Fate/argento sister   作:金髪大好き野郎

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くっそやる気出ねぇぇぇぇぇぇぇ・・・・・・(死んだ目)

暑すぎてやる気のやの字も出んわコレ。何なの?天然サウナなの?馬鹿なの?温暖化なの?・・・と言った調子で机の前で虚ろな瞳で一時間天井見上げてみた金髪大好きであります。アレ首痛いわ。二度とやらん。

で、肝心のイベントですが・・・正直クオリティが一部と比べてダウンしすぎて悪い意味でグダグダだった。マルタさんとベオさんの殴り合いは個人的にGJですが、全体的に見て、ねぇ・・・(凄女ってすごい)。まぁ、とりあえずおっぱい師匠は限凸させました。

そして、ガチャの結果。三万ぶち込んで、なんと。

弓トリア:一枚
マリー(術):四枚
マルタ(拳):〇枚

・・・ちょっと結果偏り過ぎじゃないですかね運営ぃ・・・!!まぁ、狙っていた弓トリアさんが出たのでおおむね満足。モーさんはまだ来てないがな!!

・・・頭痛いなぁ。

※今回の話は前半ギャグですが後半はガチシリアスです。そこら辺を踏まえて見てね。


第十九話・憎悪は拭えず、波乱は止まらず

 月光が照らす白い花が咲き誇るアインツベルン城の中庭。

 七騎――――この聖杯戦争に参加したサーヴァント全八騎中一騎を除いて全てのサーヴァントがここに集っているという異例の事態乍ら、その様子は決して荒々しい物では無い。むしろ宴会の様な盛り上がりを見せている。

 

 いや、宴会と言えば宴会なのだが。

 

 しかし彼らとてただ飲み食いすることが目的では無い。

 その本来の目的は互いの望みを知り、相手への理解を深めること。いわば心理戦だ。相手の望みに劣等感を抱かせることでその剣を鈍らせる。――――恐らくそんな意図は欠片もないだろうが、そんなことが起こる可能性がゼロというわけでは無い。つまりこれも立派な戦いなのだ。傍から見ればただの飲み会だが。

 

「――――自惚れるなよ雑種共。そもそも”聖杯を奪い合う”という前提自体が間違っておるわ」

「ん?」

 

 アーチャー、ギルガメッシュの言葉を聞いて征服王は怪訝そうに眉をひそめた。それを見ながらギルガメッシュは小さく嘆息し、己の言いたいことを述べ始める。

 

「そもそもにおいて、アレは我の所有物だ。世界の宝物は一つ残らず、その起源を我が蔵に遡る。いささか時が立ちすぎて散逸したきらいはあるが、それら全ての所有権は今も尚我の手にあるのだ」

「じゃあギルガメッシュよ、お前さんは昔聖杯を手にしたことがあるのか? どんなもんかも知っていると?」

「知らぬ」

 

 銀の杯に注がれたワインをぐいっと飲み干しながら、ギルガメッシュはライダーの追求を軽く否定した。

 

 所有権を主張しているのにもかかわらず、主張している代物に関して一切知らないと断じるこの英雄王に怒ればいいのか呆れればいいのか、この場の全員が苦笑を浮かべる。

 

「雑種の尺度で量るでない。我の財の総量は、とうに我の認識を越えている。だがそれが『宝』であるという時点で、我が財であることは明白だ。それを勝手に持ち出そうとするなど、盗人猛々しいにもほどがある。――――まぁ、貴様なら許さんことも無いがな。キャスター」

「ん? 私?」

 

 適当に料理をつまみながら酒を飲んでいたアルフェリアが、名指しされたことで自分を指さし頭を傾げる。それを満足げに眺めながら、ギルガメッシュは口説き文句でも言うように自慢気な口調で語り出した。

 

「貴様の前では財宝の一つや二つ、否、万や億すら霞む。故に何か欲しい物があるなら言ってみよ。特別に今回だけ、我の宝物庫から出してやろう」

「んー ……別に欲しい物はないんだよね。大体は自分で作れるし。少なくとも私は、他人から貰ったもので満足しようだなんて馬鹿な考えは持ってないつもりだよ。欲しい物があるなら自分で勝ち取る――――道理でしょ?」

「ククッ、勇ましい物よな。だが、それがいい」

「でも折角だし――――聖杯の原典でも見せてもらっていいかな? 一応、どんなものなのか確認したいし」

「いいだろう。今夜の我は機嫌がいいからな。特別だぞ?」

 

 何処から優越感を得ているのか、満足そうな笑みを浮かべながらギルガメッシュは黄金の波紋から一個の宝物を卓上へと落とした。

 顕現したのは、黄金の杯。純金の様にその色はただ黄金。だが決して単純なつくりでは無く、その外面には複雑怪奇、幾何学的な文様が刻まれている。まさに神が作ったとしか思えない奇跡の産物。

 

 それを見たサーヴァントたちは皆ごくりと喉を鳴らす。

 あれこそが自分たちの求めているモノ。かの聖人の血に触れ神の奇跡をその中に宿したとされる万能の願望機。勿論驚き固まっているのはサーヴァントだけでなく、サーヴァントを経由してこの場を監視していた者達も同様だった。

 

 そして何人かが令呪に刻まれた手を構え、「聖杯を奪い拠点へ転移しろ」と告げようとして――――

 

 

「――――忠告しておくが、それは我を含めた他者が掴もうが決して効果を発揮しないぞ?」

 

 

 そのギルガメッシュの一言でマスターたちの行動が止まる。

 

「今そこにあるのは確かに聖杯だ。だが残念ながら、聖杯という代物は『万人の願いを叶える便利な玩具』では無い。聖杯もまた所有者を選び、認めた者でなければその願望を叶えん。つまりその聖杯は、相応しき者が手にしなければただの金の酒杯同然という事よ。――――理解できたか? 雑種共」

 

 マスターたちへの忠告を終えたギルガメッシュは、「くっく」と小さく笑いワインで口を潤す。微かな希望を掴んだと確信していたマスターたちの表情が壊れる様を幻視し、愉悦でも感じているのか。

 

 しかしながらギルガメッシュの言葉に嘘はなかった。円卓の上で輝いている聖杯には意思のような何かが存在しており、聖杯自身が選んだ者で無ければ触れることすら叶わない。下手に下賤な者が触れれば、聖杯は容赦なくその者の魂を現世から掻き消してしまうだろう。

 

 最高位の聖遺物を握るにふさわしいのは、同じく最高位の人類のみという事だ。――――それこそ、今から二千年前に生誕した神の子にして救世主の『あの男』に匹敵する聖人の様な。

 

「我が使えば多少の願いは叶えられるだろうが、それでも水や食物を無限に出させるぐらいが精一杯だろうな」

「おいギルガメッシュよ、それを使って受肉は可能なのか?」

「受肉? ……まぁ、不可能ではない――――が、赤子の体になる。不完全な状態ではそれが精一杯だろうよ。試したいのならば言うが良い。あの征服王が赤子になりもがく姿は、見ごたえがありそうだ」

「う~ん、そりゃ困るなァ。流石に余も赤子からやり直したくはない」

「その他にも超一級の魔力炉としても運用できるが、どうでもいいことだな。…………ふむ、これはもう仕舞おう。興味も失せた」

 

 嘆息をこぼしながらギルガメッシュはパチンと軽く指を鳴らした。直後、聖杯の真下に黄金の波紋が生まれ、この場を照らしていた黄金の杯は波紋の中へと落ちていった。

 その光景を征服王が名残惜しそうに見ていたが、直ぐに彼は表情を切り替えいつも通りの暑苦しい笑顔を浮かべる。切り替えの速さも彼が征服王たる所以か。

 

「――――ん? ちょっと待てよ。という事は、余たちが得ようとしている聖杯も使う者を選ぶということでは無いのか?」

「そのための聖杯戦争だろうよ。勝ち残った一組を聖杯が相応しい者として選ぶ――――そう考えれば辻褄は合うが……貴様の意見はどうなのだ、キャスター?」

「えーと……そうだね~。――――まず大前提から言ってみようか」

 

 手にしていた酒器を卓上に置き、少し酔ったのかアルフェリアは紅潮した頬を掻く。その仕草だけで一枚の絵画に収めてもいいような美しさ。ギルガメッシュも内心で「流石我が惚れた女」と称える。本人がその称賛に気付くことは永遠にないと知っているのかは知らないが。

 

「そもそもさ、どうして私たちは此処に居ると思う?」

「は? そりゃ聖杯によって召喚され――――」

「あー、だから、『どうして聖杯に英霊(私たち)が召喚できるのか』って話だよ。確かに聖杯は万能の願望機だ。――――だけど聖杯に私たち死者を現世に召喚する理由も無ければ、義理も、道理もない。例え意思じみた物があったとしても、聖杯が死者を召喚するのは本来あり得ないんだよ。可能不可能の論議はさておき、ね。もし相応しい者を召喚したければ、『かつての持ち主』でも召喚すればいい。なのに呼ばれたのは私たち、理由は何だと思う?」

「それは…………どうしてだ?」

「あはは、答えは簡単だよ征服王。だって――――」

 

 笑みを崩さないまま、アルフェリアは『答え』を告げる。

 ほぼ全てのサーヴァントにとって衝撃の事実となる真実を。

 

 

 

 

 

「――――冬木の聖杯は偽物だからね」

 

 

 

 

 

 さらりと告げられたその言葉に、何人かが顔を青くして息を呑んだ。

 

『――――――――!?!?』

 

 求めている聖杯が偽物。そう聞かされれば焦らない者がいないはずがない。特に聖杯への執着が大きかったアルトリアなどは明らかに狼狽していた。元々不安定だった心がさらに混濁し始めたことで、彼女の顔が徐々に暗くなり始める。

 それを見たアルフェリアが本当に困ったような表情を浮かべた。彼女としても、妹を悲しませるのは本意ではないのだろう。しかしこれは事実。早かれ遅かれ知ることになる真実だ。そう割り切って、アルフェリアは言葉を続けた。

 

「偽物と言ってもその力は本物だよ。聖杯の正体は遠坂、まと……、いや、マキリ、アインツベルンが作り出した”第三魔法”を利用した魔術礼装。理想郷(ユートピア)にあるという万能の釜を再現した物。聖杯という名前は借り物に過ぎない、真の”聖杯”とも呼べない代物だよ。で、英霊を召喚するのはその礼装に組み込まれた一つのシステム。令呪も同様にね」

「しかし、願いは叶えられるのだろう?」

「まーね。でも残念ながら、願望機としての機能を使うには大量の魔力が必要なんだ。………脱落したサーヴァントの魂が」

「…………なんと」

 

 ライダーが驚愕の言葉を漏らす。自分たちが『生贄』だと知らされれば、驚かない方がどうかしてるか。

 

 そして特に――――この場に居るサーヴァント以外の存在、表向きはアヴェンジャーのマスターだと認識されているアイリスフィールが、料理のソースを口周りに付けた顔でアルフェリアを見ていた。顔からは大量の脂汗が滲み出ており、明らかに焦っているのが分かる。

 

 御三家最高機密がこんな場所で垂れ流されていれば――――というより、御三家以外知ることもできやしない情報を他陣営が、しかもサーヴァントが把握している事実を知らしめられたのだ。

 彼女の気持ちは、例えるならば核ミサイルの発射コードを敵軍にスピーカ付き大音量で流されている大統領の気持ちだと言えばわかりやすい。

 

「キャスター…………どうして、それを……!?」

「どうしてって、忘れたの? ――――私、キャスターのサーヴァントだよ?」

 

 手を広げながら、さも当り前の如く言うアルフェリア。御三家が結集して作り上げた、魔法の域に存在する現代最高峰の魔術礼装に対してその言い草。アイリスフィールは無意識のうちに身震いする。まるで「知らないとでも思っていたのか?」と言われたように。

 

 実際は、転生前の知識という想像もできない情報源から得た情報なのだが。それでもアルフェリアは「知っている」という立場を最大限に利用し、敵陣営に最大級の重圧をかけて見せた。

 ”全て知っている”――――言葉にすると簡単だが、主催者陣営からすればこれ以上の威圧は存在しない。

 

 何せ、最重要機密である『聖杯戦争の”真の目的”』も知っているという事なのだから。

 

「ま、結論としては聖遺物とも呼べない何かだけど、願いを叶える力は本物だから心配しないでね、ってこと。細かいことを知りたければ、後は自分で調べなさいな」

 

 と、無駄に情報を全て流さない様にアルフェリアはそこで話を叩き切った。これ以上情報を出す気はない、という意思表示だと、少なくともアイリスフィールはそう受け取った。

 

 長々と話を聞いたサーヴァントの一人であるライダーは、少しだけ顎を撫でた後にいつも通りの呆気からんとした態度で、

 

「ふむ…………ならば、余としては何も問題は無いな。願いを叶えられるのならば、それが聖なる遺物であろうが魔術師たちが作り上げた道具だろうが、さして変わらんからな」

 

 自分たちを贄にして願いを叶えるという外法について特に不満が無いと述べた。

 弱肉強食。強き者が弱き者を制し、勝者となるという理を体現した彼だからこそ、か。そも彼は敵にとっての略奪者。持ちモノだけでなく魂まで略奪するという意味合いでは、この回答は彼らしいと言えなくもない。

 

「ハッ、偽物の聖杯であれ、それが『宝』である限り我の所有物であることは変わりはせん。我は今まで通り、我の宝物を奪おうとする不届きものに誅を下すだけよ」

 

 ギルガメッシュも同様、先程と打って変わらない傲慢な態度を貫き通す。彼からして見れば自身の敗北などあり得ない故に、魂を贄にされるなど気にする必要は無い、という事だろう。これもこれで彼らしい理由だ。

 

 他の者達は多少ながら衝撃を受けているというのにこの態度。己を曲げない姿勢は王として必要な要素なのだろうが、ここまで真っ直ぐだと最早清々しい何かを感じる。

 

 これが征服王、英雄王という『王』の在り方。

 

 アルフェリアは二人の豪胆さに若干苦笑しながら、逸れてしまった話を戻していく。

 

 元々この宴会は『互いの願望を聞き、誰がより一番ふさわしいか』という旨の問答を行う場。それをするために集まったのに飲み食いして願望機の仕組みを聞くだけに終わったとなれば、少々格好がつかないだろう。

 

「そっか、じゃあ話を戻そうか。確か、皆の願いを聞くんだっけ?」

「その通り! ではアーチャー、まず貴様から自身の懐を語ってもらおうか。貴様も『王』という存在ならば、まさか己の理想や渇望を他者へと語るのを憚りはしまい」

「勝手に仕切るな、雑種。……そうさな、我自身に願いなど無い。そんな物、とうの昔に叶え尽くした。故に我がこの聖杯戦争に参加した理由は先程も言った通り、我の財を盗もうとする賊を処罰するためだ」

「つまり、なんだ? 聖杯に掲げる願いなど無いと? なら貴様の行いにどんな義があり、どんな道理がある?」

「法だ」

 

 ギルガメッシュはライダーの問いに即答した。その返答に一切の迷いも偽りも無い。

 

「我が王として敷いた、我の法だ」

「ふむ…………」

 

 答えを聞いたライダーは、観念したように深々と嘆息をつく。

 傍から聞けば理不尽極まりない答えだが、同じ王という立場にある征服王からすればこれこそが『正解』に位置する答えだったのだ。

 

「完璧だな。自らの法を貫いてこそ、王。だがなぁ英雄王、余は聖杯が欲しくて仕方ないんだよ。で、欲した以上は略奪するのが余の流儀だ。なんせこのイスカンダルは征服王であるが故」

「是非もあるまい。お前が犯し、我が裁く。問答の余地などどこにもない。――――でだ、征服王よ。そういう貴様は何を願う? 我の財を略奪しようとしているのだ。下らん願いならば、この場で我に斬り捨てられても文句は言えんぞ?」

「あー、それはなぁ……はは」

 

 何故か照れくさそうに笑いながら、ライダーは一度酒を煽り、彼の姿では考えられないほどの小さな声で答えを返す。誰も想像して居なかった――――答えを知っていたアルフェリアを除いて――――答えを。

 

「…………受肉だ」

「はぁ?」

 

 ライダーの答えにギルガメッシュは珍妙な顔を浮かべ、征服王のマスターであるウェイバーは無言で動かしていた食事の手をピタリと止めて引き攣った形相で彼に詰め寄る。

 

「おおお、お前! 望みは世界征服だったんじゃ――――ぎゃわぶっ!?」

 

 しかしウェイバーはデコピン一発で吹っ飛ばされる。果たして彼の脳細胞は今ので一体どれぐらい死滅してしまったのだろうか。そんなことは気にも留めず、自分のマスターを吹き飛ばしたライダーは軽く肩をすくめる。

 

「馬鹿者。たかが杯なんぞに世界を獲らせてどうする? 征服は己自身に託す夢! 聖杯に託す願いは、そのための第一歩に過ぎん」

「雑種……まさかそんな下らない事のために、我に挑むのか?」

「おうよ! これは征服王たる余の在り方その物。征服し、略奪し、先へと進む。そして後からついてくる者達にその背を見せ、『自身もまた王たらん』と夢を抱かせる! 即ちイスカンダルの王道。そのために余はこの世界に一個の生命として根を降ろす。これを下らないと評するのならば、まずは貴様から余の覇道を味わってみることだな、英雄王よ」

 

 最後まで言いたいことを言い切ったライダーは満足そうな顔で浮かせていた腰を椅子に戻す。そしてそれを聞き届けたギルガメッシュはただ黙々と料理を食して――――いや、少しだけ笑みを浮かべていた。今までの嘲笑の物とは少し異なる、空恐ろしい笑みを。

 

「ククッ……我に挑みたければ何時でも挑んでくるがいい。我は負けんがな」

「無論、そのつもりだ。――――では、他に自身の望みを言いたい奴はおらぬか? ほれ、そこの金髪のセイバーよ。料理ばかり食してないで、何か言ってみるがよい」

「あァ? 俺か?」

 

 料理に夢中になっていたモードレッドに話が転がっていく。しかし本人は全く興味ない、というかそもそも彼女はアルフェリアの料理目当てでここに来ただけで、別に何かを語るつもりは一切なかった。なので急に話を振られても困るというか、話すことなど何もない。

 

 なので――――凄まじく簡潔な答えが出てくるのは必然であった。

 

「無いぞ」

「は?」

「だから無ぇよ、望みなんて。まぁ確かに姉上と一緒にのんびり暮らしたいっていう願いはあったが……もう間に合ってるし、正直聖杯への興味なんてもう微塵もありゃしない」

「無欲の奴よのぅ。もう少しこう……なんかあるだろう?」

「あ~……んじゃ受肉で。姉上と一緒に世界旅行とか、面白そう!」

 

 何処まで行ってもモードレッドは姉上(アルフェリア)中心である。これを微笑ましい物と捉えるべきか、色々手遅れのシスコンと捉えるべきか。深く考えたくなければ前者がお勧めだ。

 

「じゃランスロ、次お前な」

「? 私ですか。と、言われましても……天寿を全うした身としては、正直思いつかないというか」

 

 次に話を振られたランスロットも、少し困ったような表情で話を濁す。

 

 かつての望みが『生前自分が救えなかった人間に裁かれたい』という、色々どうしようもない望みであった彼だが、今ではすっかり心変わりしてそんな歪な望みは消えている。

 現在の彼としては、聖杯戦争に巻き込まれた少女である氷室鐘を聖杯戦争が終わるまで守り抜くことが望みなのだろうが――――ここで言うことでは無いと判断して、ランスロットは適当に話を誤魔化して次の者へと回した。

 

 きっと「ランスロリコン」などと弄られるのを回避したくて適当に流したわけでは無いだろう。たぶん。

 

「ルーラー、お任せしました」

「えっ、私ですか。――――んん、私はあくまで中立役。ルーラー故に、願いなどありません。そもそもルーラーに選ばれる条件として『現世に何の望みもない事』が存在しており――――」

「カット、話が長い。次、ランサーな」

「ちょっ!?」

 

 長々と語り出しそうなルーラーを遮り、モードレッドが強制的にランサーへと話を投げた。横でルーラーが涙目で訴えているが、当然の如く無視される。不憫、実に不憫。

 

 そんなルーラーにもついに救いの手が差し伸べられる。少し離れた席に居たであろうアルフェリアが彼女に歩み寄り、その頭を撫で始めたのだった。始めは中立役とかそんないいわけで逃れようとするが、抵抗空しくアルフェリアの魔の手(ナデナデ)からは逃げられなかった。

 

 体も心もキリキリと痛む所に現れた聖母(アルフェリア)。涙しながらルーラーはもう中立とか監査とかそう言うのをかなぐり捨て、自分を包む温もりに身を任せる。自分の役目は忘れていないだろうか。忘れてないといいな(願望)。

 

 あとそれを見たアルトリアが背後から憎悪の炎を燃え滾らせているのは、きっと気のせいだろう。「姉さんは私だけのモノ」と何処か上ずった声でぶつぶつ言ってるのも、きっと気のせいだろう。気のせいだ。

 

「俺の望みか? あ~、聖杯に託す願いは無ぇ。強いて言うなら強い奴と戦いたい、それだけだ」

「フハハッ! 何とも野蛮な願望よな、狂犬め」

「――――テメェを此処でぶち殺してもいいんだぜ? 英雄王サマよォ。今回はマスターの腕がいいから『鎧』も持ってこれたんだ。お前ならぶっ殺し甲斐がありそうだ」

「できる物ならやってみるがいい、太陽神の子よ。狗風情には無理だろうがな」

「チッ……一々人の神経逆撫でしやがって。いつか絶対にその心臓に呪槍をぶち込んでやる」

 

 悪態をついて、ランサーは舌打ちしながら酒器の酒をグイッと飲み干す。人として相性が悪いギルガメッシュと同席して争いが起こっていないだけまだ良いのだろうが、もし戦闘禁止令が無ければ即座に殺し合いが始まっても可笑しくない空気が二人の間では散っていた。もしかしたら色々因縁じみた何かでも感じているのかもしれない。

 

 例えば教会で半日以上戦ったり、折角の釣りを邪魔されたり、月の裏側辺りでドンパチやり合って結果激辛麻婆を食わされる羽目になったり。改めて見ると碌なことが全くない。そういう意味では互いに嫌って当然か。

 

「つーわけで、俺からは以上だ。オラ、次は任せたぞキャスター」

「次は私か。私もライダーと同じく受肉だよ。本当の願いを叶えるための第一歩、かな?」

「本当の願い?」

 

 この場の全員が静まり返る。

 

 稀代の魔術師――――本人は魔術使いと自称しているが――――が言う『本当の願い』というモノが何なのか想像がつかないのだろう。身内であるモードレッドやランスロット、アルトリアでさえただならぬ顔でアルフェリアを凝視している。

 事実、彼女の願いは誰も想像できないモノだった。

 

 

 

「――――円卓の騎士総員の再臨とその受肉。第二の故郷(ブリテン)現世(ココ)に建てることだよ」

 

 

 

 ――――建国。遥か千五百年前に滅んだ国をもう一度立て直すと、彼女は宣言したのであった。

 

 彼女の願いを聞いた全ての者は時間が止まった様に動きを止め、ギルガメッシュなど茫然とした顔で固まっていた。滅多に見れないであろう英雄王の絶句である。それはそうだ。何せ受肉するだけに留まらず、現代にて国を建てるとアルフェリアは決意に近い声音で告げたのだ。

 そしてついに、止まっていた時間は動き出す。

 

「プッ――――フーハッハッハッハッハッハ!! キャスターよ、国を建てると言ったのか! 成程そいつは名案だ。己の故郷が滅んだのならば、滅んだ故郷をもう一度建て直す。清々しいまでの模範解答だ! あまりに清々しすぎて笑いすら込み上げてきたぞ!」

「茶化さないでよ、ギルガメッシュ。これでも私、結構真剣なんだよ?」

「わかっているとも! 貴様の声には嘘偽りなど微塵も存在しない。だからこそ笑ったのだ。まさか、ここまで肝の座った傑物だったとは…………益々気に入った。必ず貴様を手に入れて見せるぞ、キャスター」

「…………厄介な男に付きまとわれる女の気分が、今ようやく理解出来た気がする」

 

 アルフェリアがギルガメッシュの唯我独尊っぷりに呆れながら台詞を終える。

 彼女の願いを聞いた征服王も満足そうな笑みで頷き、残った最後の者――――アヴェンジャー、アルトリアへと視線を向けた。

 征服王の視線を受けたアルトリアはどこか暗い顔で俯く。よく見れば肩も震えており、何かに怯えているような様子であった。この場で恐れる要素など何もないというのに、一体どうしたのか? と征服王は首を傾げた。

 

「おい、どうした騎士王。まさか寒いわけでもあるまい」

「―――――――ない」

「ん?」

 

 震える声で、彼女は自身の本心を告げた。

 

 

「――――自分が本当は何を願っているのか、わからない…………っ!!」

 

 

 その声は懺悔、後悔、悲壮――――あらゆる『哀』の感情を詰め込んだような声音だった。心の底から不安を覚えている、そんな声。自分が何を願っているのかもわからず、何をしたいのかも理解出来ない。アルトリアは今、自己の存在意義と理由の崩壊に立ち会っていたのだ。

 

 姉に否定されるまでは、『選定のやり直し』という過去改変の願いを抱いていた。しかし今それを否定され、今まで抱いていた願いが間違いなら、正しい願いは一体何なのか、アルトリアには全く思いつかなかった。

 自己の幸福のため、何を願うべきか、何をすべきか。その答えが全く見つからない。なのにどうして自分は此処に居る? なぜ自分は、生きている? ――――アヴェンジャーになった影響と宝具による狂化の反動。それらが絶妙なまでに絡み合い、不安定だったアルトリアの心の天秤の均衡を更に狂わせていく。

 

「……少なくとも、自分の幸せのための願いだった。故国を滅亡の運命から救えば、それは果たされるはずだと信じていた。だが……それは間違いだと説かれた。なら――――私は何を願えばいい……? 今まで抱いていたのが間違った願いだったなら、正しい願いとは何だ?」

「アルトリア……」

 

 正しいと思っていたことが間違っていた。――――なら正しいことは、何だ。そう自問自答し、彼女は答えにたどり着けなかった。だからこそ、自分でたどり着けなかったからこそアルトリアは他者へと問いを投げる。

 

「…………アルトリア、貴女の願いを否定した私が言えることじゃないと思うけど――――個人の願いの良し悪しなんて、結局はその個人が決めることなんだよ」

「姉……さん?」

「……私の意見は答えじゃない(・・・・・・・・・・・)よ、アル」

「っ…………」

 

 そう、アルフェリアの指摘は飽くまで『一つの意見』であって『答え』ではない。アルフェリアは助言のつもりで『その願いは間違ってる』と言ったのだ。他者の言葉が答えになるなどあり得ない。答えは自分自身で見出す物――――それをアルトリアは失念していた。

 

「私が貴方の願いを否定したのは、私にとって『過去改変』という願いが受け入れられないだけ。それでも貴女がそれを『良し』とするなら、それは貴方にとっては『正しい願い』なの。……だから、自分の願いの正否は自分自身で決めなければならない。他人にそれを委ねたら、貴女は人形になってしまう」

「では……私はどうすればいいのですか!? 正しいとも間違ってるとも思えないこの願いを……どう整理すればいいのですか…………!! わからないんですよ、何もかも……!」

「――――自分なりの『ケジメ』をつけなさい。私には、それしか言えない」

「姉さん…………!」

 

 冷たくも取れる言葉で、アルフェリアはアルトリアを突き離す。しかしそれは、必要なことだった。もしアルトリアが全ての選択を他人に委ねてしまえば、彼女はもう『人間』ですらなくなる。人としての最低限の矜恃すら消えてしまうのだ。そんなこと、アルトリアを一番想っている彼女が耐えられるはずもない。

 

 しかしアルトリアにとってはその言葉は、一筋の蜘蛛の糸を斬り裂く鋭い風であった。半ば自暴自棄気味に、アルトリアは歯噛みして席から立ち上がる。この場所に、居づらいと感じてしまったのだ。

 

「……申し訳ありません、姉さん。今の私はやはり……貴女に、顔向けできない」

「…………………………」

 

 義理とはいえ、姉妹の間で流れるとは思えない暗い空気が漂う。

 

 そんな時に、不意に征服王が複雑そうな顔で手を上げる。恐らく気を効かせようとしたつもりなのだろうが――――その後の発言は火に油を注ぐ行為に他ならなかった。

 

「騎士王よ、余の意見であればここで言っても構わんぞ?」

「……何だ、征服王」

「貴様の願いは間違っておる、と言いたいのだ」

「…………理由を言え」

 

 空気がより一層冷え込む。たださえ液体窒素をばら撒いた様に寒気がする、白け切ったこの場。絶対零度の憤怒の炎が静かに燃え出していくのを、一部のマスターたちは背筋につららをぶちこまれたような悪寒を味わいながら眺める。

 

「貴様の行いは、自身が歴史に刻んだ行いを否定する物で相違ないな」

「そうだ。私は身を挺して、故国の繁栄を願った。平和を、安寧を、幸福を。……都合のいい理想を掲げ、全ての死を無駄にした。ならば、変えるべきだろう。そうでなければ死んでいった者達の思いが報われない……!」

「それは違うぞ騎士王。王とは捧げる物では無い。民が、国が、王に捧げるのだ。断じてその逆では無い」

「ふざけるな。それは暴君の治世だろう……!!!」

「然り。我らは暴君であるが故に英雄だ。……だがな、自らの治世を、その結末を悔やむ王が居たとしたら、そいつはただの暗君だ。暴君よりなお始末が悪い」

 

 いつにもなく不機嫌そうに、ライダーは眉間にしわ寄せ正面からアルトリアの考えを否定した。

 確かに、己の行いを悔やみ、共に歩んできた全ての臣下の意を否定するとなればそれは暗君に他ならない。積み上げてきた努力を独りで『無意味』と断じ、全てを壊してやり直そうとしているのだから。

 

 ――――しかしそれは、失言中の失言だった。

 

 

 

 

「ハッ――――アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」

 

 

 

 

 ライダーの意見に何を見たのか、アルトリアは狂ったように嘲笑を浮かべる。

 そこには決して喜色など存在しない。あるのはただ一つ――――征服王イスカンダルへの侮蔑の心のみであった。

 

「暗君? ああ、そう見えるか暴君風情(・・・・)が。さぞ楽しかっただろうな。オケアノスへの夢を見て、同じ夢を見る臣下を引きつれ、夢を見たまま果てた(・・・・・・・・・)貴様にはなあァッ!!」

「―――、―――――」

「私たちは夢を見ることすら許されなかった。明日という物に希望を抱くことすら許されなかった!! 決戦の後何が起こったか貴様にはわかるか? 飢餓、反乱、虐殺、戦争、凍死、絶望…………こんな物しか訪れない明日に、希望を抱けと? 夢を見ろと? 後悔するなと? ――――ふざけているのか(・・・・・・・・)?? 貴様ならこんな状況で夢を見て、民を連れて、あるかどうかもわからない物に夢見て大冒険に旅立てるか? 答えろ征服王ッ…………!! これ以上戯言を述べ立てるならば、今宵は生きて帰れると思わないことだなァッ…………!!!!」

 

 震える右手に黒い魔力を漂わせながら、アルトリアは過去最高級の殺気を放ちながら征服王を睨みつける。視線で生物を殺せるのではないかと錯覚するほどの殺意。逆鱗中の逆鱗に触れてしまった以上、それは当たり前の結末であった。

 地獄を見た彼女に、あの結果を『悔いるな』といえばどうなるかは御覧の通りだろう。全てを奪われ、絶望の淵に叩き落され、挙句の果てに蔑称を突きつけられた。――――これで激怒しないわけがない。

 

 此処で擁護しておくと、何もイスカンダルの王道が間違っているということでは無い。彼の国では彼の王道こそが正解だったという話だ。

 数々の悪環境と間の悪さで疲弊しきっていたブリテンの民と違って、マケドニアの民は裕福で栄華の真っただ中。そんなマケドニアに必要だったのは国の中に渦巻く欲望を一点に導く王だった。爆発的な欲望を一身に受け、勝利という栄光を背にその足で夢へと駆け続けるイスカンダルの様な王が。

 

 だがそんな王がブリテンに居ても、意味はない。むしろ状況は悪化する。決戦前の裕福な状態のブリテンならともかく、アルフェリアという心臓を失ったブリテンにおいて彼の王道はむしろ爆弾にしかなりえない。故に、彼は間違ってもいるし、正しくもある。

 

 王道は千差万別。アルトリアにはアルトリアの、イスカンダルにはイスカンダルの王道が存在している。それは己の国にあった王道であり、決して他国に持ちこみ比較するべき代物では無い。言うなれば一メートルと一リットルを比べるような支離滅裂な比較なのだ。どちらが優れているか、という単純な話では無い。そもそも比べる行為自体が烏滸がましいのだ。

 

 今回のイスカンダルの失言は酔った影響か、それとも素なのかは知らないが、視野が狭くなっていたのが原因だ。王道とは比べる物にあらず。しかしそれを忘れ、彼は自分から触れてはいけない竜の逆鱗を踏み抜いた。

 自業自得とも言えるが――――アルトリアもアルトリアで、少々気が立っていたことも原因であることを忘れてはいけない。

 

「…………申し訳ない。言い過ぎた。……今日はもう、帰ります」

 

 完全に凍り付いた場を背に、アルトリアは死人の様な足取りで宴会の場を後にした。

 真っ向からアルトリアの殺気を受けたイスカンダルは、何とも言えない複雑ここに極まれりといった顔で、無言で酒を煽る。あのライダーですらここまで萎む殺気なのだから、直接受けていないとはいえそれを浴びた周りの者の空気がどうなっているかはもうお察し状態。

 

 ――――まるでお通夜の様な陰鬱な雰囲気が、場に満ちていた。

 

 十数分前までは正しく宴会と言った風に盛り上がっていたというのにこの落差。触れてはいけないところに触れてしまった以上この結果は仕方ないと言えるが、もうこの状態では先程の空気を取り戻すのは無理だろう。変わらない美味な料理がせめてもの救いか。

 

 そんな時、場に変化が訪れる。

 

 遠方から聞こえる爆発音という形で。

 

 

『!?』

 

 

 平穏が約束された日など無い。約束は何時だって破られるために存在している。

 

 月が照らす真夜中に、爆炎と轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 




正直アルトリアはアルフェさんと合流させてもよかったんだけど、味気ないというかまだ狂気が抜けきってないというか・・・焦らしプレイ?(いや違うか

余談ですが、投稿が遅れた理由は

・夏バテでやる気/zero状態。マジ怠いです。
・ベルセリアやってましたゴメンネ(テヘペロ☆
・イベント進行(とりあえずメインクレだけでもクリア)
・ガチャガチャガチャガチャ・・・
・学校の宿題等々

ですね。正直ここまで送れるとは思わなんだ。でも本番は三日目からだから、前哨戦ってモチベ上がんないというか・・・そろそろ疲れてきた。どうしよう(;´・ω・)

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