魔法少女リリカルなのはVivid Saiyan 作:伝説の超サイヤ人になりたい。
<トウサン!
「で、できました!」
特訓を始めてから二日後。アインハルトは漸く気の小球体を作れる様になった。
「三日で出来るようになったか。これは結構早いぞ」
「そう、なんですか?」
「ああ、俺はこれが出来るようになるまで二週間は掛かったからな」
「……!」
アインハルトの顔に喜びが浮かぶ。イクサよりも早く修得した。その事実がアインハルトの自信に繋がる。
「それじゃあ次のステップに移る」
「もう、気の放出はいいのですか?」
「それについては寝る前に少し自主練すらぐらいで構わないさ、感覚を忘れない様にする程度で」
「わかりました」
イクサの言葉に納得したアインハルトにイクサは次の指示を出す。
「次は…そうだな。気を巡らせてみろ」
「巡らせる…」
「ああ、イメージ的には断空なんかが丁度いいと思うぞ」
「断空がですか?」
「ああ、足先から練り上げた力を伝わせ拳足から打ち出す断空は気を巡らせる動きにかなり近い。断空ができるのなら簡単だろう」
「わかりました」
アインハルトが目を瞑り集中する。すると右腕を薄い気の光が覆う。それがゆっくりとだが腕先から二の腕、二の腕から肩、肩から胸を通って左腕へ、今度は左腕から左脚へ、次に右脚、そして右腕に戻ってくる。それを繰り返し行い段々と速度が上がりだす。
「ん、もういいぞ。……アイン?」
「……!」
「お、おい、アインー? 聞こえてるかー? もういいって」
イクサが呼び掛けるもアインハルトからの反応は無い。集中しているアインハルトにイクサの声が届いていない。
まだまだ上昇する気の巡る速度、次第に気の流れが断空に近くなっていく。ギュル…ギュルギュル、という回転音と微弱ながら余波を放ち始める。
「アイン! ストップ!」
「……はぁー!」
「てい」
「あう!」
言葉じゃ止まらないと判断したイクサのチョップがアインハルトの頭に下される。アインハルトの身体を巡る気は集中が途切れた事で霧散する。もう少し勢い付いていたら暴発したいかもしれない。
そんな事など知らないアインハルトはイクサに何をするんだ、と抗議の目を向ける。
「部屋、見てみろ」
「…? なんです、…か」
勝手に開いた本、床を転がるペン、乱れた服など荒れた部屋。
「加減しろアホ」
「す、すみません」
申し訳なさそうにアインハルトが謝罪する。
特訓は一時中断し二人で部屋の掃除を始める。
「部屋の中だとそろそろ限界だな」
散らばる服を畳みながらイクサがぼそりと呟く。
「なら何処かの練習場とかでしますか?」
「……うぅん、俺達のやってる事は結構特殊だからな。ま、それについてはこちらで考えておくから任せておけ。一先ず今日は部屋の中で出来る事をしよう」
「わかりました」
その日はいつもより早く切り上げ、いつも通りバイクでアインハルトのマンションまで送ると、いつもと違いこのまま帰るのではなく別の方向へバイクを走らせた。
現在、場所はミッドチルダの南部湾岸道。目的地は知人の家族が務めるとある道場。
(……ん?アレは?)
海沿いの道路をバイクで走っていれば、砂浜に知っている少女の姿が見えた。地面に突き立った的に向けて拳や蹴りを打ち込んでいるアインハルトと歳の近い容姿をした何処か加虐心をくすぐられる少女。
「……」
むくむく、と湧き上がるこの感情。一言で表すなら『
駐車スペースにバイクを止めてから降り、そして海岸へと階段を下りれば足の裏に砂浜の感触を感じる。一歩一歩足を進める度に崩れる砂に足を持ってかれる。今度アインハルトに砂浜を走らせてみるか、なんて今後の特訓候補を一つ増やし本題である少女にする悪戯の内容を考える。
「……ん?」
ふと的から距離を置いた少女の感覚が研ぎ澄まされるを感じる。集中している。その姿にイクサの加虐心が働いた。
小さく口端を吊り上げると少女の後方、数十メートル離れた地点から気を増大させて存在感を少女の背中にぶつける。
「!?」
集中してた事も合わさりビクッと震え慌てて振り返れば、
「ひゃ!?………? って、えええええ!?!?」
足を払われ背後へ倒れ咄嗟に目を瞑るも、尻餅を付く感触は訪れない。
代わりに妙な浮遊感と気持ち悪さがあった。恐る恐る目を開ければ自分の立っていた砂浜が遥か真下に、しかも自分は逆さの状態。
「あわわ、一体なに───びゃあ!?」
目を開ければ砂浜より数百メートル上空に逆さま状態、理解が追い付く間もなく浮遊していた身が突如落下し始めた。
「ぴゃぁぁぁぁあ!?!?た、たす、助け」
あっという間に近くなる地面。墜落すれば怪我じゃ済まないのは目に見えてわかる。少女に出来たのは迫る恐怖に対して目を瞑り身体を丸める事だけだった。
「よっと」
「あぶっ!」
だが予想外に衝撃は軽かった。クッションでも顔に押し付けれる程度のそれ。未だ地面に足は付かないが背中に腕を回され抱き留められている感触。
「よ、『ミウラ』」
「……」
すぐ上から名前を呼ぶ声が聞こえ見上げれば、黒髪黒眼のよく知る青年の顔が間近にあった。
「どうだ、驚いたろミウラ?」
「………………………………………………」
「ミウラ?」
悪戯が成功した悦びから笑顔を見せる青年に少女は反応を示さず。疑問に思った青年がもう一度少女の名を呼べば、
「きゅう〜」
「み、ミウラー!?!?」
目を回して気絶していた。
「それで慌ててミウラをおぶってやって来た訳か」
「ええ、まあ、そうなります」
白い髪、褐色の肌、側頭部には青い犬耳の生えた偉丈夫。この人物こそが今回イクサが此処に来た目的の人物である『八神ザフィーラ』だ。
ザフィーラは自宅である八神邸のソファーに愛弟子であるミウラ───『ミウラ・リナルディ』を寝かせると家族である。銀色の髪の女の子に扇がせイクサと対応した。
そして事の一部始終をイクサから聞けば呆れたような視線をイクサに向ける。イクサも今回はやりすぎたと後悔しているのか反省した様子を見せる。
「う、うぅん……あれ?」
「あ、ミウラちゃんが目を覚ましたですよー!」
銀の髪の女の子──名前を『八神リィンフォース・ツヴァイ』と云う──がミウラが目覚めた事に気付くと大きな声で手を振りながらイクサとザフィーラに伝える。
「大丈夫かミウラ」
「ごめんなミウラ」
ミウラが目覚めれば男二人はミウラに近寄り其々別の言葉を投げ掛ける。
「え?あ、はい。……大丈夫、です?それとイクサさん。えっと、何が、ですか?」
自身の師であるザフィーラから心配されるが何を心配されているの理解が及ばず、兎に角肉体的に問題は無いので疑問形ながらも大丈夫と答える。
続いてイクサからの謝罪。こちらも理解が及ばず、オマケに心当たりまでない為ミウラは何を謝っているのか聞き返した。
イクサは砂浜で練習中のミウラに悪戯を仕掛け、あまりに苛烈だった所為でミウラが気を失ってしまった事を正直に打ち明ける。
「え?あれ、イクサさんがやったんですか!?」
「お、おう。やりすぎたと思ってる。わるい」
「ほんとうですよぉ〜!すっごくびっくりしたんですからねー!!」
「す、すまん。本当に悪かったと思ってる」
「むー!むー!」
悪戯の内容を思い出し涙目になるミウラにイクサもたじたじになる。
そんな様子にザフィーラは嘆息し、リィンはやれやれと言いたげな仕草をする。
「今度埋め合わせするから許してくれ、頼む!」
「埋め合わせ、ですか?」
「ああ、何でもいいぞ」
「!!…何でも、ですか?」
「ああ、勿論!」
ザフィーラが目を細める。女子相手に「何でもする」と言ったイクサのうかつな行動にほんの少しだけ哀れんだ。
「何でも、何でも、何でも」
「ミウラ?どうした?」
「何でも……えへへ」
「み、ミウラ?」
「許します!」
「……へ?」
「許しました、ボク! その代わり、今の約束忘れないでくださいね!」
「お、おう。勿論」
「やった!」
先までと一転して嬉しそうにはにかむミウラ。今もえへへ、と笑いながら頬に両手を当てて御機嫌だ。
「……?……???」
「…イクサ、今日は何の用だ?
「あ、いえ。今日は違います」
何が何だかよく理解できていないイクサにザフィーラが本題を尋ねる。
「いつもの」とはイクサがやっているアルバイトの事で、定期的に八神邸にやって来てはイクサが毎回この家の家主である『八神はやて』からアルバイトの依頼を受けている。偶に同じ八神家の一員である『八神シグナム』や『八神ヴィータ』を交えて話し合いを行っており、内容自体は知っているが直接的に関わった事の無いザフィーラはまたイクサのアルバイトの事でやって来たものとばなり思っていたがイクサは別に用件があると言う。
「今日はザフィーラさんに少し相談があって来ました」
「俺に相談、だと?」
「はい」
「…ふむ、なんだ?」
「実は、つい先日弟子を取りまして」
「なに?」
「え?」
「……?」
イクサの言葉にザフィーラだけでなくご機嫌な様子ではにかんでいたミウラまでもが反応した。
イクサはザフィーラとミウラの反応に「変な事でも言ったか」と疑問に持ちながら二人の反応を見る。
そしてリィンは未だにやれやれ、と言いたそうに様子で肩を竦めている。
「やれやれですー」
というか言った。
遂に出てきたミウラたん。
アインハルトに並ぶ推しキャラです。
作者「フフ、カワイイなぁ…ジュルリ」
たぬき「気持ち悪りぃ、いややアンタ」
作者「(´・ω・`)ションボリーデス」