Fate/argento sister   作:金髪大好き野郎

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遅くなってすみません。

一応遅れた理由、ていうか筆が遅くなった理由をぶっちゃけますと、風邪ひきました。
現在頭痛と発熱と関節痛に加えて胃痛と嘔吐感、下痢までサービスされています。クソが。過去最大級に絶不調です。痛みで起きたまま一晩過ごして昼クソ熱い中寝るってホント地獄ですね。

まともに書けるような状態では無かったのですが、とりあえず完成一歩手前の今話を仕上げて暫く休載しようと思います。冗談抜きでキツイです。何というか、既に書くのがストレスになってきたレベルです。本当に申し訳ありません。もしかしたら息抜きで別作品書くかもしれませぬ。それはFateだろうけど。ていうか私Fateしか書けない(泣

というわけでまぁ、長らくお待たせしましたチートVSチート。感情のまま書きなぐったような内容ですが、どうぞ。

あ、今回戦闘オンリーです(今更

追記
少し間違いがあったので修正。

追記2
ツッコまれたので隕石のサイズを修正。数百メートル×複数は流石にやり過ぎたぜ・・・


第二十六話・現代神話決戦

 冬木の空が照り輝く。が、それは太陽の光でもなければ月の光でもない。それは――――爆発。

 

 雲を裂いて黄金の舟と銀色の竜が飛翔する。

 

 黄金の舟――――ヴィマーナから放たれるのは120丁もの宝剣宝槍。一撃一撃が致命足りえるそれは魔力によって射出・加速され銀の竜の肢体を貫かんと迫る。しかしそれは触れる前に全て虚空の孔に呑み込まれ、別の穴から反対方向へと射出。撃ち出した本人へと迫っていく。

 

 それを見てヴィマーナの玉座に座するギルガメッシュはフッと笑い、新たな宝剣宝槍を出し、迎撃。衝突によって砕け散った宝具群はその場で内包した魔力を解放し、爆散する。冬木を照らす謎の光の正体はソレであった。

 

 今回のでこのやり取りは17回目。千丁以上の宝剣宝槍が宙で無残に爆散している。にも拘らず所有者であるギルガメッシュは未だ笑みを浮かべたまま。所有物を壊していいほどこの戦いに『愉しみ』を見出しているのかもしれない。そうでもない限り、彼が己のコレクションを自分から壊すなどあり得ない。

 

「やはり『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』は通じないか! そうでなくては困る! もっとこの我を愉しませよ、キャスター!」

「こっちはこれっぽっちも楽しくないんだけど――――ねェッ!」

 

 竜に跨るアルフェリアの周囲に数百もの魔力砲台が出現。一斉に充填(チャージ)を開始し、数秒かからず準備完了。一斉に魔力の塊が発射される。その様、魔力の壁。

 

「面白い」

 

 ギルガメッシュは玉座のひじ掛けを指でこつんと叩き、ヴィマーナを加速。物理法則を無視した機動を披露しながら、彼は数百もの砲撃を軽々と回避してのけた。披露したのはジグザグとした直角機動。一体どんな原理で動いているのかと吐き捨てたくなる。

 

「なら――――ハク、『竜王の息吹(ドラゴンブレス)』!」

『オォォォオオオォォォォオォオオォォオオオオオオオオオオッッ!!!!』

 

 主の指示を受けて白銀の竜――――ハクの口の中に膨大な神秘の奔流が生まれる。放つは竜種が最も得意とするブレス攻撃。しかし幻想種の頂点たる竜種の最強を誇るハクの一撃は他の竜種の追随を許さない。それこそ原初の竜だと恐れられるリヴァイアサンでもない限り。

 

 

 ――――顎が開かれ、銀色の閃光が迸った。

 

 

 空を射抜くは一条の極光。星の一撃すら押し返す光の奔流は黄金の舟めがけて一直線に伸びる。

 が、流石のギルガメッシュも余裕な顔でこれを受けるわけにはいかない。ランクにしてEXに達している竜種の全力の一撃など本来の搭乗者が乗らないヴィマーナ程度が耐えられるはずがないのだから。

 

 すぐさまヴィマーナを旋回し回避するギルガメッシュ。そのすぐ真横を白銀の光が過ぎ去る。

 

 しかし――――最強の竜がそれで終わる筈がない。

 

 ハクは避けられたのを見て、その方向へと首を薙いだ(・・・)。それに合わせて吐き出される閃光もまた払うように薙がれる。

 

「何ッ―――!?」

 

 間一髪で回避するギルガメッシュ。即座に上昇することで底部へと掠らせるだけにとどまったが、まだまだ攻撃は終わらない。

 薙ぎ払うように放たれた閃光に空気が謎の化学反応を起こし――――大連鎖爆発。大空に幾つもの大火球が形成され、それは容赦なくヴィマーナを呑み込んでいく。まるでインド神話のブラフマーストラ(ガンマ線バースト)。竜王の一撃を躱すには、ヴィマーナは少々力不足だった。

 

「くっ、味な真似を……! が、これも一興! 貴様との闘争、実に味わい深いぞキャスター! フハハハハハッ!」

「うっわぁ……これでも墜ちないとか、ちょっとしぶと過ぎだよ……。はぁ、こっちは余裕ないって言うのに」

 

 そう言いながらアルフェリアは頭を抱える。直ぐにでも妹を保護しに行かなければならないのにこんな男のお遊びに付き合っているのだから頭も痛くなる。しかも無駄にしぶとい。溜息しか出なかった。

 

 黄金の波紋が宙に浮かび上がり、中から色とりどりの武具が顔を出す。その数137。警告なしでそれらは一斉に射出された。大きく羽ばたく銀の竜。一度その翼を動かすだけで瞬間的に時速数百キロを突破し、傍目から見て瞬間移動じみた動きでそれらを回避していく。そして先程と同じく虚数空間に吸収され反射。それをまた迎撃。爆発。終わりが無い。ギルガメッシュの財が尽きるまでこのやり取りは終わらないだろう。これでは一晩中鼬ごっこをするはめになる。

 

 物理法則を無視した動きでドッグファイトを繰り広げながらも、一度深呼吸し呼吸を整えるアルフェリア。そして彼女は左手の『吸血剣(ブラッドイーター)』を槍投げをする様に構え、限界まで引き絞る。

 左腕に付与する魔術は身体強化。大量の魔力を一極集中させ、バギバギという筋肉が硬化していく異音が聞こえる。蠢く血管、皮膚の表面から許容限界により漏れ出す魔力が青い蒸気を作り上げる。

 

「行けッ――――――――!!」

 

 強化された膂力により爆発的な加速を実現。『吸血剣(ブラッドイーター)』は空気を裂いて猛進する。そしてUFOの如き複雑怪奇な動きを繰り広げるヴィマーナを追いかけ始めた。

 さながらそれは赤い閃光。幾何学機動を描きながら訓練された猛犬の如く、何処までも標的を追尾し続け――――ついにヴィマーナの船体にその刃を突き立てる。

 

「ぬぅッ……!?」

 

 衝撃により揺れ傾く船体。それでも撃墜されるほどの者では無い。

 当たったのがただの剣ならば、の話だが。

 

 ヴィマーナに突き刺さった『吸血剣(ブラッドイーター)』の刀身から血液が溢れ出す。それは今まで吸い殺してきた死徒と言う神秘の塊の中で熟成された代物。それは蔦の様にヴィマーナの表面を這い、数舜で船体全体を覆い尽くした。ギルガメッシュもまた、玉座に血の蔦で縛り上げられている。

 

「……フン、この程度の拘束で我が音を上げるとでも?」

「思ってないよ。ま、本番はこれから、ってね。――――鎖よ(Chain)!!」

 

 宣言すれば、ヴィマーナを覆う蔦の一部が巨大な鎖へと変形しこちらへ飛んでくる。が、それに敵意は無く、すっぽりとハクの手に収まった。ハクはその鎖を軽く引っ張り強度を確かめ――――ニヤリと悪い笑みを浮かべる。

 

 瞬間、ギルガメッシュが何かを察したように引き攣った笑みを浮かべた。

 

「キャスター貴様、まさか――――!?」

「もう遅い! ハク、全力で急降下(・・・)!!」

『オォォオオォォオ!!!』

 

 鎖を握ったまま白銀の竜は地表へと羽ばたいた。その秘めたる力はヴィマーナを引き摺るには十分。一瞬にして黄金の舟は鎖に引っ張られて地面へと墜落を開始する。

 

「ぐっ、ぉぉぉおぉおおぉぉぉぉおお!?!?」

 

 ギルガメッシュに襲い掛かる急激なG。常人ならば内臓破裂で惨状を広がらせていても可笑しくない衝撃を生身で耐え切りながらも、その重圧は今だ収まらず。

 ミシリミシリと軋み始めるヴィマーナの船体。そしてそんな物を無視して急降下を続けるハクとアルフェリア。追い風に吹かれながら、二人はある場所――――冬木市郊外。アインツベルンの森へと直進する。あの場所は少なくとも広大であり、多少爆発が起こってもあまり周囲に被害が及ばない。

 

 ヴィマーナを落とす(・・・・・・・・・)には格好の場所――――!

 

「いっけぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええッッ!!」

『グルァァアアァァアアァァアアアアアアアアアアッッ!!』

 

 急降下するハクは急遽軌道変更。アルフェリアの慣性制御の魔術を併用しながら全身全霊で翼を動かし勢いを相殺しながら慣性を捻じ曲げ、地表すれすれの場所で滑空することに成功する。

 しかし、鎖に引っ張られているだけのヴィマーナは違ってくる。ギルガメッシュの操作もままならず、黄金の舟はそのまま真下へ落下。

 

 

 ――――結果、空を飛ぶ奇蹟の舟は地面に叩き込まれることとなる。

 

 

 響き渡る轟音。立ち上る巨大粉塵。空から降る豪雨染みた土塊。

 

 黄金の舟は見事クレーターを作り、その中央に没した。あの巨体であの速度だ。衝突時に掛かった負荷でコントロールは既に不可能になっているだろう。何もないことからも恐らくギルガメッシュも気絶したのだと思われ、「終わったか」とため息を吐いて呟いたアルフェリアは直ぐにこの場を立ち去ろうとした。

 

 彼女の目的は彼を倒すことでは無い。それより優先するべきことがあるのだ。故に簡単に気を抜いてしまい、『それ』に気づくのが遅くなる。

 

 

 

 

 

 運命(Fate)は三文劇を許さない。

 

 

 

 

 

 巻き上がる粉塵が爆ぜた。中から何かが爆発したように、渦巻く赤い旋風(・・・・)が煙や塵、それだけでなく薙ぎ倒された木々まで吹き飛ばしながら地表へと顔を出す。

 

 

「――――フハハハハハッ!! まさかこの我を地へと落とすとは! 何とも苛烈なやり方だ! だが許そう。この我は寛大だ」

 

 

 高笑いと共に姿を見せたのは、自慢の黄金の鎧が上半身部分だけ無くなったギルガメッシュ。その高く掲げた右腕に三本の筒を束ねた様なナニカから赤い旋風をまき散らす彼は、実に愉快で愉しそうであった。

 

 その異形の道具は――――『剣』だった。いや、剣では無い。カテゴリこそそれに充てられているが、その存在は剣と言う概念が生まれる前に誕生した代物であり、無銘にして最強の武器。三つの筒は『石板』。天・地・冥界を現したそれはそれぞれが別方向に回転することで世界の在り方を示し、それら三つを合わせて宇宙を現している。

 

 世界を現す無銘の剣。だが所有者たるギルガメッシュはこう名付けた。

 

 乖離剣エア、と。

 

 回転する三つの筒から漏れ出る赤き暴風は全てを切り砕く破壊の力。世界すら断って見せた究極の一は、余波だけで国一つを滅ぼしかねない危険性を放ち続ける。

 風に触れた物質が塵も残らず分解される。触れるだけで全てが消える様は、まさしく『絶対』。人類の裁定者たるギルガメッシュにこれ以上相応しい武器は無いだろう。

 

 

「そして、これは褒美だ――――貴様に原初の地獄(・・・・・)を見せてやろう…………!!」

 

 

 乖離剣の回転が早まる。火花が散り、暴風が荒れ狂い、全てを破壊する時空断層が生まれ出る。

 筒一つだけで街を軽く滅ぼせる地殻変動級のエネルギーを秘めているというのに、それが三つ合わされば一体どんな惨状を引き起こすか、想像に難くない。

 

 誕生せし力は最強の一撃。全てを滅ぼす神罰の如き一撃は、今救国の聖女へと向けられる――――!!

 

「星造りの権能……対界宝具……!!」

「さぁどうする? 避けるか? それもいいだろう。貴様の後ろが二度と復元できぬ地獄に変わっても良いならなァ!」

「っ…………これは、ちょっと、不味いかも………?」

「フハハハハ! エアよ! 貴様に相応しき獲物がここに居るぞ! いざ蹂躙の時だ!」

 

 流石のアルフェリアも「不味い」と漏らした。と言うより、アレの直撃を喰らって生きていられる生物などそれこそアルテミット・ワン程度だ。全盛期の自分ならともかく、サーヴァント化した自分ではどうあがいても防御は不可能だろう。迎撃も副次的に生じている暴風のせいでほとんど意味を成さない。

 

 対抗手段は、ある。しかしそれを使うには今の状態では余りにも魔力が足りない。他所から持ってくるにしても、乖離剣が周囲の大源(マナ)を滅茶苦茶にしているせいで外部からの収集は不可能。ならどうすれば――――

 

 

 

 ――――機は満ちる。考えることができる時間を、これ以上英雄王は与えない。

 

 

 

 空高く舞い上がる英雄王。全てを見下ろすように天へ降臨した絶対王者はその手に持つ『力』を掲げる。この場所を生命の存在を許さない焦熱地獄へと変えんが為――――

 

 

「元素は混ざり、固まり、万象を織り成す星を生む――――さぁ、死に物狂いで耐えるがいい」

 

 

 ついに、世界を断つ剣は振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     「――――――――『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅い風の断層が森を蹂躙する。

 触れればそこは既に煉獄。絶対破壊の奔流が全てを食い尽くすように、呑み込むように蹂躙し、何もかもを吹き飛ばした。それでも飽き足らず世界を断つ乖離剣は猛威を振るい続ける。

 

 ()って()って()って。(けず)って(けず)って(けず)って――――破壊の暴風は一瞬にして地上を焦土へ早変わりさせた。

 

 出来上がったのは半径数キロの巨大クレーター。隕石にでも衝突したように派手に抉れた地表は摩擦熱により超高熱にまで熱されており、どんな生物も近づくことを許さない。まさに地獄。万物を破壊する無慈悲の旋風は、見事に森を切り拓いてしまった。これで制限付き(・・・・)なのだから、『天の理(本気)』の場合どれだけの被害が出るのか想像するとぞっとする物がある。

 

 そんな地獄の上に健在の影が二つ。

 

 一つは体中に傷を作っている巨大な竜。もう一つは、その竜に庇われるような形で倒れている女性。言うまでも無く、あの一撃を耐えきったハクとアルフェリアである。

 

 普通なら耐えられなかった。間一髪でアルフェリアが全ての叡智を総動員して作り上げた幾重の魔術障壁と『忘却されし幻想郷(ミラージュ・アヴァロン)』という守りの盾、ハクという最上級の竜の守護が無ければ滓も残らず分子レベルにまで分解されていた。

 

 ただの巨大な攻撃ならば虚数空間内に逃げ込み回避もできただろう。だがアレは空間を引き裂く攻撃。周囲の空間など既にずたずたに引き裂かれており、これでは虚数空間は展開できない。つまり、英雄王が乖離剣を使う以上彼女の切り札の一つでもある虚数魔術は使用不可になっているのだ。

 これはかなりの痛手だった。もし使えていたのならば、今すぐ英雄王の後ろに回り込みその首を撥ね飛ばすこともできたというのに――――

 

「ッ――――ハク! 無事!?」

『……す、すみま、せん。アルフェリア、様。これは少し、厳しい、です』

「馬鹿! どうして無茶したの!」

『例え……例え貴女様が分体であろうと、私に取っては大切な、主人です。守らない理由は、ありません……!! それにもう、あの時の様に貴方様を守れないまま置いて行かれる(・・・・・・・)のは…………御免です』

「…………ハク」

 

 既に彼女の体はボロボロだった。幾分減衰されたとはいえ対界宝具の一撃。それを正面から全身に浴びてしまったハクの体は既に限界一歩手前だ。世界の裏側に居た頃の彼女ならば例え英雄王相手でも十分に猛威を振るっていただろうが、表の世界に出たことで弱体化してしまった彼女にあの一撃を耐えられるはずもなかった。むしろ、生きていたことが奇跡と言ってもいい。

 

 辛うじて心臓などの内臓は無事だが、本格的な治療を施さねば指一本動かすことすらままならないだろう。

 主人を守れたことは誇りに思える結果であったが――――この瞬間、約勝の銀竜はもう二度と付けられて堪るかと吐き捨てていた黒星を付けられる屈辱を味わってしまう。相手があの人類最古の英雄王ならば、仕方ないのかもしれないが。

 

『イチャついてるところ悪いんだけど、早くしないと串刺しになるわよ』

「別にイチャついてないよ。……ハク、もう少しだけ力を貸してもらえる? 貴方に負担がかかるからあの方法(・・・・)はあまり使いたくなかったんだけど……」

『大丈夫です。心臓は無事なので、問題ありません』

「……ごめんね。直ぐに終わらせるから」

 

 アルフェリアがハクの頭を軽く撫でると――――途端、ハクの巨体が光の粒子へと変化していく。溢れんばかりに光りを放つ粒子は一粒一粒が光に照らされた宝石。水のように粒子はうねり回りながら、アルフェリアの体を包んだ。

 

 彼女の体内に吸収されていく光。神秘の凝結は今その身を主へと捧げる。

 

「――――ほう……竜王の身をその身に取り込んだか、キャスター」

 

 ギルガメッシュの言う通り、アルフェリアはハクという幻想種を取り込んだ。その体をエーテル体へと変換し、自分の体に溶け込ませるようにして簡易的な『融合』を果たしたのだ。

 結果、今の彼女は限定的に『竜種』へと昇華されている。とはいえ、今その効果が発揮されているのは『心臓』だけであるが。

 

 当然だ。体全体を適合させるには時間が無さすぎるし、下手すればもう二度と分離できない可能性が生じてくる。魔術による強制存在融合術。魂は乖離させたまま肉体面だけを融合させることは非常にデリケートだ。肉体とは魂の入れ物。それが混ざるという事は魂の融合に他ならない。しかし融合してしまえば、その魂は融合前の二つとも違う『何か』に変貌し――――もう戻れなくなる。

 

 それを防ぎながらの肉体だけの融合。普通の魔術師ならば脳がパンクしていることを、アルフェリアは少しだけ苦しい顔しただけでやってのけた。流石希代の魔術師と謳われるだけはあるか。

 

 しかしそれでも『反動』と言う物は存在する。それは『効果が出ている器官への著しい負担』。つまり全身に効果を適応させてしまえば、融合を解除した瞬間全身を途轍もない反動が襲うことになる。実戦で使うにはそれはあまりにも欠陥だらけであった。

 証拠として、アルフェリアがハクと融合したのは今のでやっと『二度目』だ。

 

 効果は大きいが、反動が大きすぎる。

 そんな欠陥術式ではあるが――――この場を覆すには、もうそれしかない。

 

 竜の心臓が動き出す。因子を後天的に植え付けただけの心臓では無く、最高位の竜種の持つ最高級の魔力炉心。体から溢れんばかりの魔力が吹き荒れ、その身に魔力を満ちさせていく。余裕で単独での現界が可能なほどの魔力だ。

 これだけあればあの剣(・・・)を使うには十分な魔力が確保できる――――

 

 

 

「――――舞台は整ったよ、『夢幻なる理想郷(アルカディア)』」

 

 

 

 暴風と共にその剣は現世へ降臨する。

 ガラス細工の様な精巧で脆そうな剣だった。しかし一見すれば伝わってくるのは何百年も撃ち続けた刀剣の如き鋭さと堅強さ。十字架を模した一本の白銀の剣は全てを圧倒する威圧を纏いながら担い手の右手に収まる。

 

 それを見た英雄王は驚喜する。

 自身の蔵にも存在しない、世界でただ一振りの『剣の神』とそれを担う女を心の底から称えたのだ。

 

「クッ、ハッハッハッハッハッハッハ!!! 神々め、最後の最後に最高傑作を作り上げたか! 自身たちの権能の残滓を集合させた神造兵器! そしてそれを担う神造人間(・・・・)! 出来過ぎた筋書ではあるな!」

「……神造、人間?」

「――――ああ、そう言えば貴様は自分の出生を知らぬようだったな。いいだろう。ここまで我を愉しませた礼だ。教えてやろう」

 

 高らかに笑う英雄王。感情を抑えきれないのか今まで以上に彼は笑みをその顔に浮かべていた。この闘争に、対話に、それほどの価値を見出しているという事か。

 が、彼女も彼の言う事を無下にするほど馬鹿ではない。それに気になってはいたのだ。己の出生とやらが。

 

 ならば一見の価値ぐらいはあるだろうと思い、彼女は彼の言葉に耳を傾ける。

 

「今この世にはとある男が生きている。亡霊の如き魂ながらも『生きることを強いられている』男がな。その男の名はアダム(・・・)。凡そ五千年間もこの現世で生き長らえている『原初の人間』だ」

「アダム……」

 

 その名は最近聞いたことがある。

 

 五千年も生き続け、何故かはわからないが人類史の崩壊を望んでいる原初の人間。現在抑止力の対象ともなっている超級危険人物である。しかしどうして今その男の名前が出てくるのか、とアルフェリアは首を傾げた。

 

 後に語られる言葉が真実ならば、その名が出てくるのは必然であったが。

 

「彼の者が三千五百年ほど生き続けた頃か。神代が終焉してから五百年、既に信仰は薄まり己の権能を振るうことすらできなくなった神々は彼の者を恐れた。『何時か人々に自分たちへの信仰を完全に断たせるのではないか』とな。

 何故そう思ったか? 単純だ。神々どもは彼の者に呪いをかけた。とある条件がそろわねば『死ねない』呪いをな。その復讐として自分たちを殺すのではないかと心底ビクビクしていただろう。実にお笑い物だ」

 

 そういうギルガメッシュは実にうんざりとした顔をしていた。彼自身、神の呪いの厄介さと神のどうしようもなさをよく知っているからだろう。何せ『呪い』で彼は自身の唯一の親友を失ってしまったのだから。

 

「その『対抗策』として彼らは自分たちの力を可能な限り振り絞り、ある物(・・・)を作り上げた。原初の人間に唯一対抗できる者。同じ神造人間(どろにんぎょう)を。

 が、神代は既に終わりを告げている。神の時代が終わりを告げている以上、既に神々に現世へ干渉できる力は残されていない。しかし――――神代に近い環境を残している土地がその頃まだ現世に存在していた。ブリテンと言う、神秘の島々がな。そこで神々は『器』を作った。原初の人間の抑止力となる物をな」

「――――まさか」

「そうだ。勘がいいではないかキャスター」

 

 アルフェリアの顔が固まる。「まさか」と。しかし答えにたどり着いてしまった以上もう否定することはできない。それ以前に彼女自身、その心当たりが多過ぎた。

 

 

 何故自分は目覚めた時、湖の中にいたのか。

 

 何故人を越えた力を努力しただけで簡単に手に入れられたのか。

 

 何故、神剣を担うことができたのか。

 

 

 その答えは――――

 

 

 

「アダムに対抗するために創られた最終製造の神造人間。それが貴様の正体だ」

 

 

 

 神の作りし人間。泥から作られた神の人形(ゴーレム)にして神という物の模倣品。

 それが、アルフェリア・ペンドラゴンという者の正体であった。

 

「しかし神の姦計通りに人形は動かなかった。原因は神の作りし器に耐え切れるほどの魂を制御できるほど、既に神々の力は残されていなかったからだ。

 ……そもそもどうやってそんな魂を創れた? いや、持ってきた(・・・・)、か? ……まあよい。そして、作られた人形は己の意思のままに動き続けた。用意された役目など捨て去ってな。……どうだキャスターよ、自身の正体を聞いて何か思う事はあったか?」

「……思う事、かぁ。うん、まぁ……特にないかな」

「…………ぬ?」

 

 予想外の答えが返ってきて英雄王は小さく唸った。彼の予想では戸惑う彼女の姿が眼下に広がっていただろう。しかし実際には戸惑いどころか動揺すらあまり感じられない。

 が、当然ともいえる。

 彼女は、この世で最も自分の存在に価値を見出さない者だったのだから。

 

「自分が人間じゃない、って言われたのはちょっとだけショックだったけどさ。でも私は私だよ。家族が好きで、あの子達の笑顔が好きで、死ぬまで精一杯頑張った――――それが私。例えこの身が泥人形のソレだろうが、私の人生に偽りなんてない。私は私が決めた道を突き進んだ。……それだけで私には十分すぎるよ」

「……クッ、クククハハハハハハハ! 何と芯の強い人間か! 愛い、愛いぞキャスター。益々お前を物にしたくなってきた。本来の我ならばありえぬ二度目の求婚だ。心して聞け。――――我の物になれ、キャスター。我の全てを以て愛でてやろう」

「んー……その言葉は有り難いんだけどさ。正直に言ってね――――」

 

 アルフェリアは一歩、一歩だけ踏み出した。

 

 瞬間全ての空気が凍り付く。かつて星をも斬り裂き世界に恐れられた真性の規格外。そんな彼女の全開の殺気が今濃密に、撫でまわすように広がっていく。

 白銀の神剣が唸る。その身に纏う『絶対切断』の権能の前ではあらゆる防御は紙くず同然。

 

 つまり――――今の彼女に斬れぬ物など存在しない。

 

 世界を斬り裂いた剣が起こす風であろうとも。

 

 

 

「貴方、タイプじゃないんだよね」

 

 

 

 盛大に英雄王の告白を振り、不敵な笑みを浮かべるアルフェリア。

 

 二歩目を踏み出す。瞬間、彼女の姿が消えた(・・・)。空間転移では無い。乖離剣が斬り裂いたこの空間一帯ではそんな物もう不可能になっている。ならばどうやって消えたか。不可視化か? 変化か? いいやどちらも違う。

 

 知覚できない速度(・・・・・・・・)で動いただけだ。

 

 爆発的な衝撃波をまき散らしながらアルフェリアは一瞬でギルガメッシュの背後へと回り込んだ。まさに一瞬。百数十メートルの移動に一秒すら要さない、人知を超えた速度。莫大な魔力によって強化された身体能力は瞬間的にEXを記録し、知覚できない速度での移動を可能とする。この領域まで来ると既に空間転移と大差ない。

 

 背後に回られたギルガメッシュは彼女の答えを噛みしめながら、それでも笑みを崩さず乖離剣を振りかぶる。

 

「――――強情な女だ。しかし、それでこそ物にし甲斐がある!」

 

 異形の剣と白銀の剣が衝突する。

 

 世界を斬り裂いた剣と星を斬り削った剣。どちらも優劣は付けられない。互いに『最強の矛』を冠する至上の宝具。それはぶつかり合い、互いに斬り裂けないという矛盾を孕み出す。どちらも普通の剣や並の宝具ならばまともに打ち合えば破壊される超級宝具。しかし二つの剣には罅一つ入っていない。

 両方とも『最強』故に。

 

「いいだろう! それではこの英雄王の武力を以てお前という存在を制する!」

「つまり?」

「我が勝った暁には我の女になれ」

「思いっきり振ってやったのにまだ諦めないの?」

「申し訳ないが、我は欲しいと思ったのならばどんな手を使ってでも手に入れる性質でな。そして、相手が抵抗すればするほどその欲望は燃え上がる……!」

「ホント厄介な男ね貴方……!」

 

 乖離剣の筒が回転し始める。赤色に染まった暴風が漏れ出し、周囲の空間を蹂躙する。触れあっている神剣の刃もガリガリと擦られていく音が甲高く響き始め、摩擦で起こる花火が二人の姿を夜空で照らした。

 

 旋風がアルフェリアに襲い掛かる。鍔迫り合いになっているため避けられない――――かと思いきや、風はあっさりと斬り裂かれて彼女を避けていった。無論偶然などと言う物では無い。彼女の持つ神剣から放たれる権能を含んだ風。それが乖離剣の攻撃を斬り裂いているのだ。その風もまた英雄王へと襲い掛かっているが、乖離剣の風で遮られる。

 

 平行線。それが現状を表す言葉に相応しい。

 

 しかし何時までも膠着状態のままで我慢して居るほど我慢強い英雄王ではない。彼が左手の指を鳴らすと、アルフェリアの直上に幾つもの黄金の波紋が生まれ出す。

 それはギルガメッシュの宝具『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』。無限の宝具(弾丸)を収めるその宝具は数百もの宝具の切っ先を彼女へと向けていた。

 

「『王の(ゲート・オブ)――――」

「ちぃっ――――!」

「――――財宝(バビロン)』!」

 

 舌打ちしながらアルフェリアは英雄王の乖離剣を強引に弾き飛ばし、魔力放出で後方へと飛ぶ。直後彼女の居た空間が無数の宝剣宝槍に撃ち抜かれた。いくら無尽蔵の魔力源を手に入れたアルフェリアとて、あの雨に直撃するのはかなり不味い。

 

「ほれほれどうした? まだまだ我の財はあり余っているぞ、アルフェリア・ペンドラゴン!!」

「くっ…………!」

 

 英雄王の背後に過去最大級の波紋が展開されていく。その数凡そ数千。クレーターになったこの一帯を更に穴ぼこだらけにするつもりのようだと吐き捨てながら、アルフェリアは『吸血剣(ブラッドイーター)』へと魔力を送り込んでいく。

 

 夢想(イメージ)する。無限の武器を。あの物量に対抗できる構図を。

 

 

「『紅血啜りし破滅の魔剣(ダーインスレイヴ・オマージュ)』」

 

 

 蜘蛛の巣を張る様に、血液が宙に広がっていく。何度も枝分かれして、空を埋め尽くすように。

 広がった血液の枝から何本もの剣や槍が血で形成されていく。死徒の血液で作られたそれらは一級の宝具にはとても及ばないが――――露払い程度ならば及第点だ。

 

 

「「行けッ!!」」

 

 

 同時に合図が下される。

 

 始まったのは無数の金属音の狂乱であった。何千もの剣と槍が刃を交えて壊れゆく。芸術性の欠片も無い雑音は空を包むように四方八方へと轟いて行く。

 

 負けているのは勿論血で作られた武器たちの方であった。例え死徒の血で作られていようが結局は血。英雄王の収める財宝には遠く及ばない。当然だ。神秘の濃度が違いすぎる。物量も、質も、圧倒的に負けている。それはアルフェリアとて承知している。英雄王の財の量と質に適うわけがない。

 だがこの血の武器たちを出した目的は物量戦をするためでは無い。これは時間稼ぎであり、目暗ましであるのだから。

 

「――――ギルガメッシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

 破壊の剣戟が広がる空間の中をアルフェリアは突貫していく。その先に居るギルガメッシュを斬り捨てるために。

 自分に向けられる常識外の威圧に汗をにじませながらも英雄王も全力で迎撃をする。『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』から絶え間なく撃ちだされる無数の宝剣宝槍。一撃が致命傷となる神秘の塊は高速で撃ちだされて――――すぐさま殆どが血の剣や槍に撃ち落された。残った数十の宝具も撃ちだされた後に一瞬もかからず全てアルフェリアの手で直々叩き落される。

 

 瞠目する英雄王。馬鹿な、と呟くことも忘れ彼は目の前に広がる光景を再分析する。

 

 確かに血の剣や槍は脆い。Bランク宝具でも簡単に粉々になるレベルだ。

 だが、アレは何でできている? そう、『血』だ。『液体』だ。破壊されても血液に戻るだけなのだ。それは、つまり――――破壊されても瞬時に再形成できる、という事であり、どれだけ破壊しようが宝具の雨の間を掻い潜ってくる以上その進行を妨げることは困難という事でもあった。

 

 物量でも質でも敵わない。しかし『性質』ならば対抗できる、と言うわけだ。

 

 ただの目暗ましだと侮り、『慢心』していたが故の失態。不味いと踏んだ英雄王は即座にその手に握る乖離剣を回転させ始める。その動作が一瞬でも遅れていたら、この時点で決着はついていた。

 

「オォォォォォオオオォォオオオォオォッ!!!」

「――――ッッ!?!?」

 

 文字通りの神速の一撃。英雄王は生涯培ってきた経験の全てを動員しその攻撃を乖離剣で受け止める。

 だが悲しいかな、その一撃を受け流せるほどの技量を英雄王は持っていなかった。結果、ミシリという嫌な音が英雄王の右腕から発せられる。筋力A++、更にそこへ魔術による強化が乗った一撃。拳で山一つを消し飛ばせるほどの怪力だ。耐えられるわけがなかった。

 

 爆発を受けたように英雄王は高速で地表へと吹き飛ばされる。森に生えた木々を巻き込みながら地面を抉り進み、数百メートル先でようやく失速することができた。

 無事とは言い難い状態ではあったが。

 

「ま、さか……この我をここまで追い詰めるとは、な…………!」

 

 財宝の中から湯水のように『完全回復薬(エリクサー)』を体に掛けながらギルガメッシュは立ち上がる。おかしな方向に曲がっていた腕もすっかり元通り。修復された右腕の調子を確かめる様に乖離剣を素振りしながら、英雄王は空を見上げる。己を見下ろす白銀の天使を。

 

「我が他の存在を見上げたのは『天の牡牛(グガランナ)』以来か? 全く、貴様はつくづく我を驚かせてくれる!」

「――――■■■■■(Natura irae)――――」

 

 アルフェリアは有無を言わず空っぽの手を空に掲げる。口から紡ぐは神代の言葉。現代の人間では聞き取ることすら困難を極める高速神言は今世に奇跡を、かつて『魔法』と謳われた神秘の極地を、今ここに現すのだ。

 

 ――――天変地異(・・・・)という形で。

 

 地震、台風、落雷、津波。ありとあらゆる自然の暴力がギルガメッシュへと襲い掛かる。膨大な魔力と複雑怪奇な術式により実現された自然災害(ナチュラル・ディザスター)。一人の手によってこの世に降りた人類を蹂躙する一方的な災厄は『英雄』を殺すためにその規模を拡大していく。

 

 人間業では無かった。いくら竜の心臓と言う魔力源があるからと言って一人で自然災害を誘発するなど。が、アルフェリアはそれを可能とした。過去に培った知識を駆使し、この場所に降ろしたのだ。『神の怒り』を。

 

 規模が幾分小さいとはいえ、既にその魔術は権能の一歩手前に迫っている。何という、出鱈目さだろうか。

 

「成程、魔術師(キャスター)の名は伊達では無かったという事か。いやはや、まさに『生きた災害』。星が恐れるのも納得する。――――だが、その程度の災害程度この我が払えぬとでも思ったか!」

 

 歓喜の高笑いを上げながら英雄王は乖離剣を天に掲げる。

 彼の意思に応え乖離剣の筒は回転し、生み出された紅い暴風は天変地異を斬り裂いた。原初の地獄を体現するこの剣の前では地震だろうが津波だろうが遊戯に過ぎない。

 

「この我を倒したくば隕石でも持ってくるのだなキャスターよ!」

「あらそう。じゃあ持ってきてあげる」

「――――は?」

 

 予想もしなかった答えに英雄王の顔が一瞬固まり、彼はすぐさま自身の頭上を見上げた。

 

 一体どこから現れたのか、直径十数メートルを越える巨大隕石が群を成して地上に降りかかろうとしている。いくらサーヴァントに物理攻撃が効かないと言っても限度と言う物は存在している。流石の英霊でも隕石が直撃すれば死は免れない。

 

 顔を引きつらせながら英雄王は乖離剣を引き絞る。狙いは隕石群。乖離剣を以てすれば例え直径数キロの隕石であろうが迎撃可能。

 

 

「死して拝せよ――――『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』ッ!!」

 

 

 紅蓮の閃光が空を駆け上がってゆく。

 高速で地表へと衝突しようとした隕石群は一瞬にして跡形も無く分解され、辛うじて残った破片は雨の様に地表へ降り注ぐ。どこかでクレーターが出来た様だが、そんなもの英雄王の与り知るところでは無い。

 

 英雄王は財にある宝具の力で空中に浮かび上がりながら、隕石に気を取られて視線を外していたアルフェリアへと向き直る。そして「どうだ? 我の雄姿は?」と言い放とうとして口を開け――――唖然として、直ぐにニヤリと嗤う最古の英雄がそこには居た。

 

 神の威光の如き光輝を放つ白銀の鎧。英雄王の蔵に存在しない至上の神秘を凝縮したソレは装着するだけで身体能力を四倍にまで引き上げ、受ける攻撃を九割遮断する『夢幻なる理想郷(アルカディア)』の真名解放形態。

 

 本来ならば弱体化したアルフェリアでは持って十秒程度。またそのまま魔力が供給されなければ『その先』にある”切り札”は使用不可。余りにも重すぎるコスト故に今まで使えなくなっていたその宝具は度重なる時間稼ぎによって(・・・・・・・・・・・・)ようやく現世で日の目を見る。

 

 星を斬り裂いた究極の一撃が――――

 

 

「天の鎖よ――――ッ!!」

「血の鎖――――ッ!!」

 

 

 黄金の波紋から何本もの鎖が射出される。古代ウルクにて『天の牡牛(グガランナ)』を縛ったとされる鎖。即ち対神兵装。神すら縛りつける鎖はアルフェリアへと襲来する。

 

 神性を持たない彼女からすればただの頑丈な鎖であるのだが、”切り札”を使うために身動きが取れなくなっている今拘束されるのは非常に不味い。最悪、溜め込んだ力が四方八方に散らばって冬木含めた周辺の土地が永久に地図から姿を消す可能性があるのだ。それは避けねばならない。

 

 だから彼女は『目には目を歯には歯を』の理論から『鎖には鎖を』という答えに従い、今だ宙に浮いたままの『紅血啜りし破滅の魔剣(ダーインスレイヴ・オマージュ)』を大量の鎖へと変形させ互いに雁字搦めにさせその動きを封じた。

 こちらの鎖も身動きが取れなくなったが、あちらもまた同じ。英雄王は乖離剣の次に信頼する宝具を封じられて歯噛みする。

 

「――――――――最終封印(サード・シール)解除(リリース)――――『夢幻なる理想郷(アルカディア)』、最大出力形態(ハイエンド・フォーム)、解放!!」

 

 最後の封印が解かれる。

 

 瞬間たださえ彼女の身の丈を越えていた大剣が五メートルもの大きさへと肥大化する。既に人の振るう武器では無くなった。しかしこれが本来の姿(・・・・)。秘めていた力を全て解放した神剣は空間すら斬り裂く風を周りへと無造作に撒き散らしていく。

 

「……美しいな。これが人類が彼方に忘却した神秘の極光か。――――ならば、もう慢心は無しだ。この我の全身全霊を以て、貴様と言う存在を打ち負かそうぞ、キャスタァァッッ!!!!」

 

 三つの筒が回転を始める。今まで以上の速度で回転するそれは、過去最大規模の暴風を生み出し始めた。回避は不能。例え避けられようが冬木と言う地は地獄に変わり、聖杯ごと全てのマスターたちは死滅する。それは即ち全てのサーヴァントの脱落に他ならない。

 元より、撤退など考えていない。そんな選択肢があったならばとっくの前に選んでいるし、一番の危険分子を見す見す見逃すほどアルフェリアも甘くない。『アレは此処で殺す』。最初から決めていたことだ。

 

 アルフェリアの自前の魔力の大半が消え去る。足りない分の魔力は容赦なくマスターから汲み取り、それでも足りなければ体術を使った第二魔法もどきにより平行世界への極小の穴を空けて無理やり確保。そうして集めた魔力の行き先は神剣。担い手に送られた魔力は爆発するように光へと変換され、眩い輝きは空を穿つ。

 

 ギルガメッシュもまた時臣から遠慮なく大量の魔力を吸い取り、更に宝物庫からの最大限の援助を受け乍ら乖離剣を唸らせる。赤色の災害は廻りに廻って全てを薙ぎ払いながらその規模を拡大させていく。

 

 星の聖剣すら軽く凌駕する白銀の極光。

 

 神の作りし泥人形にしか防げなかった地獄。

 

 ”断つ”という事に特化した権能を持つ二つの極撃。互いの一撃は相手がどんな手を使ってでも防ぐことは不可能。史上最強の矛同士は共に牙を剥き、その刃を慈悲無く相手へ突きつける。防げるものか、防げるはずがない。防げるものなら防いでみろ。

 

 アルフェリアはギルガメッシュの事は好いてはいないが、その実力は認めていた。その在り方が暴君であれ、確かに人間を愛す裁定者を『敵』と認めている。だからこそこうして相手の身の危険を気にすることなく絶対殺害の一撃を無遠慮に放てるのだ。

 

 ギルガメッシュもアルフェリアという存在を認め、自身の全力をぶつけるに値する者だと認めている。この世に二人と現れないだろうと断じていた『対等の敵』。そのどちらも泥人形というのは何の因果か。しかし、面白い。実に『愉しい』。すなわち愉悦。彼は最後に己に相対する女の価値を量り切るため、その右手を振り下ろす。

 

 

 この一撃で全てが決まる。ただ一撃、されど一撃。どんな悔いも禍根も、この場所では何の意味も成さない。

 

 

 いざ謳え。現代に生まれし新たな神話の一幕を。

 

 

 

「原初を語れ――――」

 

 

 

 天と地を分けた剣を高く掲げて歓喜の笑みを浮かべる人類最後の英雄王。

 

 

 

「悲劇の幕を引け――――」

 

 

 

 水星の王すら断って魅せた白銀の剣を掲げて謳う故国を救いし一人の聖女。

 

 

 

 

 此処に、終幕は降ろされた。

 

 

 

 

 

「――――『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』ゥゥゥウウゥゥウゥウゥゥッッ!!!!」

 

 

「――――『終幕降ろすは白銀の理想郷(カーテンコール・アルカディア)』ァァアアァァァアアァアアアッッ!!!」

 

 

 

 

 

 極光と暴風は衝突する。

 

 具現したのは神話。例えるならばゼウスとオーディンのぶつかり合い。異なる体系の究極の一撃は冬木と言う街を光で包み込む。

 

 対界宝具と対星宝具のぶつかり合いと言うあり得てはいけない組み合わせの衝突は今まで生まれなかった奇跡を生んだ。どんな過去に遡ろうが起こらなかった未知の反応。光が混ざり、地獄が裂かれ、太陽面爆発に等しいエネルギーが全方位へと拡散され、その衝撃で空間は崩壊(・・)し、それでも止まらず神秘の奔流は膨張し、地球の物理法則が一瞬だけ書き変わっていく。

 

 そんな物が冬木という街の外れで起こったのだから、もし第三者が居たのならば戦っている者の正気を疑っているだろう。タイミングや角度が奇跡的に噛み合い、結果的に生まれた衝撃は冬木を撫でる様に過ぎ去り、ある程度高いビルのガラス窓や構造を滅茶苦茶にするだけで済んだ物の、下手すれば冬木が地球に存在してはいけない異界になっていた。何という綱渡りか。

 

 世界を断つ紅い暴風と星を断つ白銀の極光は『一瞬』だけ拮抗した。

 何故一瞬か。言うまでもない。衝突した瞬間全てが崩壊し吹き飛ばされたのだから。万が一、数秒でも長く衝突し続けていたら日本国含めてアジアの大半が人の住めない大地に早変わりしていた。

 

 そして、戦場となったアインツベルンの森は一体どうなったか。

 

 もしかしたら無事かも、と思っている者はいるだろうか。いるならばすぐにその考えは捨て去った方が良い。

 

 戦場の状態はその真逆に位置し、更にそこを突き抜けたモノへと変貌している

 緑豊かだった森林は跡形も無く消滅し(・・・)、古城は文字通り塵すら残らす吹き飛ばされ(・・・・・・)、地下を走っていた霊脈は二度と利用できない程にズタズタに引き裂かれて(・・・・・・)いた。また周囲一帯の空間は軽く異界化しており万人の接近を許さない。

 

 文字通り全てが『死んだ』。

 

 数百年ほど待たない限り、生物という存在がこの地を踏むことは二度とないだろう。

 それ程までの惨状であった。

 

 そんなことになった原因である二人であるが――――その姿は見えない。大量の土砂の下にでも埋まっているのか、なんにせよ『最強』同士のぶつかり合いはこれにて終了となった。

 

 後に残ったアインツベルンの森の跡地は、何処までも静寂が広がっていた。

 

 今まで狂乱が広がった清算だとでも言うように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 尚、この一件で聖堂教会の事後処理班が泡を吹いて卒倒したのは想像に難くない。

 

 結果的に『多量の放射性物質を含んだ隕石の墜落』という事で収まり、一般人たちには被害拡大を防ぐため森の跡地への侵入を禁じるという旨の通達が出されるのであった。

 

 

 

 

 




やりやがった(白目)。

アインツベルンの森、消☆滅。ついでに霊脈も二度と修復できないレベルでグッチャグチャになりました。更に周辺異界化のおまけつき。もう神秘の隠匿もクソもねぇ・・・。そもそもこいつ等隠す気ゼロですけど。え?聖堂教会のスタッフさん?・・・ご愁傷さまです。

スタッフ「隕石です。何といわれても隕石です。イイネ?(威圧」
冬木市市民「アッハイ(訓練済み」


超余談だけどフランちゃん可愛すぎ問題。ようやく育成環境整って現在では立派にランスロさんと孔明さんと一緒にガトリングブッパしながら磔刑の雷樹かまして楽しく種火をかき集めています(^q^)デモハグルマガタリナイー

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