魔法少女リリカルなのはVivid Saiyan   作:伝説の超サイヤ人になりたい。

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書き直し版ディス!


ある日の休日、幼き少女とスパーリング

「よろしくお願いします!」

「………」

 

 紺色のジャージに身を包み両手にトレーニング用のフィンガーレスグローブを装着したイクサが立っている。正面にはスポーツウェアを着てイクサと同じフィンガーレスグローブを装着した艶のある金色を青いリボンで左側頭部のサイドポニーにし赤と翠のオッドアイの女性───変身魔法、通称大人モードへと変わったヴィヴィオが爛々と目を輝かせ、近代格闘技ストライクアーツの戦闘姿勢(ファイティングポーズ)を取っている。

 

 場所はミッドチルダ中央第4区、公民館練習場。

 

 辺りには二人のスパーリングを観戦しようとする人達で囲まれている。その中にはヴィヴィオの親友であるリオとコロナがヴィヴィオと同じ様に目を輝かせて観ている。そして三人のコーチである赤髪の女性『ノーヴェ・ナカジマ』は二人の間に立ち審判の役割を担いつつ興味深そうな目線を向けてくる。

 

「それじゃあ、二人とも準備はいいな?」

「はい!」

「……いつでも」

 

 一見近い年代に見える二人。だが実際は大学部と初等部、其処には明確な年齢の差があり、しかも片方は男でもう片方は少女。イクサはとっては戦い難い相手であるのは間違いない。

 だが、対戦相手の少女の輝く瞳を見ては「無理です」なんてとても言えなかった。

 

「よし、それじゃあ───開始!」

 

 ノーヴェが掲げた腕を振り下ろす開戦の合図と同時にヴィヴィオが勢い良く駆け出す。

 ヴィヴィオの突進を避けながらも振り返りヴィヴィオを視界に納めつつもイクサの思考は練習試合(スパーリング)とは別の事を考えていた。

 

───どうしてこうなった?

 

 果敢に向かってくるヴィヴィオの攻撃を捌きながらイクサは事の顚末を振り返った。

 

 

 

 

 同日の午前。イクサは大学院が休みな事もあって家で暇を持て余していた。課題も出されたその日に終わらせ、予習復習も十分。朝のテレビはニュースばかりでつまらない。撮り溜めした番組は母の趣味なものばかり。バラエティ、ドッキリ、映画、ドラマ、動物モノ、都市伝説、深夜アニメ、恐怖怪談、更にも様々なジャンルの番組。多趣味過ぎない?

 

「……」

 

 別にこの中から何か興味の引かれる番組を観てれば良くないかと思い始めたその時、ひょこっとキッチンの扉から母が顔を出した。大学部の息子を持っているとは思えない若々し───過ぎる印象を与える容姿をした女性。身長も同年代(に見える女性達)に比べると少し低め事もあり親子で並べば弟より身長が僅かに小さい姉に見えるという。

 

「暇なの?」

「……」

 

 何故分かったのかという視線を向ければ“ふふん”と誇らしげな表情を浮かべるイクサの母。

 

「『(わたし)にはなんでもお見通しなのです』って顔だな」

「なんでわかったの!? ふっ、流石は私の息子ね」

「……あぁ、うん」

 

 親子の茶番を経て漸く母が本題を繰り出した。

 

「偶にはジムとかで運動とかしたらどう?」

「……なんで?」

「だって最近流行ってるみたいよ格闘技。主に去年のイクサの活躍で」

「……」

「仕事先の若い男の人からも私と貴方が親子だって知られたらよく聞かれるのよ、『()()()()()はどんな練習をしているのですか!!』って」

「………」

「それなのに貴方と来たら一度もジムとかに行かずに勉強ばっかり」

「いいじゃん別に」

 

 イクサの言葉にむっとして言葉を放つ。

 

「サイヤ人にはサイヤ人に相応しい生き方をしなさい、とまでは言わないけどせめて『あの人』に恥じない程度には強くなりなさいよ?」

「……むぅ」

 

 イクサの母───『アルヴィナ』は“あの人”、つまりは純正なサイヤ人であり父親であるロータスの事を出された途端に考え出すイクサに微笑みを浮かべる。

 ロータスがイクサの中で今でも大きな存在である事に暖かい気持ちに成りながらもイクサの背中を押す。

 

「ほらほら、早く行きなさい」

「あ、わかった!わかったから押さないでくれ母さん」

「はーやーくー」

 

 

 

 そうして午後。イクサの近場の公民館練習場にて身体をほぐしていたらふと、覚えのある声が聞こえた。声の方に振り返れれば見覚えのある少女達が拳を交えているのが見えた。

 

「ヴィヴィオ。それにリオとコロナも」

 

 そういえば以前格闘技をやっていると聞いた覚えがあるな、と思い暫く三人の様子を観ていれば、後ろから声をかけられた。

 見目麗しい少女達をジッと観ている青年が居るとすれば当然怪しいのだが、どうやら今回は別の要件だったようだ。

 

「イクサじゃねぇか」

「……っ、ノーヴェさん」

 

 イクサに話しかけたのはちょっとした知り合いである『ノーヴェ・ナカジマ』という女性。

 短く切られた赤い髪と金色の瞳が特徴的で、その言動からボーイッシュな雰囲気を感じさせる女性だが、豊かな胸とくびれた腰回りなど魅力的な女の体付きに金色の瞳が映えた優れた顔立ちは誰が見ても美人と言うと確信できる。

 どういう訳かわからないが彼女と彼女の身内は気を感じない事もあり接近に気付けなかったイクサが少しばかり驚きを含ませた対応をする。

 

「珍しいなお前が此処に来るなんて。それで、どうだ。ウチのチビ達は」

「ウチの?」

「…まぁ、あれだ。コーチ、の真似事みたい事してんだよ」

「なるほど」

 

 口ではあーだこーだ言いながらもなんだかんだで面倒見の良い性格をしている女性であるノーヴェに相変わらずだなと思いつつもノーヴェの教える三人娘を見る。

 リオは元々別の流派を学んだいたのか動きがぎこちなく、コロナは動きがまだまだ初心者だ。だがヴィヴィオは違った。三人娘の中で最もキレのある突きや蹴りを放ち脚運びも良くできている。

 

「……?」

「どうした?」

 

 だがふと疑問に思った事があり、それが隣にいるノーヴェにも伝わったようでこちらを伺ってくる。

 

「何故ヴィヴィオ、それにコロナは格闘技をやっているんです?」

「……あぁ〜」

 

 イクサの質問に後頭部をガリガリと掻きながら視線を逸らすノーヴェ。

 先程、ヴィヴィオが一番良く動けていると表記したがそれは“あの三人の中では”の話。もっと視野を広げてみれば上手い者は沢山いる。同世代の中では優れた方かもしれないがそれもすぐ壁にぶつかるだろう。

───何故なら根本的に格闘技、というよりは接近戦向きではないのだ、ヴィヴィオとコロナは。コロナの動きが初心者レベルなのは本当に初心者だというのもあるが格闘技が不向きだという事を顕著に表していた。

 

「あぁ、その。それは、だな…」

 

 まさか初見でその事を見抜かれるなどとは露程も思わなかったノーヴェが言葉に迷っている。

 

「別にそこまで追求するつもりではありませんよ。当事者である彼女達が楽しそうですので」

「……すまねぇな」

 

 視線をノーヴェからヴィヴィオ達に戻す。談笑しながら打ち合う姿は本当に楽しそうだった。

 それから暫く三人の打ち合いを観、丁度いいタイミング見計らってからノーヴェに連れられて三人娘に声を掛ける。

 

「おい、知り合い見つけたから連れてきたぜ」

「あ、ノーヴェ!…とイクサさん!?」

「え!?」

「ほんとだ!」

 

 予想外の人物に驚きを隠せない三人に「よ」と片手を上げて挨拶すればあっという間にイクサの前に群がり質問攻めにされる。

 次々と放たれる質問に答えながらノーヴェに助けてくれと視線を向ければにししと笑顔で返される。

 

(こいつぅ…)

 

 誰もが見惚れるであろうノーヴェの笑顔だが、イクサからすればたまったもんじゃない。だからといってヴィヴィオ、リオ、コロナの三人を無下にする訳もいかないのも事実だ。そうして漸く質問攻めにも終わりが見えてきた所でヴィヴィオがとある質問をした。

 

「イクサさんもストライクアーツを?」

「ストライクアーツも、だな」

「『も』?」

「色々な格闘技を修めてるんだよそいつは」

 

 横からノーヴェの解説が入り三人娘はより一層目を輝かせ「凄い凄い!」と騒ぎ立てる。そこにノーヴェは大きな爆弾を投下した。

 

「それにそいつ、去年のインターミドルで男子部準優勝だぞ」

「「「え?」」」

「…あ」

「……?」

 

 一瞬の沈黙、そして放たれる音の衝撃。

 

「「「い、インターミドル準優勝ぉー!?!?!?」」」

「ぬをー!?」

「…(やっぱりな)」

 

 三つ重なったサウンドバズーカをもろに直撃(うけ)たノーヴェとは違い、予め両手で耳を覆ったイクサ。周りの人達も三人娘の声になんだかんだと視線を向けてくる。

 興奮状態の少女三人、「お、おお、おぉぉ」と呻き声を上げるノーヴェ、そして集中する周りの視線。この状況にイクサ唯々内心でため息を一つ溢すのだった。

 

 魔法戦競技最大の大会、それがインターミドル。勝ち進み優勝すれば『十代世界最強』の称号が与えられる今大会。勿論スポーツ選手として称号だがそれでも『最強』の二文字は大きい。それはヴィヴィオ達にとっても例外ではない。

 そのインターミドル男子部準優勝、しかも話を聞けば敗因は魔力切れによる続行不能。つまり魔力さえあれば優勝できていたかもしれないイクサはヴィヴィオ達にとって憧れの的なのだ。

 

 

 

 そして時は最初に戻る。

 

 次元世界最強の男子に最も近いイクサに一度だけでも手合わせがしたいと初等部の少女達に頭を下げられ、復帰したノーヴェからもお願いされ、三人娘の声で辺りへと知れ渡ったイクサの戦歴から期待の目を向けられ出口は完全に封じられたイクサが諦めて少女達の願い了承し現在に至る。

 

 うん、全部母さんの所為だな。

 どこからか「なんでぇ!?」と声が聞こえた気がしなくもないが無視する。イクサは静怒した、必ずやあの天然暢気な母を成敗しなければならなぬと決意した。

 

 

 

 

 

 イクサはきっちりと三人とスパーリングを終え、周りの人達から自分もと申し込まれる前にそそくさと練習場から離れると帰りに少し高いケーキを買って母の前で見せ付けるように一人で食ってやった。

 ひどいよぉ〜、と喚く母親を尻目に最後の一口を口に含むとやってやった感が胸を満たし、満足したイクサはもう一つ買っておいたケーキを母に渡した。

 悲壮感漂う姿から瞬時に喜びに満ち溢れた顔を浮かべる母親にイクサは苦笑を浮かべた。

 

 なんやかんやで仲は良い親子だった。


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