Fate/argento sister   作:金髪大好き野郎

42 / 54
やあやあ皆さま、お久しぶり。金髪大好き野郎です。前回の投稿からもう六日も過ぎちゃった。でもプリヤイベがあったからね。シカタナイネ。割と楽しかったよイベント。

・・・前回の最後がアレ過ぎた反動なのかもしれないけど(ボソッ

さて、早速やってきたよガチャ。イベ開始後日には回しまくったよ。どこかの回す方のノッブが「回せ・・回せ・・・」と脳内で呟いたので本能に従ったよ。その結果――――

課金額:二万五千

イリヤ:3枚
ナーサリー:1枚
エレナ:2枚
メディア:0枚

・・・(´・ω・)
・・・(´・ω・`)ゑ?

大勝利(光悦)。正直「一枚来ればいいかな~」って感じで挑んでいたもんだから、現実を認識したときおっぱいタイツ師匠の胸を揉んだノッブのごとく「やったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」とか百年生きた吸血鬼のように「WRYYYYYYYYYYY!!!」と叫んだせいで一緒にPS4で遊んで居た友達をドン引きさせました。ハイ。是非も無いネ!

ガチャの結果はとっても満足。ハイテンションのままイベに突入し、イベ開始後二日時点でミッション75/100、イリヤとクロを最終再臨&レベルマさせ、イリヤに至ってはフォウマさせました。これが愛か(確信

まぁ、それはさておき本編の話に戻りましょう(賢者タイム)。

今回は他マスターたちの様子を書いた感じです。ストーリー自体はほとんど進んでいません。なんか全体的に見て主人公陣営以外の話が少なすぎると思ったのでね。それでもいいという方はぜひ楽しんで行ってね!

・・・あ、ケイネス先生は次回からダヨ。

追記
ちょこっと修正


第二十三話・それぞれの歩み

 部屋の隅で膝を抱えて、アルトリアは冷たい目で虚空を睨む。

 

 彼女の視線に感情は無くただただ『孔』の様に何処までも深淵が広がっている。絶望も、葛藤も、苦悩も既に振り切れている。戦場(地獄)を見て、否定(地獄)を見て、自分(地獄)を見た彼女に残った感情は、既に家族への愛情のみ。

 悩んだ、悩み続けた。それでも答えは出なかった。

 姉は言った。『ケジメを付けろ』と。それがどんな意図が込められたことはかわからない。過去を変えることが正しくないのならば――――それでも執着を捨てきれないのならば――――せめて気分の整理でも付けろという事かもしれない。

 

 その時アルトリアへと念話が入ってくる。マスターである衛宮切嗣からの念話だ。酷く疲れはてた様な声で、切嗣は淡々とした口調でアルトリアへと情報を伝えてきた。

 

『――――アヴェンジャー。数時間前にお前の討伐令が出されたのは知っているな』

 

 知っているとも。あれだけ暴れればマークもされるだろう。

 だからどうした(・・・・・・・)。我が身は最強の一。襲ってくるのならば、そのことごとくを打ち砕いてやろう。自嘲気味に、アルトリアは不敵な笑みを浮かべる。

 

『敵に拠点を知られている以上籠城は難しい。今すぐ拠点を移す。だが道中襲われる可能性がないとは言えない。お前には――――』

「全力で暴れ敵を引け、と言いたいのか?」

『……そうだ。せめてアイリが、予備の拠点である武家屋敷に着くまで、な。あそこなら、少なくとも此処よりは身を隠しやすい』

「…………了解だ、マスター」

 

 その言葉を最後に念話を切る。マスターからの指令は囮役を務めろ、という事だ。まさかかつては王であった自分が囮役など任されるとは。その皮肉をアルトリアは苦々しく噛みしめ、静かに体を起こす。

 髪はまともに手入れもしていないせいでボサボサ、衣類も同様に幾たびの戦闘を重ねたせいでボロボロだった。自分の心を現している様だ、と彼女は嗤う。

 

 力の無い足取りでアルトリアは部屋の扉を開き――――目の前に立っていた人物に目を丸くした。

 

 アイリスフィール・フォン・アインツベルン。マスターである衛宮切嗣の伴侶。彼女は少しだけ肩を震わせたが、直ぐに不安そうな顔つきでこちらの顔色を窺ってくる。

 優しい彼女の事だ。囮役を務めるこちらを、心配しているのかもしれない。

 

「その、アヴェンジャー。大丈夫……?」

「……私は平気ですよ、アイリスフィール。それよりあなたの身の方が大事です。貴方に何かあっては、マスターも本調子が出なくなる」

「それは、そうかもしれないけど……それがあなたの体の心配を蔑ろにする理由にはならないわ」

「…………優しいのですね、貴女は」

 

 無償の慈愛。

 

 もし自分に母が居たのならば、このような人だったのだろうか――――根拠も何もない推測を抱きながら、アルトリアは無言でアイリスフィールの手を握る。

 暖かかった。冷えた心を、少しだけでも溶かしてくれる。そんな暖かさに触れて、自分の凍えた表情が緩んでいくのをアルトリアは感じた。かつて見失い、拒絶してきた人々の優しさ。地獄を見てもまだ人の優しさを感じることができたのかと、アルトリアは自分に驚く。

 

「アイリスフィール。貴女の安全を心の底から願っています。願わくば、貴女に幸あれ」

「アヴェンジャー……?」

「――――私は、私の『ケジメ』を付けに行きます。万が一私が脱落したのならば……切嗣を、頼みますよ」

「…………そんな、どうして……」

 

 アルトリアは軽くアイリスフィールへと微笑みかけ、その横を通り過ぎた。

 背後からは嘆きの呟きが聞こえる。それを噛みしめて、アルトリアは歩み続ける。 

 

 彼女は玉砕覚悟だった。己の願望が『間違い』であっても、その上で自分がそれを捨てきれないのならば――――ああ、そうか。そうだったのか、と彼女は姉の言葉の真意を読み取る。

 捨てきれないなら、心の踏ん切りをつけろ。譲れない物があるなら、それを賭けて戦え。

 

 此よりは我が身は剣。刃が欠けていても、折れそうでも――――その身が壊れ果てるまで、貫き続ける。

 

 願いが間違っているのならば、自分でもそれを止められないならば、

 

 

「……私を、止めて見せろ。円卓の騎士たちよ……!!」

 

 

 覚悟を決めた顔つきで、彼女はそう『宣言』した。

 

 

 

 

 出口へ向かってアインツベルン城の廊下を歩いていると、アルトリアは人の気配を感じ取り警戒心でその面持ちを引き締める。

 

 姿を見せたのは衛宮切嗣の助手役、久宇舞弥。

 相変わらずの無感情で冷淡な美貌に、アルトリアは若干の辟易を覚えながら視線を向けた。

 

「何か私に御用でも、舞弥」

「はい。今回の拠点の移転において貴女には陽動役を務めさせて貰うため、市街地戦向きの乗り物をご用意させていただきました。流石に我々と同乗してもらうわけにはいかないので」

「乗り物、ですか」

 

 それを聞いてアルトリアが少しだけ興味を面持ちになった。

 

 現代における機械仕掛けの乗り物に少なからず興味をそそられたのだろう。やはり、彼女も一人の『少女』なのだと、舞弥は人知れず痛感した。

 舞弥にしては珍しい、任務とは無縁な益体な感慨である。

 

「用意した乗り物は城門の外に置いてあります。使い物になるかどうか、確認してもらえますか?」

「了解しました。行動が始まる前には確認しておきますので、ご安心を」

「…………ご武運を」

 

 最後に舞弥の言葉で見送られ、アルトリアは程なくしてアインツベルン城の城門前に着く。

 門の前にはいつも通り静かな森が広がっていた。迷宮の様な不気味さも相まって、この森が夢の世界のようにも見えてくる。だが、現実。

 戦場へ向かう前の緊張を殺しながら、アルトリアは門の前に置かれている”ソレ”を見た。

 

 地面をその『二輪』で踏みしめる鉄の馬。その巨体はさながら獰猛な肉食獣。鋼の巨獣は見るもの全てに威圧を与え、鉄の臭いを漂わせる。

 

 ――――鋼鉄の獅子。アルトリアは目の前の”ソレ”をそう例える。実に的確な例えだった。

 

 用意された移動手段は二輪車(バイク)。ベースとなった車体は現時点で最強のモンスターマシンとされるYAHAMA・VMAX。元より百四十馬力もの出力を叩き出す1200ccエンジンに更に改造を施し、加えて吸気系やツインターボチャージャー、その他駆動系の強化を全面的に施して、最終的に二百五十馬力オーバーを実現した。

 

 最早二輪車と呼ぶことも烏滸がましい異形の怪物であるそれは、まだエンジンを掛けられていないにもかかわらずアルトリアの耳に無音の唸りを響かせる。

 

 早く乗れと、言わんばかりに。

 

「……頼もしいですね。ラムレイと、ドゥン・スタリオンを思い出します」

 

 かつて自分が乗った名馬を思い出しながらアルトリアは微笑尾浮かべてVMAXに跨った。

 一度も乗ったことが無いというのに、妙にしっくりくる。これぞ現代の名馬、という事なのかもしれないとアルトリアは思考し、キーを捻ってエンジンをかけ、グリップを握った。

 

 息を吐く。そして思い出す。

 出陣の決行日――――極度の緊張を持った己と他の騎士を鼓舞し、蛮族の軍団に立ち向かった己の姿を。

 今や見る影すらない、『理想(思い出)』の背中を。

 

 そして思うのだ。

 

 自分は、あれほど輝いていたのか、と。

 

 失墜した凶星は嗤う。既に輝きを失った自分の凄惨なる姿を。心を。魂を。

 だが、しかし――――だとしても、

 

「譲れない物は、ある……っ――――行くぞッ!!」

 

 鋼鉄の獅子は唸りを上げた。

 戦いが始まる。運命が動き出す。歯車は悲鳴を上げる。

 

 

 ――――物語は終幕へと動き出した。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 物心ついた時から、彼にはどんな理念も崇高と思えず、どんな探求にも快楽など無く、どんな娯楽も安息をもたらさなかった。目的もなく、夢も無く、願望もまた無い。そんな人間が『言峰綺礼』という男。

 普通に人と感性がかけ離れていた。世間一般の価値観と乖離していた。

 きっと自分が未熟故に『真に崇高なる物』が見えていないと思っていた。何時か神聖なる福音によって救われるのだと信じ、彼は信仰を深めていった。

 

 だが心の奥底では既に答えはわかっていた。自分は神の愛を受けても救われない存在だと。

 

 その絶望は彼を自虐に駆り立て、身を顧みぬ修行と忍耐を強いた。耐えて、耐えて、耐え続けても――――彼が救われたことは一度としてなかった。そうして出来た鋼の肉体を駆使し『代行者』という聖堂教会のエリートにたどり着いても尚――――彼は満たされることは無かった。

 

 誰もがそれを”栄光”と呼んだ。

 しかし綺礼にはそれが理解出来なかった。きっと素晴らしい物なのだろう。称えて良い物なのだろう。そう信じても、綺礼にとってそれは『価値無き物』としか目に映らなかった。

 

 その認識のずれを、綺礼は誰にも吐露しなかった。一人を除いて、ただ一人、愛する妻を除いて。

 

 妻も、自分の理解者になりえなかった。

 

 いや、理解されていたのかもしれない。だがもうそれを確かめる術はない。もう彼女は――――

 

「ッ…………!!」

 

 浅い眠りから目を覚ます。

 綺礼が顔を上げて周囲を見渡せば、目に移るのはどこかの公園。恐らく公園のベンチに座ったまま、そのまま転寝してしまったのだろう。仮眠にはちょうどよかったが、もし熟睡などしていたらと思うとぞっとする物がある。

 

 小さく嘆息し、綺礼は己の右手の甲を見た。

 

 そこにあるのは一画(・・)の令呪。

 召喚直後に二画を消費し、「念のため」と父に一画補充された令呪であったが、戦闘禁止令があったにも拘らず戦闘を行ったことへのペナルティとして令呪を一画程監督役である父、言峰璃正へと譲渡した結果残り一画となってしまった令呪。

 

 同時に、父から少しばかり長い説教も貰ってしまった。それに関しては特段思う事は無い。禁止された行為を行ったのは自分であり、それを咎められるのは当たり前なのだと綺礼は理解している。

 

 それと同じく、令呪を一画失ったことに対しても特に後悔はしていない。使う場面自体、そもそも諜報役の綺礼には訪れないからだ。訪れるとしたらそれこそ敵陣営のサーヴァントと単身で鉢合わせしてしまったときぐらいだろう。勿論、夜にはホテルにて身を隠している綺礼にとってそんな状況は来ないに等しい。

 

 心残りだったのは――――キャスターのマスターであるヨシュア・エーデルシュタインを仕留めきれなかった事。アサシンの宝具の性質上『普通の人間』なら確実に仕留められたはずなのに、彼は生きていた。そのせいでアサシンの戦闘を目撃され、抗議の末に令呪一画を剥奪されたのだから。

 

 アサシンに問い詰めても、何故か顔を赤らめて黙りこくる始末。溜息しか出てこない。

 

 結局両陣営が無事乗り切ってしまった。ランサー陣営にペナルティを被ってもらい、今後の戦況を有利に運びたかったが――――綺礼は心の奥底で何か別の感情が蠢いているのを感じる。

 そう、「周囲から白い目で見られて困惑し焦燥するランサーのマスターを見られたらどれだけ良かったか」という感情を。

 

 自分の感情に、綺礼は目を丸くした。

 悪辣すぎる発想に顔を顰めるが、口だけは何故か笑っている。抑えようとしても笑みは元に戻らない。

 何故だ、と綺礼は自問した。今の考えは他者に責任を被せる『悪』の考え。それは罰せられるべき悪徳であり、信者にとって抱いてはならない感情である。それを何故自分が――――いや、考えても無駄だ、と綺礼は自身の考えを切り捨てた。

 

 何年も自身に問い、その度に答えは出てこなかった。ならば今更考えたところで無駄と言う物だ。

 ならば、自分では無く他者へと問う。

 答えを知っている者へと。

 

「衛宮、切嗣……」

 

 彼は自分と同じく空虚な存在だと、言峰綺礼は信じてやまない。誰にも肯定されず、誰にも理解されないまま戦い続けた男。その男は理由も無く空虚な戦いを何年も続け――――その果てに『答え』を得たのだと綺礼は期待した。そんな男の内面に、己の探す答えはある。

 

「ならば、問わねばなるまい」

 

 そう、だからこそ問うのだ。彼の得た『答え』を。戦う理由を。自分と同じ人種である彼が戦う理由を聞けば、自身も何かを見いだせる。

 

 綺礼はベンチに座らせた腰を上げる。もう空を照らしていた太陽は夕日として赤い光で冬木市を照らしている。後数時間もすれば、今度は月の光がこの街を照らし始めるだろう。

 その時が戦いの時だ。恐らく衛宮切嗣は出てくる。あの男が何時までも同じ場所に籠城するはずがない。

 だからこそアサシンを向かわせ、その進行ルート上を割り出す。割り出したら――――後は、こちらの役目だ。

 

「アサシン、衛宮切嗣に動きは」

『――――はい、マスター。衛宮切嗣は数分前に森から出発しました。現在追跡中です。いかがいたしますか』

「向かう方角から目的地か進行ルートを割り出し、こちらへ伝えろ。その後は好きに動け」

『了解しました。ご健闘を』

 

 綺麗は念話を切り、夕日を見上げた。

 この世に生まれ出てから、一体何度見てきたのだろうか。きっと数えきれない回数なのだろうが――――思う事は、何時も同じだ。

 

 

「――――醜いな」

 

 

 何度目になるかわからない言葉を口にし、綺礼は足を動かし始めた。

 

 仇敵と相見えるため。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 時臣は自室にて頭を抱えていた。

 

 原因は他でもない。自身のサーヴァントであるアーチャー、ギルガメッシュが幾ら提案しようが此度の『討伐令』に一行に従おうとしないことだった。

 討伐令が出されようが自身のサーヴァントが動こうとしないのであれば意味はない。サーヴァントにはサーヴァントをぶつけるしか勝つ方法は無い以上、この討伐令は時臣にとって敵に塩を送る行為に等しかった。

 

 令呪とは無色の魔力の塊である。サーヴァントへの絶対命令権と銘打ってはいるが、実際は『膨大な魔力を使用した魔術』に過ぎない。勿論それは無色であるが故に汎用性も高く、サーヴァントへの命令だけでなく自己の強化にも使えるし、非常用の魔力源にもなりえる。そんな物を見す見す敵に渡すほど、時臣は馬鹿ではない。

 

 しかし自陣営の武器(サーヴァント)が動かない以上、時臣にできるのはギルガメッシュの説得だけだ。だが、あの唯我独尊を体現するような性格の持ち主が時臣程度の言葉に左右されるわけがない。もし時臣がギルガメッシュに「財宝を委ねるにふさわしい人物」と見込まれたのならば話は別だったのかもしれないが、生粋の魔術師たる彼には『万が一』の可能性もありはしない。

 

 要は、彼は選択をしくじったのだ。

 

 もう討伐令は出してしまった。撤回でもしようとすれば確実に監督役は他陣営へのつながりを疑われるだろう。その際最も容疑を駆けられる可能性が高い陣営が遠坂だ。

 理由は単純。冬木に長く滞在する家系であることと、遠坂と現監督役である言峰璃正がつながりを持っているに他ならない。

 

 同時期に滞在している間桐家は現在当主が行方をくらましているせいでそもそもこちらも居所を把握できていないし、何より他者との関係を徹底的に避ける間桐が監督役と繋がっているとは思えないだろう。そうなれば自然と疑いの視線は遠坂へと向くことになる。それを感づかれたが最後、遠坂は『監督役との繋がり』という他陣営が持ちえない決定的なアドバンテージを失うことになる。それだけは何としても避けねばならない。

 

 だが、だからと言ってこのまま諦め傍観するという選択もあり得ない。最悪アヴェンジャー陣営以外の全ての陣営に令呪を配布してしまう可能性だってありうるのだ。それは不味い。故に何としても英雄王を説得しなければならない。

 

 ――――肝心の説得方法が見つからないのが現状だが。

 

「っ……いや、落ち着くんだ。そう、遠坂たる者、『常に余裕を持って優雅たれ』。上に立つ者は常に心に余裕を持たせなければならない。今私ができることは何だ? 確かにサーヴァント相手には手も足も出ないかもしれないが、マスター相手なら……いや、駄目だ。万が一という可能性もある。ならば――――そうか」

 

 時臣が天啓を得た様な表情を浮かべた。

 

 マスターがサーヴァントを相手にするなど論外。最初から勝負が見えている戦いなど誰がしたいと思うだろうか。マスターがマスターを相手にするにも、時臣は己が『凡人』であることを痛感している。二流、三流程度の相手には引けを取らないとは自負できるが、それでも天才と呼ばれる人種――――特にケイネス・エルメロイ・アーチボルトとヨシュア・エーデルシュタインは第一級警戒対象だ。

 

 勝てない、というわけでは無い。だが負ける可能性が他のマスターと比べて高いのも事実。結果が最優先である魔術師が結果が分からない勝負に挑むわけがない。

 常に確たる勝利を。

 常に勝てる戦いを。

 例え歩兵一人相手でも戦車を以て戦いほどの慎重さを持たなければ、この聖杯戦争は生き残れない。それが時臣の考えだった。

 

 実に合理的ではあるが――――つまらない。冒険が無い、博打が無い、愉しみが無い。

 魔術師だからこそ、人間であり、傍観者であり、裁定者の英雄であるギルガメッシュとは相いれない。彼は自身の欠点に何時気が付くのやら。

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

 先程時臣はある考えを浮かばせた。それは――――アサシンによるアヴェンジャー討伐に出てきた他陣営マスターの暗殺。これならばほぼ確実。サーヴァントをアヴェンジャーに向かわせている以上彼らを守る剣であり盾である存在は存在せず、その状況下ならアサシンによる暗殺成功率はほぼ100%と言っていい。相手がアサシンの気配遮断を感知できるほどの規格外で無い限り。

 

 そして彼らの死体から令呪を回収すればむしろこちらの利益は多くなる。一人当たり最大三画だ。アヴェンジャーを討伐して得られるのはたったの一画。報酬に三倍もの差がある。

 

 ならば、綺礼に秘密裏に相手陣営のマスターを暗殺させ、その令呪を回収すれば――――

 

 

「――――随分つまらん考えを巡らせているな? 時臣よ」

「ッ――――!?」

 

 

 時臣が俯かせていた顔を上げれば、目の前には俗世に染まったような恰好のギルガメッシュが立っていた。

 

 感情の消えた顔を、浮かばせて。

 

 喜怒哀楽、そんな類の者が微塵も感じられない顔だ。差し詰め『虚構』――――激怒や憤怒よりも遥かに性質が悪いそれを真正面から肌で感じ取り、時臣の全身から生暖かい汗が溢れ出した。

 生存本能そのものを刺激されたように。

 

「お、王よ、今のは――――」

「言い訳するな時臣。貴様の言葉など、今のこの場では一文の価値もありはしない」

「…………!」

 

 無言の威圧を受けて時臣は喉を詰まらせた。何か言葉を発しようとしたのに、脳からその単語が消えていく。『言葉を発する』という考え自体が恐怖で消えていく。

 これが、人類最古の英雄王が生み出す『威圧』。相手にただ一言の言葉も許さず一方的に封殺する王者の風格。

 

 他者より遥かに努力を積み重ねたとはいえ、その才能は凡百の魔術師の域を出ない時臣が耐えられる道理などある筈も無かった。

 

「我はお前の策には乗らなかった。ああ、確かに使える駒(・・・・)が思い通りに動かんのは不快だろうな。我もそうだ。思い通りに事が進まないというのは実に不快極まりない。だから別の駒を使う。良い判断だな。動かぬ駒を何時までも説得する者は阿呆だ」

 

 平坦に、抑揚のない声で淡々と告げるギルガメッシュ。言葉の圧力という物はこの事なのだろう。彼が一言一言を喉から発する度、時臣の顔色はどんどん蒼白へと変わっていく。否、もうすでに真っ白だ。傍から見れば、死体にしか見えないほどにその肌からは生気が失われている。

 

 それでも、ギルガメッシュは止まらない。

 

「だが我は王だ。サーヴァントといえど我が貴様の下につく道理など無く、そして我が上に居るのは必然の理。時臣、貴様は我に臣下として進言した。そして我はそれを断った。何故かわかるか? ――――貴様は臣下の礼は取っているが、その在り方は『真の臣下』とは程遠い。そしてこの我は偽の臣下の進言を軽々しく受け入れる愚王では無く、貴様の頼みを断ったのは必然と言える」

 

 ギルガメッシュの顔が時臣の目と鼻の先にまで近づいた。時臣は動かない。動けない。蛇に睨まれた蛙の様に痙攣すら起こせず、視線すら変えられず、ただ硬直している。呼吸すらままならない。生きているのかどうかすら疑わしい風体だ。

 そんな時臣の瞳を、ギルガメッシュはその宝石の様な赤い瞳で睨み続けた。その奥底を覗き込むように。

 

「――――なぁ、時臣よ。貴様は魂そのもので我と向き合っているか? 我がどうして貴様の意にそぐわぬ行動をしているか考えたことはあるか? 『英雄王』では無く『ギルガメッシュ』としての存在を見たことはあるか? ……答えよ時臣、今のみ貴様の発言を許す。もし虚偽の言葉で我を誤魔化そうとした場合、貴様や貴様の一族が積み上げてきた全てを叩き潰す」

 

 それは『試練』だった。

 英雄王から遠坂時臣という人間に送る最初にして最後の試練。

 

 嘘を言えば、死よりも残酷な結末が待っている。

 

 だが正直に述べても――――殺される。

 

 その確信ともいえる迷いが時臣の胸の中で渦巻く。『どうにかこの場を凌げるか』――――そんな魔術師然とした考えに至り、時臣は自らの唇を噛み千切った。痛みでそんな愚かしい思考を誤魔化す。

 

 これは人としての問い。魔術師への問いかけでは無い。

 

 ならば、人としての答えを返すべきだ――――

 

「私は――――」

 

 

 時臣の顔が苦渋に塗れる。既に『優雅』などという物は彼には存在せず、そこにはただ『遠坂時臣』という一人の男がいた。王を利用して己の悲願を叶えようとした、愚か者が。

 

 

 

「貴方様を、『道具』として、見ていました…………!!」

 

 

 

 遠坂時臣は確かに『英雄王』に心からの敬意を払っていたのは事実だった。だが自身が召喚したサーヴァントについては『英雄王の写し身』――――いわば肖像画や彫刻などの偶像としかとらえていなかったのだ。ひいては、己の『道具』であるとみなし聖杯戦争最後の儀式として彼を令呪で自害させる気だった。

 

 最も、彼に令呪など通用しないのだが。

 

 ギルガメッシュは己がマスターの偽りなき言葉を聞き届け、無言で瞼を閉じる。

 試練は終わった。時臣はそれをやり棘、己と先祖が代々積み上げてきたモノを守護することができた。しかし――――主従関係には終止符を打ってしまった。

 

 王である彼を『道具』として見ていたという発言。そんな物を聞いて今後も時臣を臣下として傍に置き続けるほどギルガメッシュは甘い人間では無い。彼は罪を犯した罪人を無慈悲に裁く『裁定者』。王に対して不敬を働いた者が目の前に居るのならば、彼は躊躇なくその者の首を撥ね飛ばすだろう。

 

 ――――が、ギルガメッシュは時臣に何もせず、無言の威圧を解いて踵を返した。

 

 何故? と時臣は目を見開く。彼もただで済むとは思っていなかった。死すら覚悟していた。なのに、何もされない。それが奇怪でたまらない。

 

 それに対し英雄王は――――何やら少しだけ愉快気な声音で答えを返した。

 

「王よ……何故私を裁かないのですか……? 私は――――」

「ハッ、最初はそのつもりだったのだがな。遺憾ながら、我を前にして嘘偽りなく『道具として見ていた』と言う阿呆に出す剣は無い。おかげで斬り損ねてしまったわ」

「……王よ」

「勘違いするな時臣。我は貴様を見逃しただけだ。これ以上我の臣下でいることを許したわけでは無い。……今宵を以て我とお前の契約を断つものとする。故に――――今ぐらいは我に相応しき臣下としてふるまってみよ、時臣。貴様はつまらん男ではあるが、見ていて愉しめる分、道化としては一級だ。誇ってもよいぞ?」

 

 かの英雄王に『一級の道化』と言われたことに時臣は内心複雑だった。誇ればいいのか落ち込めばいいのかわからない。

 あの英雄王に評価されたのは時臣も喜ぶべきことだと思えて入るのだが、その評価の内容が『道化』という褒めているのか蔑んでいるのかよくわからないのだから、一体どんな反応をすれば正しいのか。

 

 ほぼ後者(蔑み)の意味合いなのだろうけど。

 

「……本来ならば我はお前に口を出す気は微塵も無かったのだがな。このまま破滅していく様を見ているのも愉悦の一つだろうと傍観するつもりであった。しかし、たまには趣向を変えてみるのもよかろう。愚かな臣下を導くのもまた、王の役目だ」

「…………私は、間違っていたのでしょうか」

「そうさな。お前は、魔術師としては正しかった。だが、『人』としては致命的過ぎるほどに間違っていた。――――それだけの話だ」

 

 魔術師としては、彼は正しかった。根源へ至ることを渇望とし、そのために使える物を利用しようとした彼は人すら『道具』とみなした。勿論、サーヴァントさえも。それは魔術師としては『当然』の事だ。彼らは人を人として見ない。目的達成のためならその命さえ容易く奪うだろう。

 そしてそれは『人』の所業では無い。平然と他者の命を対価にする者は人としては最低の部類であり、屑と言われても文句は言えない。そして英雄王はそんな『規律』に従いすぎていた時臣を『つまらない』と一蹴した。

 

 英雄王は魔術師では無く『人』だ。例え神の血が混ざっていようが、彼は人である。傍から見れば人類の価値観では測れない、誰よりも冷徹な罰の化身。人類を罰しながらもその行く末を見守る裁定者。

 どうしてそんな矛盾のような何かを抱いている? ――――言うまでもない。

 

 彼は――――人の歩みを『愉しんで』いるのだから。

 

 時臣は魔術師過ぎる魔術師であるが故に英雄王の愉しみにはなりえなかった。それだけ、たったそれだけの要素が、ここまで決定的な枝分かれを生むことになった。

 

 要するに、最初からすべて間違えていたのだ。時臣という男は。

 

「――――さらばだ時臣よ。偽臣という道化を務めた貴様ではあったが……最後の最後ぐらいは”愉しめた”ぞ?」

 

 その言葉を言い終えた英雄王が黄金の粒子となって消え去った。

 

 恐らくもう二度と言葉を交わすことは無いだろう。令呪による経路(パス)を使って念話も一方的に塞がれている。文字通り、時臣はもう英雄王に魔力を供給するだけの装置と化してしまった。

 

 圧倒的な恐怖が去り、時臣の全身から冷たい汗が滴り始める。時臣は椅子の背もたれに背を預けて、力の無い瞳で空を仰いだ。

 

 これで根源への望みは断たれた言っていい。英雄王には見限られ、他の手札は恐らくこの聖杯戦争最弱だろうアサシンのみ。他の陣営は軒並み大英雄クラスをそろえている以上、勝つのは生半可な執念では不可能だろう。例え他の英霊を倒したとしても、あの英雄王が敵に回った以上勝ち目は無い。

 

 だが――――時臣の心はまだ折れていない。まだ聖杯は存在している。今回は優勝できなくとも、次の代である己の娘に全てを託すことはできる。そして自分の持てる全てを伝授したのならば、彼は己の命にさえ価値を見出さなくなるだろう。

 

「――――これが後悔、か」

 

 その言葉を最後に、時臣は日々の疲れを落とすように眠りについた。

 

 娘への希望を抱きながら。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 その頃、マッケンジー宅。

 

 すっかり夕暮れになり、夕日照らし出す外国人住宅地。夕焼けは美しく、それに伴い人々は己の家宅へと戻っていく。近頃の冬木市は物騒だ。やれガス爆発やら天然ガスの爆発やら。近頃巷のうわさになっている連続殺人は収まってはいるが、やはり人々の不安は簡単に拭えない。

 夜にもなれば出歩いている者は警察官以外殆どいない。老夫婦が多いこの場所なら、まず夜出歩く者はいないだろう。老人を狙った強盗も少なくないのだ。

 

 マッケンジー宅にはライダー陣営が居候している。ライダーのマスター、ウェイバーの暗示によって自分を孫に見せお金を払わず住処を得ているのは収入減が乏しい彼なりの選択だった。資金に限りがある以上贅沢は望めないし、ある意味魔術師らしからぬ行動だったが故に今の今までまともに感知されていないので正しい選択なのかもしれない。

 

 と、なんだかんだ言ってきたが、彼らは今自室に引きこもっている。特に外に出てやることも無いが、かといって自室でぼーっとだらけているのが良いというわけでは無い。何よりあのライダーが、あの巨漢がじっとしているという事実がすでに異常状態。

 

 何か嫌な予感を、ウェイバーは本能的に察知してしまった。

 しかし――――それ以上に彼は、目の前に広がる光景に苛立っていた。その光景とは、

 

「……なぁ、ライダー。お前な――――聖杯戦争中だってのにどーして自室で煎餅食いながらゲームやってんだよぉ!!」

 

 そう、ライダーは現在ゲーム機という現代文明の象徴ともいえる機器でテレビゲームをしていた。そのゲームとは『アドミラブル大戦略Ⅳ』。しかも初回限定版。昼間彼らは気分転換に――――本当はウェイバーがライダーの過去を夢で垣間見たせいだが――――買い物に出かけ、ライダーは何故かハードごとこのソフトを買ったのだ。

 おかげで資金難がさらに圧迫されたのは言うまでもないだろう。

 

 過去の英雄たるサーヴァントが現代で煎餅食べながらゲームプレイをエンジョイしていると他の魔術師に聞かせたら、一体どんな顔をするだろうか。確実に失笑されるのが目に見えているが、ウェイバーは目の前で実際に起こっている信じられない光景に頭を抱えた。

 

「むん? なんだ坊主。お前もやっぱりゲームしたかったのかぁ~?」

「するかバカ!僕は、そういう下賤で低俗な遊戯には興味ないんだよ!」

 

 魔術時は文明機器を嫌う。圧倒的にコストパフォーマンスの差があるにもかかわらず、高い費用を出さねば碌に機能もしない魔術の方を使う。一般人からしてみれば『どうしてこっちの方が安くて便利なのに使わないんだ?』と思うだろう。

 それでも魔術師は魔術を利用する。彼らはそう言う人種だ。魔術に誇りを持ち、魔術こそが崇高なモノだと信じて疑わない。下賤な文明機器など誰が利用するか――――そんな頭にコンクリートを流し込んだような固い頭の持ち主が魔術師なのだ。

 一応、例外も存在してはいるが。

 

 比較的現代への忌避が小さいウェイバーも魔術師としての最低限の矜持は持っており、ゲーム機を低俗と罵った。確かに魔術師がゲーム機で遊ぶ光景は、中々シュールさ漂う光景ではありそうだ。

 

「……やっぱり、今日のお前なんか可笑しいぞ」

「何がだ? 今日の余に特段おかしなことは無いと記憶しておるのだが」

だからだろ(・・・・・)。おかしくないのがおかしいって言ってるんだ。僕の知っているライダーはいつもハチャメチャで無茶苦茶な奴だ。決して、部屋の中でじっとゲームばっかりしているような奴じゃないし、するにしても、無言で意気消沈しているライダーはいつものライダーじゃない。お前は、何時もその滅茶苦茶さで僕の予想を上回る奴なんだよ。……僕の言ってること、わかるか?」

「……ははァ。こいつは参った。まさか坊主に見抜かれるとはな」

 

 天晴見事と言いだしそうなほど気の抜けた苦笑を浮かべ、ライダーはゲームを中断しウェイバーへと視線を変えた。それにビクッと肩を震わせながらも、ウェイバーもまた視線を引き締めてライダーと対面する。

 

「何か悩み事でもあるのかよ。僕でいいなら相談に乗るぞ」

「悩み事というかなァ……昨晩、酔っていたとはいえ、あの騎士王に色々言っちまったことが気がかりでな。胸の中からもやもやが取れぬ。これをどうしたものか……」

「ああ、あの王道がなんちゃらってやつか。……今のお前は、騎士王に申し訳ない事をしたって思っている、って事か?」

「ん~、合っているようで違うな。余は余の王道に自信を持っておる。自分の治世を後悔したことなど一度も無い! しかし、だからこそか。後悔が無いと自負し、傲慢になり視野が狭まっていたことに気付かず、騎士王めの王道を否定した。が、余は余の王道が間違っているとは――――」

「要は言い過ぎたことを謝罪したいって事だろ? 変に小難しい事挟むと、自分でもわからなくなるぞライダー」

「……まぁ、そういうことだな」

 

 ウェイバーの冷静な返しに、征服王は苦笑しながら頬を掻く。しかし的確な指摘をしている分、冷徹と言うわけでは無い。彼もしっかりと己のサーヴァントの事を考えているのだ。

 

 しかし問題点を指摘しただけでは根本的な解決にはなりえない。ならば、正解へと導くのが務め――――

 

「じゃあライダー、お前はどうしたいんだ? 謝りたいのか?」

「いんや。言葉では駄目だ。騎士王が納得しても余が納得せん。もっとこう……形あるもので謝罪がしたい。かと言って金品は意味を成さんしのぅ……」

「形ある物、ねぇ……。随分難しい問題を出してくれるなお前は。そうだな、じゃあ手助けするってのはどうだ?」

「手助け? どういう事だ?」

「昼ぐらいに教会からアヴェンジャーの討伐令が出された。報酬は令呪一画だってさ」

「なんと」

「ま、キナ臭い事この上ないけどね」

 

 初めて聞かされるソレに征服王は目を丸くした。討伐令、つまり教会がアヴェンジャーを危険視し、他の陣営たちに潰しにかからせようとしているのだ。そしてウェイバーは、この事を「キナ臭い」と断じる。

 

 確かにアヴェンジャーは危険視に値する実力を持っている。倉庫街を跡形も無く吹き飛ばした時点で警戒するのは当然の理と言える。だがしかし、彼らは物的被害は出していても人的被害は出していない。民間人は今のところを一人として巻き込まれていないので『聖杯戦争の運営』自体には彼らはまだ影響に値しないのだ。

 かといって放っておけば被害が生じる可能性はあるので、普通なら(・・・・)ある程度のペナルティと厳重注意程度で済ますだろう。――――なのに、それらをすっ飛ばして『討伐令』。

 

 余りにも怪しすぎる、とウェイバーは『何か』を感じ取った。

 

「僕の予想だと、たぶん教会はどこかの陣営と繋がっている。今のところはアインツベルンを除く御三家が有力候補かな。とにかく、今回の討伐令には僕は乗らない予定だった」

「だった、ということは?」

「お前を見ていて気が変わったんだよ、ライダー。……今からお前の意見を聞く。アヴェンジャーを助けたいか? あっちにしてみれば理不尽な袋叩きの刑だ。アインツベルンに恩を売ると考えれば、リスクに見合ったモノが帰ってくると期待してもいい。例えば、一時的な同盟関係とか。アヴェンジャーは強力なサーヴァントだ。ライダーと力を合わせれば、誘われて来る他のサーヴァントを簡単に倒せる可能性が高く…………何だよライダー、仏頂面なんか見せて」

「……坊主。もしやお前、二重人格というヤツか?」

「――――……はぁ?」

 

 ライダーのそんな素っ頓狂な発言に、ウェイバーは思わず顔を引きつらせた。一体この会話のどこに二重人格と疑われる要素があるんだと言いたいのだろう。必死に笑顔を取り繕うウェイバーであったが、その笑顔には小さな苛立ちと怒りが籠っている。

 

「別に坊主を馬鹿にはしておらんぞ? いつもはひょろっとしていて覇気がない奴だったのに、急に歴戦の軍師の如く聡明になりおる。余でなくとも別人格を疑っているわい」

「あのなぁ、せめて言葉を選べ言葉を! 全く……。昔から人を疑うことは得意なんだ。慎重すぎる奴なんだよ、僕は」

「うむ。しかしそれも立派な才能だ。目の前の情報だけを鵜呑みにせず、自分からその周りの情報を集め、推理し、整理し、対策を立てる。坊主、お前さん軍師の才能があるぞ? この征服王イスカンダルが保証しよう!」

「軍師? ……軍師、ねぇ。僕としては魔術師の才能を評価されたいんだけどなぁ」

「坊主、諦めが肝心という言葉がこの国にはあるらしいぞ」

「やっぱり馬鹿にしてるだろお前ェ!」

 

 なんだかんだで元気そうなライダー陣営だった。

 

 今度は苦笑では無く豪胆な笑いを浮かべてライダーは矮躯のマスターの肩を叩き、尻込みさせていたその巨躯を立ち上がらせた。先程の気の迷いなど一切ない。ライダーは安っぽいTシャツではなく古代の戦衣装を身に纏い、赤い毛皮のマントを羽織る。そうすればかつての英雄、征服王イスカンダルの姿がそこにはあった。

 

 その圧倒的な迫力にウェイバーも息を呑みながら、彼もまた立ち上がる。

 

 ウェイバーは自身のサーヴァントに引け目を感じていた。彼の伝説を伝記とはいえ垣間見、宝具もウェイバーでは一生どころか例え延命して何百年生きようが生み出せない凄まじい戦車を持っている。本人の実力もまた一級だ。立ててきた功績も。

 だからこそウェイバーは――――自身の未熟さを痛感した。

 

 周りは化け物だらけだが、宝具の規格外さならばライダーとて負けてはいない。昨晩このマッケンジー宅に帰った時に、これから本格的に聖杯戦争が動き出すと判断したライダーがウェイバーに自身の切り札、『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』の詳細を明かしたのだ。最初はウェイバーも半信半疑だったが、その時のライダーの目には嘘など微塵も存在していなかった。

 

 その宝具は、彼と彼の『臣下()』の歩んだ象徴そのものなのだから。

 

 一万もの英霊級の兵士を英霊の座から展開した固有結界に召喚する滅茶苦茶で度外れな宝具。嵌れば余程の化物で無い限り負ける道理はない。イスカンダルはきっと全てのサーヴァントを討ち取るだろう。――――マスターが優秀ならば。

 

 此度の聖杯戦争のラインナップは化け物ぞろいだ。ブリテンの騎士王、王剣を持つ赤雷の騎士、アイルランドの光の御子、人類最古の英雄王、星を封じた救国の聖女、暗殺教団の教祖の一人、聖剣を担う円卓最強の黒騎士、オルレアンの聖女――――すでに一人だけでも戦う街が危うそうなのに、それが九人だ。一人は中立役だとしても、これではライダーが絶対に生き残れる保証はない。戦い抜くためには優れたマスターが必要だ。

 

 そしてウェイバーは自分にはその役目は務まらないと自嘲した。認めたくは無かったが、心のどこかではわかってはいた。自分が魔術師として三流だということは。このままでは自分の不甲斐なさでライダーが真っ先に脱落するかもしれないという事は――――わかっている。

 

 ライダーは生粋の『魂食らい(ソウルイーター)』。消費する莫大な魔力を全てマスターに任せてしまえば、その負担は計り知れない。ウェイバーの魔術の腕は魔術回路の数や質など高が知れている以上、負担を強いれば命すら危うくしかねない。今はまだ一度も宝具を発動して居ないが故に無事で済んではいるが、これからどうなるかわからない以上楽観視は不可能。

 

 ――――それでも、とウェイバーは音もなく呟いた。

 

 自分の未熟さを痛感すると同時に気付いた。自分が――――ライダーに、征服王に、イスカンダルに憧憬の眼差しを向けていたことに。彼の様に大きな男になりたいという本心に。

 勿論最初は認めなかったが、次第に理解して受け入れてきた。彼の背中に憧れている自分がいるのだと。彼の傍に居ても恥ずかしくない男になりたいと、思えてしまった。

 

 ならばこんな所で引き籠ってぐずぐずしているわけにはいかない。彼と共に――――戦場を渡り歩くのだ。頼もしいパートナーとして。

 

「行くぞライダー。僕たちの戦場に」

「おう! 坊主も戦の心構えというものがわかってきたようだな!」

「ふん。お前と一緒に居れば、嫌でもわかるさ」

 

 巨漢と小人は共に歩む。

 

 己の選択した戦いの場へと―――――。

 

 

 

 

 




正直英雄王が書きにくかったでござる。
と言うわけで今夜限りでトッキーを見限る決心をした英雄王でした。「もし英雄王が言峰に遭わなかったら?」という考えに基づき書いてみたのですが・・・何というか、何とも言えない「コレジャナイ」感が私の中で広がっています。ドースンダコレ(;´・ω・)

それと今回久々に一万五千文字超えた気がする。プリヤイベと並行して書いていたにもかかわらずこの密度よ。マヂ疲れたorz

余談

プリヤコラボがあったので私の小説もプリヤ編でも書こうかなーと思ったけど、よくよく考えたら敵として出てきたらイリヤたちがムリゲー、味方で出てきたら「もうアイツ一人でいいんじゃないかな」状態になりそうなので断念しました。
言ってしまえば「強すぎるために話が根本から破綻する」という問題にぶつかったのです。ちくせう。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。