には教えない方が良い杖という事だろう。

 

後でこっそりオリバンダーに教えてもらったが、言い伝えだけでは無くこの杖には恐ろしい過去があるらしい。

はるか昔、様々な魔法使いが強力な杖を求めて争い事をしていた。そんなある日、この杖を持った魔法使いがたった一振りでたくさんの同族を殺し、争いを終結させた。

その者は“支配者”として君臨していたが、最後は兄弟に裏切られ、その杖を奪われて殺されてしまったらしい。

 

それからと言うもの、この杖の所持者はその杖を奪われて殺されるという事を繰り返し、最後は老衰した杖の所持者がオリバンダーに譲り渡したらしい。

所謂曰く付きの杖、という事なのだろう。まぁ、私は気にしないが。

 

「……何だか怖いね。僕達の杖って」

「そう?私はどうでも良いわ。どうせ杖は後々必要無くなるだろうし」

「え?何で?」

「杖無しの方が色々勝手が良いじゃない」

 

ハリーの何気ない会話に私は思わせぶりな事を言う。

確かにこの杖を初めて持った時、私はこれなら簡単に魔法を扱える事を実感出来た。だが所詮それは自転車に補助輪を付けているのと同じ。力を最大限に使うには杖無しの方が良い。

それに杖を持っていない方が相手は色々と油断してくれるだろうし。

 

「ハリー、シェリー、お持たせ。ほれ、誕生日プレゼントだ!」

 

しばらく待っているとハグリッドが戻って来た。その手には二つの籠が握られており、片方には真っ白な綺麗な梟が、もう片方には真っ黒で金色の瞳をした鴉のような梟が入っていた。

ハグリッドはハリーに白の梟を、私に黒の梟を渡して来た。別に嬉しいのだけど……何だか私のイメージカラーが黒になって来ている気がする。

 

「有り難うハグリッド! 僕、誕生日プレゼント貰うなんて初めてだよ」

「そうかい、喜んでくれるんなら俺も嬉しいよ。気に入ったか?シェリー」

「ええ……とても」

 

実際の所とても嬉しかった。誕生日の時に誰からかプレゼントを貰った事なんて一度も無いし、いつも奪ってばかりだったから。

それにしてもこの梟、随分と目つきが悪い梟だ。さっきからずっと私の事を睨みつけて来ている。これからの飼い主だというのに随分と無愛想な態度だこと。よし、この子の名前は“クロウ”にしよう。鴉みたいだからピッタリだ。

 

それから私達はホグワーツへ行く為の切符を受け取り、ダーズリー家へ帰る事になった。

どうせならこのままハグリッドと一緒にホグワーツまで行きたいのだが、どうやらそこまでは出来ないらしい。仕方なく私とハリーはあの家へと帰る事にする。

電車の乗っている中、ハリーはずっとハグリッドの事を見ていた。甘えん坊な事。私はそんな泣き虫な弟から視線を外し、瞼を閉じた。

 

それから月日が経つのは早かった。あっという間にホグワーツへ行く日がやって来て、私とハリーはバーノンの車に乗って駅まで送ってもらっていた。というよりも私が無理矢理車を出させたのだけれども。

駅に着いて車を降りた後、バーノンはニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 

「ほれ着いたぞ、さっさとお前達の目的地の九と四分の三番線に行くが良いさ。まぁ、あるならだがな」

 

そう言い残すとバーノンはさっさと車を走らせ、私達の前から去ってしまった。

ちっ……クロウとその他の荷物でいっぱいだから荷物持ちをやらせようと思ったのだけれど……まぁ送ってもらえただけでもマシな方か。

 

私はバーノンの言葉など気にせず歩き出した。ハリーもその後に続く。どうやらハリーは本当にハグリッドから貰った切符の九と四分の三番線が存在するのか心配らしい。

キョロキョロと周りを見渡して実にだらしない。そんな簡単に見つかったら魔法の神秘感などありゃしないと言うのに。少しは頭を使ったらどうなのか。

 

「さて……どうやって行くのかしらね。ハグリッドももう少し説明をしてくれれば良いのに」

「どうしようシェリー?もうすぐ出発時間だよ……早く九と四分の三番線を見つけないと!」

「うるさいわよ、ハリー。少しは冷静になりなさい」

 

慌ただしいハリーの頭を掴み、私はある方向にハリーを向かせた。

それは九と十と書かれたプラットホームの間の柵。一見なんの変哲も無い柵だが、しばらくすると一人の男性がその柵に向かって歩いて行き、そして消えてしまった。

やはり予測通りだ。先程妙な一家があの柵に向かって飛び込んで消えてしまったので、もしかしたらと思ったら……随分と子供騙しな魔法なこと。

 

「どうやらあの柵の間から行くようね。ハリー、先に行きなさい」

「えっ、何で……」

「ほら、早く。もしも失敗したら怖いでしょ」

 

そう言って私はハリーの背中を勢い良く押した。

無防備だったハリーはそのまま荷物と共に柵へと激突する……かと思いきや、突然ハリーの体は柵の中へとすっぽりと消え、その場から居なくなってしまった。

 

どうやら問題は無いらしい。私は安全を確認してから安心して柵の中へ飛び込んだ。すると、私の視界には先程と打って変わって別の光景が広がっていた。

紅色の蒸気機関車。ホームの上には“ホグワーツ行特急十一時発”。ホームを行き来する人々。どうやらここで間違いないらしい。

 

「び、びっくりした……いきなり止めてよシェリー!」

「うるさいわね。無事だったから良いじゃない。それより早く荷物を運ばないと乗り遅れるわよ」

 

ふと前を見ると地面に倒れているハリーの姿があった。どうやら停止に失敗してしまったらしい。そんな事気にせず私はさっさと荷物を汽車に運ぼうと歩き出した。

荷物を運び、汽車へ乗り込んで空いているコンパートメントを探す。そして手頃な場所を見つけると、私とハリーは互いに向かい合うようにして座った。

 

「おっと……この部屋はお邪魔だったかな?」

 

ようやく汽車が動き出してしばらくすると、私達のコンパートメントに二人の赤毛の男性が入って来た。どちらも同じ顔をしていて、すぐに双子だという事が割る。

 

「あれ?ひょっとしてその傷……君達“生き残った双子”かい?」

「ええ、そうよ」

 

片方の男が私達の額の傷に気づき、まさかという顔をして聞いていた。私は別に隠すつもりは無かったので、ハリーが頷いたと同時に返答した。

 

「奇遇だね。僕達も双子なんだ」

「まぁ君たちと違って有名じゃないけどね」

「でもホグワーツでは有名だよ。ある意味でね」

 

双子は交互のそう言うと最後にニヤリと笑みを浮かべた。その笑みは何だか怪しい。

二人はフレッドとジョージと言うらしい。代々魔法使いのウィーズリー家という家系で、たくさんの兄弟が居るらしい。今年も一人、私達と同い年の男の子が入学するようだ。

 

「それじゃ、僕達は別のコンパートメントを探すよ」

「二人がグリフィンドールに入ってくれる事を願ってる。じゃぁね」

 

ある程度会話をした後、双子はそう言ってコンパートメントを出て行った。

別れ際に言ったグリフィンドールとは寮の名前のようで、ホグワーツには四つの寮があるらしい。一年生は何らかの方法でそれぞれに適した寮の組み分けをされるそうだ。

 

勇敢で果敢な“グリフィンドール”。果てなき探究心を持つ“スリザリン”。賢く、聡明な“レイブンクロー”。優しき心を持つ“ハッフルパフ”。

フレッドとジョージはグリフィンドールらしい。確かに二人とも性格的にピッタリだ。私はどこになるのだろう?そもそもどのような方法で組み分けが行われるのだろうか?

 

そんな事を考え、暇になってしまったので私が窓の景色を眺めていると再び訪問者がやって来た。

扉が開かれ、青白い肌をした男の子が現れる。

 

「へぇ、本当だったんだ。この汽車にあの“双子のポッター”が乗っているって」

 

男の子はジロジロと私達を見ながら大袈裟にそう言った。断りも無くコンパートメント内に入って来て、子分らしき太った男の子達を引き連れて来る。

 

「僕はドラコ・マルフォイ。こっちはクラップとゴイルだ」

「律儀にどうも。もう知っているでしょうけど私はシェリー・ポッター。こっちが弟のハリーよ」

「やぁ……」

 

一応挨拶はされたので私も最低限の礼儀として自己紹介をした。

ハリーも男の子の態度に嫌そうな顔をしていたが、それでもペコリと頭を下げて挨拶をした。

 

マルフォイという男の子は見下ろしながらもう一度私達の事を見て来た。あまりにもジロジロ見られるのは嫌なのだが、今はあえて騒がず。マルフォイがどのような行動に出るのかを観察する。

 

「君たちは今までマグルの世界に居たから知らないだろうけどね、魔法界にも色々な一族がいるんだ」

 

優しさなのか、それとも単に自慢したいだけなのかマルフォイはそう言って突然魔法界の事について説明を始めた

魔法界では純血の魔法使いというのがあるらしく、代々魔法族の家系があるらしい。先程のフレッドとジョージと同じだ。

 

その一族の中でもマルフォイ家は特に強い権力を持っており、強力な魔法使いの一族らしい。

要は自分は凄い名門の息子だぞ、という事が言いたいようだ。

 

「まだ君たちは慣れているだろうから、僕が教えて上げるよ。友達として」

 

話しを終えたマルフォイは一呼吸吐くと私達の方に手を差し伸べて来た。

それは決して優しさでは無く、見下したお調子者の態度である。

 

「僕は……遠慮しておくよ。友達は自分で見つけられる」

「そうかい、それは残念だ。ミス・ポッターは?」

 

珍しくハリーが反抗し、マルフォイの手を振り払った。マルフォイは気に食わなそうな顔をしたが、すぐに私の方に手を差し伸べると優しい笑みを浮かべて尋ねて来た。

 

「私は御受けするわ。願ってもない機会だもの」

「ふん、君は話しが分かるようで良かった」

 

私は席から立ち上がってマルフォイの手を掴み、握手を交わす。

するとハリーは信じられないという顔をして私の事を見上げていた。

 

「でも……」

 

突然私はピタリと手の動きを止める。そして服の袖の中に隠してあった杖を抜き取り、マルフォイに向かって衝撃の魔法を放った。

 

「うわあぁああッ!?」

「私の方針では友達は作るものじゃなくて奪うものなの。だから対等になるつもりなんてないわ」

 

赤い閃光と共にマルフォイは後ろに吹き飛ばされ、扉に激突した。

何が起きたのか分からないクラップとゴイルは倒れたマルフォイと私の事を交互に見ながら慌てている。

そんな中、私は杖を横に振り払いながらマルフォイの前に立ち、そのだらしない姿を見下ろしながら口を開いた。

 

「貴方が私のペットになるって言うなら、考えてあげても良いわよ?」

「ぐっ……そ、そんなの認める訳……ッ!!」

 

私の言葉を聞いて顔を真っ赤にしたマルフォイは倒れたまま杖を抜き取ろうとした。だがその前に私がマルフォイの喉に杖を突きつけ、彼を動けなくした。

マルフォイはまだ抵抗しようとしていたが、やがて諦めたように項垂れると捨て台詞を残して去っていた。クラップとゴイルも慌ててその後を追う。

 

「シェリー、何で君あんな魔法が使えるの?」

「貴方は何の為に教科書があるのか知らないの?勉強する時間ならたっぷりあったでしょ」

 

ハリーの疑問に私はあっけらかんと答える。

最も本番で魔法を使ったのは今が初めてだけれども、と付け足しながら。

私は軽くをウィンクしてから杖を服の袖の中にしまった。

 

ふと気がつくとそろそろホグワーツに到着する時刻だった。時間とはあっという間だ。私はいそいそとトランクを開けて中から制服を取り出した。

 

「そろそろ到着する時間ね。制服に着替えるから、ハリー、貴方は廊下で着替えなさい」

「何でさ! 代わりばんこで良いだろ」

 

私が制服に着替えようと思ったので冗談半分でハリーにそう言ったら、まさかの正論で言い返されてしまった。

何だか最近のハリーは前と変わった気がする。自分の我を通す様になった。環境の変化があったからだろうか?

 

汽車を降りるとはハグリッドが居た。久々の再会を喜び、私達はボートへと乗り込む。すると私達の前には幻想的な城が姿を現した。

まさに絵本から飛び出て来たような城。景色に溶け込む様にそこに建っており、まるで巨大な山のようだ。

 

城に入って長い階段を昇ると、私達一年生はそこで待たされた。

目の前には巨大な扉がある。そして私達の前に一人の女性が現れた。エメラルド色のマントととんがり帽子を被った女性。しわくちゃなその顔と相俟ってまさに魔女という風貌だ。

 

「ホグワーツへようこそ皆さん。私は副校長のマクゴナガルです。これから組み分けの儀式を行います。ちゃんと身なりを整えておきなさい」

 

マクゴナガルという女性の先生はそう言うと簡単に寮の事について教えてくれた。

どうやら汽車の中でフレッドとジョージが教えてくれた通り、四つの寮はそれぞれの特徴ごとに分かれているようだ。

 

扉が開き、私達はマクゴナガル先生に付いて行きながら大広間に足を踏み入れた。

天井には空が、宙には蝋燭が浮いており、四つの長テーブルに上級生達が着席している。何とも幻想的な光景であった。

広間の上座にはもう一つ長テーブルが置かれており、そこには教師らしき人物達が座っていた。

 

長い髭を伸ばし、人当たりの良さそうな優しい顔をした老人。恐らく資料通りならばあれがこのホグワーツの校長。アルバス・ダンブルドア。

そして横にはハグリッドや漏れ鍋であったクィレル先生も居る。更にその横では……真っ黒な長い髪と、尖った鼻をした暗い男が居た。確か名前はセブルス・スネイプ。

そのスネイプ先生は、何故か私とハリーの事をじっと見つめていた。

 

「ABC順に名前を呼ばれたら帽子を被って椅子に座りなさい。組み分けはそれだけです……アボット・ハンナ!」

 

いよいよ組み分けの儀式が行われた。

どうやら中央に置かれた椅子に座り、頭に帽子を被るだけの儀式らしい。

それを知ってずっと緊張していたハリーはほっと安堵の息を吐いていた。心配性な性格だから、大方試験でもあると勘違いしていたのだろう。

 

「グレンジャー・ハーマイオニー!」

 

組み分けはスムーズに行われて行った。次々とマクゴナガル先生に名前を呼ばれて行き、生徒達がそれぞれの寮を告げられて行く。

ハーマイオニーという女の子は少し緊張気味に肩をすくめていたが、グリフィンドールと告げられると嬉しそうに頬を緩ませて上級生達が待つテーブルへと向かって行った。

 

「マルフォイ・ドラコ!」

 

汽車の中で会ったマルフォイも名前を呼ばれた。

ズカズカと生意気そうに歩き、椅子にドカッと座ると帽子が触れるか触れないかという距離ですぐにスリザリンと告げられた。

マルフォイは満足そうな顔をして上級生達の所へ歩いて行く。

 

「ポッター・ハリー!!」

「……い、行って来る」

「さっさと行きなさい」

 

とうとうハリーの番が来た。

ハリーはまだ緊張しているようで、足を振るわせながら椅子に座った。何とも情けない姿である。

帽子を被っても、ハリーがすぐに寮を告げられる事は無かった。組み分け帽子はただでさえしわくちゃな顔を歪ませ、困った様に唸っている。

 

「ふぅむ、難しい……勇気もあるし、頭も悪くない、才能もある……さぁて、どこにいれたものか?」

「スリザリンは嫌だ……スリザリンは嫌だ……」

 

組み分け帽子とハリーはブツブツと何かを言っていた。

不思議な事に、私はそれを聞き取る事が出来た。まるで私がハリーの側でそれを聞いているかのように、ハリーの声と帽子の声は耳元から聞こえて来た。

 

どうやらハリーはスリザリンに入る事を嫌がっているらしい。スリザリンの風潮と、マルフォイが入った事から嫌悪感を抱いているのだろう。

そして組み分け帽子は散々悩んだ後、ようやく声を上げてハリーが行くべき寮の名を叫んだ。

 

「グリフィンドール!!!」

 

ハリーの寮が告げられた瞬間、グリフィンドールの生徒達が歓声を上げた。

椅子に座っていたフレッドとジョージも席を立ち上がって「ポッターを取った!」と喜んでいる。何とも微笑ましい事だが、私には大袈裟過ぎるだろうと呆れさせる光景だった。

 

「ポッター・シェリー!」

「…………」

 

そしてとうとう私の番が来た。

落ち着いた足取りで進み、椅子に座る。そして頭の上にフワリと組み分け帽子が乗って来た。視界が闇で覆われ、帽子が話し掛けて来るように私の耳元で言葉を発する。

 

「うぅむ、この子も難しい……ハリーと同じ様に勇気も知恵も才能もある……だが、君は何かが違う」

 

組み分け帽子の表情は分からないが、彼が今とても困っている事は声色だけで分かった。

先程のハリーと同じ様に帽子は何度も呻き声を上げる。その間も私の心は静かに落ち着いていた。

 

「何かが違う?それってどういう意味?」

「ハリーはまだ持っていない物だが、君はもう持っている……君には何か、“野望”があるね?」

「…………」

 

一瞬私は喉を詰まらせた。まるで組み分け帽子が私の心を覗き込んでいるように思えたのだ。

いや、実際そうなのかも知れない。この組み分け帽子がどのような構造をしているのかは知らないが、この帽子が生徒達の何かを読み取り、寮を選んでいるのだ。ならば心が読めても何ら不思議な事は無い。

 

「君はきっと偉大な事をするだろう。そう、名前を呼んではいけないと言われている“例のあの人”と同じ様に……己の望みを叶える為に、どんな犠牲をも厭わず己の目的を成就させる」

 

帽子は語りかけて来るように私にそう言って来る。

名前を呼んでいけない人……ヴォルデモート。私の額に傷を負わし、両親を殺した男……その人と、私が同じ。

私の中で妙な感情が渦巻く。

 

「その“例のあの人”は……どの寮だったの?」

「スリザリンだ」

「そう……なら……」

 

これで分かった。私の行くべき道が。

例のあの人と私が同じ。という事は私の中で渦巻く感情はきっとそういう事なのだ。

今までずっと他者を蹂躙し、己の下僕としてきた……それは単なる私の趣味だと思っていたが、そうでは無かった。これは本能だったのだ。私の心の奥底に眠る野望。

ーーその答えがようやく見つかった。

 

「スリザリン!!!」

 

組み分け帽子が高らかにそう宣言する。

その瞬間スリザリン生から歓声が湧いたが、グリフィンドールに居たハリーは心底驚いた表情をしていた。何故か校長のダンブルドアも、横に居るスネイプも……誰もが不思議そうな顔をして私を見ている。

 

何を驚く必要があるのだろうか?私が親の仇のヴォルデモートと同じ寮なのがそんなに不思議なのだろうか?いいや、これは何ら意外な事では無い。

 

こうなる事は最初から決まっていたのだ。私は愛は奪う物だと知っている。この世界では誰も愛を与えてくれないし、優しく手を差し伸べてくれる人も居ない。だから自分で奪うしか無いのだ。

ヴォルデモートは世界を支配しようとした。ならば私は奪ってみせよう。愛を、魔法界を、全てを……この手で支配する。

 

 

 






誤字脱字などがありましたら報告してくれると助かります。
更新は偏りますが、ぼちぼち続けて行こうと思います。

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