魔法少女リリカルなのはVivid Saiyan 作:伝説の超サイヤ人になりたい。
「おっと、そこまでだ」
アインハルトの断空拳がヴィヴィオに届く前に、別の手によって受け止められる。凄まじい暴風がその人物の手の中で暴れるが、握り潰された。
「今のは怪我じゃすまなかったぞ。アインハルト」
アインハルトの拳を横から割り込み掴んでいるのはイクサだった。
イクサは、アインハルトに諭す様に優しく話しかけるが名を読んだ瞬間に変化する。
握った拳を引っ張り、アインハルトがイクサに引き寄せられる。イクサもアインハルトに寄って互いの顔が近くなる。目と目が合う、虚な紺と青の瞳にイクサの黒の瞳が写り、淡々と冷たく突き刺さる様な声音で覇王の
「───戻ってこい」
パァン! と音がなる。アインハルトの拳を握っていた手を離し、脱力した状態で振るい手の甲でアインハルトの額を叩いた。
「───ぁ」
一瞬、アインハルトの瞳に光が戻る。虹彩異色の瞳はイクサをじっと見つめ、目蓋を閉じる。
「…よ」
倒れそうになるアインハルトの腰に腕を回して受け止める。イクサの腕の中でアインハルトの身体が薄く光る。光のシルエットは成人女性の身体から少女の身体へと変化してから剥がれる。
後には変身魔法が解けて元の姿に戻ったアインハルトがイクサの腕の中で気を失っていた。
「……ふぅ、割り込んで悪かったなヴィヴィオ」
「……い、いえ」
背後へ振り返れば、状況が飲み込めずに尻餅を付いたヴィヴィオ。
そして次々と近寄ってくるノーヴェや観客の人達。
「一体何があった?」
全員の考えを代表してノーヴェがイクサに尋ねた。イクサはアインハルトの眠る顔を見てからノーヴェに顔を向け、
「さあ?」
首を傾げて言い放った。
「お前、ふざけてる場合じゃ──」
「おおよそ、覇王の記憶に呑まれたんでしょ」
「……」
「コイツは覇王イングヴァルドの記憶を継承している。そしてクラウスは聖王女オリヴィエに敗れて武を極めた。きっと聖王女とそっくりのヴィヴィオに負けそうになった事で暴走したんだと思いますよ」
「それで、お前が飛び出したと?」
ノーヴェは恐る恐る尋ねてくる。イクサはノーヴェの問いにポカンとしてから苦笑いを浮かべた。
「違いますよ、さっきのアインハルトの技はとても加減してある様には見えなかった。あんなの受ければ流石に怪我じゃすまないと判断したので割り込ませてもらった次第です」
「………そうか」
「はい、そうです」
にこやかにそう語るイクサにノーヴェは戦慄を隠せない。
アインハルトの変化を見抜き、ヴィヴィオの危機を察知し、そして覇王の技を受け止めた。
そして
イクサのポテンシャルの高さにノーヴェは唯々驚愕するばかりである。
「……ぅ、ぅうん」
「…ん?お、目が覚めたか」
するとイクサの腕の中でもぞりとアインハルトが身じろぎしイクサの声を聞いてゆっくりとアインハルトが目を開く。
「……」
「大丈夫か?立てるか?」
「……あれ?」
目前のイクサの顔、地面に足が付いた感覚はなく、背中と膝の裏にある硬い人の感触。
目覚めたばかりで状況を飲み込めていないアインハルトが首を横に振って見えるのは苦笑いを浮かべたノーヴェと、その後方からの様々な視線。頬を赤くして見詰める人、ノーヴェの様に苦笑を浮かべる人、にししと面白そうに見てくる人。
ここで漸くアインハルトの頭が正確に稼働してくる。はっきりしだした意識で状況を整理していく。
「……」
「……?」
最後にもう一度イクサの顔を見る。そしてそれが引き鉄となり、
「……!(ボンッ)」
「うおっ」
「離して、離してください!!」
真っ赤な顔で暴れ出した。
今のアインハルトはイクサに抱き上げられていた、そしてその体勢を人々は『お姫様抱っこ』と読んだ。
「〜〜〜!!」
「あ、危ッ、危ないって!暴れんな!」
「んーんーんー!!」
腕をジタバタ、足をブンブン、身体を揺すって、頭も振り回す。
腕の中で暴れるアインハルトの腕や足を避けながら落とさない様にバランスを保つイクサ。
「はーなーしーてーくーだーさーいー!?」
「わかったわかったから一度落ち着け───ぶっ!?」
『……あ』
暴れるアインハルトのツインテールの片方がイクサの顔面を叩いた。パァンと軽快な音を鳴らしイクサの顔から滑り落ちていくアインハルトの髪。
瞬間、ゴゴゴとイクサから
「落ち着け、な?」
「は、はい。ごめん…なさい」
大人しくなったアインハルトを抱き上げたままイクサは観客席の方へ歩き出す。イクサが近寄ればシュバッ! とティアナやスバル達は左右に別れてスペースを作る。其処にアインハルトを優しく下ろす。イクサの手を離れる最後までアインハルトは借りてきた猫の様に大人しかった。
あからさまに不機嫌です、ってオーラを発しながらの笑顔はとてもとても怖かったそうです。
アインハルトが回復するのを待つ間ヴィヴィオがアインハルトとお話しする。視界の端に少し遠くで腕を組んでムッスーとした表情のイクサをノーヴェが宥めているのが見えた。
「……アインハルトさん」
「ヴィ、ヴィヴィオ、さん」
未だにイクサからの怒気に怯えているのか小さく震えているアインハルトに内心で苦笑しつつ真剣な顔で問い掛ける。
「どうでした、私は?」
「……」
ヴィヴィオの問いにアインハルトは一瞬間を置き、深呼吸をしてから答えた。
「先週は失礼な事を言って申し訳ありませんでしたヴィヴィオさん。訂正します」
「〜〜!!」
それはアインハルトに認められた、という証だった。ヴィヴィオの顔に喜色が広がる。
「はい! ありがとうございます!!」
太陽の様な満面の笑みをアインハルトは懐かしさを感じ、けれど記憶の中の彼女とは違うのだと再認識した。
(彼女は
アインハルトはヴィヴィオの信念を認め、努力を認め、心を許した。彼女はオリヴィエではないけれど、ヴィヴィオというれっきとした少女なのだと。
それからも二人は言葉を交わし関係を深める。格闘技の事から趣味や好物、家族との思い出などと。周りの大人の女性達の暖かな目に少し気恥ずかしく思いながらも目の前の少女の笑顔の為に答えていく。
すると、ふとアインハルトの脳裏に一つの疑問が浮かんだ。
「あの、一つ聞いてもよろしいですか?」
「はい!なんでしょう?」
「ヴィヴィオさんと戦っている最中、私の動きを所々で見抜いていらした様に思えたのですが、何か秘密があるのでしょうか」
「…あ」
アインハルトの質問にヴィヴィオは一瞬困った様な反応を見せ、ちらりとアインハルトの背後の方に視線を配る。
その様子にアインハルトは首を傾げ、ヴィヴィオが恐る恐る言った。
「その、イクサさんに教えてもらったんです」
「え?……あの人が?」
「はい」
視線を背後の方に向ければ未だに不機嫌オーラ全開のイクサにこりゃダメだ、とお手上げのノーヴェが見えた。
ヴィヴィオに向き直し説明を求めた。
「アインハルトさんとの再戦に向けた特訓にイクサさんが付き合ってくれたんです。その時にアインハルトさんの対策としてイクサさんがアインハルトさんそっくりになったんです!」
「…?…???」
「あ、あの! えぇっと。…あ、ぁぅ〜」
ヴィヴィオが何を言っているのかさっぱりわからないアインハルトの頭に無数の❔マークが浮かぶ。
言葉で表すのが難しいのかヴィヴィオはえぇとえぇと、と慌てながら椅子からぴょんと降り立ち、見様見真似だがイクサが見せたアインハルトの構えを取って見せた。
「イクサさんがこうやると、イクサさんの姿と薄いアインハルトさんの姿が重なって見えたんです」
「……」
まだ全然わからないが必死に伝えようとしてくれてるヴィヴィオに黙って説明を受けるアインハルト。
「そ、それで、イクサさんの動きがアインハルトさんそっくりだったんです!」
「は、はぁ…?」
「あうぅ〜」
困り助けを求める様に周りを見渡せば、ぽんと頭の上に手を乗せられる。ヴィヴィオが顔を向けばノーヴェがヴィヴィオの頭を撫でていた。
ノーヴェがしょうがねぇなとヴィヴィオの代わりに説明した。
「アインハルト、『象形拳』って知ってるか?」
「い、いえ」
「簡単に言えば、何か動物を真似た拳法って所だな」
「動物から?」
「テレビとかで見た事ないか?例えば……蟷螂拳!とか」
「……す、すみません」
手で鎌の様にしてカマキリの様なポーズをするノーヴェ、だかテレビをあまり見ないアインハルトには伝わらなかった。
気恥ずかしかったのかノーヴェは頬を赤めつつ言葉を続ける。
「ま、まぁ、要するにだな。アイツはお前と戦った時の経験からお前の動きを分析し完璧に模倣して見せたって事だ」
「私の覇王流を?」
「正確にはアインハルトの動きだな」
「私を?」
「おう。アイツが真似たのは覇王流という武術じゃなく、アインハルトという格闘家の動きを真似た、そしてその完成度の高さからアイツにお前の幻が重なって見えたって訳だ。ありゃあスゲェぞ、動きだけでなく考え方までも再現してるぜ。名付けるならアインハルト拳、なんてな」
「……」
アインハルトは自身の手を見る。自分を真似た技法、実際に見た訳じゃないからなんとも言えないが凄まじく高度な技術であるのは間違いない。それも自身を真似たのだ。
「その、わ、わたし……アインハルト拳を使ったイクサさんと組み手する事で私の覇王流と経験を積んだって事ですね?」
「は、はい」
恥ずかしそうに『アインハルト拳』と言うアインハルトの姿にイクサ以外の全員が萌える。
アレはキュンと来たわね。byティアナ・ランスター
「わかりました」
噛み締める様にアインハルトは言い、視線をイクサへ向ける。相変わらず此方の方を見向く気の無いイクサがアインハルトの瞳に映った。
ヴィヴィオとアインハルトが仲良くなり万事解決、一件落着!
と、なればよかったのだが。
「……」
「……コソコソ」
「……(チラ)」
「…!(サッ)」
「……ハァ」
帰り道を歩くイクサ。その背後の電柱に、
(なんで付いて来んだよ)
(何故私は隠れているのでしょう?)
アインハルトが隠れていた。(バレバレです)
「……」
「……!コソコソ」
イクサが歩みを進めればアインハルトは電柱から姿を出して後を追う。
「……」
「……! ……!?(サッ)」
イクサが立ち止まればアインハルトは隠れられる場所を探して其処に隠れる。
別にアインハルトに疚しい目的がある訳ではない。だが、不機嫌な様子のイクサに話し掛け辛く、何より彼を怒らせたのはアインハルトな為更に話し掛けるタイミングを逃しこうして後を付けているという訳である。決して彼女のコミュニケーション能力が低すぎてどう話し掛ければいいのかわからない訳ではない事をご理解いただきたい。
「…(このまま家まで付いて来るつもりか?)」
イクサからすれば別に家まで付いて来る事自体は構わない、けれど時間帯が問題なのだ。
もう日も暮れてきた夕方、空はオレンジ色に染まり良い子は家に帰る時間だ。そんな時間に家に中等部の少女を大学部の青年が連れ込めばご近所さんから疑いの目を向けられかねない。世間体を守る為にも是非家に辿り着くまでに話し掛けてほしい、もしくは帰って欲しいのだ。
「……」
「コソコソ」
「あら?」
其処に第三者が現る!!
「どうかしたの?」
「!?」
アインハルトの背後から話し掛ける人物有り、びくりと震えたから振り返ればブロンドヘアーの女性が優しげな瞳で自身を見つめていた。
「大丈夫? 道に迷ったの?」
「え、えっと、あの…その…」
「……?」
チラチラと助けを求める様な視線が向けられる。
おい、お前さっきまで隠れてたんじゃねぇのかよ。
「母さん」
「……。え? い、イクサさんのお母様?」
「あらイクサ、この子とお知り合いなの?」
「まぁ、うん。家で話すよ」
「それでは、ごゆっくり〜♪」
お菓子とジュースの乗ったトレイを運んだイクサの母アルヴィナがにこやかな笑顔で去っていく。
「……」
「別に普通の部屋だぞ」
「す、すみません」
異性の部屋に入った事がないのかキョロキョロと部屋中に視線を走らせていたアインハルトがイクサの言葉に恥ずかしそうに身を縮こまらせた。
「…そんな珍しいか?」
イクサもアインハルトの様に自身の部屋を見渡す。ベッドがあり机があり本棚がありクローゼットがある。テレビやゲーム機などもあるが至って普通の部屋だとイクサは認識している。
「い、いえ。そのトレーニング器具とが無いな、と」
「いや、普通は無いだろ」
「あう」
アインハルトが住むのはマンションの一室だが、そこは家というよりはジムと言ったほうが近い。ベッドがありテーブルがあるが、すぐ隣にはベンチプレスやサンドバックなどのトレーニング器具、更にはダンベルが転がっている。一方の壁は一面の鏡となっておりクローゼットはベッドの隣の壁に並んでいる。というよりはクローゼットの傍にベッドを寄せているのだろう。
大凡一般的な部屋らしさは一方向の壁の隅に寄せられている。キッチンなどもあるにはあるが小部屋はキッチンにトイレや風呂場だけと、やっぱりジムに必要最低限の家の要素を足しただけにしか思えない
「それで?一体何の用なんだ。わざわざ後を付けて来て」
「……単刀直入に言います」
「…おう」
真剣な表情で話して来るもんだからイクサも真剣に応える。
「見せて欲しい技があります」
「………技?」
「はい」
トレイの上のジュースを手に取り一口、次に菓子を一つ口に入れて咀嚼、飲み込んで一息つくと。
「どんなだ?」
「は、はい。その───あ、アインハルト拳を」
「は?」
「え?」
ついつい漏れた一言、アインハルトが何を言っているのかイクサにはさっぱり理解できない。
「アインハルト拳?」
「は、はい」
聞き間違い、或いはアインハルトの言い間違いではないかと尋ねるとアインハルトは頷く。
「……なんだそれ?」
暫し考え込むもやっぱりわからない。
それもそうだ、『アインハルト拳』というのはノーヴェがその場で作った即席の名なのだから。実際にアインハルトにも「名付けるなら」と言っていた。
アインハルトはあたふたしながらノーヴェから聞いた話をイクサに伝えた。最初こそ「何言ってんだこいつ」という表情を浮かべていたが次第に納得がいったのか心当たりのある反応を見せる。
「アレ、か」
「お、恐らくは」
「……まぁ、別にいいか」
立ち上がるイクサ。アインハルトは姿勢を正して真剣にイクサを観察する。ヴィヴィオやノーヴェの話ではイクサに薄いアインハルトの虚像が重なって見えたと。
イクサが切り替わるのを感じる、ゆっくり構えを取る。覇王流の構えを。次に雰囲気ががらりと変化したのを感じ取った。
「……っ」
そして視えた。もう一人の
彼女達の虚言や誇張なんかではない、間違いなく真実だったと。
「───」
言葉を失う。居る───間違いなく自分が其処に居る。
鏡を見ている様だ───否、
正にもう一人のアインハルト。
それ以外に表せる言葉が無かった。
「満足したか?」
「ーー!?」
ふっ、と
「……はい」
「そうか」
なんて事ない様にイクサが言う。あれだけの神域の御技を魅せておいて。数多の達人が到達できないだろう領域、仮に同じ事ができたであろうと、それは長い年月を掛けて極めた者のみだろう。そんな技を二十にも満たない彼は見せた。いや、魅せられた。
───確信した。この人こそが私の目指すべき目標だと。
「イクサさん」
「ん? なんだ、まだ何かあるのか?」
「はい。何度も頼む様で図々しいのは承知してますがお願いします」
両手を床に付けて正座の態勢から頭を下げる。
「どうか私の、師になっていただきたく思います」
それは
それだけアインハルトは本気だというのが伺える。
「───」
「どうか、どうかお願いしますっ」
ここで二人の構図を第三の目線から観てみよう。
中等部一年生の少女に土下座させてる大学部の青年。あら不思議、何も悪くないイクサが問答無用で悪者に見える。それも最低の。
「お、おい、それやめろって」
「お願いします、お願いします」
「話をしよう!だからそれやめろ」
一向にやめる気配のアインハルト、押し切るつもりだ。了承してもらえるまで、この想いが伝わるまで誠心誠意を持って頭を下げ続けるつもりだ。
だが、イクサ焦る。兎に角土下座だけでもやめさせようとして言葉を放つ。別にアインハルトの申し出を断ろうとしている訳ではないのだが。
だがアインハルトからすればイクサの対応は拒絶の意を含んでのものだと勘違いし土下座を続ける。
すれ違いからなる完全な悪循環の完成である
「やめろ!頼むからやめろ!!」
「やめません!お願いします!!」
アインハルトがムキになり出した。ここでイクサももっと言葉を凝らせばいいのにを慌てててその発想に至らない。
すると、ガチャリと扉が開きアルヴィナが顔を出す。
「イクサ?どうかし、た…の……」
「──」
「お願いしますお願いします」
土下座する少女と(やめさせようと)手を伸ばす息子の図。そこから来る答えは、
「イクサ。貴方、何をしているの?」
「ひぃッ、母さん誤解だ! アインハルト! お前も土下座をやめろォ!」
「どう、か、お願い…ッします」
最悪な事にアインハルトの声に泣いている様な声音へと変わり始めてきた。もう完全にイクサがアインハルトの弱味を握り、嫌がるアインハルトに無理矢理迫っている様にしか思えない。
「…イクサ…」
「ちょっ、まっ!?母さんストップ!!誤解だ誤解!」
「この…ッ」
───バカ息子ォーー!!?!?
───なんでだーーー!?!?
とある親子の絶叫が住宅街に響き渡った。
アインハルトは無事にイクサの弟子に成れました。
アインハルト宅ってあれマンション?マンション…だよね?
もしかしてあのでかいの全部アインハルトの家?
今SSではマンションって事にしておきます。
おまけ
「バカ息子ォー!」
「やめ、ヤメテェー!実の息子に包丁を振り翳すなぁー!」
「お願いします。お願いします」
「わかった!弟子にでも何でもしてやるから土下座をやめろ!」
「ホントですか!?」