騎士王がロキファミリアに入るらしいですよ 作:ポジティブ太郎
酒場『豊穣の女主人』の店先には異様な空気が立ち込めていた。
都市最大派閥【ロキファミリア】の団員同士による喧嘩の勃発。
それも、Lv2対Lv5の団員が戦うというもの。
普通なら、勝負にすら為らず蹂躙されるのがオチだと決めつけるだろう。
彼らもそうだった。アルトリアの姿を見た冒険者達。華奢な少女が凶悪な獣人に立ち向かっている無謀な絵。
彼らの目はそう捉えていた。だが‥‥‥。
「フィン止めなくて良いのか?」
「いや、必要ない。冒険者同士の喧嘩に僕達が乱入するのは野暮ってものさ。いざとなったら、入ればいい。‥‥‥リヴェリア、二人の近くにいる人達を避難させてくれ」
リヴェリアの問いかけに飄々と答えるフィン。他の冒険者達が二人の戦いに巻き込まれないように、注意を促す。
他の団員達も二人の緊迫した状況を傍観している。
「アルトリアーー! 頑張れっーー!!」
「フフッ。何だか面白くなってきましたね、団長♥」
「どうなるか‥‥見ものじゃの~~」
「アルトリアさ~~ん! 頑張ってくださーい!」
「‥‥‥‥アルトリア、頑張って」
瞠目し、様子を見守る者。声援を送る者。団員皆この喧嘩に視線を集める。
その中でも、一つ言えること‥‥‥声援が送られているのは、アルトリアのみ。
――中々に不遇なベートであった。
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「吹っ飛ばしてやらぁぁ!!」
ベートが自前の脚を持ってアルトリアに肉薄した。
溜めた右足を振り抜き、アルトリアの胴めがけて繰り出す。
アルトリアはバックステップを踏んで躱す。脚先が彼女の鼻先を掠る。
ベートは忘れていた。団長フィンとの決闘を制した姿。ダンジョン遠征で【ファミリア】の危機を救った姿。Lv2の分際でシャシャリ出る雑魚程度の認識であった
ベートは、自身が持てる最速の攻撃を躱された事に対する衝撃を受ける。
自分とアルトリアの間には、埋まるはずのないステイタスの差がある筈だ。
Lv2風情が見切れる速さではない。
ベートは、再び駆け出す。蹴り上げ、踵落とし、横蹴り‥‥‥‥。
見切ったとばかりに避け続けるアルトリア。背中に携えている得物を抜くこともせず、回避に徹する。
ベートは戦慄した。
Lv差の問題ではなかった。自身の攻撃を短時間で見切られ、当てることすら困難になっている。 戦闘への適応力。反応速度。どちらも一線を画していた。
それは、積んできた経験値の違いを明確に現しているかの様に。
「クッソ――ガッッハァ!!」
焦燥に駆られ、動きの単調さが出てしまう。
大振りの蹴り上げ。アルトリアは、蹴りをすり抜け懐へ潜り込む。そのまま鳩尾に鉄拳を打ち込む。鉄槌で殴られたかの様な衝撃に、ベートは体をくの字に折り曲げた。
酸素を搾り取られ、肺が悲鳴を上げる。口からは吐瀉物が溢れ、膝に力が入らない。
余りに呆気ない幕引き。第一級冒険者が為す術なく地に沈んだ。
倒れるベートに注目が集まる。Lv2に為す術なく打ちのめされた第一級冒険者。
―― 傍観者達の目にはそう映っていた。
薄れ行く意識の中でベートは、考えていた。
雑魚呼ばわりしていた相手に為す術無く叩きのめされた自分。
アルトリアの入団以来、フィン達幹部から贔屓されていた彼女に嫌気が差していた自分。
全部、傲りだ。先の彼女の言葉が全てに当てはまっている。雑魚と決めつけ、眼中にも入れてなかった。負けたのは、必然だったのかもしれない。技、駆け引き、積み上げてきた経験値。比べ物にならない。
ベートは、苦悶に歪んだ顔を酒場の入り口へと向ける。視界に映るのは、金髪金眼の少女。
少女の目に映っているのは、自分ではなく、自身の目の前に立つLv2の少女。
ベートの瞳に再び光が宿った。認めさせたい女が自分には何の関心もない素振りを見せている。それどころか、女に一方的に熨され、地べたに這いつくばる情けない自分。
――我慢ならなかった。
目の前の相手は雑魚じゃない。歴とした『強者』。
傲りは捨てる。
目の前の相手に勝つ。それだけ。だから‥‥‥‥。
「ウォオオオオァァァーーーーーーーーーーーーー!!!!」
雲に隠れた月が姿を現す。描くは円弧――満月。
ベートの姿が変貌していく。その姿は、紛うことなき獣人。
【凶狼】。その二つ名にふさわしい姿だった。
彼のスキル――【
一定の条件下、満月の夜に月の光を浴びる事によって『獣化』する。
超高アビリティ補正。状態異常無効。
覚醒した姿でアルトリアに突貫した。
一瞬。ほんの一瞬。アルトリアは反応が遅れた。
先のベート動きに合わせて回避を行ったためだ。
覚醒を遂げたベートの速度はその比ではない。
ベートが伸ばした手はアルトリアの髪を掴んだ。頭の天辺に生えている
ベートは駒の様に回転し、その遠心力でアルトリアを投げ飛ばした。
地面を刳りながら、飛ばされる。近場にあった店を突き破り、砂塵が舞う。
アルトリアが動く気配はない。ベートは自身の右手が何かを握っていることに気づく。
金色の毛――アルトリアのアホ毛が手中に収まっていた。
綺麗に一部分だけスッポリと。
掴んだ毛を無造作に道端に捨て置き、追撃を試みようとしたその時。
ベートは砂塵から現れた人物に驚愕し立ち尽くした。
「何を戸惑っている? 勝負はまだ終わってないだろう? さぁ、来い」
黒の瘴気を全身帯びたアルトリア。
青色の装束に銀の鎧を付けた姿は何処にもない。
黒尽くめの禍々しい鎧。青緑色だった瞳は、金色へと変貌していた。
凍てつくような声音でベートを戦慄させたのは‥‥‥アルトリア
――暗黒の王が目の前に佇んでいた。
すみません! ベートvsアルトリアの回ですが、前後編で書いていくことにしました。
字数的にも厳しかったので(汗)。
次回は、無慈悲な暴君 vs 覚醒狼です。
ご読ありがとうございました!