ACE COMBAT Skies Rewritten 作:遠い空
[1995年3月30日1445時/サンド島基地/来賓室]
ハーバード機長は親子の会話から本題に切り替えた。本題はアークバードⅡの燃料と食糧の補給についてである。
「なるほど、燃料と食糧の補給か…。できない訳ではないが、ジョン達の存在がオーシア国防空軍本部に知れ渡ってしまうぞ。」
ハーバード基地司令官は厳しい現実を伝える。
「そうなるのは承知の上さ。私達の存在がバレるのは時間の問題だ。私達の身は私達自身が守る。親父が心配する事ではないよ。」
ハーバード機長はアークバードⅡというオーバーテクノロジーの塊を隠しきれないと諦めていた。
「しかし機長!我々の存在が本当に知られたらどうするのですか?!今のオーシアとユークトバニアが我々を嗅ぎ付けたら、血眼になってでも技術を奪おうと襲いかかってきますよ!同じ国同士で戦争を始めるつもりですか?!」
アレンスキー大尉が声を荒げる。
この時代のオーシア・ユークトバニアは軍備増強路線に走っていた。ベルカ戦争で占領地解放後にベルカに侵攻したのは核査察という理由もあるが、真の目的はベルカの優れた技術である。
1995年までに実現・開発中のベルカの技術は様々ある。
実現した技術は、オーシア・ユークトバニアでは実現すら難しかった高出力化学レーザー兵器エクスキャリバーによるレーザー兵器の実用化、同じく巨大国家2ヶ国の核弾頭よりも小型かつ強力な破壊力を持つV1核弾頭の開発成功。
現在開発中の技術は、アークバードの巨大航空機技術を遥かに凌ぐ技術で開発中の重巡行管制機XB-O フレスベルク、世界初のレーザー兵器・大量破壊兵器搭載可能な多目的戦闘攻撃機ADFX-01 Morgun、V1のMARV化を目的としたV2ミサイルなど。
ベルカの技術はオーシア・ユークトバニアよりも10年以上先の技術を持っており、兵器も技術者もかなり優れている。
オーシア・ユークトバニアはこの技術を我が物にし、世界最強の国家を目指そうとしていたのである。
その巨大国家2ヶ国が、ベルカの技術のさらに上をいく技術を持つアークバードⅡを見つけたらどうなるだろうか。
オーバーテクノロジーの塊で、しかも未来の情報付きの宝を目にしたら、なんとしてでも手に入れたくなるだろう。
そうなってしまえば、最悪の場合同じ国同士での殺し合いが起きてしまう。
アレンスキー大尉はその事を危惧していたのだ。
「ジョン、彼の言う通りだ。息子と殺し合うなんてごめんだ。父親として現代のジョンも、未来のジョンも心配で心配でならないんだよ!」
ハーバード基地司令官は心配性な性格で、ひとり息子であるジョン・ハーバードを誰よりも愛していた。それゆえに厳しい事を言ってしまうのである。
しかし、ハーバード機長は2人の意見を聞き入れつつも自分の意見を述べた。
「私達はこの時代の人間でもなければ、この世界線の人間でもない。私達にはアークバードⅡという国がある。だから同じ国同士の人間とは言えない。だか、生まれ故郷の人間と戦うつもりはない。私にはここに来た理由について考えがある。」
ハーバード機長は少し間を空けてから再び語り出した。
「私達がここに来た理由は未来を変えることだと思う。私達の時代は国を愛する者にとっては最悪の未来だ。どこで歴史が狂ってしまったかはわからないが、私達ができることは未来を変えることだ。この戦争は最悪の結末を辿る。そしてこの戦争を機にさらに戦争が起きる。戦争によって発展した技術による技術競争で国という概念が消え始める。私達の未来はそういう歴史を辿った未来だ。国を守るために私達は戦った。国のために死ぬ覚悟だった。死んだ仲間もたくさんいた。だが、もうそんなことはごめんだ。私は未来を変えたい。この行為は、これ以上犠牲を出さない『未来を変えるための戦い』なんだ。」
ハーバード機長の目は本気だった。
「未来を変えるために必要な犠牲はあるだろう。その中にはオーシア・ユークトバニアの人間がいるかもしれない。だが、それを最小限に抑えるよう努める。このことはまだ3人にしか話していない。どうか理解してくれ。」
ハーバード基地司令官、アレンスキー大尉、マクドネル大尉の3人は黙って聞いていた。
「機長のいう通りですね。1995年から2030年まで7つ大きな争いがあった。その争いの傷跡は大きい。僕の愛する嫁のエレーナも、宿っていた赤ちゃんも争いの犠牲になった。これ以上、争いで誰も犠牲にしたくありません。今はまだ誕生すらしていないエレーナの幸せを守るため、そしてより多くの人々を守るため、僕は機長についていきます!」
マクドネル大尉はゼネラルリソースとの戦いで愛する人を失った経験からか、未来を変える意思は強かった。
「『未来を変えるための戦い』ですか。確かに、あんな未来をこの世界線で繰り返すのは嫌ですね。状況によっては同じ故郷の人間と殺し合うことになるのは辛いことだが、この戦争の末路を考えればやむを得ません。俺も機長についていきます!」
否定的だったアレンスキー大尉も『未来を変えるための戦い』という言葉を聞いて心を入れ替えた。
「本気なんだな、ジョン。わかった。何かあったら私に相談してくれ。だが、くれぐれも無理はするなよ。食糧と燃料は任せてくれ。できる限り公にならないよう努める。」
ハーバード基地司令官もハーバード機長の覚悟を受け入れた。
「ところで、ジョンたちはどんな未来を歩んだんだ?そもそも、タイムパラドックスについては大丈夫なのか?」
「先に親父に話すべきだったな。すまんな。マクドネル大尉、説明を頼む。」
「了解です。紙とペンありませんか?結構話が長くなるのでしばらくよろしくお願いします。」
マクドネル大尉は長々と解説を始めた。
[1995年3月30日1433時/アークバードⅡ/管制室]
機長らがサンド島に向かった後、アークバードⅡでは当時のインターネットに繋いで、ずれた時計の調節とアークバードⅡの存在が公になってないか確認をした。
「時間がわかったぞ!現在時刻は1995年3月30日1433時だ!時計を合わせてくれ!」
アークバードⅡの制御コンピュータの時間設定を変更した。これで全ての部屋にある時計はこの時代の時間になった。
「俺たちの時代の時刻は2030年3月30日0145時だ。年はマイナス35年、時刻はプラス1248時のずれか。すげぇずれだなぁ…。一応この電子時計の時刻はそのままにしとくか。」
管制室にある大きな電子時計の時刻はそのままにしておいた。
「最新バージョンのコンピュータと互換性があるとはいえ、旧式は使いづらいな。」
2030年のインターネットは全てがタッチパネルと音声入力式である。インターネットのホームページも非常にわかりやすくできており、映像や画像が瞬時に出てくる。
しかし、1995年のインターネットはまだ一般化されて間もないため、映像や画像は少なめで、動画投稿サイトもなく、繋がりも遅いため使いづらいのである。
「確か、時期的に一般化されて間もないから初期バージョンだよな。そりゃあ、タッチパネルと音声入力未対応だからキーボードで打つしかないよな。しっかし、キーボード使いづらいなぁ〜。」
キーボードを使いづらそうに使いながら、検索を続けていた。
[1995年3月30日1451時/サンド島基地/来賓室]
「…以上が、タイムスリップの仕組みと、僕達が歩んだ歴史です。ご理解いただけだでしょうか?」
マクドネル大尉が長話を終えた。
「……なかなか酷い末路を辿るんだな…。この戦争も、オーシアも…。確かにそんな未来は嫌だな。それに、私のいる世界線とジョン達の世界線は繋がっていないから、何をやってもジョン達が消滅することはないんだな?」
ハーバード基地司令官の質問にマクドネル大尉が答える。
「世界線が別のためタイムパラドックスの影響を受けません。確証はありませんが、消滅する可能性はかなり低いと思われます。」
ハーバード基地司令官は安心した顔になる。
「その答えが聞きたかった。タイムパラドックスで消滅する可能性は低い。ならば、思い通りに未来を変えてこい!お前達なら、ジョンならできる!」
ハーバード基地司令官は3人に檄を与えた。
「ありがとう、親父!やってやるさ!この世界の未来を変えてやる!」
ハーバード機長は未来を変えるために立ち上がった!
最後まで読んでいただきありがとうございます。
季節も暑い夏になりましたねぇ〜。早く冬になってほしいです。
この小説、結構長くなりそうなので、冬になっても連載し続けてると思います。
これからも応援よろしくお願いします!