騎士王がロキファミリアに入るらしいですよ   作:ポジティブ太郎

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しばらく投稿お休みしてすいません。


二十二話 『英雄』の条件

ダンジョン6階層。

 白髪の少年――ベルが2対の黒影との死闘を繰り広げていた。

 頭の天辺から足先まで黒一色。人型でありながら頭部は円鏡の真ん中に十字が刻まれたような形状。

 両手の先に備わったナイフを彷彿とさせる鋭利な爪。

 

 怪物の名は――【ウォーシャドウ】。

 

 ベルの白髪をウォーシャドウの爪が掠めていく。

 前後からの不規則な攻撃を紙一重でかわす。

 多対一という不利な状況も相まって、少年は劣勢に立たされ始めた。

 胸元に放たれた突きをナイフで弾こうと試みるが。

 

「グッ――しまった……!」

 

 甲高い金属音を響かせながらナイフが手から離れる。

 そのまま地面を滑りながら落ちていった。

 

 唯一の獲物を失ったベルは、絶望に顔を歪めるが何かを思い出したかの様に再燃する。

 トドメを刺さんと飛び出したウォーシャドウに、カウンターの如く拳を打ち込む。

 拳は怪物の顔面を貫き、そのまま灰と化した。地面に落ちた獲物を手取り、続けざまに駆け出す。

 遠距離から伸びた腕の先にある三指が頬を切り裂く。

 すれ違いざま、ベルのナイフがウォーシャドウの魔石を貫いた。

 

 死闘を終え安堵するのも束の間、前触れもなくダンジョンが揺れた。

 横壁が隆起し、単眼の蛙――【フロッグ・シューター】が出現する。

 その数四匹。先の戦いで疲弊しきった体には手に余る数だ。

 

 ふらつく体を支えながら、再び一戦交えようとするベルだったが。

 

 目の前の怪物が視界から消えた。いや、薙ぎ払われた。

 横合いから放たれた突風によって。

 

 

 首をゆっくりと動かし、振り返るベル。

 そこには。

 

「大丈夫ですか、ベル?」

 

 金髪碧眼の剣士――アルトリア・ペンドラゴンの姿。

 

 その言葉を最後にベルは意識を手放した。

 

 

********************************

 

 私はダンジョンから地上に戻り、ベルをバベル内に併設されたベッドに寝かせていた。

 

 酒場でのベートの行為に思わず、激昂して手を出した……。そこまでは覚えているのですが。

 その後の記憶曖昧なのは何故でしょう? ベートを半殺しにした様なしなかった様な……。

 とにかく、気づいてみれば右手に『じゃが丸君』の箱を大量に持っていたままダンジョンの中で突っ立っていた。こんなファストフードの王様のような食べ物を買った事に大きな疑問を感じながらも聞こえてくる叫び声の元に駆けていったら、ベルが戦っていた。恐らくは、酒場の一件が関係していた、のでしょう。

 

 多少の罪悪感を感じながら、ベルの寝顔を静かに見つめる。

 微かに眉が上下したかと思うと、ベルは目を開けた。

 

「ん、んぁ……ここは……?」

「目が覚めましたか? 安心してください。ここは、バベルです。もうダンジョンの中ではありません」

 

 ベルの顔が固まってしまった。何か不味い事でも言ったのだろうか?

 

「え、えぇっ!! あ、アルトリアさんっ!? 何でここに!?」

「ダンジョンで倒れかけていた貴方をここまで運んできたんです」

 

 状況を説明した直後、病み上がりの体ながら全力の五体投地――土下座を行なうベル。

 無論、怪我に響いては困るので止めましたが……。

 

 まだ手を付けていない『じゃが丸くん』を箱から取り出しベルに手渡す。

 食欲はあるのか直ぐに平らげてしまった。

 

 試しに一口食べてみる。

 ……う~ん。失礼ですが、そこまで美味しくはありませんね。どうしても手抜き料理として見てしまいます。

 士郎と一緒に食べたハンバーガーショップのフライドポテトに似ている味でした。そうそう、あれも……。

 

 などと、一人で料理の評価を付けていた私に何か言いたげな顔でベルは見つめていた。

 

「ベル……。すみませんでした。ベルがこんな事になったのは私が…」

 

 自然と口から出てしまう。貴方をこんな目に遭わせた原因は自分だ、と。

 直接の原因が自分にないとはいえ、仮にも仲間がベルを傷つけたことには変わりはない。

 

「なっ! 謝らないでください! 僕が弱いのは事実ですし……。その獣人の人――ベートさんの言っていたことは間違ってない、と思いました」

「ですが、貴方はまだ駆け出しです。弱いのは当然ではないですか!」

「……あのアルトリアさん。笑わないで聞いてもらえますか?」

「? はい。何でしょうか?」

 

 呼吸を整えて、ベルはゆっくりを口を開く。

 

「僕は、『英雄』になりたいんです!」

「『英雄』、ですか?」

「はい。昔読んだ童話に出てきた英雄の様になりたい。それが、僕の夢です」

 

 ベルの告白に驚愕を受ける反面、言いようのない感情を覚えていた。

 

 『英雄』。生前――アーサー王としてブリテンを統治していた時代。

 人々から、【ブリテンの英雄】と呼ばれていた時期もあった。

 祖国が滅んで『英霊』として、私は聖杯戦争に参加した。そして、敵対する英霊たちと出会ってきた中で気づいたことがある。

 『英雄』と評される者たちの末路は、必ずしも良かった訳ではない。

 むしろ悲惨な最期を迎えた方が多かった。

 正義の味方を志し、人々を信じ続けたが最後には裏切られた放浪者。そして、滅び行く祖国の運命を呪いながら死んでいった国王。

 

 少年と自分の思い描く『英雄』の姿は決定的に異なっているのだろう。

 私はあくまで、目的の道程において付いてきた『英雄』の称号。

 片や自分の人生の目標として定められた『英雄』。

 

 今、私が言えること……それは。

 

「ベル……。『英雄』になれるといいですね」

 

 ――いや、きっとなれる。

 確証はありません。でも、きっと『英雄』になれる。

 私の直感は良く当たりますから……。

 

「はい! あの、アルトリアさん。今日は、助けていただいてありがとうございました! それと、あの、やっぱり今の話は聞かなかった事に……」

「え? 何故です?」

「だ、だって! やっぱり、恥ずかしいじゃないですか~~~!!」

「そんな事はありません! 立派な目標です。それに安心してください、秘密にしますから。勿論アイズにも言いません!」

「ア、アルトリアさ~~~~~~~ん!!!!」

 

 ベルが泣き顔で私の足を掴んでくる。

 少し冗談が過ぎてしまったでしょうか? 

 

 その後、再び眠りに沈んだベルを抱きかかえ彼【ファミリア】のある教会へと足を運んだ。

 どこかで見たことのある様な幼女神にベルを預けると。

 「是非僕のファミリアに入らないかい!」と、これまた聞き覚えのある熱烈な勧誘を受けたが、断らせてもらった。私には帰る場所がある。早く帰らなければ皆が心配するでしょうし。

 

 そう、早く戻って確認しなければ。何故か、通りがかる人々から見世物のように見られている理由を。

 きっと、昨日の一件で何かあったのだろう?と、この時は思っていた。

 

 

 勿論、今の私は知る由もなかった。事の原因は、自分にあったという事を。

 

 




2章完結とさせていただきます。
次回からは、三章の怪物祭編に入りたいと思います。

ご読ありがとうございました!

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