無事、精霊の加護と新たな剣を手に入れ目的を達成した私は、今日を以てフランスからブリテン島への帰路につくことになる。勿論この五年間色々大変だったし、最後に貴重な出会いもあったが、故郷に帰る時が来たのだ。
予想だともう数年かかると思っていたのだが、意外にかなり早く帰ることになった。
早いに越したことはないのだが――――やはり数日の付き合いだとしても、知人と別れるのは少々寂しい。
「もう、行ってしまうのね」
「ごめんね。私も、やらなきゃならないことがあるから」
五年も故郷を離れて武者修行を行い、そして望むものも手に入れた。
後は帰るだけ。愛しの我が妹が待つ
微笑みながら私は腰に吊り下げた、ニミュエが用意した白銀の鞘に収まっている白銀の剣を軽く撫でる。
この湖で手に入れた神造兵装。忘れ去られた神々の意思の集合体。
……実は、まだ上手く扱えなかったりする。
原因としては、私の魔力がしょぼいというものであった。
誤解の無いように言って置くが、私はそこらの凡百魔術師と比べれば潜在魔力量は数十倍以上はある。ニミュエが稀代の魔術師だと評していたので間違いはない。
一度振っただけで貯蔵魔力の四割が吹き飛ぶ。その分威力は凄まじく、遥か遠方の山を距離を無視して両断するほどであったが、これで私が調整しての
調整次第で普通の剣と同じ運用は可能だ。だがそれを行うには余りにも『硬すぎる』。
言ってしまえば現状は錆びてカッチカチになったレバーで出力調整しているようなもの。大雑把にしか調整できなくなっている。
要するに、放置され過ぎて神剣自体が変質して調整しにくくなってしまったのだ。
私だけが原因ではないのだ。だから私は半分しか悪くない。
これに関しては、長々と慣らしていくしかないだろう。
故に、しばらくは封印だ。こんな状態で素振り気分で抜いたら魔力が枯渇して死ぬからね。
それと、刀身がそのままで鞘も無いというのはあまりにも寂しいので、ニミュエが適当なものを見繕ってくれた。それも神剣が有する神気を漏らさず遮断する特別製だ。あまりにも無造作に振りまくものだから不特定多数に『見つけてくれ』と公言し回っているような存在故に、それを隠さねばならなかった。
この鞘に収めている限りは、よほど勘の良い奴でもなければこの剣に気付くことはないだろう。
「アルフェリア。短い間でしたが、とても良い時間を過ごせました」
「それはよかったよ、ランスロット。そう言われると気が楽になる。色々巻き込んじゃったしね」
「お気になさらず。自分から望んで巻き込まれたのですから」
「ははは。ブリテンにならいつでも来てよ。歓迎するから」
「はい。いつか必ず」
少し寂し気ではあったが、ランスロットとは何時かの再会を約束する。
そう。此処で別れようとも、彼とはいずれまた会う運命だ。
それが滅びへの一歩でもあるのだが、不思議と私に嫌悪はない。もう決まっているからか、それとも本心から来てほしいと思っているからか。
少なくとも、達観はしていないというのは断言できる。
彼は、人間として十分尊敬できる者なのだから。
「あらあら。互いに初めてを捧げ合った仲だというのに、随分呆気ないわね」
そして唐突に爆弾を落とす湖の乙女。
額に青筋を浮かべながら、私はランスロットへと視線を変える。
顔は笑顔を取り繕わせていたが、目が全然笑っていないことは自分でもわかる。
「…………私、あの事については何も言わなかったんだけど」
「……すみませんアルフェリア。ニミュエが強引に問い質そうとしてきたもので」
この精霊は何だろうか。他人の弱い所を積極的に弄り回す悪趣味でも持っているのか。
十分からかったことに満足したのか、ニミュエは「こほん」と小さく咳き込み、真面目な顔で私を見つめる。
その姿だけは本当に精霊の様な不思議な魅力を放っていた。
久々に精霊らしいニミュエの姿を見れたような気がする。
「……気を付けて、アルフェリア。貴女の歩く道の果てに、幸せがあるとは限らない」
「わかっているよ。覚悟はもうしている」
「――――またいつか、縁があれば」
ニミュエが悲しみに満ちた顔を見せ、私に優しく抱き付いた。
結末を知っているとしたら、確かに厳しい心境だろう。己の友人を、破滅の運命へと導いているようなものなのだから。
だけど私はまだ諦めていない。
滅びは避けられなくとも、その結果を良き物とすることができるかもしれないのだから。
「さよなら。ニミュエ、ランスロット」
「ええ。貴女に精霊の加護があらんことを」
「どうかお元気で」
別れを終え、私は踵を返す。
戻りたい衝動に駆られるが、振り払うように私は走る様に森の中へと飛び込む。
心残りはある。だけど、此処で立ち止まってはいけない。
胸が引き締められる苦しさに耐えて、走り続ける。
ニミュエが予め迷路の様な魔術結界を解いたのか、迷うことなく数分で森の外へと出ることができた。
少しだけ息を荒げながら、名残惜し気に振り返っても目に入るのは緑の生い茂る深い森への入り口だけ。精霊と白騎士の姿は欠片も無く、それが酷く私の心を空にする。
数日だけだが、それでも彼らとは良き付き合いが出来た。
欲望に負けて後数日滞在するだけで、もっと離れにくくなるだろうと確信せざるを得ないほど。
自分が人懐っこい性格でもあるせいかもしれないが。
「…………また、会えるといいな」
自分に言い聞かせる様に呟き、私は一人寂しく平原を歩く。
まずは、近くの村か町で馬を買うことにしよう。徒歩で東端から西端まで行くには少々疲れる。少しでも楽な交通手段が確保できるならばするべきだろう。
……え? 自分で走った方が早いだろ、だって?
それも考えたが、無理だ。
なにせ――――今の私は、まだ死徒に狙われている身なのだから。
◆◆◆◆◆◆
フランスのどこかに存在する巨大な屋敷。
周囲が緑化し殆ど廃墟同然に見えるそれは、意外にも中に人が住んでいるかのように常に綺麗に掃除されている。いや、人は住んでいる。ただ魔術的な結界と、その中に住む者達が滅多に外へ出ない故にそう見えるのだ。とはいえ、中と外から木の板が窓という窓全てに打ち付けられていれば人が住んでいるとは誰も思わないだろう。
屋敷の中にある豪華なシャンデリアが照らす食堂。そこには巨大な長方形の食卓があり、その周りには豪華な装飾が施された質の良い椅子がいくつも並べられている。
しかし一番目を引くのは、最奥に存在する玉座にも見える豪華絢爛な腰掛け。
そこに座るのは黄金の様に輝く金髪を垂らす絶世の美女。怪しげな眼帯をしているにもかかわらず、目の前に置かれた料理を見えているかのように鮮やかな動作で食している。
他に食卓を囲む者達はそれを不思議とも思わず、何事も言う事は無く淡々と己の食事に明け暮れ――――そして眼帯の美女はふと何かを思い出した様に声を出す。
「――――そう言えば、あの忌々しい『眷属殺し』はどうなったのかしら」
その言葉が発破になったのか、一斉に食卓を囲む全員がその手を止める。
空気が冷える。触れてはならない話題に触れてしまったかのように。だがそんな状況になろうとも、眼帯の女性は眉一つ動かすことなく不気味な笑いは全く崩さない。
「…………配下の者からは、あの難攻不落の結界領域である『精霊の森』に入ったきり戻らなかったそうです」
「死んだに決まっている。我らが数十年かけても突破できなかった多重結界の巣窟だぞ」
「ふん。無様に果てたのならば我々を虚仮にした相応の罰と――――」
次々とそんな言葉が出てくる。
それを聞いて眼帯の女性は深く顔を歪めた。
「そう。貴方たちは私の『子供達』をあっさりと殺せる者が、ただの『結界』ごときで死んだと言いたいのね」
殺気の籠った声。それを聞いて何人かが顔を青ざめ、出かかる声を奥に引っ込める。
下らない劇を見せつけられたかのように眼帯の女性はため息を吐き、卓上に置かれたワイングラスを手に取り注がれた液体を少しだけ啜る。
「呆れたわ。まさか勝手に『死んだ』と断定して調査を怠るなんて。おかげで久々に私の私兵を動かすことになった。まぁ、良い運動だと思えば儲けものでしょう」
「所在がつかめたのか?」
「ええ。『精霊の森』近くの街で顔を隠しながら、馬を一頭買い取って直ぐに遠方の森に向かったらしいわ」
「ならば早急に討伐兵を――――!」
「私がしてないとでも?」
そう言って眼帯の女性は一方的に話を進めていく。
それについて不満を持つ者はおれど、反論する者は皆無。当然と言えば当然だろう。
虎の尾にかじりつく鼠が何処に居るというのだ。
眼帯の女性はくすくすと小さく笑いながら、楽し気に顔色を悪くしている自分以外の者を眺める。
我が子の失敗を見た母親の様に。
「慢心はいけないことだわ。せめて『確実』だと思える証拠を見つけないと、ね?」
「……その通りです」
「結構よ。私は二度目までは許すわ。でも、三度目は――――」
くすり、と妖艶な笑顔を浮かべ、眼帯の女性は告げる。
「――――生きることを後悔する覚悟はお在りかしら?」
その一言で食堂の空気が凍り付く。
誰一人として動くことはない。動けない。動いてはならない。一瞬でも身動きを取ればその瞬間自分は『死ぬ』と確信に近い何かを抱いているため。
事実、動けば眼帯の女性は『気まぐれ』でその者を『玩具』にしていただろう。
眼帯の女性は誰も動かないことに退屈したのか、小さく嘆息して食堂を後にする。
直ぐに広大で豪華な自室に入ると、柔らかいベッドに四肢を投げ出し――――そっと自分の体をなで始めた。
「あぁ、あぁ…………初めて、初めて私が『観れなかった』あの子。愛しい、愛しい、我が子よりもずっと愛したい。その銀の目を、銀の髪を、その白い肌を、紅い唇を、独り占めしたい――――」
光悦な表情を浮かべ、悶える様に彼女は初恋の相手を思い浮かべたかのように赤くなる。
その拍子に彼女の眼帯が外れてしまうが、それを意に介さず魔女の様な笑い声は止まらない。
「…………苦しんだ表情を見たい、絶望する表情を見たい、全部、全部、全部、『観たい』」
――――眼帯に隠された、彼女の『黄金』の瞳が露わになる。
それこそ彼女の――――真祖、ミルフェルージュ・アールムオクルスの『魔眼』。稀有にして強大なる異能、『
恋い焦がれる乙女の様に。
「必ず、必ず、私の物に」
乙女の様な吸血鬼は、誰かに誓うように、誰にも届くことはない感情を呟いた。
◆◆◆◆◆◆
焦げ茶色の馬が真夜中の森を駆ける。
歯ぎしりしながら私は手綱を握り、一瞬の減速も許さず全速力で馬を走らせた。背後から駆け寄る影達から逃げる様に。
「今までは雑魚だったのに急に上位を突っ込んでくるとは……いよいよ本腰を上げてきたって事?」
思わず声が漏れる。
幾ら五百体以上の死徒を屠ってきた私だからこそ『アレ』の脅威は理解できた。
――――上位の吸血鬼の眷属。
今私を追いかけてきているのはそういう奴らだ。今まで相手にしてきた雑魚死徒とはわけが違う。例えるならば今までのが1だとすれば今追いかけてきているのは3、4ほどの力量。そしてそれが多数。
はっきり言って真夜中で相手にするのは危険すぎると断言できる。昼間こそ普段と比べて酷く弱体化する死徒だが、その真価が発揮される真夜中では紛れも無く『狩人』だ。
つまり、真夜中であり視界不良というこの状況での交戦は最悪と言っていい。
逃げる方法がないというのもまた問題ではあるのだが。
「ああもう……! せめてマーリンの阿保に空間転移の魔術でも教えてもらえばよかった!」
空間転移かそれに属する魔術でも扱うことができればこの場の離脱はそう難しくなかっただろう。
だがそんな都合の良いことなどそうそうなく、今の私には使えない。使えたら今現在こんな苦労していない。
「――――死ね人間!!」
「死ぬかボケェ!」
暗闇から飛び掛かって来た死徒の攻撃を身体強化を使って回避し頭部へカウンター。強化された豪速の拳が死徒の頭部を粉微塵に砕き、吹き飛んだ死体が流される景色に吸い込まれる。
頭を潰しても死なないのだから厄介極まりない。全身残らず焼いて灰にするか、上位の神秘を内包する聖剣で無ければ殺せないというのだから本当に厄介だ。
一応聖剣は所持している。しかし馬上で振ったところで当たるほどアイツ等も軟じゃない。避けられるか逆に弾き飛ばされるのが落ちだろう。
悪寒が背筋を駆けまわる。直感に従い体を伏せると、乗っていた馬の頭部が爆散した。
暗闇からの死徒の蹴り。渾身の一撃は馬の頭部をたった一撃で消し飛ばすには十分すぎる威力を誇っていた。いくら身体強化の魔術を施した私といえど、守りの薄い頭を攻撃されれば当然死ぬ。もし一秒でも遅れていたら、私の頭は弾け跳んでいただろう。
ぞっとしない想像をしながら高速で『
同時に馬がバランスを崩し、私も地面へと放り出される。
「ッ――――!」
受け身を取り、最大限隙を見せない様に着地。
靴底で土を抉りながら止まり、全方位を警戒する。更に魔術による多重結界の速攻展開。無詠唱なので質は知れているが気休め程度にはなる。
「あーくそっ、今日一日断食することになったよ全く……こいつ等ホントに他人の都合ってもんを知らないね」
腹減った。しかし保存食は皆無。
こいつら昼間からこちらを付けてきていたので、落ち着いて食事という状況を作らせてくれなかったのだ。もうこいつ等の肉でも食べてくれようかこんにゃろ……。
余計な思考をそぎ落として、極度の集中状態を作る。
魔術による感知では相手の数は七。しかしその戦力は通常の死徒二十人以上に匹敵する。今までは最大二十人相手にしたことがあったが、あの時はもう何というか、死にかけた。冗談抜きで。ニミュエがくれた鞘や神剣があるので前よりはマシな状態だろうが、相手の戦力は前より多いと推測するべきだろう。
……もしこれが抑止力の仕業なら、どんだけ私殺したいんだよと言いたくなる。
「出てきてよ、囲んでるんでしょ。それともお偉い死徒さんは人間に顔も見せられないの?」
もう感知魔法でアイツ等が私を包囲しているのはわかっている。この呼びかけに答えるなら、空いた箇所から突破して強引に逃げ切りたいのだが――――予想通り応じる馬鹿は一人もいなかった。
流石に、見え透いてたか。
『……我らは主から直々に、貴様の捕縛を命じられている。悪いが、確実な方法を取らせてもらおう』
「さっき思いっきり殺しにかかってきてなかった? ていうか、ボス命令にしては少し数が少なくない?」
『あの程度で死ぬのならば、貴様はそれだけの者だったという事だ。そんな間抜けは我らが主の前に立つ資格すらない。数が少ないのは我々が先に見つけただけで、今頃そこら中に命令が下された分隊がいるだろうよ。だが、貴様のような人間の小娘一人、われらで十分。獲物を他人に譲るほど甘い我々ではないわ』
「……あ、そ」
奴さんの考えはわからないが、どうやら相手は私を捕まえたい様だ。
大方同胞を山ほど殺された報復でもするのだろう。待っているのは高確率で拷問の類。絶対に捕まりたくない。
「何でもいいや。こっちはそっちの親玉の居場所だけわかれば十分だし」
『愚かな。この状況で反抗するか』
「ハッ」
『…………何を笑って』
この状況、ね。
じゃあ、答えを見せてあげよう。
――――追い詰めたのはお前らじゃなくて私なんだよ馬鹿どもが。
「――――
手に持った赤色の剣を薙ぎ払うように振る。
それは何もない場所で空振るが、払われると同時に剣が強く光り『それ』を現出する。
刃が強靭なワイヤーで繋がれつつ等間隔で分裂している異形の剣。
今持ちうる魔術と数多の死徒の血を啜り変質しだした『
数年間。対死徒戦を重ねた私が改良に改良を重ねた成果だ。
どれだけ隠れようが、この魔剣は『血の臭い』をたどって自身の血が尽きるまで伸び続け、獲物の血液を一滴残らず吸いつくす――――!
『ぐあぁああがっああ!?』
『ギャアァアアアッ!?』
そこかしこから悲鳴が上がる。樹木の間を掻い潜る様に、『
別に無から有を生み出しているわけでは無い。剣が取り込んだ血液を魔術で変化させて、一時的に『剣の一部』として扱っているに過ぎない。しかしその効果は抜群。血を吸えば吸うほど際限なく伸びて行く剣は一瞬にして四体もの死徒をその凶刃の餌食とする。
『くっ……舐めるなァッ!!』
ああ、馬鹿だ。馬鹿すぎる。
ここまで被害が出たにもかかわらず、仲間と相談もせずに出てくるとは。
「アッハハハハハハハハハハッ!!! 愚図は消えててよ!!」
余りにもアホすぎる死徒をあざ笑いながら、私は赤い蛇腹剣を握る手を、全力で払った。
――――瞬間、森に無数の紅い閃光が走る。
この空間一帯に広がっていた蛇腹剣の刃が鞭のようにうねり、予測できない軌道で何度も周囲を切り裂いたのだ。血に塗れた刃が通った証拠として、切り裂かれた木々の切断箇所に朱い滴がついている。
伸びた『
粉塵が上がる中、幾つにも切り飛ばされ干からびた死体が宙を舞い、地に転がる。
予想外。これは相手にも、私にも言えた。
「……担い手になって、身体能力まで上昇しているの?」
そう。神剣の担い手となった影響か、今までに一度も無かった、体の底から力が溢れるような感覚を感じていた。ニミュエの加護の影響も多少あるだろう。だがここまで爆発的な変化はそれだけでは説明がつかない。
ならば、神剣に原因がある。アレの内包する魔力や神秘は絶大な物であった。その影響ならば、私の今のこの状態も説明できなくもない。
……後で何か代償の要求されないよね。
少しだけ不安を覚えながらも、私は唯一生き残った死徒へと歩み寄る。
腰が抜けているのか、へたり込んだ死徒は怯えた目でこちらを見上げていた。まるで捨てられた子犬の様に。
だが遠慮はしない。私はその胸倉を掴み上げて、死徒の体を宙づりにする。
「ひぃっ……!?」
「で、喋ってくれないかな。貴方たちの『頭』は何処に居るの?」
「そ、そんなの、言え――――」
頭を地面に叩き付ける。
殺す気で行われたそれは一切の間違いなく頭部を潰し、中にある脳漿をぶちまける。
しかしそこは流石死徒。一分かからず元通りに戻る。
「や、やめ――――」
もう一度潰す。高所から落下したトマトの様に潰れる。
そしてまた元通りになる。
「ま――――」
潰す。
戻る。
「わ――――」
潰す。
戻る。
「――――」
潰す。
戻る。
潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。潰す。戻る。
何時間その作業を繰り返し、飽きてきた頃に手を止めてみる。
潰れた頭部を治した死徒は青ざめた顔のまま動かない。死んだわけでは無いのだろう。
そして私はもう一度その胸倉を掴み上げた。
「教えて? ね?」
「は、い…………」
憔悴しきった死徒は拷問の効果覿面だったのか、面白いくらいぺらぺらと情報を吐いてくれる。
ここフランスに居る死徒たちは一人の真祖から派生し、その社会を構築している。
その長となるのが『
最上位の吸血鬼のみが所持することを許される『黄金』の魔眼を持つ真祖。
その彼女を長として管理され構築された組織体制なため、彼女が消えれば自然的に空中分解するそうだ。しかし、そんな不安定な体勢を強引にとはいえ成立させるほどの腕前。それは彼女が相当強力な存在であるという証である。
中々の難敵になりそうだ、とため息交じりに呟く。
「い、居場所は、わかりませ、ん。わ、我々はただ『幹部』を通じて命令を受けているだけの下っ端で」
「じゃあその『幹部』の居場所全部喋って。喋れ。直ぐに」
「は、はいぃぃいっ!?」
面倒事に頭に痛ませながら、死徒の口から出る地名を残らず頭に刻んでおく。
用済みになった死徒を『
疲れた。
ああ、腹減った。
「……どうやら、まだ帰れなさそうだよ。アル」
どこに居るかもわからない我が妹に謝罪しながら、私はふらふらと森を抜けるために足を動かす。
死徒め…………絶対に一匹残さずミイラにしてやる……。
憎悪の籠った呪詛を呟きながら、私はまたもや死徒狩りを再開することとなった。
その活動は――――フランス各地で起こった原因不明の爆発事故という形で現れ出すこととなる。
面倒くさい女に好かれる女主人公。主人公はレズじゃないよ。ホントウダヨ。
因みに今の主人公の強さは円卓の騎士とタイマンできるぐらいです。RPGに例えるなら円卓が平均レベル50だとして主人公は60って感じ。時間と経験と才能がなせる業だね。
さて、一体どこまで強くなれるのだろうか・・・?
追記・誤字を修正しました。あと表現追加。