ACE COMBAT Skies Rewritten 作:遠い空
[1995年3月30日1454時/オーシア首都オーレッド/オーシア軍総司令部/オーシア国防空軍本部/本部長室]
オーシア軍総司令部内には海軍・陸軍・空軍の本部が全て揃っている。そのため施設自体が大きく、敵に攻撃されても総司令部がすぐ陥落しないようにオーレッド市街の地下深くに存在する。
その中のオーシア国防空軍本部は総司令部や他の本部よりもマシな人間が多い。特に空軍本部長のウィリアム・スミス航空参謀は真面目で寛大な性格のため、彼のおかげで空軍本部はまともだと言える。
そんな中、一本の電話がかかってきた。
「こちらはオーシア国防空軍本部です。はい、今かわります。」
職員がアナウンスを掛ける。
ガラス張りの本部長室にいるスミス航空参謀は卓上の受話器を取る。
「お電話かわりました、オーシア国防空軍本部長のスミスです。おお、ビリーか!どうした?お前から電話とは珍しいな。」
相手はサンド島基地司令官ビリー・ハーバードからだった。ふたりは同い年で空軍入隊時からの信頼できる親友である。
《そりゃあ、いつもウィリアムから連絡してくるからな。それより私から電話したのは頼みがあるからだ。このことは秘密裏に行って欲しい。信用できるのはお前ぐらいしかいない。》
ハーバード基地司令官はサンド島に未来からアークバードⅡや息子らがやってきたこと、そして彼らに食糧と燃料が必要なことを話した。
「ビリー…、何を言ってんだ?頭でも打ったか?」
スミス航空参謀は当たり前の反応をした。
《信じられんかもしれんが、事実だよ。頼む、息子のために力を貸してくれ。》
「うーむ…。お前のことだから嘘をついてるとは思えないが…。何か証拠はあるか?」
スミス航空参謀は半信半疑ながらもハーバード基地司令官を信じようとしていた。
ハーバード基地司令官は嘘をつくのが下手な男である。嘘をつけば誰よりも声や挙動でバレバレである。本人もそれを自覚しているため、ほとんど嘘をつくことはない。
スミス航空参謀も長い付き合いでそれを知っている。
そのため、スミス航空参謀にとっては最も信頼できる親友なのである。
《証拠か…。証拠と言ってもなぁ…。》
ハーバード基地司令官は相当悩んでいるようだ。
「そんじゃあ、これから起きる未来の出来事でもいい。未来人から聞いたんだろ?教えてくれ。」
《ああ、わかった。未来のことは聞いたから話せる。たしか、この戦争はベルカ国内で核爆発が起きて…》
ハーバード基地司令官は聞いたことを大雑把に話す。
スミス航空参謀は耳に受話器を当てながら黙って聞いていた。
「OK、話し方からして嘘はついてないようだな。お前がよくできた作り話が作れるわけがないからな。信じるぞ、その話。」
《作り話が作れないって失礼なヤツだな。でも本当にいいのか?こんな話を信じて?》
「お前のことはよく知ってる。だから信じるんだ。指定された量の食糧と燃料を乗せた貨物船をセントヒューレット軍港に手配する。事は秘密裏に進めるから、到着までは7、8日かかるだろう。」
《ありがとう!私の話を信じてくれて!助かったよ!やっぱ頼りになるよ!》
「気にするな。困ったことがあったらいつでも連絡してくれ。そんじゃな。」
スミス航空参謀は受話器を下ろした。
そのあと、また受話器を取り番号を押した。
「もしもし、オーシア国防空軍本部長のスミスです。セントヒューレット軍港の貨物運送会社でしょうか。実は食糧と燃料をサンド島に送りたいのですが…」
スミス航空参謀は親友のために交渉を始めた。
[1995年3月30日2146時/オーシア首都オーレッド/オーシア軍総司令部/オーシア国防空軍本部/本部長室]
交渉は無事成功し、スミス航空参謀は別の仕事をしていた。しかし、どこか悩んでいる様子だ。
というのも、2つの報告書に食い違いがあったからだ。こういう事は稀にあるが、どちらかの勘違いで問題は片付く。
だが、今回はそうはいかなかった。
1つ目の報告書はオーレッド周辺空域に反応したアンノウンの調査のことだ。クローバー隊担当の空中管制官、ヨネダ管制官の報告ではレーダーには何も反応せず、クローバー隊の目視の調査でも怪しい影は見当たらないとのことだ。このことから報告書には防空レーダーの故障が原因では、という結論が書かれていた。
2つ目の報告書は、1つ目の報告を受け防空レーダーを調査しに行った部隊からだ。しかし、調査部隊からは問題の防空レーダーに故障箇所は見当たらず、正常に作動していると報告があった。
スミス航空参謀は報告書の真偽を確かめるため両者に連絡したが、お互い報告書に嘘はないと答えが返ってきた。
どちらも事細かな報告書で嘘をついているとは思えないからだ。
悩んでいる中、総司令部の人がダンボール箱を持ってやってきた。
「なんだね?このダンボール箱は?」
「一般人からの手紙とビデオテープが入っています。総司令部宛に送られてくるのですが、これは空軍担当だと思いましてね。我々はこの手紙とビデオテープを一通り見ました。必ず目を通してください。それでは失礼します。」
スミス航空参謀はダンボールを開け、手紙とビデオテープをひとつひとつ見た。
(なるほど、そういうことか。ビリーの言ってたアークバードが例の空域に現れたから、報告書に食い違いが出たんだ。)
スミス航空参謀は納得した様子だ。
すぐに受話器を取り、SOLG組み立て中のアークバードに連絡した。
「国防空軍本部長のスミスだ。今日は何をしていた?……ふむ、わかった。今日一日中作業してたんだな?……了解した。作業中に突然すまんな。身体に気を付けて作業頑張ってくれ。お疲れ様。」
受話器を下ろし、再び番号を押した。
[1995年3月30日2210時/サンド島基地/司令室]
司令室でハーバード基地司令官が机上でコーヒーとドーナツを食べ、息抜きをしている中、電話が鳴った。
「はいもしもし、サンド島基地司令官のハーバードです。なんだウィリアムかよ。今ドーナツを味わってたのに電話しないでくれよ〜。」
《そんな事はどうでもいい。それよりも大変な事態だ。ビリーが言ってたアークバードのことだが、一般人の目撃情報が相次いでいる。》
「なっ、なんだってぇ!?」
思わずコーヒーを噴き出す。
「それはどれくらいなんだ?!どれくらいの人が見たんだ?!」
ハーバード基地司令官は慌てている。
《落ち着けよ。オーレッド周辺空域と考えれば100人はいってるだろうな。だが、まだアークバードの正体には一般人や総司令部も気付いていない。早く未来の息子に伝えた方がいいだろう。もし、総司令部が未来のアークバードのことを知れば何をするかわからん。ベルカの技術を手に入れるとかほざいてた連中だからな。》
スミス航空参謀は警告する。
「わかった。ありがとな。早いとこ息子に伝えるよ。ウィリアムも気を付けるんだぞ。私のせいで知ってはならないことを知ってしまったからな。」
ハーバード基地司令官は電話を切る。
「くそっ、マズイことになったな。ジョン達のことも私の服も…。」
コーヒーで汚れた制服を着たまま、ハーバード機長のN.Phone宛に電話をかけた。
[1995年3月30日2213時/アークバードⅡ/機長室]
ハーバード機長は机上でこれから作戦計画についてノートに書いて考えていた。
(まず7つの核起爆を阻止する必要がある。そのためには、核爆弾のある場所を把握しなければな。だが、エクスキャリバーの脅威があるから迂闊に近づけない。しかし、アークバードⅡの宇宙空間からのレーザー攻撃なら問題ないはず。出力はエクスキャリバーと同等かそれ以上だ。問題は、そこからどうするかだな。レーザーバッテリーの問題も…)
考える中、机上の充電器につないでいたN.Phoneがバイブを鳴らした。
「親父からか。もしもし、どうした親父?」
《誰が電話かけたかわかるのか。流石は未来の電話だ。そんなことより大変だ。私の友人からなんだが、ジョン達が最初に現れたオーレッド周辺空域で目撃情報が相次いでいるようだ。》
「はぁ…、恐れていたことが現実になったか。こうなる事は承知の上だったが、結構早いタイミングだ。侮ってたな。」
ハーバード機長は頭を抱える。
《大丈夫だ。目撃したってだけで、未来のアークバードということには気付いていない。だが、これも時間の問題だろう。》
「わかった。燃料と食糧の到着はしばらくかかるから、今は正体がばれないことを祈らんとな。ありがとう、親父。おやすみ。」
ハーバード機長はタッチパネルを押して会話を終了する。
(厄介なことになったな。だが、今は動く事は出来ない。それまでに作戦を練らないと。)
再びノートに作戦計画を書き始めた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
まだしばらくはベルカ戦争介入はなく、アークバードⅡ出現による別サイドの動きや介入に至るまでの流れを書きたいと思います。
ベルカ戦争介入を期待してた人には申し訳ありませんが、もうしばらくお待ちください。
次回もよろしくお願いします。