騎士王がロキファミリアに入るらしいですよ   作:ポジティブ太郎

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二十五話 猛者VS騎士王

 オラリオの片隅で響く、剣戟の音。

 大剣と長剣が円弧を描きながら、幾度と無く交じり合う。

 

 決闘の最中アルトリアは、剣を交わしている獣人の格好に違和感を感じていた。

 2Mは優に超える巨躯でありながら、身に纏う装備は体格には不釣合いな軽装(・・)。 

 必要最低限の箇所――胴や肘、膝にプロテクターを着けている状態だ。

 自分に絶対の自信を感じているのか。それとも……

 

 ――手を抜いている……? 

 自分を侮っているのではないか?そんな疑問がアルトリアの中で生じた。

 ともすれば、騎士道に外れた行いをされていることに対する怒りを覚えていた。

 決闘を嗾けておきながら、相手を侮るような真似をするのだから。

 

「……その装備。私を侮っているのですか……!」

 

 上段から切りかかりながら叫ぶ。

 

 

「違う。これは俺、本来の装備だ。抜かりはない……」

 

 両手で握られた大剣で攻撃を受け流す獣人。

 声音からは、武人としての誇りと相手への敬意が感じられる。

 問答を終えた両者は再び距離を取る。

 未だ男の真意を分かりかねたが、一つだけ。

 アルトリアは感じていた。男の実力を。

 

(一撃一撃が途轍もなく重い。おそらくはアイズいえ、フィンよりも……! ならば、恐らくこの人は)

 

 ――【第一級冒険者】

 

 

 漂う雰囲気、風貌、基礎能力、技と駆け引き。

 【ファミリア】の団長であるフィン同等、もしくはそれ以上。

 それほどまでに、この冒険者は強い。

 

 

 アルトリアは、深く息を吐いた。

 瞑目し、全身の力を抜いて脱力する。

 再び目を開き、直線上に佇む相手を見据える。

 そして。

 

 

 肉体強化のために常時発動している【魔力放出】の出力を更に上げる。

 竜の因子によって、魔力の回復の効果があるとはいえ消費分を賄いきれる訳ではない。

 いずれは、魔力枯渇(マインドダウン)が起こり戦闘不能になってしまうだろう。

 だが。

 

 

「……はあぁぁぁぁっ!!」

 

 陽炎の如くアルトリアの姿が揺らめく。

 瞬間、接近――相手の胸元に現れ切り上げを繰り出す。

 

 

 諸刃の剣故の恩恵。今まで互角(・・)だった戦いの均衡が破られる。

 

 

「ッッ! ぐっっ!!」

 

 胸元を切り裂く寸前で交わすが、胸を守っていた軽装が剥落する。

 この攻撃を交わせたのは、直感。

 視界から消えた瞬間に、感じた殺気。

 姿を現した際に瞬きをしていなかった事が幸いだった。

 

 先までとは一線を画す速度(はやさ)膂力(ちから)に体をよろめかせる獣人。

 体勢を立て直すも間髪入れずに、刺突の嵐が襲い掛かる。

 大剣の腹で防ぐも、少しづつだが確実に押されている。

 武器が悲鳴を上げ、亀裂が波紋状に広がっていく。

 アルトリアの猛攻を危惧した獣人は、強引にでも攻撃を止めようと大剣を地面に叩きつける。

 屋根が崩れ落ち、足場を失った両者は狭い路地裏へと飛び移った。

 

 息一つ乱れぬ少女と、疲労を隠しきれず、膝を着き、肩で息をする獣人。

大剣を支えに、ゆっくりと起き上がり。

 

「…………一つ教えて欲しい。その『力』一体どうやって手に入れた……? どれほどの『冒険』をした……!」

「私は、理想を追い求めてきただけです。この『力』は、理想を実現するための結果に過ぎません。ですから、あなた達冒険者とは、違います」

 

 話を聞いて瞠目する獣人。

 【冒険】によって、培われた実力ではないと断言した少女。

 一体どれほどの環境で生きれば……、もはや、想像し得ない。

 

 獣人は剣を構え直し、アルトリアを見据える。

 

「武人として、お前の様な強者と手合わせできる事を誇りに思う。俺の名前は、オッタル――【フレイヤ・ファミリア】の団長を務めている」

「私の名前は、アルトリア・ペンドラゴン。【ロキ・ファミリア】所属です」

 

 互いに名を伝え、最後の時を待つ。

 数瞬後、地面を蹴りつけ距離を詰める。

 頭を叩き割らんと振り下げられた大剣と、下から向かえ打つ銀の剣閃。

 火花を撒き散らし、甲高い金属音が響き渡る。

 その時勝負が着いた。蓄積された損傷に耐え切れず、真っ二つに割れる大剣。

 両膝から崩れ落ちる獣人。

 

 立っていたのはアルトリアだった。

 突然勝負を挑まれ、やむを得ず望んだ決闘だったが。

 男――オッタルの武人としての生き様を垣間見た気すらしていた。

 アルトリアは、意識の無いオッタルに一言。

 

 

「私は、先に行きます。あなたは……強かった。今度は『冒険者』として、あなたに挑みます」

 

 それだけ告げると足早にその場から去るアルトリア。

 意識のないオッタルの口元が微かに和らぐ。

 まるで、アルトリアの言葉を聞き届けたとばかりに。

 

 

 オッタルとアルトリア。二人による決闘の幕がここに下ろされた。

 

 

 




ご読ありがとうございました!
次回、アイズ視点の話になると思います。

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