魔法少女リリカルなのはVivid Saiyan 作:伝説の超サイヤ人になりたい。
「頼む、この通りだ!!」
パンッ!と強く手を合わせ頭を下げて頼み込むのは赤い髪の女性ノーヴェ・ナカジマ。
そしてノーヴェの頼み込む相手は。
「……ハァ」
勿論、イクサだ。
ヴィヴィオとアインハルトの初邂逅から数時間後。
アインハルトとの再戦に奮起するヴィヴィオの為にコーチであるノーヴェはヴィヴィオに何としても勝たせてやりたいと思い、考え付いたのはイクサにヴィヴィオの特訓に付き合ってもらう事だった。
過去に一度本気のアインハルトに勝利したイクサならアインハルトとの戦い方もわかるのではないかと予測したのだ。
「フェア、とは言えませんよそれ」
「うっ」
知ったか知らずか街の真ん中でノーヴェの様な美人に頭を下げさせておきながら断るのは不利だと間違いなくわかるので、取り敢えず近くのカフェにて話をする事にしたイクサ。
適当に周りに他の客の少ない場所を取りコーヒーとケーキを注文してから詳しく話を聞いたイクサの一言にノーヴェが少し狼狽る。
だがノーヴェの気持ちもわかる。いくらアインハルトの事情を知っているとは言え関係としてはヴィヴィオの方が深く、そして何よりヴィヴィオはノーヴェにとって愛弟子だ。本人は言葉で否定するだろうがヴィヴィオを贔屓目にするのは当然だと言えた。
「あむ……ん。で、具体的に何をしろと?」
「やってくれんのか!!」
「取り敢えず話だけは聞こうと思っただけですよ」
「……なんだよ」
ケーキを一口含み飲み込むと内容を尋ね、その言葉にノーヴェは期待を込めた声音で身を乗り上げるがイクサの返しにふてくされた様に椅子に座り直す。
頬杖を付きながら反対の手でフォークでコーヒーをかけ混ぜながらノーヴェが言う。
「具体的にも何もさっき言った通りだよ。ヴィヴィオにアインハルトへと対処法をアドバイスしてもらったり、できれば手ほどきしてやったり、兎に角ヴィヴィオの特訓に付き合って欲しい」
「………」
ノーヴェの言葉に考え込むイクサ。特訓に付き合って欲しいと言うが、イクサにはイクサのスケジュールというものがある。実際大学部のイクサは初等部や中等部のヴィヴィオやアインハルトよりも忙しい。
時間を開けようとすれば開ける事自体はできるが、わざわざ自分の時間を削ってまで二人の事情に肩入れする義理は無い。イクサにとってヴィヴィオとアインハルト、それにノーヴェとの関係はあくまで知人。それ以上では無い。
それにイクサはアインハルトの事情に余り関わる気が無い。アインハルトの事情はあくまでアインハルトの事情。自分にとっては関係無いのだから。
「……」
「……」
唯、大人の女性の癖に不安そうに見詰めるノーヴェの姿はとてもズルく思える。天然なのか、もしもわかっててやっているのなら魔性と言わざるを得ない。
もしも断れば完全にイクサが悪者だ。もしも周りに人が居れば例え詳しい事情を知らなくてもイクサを責める様な目線を揃って向けられるのは間違いないだろう。
暫し悩んでから、口を開く。
「貸し一つ、ですよ」
「……え?」
「だから貸し一つ、です」
「!! それじゃあ!」
「受けますよ、その話。その代わり、この貸しは何倍にもして返して貰いますよ」
「おう! 任せとけ!」
途端に明るい笑顔を咲かせるノーヴェにイクサは苦笑い。コーヒーを一口含んでから日程を決める話し合いへと移った。
「───と言う訳だ。よろしく頼む」
「は、はい! よろしくお願いします!!」
イクサがノーヴェの頼みを呑んでから数日の午後、大学院を終えたイクサは一度家に帰宅してから
予めノーヴェからイクサが特訓に付き合ってくれる事、イクサが本気のアインハルトに勝利している事を聞いているヴィヴィオは緊張した様子でイクサと向かい合う。
「…いつでもどうぞ」
「は、はい。い、行きます」
「……」
互いに構えはストライクアーツの基本となる
暫く互いに黙していたがヴィヴィオが仕掛けた。拳を放つ、それだけの筈なのに上手くできない、緊張で硬直した体は思い通りに動いてくれない。とてもキレのある動きではないのはノーヴェだけでなくリオやコロナもわかった。
それから暫く経つも一向に改善される様子は無く、ヴィヴィオは不調子のままだった。このままじゃ意味が無いと判断したのだろうノーヴェが一度中断させようと声を掛けようとした瞬間。
「……ふぅ」
「ひゃうん!?」
ヴィヴィオに接近して横に付き右耳に吐息を吹きかけた。突然の事にヴィヴィオはビクンと大きく痙攣し足から力が抜けてペタンとその場に座り込む。
「な、何をするんで、す…ふぇ? わー!?」
息を荒げながら左手を地面に付き、右手で息を吹きかけられた耳を覆い突然の行動について追及しようとして右手首を掴まれる。じっと自分の手首を掴むイクサの手を見詰め、我に返るよりも先に引っ張られる。
グイッと引っ張られ無理矢理立たされたかと思えば今度はそのままブン!と振り回される。足が地面から離れ遠心力が体に掛かり、手首を離されたかと思えば腰に腕を回される。まるでテレビのドラマとかで見る舞踏会のダンスのフィニッシュの様に反り返る姿勢になるヴィヴィオ。
「え?…え?」
困惑の極みに達し、回復する間も無く今度は腰に回された腕を勢い良く引いてヴィヴィオを回す。まるで
「うへ〜…、きゃっ!」
回転が弱まり目を回しフラフラのヴィヴィオの腕を持ってまたもダンスのポーズを決めるイクサ。
それからも次々とヴィヴィオを使って様々な行動をするイクサ。その様子はまるでヴィヴィオで遊んでいるかの様だ。
「う、う〜…っ」
次第に慣れて来たのかヴィヴィオの意識がはっきりしてきた。そしてまたもヴィヴィオの腕を掴もうと手を伸ばされるを───弾いた。
「いい加減にッ」
「…お」
「してください!!」
イクサの手を弾いてから咄嗟に放たれたアッパーがバシィ!と音を出して直撃する。
ヴィヴィオの拳はイクサの顎を捉える───事なく間に割り込んだ掌で受け止められていた。
「くっ!」
また、遊ばれてなるものかとすぐさま距離を取るヴィヴィオ。
「……」
「…ふー…ふー…」
ヴィヴィオの拳を受けた掌を暫く見詰め、目を離しヴィヴィオに向けると視線を向けられ身構えるヴィヴィオに言った。
「緊張、解けたろ?」
「……え?」
「うん、それに思った通り勢いの乗ったいいパンチだ。その感じを忘れるなよ」
状況を飲み込まないヴィヴィオが唖然し、暫くして漸く理解する。
今の一連の行動がヴィヴィオの緊張をほぐす為の行為である事を。
「え〜」
一気に脱力するヴィヴィオ。ノーヴェ達も遅れて理解が及びイクサやヴィヴィオに詰め寄る。
ヴィヴィオの側に寄ったリオとコロナに大丈夫?と心配され、それにぎこちない笑顔ながら「大丈夫だよ」と答える。だが、今のヴィヴィオには心配してくれる友人よりも先に自分が放った一撃───アッパーカットに気が行った。
───勢いの乗ったいいパンチだ。その感じを忘れるなよ。
イクサの言う通り、あの一撃は自分でも会心と言える。威力、速度、キレ、どれをとってても自分にできるとは思えなかった程だ。それをイクサは『思った通り』と言った。自分の思ってた以上の力をイクサは見抜き、そして引き出してくれた。やり方はアレだったが。
ヴィヴィオがイクサの方に目を向ければノーヴェにもっとやり方はあっただろうと責められておりイクサは苦笑いで対応していた。
もう一度自身の手を見る、そして握る。
モノにしたい。今の一撃を、忘れない内に。
「イクサさん!」
突然立ち上がり大きな声を上げるヴィヴィオに呼ばれたイクサ以外が驚いた様にヴィヴィオを見る。ぐぐぐっと心の内側から湧き上がるモノを感じる。宙を浮く動くうさぎ型のぬいぐるみに視線で呼び掛ける。うさぎのぬいぐるみはヴィヴィオの視線に敬礼し、フワーと近寄ってくる。
うさぎのぬいぐるみの正体はヴィヴィオの専用デバイス、名前を『セイクリッド・ハート』、愛称を『クリス』。
ヴィヴィオはクリスを優しく両手で包むと頭上に掲げて愛機の名を謳い変身魔法───大人モードを使う。
「……ふぅ、イクサさん」
「なんだ」
「続き、お願いします!」
ギラリと強い光がヴィヴィオの瞳に灯った気がした。イクサはヴィヴィオの言葉に小さく笑みを浮かべるとストライクアーツと異なる構えを取る。
握り締めた右拳を腰に据えるように配置し、左手は指を揃えた掌の形にし正面に伸ばし上げるよう。ノーヴェには構えに見覚えがあった。
いや、ノーヴェだけでない。初めて見る構えでありながらヴィヴィオ、それにリオやコロナでさえ
「アイン、ハルト…さん?」
イクサの姿に半透明の薄い姿だが碧銀の少女が重なって見えた。困惑するリオやコロナを置いてヴィヴィオは本能的に理解した。これがアインハルトの
「マジ、かよ…」
ノーヴェは一条、汗を流す。なんて高度な再現か。完全にアインハルトの実力を見抜き、模倣している。ノーヴェ達が幻視したアインハルトの虚像はイクサの技術が高すぎる余りに見えたノーヴェ達の
戦慄するノーヴェ、理解が及ばないリオやコロナ。そしてヴィヴィオはぎゅっと拳を握り締めた。
相手がリベンジを目標とするアインハルトと幻視した事で気合十分、やる気が盛り盛り湧いてくる。
「───来い」
「───はい!」
向かってくるヴィヴィオにイクサは迎え撃った。
イクサはヴィヴィオに
☆★おまけ★☆
とある
「ーーーって事があったんだよ!」
「……へぇー」
「……?どうしたのママ」
「───なんでもないよ。それよりなんて名前の男の子なの?」
「え?…い、イクサさん、だよ」
「イクサ君、て言うんだ。へぇ」
「ま、ママ?」
「ちょっと、
「な、
「ふふふー♪」
白き魔王に目を付けられた、そんな話。