魔法少女リリカルなのはVivid Saiyan 作:伝説の超サイヤ人になりたい。
あと独自設定ありです。
オフトレツアー二日目恒例行事陸戦試合。
合宿二日目の朝、歯を磨くイクサに今日行うと教えられ「また急に…」と呆れさせてから数時間。
都会の街並みを模した訓練所のビルの最上階に集合した一行。
試合の形式は六対六、だったのだがイクサの参加とDSAA、インターミドル準優勝の経歴からイクサを青組、格闘技娘四人を赤組に入れた八対五に変更した乱戦試合に。
ポジションによって与えられたLIFEポイントがゼロになったら敗北のルールでやっていく。
ノーヴェが説明を終え、赤組代表ファイトと青組代表なのはの二人の掛け声に合わせ己のデバイスを掲げ「セットアップ」の言葉でバリアジャケットを身に付ける。
「ソルジャー、セットアップ」
イクサもボックス型の一般的な戦闘用デバイス『ソルジャー』でセットアップを行いバリアジャケットを身に纏う。黒いインナーの上に袖も裾も短く肩や胸元に鉄色のプロテクターがくっ付いた赤色のジャケットを着込み、下はこれまた黒いジーンズに黒を主体に赤い線が入ったブーツと全体的に黒い。
赤チームと青チームに別れそれぞれのチームの待機地点で作戦会議。
イクサに命じられたのは『遊撃』。出会って間も無いイクサの戦い方を知らない為、下手に指揮できないが故の独自判断の指示だ。
そして陸戦試合が開始した。
スバルの『ウイングロード』、ノーヴェの『エアライナー』──簡単に言えば魔力で出来た道──が練習場中に巡らされ空中に道ができる。その上を格闘技選手達や陸戦魔導師が走りぶつかる。
「行きます! イクサさん!」
魔力道路の上、アインハルトがまっすぐと単独行動のイクサに接敵する。
馬鹿正直に声を出して向かってくるアインハルトに内心で呆れながらも足を止めてアインハルトを正面に捕捉する。
「……」
「はあああ!!」
返事は返さず、代わりに構えで返すイクサに少女が薄緑の魔力を帯びた拳を放つ。
向かってくる右拳を内側から柔かに左手の甲で押し払い腰の位置に携えた右拳を放ち戻すコンパクトなピストンパンチを打つ。パァン!と軽快な音を放ちアインハルトを弾き飛ばす。直前でガードされたようで大したダメージにはなっていない。
後ずさりしながら4メートル程弾き飛ばされたアインハルト。
「どうした! そんな馬鹿正直な突撃が通用すると思ってるのか!」
「雷光拳!」
「なに……!」
どこに潜んでいたか背後からのリオの奇襲をジャンプして回避する。
(なるほど。最初のアインの突撃は油断を誘うための囮か)
「……、!」
黄色の鎖がイクサの身体を拘束した。
腕、胸、胴、脚を深く巻き付かれたバインドが魔法の法則で身体の動きを阻害する。
「リボルバー…」
「……っ」
「スパーイク!!」
そして現れた真打。今回の作戦の真の攻撃役。
高町ヴィヴィオが虹色の
「!! ──だぁあ!!」
「ええ!?」
「オオオッ!」
バキンと左腕部分だけ魔力鎖が引きちぎられる、縛りが解け自由になった左腕を振りかぶり、ヴィヴィオのリボルバースパイクへと拳を叩き付け、逆に押し除けた。
地面に背中から墜落して煙を立てるがすぐに晴れ、身体に巻き付いたバインドを引きちぎるイクサが見てとれる。
「ふむ、なかなか面白い作戦だな」
「あはは、予感はしてたけどなんとかされちゃった。みんなで頑張って考えたのになぁ」
「悪くはなかったぞ。それで、今ので品切れか」
「もちろん、そんな訳ないです!」
「みんなで案をだして」
「沢山考えました!」
元気に答える少女達によろしいと頷き構える。
「じゃあ、見せてみろ。採点してやるよ」
『はい!』
「みんな、最初から全力で行くよ!」
「「「はい!(わかった!)」」」
ヴィヴィオの言葉に三人が答える。イクサさん相手に加減してられないと魔力を込める。
「……」
ヴィヴィオとアインハルトが同時に駆け出し攻めてくる。
イクサは左手に魔力弾を作り投擲。爆弾のように爆発する魔力弾を二人は左右に別れて避ける。
「一閃必中! ディバインバスター!」
左方面のヴィヴィオから迫る虹色の砲撃魔法。イクサはそれを、
「ふんっ!」
「えぇ!?」
素手で弾いた。
そして接近したアインハルトの相手をする。早々の断空拳をいなし、返しの一撃で後退させる。
そのまま追撃することはなくヴィヴィオのバインドから逃れ距離を取る。追ってくるヴィヴィオの攻撃を後退しながら捌く。
「……ん」
「イクサさん、覚悟!」
いつの間にか先回りして後ろから走り寄るアインハルト。このままでは挟み撃ちに合う。
イクサはヴィヴィオを一度払い魔法道路から飛び降りる。
「行ったよ! リオ! コロナ!」
「オッケーヴィヴィオ!」
「任せて!」
「……」
下を見ると、二人並ぶリオとコロナの姿が。
「創主コロナと魔導器ブランゼルの名のもとに」
魔力による遠隔操作を得意とするコロナが見つけた自分なりの戦い方。
「ゴーレム作成、か」
「叩いて砕け! 『ゴライアス』!!」
そして今ここに、岩の巨人が産声をあげた。
「わたしも行くよ!」
コロナのゴライアスに感化され、リオが魔力を解放させる。
魔力変換資質。無色の魔力を属性を持ったモノへ変えるレアスキル。リオはそれを『炎』と『電気』の二種を併せ持つ。
「双龍円舞ッ!!」
大人も羨む魔力量に物を言わせ、猛り吼える炎の龍と雷の龍を象る。
「「行きますよ! イクサさん!!」」
「……ほう」
ビルの根元を砕き姿を現わす。
両腕をクロスしてガードしながら吹き飛ぶイクサとそれを追う二匹の龍と主人の
「炎龍! そして雷龍!」
双龍の片割れ、炎の龍が飛来する。熱の顎を広げ喰らいつこうと襲来するのをジャンプして避ける。続いて迫る雷の龍に飲み込まれるが気合いで搔き消す。
着地したイクサ。リオは既に姿を隠しビルの壁を砕いて肩に
「はあ!」
向かってくるゴライアスに真っ正面から対峙する。
全身に力を巡らせ強く握った拳に魔力で薄い膜を張って咆哮するゴライアスの巨人の拳とぶつけ、拮抗する。
コロナの驚愕も一瞬、すぐに続く二撃三撃と続けてパンチを繰り出す。
「はああああああ!!」
ゴガンゴガンゴガン、と岩の巨人と青年が何度も拳をぶつけ合い、
「オオオオオ!!」
「キャッ!」
押し勝ったのはイクサだ。ゴライアスの片腕を砕き、尚且つ後退させる。
「喰らえ
最低限の魔力の
コロナには押し退けられた時点で離脱しているのでダメージは無い。
「ソニックシューター、ファイヤ!」
「チッ……!」
降り注ぐ魔力弾を連続バク転からの側転、バク宙で退避する。
そして土煙を破って死角から現れるアインハルトの攻撃を跳んで躱す。
アインハルトとヴィヴィオにリオとコロナの二人が合流する。
「もぅー! 完全に決まったと思ったのにー!!」
「流石イクサさんです」
「アインハルトさんは何故得意げに?」
「あはは…」
悔しそうなリオと何故か誇らしげなアインハルトに苦笑いするコロナとヴィヴィオ。
「じゃあ次の作戦行こう!」
『了解!』
ヴィヴィオの意見に全員が了承する。
「行くよリオ! アインハルトさん!」
「いっくぞぉ!」「わかりました!」
リオ、ヴィヴィオ、アインハルトの順に並んで馳せる。
コロナのみが動かずその場にいる。
「……」
「させません、ブランセル!」
『Rock bind』
上に跳ぼうとするイクサの片足を盛り上がった土塊が捉え邪魔する。跳ぼうとしたが遮られ変な姿勢のまま三人の相手をする。
イクサの目前でリオが左に、ヴィヴィオが右に駆け、アインハルトはそのまま直進と、三方向から攻めにくる。
アインハルトのパンチを顔を傾け躱し、リオの回し蹴りを左腕で防ぎ、ヴィヴィオのパンチを右手で受け止め両手が埋まり、続くアインハルトの二撃目を対処できず頬に突き刺さった。
初めてのクリーンヒット、数値にして300と少しのダメージをイクサに与えた。
「やった! ───え?うわっ!?」
「きゃ!」「うぐっ!」
「みんな、きゃあ!」
ヴィヴィオの歓声の直後、リオの蹴りを払いのけヴィヴィオの腕を両手で掴みスイング。アインハルトとリオにぶつけて投げ飛ばし足を固めた岩を無理矢理破壊、飛び上がり速射砲をコロナに放つ。
四人を瞬く間を攻撃、飛び上がりビルに飛び込んで姿を隠す。
「いったぁーい!!」
遅れて少女達の声が聞こえた。加減はしたから大したダメージにはなっていないだろう。
「……っ!」
「させない!」
少女達から離れたイクサはティアナと対峙していた。
二丁の拳銃型デバイスと周りに展開された砲台の役割も持つ魔力弾から連射される弾丸を避けながら接近しようとするが進む先を予測して発砲し、阻害している。
昨日の温泉を気にしているのか普段よりも連射速度と威力が高い。
(ラチがあかない、なら───)
「真っ向勝負でぶん殴る!!」
「!? させないって言ってんでしょ!」
「関係無いですよ。はぁあああ!!!」
回避を捨て真っ正面から突撃してくるイクサに橙色の魔力弾が殺到し全て直撃する、が。
「ッッ雄雄オオォォ!!」
「!?出鱈目よ!!」
煙から飛び出すほぼ無傷のイクサに更に魔力弾を連射するが、拳の連打で破壊され接近を許してしまった。
「この距離ならどうだぁ!!」
そして大振りの拳が───避けられた。
「なっ」
「管理局員ナメんじゃないわよ!」
彼女は四年前、ミッドチルダそして管理局滅亡の危機と言われたjs事件を解決した『機動六課』のメンバー。それからも管理局員として働き多くの修羅場をくぐってきた間違えようのない強者。射撃専門で近接戦は苦手だから、と何も出来ない素人とは違う。
足を払いデバイスを押し付け引き鉄を引く。地に足付かずのゼロ距離射撃は流石のイクサも吹き飛ばしビルに激突して地面に墜ちた。
「いってぇな、ほんと」
後頭部を右手で抑えながら立ち上がる。その口端をつり上がっていた。
今のでLIFEを大きく削られもう1000を切っている。
だと言うのに、
「はは、面白くなってきた」
『イクサくん!』
突然イクサの前になのはが映ったホロウィンドウが出現する。
「?? どうしまし」
『そっちに二人行ったから気を付けて!』
「……行ったって、誰が」
「───くらぁえやぁあ!!」
なのはの忠告の直後、ノーヴェが飛び込んできた。
ノーヴェの不意打ちを上身を反らして回避する。倒れない様に地面に片手を突いてから身体を捻ってノーヴェを正面に捉える。
「ノーヴェさん……!」
「よう、イクサ!大人しくぶん殴られろや!」
「イヤです」
初撃の不意打ちを避けて、続く連撃を躱し、いなし、弾きながら対処する。
「でぇやあ!」
ノーヴェのボディに一撃入れて退け、飛行して距離を取る。
「逃すかよ!」
四本のエアライナーを伸ばし駆けながら追い、ローラーブーツデバイス『ジェットエッジ』の出力を上げて飛びかかり右腕に装備したアームドデバイス『ガンナックル』でイクサをガードを掻い潜って殴り、続けて左拳の連打を顔面に浴びせ、最後にジェットエッジに備えたナックルスピナーをフル回転させて得意技の回し蹴り、リボルバー・スパイクで吹っ飛ばす。
「くぅ……っ!」
吹っ飛ばされながらノーヴェに手を向け
───二人行ったよ
「!?」
なのはの
迫る地面を目視してウィングロードに手をかけ昇りイクサは通信魔法をなのはに送り話し掛ける。
「簡潔に説明もらえます?」
『フェイトちゃんの相手をしていたエリオくんをヴィヴィオとリオちゃんが、ノーヴェの相手をしていたスバルをアインハルトちゃんが相手して、キャロの援護を受けたコロナちゃんがルーテシアに向かったから私が向かってる』
「……了解しました」
状況確認を兼ねたなのはとの通信を切り魔力道路の上でノーヴェ、ファイト、そしてたった今合流したティアナの三人の魔導師と対峙する。
「年下に大人三人がかりとか潰しにきてません?」
「正直、お前はチビ達の相手には荷が重いからな」
「……そこは信用してやるべきでは?」
「無理とわかっていて押し付けるのは間違ってると思わないか?」
「む……」
言葉を失ったイクサに満足そうに笑いノーヴェが戦闘態勢に入る。
少し離れた位置でフェイトが困ったような笑みを浮かべている。彼女はイクサ一人に対して三人の構図に思うところがあるらしい。
そこから戦いを凄まじいものだった。
ノーヴェと近距離格闘戦を、ノーヴェが離れるとフェイトのスピードを生かしたヒット&アウェイを、そして二人の援護射撃するティアナ。なかでもフェイトとティアナのコンビネーションは抜群。
そしてその三人を相手にしながらも急所は外させ決定打は与えないイクサ。
「うぅらぁあ!!」
「ちぃ…っ」
ノーヴェの強打をガードしながら吹き飛ばされ、後ろに回り込んだフェイトの打ち上げられ、追ってくるフェイトに魔法を灯した手を向けると弧を描いて飛行して背後を位置取ろうとするので魔力弾を投げるがティアナの狙撃弾がイクサの魔力弾を撃ち落とす。そして魔力弾に意識が向いてるイクサをエアライナーから飛んだノーヴェが蹴り飛ばした。まっすぐ飛ばされビルに激突。いくつもの破壊音を鳴らし屋上を破って現出、いくら上手く防御出来ているとはいえLIFEは着々と削られ残量が300を切り流石に不味いと背を向け思いっきり地面を蹴って離脱する。
彼女達とイクサでは魔力量に差がある為仕方ないのと、魔力を節約してスピードを出せない。更に言えば飛行魔法よりも気の浮遊術の方を優先して使う為飛行魔法は慣れていない。
伸びる無数のエアライナー。曲りくねり、捻れたり、螺旋状を描いたりと様々な動きをしながらビルの屋上から屋上に跳んで移動するイクサに迫る。
次から次へとエアライナーの陰に隠れ姿を認識させまいとしながら追跡するフェイト。次々にエアライナーを飛び移るノーヴェ。
「───ああ、なるほど」
この二人がイクサに向かわされた訳。
それは、
赤チームの陸と空で一番のスピードを持つのがこの二人。
ノーヴェの能力エアライナーがフェイトを隠し壁となる。そしてそのノーヴェがジェットエッジのローラーブーツを使いイクサを逃さなず追い続ける。ノーヴェが追いつく必要はない。ノーヴェはエアライナーを巡らせフェイトが攻める、ノーヴェはイクサが足が止まった時だけ攻撃すればいい。そしてイクサがビルの屋上から飛び降りようとすれば即座にティアナによって狙撃されてしまう。
最悪イクサを逃さない為の戦い。完全に対策されている。
そして何よりイクサでは、この三人に対して有効打を持っていないのが厄介だった。
LIFEポイント性魔法戦試合。
それは魔力が大きく左右する試合方式。現在ミッドチルダの繰り広げられる大きな競技大会などでは多く適応させるルールだ。
その真価は実際に傷を負う事が無くなり、あらゆる攻撃が魔力ダメージとして数値に変換される事にある。この試合方式によって負傷する事なく練習試合で怪我を負う事が大幅に激減した。
たがこのルールには欠点がある。ミットチルダの住民なら気にも留めない欠点が。
それは、魔力が含まれなければ反応しない事だ。
即ち全ての攻撃、防御にも微小でも魔力を込めなければLIFEポイントルールは稼働しない。
そして、魔力ダメージの数値は込められた魔力量に左右されると言っても過言ではないのだ。勿論、より多くのエネルギーが込められた方が強い攻撃というのは当然の事である。だが、魔力所持量が少ない者と多い者では圧倒的に魔力量が多い者が有利だ。なんせ100パーセントの魔力を防御に回したとしても相手の魔力量が上回っていたのなら防御の上からダメージを与える事ができるのだから。
これによりイクサの様に魔力量が少ない者は勿論、魔力をそもそも持たない者はこのルール自体出来ないのだ。
そして今、イクサが対峙する三人は全員イクサよりも魔力量が上。それも大きく。更に魔力の扱い一流と来た。
イクサの魔力量では攻撃した所で微小のダメージにしかならない。全魔力を攻撃に回して打撃として扱えば戦い自体は成立するだろうがそんな事をすれば魔力があっという間に切れて終わりだ。唯一高いダメージを出すとすれば、フィールドのビルや地面にぶつけるぐらいだ。
魔法戦試合用のフィールドにはまるで電線の様に魔力が一定量流れている。それを利用したフィールドダメージしかイクサに安定したダメージを与える方法が無い。
だが、
「きゃっ!」
「させるかよっと!」
「ごめん、ありがとうノーヴェ」
「いえいえ」
苦労して吹っ飛ばしてもノーヴェがフェイトを、フェイトがノーヴェを救う。
実質どうしようもない、袋小路、正に追い詰められた状況な訳だ。
「大人って怖いなぁ」
「ごめんね」
「ッッ!」
ボソリと呟いた言葉に背後から申し訳なさそうなフェイトの声が返ってくる。完全に後ろを取られ急ぎ振り向くと「は?」と声を漏らし固まった。
イクサの背後にはコートの様なバリアジャケットを脱ぎ捨てレオタードの様な姿となったフェイトが居た。フェイトの状態は、見た目通り防御力を捨てた超スピードフォーム。防御力を放棄し、代わりに雷光が如きスピードを出せる短期決戦形態。
デバイスを戦斧ではなく柄の先が魔力縄で繋がった魔力刃の双剣を未だ硬直するイクサに向けて振るう。
黒い人影が黄色の斬光に切り裂かれれる。
「──あっぶ」
「!?」
(今のを避けたの!)
切り裂かれたのはイクサのインナーのみ。横一線の斬られたインナーが捲れてイクサの胸板を微かに晒す。羽織っているジャケットにも小さな切れ目が刻まれていた。
「っ!はあぁ!!」
フェイトが加速する。再び黄色の閃光へと変わったフェイトが超高速で飛翔しイクサを何度も襲う。電撃を帯びた魔力刃が幾度もはしり、その度にイクサのバリアジャケットが斬り裂かれる。
(全部、紙一重で躱されてる)
(き、キツイ。ギリギリでしか躱せねぇ)
ノーヴェもティアナも少し離れた所で見ている。今飛び込む、或いは射撃すればイクサの周りを縦横無尽に飛び交うフェイトの邪魔になると判断しての傍観だろう。
(だが、チャンスは今しかない!!)
ノーヴェとティアナが戦闘から離れた今なら邪魔は入らない。スピードを増す代わりに防御力を下げた今の形態のフェイトにならイクサの魔力でもダメージになる。この状況を切り抜けるには今、フェイトを退けるしかない!
「づっ…!ォォオオオオ!!!」
「!?…っ!逃さない!!」
攻撃の隙間を掻い潜り一気に飛び出す。フェイトが慌てて後を追ってくる。
「……良し」
作戦の第一段階は最高だ、とイクサは感じ取った。
何せ、急な事にノーヴェとティアナの行動が遅れている。二人を引き剥がす事に成功した。
あと、
「……!」
追跡するフェイトをどうにかするだけだ。
瞬く間に距離を詰められるが、フェイトが追い付く瞬間に方向転換して再度距離を離す。『飛んでいる』のでなく『跳んでいる』イクサだからこそできる壁を蹴っての高速転換にフェイトの反応が少し遅れる。入り組んだビルの間を巧みに駆け抜ける。時にはビルの窓を突き破っての豪快な逃走もする。
「くっ、だったら!」
痺れを切らしたフェイトが更に加速する。───
「───え?」
フェイトが更に加速した瞬間、イクサは飛行魔法で急ブレーキを掛けた。フェイトは勢い余ってイクサを追い抜き無防備な背中を晒す。そこに飛来した三つの白い
「!?
「───オオォッ!!」
拘束魔法で身動きが取れなくなったフェイトをイクサの拳が襲う。殴られた際に拘束魔法も解け、空中で何とか体勢を整えようとするフェイトにイクサが飛来。途中で身を捻って反転し、胸を上に向けた状態でフェイトに追い付き肩を両手で掴んで倒れ込む様にフェイトの背中を蹴り上げる。
「おおぉらぁぁあ!!」
打ち上げられるフェイトに追撃を加えようとするイクサを追い付いたノーヴェが襲う。
だが、
「タイミングばっちしですよ」
「ぐふっ」
ノーヴェの攻撃が当たるよりも先にイクサの足がノーヴェの胴体を捉え、蹴った。───足場代わりに。しかも蹴り飛ばされたノーヴェがティアナの射線上に入る様に。ノーヴェとティアナを同時に無力化し打ち上げられるフェイトに追い付くと両腕を頭上に掲げた両手の指を噛み合わせてスレッジハンマーを形取り。
「落ちろ破廉恥ッ!!」
「え?」
───フェイトを打ち落とす。
高速で落下するフェイト、途中ビルの一角を粉砕して地面に撃墜。爆煙じみた砂塵が舞い上がる。
薄れゆく意識の中、最後に残ったのは、
「は、はれ…んちじゃ、ないもん」
イクサの言葉だった。
【赤チーム】フェイト・T・ハラオウン。
LIFEポイント0、及び気絶につきリタイヤ。
フェイトそんは天然破廉恥、しょうがないね。