騎士王がロキファミリアに入るらしいですよ   作:ポジティブ太郎

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投稿遅れてすみません!
今回は趣向を変えてベルからの一人称視点も織り交ぜました。



十八話 白兎との邂逅

 ダンジョン16階層。

 【ロキファミリア】の面々は地上を目指し進行していた。

 が、現在立ち止まらざる負えなくなっている。

 『ミノタウロス』。牛人とも称されるモンスターだ。

 牛の顔面に獣人の巨躯のこのモンスターの群れが隊の進行を足止めしていた。

 

 

「ちっ! 雑魚どもが足止めすんじゃねぇよ!!」

 

 ベートが心底怠そうに悪態をつく。

 

「どうするフィン?」

「う~ん。あまり刺激は与えないほうがいいんじゃないかな」

 

 リヴェリアに対し、冷静に判断を下すフィン。

 団員達が硬直状態になる中、一人動いた。

 

「かかってこいや! 雑魚どもがぁぁ! 食い尽くしてやらぁぁ!!」

 

 憤怒の雄叫びをあげる獣人――ベートだ。

 第一級冒険者の迫力に気圧されたミノタウロス達は、一切に背を向け‥‥‥‥。

 

 ――逃走した。

 

「なッ! しまった! 皆、追うぞ!」

 

 フィンは舌打ちと共に疾走する。

 他団員達も彼の背を追いかけていく。

 一体はヒュリテ姉妹によって細切れに、もう一体はベートの鋭い蹴りによって粉砕。

 だが、10数体のミノタウロスが階段を登っていく。

 逃走本能だろうか? 第一級冒険者の圧力に怯え、全力で逃走する猛牛。

 フィン達の速力を持ってしても距離が中々縮まらない。

 

 15、14、13、12階層‥‥‥‥。

 気づけば6階層までミノタウロス達は登っていた。

 数は減って残り2体。勿論、ミノタウロスは、フィン達にとっての脅威ではない。そう、フィン達(・・・・)にとっては。

 この階層は駆け出し冒険者達の主な狩場だ。彼らのレベルは1。対して、ミノタウロスはLv2。

 これが何を意味するか? 遭遇は死を意味する。彼らにこの『怪物』の相手が務まる道理はない。

 逃したミノタウロスによって犠牲が出れば【ロキファミリア】の矜持と誇りが失われる。

 フィンの緊張は高まっていた。

 

 

「アイズ、アルトリア! 君達は5階層に行ってくれ! 奴らが階段に向った!!」

 

 フィンの叫声を背に走り出す二人。ミノタウロスの姿は既にない。

 二人の影が階段へと吸い込まれていく。

 フィンの親指は、疼いていた。この後起こる運命の時を告げているかのように。

 

 

*************************

 

「ハアハアッ! グッッ!」

 

 ――どうしてこうなったんだ!?

 

 僕は必死に逃げていた。全速力で走る僕の後ろには牛の怪物。

 冒険者になって初のダンジョン探索。美少女との出会いを求めてダンジョンに入り、調子に乗って5階層までやってきた。少女を救って、夢のハーレム!だなんて浅はかな考えで動いた僕が悪いんだろうか?

 とにかくダンジョンに出会いを求めるのは間違っていたらしい。だって、初めての出会いがこんな『怪物』だったんだから‥‥‥‥。

 

 さよなら(ヘスティア)様。僕の人生はここまでのようです。

 

 

「うわぁぁぁぁぁ! ってしまったぁぁぁ!!!」

 

 だらしなく流れる涙と鼻水を拭うこともせず必死に逃げ惑う僕だったが、今度こそ本当にマズい。

 目の前には壁。振り返れば猛牛。まさに袋のネズミだ。

 人生というのはこんなにも呆気ないものなんだろうか? 

 天国のおじいちゃん‥‥‥‥オラリオには何もなかったよ‥‥‥‥。

 

 僕は、今は亡き祖父の『オラリオには全てがある』という最後の言葉を否定した。

 死の瞬間を最早待つことしか出来ない。最後の抵抗とばかりに後ずさる一歩、二歩そして壁。

 最後の抵抗は即座に終了。あっダメだ僕の人生終わった‥‥‥。

 

 猛牛の手が振り上げられる。そのまま僕の脳天目掛けて振り下ろした。

 刹那鮮血が飛び散った。怪物の姿はなく代わりにいたのは、金髪の美少女。

 剣先には、黒混じりの血。そうか‥‥‥あの人が倒してくれたんだ。

 

 少女に魅入る僕。突如、心臓が早鐘鳴るのを感じた。

 あぁ、おじいちゃん‥‥出会いはあったよ。

 理想とは違う出会い方、いや真逆の出会い方、でもいいんだ。 

 ダンジョンに出会いを求めるのが間違っているだろうか? 再結論。

 僕は間違っていなかった。

 

 一度に沢山の事を考えすぎて僕の思考はショートしかけていた。 

 そんな中。

 

「あの‥‥‥? 大丈夫、ですか?」

 

 金髪女性が僕に手を差し伸べてくれた。

 あの手を握りたい。けど‥‥‥‥。

 赤く染まった自身の頬。鳴り止まぬ早鐘。こみ上げてくる羞恥。

 僕は‥‥‥‥‥。

 

「わ、‥‥‥‥あああああああああああああああああああ!!!」

 

 その場から全力で逃げ出していた。

 どうやら、僕の体は正直に動かないらしい‥‥‥。

 

 

***************************

 

「どうして‥‥‥‥逃げちゃたの‥‥?」

 

 助けた少年に怯えられ、逃げられたと盛大に勘違いするアイズ。

 彼女の瞳には涙が微かに溜まっていた。

 隣ではベートが腹を抱えながら笑い転げている。

 

「‥‥‥アイズ‥‥‥災難でしたね」

 

 事の一部始終を見ていたアルトリアは、そう呟くのが精一杯だった。

 

 

 その後、フィン達との合流を済ませ地上へと帰還した。

 向かうは北。あの賑やかな主神(ロキ)の待つ屋敷へと足を速める。

 本日は一点の曇りなき晴天。まるで彼らのダンジョン遠征からの帰還を祝うかのように青空が広がっていた。

 




ご一読ありがとうございました! 
活動報告にてお知らせがあるので見ていただける方是非見てください。
次話は、あの酒場にて事件が起こります!

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