魔法少女リリカルなのはVivid Saiyan 作:伝説の超サイヤ人になりたい。
「フェイトさーーん!!」
声が聞こえた。見上げればビルの屋上から此方を見下ろすノーヴェの姿が見える。
「……今しかないな」
イクサはノーヴェの意識がフェイトに向いている隙に近くの建物内へと姿を隠し身を潜める。ノーヴェもイクサの姿が見当たらない事に気付いて降りてくるが時既に遅し。イクサはその場から離れノーヴェ達の元へ向かっているティアナに見つからない様に離脱していた。
「ああ〜、疲れた」
イクサはティアナの気を感じて十分距離を取り念の為建物内の窓の無い廊下で壁を背もたれにして座り込んでいた。
ノーヴェやフェイト、それにティアナがガンガン魔法を使ってくれたおかげで何とか集束魔法を放つ事ができたが、それでも魔力の消耗は激しい。チームには申し訳ないが暫しの間此処で休ませてもらおうと決めるや否やチームリーダーのなのはに通信を送る。
「もしもし、こちらイクサです」
『イクサくん!大丈夫なの!?』
「はい、なんとか。ですがLIFEも残り僅かなので暫く回復に徹しようと思います」
『そっか。……うん!ならルーテシアちゃんに回復してもらうといいよ』
「……なるほど。了解しました、すぐに向かうとします」
『うん!!あ、あと、油断して見つかって撃沈とかダメだよ!…気を付けてね?』
「ええ、勿論です。そんな情けない負け方は嫌ですからね」
ぶつりと通信を切るやいなや立ち上がり足を進めた。なのはの助言に従いルーテシアの元へ。
フェイトがリタイアした事は赤チームによって大きな動揺を誘った。フェイトがチームのリーダーである事は勿論だが実力者であるフェイトが──更にノーヴェとティアナの二人も加えて三人を相手にしながら──イクサに倒された。
そして逆に青チームの士気はかなり高まった。イクサに負けてられないと鼓舞され、その勢いは数で劣る筈なのに互角以上の戦いを繰り広げる程に。
その様子を空中に浮かび上がったホログラム越しにルーテシア・アルピーノは一人笑みを浮かべながら眺めていた。すぐ近くで攻めてきたキャロとコロナの二人から自身を守る為になのはが戦っている。
だが、二人共に攻め切れていない。いや寧ろなのはに翻弄されていると言っていい。ホログラムに映るチームメンバーも皆、獅子奮迅の活躍だ。
───
ルーテシアはこの状況でチームメンバーの殆どが士気を上げている中、唯一人いまいち調子の出ていないメンバー、エリオに目を向ける。
『……』
彼は余程ファイトがイクサに倒された事がショックだったのだろう。心ここにあらず、模擬戦に集中出来ていない様だった。
流石にヴィヴィオとリオの二人を相手に押されている訳ではないが攻めきれずにもいる。膠着状態が続いていた。
「もう、エリオったら」
ルーテシアがホログラムを見て溜め息を吐く。
「まったく、しょうがないわね。所で今イクサはどこに居るのかしらーと」
やれやれと言った様子で首を傾げるとエリオのホログラムから目を逸らし、なのはから自分の元に向かっていると聞いている良くも悪くもイクサのホログラムに目を向けようとし。
「俺ならここだぞ」
「ぴゃぁ!?」
いつの間には背後に立っていたイクサに声を掛けられルーテシアがビクリと反応し可愛らしい驚き声を上げた。
ルーテシアがゆっくり振り返れば、イクサが申し訳なさそうな微妙な表情を浮かべていた。
「……」
「いや、その、驚かすつもりはなかったんだ。ごめん」
「まぁ、いいけど」
何処か不貞腐れた様に頬を膨らませながらぷいとそっぽを向く。耳が微かに赤くなっている事から照れているのかもしれない。
「それで、あの…」
「……」
「LIFEポイントを、回復して、その、欲しいんだけど。…いいか?」
「……………そこに立ってて」
「…了解」
イクサの足元に薄紫色の魔法陣が浮かび上がり淡い光が放たれた直後、イクサのLIFEポイントが回復し始める。
「…………」
「…………………んっ」
「なに?」
「いや、なんでもない。……です」
気不味い空気が充満している。イクサはルーテシアから目を離し少し離れた所で戦うなのはを観る。
コロナの
やがて、動かなくなった所をゴライアスの強力な一撃をくらわせるつもりだろうか。
「……」
ルーテシアはキャロとコロナの作戦に気付いているのだろうか?チラリと視線を向けるがルーテシアには特に気付いた様子は無い。先の事をまだ引き摺っているのか、純粋に気付いていないのか、それとも心配する必要がないのか。
「……」
(お手並み拝見といくか)
イクサも何か行動に移す事なく観戦に徹する事にした。
「ん?…あ」
キャロの魔力鎖で移動範囲を縮め、コロナのゴライアスの腕が
二人の少女が「やったー!」と喜んでいる。
だが、
「油断大敵だよ♪」
桜色の魔力弾が砂煙を穿ち、そのままキャロの額に着弾する。「へうーっ!?」と情けない声を出して倒れるキャロ、そしてコロナも急展開について行けず反応が遅れ、そのまま桜色の
砂煙が散ると其処には、
「良い作戦だったけど、ちゃんと相手を確認するまで油断してはいけません。鉄則だよ〜」
身に纏うバリアジャケットこそ少し傷付き破けているが半分以上LIFEポイントを残したなのはが平然と浮かんでいた。
驚愕しているキャロ、そして自身の戦いぶりを観察しているイクサに向けて自信満々のドヤ顔を見せるなのは。だが、一発の魔力弾がなのはの後頭部を叩いた。軽快なパコーン!という音と「いったー!?」という素っ頓狂な声を上げる。
「この弾丸、ティアナ!?」
「……はは」
油断大敵と言ったなのはが油断して魔力弾をくらった光景を観てイクサが苦笑を浮かべている。
続けて
「……ふむ、
「え?」
心無しかイクサを狙った魔力弾が多く思える。いや、確実に多い。
そして同じビルの屋上に居るルーテシアも当然巻き込まれる。
「ちょ!?やば───」
───爆裂。更に続く爆発、爆破、爆撃!!
爆煙が舞うビル屋上に更に次々と着弾する魔力弾。
「うわー」
「…う、うぅ」
───イクサが声を漏らした。
両腕にはお姫様抱っこ状態のルーテシアを抱え、空を跳んでいる。
そのまま、別の建物の屋上へと着地。ルーテシアを下ろそうとするが。
「い、イクサ!後ろ!?後ろ見て後ろ!!」
「ん?」
抱き抱えられたルーテシアだからこそ気付けた背後から襲撃をルーテシアを抱えたまま回避し、回避中に身を翻して襲撃者を視界に入れる。
碧銀の髪と左右で異色の瞳の少女、スバルの相手をしていた筈のアインハルトが何処か怒った様子で立っていた。──おそらくノーヴェが代わりにスバルの相手をしているのだろう。
「アイン」
「………いつまでルーテシアさんを抱いているんですか?」
「す、ストラトスさん?」
つい敬語且つ姓名と他人行儀に呼んでしまい、更にもう一段アインハルトの機嫌が悪化した。
滲み出す威圧感、“凄み”としか呼び用のない覇気。
「…い、イクサ。下ろして」
「お、おう」
あっという間に遠去かるルーテシアから目を離してアインハルトに向ける。変わらずアインハルトの鋭い眼光がイクサを射抜く。
「……御相手、お願いできますか?」
「……」
イクサは目だけで周りを見渡す。アインハルトの他に視界に映るのはなのはとティアナの魔力弾がアインハルトの後方で飛び交っている光景だけだ。
イクサは軽く息を吐くと一言、「いいぞ」と応える。
「!…今度こそ勝ちます!」
そう言うや否やアインハルトが構える。滾る闘士が身体を巡り、四肢に無限に湧き出るのでは思ってしまう程の力が
「……ふぅ」
イクサも構える。
右足を前へ出して足を広げ地面をぐっと踏み、半身を右回りに軽く捻り、両腕を胸の前で交差してから左腕を前に、右腕を腰にゆっくりと
「………」
アインハルトは観察する。
「……」
「……ッ!往きます!!」
暫しの睨み合いを経て、ラチが開かないと覚悟を決めたアインハルトは自ら仕掛けた。
実力差は言わずもがなわかっている、それでもアインハルトは足を進める。高まる緊張感に比例して鼓動が大きく、そして激しくなるのを感じる。そして同時に強い高揚感も感じ取っている。
───彼は何を魅せてくれるのだろう?
───彼は何をしてくれるのだろう?
イクサがフェイトを倒した事実は既に
そんなフェイトにイクサは勝利した。しかも、ノーヴェとティアナの二人も同時に相手にして、だ。
(嗚呼。やっぱりイクサさんは凄い)
気が付けば先程の凄まじい怒りは何処かへときれいさっぱり消え失せていた。代わりに様々な想い───喜びや高揚といった感情が胸を渦巻き満たしていた。今のアインハルトにはこのごちゃ混ぜになった感情が何なのかわからない。だがそんな事はどうでもいい、どうせわからないものはわからないのだから。
それよりも今は唯、純粋に彼と戦っていたい。
「───覇王…ッ!断っ空…っ拳ッッ!!」
初手から解き放たれる覇王の技。地面を踏む足先から練り上げた力が、下半身から上半身へ移り、そして右腕に乗せられる螺旋回転。回転と共に魔力も込められた一撃はアインハルトの髪と同じ碧銀の旋風を帯びている。小細工無し、真っ直ぐに全力の一撃を解き放った。
「……少し遊んでやるよ」
アインハルトの断空拳がイクサの顔を撃ち抜く瞬間───イクサの姿が掻き消える。
拳を伸ばし切った姿勢のアインハルトの隣を寄り添う様に近く、囁く様に小さく通り過ぎる瞬間に言う。
「『リボルバー・スパイク』」
「あ、ぐぅ…ッ」
魔力光が軌跡を残す回し蹴りがアインハルトの横腹を捉え、蹴り飛ばす。建物屋上から弾き飛ばされ別の屋上へ落下。そのままゴロゴロと転がり屋上から転落しそうになるも咄嗟に腕を伸ばして屋上端を掴み取り留まる。
「うっ、くっ」
腕の力だけで屋上へと登り上がる。
荒れた呼吸を整え、鈍痛が響く横腹に手を添える。
「ッッ!」
だが、アインハルトに休む暇は与えられなかった。空中から迫る気配を感じ取ると無意識の内に飛び出していた。一瞬遅れでアインハルトの居た場所をナニカ、いや誰かが着弾、砂塵が舞う。
再び転がるアインハルトだが、腕の力で跳ね飛び着地しすぐさま相手へ目を向ける。
煙から姿を現したのは、
「───なっ!?」
「……」
「な、何故貴女が…ぐっ」
無言で歩んでいたノーヴェは、突如として駆け出し味方である筈のアインハルトに接近し拳を突き出す。アインハルトも両腕を交差させるクロスガードで防御するがパワー負けして後退する。
すぐさま駆け出しアインハルトを追うノーヴェに前に、アインハルトは何がなんだかわからないが迎撃に入る。
「ノーヴェさん!?待って、ください!私達は味方の、筈、です!!」
「………」
同じチームだと呼び掛けるアインハルトをノーヴェは無言で攻め続ける───所か大きく引き絞った右拳に電撃の様に弾ける
「…ッ…?」
ノーヴェのスタンナックルをガードする、そして異常な感覚に気付いた。
(弱……い?)
拳打の重さは十分だ。だが、一撃に込められた魔力量がかなり少なかった。
以前、通り魔を行っていた頃にアインハルトはノーヴェのスタンナックルを受けた事がある。その時はノーヴェがバリアジャケットを身に付けていなかった事もありそこまで威力は高くなかったが、今の一撃はそのバリアジャケットを纏っていない時よりも更に少なかった。
一度、違和感に気付くば次々とおかしな点が見つかる事ができた。
一つ、ノーヴェの魔力光は“白”ではなく“黄色”だ。
二つ、ノーヴェのバリアジャケット、その脚部にはローラーが仕掛けられノーヴェも愛用している。走るなどあり得ない。
そして何より、
(───あ)
理解した。思い出した。
以前、見せて貰ったその妙義。
そう、其れこそが、
「象形…拳っ」
「───正解、だ!」
瞬間、目前にまで接近していたノーヴェの
「気付くまで三十秒とちょい。……まだ、合格点はやれないな」
イクサはLIFEポイントを全て失い気を失ったアインハルトに向けて悪戯に成功した子供の様に笑い掛けた。
「ふぅ、さて」
「ブレイカー、だよなアレ」
嗚呼〜ダメだ〜、こりゃ間に合わんわー。とわざとらしいセリフを吐きながらブレイカー同士の衝突による超エネルギーの爆裂がドーム状に拡散し建物を呑み込む
イクサ。ブレイカー同士の衝突による魔力爆発に呑み込まれ
次回は番外編予定です