騎士王がロキファミリアに入るらしいですよ   作:ポジティブ太郎

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普段の文章量を大幅に超えてしまいました(汗)
書きたい描写が山程あったので‥‥‥‥。



十九話 事件勃発

 清涼な風が肌を撫ぜる早朝。

 アルトリアは、ギルド前に一人佇んでいた。

 そう、彼女はLv2になっていたのだ。

 当然といえば当然。Lv1にして深層遠征への参加、そして帰還。

 

 前代未聞の事態だ。ロキ自身覚悟していたことではあったが、史上最速のランクアップ。

 その過程がどのような物だったのかを問われれば答えようがない。

「深層に放り込んで戦わせたらレベルアップ~」だなんて答えた日には、他の神々からの関心の的となるのは必然。

 だから、ロキは虚偽の事実を作った。サポーターとしての遠征参加。戦わずともLv1の冒険者が深層から生還した、と。器の昇華には充分足る実績だ。

 

 ロキの言いつけ通りアルトリアは、その捏造された事実を伝えるためギルドにやって来たという訳だ。

 

 ギルドの入り口を足早に通り抜け、以前の担当であった受付嬢(エイナ)の元へと足を進めようとしたが。

 

「エイナさんッ! 今日は3階層まで行きました!」

「なっ、ベルくん! 2階層から下は行っちゃ駄目って言ったでしょ! 君、忘れたの? 昨日、5階層まで勝手に降りてミノタウロスに襲われたこと‥‥」

「い、いえッ! 勿論、覚えてますけど‥‥‥」

「まったく‥‥‥ヴェレンシュタイン氏に憧れるのは分かるけど、そこまで急ぐ必要はないんじゃないの?」

「‥‥‥‥は、はい‥‥」

 

 一人の冒険者とエイナが話をしていた。

 中肉中背の白髪の少年。茶色のコート。ひと目見た感じでは、如何にも純粋な少年といった感じか。

 

 アルトリアは、思い出した。昨日の少年だ。

 アイズが助けた白髪の少年。顔中が返り血で赤く染まっていたため、直ぐには気づかなかったが話に出てき「ヴァレンシュタイン」というアイズの姓。間違いない。

 

 アルトリアは、受付席へと向かう。少年の横に立ちエイナと向かい合った。

 

「おはようございます。エイナ」

「おはようございます! アルトリアさん。今日はどのようなご用件で?」

「あの、先日ロキに言われたのですが‥‥‥レベル2になったのでその報告に」

「‥‥‥‥‥‥ん? 何のレベルですか‥‥‥?」

「冒険者レベルです」

「‥‥‥‥‥冒険者になったのっていつですか?」

「2週間前ですね」

「‥‥‥‥‥‥何、したの?」

「ファミリアの深層遠征に参加しました。とは言っても私はサポ」

「えぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 エイナの甲高い絶叫が響き渡る。

 約2週間での最速ランクアップ――明らかに異常だ。

 深層遠征への参加――アリエナイ。

 仮にだ。仮に、もしこれらの報告が事実ならばギルド長にどう報告できようか?

 他の冒険者達に同じことをやれと言えば、それは自殺教唆に等しい。

 

 エイナは願った。この報告が少女――アルトリアの嘘でありますように、と。

 

「ア、アルトリアさん。嘘はついていません、よね?」

「はい。でも私はサポー」

 

 言葉の最中、バタリという音が聞こえた。

 目の前に居たはずのエイナの姿がない。

 彼女は卒倒していた。許容できる範囲の事実を軽く超えられ、精神に多大なダメージを負ったためだ。

 アルトリアもまた焦っていた。自分がサポーターである事(嘘)が伝わっていない、と。

 

 ロキの画策も水の泡。エイナとアルトリアの間で起きたすれ違いは、都市に波紋を呼ぶ結果になった。

 

 

 

 

「あっ、あの!」

 

 ギルドから立ち去ろうとしていたアルトリアの背から、自身を呼び止める声が聞こえてきた。

 緩慢な動きで振り返ると、場には先程の白髪の少年。

 

「す、凄いですね! 同じレベル1なのに僕とはぜんぜん違う‥‥‥。あの、何処の【ファミリア】に入ってるんですか?」

 

 少年は尊敬の眼差しでアルトリアを見つめる。

 アルトリア本人は何の躊躇いもなく答えた。

 

「【ロキ・ファミリア】です」

 

 少年の体が硬直した。徐々にその顔が曇りを増していく。

 瞳に溜まる涙。戦慄く口元。

 少年は‥‥‥‥。

 

「こ、殺さないでくださいぃぃぃぃ!!!!」

 

 直上跳躍。そのまま着地と同時に全身全霊の五体投地を行う。

 かの少年――士郎のいた国では土下座と呼ばれる謝罪の際に行う行為だ。

 

 アルトリアは動揺する。少年が何の脈絡もなく行為に及んだからだ。

 

「殺しませんよっ!! ど、どうしたんです?」

「いえッ! 先日、ある【ロキファミリア】の団員の方に助けて貰ったのに逃げ出してしまって‥‥‥」

「もしかしてアイズが、貴方を助けたあの‥‥‥」

「知ってたんですか!?」

 

 少年は驚愕で更に青白い顔になる。アルトリアは、自他ともに少年を恨んではいない事、寧ろ事件の原因は自分たちにあると謝罪をした。

 

 それとアルトリアは、一つ気になっていた。

 未だ百面相を続ける少年に問いかける。

 

「アイズについて気になっているようですが‥‥‥何かあるのですか?」

「へっ!? い、いえ! そんな何もあるわけないじゃないですか!!」

 

 足をモジモジと揺らし、顔をトマトの様に真っ赤に染め上げる少年。

 アルトリアの直感が働く。王の直感に死角はない。

 アルトリアは、考えた。少年はアイズと接したいのだろう、と。

 普段の彼女ならば絶対にしないであろう、含みのある笑みを浮かべ静かに言った。

 

「今日【豊穣の女主人】という酒場で遠征の打ち上げをするんですが、アイズもその場に来ますよ」

「えぇっ! ほ、本当ですか!? やった、じゃなくて!! ありがとうございます!」

 

 純粋な少年の笑顔が弾けた。

 少年と共にギルドを後にする。そして、別れ際。

 

「あ、あの! あなたの名前は?」

「私、ですか? 私の名前は、アルトリア・ペンドラゴンです」

「‥‥‥‥アルトリアさん。僕の名前は、ベル・クラネルです。今日はありがとうございました!」

 

 九十度のお辞儀の後、少年は街の人混みへと溶け込んでいった。

 アルトリアは、心が澄み渡っていく感覚に陥っていた。

 今日の打ち上げの場に少年が来る事を想像しながら、ホームへの帰路に着く。

 

 だが、彼女は知る由もない。

 今夜起こる事件、そして酒場に満ちる冒険者達の悪意を。

 

 

****************************

 

「皆! 命懸けの遠征は終わった! 今日は宴だ盛大にやろう!」

 

 フィンの音頭で宴が始まる。安酒(エール)を煽るように飲む古参兵(ガレス)

 そんな彼を白い目でみる美麗のエルフ(リヴェリア)、そんな彼らの様子を涼しげな顔で傍観する小人族(フィン)。さしもの首脳陣も今日ばかりは、多少の羽目を外している。

 

 アルトリアもまた楽しんでいた。目線の先には縮こまった白い影。

 今朝の少年――ベルの姿が酒場にあった。

 視線はアイズに向けられている。アイズ自身、彼の様子に気づいてはいないが。

 

 

 宴も終盤に差し掛かる。酒が回り、団員達のテンションも最高潮に達していた。

 そんな時だった。事件が起こったのは。

 

 

「そうだ、アイズ! お前、あの話を聞かせてやれよ!」

「‥‥‥‥あの話?」

 

 アイズの2つ右に離れた席のベートだ。

 

「ほらっ! あれだよ! 5階層で始末したミノタウロス、そん時にいたトマト野郎!」

 

 ベルの体がビクリと震える。

 アルトリアは、理解した。ベートは少年の話を宴の肴にしようとしている事を。

 

「それに、お前っ! 助けた奴に逃げられてやんの!」

 

 周囲から笑い巻き起こる。ロキもその他の団員も。

 首脳陣とアイズを除いたすべての人が彼を――ベルを笑った。

 

「情けねーよなほんっとに! 鼻垂して泣きべそかいてよぉ。なぁアイズ、お前もそう思うだろ?」

「あの状況じゃあ、しょうがなかったと思います」

「チッ! なら質問を変えるぜ。あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

「ベート、君酔ってるの!?」

「うるせーよフィン。‥‥ほら、選べよ」

「私は、そんなベートさんだけとはゴメンです」

「無様だな」

「うるせーババア! ならなんだ、お前、あのガキに言い寄られたら受け入れるってんのか」

「‥‥‥っ」

「無理だよな‥‥。それだけは、他ならないお前が認めねぇ」

 

 ベートは口元を歪めて言った。

 

雑魚(・・)じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ」

 

 瞬間椅子が飛び、一つの影が店の出口へと駆け出した。

 瞳に溜まった透明な雫が飛散する。悔しそうに震える口元。

 店員がベルを呼び止めようと名前を呼ぶ。アイズも少年の後を追おうと店外へと飛び出す。

 アルトリアは静かだった。嘗てないほどに。

 彼女が感じていたのは、自責の念と純粋な怒り。

 少年をここへ呼んだことに対する後悔。そして‥‥‥‥ベートの悪意に満ちた行動への怒り。

 

 アルトリアは、音も立てず席を立つ。ベートの元へと一直線に進む。

 足を組みながら座るベートを見下ろす形になった。

 

「あ? 何だテメ‥‥ガッッッ!」

 

 胸ぐらを掴まれ、顔面に拳がめり込む。店の出口を通り抜け、ベートは大通りまで吹き飛ばされる。

 

「立ちなさい」

「テメッ! 何しやがるっっ!」

「ベート貴方は何故弱者を虐げるのです?」

「そんなん決まってらぁ。奴らには存在価値がねぇからだ。大層な事やり遂げた口して実際には、口先だけの愚図野郎ばかり。そんな塵どもにテメエは味方するっていうのか?」

「貴方にも弱者の時があった筈です」

「ないね! あんな雑魚どもと一緒にするんじゃねぇよ! もういい、今からその澄まし顔を泣き顔に変えてやっからよぉ」

「自分の弱さを認める。それが本当の強さに繋がる、そう私は考えています。ベート、貴方の強さは傲りにすぎないっ!!」

「うるせーーーよ! 雑魚がぁ!」

 

 ベートがアルトリアに疾駆する。

 

 レベル2対レベル5、前代未聞の決闘が幕を開けた。

 

 

 




次話 両者の戦闘が始まります。
初めて予約投稿使ったのですが、メチャ便利でした。今後、活用していきたい!





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