謎の期待が胃にのしかかるぜぇ・・イェァ・・・。
とある町の屋敷。並の富豪でも持ちえない巨大な建築物が街の中央に居を構えている姿は圧巻そのもの。何も知らない者でも『此処に住むものは大層な金持ち』だと理解できるだろう。
事実ここに住まう物はフランスでも有数の富豪。金銀財宝を山ほど所持し、領主を差し置いて街を我が物顔で歩いては若い娘を金で買い、弱みを見つければ遠慮なく付け込み権力に物を言わせて搾取を行うという悪質な者であった。
――――そして夜中、それは起こる。
屋敷の一角で巨大な爆発が起こったと思いきや、中から火球やら轟雷やらが飛び出しては破壊の限りを尽くしたのだ。鳴り響く騒音。夜空を照らし轟々と燃え上がる炎。
それはたった一人の少女によってもたらされたものだと、誰が信じようか。
「死ね腐れ蝙蝠ィ!!」
私は苛立ち交じりの声で叫びながら、小太り気味の中年男性の死徒の腹を蹴り飛ばす。
蹴られた死徒は面白いくらいに跳ねまわり、屋敷の壁に叩き付けられた。たった一撃で内蔵全てを潰されるという壮絶な傷を負ったにもかかわらず、まだ生きているのは死徒ゆえの不死性か。
……概念武装って自作できないのかなぁ。
そんな愚痴を心の中で漏らす。そんな物がなくても殺せると言えば殺せるが、色々と手間がかかるので面倒なのだ。消費する魔力も馬鹿にできないし。
小太りの死徒は恐怖で顔を歪ませながら、必死に命乞いをする。
こんな光景を見るのは一体何度目か。うんざりとした顔になりながら、私は『
「ま、待ってくれ!? 頼む、殺すな! ほっ、欲しい物をやる! 金か? 地位か?」
「ミルフェルージュは何処?」
「ミッ……何故その名を――――」
質問に答えない罰としてその腕を切り落とした。
死徒を斬り過ぎて変質した『
……ホント、十年もフランスに滞在するとは予想外過ぎた。
十年。十年だ。ふざけてるとしか思えないが、しつこいぐらい追跡してきて、この
そのせいで私は情報を引き出しながらしらみつぶしに死徒社会の幹部潰しに五年費やした。
おかげで、怒りと憎しみと悲しみと殺意で胸がいっぱいだよ。
愛しい妹に、十年も顔を合わせていないんだよ? こいつ等のせいで予定が五年、五年も遅れたんだよ?
これはもう首を頂戴してもらうという方法でしか償えない。いや許さない。絶対に。鏖殺してやる。
「ぎゃぁああああ!?」
「みっともない声出してないで早く喋ってよ。他にも当てはいくらでもあるんだよ?」
「わ、わかりましたっ! 殺さないでっ!」
「……おい」
「ラ、ランブイエの森だ! それしか知らない!」
……ランブイエの森か。確か、パリ辺りにあったっけ。
なんでもいい。ようやく有用な情報を手に入れられたのだ。どいつもこいつも他の幹部の居場所しか知らず、それを聞きながら片っ端から聞きながら潰す羽目になった。
そういう意味では、この男が最後の幹部と言っていい。一応ここオルレアンだし、かなり大きめの市街だろうし。オルレアンつってもジャンヌあと千年ぐらい経たないと生まれないけど。
「おっけー。情報ありがとう」
「た、助けてもらえ――――」
「んじゃ死ね」
赤い剣が振るわれると、小太りの死徒の首が胴体を離れて宙を舞う。
生かしておく価値すらない奴だ。殺せるときに殺しておいた方がいいだろう。約束? 私『助ける』なんて一言も言いませんでしたが、何か。
「はぁぁ……
その一言で屋敷を燃やしていた炎が一気に広がり始める。魔力という名のガソリンをこれでもかというほど追加したのだ。一瞬にして灼熱地獄と成り果てた屋敷を開いていた窓から抜け出し、気配遮断と見識攪乱の魔術を使い人目を避けてオルレアンの町を出る。
街を出て、すぐさま暗い森の中に入ると、不自然なまでに存在感を放つ装飾された扉がぽつんと存在していた。
私は遠慮なく手をかけて開く。
中には、いたって変哲もない『部屋』があった。
家具がある、明りがある、絨毯が敷かれていれば机も椅子もベッドもある。
何処にでもありそうな普通の部屋。居間とでも呼べるそれは謎の扉を開いた奥に存在する異空間。
その名も『
実態こそ空間の隙間を広げ、本来存在し得ないであろう虚数空間を作り上げてねじ込むという出鱈目を行い生まれた空間魔術だが、これによって私は死徒の追跡を逃れてきた。そういう意味では私という存在を存続させた偉大なる魔術でもある。術式の難解度は私でさえ理論で二年、実現に四年かけた程であるが。
室内に入り扉を閉めると、外界から『遮断』されたのを感覚で感じる。今頃あの森の中に存在していた扉は綺麗サッパリ消えているだろう。故に追跡は不可能。場所も固定されているのではなく、私の意思次第で自由に移動できるのだから実に便利だ。
……欠点としては維持魔力量が半端じゃないほど大きいと言うところ。いや、虚数空間の維持自体は特に苦労はしないのだが、問題は外界と繋がった時。一種の固有結界の様な物なので扉を出現させ外界と空間を接続したときにとんでもない量の魔力が消費されていくのだ。
こうやって外界と空間を遮断して居ればそこまで減りはしないのだが、そこは改良の余地アリといったとこかな。
予定では『
完成までの日が実に待ち遠しい。
鮮血や炭で汚れきった衣服を魔力稼働式全自動洗濯機の中に放り込み、裸になった私はシャワーを使い髪や体についた汚れを洗い流していく。
水は何処から来ているのかって? やだなぁ魔力で作り出しているに決まってるじゃないか。
実は私、一年前に魔力保持の理論を組み立てて見事完成した。
その名も『
でも、残念ながら量産が厳しいのが難点だ。千回やって成功例が一つだけなのだ。というか自然界の素材に虚数魔法を付与して変質させるなぞ、兎にニンジン食わせてニンジンにしようとするほど出鱈目で無茶苦茶な所業なのだ。むしろ千回やって一回成功した方が凄まじい事だろう。
代わりに、無限貯蔵という最高のアドバンテージが存在するので妥当ともいえるか。
今貯蔵できている魔力は私の魔力三年分。普通の魔術師で換算すればざっと普通の魔術師二十年分の魔力が存在する。戦闘に転用すればAランクの魔術がバカスカ撃てるぐらいにはあるという事。この空間の維持ならば十年、機能を休眠させスリープ状態にすれば、内部に設置した死徒の心臓で作った永久稼働魔力路が壊れでもしない限り永久に維持できる。
我ながらすさまじい物を作ったなと感心する。
シャワーを終えて寝間着に着替えた私は、今日も一仕事終えたと小さく呟きながら柔らかいベッドに飛び込む。
四年前この空間内で初めてベッドを作って飛び込み、蓄積していた疲れを解いた時には本当にもう死んでいいと思った。これでアルトリアが抱き枕にできたならば、神様だって殺せる気がした。
「あぁぁああああああアルアルアルアルアルアルアルアルアルアル――――」
十年間もアルトリウム(アルトリア成分)を補給していないせいでもう禁断症状も末期に近付いてきている。正直ヤバい。あの女の子特有の香りをhshsしたい。prprもしたい。一緒にお風呂入りたい。談笑もしたい。添い寝したい。
ああああ、我が愛しのアルトリア。ああああ、私の最愛の妹。君は何処に。いやブリテンに居るだろうけど。
クソッ。どれもこれもあのミルフェルージュなんたらっていう死徒――――いや真祖のせいだ。アイツだけは絶対にぶち殺す。十年間たまりにたまった積年の恨みだ。きっちり払わせてやるよフハハハハハ。殺す。
「とりあえず、接続場所出現予定地をランブイエの森にして、と」
ベッドの隣の机に置かれていた自作のフランス地図。その上にあるチェスの駒を動かし、予定地であるランブイエの森に置く。
すると地図右下の数字の羅列がカチャカチャと変動し『09:28:11』という物に変化した。
勿論これは虚数空間の移動方法だ。チェスの駒を現在位置に見立て、場所を変えることで自由自在に空間の移送を可能とする。
え? これ使えばブリテンに行けるだろって? そうしたいのは山々なのだが、少し事情があってそれは無理なのである。
法則が異なる――――要するに今のブリテンはフランスやその他諸外国とは別次元の法則が働いている。一種の異空間と例えていい。そしてそれを渡るにはどうしてもその『境界面』を通過せねばならない。
虚数空間だけの移動ならば問題はないのだが、私という生物を入れた状態でそれを行えば不安定な状態で安定している虚数空間は均衡を崩し、即座に崩壊する。境界面自体が不安定な空間の境目。簡単に例えるなら、ブリテンは見えない嵐の壁によって隔絶されており、普通に通る分には問題ないが空間転移など一部の移動手段で渡ろうとすると強力な阻害を受けてしまう、とそんな感じだ。
端的に述べれば、この手段で渡ろうとしたら私はこの虚数空間諸共消される。
だから、渡りたくても渡れない。フランスがまだ神代の法則だったのならば可能性は十分だったのだろうが、無理なことを言っても仕方ないだろう。
気分を入れ替え、予定地までの到着時刻をもう一度確かめる。
凡そ九時間半か。睡眠するには十分だろう。
いよいよ最終決戦だ。準備は怠らず、今まで用意してきた対死徒用武装全てを行使するつもりである。
つか、いい加減里帰りくらいさせろっつーの。
愛しの妹の顔を思い浮かべ、現状にうんざりしながらベッドの上で蹲る。
二日ぶりの熟睡だ。しっかり休んでおこう。
「あぁ、もう…………帰りたい」
そんな弱音を吐きながら、私は静かに瞼を閉じるのであった。
◆◆◆◆◆◆
シャンデリアの光が照らす白い空間。一切の染みなど許さない、常識外れの『浴場』は、ただ白一色に包まれていた。
寂し気に置かれた、中央に存在する真っ白な浴槽。
そこには目いっぱいに鮮血が注がれていた。
赤い絵の具を落とした水でもなければトマトジュースでもない。
血だった。しかもただの血では無い。人間の血。
常人ならばその発想をした者の頭を疑うであろうその存在に、まるで快適とでも言いたいのか満足げな顔で体を浸からせている女性が居た。
美麗なる金髪を血で濡らし、黄金の目を輝かせながらまだかまだかと何かを待ち続ける彼女は、何かに気付いた様に表情を変えた。
「ああ、待っていた。ずっと、短かったけど、長かった。ようやく来てくれたのね、私の愛しい人」
艶美な表情で女性――――ミルフェルージュは血の浴槽から身を上がらせる。
コンディションは最上。最終決戦に相応しいほどの好調。
彼女は今から起こるであろう壮絶な対決を『目』では無く『勘』で読み取り、妖艶に体をくねらせ真っ赤なドレスに身を包む。
――――轟音が鳴り響く。
まるで巨大な爆発が起こったかの様に。いや起こったのだろう。巨大な振動がミルフェルージュ専用の浴場にまで届いているという事は屋敷全体が揺れたという事だ。
様々な声が聞こえてくる。どれもこれもが焦りを含んだ物であり、これを聞いたミルフェルージュはクスリと微笑した。あまりにもその様子が滑稽過ぎたのだから。
緊急事態にもかかわらず、黄金の吸血姫はゆったりと身支度をする。
誰に見せても恥ずかしくない様に、髪を梳き、肌を拭き、服を着て、化粧を施す。
敵襲だというのにそんな奇行を迷いも無く行う。
それがこの吸血姫だ。最上位の吸血鬼であり数百年もの間死徒たちを束ねてきた絶対者。
優雅に、可憐に、彼女は慢心してもなお相手を圧倒する。
だからこそ心が躍る。
久しぶりに、自分に全力を使わせてくれるやも知れない相手が現れたのだから。
「お願い私の愛しい人。どうかわたしを満足させて。永遠の生の中で、刹那の鮮烈な輝きを授けて。永劫、忘れられない究極の愛を、憎悪を、痛みを――――私に感じさせて」
ミルフェルージュは楽しむようにその台詞を呟き、己の決戦場へと一歩一歩を味わうようにして赴く。
静かに、優しく美しい
「ダイナミックお邪魔しまぁぁぁああああああああああああああああああああああっす!!!!」
使用人らしき死徒たちが唖然としてこちらを見ていた。隕石の降下と一緒に訳のわからないこと言う奴が現れたら仕方ない。
躊躇する理由にはならないが。
「死ね阿保ども!! ――――
あらかじめ用意していた数十の宝石と触媒をばら撒き、極大規模の大魔術を一瞬で構築し多重同時展開。
巨大な暴風が、耀く炎が、鈍重なる水禍が、絶え間ない隆起が半壊した屋敷を襲う。
中に居る死徒たちは巻き込まれてその肢体をバラバラにされた。しかし死徒がその程度で死ぬわけがない。
が、対策程度は用意している。
この
「…………”聖なる光よ、悠久に広がる闇を見よ。其れは世界に仇成す死者の成れの果て。死を否定し、世の理を乱す哀れな愚者”」
死徒を倒す方法は二つある。
一つは、概念武装による討伐。実にシンプルで、概念を上書きする武装で傷付けることで不死性を無効化し、人として殺すことだ。
二つ目は、浄化。人間をやめた吸血鬼に、人間だったころの自然法則を叩き込んでその肉体を洗礼し塵に還す方法だ。
私はどちらも使用不可能であった。理由は単純。私は概念武装を所持していないし、浄化はそれを用いることで発動させることのできる小規模な儀式だ。
だから私は独自に対不死者用の魔術を完成させた。
ことアンデッド相手にすさまじいまでの効力を発揮する独自魔術である。
反面、普通の生物に対しては効果は皆無だが。
更に言えば弱った相手じゃないと効果が薄いし、詠唱も長いので妨害されやすいのも難点だ。だからこそ開幕大魔術を使い、全員身動きが取れないようにしたのだが。
「”その魂は穢れを積み重ね、無垢なる器は黒に染まる。ならば今こそ無色へ還そう。私は宣言する。――――汝らに救いを”」
祈る様に両手を胸に当て、最後の言葉を呟いた。
「――――――――”
詠唱を終えた瞬間、悪しき気配が一つを残して全て消え去る。
魂の強制成仏とは中々慣れないことをしたが、どうにか上手く行ったらしい。これ、何回か失敗して魂がそのまま魔力に分解されたことあったからね。あの時は魔力発生の衝撃で死ぬかと思ったよ全く。
しばらくして、小さな靴音が近づいてきた。
いよいよ大ボスとご対面だ。
待っていたよ、この時を。五年も。
「……随分と派手に散らかしたみたいね?」
現れたのは、紅いドレスに身を包んだ金髪金眼の絶世の美女だった。
熱風でそれを揺らしながら、魅惑的な気を纏い私の全身を舐める様にして見てくる。気色悪いったらありゃしないが、吸血鬼共の美的センスはもうとっくの昔から理解しているので何も言わない。
「敵の拠点で遠慮する必要があるの?」
「ん~、可憐さや優雅さが欠けているわ。もう少し静かに、美しく、そう……スマートに出来ないのかしら?」
「生憎、憎たらしい奴の顔面は殴る性分なんで」
汗が頬を伝う。
本能が、長年の経験が同時に理解する。
――――アレはヤバい。
今まで相手にしてきたどの吸血鬼よりも危険な奴だ。
魔眼持ちだと知ってはいたが、最上位の吸血鬼というやつは伊達ではないらしい。一瞬の油断さえ許してはくれないほどの難敵。
だが、勝てないわけでは無い。
流石に勝算の無い戦いに挑むほど馬鹿ではないのだよ、私は。
「
動きを封じるために重力を増加させ、更に魔力で編んだ鎖で全身を床に縛り付ける。
そして『
「……貴女の立っている床は
「は――――ッ!?」
唐突に足元が崩れる。
床が抜けたのだ。いや、あれだけ派手に壊しておけば床の一つや二つ崩れはするだろう。
だがあの吸血鬼は先程何と言った。
『そう言う事にしましょうか』? それではまるで人為的に今の現象を起こしたような口ぶりではないか。
偶然。いやあり得ない。あそこで床が抜けるなどそれこそ未来予知でもしない限り不可能だ。そもそも私だけをピンポイントで狙ったように床が崩れること自体が『出来過ぎている』。
まさか。
まさか――――ッ!?
「クソッ!」
下の階、地下室らしき場所に落ちた私は衝撃を殺すように着地し即座に離脱を図る。
魔術による構造把握で唯一の出口である非常通路が外に繋がっているのは既に理解済みだ。だからそこまで全力で逃げれば体勢を立て直すことができるだろう。
そこまで考えを巡らせた直後、背後に何かが降り立つ音がする。
同時に、告げられた。
「その通路は今崩落する。ええ、そうなる運命に
狙いすましたかのような瞬間に通路の天上が丸ごと崩れ、完全に塞がってしまう。
そこでようやく理解する。
自分は舐めていた、と。
「クスッ。まぁ、可哀想ね。目の前の御馳走を台無しにされた子犬みたい」
「……一応聞いておくけど、魔眼を使ったの?」
「そう。凄いでしょう? 色々制限はあるけれど、嵌れば中々使えるわ。――――見たモノの『運命』を『置換』できる魔眼は」
見たモノの運命の置換。
例えるならば、何かが入った箱が目の前にあるとしよう。そしてその中身がAであるすれば、別の可能性では中身が全く違う物体のBである可能性もある。だがそれは可能性の話であり、この場合中身はAだ。それは変わらない。中身を見て、観測して認識しAだと確認をしたのだ。
そして、あの魔眼はその観測して確定した可能性を『入れ替える』能力を持っている。
要するに確かに目で見て感じて、そこに存在するAを全く別物であるBにすり替える――――第二魔法、『平行世界の運営』に限りなく近い何か。実体こそ『可能性の置換』という物であるが、それでも強力であることには変わらない。
私としたことが、見誤った。
もう少し正確な下調べもできたはずだろうに、最後の最後でしくじってしまうとは。何たる不覚。
そんな後悔してももう遅い。既にこうやって争いを始めてしまっている。
都合よく後戻りなど、もうできない。
「
蛇腹剣と変化した『
だが、その刃が肉を切り裂くことはなかった。
「それは私には当たらない」
そう告げられただけで、予めそうなると決まっていたかのように『
あり得ない。臭いを嗅ぐことで確実に得物を喰い殺す私の愛剣が攻撃を外すなど今まで一度もありえなかった。
ならばミルフェルージュが何かをしたのだろう。
魔剣による攻撃が『当たらない』という可能性とすり替えることで、その場を動かずして回避したのだ。
「……なんて出鱈目。見るだけで攻撃を逸らすなんて」
「あら? まさか不公平、なんて言うのかしら」
そんなつもりはない。しかし理不尽だと不満の一つぐらいはこぼしたかった。
何せ『観られた』だけで自分が一方的に主導権を握れるのだ。実にふざけた能力だと言いたい。
「なら、薙ぎ払う!」
「貴方はそれを取り落とす」
紅い剣を握っていた手に強烈な違和感を覚える。
引き攣った顔になりながらその手を見ると――――その手から剣の柄を取りこぼしていた。
それが『当然』であるかのごとく。
取り落としたという可能性との交換。……出鱈目すぎる。
「フフッ。まぁ、前座程度なのですから、そう驚かないで? ――――本番はこれからなのだから」
「くっ――――!?」
ミルフェルージュがその細く白い手を自身の正面に翳す。
その動作だけで、巨大な魔法陣が瞬時に幾つも多重展開された。どう見ても大掛かりな儀式を通さねば発動すら困難なAランクの魔術の複数同時起動。それを一瞬で、詠唱すらしない
こいつ、嘘でしょう。
「『魔術を用意していた』可能性との置き換え!?」
「ふふ、大正解」
ふざけるなと思った。大掛かりな手順を踏むはずの大魔術を『それを行った』という可能性と入れ替えることでの瞬時発動? 理屈の上ならばどんな魔術であろうが即時発動可能という、現存する魔術師が知ったら激怒不可避の裏技ではないか。
「それ相応の魔力を消費してしまうのが難点ですけど、面倒な過程をすっ飛ばして結果を得るという点だけ見れば、結構な優れものですわよ?」
「…………は、ははっ」
乾いた笑いしか出てこない。
まさかここまでふざけた存在だったとは。完全に想定外である。
「では、耐えてみなさいな」
全身の毛が立つほどの怖気。
半分衝動に任せる様にして、私は今自分が持つ最大の防御方法を選択した。
腰に差した黄金の剣と鞘。それを握り、可能な限りの魔力を叩き込むように送り込んだ。
「『
「『
黄昏の破壊光と黄金色の大盾が衝突した。
戦闘を掻くと何故か長々と書いてしまう症候群。何で何でしょう。とりあえず自害しろ、ランサー。
追記・誤字などのミスを修正しました。
追記2・ミス多過ぎィ!