魔法少女リリカルなのはVivid Saiyan 作:伝説の超サイヤ人になりたい。
※書き直し版です(2019/12/22)
「…失礼いたしました、私はカイザーアーツ正統。ハイディ・E・S・イングヴァルト。
───『覇王』、と名乗らせて頂いてます」
相手は通り魔だと実質冗談で聞いた質問に律儀に答えた事に一瞬固まったが、すぐに彼女の名乗った名に反応した。
「……イングヴァルド? 確か、
「はい。その覇王で間違いないです」
歴史に名を残した偉人の姓名を名乗る碧銀の女性───イングヴァルドは静かに構えた。
身体はこちらを正面に捉え、広げられた両の足はしっかりと大地を踏み締め、左手を前に伸ばし手刀に近い形の掌に、右腕は脇で締めてコンパクトにし拳を握る。
(これは、『古流武術』…だな)
イングヴァルドの独特な型の構えからイクサは分析。構えの型と己を称する名、嘗て覇王が治めていた国の主流の流派───それか覇王本人が扱った古流武術と推測する。
(ちょっと、楽しみになってきたな)
自身の半分を構成するサイヤ人の
「……」
「……」
「…っ」
「……?」
どちらからも仕掛ける事なく暫しの間、睨み合いが続く。
だが突然覇王を名乗る女性が困った様な反応を見せる。どうかしたのかとイクサが疑問を持ち始めると、イングヴァルドが「構えてください」と小さく言葉を放った。
ほんの一瞬、唖然としたイクサたがすぐに理解した。『あ、こいつ。真面目な奴だ』と。
イクサはイングヴァルドの言葉を聞き、少し魔を置いてから両腕を軽く広げると小さく口端を吊り上げて告げた。
「いつでもどうぞ」
「……そうですか」
噛み締める様に言った
碧銀の女覇王の滾る戦気が魔力に乗って威圧感として放たれる。ぶわっ、と馳せる風の様な魔力がイクサの髪を揺らす。
───仕掛けたのは女覇王からだ。
地面を強く蹴って前に出る、速く重い
イクサは彼女の魔力光である若緑色の風を帯びて捻りながら撃ち込まれる正拳に、まったく同じ速度で後ろに
「…くっ!……ッ!はぁっ!!」
「………」
連撃に次ぐ連撃、拳の弾幕。そしてしなやかな脚で放たれるハイキックを躱して距離を取るとイクサが両腕を上げる。その動作に何らかの行動に出ると思った女覇王は構えを取りバイザー越しにイクサの動きを注意深く視る。
だが、イクサは上げた両腕をまっすぐ下ろし手をズボンのポケットに入れる。
「──」
一瞬、唖然とする。だが、次の瞬間には怒りに染まった。
───嘗められている。
そう感じた彼女は大きな屈辱に奥歯を強く噛み締め前に出る。一歩で距離を詰め、一切の容赦の無い拳がイクサの頬を捉えた。
だが、
(…!? 重い!)
拳から伝わる感触は、びくともしないイクサの重み。びくともしないどころかぐぐぐっと首の力だけで押し返される。
怯み、今度は彼女の方から距離を取る。イクサは片腕をポケットから出して彼女の拳を受けた頬を親指で軽く拭う。
(まぁ…こんなもんか)
痛みすら感じない打撃跡を撫でてから、もう片方の腕もポケットも引き抜き脇を締め、両拳を握って固め胸の前に配置。両足も適度に広げたその
「それじゃあ」
「(…っ! 来る!) つッ!」
その場でタンッタンッとステップでリズムを刻みながら女覇王に告げる。
「いくぜ」
軽快なステップから一転して前に出る。
───そして背後に現れる。
「!?」
碧銀の女覇王はイクサの速度を捉えられなかった。そして捉えられないまま背後を取られ、背後を取られたことすら気付く間も与えられずに打撃を受ける。拳打なのか掌打なのか蹴打なのか、如何とも判断し難いダメージを背中に感じながらも勢いを利用して前に出て距離を取ってから向き直せばすぐ目の前で拳を引き絞ったイクサが居た。
「づぅ!?」
解き放たれ拳を咄嗟に首を傾けて躱し、反撃の上段蹴りを放つがイクサの伸ばした左腕を戻し、そのまま蹴りを遮る。
そして片足が地を離れた女覇王に空いた右拳を打つ。不安定な体勢ながらなんとか防ぐも硬い拳から繰り出される重い衝撃に軋む身体、けれど引く訳にはいかないと果敢に攻めるが、左腕で捌かれ再び右拳が放たれる。今度は両方の足でしっかり身体を支え尚且つ両腕を交差したクロスガードで迎えたが、それでもイクサのパワーに押されてザザザッと音を出して後方へ滑り地面を削る。
「くぅ…ッ」
両腕に響く鈍痛に小さく呻く、がその痛みも呑み込んで覇王は猛る。
全ては悲願を叶える為。
自身の力を、技を、
───覇王流を!
「はあぁー!」
最強と示す為に!!
血気盛んに前に出る。
油断も余裕も無い、それでも引けない理由がある。全身全霊を持ってこの志をぶつける。
───そして勝つッ!!
「はああああ!!」
裂帛の気合いと共に放たれる打撃の数々。休みなく繰り出され続ける攻撃、けれど全て防がれる。受け、流し、はたき、躱す。一撃も
超至近距離の攻防が繰り広げられる。一方が攻め、一方が守るという立場に関わらず押されているのは
そして次第に攻防は反転する。
イクサが反撃を加え始めた、そしてそれは覇王の身を防御の上から削る。反撃の回数が段々と増え、やがてイクサの方が攻める様に変わり、しまいには女覇王の方が防戦一方となってしまった。
荒い殴打が連続する、隙さえ見付けられれば反撃できるがイクサのパワーがそれをさせない。単純なパワーは振りの速さにも繋がり剛速の打撃へと昇華する。
ダンダンダン!と重い衝撃が襲い腕が痛い。けれど腕を下げて直撃してしまえば最後、意識など紙屑の様に吹っ飛ぶ事は明らかだ。
痛みが弱く感じる、腕の痛覚が鈍くなっていってる。もう先程のような猛攻はできないだろう。
あの技に賭けるしかない。ならば、あとはその一発を打ち込める隙を作るだけ。だけだが、どうすればいい?覚悟を決めて一撃耐えるか?───無理だ、耐えられない。
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ考えろ考えろ考えろ考えろーーー
「オォ…ラァ!」
大きく振り被って放たれた拳の徹甲弾、それを彼女は、
「……マジかよお前」
「づ、ぅぅ…ッ」
片腕で防御した。勿論、両腕でもダメージが通る一撃を片腕を防ぎ切れる筈もなく、イクサの拳にも少々拙い感触が伝わる。筋肉を貫き骨にまで損傷が達しただろう感触に流石のイクサも少し怯んだ。
「おい、大丈」
これはヤバいと感じ、心配から声を掛けようとしたが彼女の───揺るがない戦意を宿した目を見て理解した、まだ終わっていない。
虚空からイクサの四肢に絡み付く緑色の魔力鎖、
「覇王──」
ダン!と力強く大地を踏む彼女の足、ギュルン!と捻りから生み出された回転が技術と魔法で練り上げられて脚を伝わり昇る。回転は力へと昇華し、右腕に収束する。
これが彼女の最高の技。覇王が編み出した覇王流の奥義。
其は、
「───断ッ空ぅッ、拳!!!!」
『覇王断空拳』
決まった。彼女の断空拳は油断したイクサを確実に捉え直撃した。回転が産んだ暴風の様な一撃がイクサの顔に見舞い、それから更に解き放たれた回転が魔力風を乗せて蹂躙する。炸裂する烈風が広がり周りの物を吹き飛ばす。
そして風が去り、後には結果だけが残った。
「……そん、な…」
碧銀の覇王が立っていられず崩れ落ちる。覇王の一撃『覇王断空拳』を額で受け止めたイクサは伏せた目を開き笑みを浮かべながら告げた。
「少しは、効いたぜ」
勝負は決した。万全では無かったとはいえ最高の技を受けて立っている彼と、立ち上がる事も拳を握る事すらできない自分。誰の目から見ても勝敗は明らかだった。
「……ッッ」
俯き、自身の手が視界に入る。ボロボロでまともに感覚もない弱者の拳。こんな事じゃ守りたいモノも守れない。こんな拳に一体何の価値が在るというのか。
負けた反動か、ネガティブな感情が溢れだして止まらない。自身に宿る自分以外───とある男の後悔に染め上げられ
「大丈夫か?」
温かな光に包まれた。
「……あ」
───白だ。それも、元から白いのではなく元々はあったであろう色を極限まで薄まり脱色したかの様な白。そんな白い小さな淡い光の粒がぽわぽわと浮かび碧銀の覇王の腕を照らす。
それは治癒魔法だった。あまり高位の魔法ではなく、寧ろギリギリ中位ランクと呼べる様な魔法な為効果は全然だが、それでもこのランクの割には効果のある魔法が彼女の腕を癒している。特に骨にまでダメージが届いている左腕を。
「……」
「……」
顔を上げればすぐ近くで自分に治癒魔法を掛けてくれているイクサの顔が目に入る。ジッと自身の腕に集中して魔法を掛けてくれている彼の顔を見つめる。
「悪いな」
「え?」
「俺は魔力量がたかが知れててな、こんな低位の魔法しか使えないんだ。出来ればもっと高位の魔法を使ってやりたいんだが。…だから悪いなって」
「い、いえ!そんな事はありません!!」
「そうか?ありがとう」
それから数十分程経ち、イクサが手を除ける。
「こんなモンかな。どうだ腕?」
「は、はい。お陰様で動きますし痛みもかなり薄まりました」
「それはよかった」
小さく笑みを浮かべるイクサだが、その額には汗が流れている事から本当に魔力量が少ないのだろう。そして無理をして治癒魔法を掛け続けてくれた事に申し訳なく感じる。
自分がやってる事は通り魔だ。誰彼構わず強い者に喧嘩を売っている。今回も同じだ。違いは前情報があるか、ないか。
今回は後者。偶然彼が目に入り、その瞬間彼は強者だと直感し確信した。まるで最初から知っていたかの様に。それから疑う事もなく彼に挑んだ、半ば本能的に。
「よし、少しここで待ってろ」
「…?どうかしたのですか?」
「ん?あぁ、念の為に近くの店で包帯とかの医療品を買ってくる」
「え!い、いえ!そこまでして頂く訳には!」
「うるせぇ」
「あう!」
ぺしっと指先で額を小突かれる。その衝撃でバイザーが外れて落ちた。
そして露わになる彼女の顔。バイザーで隠された紫色の右目と藍色の左目の
「ふーん。思った通り綺麗な顔じゃないか」
「……え?あ、うぅ」
「……?……あ」
顔を俯かせて小さく呻く
(
知り合い曰く『イクサの悪い癖』だそうだ。
思った事を正直に言い過ぎてしまう。そしてその言葉がタラシ込む物ばかり。イクサの整った顔立ちも合わさってその言葉は女性の胸に深く突き刺さる。
母は複雑そうな笑みを浮かべながら「遺伝かしら?」と呟いていた。
「ぁぁ…、それじゃあ近くの店みてくるから此処で大人しく待ってろよ」
「は、はい。わかりました」
少々気まずくなったイクサは強引に話を切り出す。イングヴァルドもこの空気を変える為便乗する。
「これで、よしっと」
「…ありがとう、ございます」
腕を痛めない様優しく、そしてしっかりと包帯を巻き終える。イングヴァルドも律儀に礼を言い頭を下げる。
「……」
「……?」
応急処置を済ませ、少し距離を取ったイクサはイングヴァルドをじっと眺める。イングヴァルドもイクサの視線に少し困った様に首を左右に振って周りを見渡す。
「(こいつ、やっぱり)なぁ」
「はい!なんでしょう?」
「お前、子供だろ?」
「──ッ!?」
イングヴァルドの身体がビクリと大きく反応する。もはやその仕草が正解を言っているも同然である。なんとか誤魔化そうと言葉を探るが───何も思い付かず俯きつつ正直に明かした。
「何故、わかったのですか?」
「見た目と反応が釣り合っていない」
「──」
絶句する。家族や周りの人達からは子供らしく無いとよく言われると言うのに目の前の少年にはすぐに露見されてしまった!!
その考えが顔に出ていたのかイクサは苦笑しながら続けた。
「質問に正直に答えたり、律儀だったり。なんというか…無垢って感じで子供ぽいからな」
「……」
イクサの言葉を聞き終わった途端に猛烈に恥ずかしくなる。
(
そんなイングヴァルドにイクサは既視感を覚えた。数年前、激情をぶつける先が無く
───そう思うと、僅かにだが背中を押してやりたくなった。
「なあ」
「なん、でしょう?」
だから、せめて
「お前が、何を思い何の事情があってこんな事してるかは知らないし聞かない。だから『やめろ』や『間違ってる』なんて偉そうな事は言えない」
「……」
イングヴァルドがイクサの言葉に真摯に耳を傾ける。
「だけどこれだけは言っておく。
「……」
「別に公式な試合をしろなんて言わない。できればそうしてもらった方が健全だけどな。まぁ、中には相応の立場や報酬がなければ試合を引き受けてくれない様な奴も居るが。それでも、誰彼構わず殴り掛かるような真似を絶対にするな。一度それをすれば、もう歯止めが効かなくなる。人は一度許してしまえばズルズルと引き摺っちまうからな。そうなれば直すのは困難だ。余程強いナニカが起きるか、周りの人達に止めてもらうかしかない。どっちにしろロクな状況じゃないだろうよ。だから、相手は選べ。決して間違えるな。いいな?」
「…はい」
真剣な顔で頷くイングヴァルドにイクサは満足した様子で頭に手を乗せ、そのまま撫でる。
「…ぁ」
「素直ないい子だ」
「………」
その後も暫くイングヴァルドの頭を撫で続け、ふと我に帰ったイクサが手を離す。
「あ、あはは…」
「……」
頬を人差し指で掻きながら愛想笑いを浮かべるイクサと撫でられた感触を逃さないようにと掌を頭に添えるイングヴァルド。
「それじゃあ、お前はそろそろ帰れ」
「……はい」
立ち上がり頭を下げてイクサに背を向けて歩き出すイングヴァルド。イクサは数秒程離れていくイングヴァルドの背中を見つめ、自身も帰路に着こうとする。
すると、
「すみません!」
「……ん?」
後ろから呼び掛けらる。上半身だけ捻って軽く振り返ればイングヴァルドがこちらを向いて立っている。
「お名前を聞かせてもらえませんか!」
少し距離が空いている為か大きな声で訪ねてくる。イクサはフッと笑った後に答えた。
「イクサだ!」
「───
早速、教えてもらった名前を呼ぶ。
その顔は真剣で、
「
感謝や
軽く手を上げて応えるとイングヴァルドは今度こそ去っていた。
そんなイングヴァルドの背中を見て、イクサは自身にしか聴こえないような小さな声を漏らした。
───そういう所が子供ぽいんだよ。
その後帰宅後
「こんな時間まで何してたの!?」
「ご、ごめんなさい母さん」
「罰として今日は晩御飯抜き!」
「ファッ!?それだけはお許しを!」
「ダメ!」
「もうダメだ、お終いだ」Orz