騎士王がロキファミリアに入るらしいですよ 作:ポジティブ太郎
「テメェ………!」
ベートは、険しい表情で両の目を細める。
二人の間に沈黙が訪れた。
――き、気まずい。
よりにもよって、今一番会いたくない相手と会ってしまいました。
件の冒険者ベートの登場に戸惑いを隠せないアルトリア。
話さなければならないと自身を急かす思いに反し、重い口を開くことが出来ない。
「あの………」
とりあえず何か言わなければと、言葉を発しようとしたアルトリアだったが……
「おい……少しツラ貸せ」
ベートが一言静かに告げた。そのまま中庭へと歩いていく。
アルトリアは、ベートの後を追う。
館内へと繋がる外階段に腰を下ろす二人。普段人目につきにくい場所であるためだ。
両者の間には、依然として緊迫した雰囲気が漂っている。
「俺は………」
沈黙を破ったのはベートだった。
言葉を続ける。
「俺は、テメェを雑魚だと思ってた。だが、俺はテメェに負けた」
固く握られた拳が、微かに震える。
「戦う前から俺は、テメェに負けてたんだ。実力を見極める事もしなかった。テメェを雑魚だって言った事は謝る」
「ベート………」
己の過ちを悔いるように口を歪める。
だが、確固として譲れないとばかりに言う。
「今後、考えを変えるつもりはねぇ。雑魚は雑魚だ。この都市には、自分の力を過信した下級冒険者なんざ幾らでもいる。俺は、認めねぇ……絶対に」
「……………」
ベートの揺るがない信条を目の当たりにしたアルトリアは、黙考する。
これ程弱者を見下す……いや、認めない理由は何なのか?
どんな経緯でこの様な考えを持つようになったのか?
「あなたが、何故そこまでして弱者を認めないのか……私には分かりません。ですが、今回の件で私とあなたの間に出来た蟠りを残したくありません。ベート、怒りにまかせた行動の数々許してくれますか?」
「あれは、ただの決闘だ。謝るんじゃねぇ」
顰めっ面で苦々しく言葉を吐き出す。
いつしか二人の間には、緊迫した雰囲気は漂っていなかった。
アルトリアは、口元を微かに和らげた。
「テメェ……何笑ってやがる!」
「いえ……ベートあなたは、私が思っていたよりも素直な人だったんですね」
「あァ!! そりゃどーゆう意味だコラァァァァ!!!」
今なら、ロキの言っていた「ツンデレ狼」という意味が分かるかもしれない。
性格は、捻曲がっているものの根は優しい。そんな気がする。
ギャアギャアと叫びちらしているベートに、アルトリアは笑いかける。
「ベート。昼食まで、まだ時間があります。どうです? 一緒に鍛錬でもしませんか?」
「……いいぜ。やってやらァ……おい、勘違いするんじゃねーぞ。あくまで、俺個人の為だ他意はねぇ。っておい! 何笑ってやがる!!」
――ほら、やっぱりツンデレじゃないですか。
心の中で一人、アルトリアは呟いた。
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とある地下空間。
松明の仄かな光に照らされる祭壇に座る巨躯の老人。
それに向かい合って立っている全身を黒のローブで覆い隠す人物。
二人の人物の姿がそこにあった。
「神ウラノス。良い知らせがある」
「何だ」
ウラノスと呼ばれた老人は、彫刻のように表情一つ変えることなく応える。
「深層の件だ。使えそうな冒険者が見つかった」
声音からは、興奮と期待の色が伺える。
「……冒険者の名前は?」
「アルトリア・ペンドラゴン」
ウラノスの表情が動く。
「
「……ウラノス。接触の許可を」
「…………許可する」
「ありがとう」
黒衣の人物は、感謝の念を伝え、地上へと向かう階段へと歩みを進めた。
「ウラノス。私は、驚いているんだ。外界の新たな可能性を。アルトリア・ペンドラゴン……彼女のような異端者が時代を変える。そんな予感がしているんだ」
そう言い残し、闇の中へ溶け込んでいった。
ご読ありがとうございました。
次回以降からは、再び新章に入ると思います。