騎士王がロキファミリアに入るらしいですよ 作:ポジティブ太郎
書きたい描写が山程あったので‥‥‥‥。
清涼な風が肌を撫ぜる早朝。
アルトリアは、ギルド前に一人佇んでいた。
そう、彼女はLv2になっていたのだ。
当然といえば当然。Lv1にして深層遠征への参加、そして帰還。
前代未聞の事態だ。ロキ自身覚悟していたことではあったが、史上最速のランクアップ。
その過程がどのような物だったのかを問われれば答えようがない。
「深層に放り込んで戦わせたらレベルアップ~」だなんて答えた日には、他の神々からの関心の的となるのは必然。
だから、ロキは虚偽の事実を作った。サポーターとしての遠征参加。戦わずともLv1の冒険者が深層から生還した、と。器の昇華には充分足る実績だ。
ロキの言いつけ通りアルトリアは、その捏造された事実を伝えるためギルドにやって来たという訳だ。
ギルドの入り口を足早に通り抜け、以前の担当であった
「エイナさんッ! 今日は3階層まで行きました!」
「なっ、ベルくん! 2階層から下は行っちゃ駄目って言ったでしょ! 君、忘れたの? 昨日、5階層まで勝手に降りてミノタウロスに襲われたこと‥‥」
「い、いえッ! 勿論、覚えてますけど‥‥‥」
「まったく‥‥‥ヴェレンシュタイン氏に憧れるのは分かるけど、そこまで急ぐ必要はないんじゃないの?」
「‥‥‥‥は、はい‥‥」
一人の冒険者とエイナが話をしていた。
中肉中背の白髪の少年。茶色のコート。ひと目見た感じでは、如何にも純粋な少年といった感じか。
アルトリアは、思い出した。昨日の少年だ。
アイズが助けた白髪の少年。顔中が返り血で赤く染まっていたため、直ぐには気づかなかったが話に出てき「ヴァレンシュタイン」というアイズの姓。間違いない。
アルトリアは、受付席へと向かう。少年の横に立ちエイナと向かい合った。
「おはようございます。エイナ」
「おはようございます! アルトリアさん。今日はどのようなご用件で?」
「あの、先日ロキに言われたのですが‥‥‥レベル2になったのでその報告に」
「‥‥‥‥‥‥ん? 何のレベルですか‥‥‥?」
「冒険者レベルです」
「‥‥‥‥‥冒険者になったのっていつですか?」
「2週間前ですね」
「‥‥‥‥‥‥何、したの?」
「ファミリアの深層遠征に参加しました。とは言っても私はサポ」
「えぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
エイナの甲高い絶叫が響き渡る。
約2週間での最速ランクアップ――明らかに異常だ。
深層遠征への参加――アリエナイ。
仮にだ。仮に、もしこれらの報告が事実ならばギルド長にどう報告できようか?
他の冒険者達に同じことをやれと言えば、それは自殺教唆に等しい。
エイナは願った。この報告が少女――アルトリアの嘘でありますように、と。
「ア、アルトリアさん。嘘はついていません、よね?」
「はい。でも私はサポー」
言葉の最中、バタリという音が聞こえた。
目の前に居たはずのエイナの姿がない。
彼女は卒倒していた。許容できる範囲の事実を軽く超えられ、精神に多大なダメージを負ったためだ。
アルトリアもまた焦っていた。自分がサポーターである事(嘘)が伝わっていない、と。
ロキの画策も水の泡。エイナとアルトリアの間で起きたすれ違いは、都市に波紋を呼ぶ結果になった。
「あっ、あの!」
ギルドから立ち去ろうとしていたアルトリアの背から、自身を呼び止める声が聞こえてきた。
緩慢な動きで振り返ると、場には先程の白髪の少年。
「す、凄いですね! 同じレベル1なのに僕とはぜんぜん違う‥‥‥。あの、何処の【ファミリア】に入ってるんですか?」
少年は尊敬の眼差しでアルトリアを見つめる。
アルトリア本人は何の躊躇いもなく答えた。
「【ロキ・ファミリア】です」
少年の体が硬直した。徐々にその顔が曇りを増していく。
瞳に溜まる涙。戦慄く口元。
少年は‥‥‥‥。
「こ、殺さないでくださいぃぃぃぃ!!!!」
直上跳躍。そのまま着地と同時に全身全霊の五体投地を行う。
かの少年――士郎のいた国では土下座と呼ばれる謝罪の際に行う行為だ。
アルトリアは動揺する。少年が何の脈絡もなく行為に及んだからだ。
「殺しませんよっ!! ど、どうしたんです?」
「いえッ! 先日、ある【ロキファミリア】の団員の方に助けて貰ったのに逃げ出してしまって‥‥‥」
「もしかしてアイズが、貴方を助けたあの‥‥‥」
「知ってたんですか!?」
少年は驚愕で更に青白い顔になる。アルトリアは、自他ともに少年を恨んではいない事、寧ろ事件の原因は自分たちにあると謝罪をした。
それとアルトリアは、一つ気になっていた。
未だ百面相を続ける少年に問いかける。
「アイズについて気になっているようですが‥‥‥何かあるのですか?」
「へっ!? い、いえ! そんな何もあるわけないじゃないですか!!」
足をモジモジと揺らし、顔をトマトの様に真っ赤に染め上げる少年。
アルトリアの直感が働く。王の直感に死角はない。
アルトリアは、考えた。少年はアイズと接したいのだろう、と。
普段の彼女ならば絶対にしないであろう、含みのある笑みを浮かべ静かに言った。
「今日【豊穣の女主人】という酒場で遠征の打ち上げをするんですが、アイズもその場に来ますよ」
「えぇっ! ほ、本当ですか!? やった、じゃなくて!! ありがとうございます!」
純粋な少年の笑顔が弾けた。
少年と共にギルドを後にする。そして、別れ際。
「あ、あの! あなたの名前は?」
「私、ですか? 私の名前は、アルトリア・ペンドラゴンです」
「‥‥‥‥アルトリアさん。僕の名前は、ベル・クラネルです。今日はありがとうございました!」
九十度のお辞儀の後、少年は街の人混みへと溶け込んでいった。
アルトリアは、心が澄み渡っていく感覚に陥っていた。
今日の打ち上げの場に少年が来る事を想像しながら、ホームへの帰路に着く。
だが、彼女は知る由もない。
今夜起こる事件、そして酒場に満ちる冒険者達の悪意を。
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「皆! 命懸けの遠征は終わった! 今日は宴だ盛大にやろう!」
フィンの音頭で宴が始まる。
そんな彼を白い目でみる
アルトリアもまた楽しんでいた。目線の先には縮こまった白い影。
今朝の少年――ベルの姿が酒場にあった。
視線はアイズに向けられている。アイズ自身、彼の様子に気づいてはいないが。
宴も終盤に差し掛かる。酒が回り、団員達のテンションも最高潮に達していた。
そんな時だった。事件が起こったのは。
「そうだ、アイズ! お前、あの話を聞かせてやれよ!」
「‥‥‥‥あの話?」
アイズの2つ右に離れた席のベートだ。
「ほらっ! あれだよ! 5階層で始末したミノタウロス、そん時にいたトマト野郎!」
ベルの体がビクリと震える。
アルトリアは、理解した。ベートは少年の話を宴の肴にしようとしている事を。
「それに、お前っ! 助けた奴に逃げられてやんの!」
周囲から笑い巻き起こる。ロキもその他の団員も。
首脳陣とアイズを除いたすべての人が彼を――ベルを笑った。
「情けねーよなほんっとに! 鼻垂して泣きべそかいてよぉ。なぁアイズ、お前もそう思うだろ?」
「あの状況じゃあ、しょうがなかったと思います」
「チッ! なら質問を変えるぜ。あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」
「ベート、君酔ってるの!?」
「うるせーよフィン。‥‥ほら、選べよ」
「私は、そんなベートさんだけとはゴメンです」
「無様だな」
「うるせーババア! ならなんだ、お前、あのガキに言い寄られたら受け入れるってんのか」
「‥‥‥っ」
「無理だよな‥‥。それだけは、他ならないお前が認めねぇ」
ベートは口元を歪めて言った。
「
瞬間椅子が飛び、一つの影が店の出口へと駆け出した。
瞳に溜まった透明な雫が飛散する。悔しそうに震える口元。
店員がベルを呼び止めようと名前を呼ぶ。アイズも少年の後を追おうと店外へと飛び出す。
アルトリアは静かだった。嘗てないほどに。
彼女が感じていたのは、自責の念と純粋な怒り。
少年をここへ呼んだことに対する後悔。そして‥‥‥‥ベートの悪意に満ちた行動への怒り。
アルトリアは、音も立てず席を立つ。ベートの元へと一直線に進む。
足を組みながら座るベートを見下ろす形になった。
「あ? 何だテメ‥‥ガッッッ!」
胸ぐらを掴まれ、顔面に拳がめり込む。店の出口を通り抜け、ベートは大通りまで吹き飛ばされる。
「立ちなさい」
「テメッ! 何しやがるっっ!」
「ベート貴方は何故弱者を虐げるのです?」
「そんなん決まってらぁ。奴らには存在価値がねぇからだ。大層な事やり遂げた口して実際には、口先だけの愚図野郎ばかり。そんな塵どもにテメエは味方するっていうのか?」
「貴方にも弱者の時があった筈です」
「ないね! あんな雑魚どもと一緒にするんじゃねぇよ! もういい、今からその澄まし顔を泣き顔に変えてやっからよぉ」
「自分の弱さを認める。それが本当の強さに繋がる、そう私は考えています。ベート、貴方の強さは傲りにすぎないっ!!」
「うるせーーーよ! 雑魚がぁ!」
ベートがアルトリアに疾駆する。
レベル2対レベル5、前代未聞の決闘が幕を開けた。
次話 両者の戦闘が始まります。
初めて予約投稿使ったのですが、メチャ便利でした。今後、活用していきたい!