魔法少女リリカルなのはVivid Saiyan   作:伝説の超サイヤ人になりたい。

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書き直し版だZE(2019/12/22)



翌日の再会、覇王様

「………」

 

 覇王を名乗る女性と出会った翌日の朝。イクサは見るからに機嫌が悪いといった感じにむすっとした顔で歩いている。その身を魔法学院の大学部の制服で包んで、片手についさっき買ったばかりのサンドイッチを持って。

 歩き食いは行儀が悪いと判っちゃいるがそれでも腹の虫は治らない。

 

(昨日の晩飯抜きが辛い)

 

 そう、腹の虫(くうふく)が治らないのだ。

 

 その後も何度か登校中に見かけた店に寄って食べ物を食い歩く。

 おにぎり、パン、巻き寿司、ホットドッグ、フライドチキンにフランクフルト。

 

「…んむ?」

 

 フランクフルトをぶちりと噛みちぎり咀嚼していると、ふと覚えのある気配を感じた。

 目を閉じれば色彩は碧銀みどり、性質は駆け抜ける風を思わせる生命力(いのち)(かたち)

 是れはそう、

 

(昨日の覇王様の『気』だ)

 

 自分と戦った()()の気を感じ、探る。

 そうすれば───見つけた。気の持ち主を。

 

「……ふーん」

 

 気の位置から目でも探し、後ろ姿を見つけた。

 中等部程の少女、碧銀の髪から間違いないだろう。

 格好は制服、それもこのミッドチルダでは有名な学院の物。

 

「……(近いな)」

 

【st.ヒルデ魔法学院】

 自身の通う大学院からも比較的近い位置に在る、名門中の名門たる学院に───、

 

「これじゃあ、まるでストーカーだな」

 

 自身の思考が不審者気味てきてる事に首を振って切り替え先程までの思考を廃棄する。

 そして首を振った拍子にクレープ屋が視界に入る。

 

「……デザートと行くか」

 

 

 

 

 そして学院に着く頃にはそれなり満たされた為表情から不機嫌さが消えている。複数の店に寄った分いつもよりも大幅に遅れてしまった。教室の部屋の扉を開け時計を見ると授業の時間まであと5分と無かった。

 

「このッ、クズ野郎!」

 

 教室に入り自分の席に座ると同時に前の席から裏拳が飛んできたを軽く避ける。

 

「……なんだいきなり」

「『なんだいきなりキリッ』───じゃねぇよ、このバカヤロー !」

「『キリッ』、は余計だ」

「うっせぇー!」

 

制服の胸元を大きく開き紺色のシャツを覗かせる左右非対称な特徴的なハネのある髪型の男同級生が今にも掴みかからん勢いで話しかけて来る。

 

「お前が来るのがこんなギリギリな所為で課題が写せねぇーじゃねぇーかぁぁああ!!」

「知るかよ、いつもいつも。自業自得だろ、日頃からちゃんとやれ」

「何だとこのヤロー!?」

「……ハァ」

 

元から課題を写そうとしていた友人の最低な怒りの声に溜め息を漏らす。

 

「ほらよ。一先ず貸してやるから頑張ってみろ。……あと1分も無いが」

「できるかぁ!?」

「うっせぇ」

 

友人が騒がしく喚いている内に1限目が始まり頭を抱え絶望を嘆く。いつもより少し、いや、かなり騒がしい授業の始まりだった。

 

 

 

 

 

「……」

 

 一日の授業を終えた大学院を出て、

 

「結局来ちまったよ」

 

 やってきたのはst.ヒルデ魔法学院校門前。

 

「まぁ、来ちまった以上はしょうがない。うん」

 

 まるで誰か言ってるかのような言い訳で自身を納得させる。

 そんな事をしている間にお目当て人物が見えてきた。

 

「よ」

「……?え?」

 

 ツインテールで結んだ碧銀の髪と、紺と青のオッドアイが象徴的な年相応の可愛らしさの中に凛とした美しさを含む貌をした少女は突然声を掛けられ振り返れば、そこに立っていたイクサを視界に捉え困惑した。

 

「……あ。え、えぇと。あの…」

 

 数秒茫然とした後、我に帰ると途端に狼狽え始める。一応『今の』自分とは初対面であるのだから。

 だが、

 

「昨日ぶりだな」

「!?」

 

 バレている。碧銀の少女は更に狼狽る。

 校門前であわあわと狼狽ている美少女、そして青年。(はた)から見れば美少女に絡む不審者に見えなくもないが今回はそうならなかった。何故ならイクサの容姿も整っていたからだ。

 すらっとした手足にしっかりとした健康的な体付きとスタイルは良く、そして何より顔立ちが整っていた。表情しだいでクールさやワイルドさの両方を引き出せる、俗に言うイケメンだ。

 美少女とイケメン。そんな二人が向かい合っている。そんな光景は女子達は胸をときめかせ、男子達は嫉妬と憧憬の篭った視線を向ける。優れた容姿というのはそれだけでプラスに見られるのだ。

 

「……あぁ、場所変えて話すか?」

「……は、はい」

「おう。じゃあ、こっち来い」

 

 歩き出すイクサ、そしてイクサの後に続く碧銀の少女。二人の後ろ姿を見ながら女子達がきゃー!と集まり騒いでいた。

 

 

 

 

 

 

「俺の自己紹介は別に要らないな?」

「はい。イクサさん」

 

 学園の裏側、時間も時間な為周りに人の居ない広場のベンチに二人は座っていた。

 

「それなら、今度はこちらがお名前を伺いしても覇王様?」

「あ、アインハルト・ストラトス、です」

「…?あぁ『E・S』の部分か」

 

 アインハルト・ストラトス。昨日は『ハイディ・E・S・イングヴァルド』と名乗っていた事から正式な本名は『ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルド』なんだと理解した。

 

「そ、それで…」

「……?」

「本日は、どういった用件…で?」

 

 心配そうに訪ねてくるアインハルト。その恐る恐るといった仕草に小動物の様な愛らしさを見出し小さく微笑む。

 

「別に管理局に話そうとか弱みを握ろうだなんて思ってないさ。ただお前だってわかったら少し興味が湧いただけだよ」

「そ、そうですか」

 

 管理局───正式にはもっと色々あるのだが今回は治安維持組織、別世界で言う『警察』の様な組織だと思って欲しい───に話そうとしている訳ではないと知り一先ず安心したのか小さくほっと息を吐いたアインハルト。

 そんなアインハルトの仕草を見て、やっぱり見た目相応の子供だなと再認識する。

 

「……」

 

 だからこそ気になる。何がこの少女を駆り立てるのか、この幼い少女は何を焦っているのか。誰にも相談できず、あんな通り魔として力比べを行うなんて発想に至ったのか。

───この少女が何を秘めているのか。

 

(なんて、少し図々しいよな)

 

 わかっている。でも気になってしまった。

 自身がサイヤ人の血を引く事を隠してきたイクサ。当然、高まる戦闘欲求。けれどそれを表に出す訳にいかず積もり重なるフラストレーションを誤魔化す為に勉強に没頭した。知らない事はなんでも調べた、そして拗れて出来上がった探究心は人一番大きなモノだった。

 だから興味を持ってしまった以上、聞かずにはいられなかった。

 

「なぁ、なんであんな事してたんだ?」

「……」

 

 真剣な顔で尋ねるイクサにアインハルトは暫し黙し、ポツリポツリと胸の内を明かした。

 

「私は、この覇王流(ちから)が最強だと示したいのです。それが私に宿る彼の悲願なんです」

「…彼?」

「───戦乱の世を馳せた、覇王『()()()()』です」

 

 其の名は教科書にも載っている嘗て起きた大きな戦争、この世界(ほし)がミッドチルダと呼ばれる前───ベルカという次元世界が終末を迎える時代を生きた男の名であった。

 

「ーーー」

「………」

 

 アインハルトが胸の内に秘めた想いをイクサへ語った。イクサは彼女の言葉を唯々黙々と聴いた。

 端的に言えばこの碧銀の少女は先祖返りだ。この髪の彩、虹彩異色の瞳、そして部分的な覇王(クラウス)の記憶を持って産まれ落ちたのが、このアインハルト・ストラトスという少女だった。

 

 幼き頃、ある日突如として夢に見続ける様になった光景、まるで自身が体験したかの様に感じた記録《ユメ》は段々と頻度を増し、起きている間にまで影響を促す程にまでなった。幼く未熟な精神の彼女が先祖の記憶に『刷り込み』をされるのは必然だった。

 彼女(アインハルト)は言った、『嘗て覇王(クラウス)には大切な人が居た、その人は自分を犠牲にして戦乱の世を収めようとした。その人を止めようと、自分を犠牲にするなんて事をやめさせようとした。だが、自分(かれ)には力が無かった。大切な人を救うどころかその貌に悲しみを浮かべさせる事すら出来なかった』

 

「私は、クラウス(わたし)は、〜〜〜ッ! もうあんな思いをしたくないんです! この手から大切なものが溢れて離れ届かなくなる絶望を!!……弱さは罪です。弱ければ何も護る事が出来ない。力が欲しいんです。もう何も失わなくて済むように、もう誰にも奪わせないち、ちか、ら……が…ぅぅ」

 

 少女は涙した。言葉にすればする程、亡霊(クラウス)の悲しみが胸から溢れ出る。

 嘗ての覇王が彼女に与えた力───『覇王流(カイザーアーツ)』。これはとても優れた武技だ。素晴らしき贈り物だ。だが同時に、覇王は彼女に呪詛を刻んだ。

 なんて迷惑な遺産だろう。そしてその怨念を浴びた少女は真面目すぎた。覇王の記憶を真摯に受け取ってしまった。関係無いと割り切れればよかった、所詮夢だと切り捨てられればよかった。

 だが、アインハルトには出来なかった。捨てる事のできない想いは彼女の弱い心を縛り上げる。心に罅が走ろうとも砕けられない程に強く強く。

 

「……」

 

 彼女の想いを知った、彼女の重荷を知った、彼女の秘めたモノを識った。

 それを識ってイクサは、

 

(───面倒(めんど)くせぇ)

 

 イクサには彼女の想いは理解(わか)らない。だってイクサはアインハルト・ストラトスではないのだから。

 彼女の悲しみも、彼の悲願も、拳に込められた想いも、何もかもイクサには通じない(伝わらない)

「頑張ったな」と慰める事などできない───だって彼女は悲願を遂げられていないのだから。

「理解できるよ」と共感してやる気もない───だって彼女が惨めになるだけだから。

「応援してる」と背中を押してなんてやれない───だって彼女が背負い込んでしまうから。

「捨ててしまえばいい」と無責任な事は言えない───だって彼女を否定しているも同然だから。

 

───ましてや同情なんて想いに対する侮辱だ。

 

 結局の所、イクサに出来る事なんて、

 

「…っ、ぅぅ……づ…」

「……」

 

 彼女が泣き止むのを隣で待ってやるだけだった。

 溢れる涙と漏れる嗚咽が治るまでイクサは黙っていた。見ざる、聞かざる、言わざる。まるで何も聞こえてないし何も見えていないかの様に、聞こえないし見えていないのだから何も言わない。ただ静かに待ち続けた。

 やがて涙と嗚咽が収まり、目尻の滴を指で拭う少女にイクサが言う。

 

「悪いな。ハンカチでもあればここでカッコよく涙を拭いてやれるだが」

「いえ、私こそすみません。突然泣き出して」

「……もういい時間だ。今日は帰ろう、お前も落ち着きたいだろう?」

「はい」

「今日はもう、誰かに挑んだりするのよ」

「……わかりました」

「送ろうか?」

「いえ、大丈夫、です」

「……そうか」

「はい」

 

 イクサに頭を下げ、鞄を持って帰路に着くアインハルトの背中を見ながら一人ぼやく。

 

「……ほんと、儘ならないな」


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