魔法少女リリカルなのはVivid Saiyan 作:伝説の超サイヤ人になりたい。
幼き少年少女達が学院に入学し、既に入学していた者達は新たな学年を迎え、卒業した者も新たな環境へと移る時期、イクサも無事進級する事ができ早めに学院を終えたある日の夜。
(…!これは?)
机の上に並んだ教材を使って予習しているとふと覚えのある気を感じた。それは嘗てイクサに挑んだ
(また、誰かと戦ってるのか?でも相手の気が感じられない)
ペンを手から離し窓の方へ振り返ると目を閉じて気の動きに集中する。───間違いない、誰かと戦っている。相手からは以前気を感じる事が出来ない。そして気を感じ取れない相手には心当たりがある。
「……もしかしてノーヴェさん?」
或いはその身内か。どちらにしろ懲りずに挑み掛かっている様だあの覇王様は。
「……」
相手があの面倒見の良いノーヴェなら問題は無いだろうと意識を勉強に戻す。
「……っ」
が、気になる。
そして、
「来てしまった」
また、好奇心に負け現場へと向かってしまった。一度気になると我慢出来ないのはイクサの悪い癖だ。本人も自覚がそのあり、直そうと思った事も多々ある。が、結果はご覧の有り様である。
そして来るのが少し遅かった様で件の少女、アインハルトは気を失い倒れている。息が荒く気が乱れているのと周りには彼女以外に誰も居なかった事から無茶をした上でのギリギリの勝利だったのだろうと予測出来る。そして現場から離れたが時間が経ち意識を保つ事が出来ずに倒れてしまった。
結果的に来て正解だったかと思いつつどうしたものか考える。このまま我が家に連れ帰るのもどうかと思う──勿論母しっかりと説明すれば信じてくれるだろうが──かといって彼女の家に届けようにも彼女の家を知らない。管理局に通報しようか考えるが説明を求められたらなんと答えよう。偶然通り掛かったら少女が倒れていた?そんな話を信じてもらえるかどうか、信じてもらえるとしてもそれなりの時間を求められるだろう。
そして何よりイクサ個人としてはあまり
「さて、どうしたものかな。……ん?」
腕を組んで悩んでいると、赤く点滅する小さな機械を見つけた。
片膝を突き小さな機械へと手を伸びし拾う。
「なんだこれ?」
チカチカと点滅している機械をじっと見つめ、そして思い至る。もしかしてこれ発信器じゃね?と。そう考えた瞬間に背後から声を掛けられる。
「その子から離れなさい」
「……ん?」
振り返れば其処には橙色の長髪の女性が拳銃型のデバイスを両手で握り此方に向けている。その服装が管理局の制服である事から管理局員である事がわかる。
「……ふむ」
「聞こえないの、早くその子から離れなさい」
状況からして勘違いをされている、だがよくよく考れば人気のない場所で倒れた少女に近付き、手を伸ばしている青年。仮にアインハルトが通り魔の犯人だとわかっていたとしても誤解されてもしょうがない。
目の前の女性からすればイクサは気を失い抵抗できない少女に手を出そうとしている男にしか見えないだろうから。
此処は一先ず言う通りにしようとゆっくり立ち上がりアインハルトから離れる。その際に抵抗する意識が無いということを示す為に両手を上げておく。
「……」
「……そのまま、その場から動かないで」
それは、イクサも触っていた点滅する機械だった。
「……」
「……確かにあるわね。けど…」
管理局員の女性から微かに聞き取れた言葉からやっぱり発信器だったのだと確信する。
そして女性もアインハルトが目的の人物だと理解するとイクサに目を向ける。
「貴方、彼女に何をしようとして」
途中まで言いかけて突然『PPPP!』と機械音が鳴る。女性の側に浮かび上がる魔力ディスプレイ。女性はディスプレイに浮かぶ通信相手の名前を確認するとコールと書かれて箇所を押す。
『ティア〜、見つかった?』
「ええ。見つけたけど同時に不審者も見つけたわ」
『不審者?』
「倒れていた少女の近くに
『……ああ』
「えぇ」
自分が関与できない所でどんどん
「すみません、此方の言い分も聞いてもらえませんか。誤解なんです」
「貴方の話は聞いてないわ」
「そう言わずに話だけでも」
「しつこいわよ!」
『……ん、その声はイクサか?』
「そういう貴女は……ノーヴェさん?」
『知り合いなのノーヴェ?』
救世主現るその名はノーヴェ・ナカジマ。
そんなくだらない事が思い浮かぶ程に今のイクサにはノーヴェの存在がありがたかった。
ノーヴェともう一人の人物との会話があらかた終わったのか女性は先と違って柔らかな表情でイクサに話しかけた。
「貴方。一緒に来てもらうわ、いい?」
「はい。あ、先に親に連絡してもいいですか?」
「ええ、構わないわ。それとごめんなさい、疑ってしまって」
「いえ、疑ってもしょうがない状況だと思います」
「そう言ってもらえるとありがたいわ。自己紹介が遅れたわね、私は『ティアナ・ランスター』。執務官をしているわ」
橙色の髪の女性ティアナ・ランスターから謝罪を受けて漸く挙げた両腕を下げることができた。そして自身のデバイスを使って母アルヴィナに連絡を入れてからティアナの代わりに気を失っているアインハルトを背負う事になった。
ティアナを非力だと言うつもりではないが肉体派にも見えない、どれ程の距離を歩くのか知らないがティアナよりもイクサの方が体力はあるのだから自分が背負うと告げると少し間悩ましげにしてたが了承してくれた。
「よいっしょと。やっぱ軽いな」
アインハルトの小さな体を背負い、改めて少女の幼さを確認する。
「う、うぅ…」
「…ん(うなされてるのか?)」
するとアインハルトが小さく声を上げる。呻き声の様なそれはイクサの耳に届く。
───イクサにだけ届く。
「よくも……、よ、くもーーーー、め」
「……」
それは少女の声音では無かった。その喋り方は男のそれ、幼い少女の声ながらに男の話し方というちぐはぐな言葉にイクサは硬直してしまう。
「……?どうかしたの?」
「……。いえ、なんでもありません、大丈夫です。行きましょう」
そう言ってティアナを催促すると歩きだす。
ティアナも違和感を感じながらもイクサの言う通り先を進む。
(どういう事だ。なんでもお前が
イクサを動揺させた、その言葉は。
───サイヤ人。
それはイクサの秘密、自身に流れる血のルーツに向けられた言葉だった。
(何故この場で、まさか俺に反応した?)
「……」
あれ以降、アインハルトは何も言わない。結局あの言葉の意味はわからずじまいだった。そして目覚めたアインハルトに聞いてもわからない可能性が高い。
(お前は、お前の先祖は一体何を知ってるんだ?)