・・・いやぁ、INOSHISHIは強敵でしたね・・・たぶん今回のイベントで一番トラウマを抉られたのはディルムッドだと思う。うん(;´・ω・)
で、気になるガチャの結果ですが、なんと、四体の諭吉を生贄に――――!!
アンメア(弓):三体
きよひー(槍):三体
サモさん(騎):零枚
タマモちゃんサマー:一枚
(´・ω・)・・・・いや、結果だけ見れば大勝利かもよ?うん。そうかもね。☆5一体に☆4六体だもんね。でもね、私はね――――
モーさんが欲しかったんじゃァァァァァぁああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!何故じゃァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!物欲センサーめェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!(血涙)
追記
誤字修正しました(賢者タイム)
昼時。
冬木市の外国人居住区に身を隠している――――もとい居候しているウェイバー・ベルベットは現在げっそりとした顔で深いため息を吐いていた。
理由は二つ。
一つ目は、今は聖杯戦争中であり、いつどこでどうやって狙われるかわからない以上普通ならもっと身の周りを警戒して工房に籠って身を守らなければならないのに、こうして自身のサーヴァントと一緒に『ズボンを買う』などというウェイバーからしてみれば無駄極まりない行為をしたためだ。
ウェイバーが背後を見ればズボンが入って大満足そうな、デカデカと『大戦略』とプリントされた、今にも弾け跳びそうなほどぴっちりなTシャツを着たサーヴァント、ライダーがご機嫌そうに笑顔を浮かべていた。
「……サーヴァントのズボンを買いに歩くマスターなんて、僕くらいの物だろうね」
「ん? どうした坊主? お、もしや坊主もこのTシャツが欲しくなって――――」
「んなわけあるか! 誰が欲しがるって言うんだよ、そんなダサいTシャツ!」
「むぅ、かなり格好いいと思うんだがな~余は」
サーヴァントとは昼間は霊体化するもの。現界するための魔力消費を抑えるためにも、それは当然である。戦いもしない昼間からサーヴァントを実体化させるなんて事に意味はないし、無駄に魔力を散らすならばそちらの方が戦略的に正解だろう。
だというのにライダーは今こうして堂々と実体化して、そして街中を出歩いている。しかもサーヴァントには不要だろう服も着て。
他のマスターが見れば、ウェイバーやライダーの頭は正気なのかと疑うレベルだ。
ただ、彼ら以外のもう一つの陣営はそれを当り前の様に行っているのであるが。
「……本当に、サーヴァントを討ち取ってくれるんだろうな?」
「勿論だ。余に二言はない。……とはいえ、今日は暴れられんらしいがな」
「そうだ。だからお前も、少しは『大人しくする』っていう事を覚えた方がいいぞ、ライダー」
サーヴァントを討ち取る。それがウェイバーが出したライダーのズボンを買う条件であった。
しかしそれは監督役が早朝に発表した『二日目における戦闘禁止令』により一日ほど先延ばしになっている。それ自体は間が悪かった、としか言いようがないので仕方ない。夜になっても暴れられないライダーは少し残念がってはいたのだが。
しかし、そのおかげでウェイバーはアサシンへの警戒を緩め、こうして外を出歩けているわけなのだから、何も悪いことだらけでは無い。
「むぅ……それで坊主、お前さんはそこで一体何をやっておる?」
「これか? 別に、そう難しい事はしてないさ」
ウェイバーは現在、緑地公園という名の雑木林に来ていた。此処は、ウェイバーがライダーを召喚した場所。そこそこの霊地であるここでウェイバーが何をしているかと言えば、答えは単純。ただの霊脈の解析だ。
この場所はライダーにとって一番回復効率がいい場所である。つまりこの場所の霊脈が崩されると、ライダーが魔力を効率よく回復できる手段が一つ消えてしまうという事。それを防ぐ、というより事前に察知するためにもウェイバーはこの場所に異常がないか小まめに確かめることにしたのだ。
霊脈の解析と言ってもそこまで難しいわけでは無い。調合した薬品を染み込ませた紙と確かめる場所が描かれた地図があれば現地で誰でも簡単にできる、お手軽解析方法だ。……実際には、魔術師としてかなり未熟なウェイバーではこれしか使えないというのが理由ではあるのだが。
それでも集中を乱さず、ウェイバーは可能な限り正確に周辺の霊脈の様子を確かめていく。
五分ほど経った頃だろうか、黒い染みとして霊脈が薬品を染み込ませた紙に移り終わった。そしてウェイバーはポケットに入れていたもう一つの紙――――ライダーを召喚する前の霊脈を記した紙と、今出来上がった紙を見比べてみる。
「――――これは……」
「何だ坊主、何か見つかったのか?」
「ああ。見ろよ、コレ」
軽く汗を流しながら、ウェイバーはライダーに紙を見せながらある一点を指で叩く。
そこは、明らかに前の状態と比べて変化して居る場所であった。霊脈とは一日二日でそう劇的な変化は遂げない。つまり短期間で変化した以上、誰かの手が加えられていること。そして霊脈の流れを変えるなど一流魔術師でもそう簡単にできることでは無い。そこから導き出される結論は――――
「キャスターの仕業だ。きっと霊脈の流れを曲げて、自分の拠点に集めてるんだ」
「坊主、それは真か?」
「少なくとも僕は、霊脈が数日経った程度でこんなに変わる話なんて聞いたことないね。たぶん、見つかる可能性は高い」
「つまり、この変化した霊脈とやらを辿れば」
「キャスターの拠点が見つかるって事だ!」
偶然とはいえ、運よく敵の拠点が見つかる可能性が高いという事でウェイバーは素直に喜んだ。こんな魔術師としては初歩の初歩的な方法とはいえ、聖杯戦争で最も重要な『情報』を得られたというのは大きい。
「よォし、居場所さえ掴めりゃこっちのもんだ。なぁ坊主、早速殴り込むとするか」
「そりゃ勿ろ――――ハァッ!?」
流れで頷きかけてしまったウェイバーだったが、ライダーが凄まじいことを言っていることに数秒経ってようやく気が好き、その顔を驚愕に歪ませる。
当然だ。何せキャスターの拠点に何の対策も無しに突っ込むと言っているのだから。
「待てコラ。敵はキャスターだっての。いきなり攻め込む馬鹿がいるか」
キャスターというのは正面からの戦闘に置いては最弱のクラスである。しかしキャスターの持つスキル『陣地作成』の能力で、拠点内での戦闘に置いては最高のアドバンテージを得たまま戦闘を行うことが可能なのだ。例えるならば蜘蛛の巣。一度入ってしまえば、絡まれば解くのが容易でない蜘蛛の糸が問答無用でこちらを捕えにやってくる。わざわざそんなところに行くのは愚図のやる愚行だ。
軍事に優れた逸話のあるライダーもそれを理解しているはずなのに、それでもこの巨漢のサーヴァントは一切の迷いがない。本気でやるつもりだとウェイバーは理解し、思わず顔面を蒼白にした。
「あのな、戦において陣というのは刻一刻と位置を変えていくもんだ。位置を掴んだ敵は速やかに叩かねば、取り逃がした後で後悔しても遅いのだ。それに、別に戦いに行くわけではない。少々提案をな」
「相手は霊脈すら単独で捻じ曲げる超一級のキャスターだぞ!? そんな奴が張ってる工房に何の策も無しに攻め込むなんて正気かよライダー!? ていうか今日は戦闘が禁止されてるって言ったばかりだろ! 提案だか何だか知らないけどな、少しは穏やかに――――」
「征服王イスカンダルが、この一斬にて覇権を問う!」
「ひっとっのっはっなっしを聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇえっ!?」
いつの間にか片手に剣を具現化していたライダーは、何もない空間にその剣を振り降ろした。
瞬間――――晴れていた空から莫大な轟雷が雑木林の中に降り注いだ。
そして何もなかった虚空より現れたのは、二頭の牡牛と巨大な
一体こんな場所で、そして昼間に呼び出して何をするつもりだ、と思ったウェイバーであったが、先程のライダーの話を思い出して青白かった顔が今度は真っ白へと変わる。
「では、往くぞ坊主!」
そう言われて襟首を掴まれたウェイバーの心境はどんな物なのだろうか。
「待て待て待て待てぇっ! こんな昼間から空を飛ぶつもりかよお前ぇ!?」
「なんだ。何か問題があるのか?」
「人目につくからに決まってるだろ、馬鹿ぁっ!」
「そんなもん、見えないぐらいに高く飛べばいい話だろう」
「飛び散る電撃とかはどう隠すつもりなん――――だのぶらっ!?」
問答無用でライダーは戦車を発進させた。
当然ながら、飛び散る雷撃や轟音はしっかり目立っている。恐らくライダーの頭には神秘の隠匿などという考えは欠片も存在してないのだろう。生前世界征服をやろうとした彼にそんなことを言っても無駄だろうが。
「さぁ坊主! 折角だし雲の上にでも登ってみるとするか!」
「誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ウェイバーのそんな悲痛な悲鳴は、冬木市の緑地公園に木霊した。
後に『空から響く少年の声』として冬木市七不思議として数えられたとかなかったとか。
◆◆◆◆◆◆
商店街で食料の買い出しを終え、ついでに行き倒れていたルーラー(仮)を拾ったアルフェリア等は十二時ごろに自分たちの拠点へと戻っていた。
各々の買いたい物を買った者達はかなり満足げな表情で、自分たちの買った物を眺めている。
「うまうま~」
「ん~! タイ焼き美味いです!」
「……団子も悪くないけど、やっぱり私は羊羹かしら。お茶によく合うわ」
例えばモードレッド、ハク、ミルフェルージュたちは和菓子の入った大きな紙袋を並べて、実に満足そうな顔でタイ焼き、団子、せんべい、羊羹などをバクバク食べていた。昼食前だというのに全く遠慮がない。
モードレッドはサーヴァントなので魔力を消費し食物を消化できるし、ハクは元が竜種なので一杯食べるし、ミルフェルージュはただ単純に食物を魔力へと還元しているので理論上はいくらでも食べられるので昼食前に腹いっぱいになる心配は要らないだろう。
女性としてはアウトなのだが。
「ムサシ・ミヤモトの二天一流……長さの違う得物を巧みに操る多対一の剣術、実に興味深いですね。素晴らしい書物だ」
「
そしてランスロット、氷室の二人は買ってきた古本を熟読していた。ランスロットは彼の剣豪宮本武蔵が綴った『五輪書』、氷室は日本最古の歴史書である『古事記』。中々渋い選択である。特に後者、とても子供が読むとは思えない本だ。というかどうして読めているのだろうか。
「おじさん、ほら、芋虫のお人形さん。可愛い?」
「あ、あはは……か、可愛い、かな? うん、桜ちゃんが選んだんだから、きっと可愛いと思う」
「うん!」
別の場所では桜が無意識に雁夜のトラウマスイッチを入れて、しかし親子の様にほのぼのとした空間を作り上げていた。トラウマとは勿論虫の事。今はもう体が健康体に近付いて行っているとはいえ、一年に及び散々体のそこかしこを食い貪られた雁夜からすれば、芋虫などの丸い虫は嫌悪の対象だった。
それを意識しているのかしていないのか、桜は的確に突いていく。しかし可愛い義娘が笑顔を浮かべているのだから怒るに怒れない雁夜。彼にはぜひこれを機にトラウマを克服してもらいたい物である。
と、此処で重要なことを一つ言おう。
――――この拠点に居る殆どの者が、今は聖杯戦争中だという事を完全に忘れていた。
あんまりにも平和すぎるので仕方ないと言えば仕方ないが、あの悪名高い聖杯戦争が繰り広げられている最中だというのにこの平和さ。他のマスターが見れば「何だこれは」と無意識にも呟くだろう異常状態である。問題としては当事者たちが全く異常事態と思っていないことなのだが。
そしてそんな状態を、聖杯戦争の審判役であるルーラーはあんぐりとした顔で、暖かい毛布に包まりながら木製椅子の上でそれを見ていた。
本来なら血なまぐさいドロドロの戦いが繰り広げられる聖杯戦争がこの様なのだ。ルーラーを責められまい。
「――――ルーラーさん。ココア淹れてきましたよ」
「えっ、あ、はい! あ、ありがとう、ございます……」
そんなルーラーへと、キャスター――――アルフェリアは暖かい湯気を立たせたココア入りのティーカップを差し出した。目を丸くしながらも、ルーラーは純粋な善意で出されたそれを受け取って恐る恐るといった感じで一口。
――――瞬間、ルーラーの口に柔らかい甘味が広がる。
「……美味しい」
舌を包む甘味は強すぎず、しかし甘すぎずほんのりとした優しい味わい。適温に温められたことも合わさり、飲む者のことも考えて作られた絶品のホットココアはルーラーの体だけでなく、数々の苦労で積み重なった心の重責すらも優しく解いてくれる。まさに聖母の抱擁の様に。
小さく目じりに涙を浮かばせながら、ルーラーは何分もかけてココアを飲み干した。
これが、人の優しさ――――そう思うと、感謝の気持ちでルーラーは胸がいっぱいになる。
飲み干した後ルーラーは胸の奥底から深い息を、溜まりに溜まった疲労と共に吐き出して久々の笑顔を作った。とても、満足そうな顔でだ。
「気に入ってくれたみたいで何より。それじゃあ、もうちょっと待ってね。後もう少しで昼食の用意ができるから」
「あ、でも私、持ち合わせが……」
「いいよそんなの。大勢で食べるご飯の方が美味しいんだから、ね?」
「は、はいぃ……」
アルフェリアの輝く笑顔に押されて、ルーラーは震え声で返事を返した。
勿論ルーラーは飯をたかりにキャスターの神殿などと言う物騒な場所――――いざ入ってみればこれ以上ないほど穏やかな場所であったのだが――――に来たわけでは無い。ちゃんとした視察目的で彼らの懐の中に入り込んだのだ。拾われた流れに身を任せていたらいつの間にか好待遇を受けていたとか、そう言うことでは決してないはず。そう、ルーラーは自分に言い聞かせていた。
彼女はあくまで中立役。情が移ったなどと言う理由で特定の陣営に肩入れすることはその役目の破綻に他ならない。故に彼女はほころびそうな心を再度引き締めて、キリッとした顔を取り繕う。
「体は温まったか?」
「えっ、あ、はい」
「そうか。そりゃよかった。何か他に欲しい物はあるか? 食事なら今アルフェリアが作ってくれているところだが」
「あっ、だ、大丈夫です――――へ?」
不意を突く様にアルフェリアのマスターであるヨシュアがルーラーの反対側に位置する椅子に座りながら、彼女に優しく声をかけた。それにルーラーは思わず変な声を出しながら、彼の言葉の中に信じられない物があることに気付いた。
それは――――英霊の真名。聖杯戦争に置いて隠匿すべき重要な情報である。
ルーラーはクラススキルである『真名看破』により殆ど自由にその真名を知ることができるが――――アルフェリアの場合纏っている情報隠蔽の魔術障壁が凄まじい強度であったせいでステータスすら覗くことができなかった。
なので実は少しだけ困っていたところに、予想外な所からその名前が出てきたのだ。変な声も出る。
「あの、い、いいんですか? 自分のサーヴァントの真名を他人に明かして」
「は? ……ああ、まぁ、別にいいんじゃないか? バレたところで意味ないだろうし」
「えぇー……」
確かにヨシュアのサーヴァントであるアルフェリアは逸話を見たところで弱点となる物が明確には存在しない。唯一の弱点と言えば身内なのだが、今回の聖杯戦争に参加した生前の知り合いの大半は自陣営に居るせいで弱点がまともに機能してない。最早真名がバレようがバレまいが影響などあってないような物だろう。
そして何より、ヨシュアは信頼している。弱点を突かれようが、アルフェリアは必ず勝利をつかみ取ってくれると。そんな絶対的な自信があるからこそ、彼はこうしてアルフェリアをクラス名で呼ばず真名で呼んでいるのだ。
……本音を言えば、ただクラス名で呼ぶのは距離感があって呼びたくないという我が儘なのだが。
「しかしまさか、アルフェリア・ペンドラゴンまでこの聖杯戦争に呼ばれていようとは……」
「? 何か不味いことでもあるのか?」
「いえ、その……被害が広がりそうだなぁ、と」
どこか達観したような顔でルーラーは呟いた。不思議かな、その瞳に光はなく、今後訪れるであろう大惨事を想像してどこか諦めた様な様子であった。
呼ばれている英霊からして、被害が小さい物で収まるなどあり得ないと言えばあり得ないのだが、ルーラーとしては事後処理する側の身にもなってほしいと思う今日この頃。再度積もっていく心労を感じて、ルーラーは深い溜息を吐く。
「……そっちもそっちで苦労してるんだな」
「ええ、まぁ。……昨日はルーラーとして「今日は初日だし、ちゃんと働こう!」と思った矢先にお腹蹴られるし、海に叩き落されるし、服はずぶぬれで夏服しかないし、そんな恰好で外出たらもう寒いわ、追撃に財布は無くして途方に暮れるわ、そのせいで何も買えずに腹は減るわ……もうなんなんですかぁ……! しかも監督役、なんか胡散臭いし! こっちに隠れてひそひそと怪しげな会話をしたり、何なんですかもう! ちゃんとした味方いないんですか!? 私一人なんですか!? ボッチ陣営なんですか!? ううっ、お腹痛いよぅ……もう帰りたいよぅ……ひっぐ、えっぐ」
「……苦労、してるんだな」
見るだけでこちらが痛ましくなる涙目のルーラーを見て、ついヨシュアは苦笑いを浮かべながら目を逸らした。こちらもこちらで色々苦労していると思っていたが、まさか下には下がいるとは思わなかったヨシュア。
言ってはアレだが、彼女に不憫さを見て若干安心感を覚えてしまうヨシュアであった。
「――――ほら、泣かない泣かない。こんな時こそ笑顔だよ?」
「……ふぇ?」
泣きながらプルプルと震えているルーラーの頭に細く白い手が乗せられる。それは、紛れも無くアルフェリアの手。たった今食事の準備を終えた彼女はいつの間にかテーブルの上に料理を並べ終え、ルーラーの傍で彼女を慰めていたのだ。
誰も気づかないほどの早業。流石救国の聖女と呼ばれた英霊である。
ルーラーを慰めるためにアルフェリアは優しい手つきで彼女の頭を撫でる。まるで己の子をあやす様に。その慈愛に満ちた姿はまさしく聖母。万人を魅了する美貌と全ての善悪を包み込みそうな包容力がルーラーを包む。
効果は抜群だ。
「ふふっ、一人でずっと頑張ったんだね。えらいえらい。でも無理しちゃだめだよ? 辛い時こそ誰かを頼るの。貴女は独りじゃないんだから」
「っ、うっ、ぇ……ひぐっ、えぐっ…………」
「ほら、おいで。私は貴女の母親でもなんでもないけど、胸を貸す事ぐらいなら、できるから」
「うぇぅ、うえぇぇええぇえぇえぇえぇぇぇん!!」
色々溜まっていた何かが爆発したように、ルーラーは号泣しながらアルフェリアの腰に抱き付いた。
子供の様に泣きじゃくるその様は、もう完全に審判役(笑)であることは本人は気づいているのだろうか。しかしこんなになるまで追い詰められていたという事なのだから、どんな言葉をかけていいのやら。やはり英霊も心は人間ということか。
アルフェリアはいつも通りの女神の様な微笑みで、ルーラーの頭を撫でながらそれを受け入れている。
ここまで来ると、実は前世が本物の女神か何かだと言われても納得してしまうほどの母性、包容力、暖かさ。それは完膚なきまでルーラーを癒していく。
これぞ癒し成分アルフェリウムの真髄。摂取するだけで思わず「お母さん」と言ってしまうほどの圧倒的母性と浄化力。中立役として呼ばれたルーラーすら揺るがすその魅力は留まるところを知らない。
「よしよし。いっぱい泣いて、また頑張ろう?」
「ひっぐ、ひっぐ…………!」
金髪美少女と銀髪美女が抱き合ってる光景は、かのレオナルド・ダ・ヴィンチが見たら確実に絵画にしかねないほど美しい。実際、家内にいる殆どの物が見惚れていて――――ランスロットは「ああ、またか」といった顔、モードレッドは「ぐぬぬ」と悔し気な顔であったが――――あたかも時間が止まったような状態と化す。
と、それから数分後ようやくルーラーは泣き止み、それに合わせて皆が料理の匂いに釣られて動き出す。
「おお、今日の昼食はサンマの塩焼きですか」
「うん。魚屋のおじさんがサービスしてくれたんだ。季節的にはまだ秋だからね。旬の食材を主に使ってみたよ。食後のデザートにはスイートポテトも用意してあるから、楽しんで食べてね」
「うおー!魚うめぇぇええぇえ!!」
「こらこらモードレッド。ご飯粒頬についてるよ」
「相変わらず美味い……これ、もう外食とかが食えなくなるな」
「まったくです雁夜。っと、アルフェリア、大根おろしをもう少し……」
「わかった。……はい、どうぞ」
「「「おかわりー!」」」
「白米をもう一杯頂いてもいいかしら?」
「はいはい」
特に気負うことも無く、アルフェリアは皆の要求に応えながら自身の食事も並行して行っていく。その動作はとても手慣れており、熟練の主婦顔負けの滑らかな動き。見る者に無理をさせているような罪悪感を背負わせず、彼女は完璧な動きで全員の食事をサポートしていた。
顔が真っ赤になるぐらい泣き続けたせいでぐっちょり濡れた顔を拭いてたルーラーはそれを見て、さりげなく凄まじいことをやっているアルフェリアに素直に感嘆した。
生前彼女はこれ以上の人数である十三人の食卓を数年以上管理し続けていたのだ。本人にとっては屁でもないことだろうが、初めて見る者からすれば神業そのものである。
そしてルーラーもまたパクリと、サンマとほかほかの白米を一緒に一口食す。
――――美味い。
ただ純粋に、しかしそんな使い古された陳腐な言葉しか出てこなかった。それ以外に相応しい言葉が見つからない、というのがルーラーの感想。
主食となる白米は基本に忠実。米一つ一つに含まれた旨味は甘美の一言。味だけで米の洗い加減、炊いた時間の正確さ、シャリ切りの丁寧さを頭に叩き込まれる。
サンマの塩焼きは、塩加減は薄すぎず濃すぎず。癖がなく子供でも食べやすく調理されているのが分かる。また両面を均等に焼いたおかげで風味の偏りも無し。熟練が成せる業だ。添えられた大根おろしもまた絶妙。
それ以外にも鳥のから揚げは適切な二度揚げによりカラッとした皮の厚さを保ちながら、中の肉はふんわり柔らか噛みごたえ。スパイスも適度に効いており絶品。キノコの味噌汁は味噌とキノコ両方の風味が失われず、容赦なく舌を躍らせる。サラダは和風寄りのオリジナルドレッシングで、量は適量。これもまた絶品。
等々、健啖家であるルーラーをとても満足させる数々の料理は三十分もすれば全員の腹に収まっていた。その後に出されたデザートであるひんやりスイートポテトはしつこくない甘さが口の中をサッパリさせてくれる。
今まで味わったことも無い美味な昼食を堪能した後のルーラーの顔は、それはもう凄まじくほころんでいた。まさに中立役(笑)。すっかりアルフェリア陣営に毒されている。それでいいのかルーラー。
「その、ありがとうございます。私中立役なのに、ここまでしてくださって……」
「いいよ~別に。見捨てるのは後味悪いしさ、良いことしても罰は当たらないでしょ? 困った時はお互いさま、だよ」
「困った時はお互いさま……こっ、これが、真の聖女の在り方なのですね……! 勉強になります!」
「いや、ちょっと違うと思うけど」
しかし、やってることは聖人そのものなのだからはっきりと否定もできないアルフェリアである。『汝自身を愛するように、汝の隣人を愛せよ』というキリスト教の教えの体現者とも言えるので、ルーラーが憧憬の眼差しで見るのも仕方ない。
――――アルフェリアが自分自身を愛していないという決定的な欠陥があるのはまだ気づいていない様だが。
「さてっと、私はこれから後片付けだけど……ヨシュア! 忘れてないよねー?」
「ああ、わかってる。連絡先についてはもう調べてあるからな。夕方辺りに伺う予定だ」
情報が与えられてない者からすれば「?」としか思えない会話を繰り広げるアルフェリアとヨシュア。周りが話に置いて行かれていることから、恐らく二人だけ共有している情報だという事なのだろう。
皆に伝えてないという事はアルフェリアがそう判断したのだろうが、事情を知らないルーラーからすれば怪しげな会話にしか聞こえてこない。世話になった身なれど、彼女は中立役にして審判。その会話の内容がもし一般人を巻き込む危険性を持っているかもしれない物である可能性がある以上、問い詰める義務があり――――
「お二人とも、一体何の話をして――――」
そう問い詰めようとして腰を浮かせたルーラー。――――が、直後鳴り響く轟雷の爆発音で、それは見事に遮られることになった。
日中に空に響き渡る雷音。天気はこれでもかというほど晴れているというのに、どう聞いても聞こえてくるのは雷の轟音だ。つまりそれは自然現象ではないという事であり――――この拠点の近くにサーヴァントが近づいてきているという事だった。
「っ、一体何が……!?」
「アルフェリア! 急いで防衛態勢をッ!」
「……あー、大丈夫だと思うよ?」
「は? お前、何言って――――」
「AAAAAAAAAAAAAAAALaLaLaLaLaLaLaLaLaLaLaie!!!!
アルフェリア製の防御障壁をぶち抜き、勢い余って『ソレ』は住宅の玄関を粉々に破壊して家内に入ってきた。
まず見えたのは巨大な牡牛二匹。
世界中見渡してもこれ程洗礼された牛はいないであろうというほど華麗で、獰猛で、そして勇敢な牛は荒い鼻息を立てながらその身に小さな雷電を散らしている。これぞ彼のゴルディアス王がゼウスへの供物に捧げようとした
そしてその戦車に乗っていたのは二メートルを超える大巨漢。何故かはわからないが『大戦略』とゲームのロゴが描かれたパッツパツのTシャツを纏い、肩に佩刀である『キュプリオトの剣』を担いで「してやったり」という顔を見せているそのものは紛れも無くサーヴァント・ライダー、――――征服王イスカンダル。またの名を古代マケドニア大王、アレクサンドロス三世。
どういうつもりかはわからないが、彼は敵の集約地であるこの場所に派手な登場をやらかしているのであった。
「な、に、をっ――――考えてやがりますかこの馬鹿はァァァアァァァァアアアァァ!?!? 真昼間から宝具発動だけじゃ飽き足らずどうして敵の本拠地に何の対策も無しに突っ込んでるんだお前は!? しかも寄りにもよって陣地内戦闘に置いてはトップクラスのキャスターの陣地に! 馬鹿か!? 馬鹿なのか!?」
「小さい! 余のマスターながら実に発想が小さい! 誰も『昼間に宝具を使ってはいけない』などと決まりを作ったわけではあるまい! それに――――折角の登場だ、派手に! そしてより豪快に! 相手の意表をついてこそ真の軍略よ! ハッハッハ!」
「『ハッハッハ』じゃないだろぉ……! 見ろよアイツ等の顔を! 驚かれてるんじゃなくて呆れられてるぞ!」
「ん? まぁ……細かいことは気にするな、坊主!」
「細かくないんだよぉぉぉお!!!」
同じく戦車に乗っていた、ライダーのマスターだろう少年があまりの激情に上ずった声を出して叫び出す。という事はもう半分サーヴァントの独断行動というわけかと大半の者が察した。そしてそれに巻き込まれている可哀想な少年のマスターに哀れみの視線を投げる。
「ほら見ろォ! もう同情の眼差しに変わってるじゃないか!」
「ふむ、もうちょっと迫力のある登場が良かったのか?」
「そういう問題じゃないんだよぉぉぉ……」
耐え切れなくなったのか、ライダーのマスターは戦車についてる手すりに頭をゴンゴンと叩き付け始めた。苦労しているのだろう。が、そんなマスターの様子を見てもライダーは珍妙な顔をするだけであった。自分が原因だろうということに気付いているのかいないのか。
そんなライダーに痺れを切らして、小さくため息を吐いたアルフェリアは呆れの表情を崩さずにライダーへと近づいて行く。戦車を前にしてもその足取りには一切の迷いがない。一切怖気づいていない証拠だ。それを見たライダーは思わず「ほう」と小さな呟きを漏らす。
「どうも、征服王さん。真昼間から随分派手なご登場だね」
「おうとも! 何事も豪快かつ大胆に! やること成すことを楽しむのがこの征服王の在り方よ。しかし、随分と沢山のサーヴァントが集まっておるな。……うむ! やはりどの者達も我が軍門に入れたくなる猛者たちである!」
「はぁ……で? 何の用? 戦いに来たのなら、二日目の戦闘禁止令が解かれる三日目に来訪して欲しかったのだけれど。そうすれば遠慮なくあなた方を吹き飛ばせたのに」
「おー、そう怒るでない。余は戦いに来たのではなく、ただ飲みの誘いに来ただけだ」
「……飲みの誘い程度の事で人の家の玄関を吹き飛ばしたの?」
早朝、教会からの知らせを使い魔越しで受け取ったアルフェリアたちは、二日目は諸事情で戦闘禁止になっているのを把握している。だからわざわざペナルティ覚悟でライダーが戦闘を仕掛けてこないことは理解しており、外面は警戒していても内心はそこまで張り詰めていない。
それでも、ただ飲みの誘いという理由で拠点に張った魔術障壁や愛着がわいてきた住宅の玄関を何の断りもなくぶち壊されれば、流石のアルフェリアも少々苛立つ。門前にチャイムがあるんだからそれを押せ……とは、聖杯戦争での敵対陣営に言えるわけもないので頬をビクつかせているだけに終わっているが。
もしライダーが起こしたバカ騒ぎで身内の一人でも傷がついたら、アルフェリアは確実にルールを無視してライダーを抹殺しに行っただろう。幸運A+は伊達では無いという事か。
「というか、よくここを発見できたね? 隠蔽工作は結構自身があったのだけれど……」
「それはこの坊主の手柄よ。こう見えて余のマスターは中々光る物を持っていてな? 何時かきっと大物になるだろう英雄の卵と言える素質を持っておる」
「あ、そう……マスター自慢はさておき――――ここで私が断ったらどうするの?」
視線に微かな威圧を込めて、アルフェリアがそう問う。その威圧を受けてもライダーは呆気からんとした様子でニカッと笑みを浮かべた。
「まぁ、余としても強要はせんよ。断るのならばそれで構わぬ。で、キャスター。貴様はこの誘いに乗るのか? それとも乗らぬのか?」
「…………ヨシュア」
「お前の好きにしろ。どうせ、俺は夜に単独行動することになるからな。戦闘も禁止されてるから、特にすることも無い以上俺がお前を縛りつける権利はない」
「……わかった。その誘いに乗るよ、征服王」
「うむ! そう来なくてはな!」
暑苦しいほどの満面の笑みを見せつけてくるライダー。因みに歓喜の笑みを浮かべているのはこの男ただ一人であることを忘れないでほしい。他の者は大体苦笑か引き攣った笑いとも言えない表情なのだから。
「お、そう言えばキャスター。どこか広くて人目につかん場所は知らぬか? 場所が無ければ杯を交わすのは難しいだろう。……この場所を使うというのは――――」
「ストップ! 此処はダメ。絶対ダメ」
「そうかぁ? 割といい提案だと思ったんだがなぁ~」
この男、此処がキャスターの工房ということを忘れているのだろうか。
そもそもライダーに壊されるまでこの場所は厳重な隠蔽魔術によりどの陣営からも特定されない様にしていたのだ。わざわざ自分たちの拠点の場所を敵に公表する馬鹿が何処に居る。
それに、キャスターの工房というのは基本的に罠だらけだ。アルフェリアだからこそ強固な障壁と隠蔽魔術だけで済んでいるが、何も知らない者からすれば此処は魔窟に等しい。そんな場所に行くやつはただの物好きか命知らずの馬鹿だろう。
「……郊外にある、この森とかどう? 奥深くに古城――――アヴェンジャー陣営の拠点がある。行くついでに誘えば一石二鳥じゃないかな」
「おお、そいつは名案だな! よし、そうと決まれば早速酒を調達だ。行くぞ坊主!」
「だあぁぁぁぁぁぁっ! 今度は何するつもりなんだよお前ぇっ!?」
「無論、略奪に決まっておろうが」
「お前の頭には『大人しくする』って単語はないのかよライダーっ!?」
「坊主、この国の言葉には『思い立ったが吉日』という言葉があるそうだぞ」
「これから略奪しに行こうとしてるのに、何いいこと言ったみたいな顔してんですかお前はぁぁあぁぁぁぁ――――!?」
快諾するや否や、ライダーは振る落とされるのを防ぐためにマスターの服の襟首を掴みそのまま戦車を後退させ、猛スピードで空へと去っていってしまった。
残された者達は皆茫然とした顔で取り残された。ただ、ルーラーは「昼間から住宅街付近で宝具使用……目撃者の可能性……いや、きっと見られてない見られてない。また事後処理に奔走するのは……」と負のオーラを纏いながらぶつぶつと何かを呟いていたのだが。このままでは色々なところが黒くなりかねない勢いである。
「……なあ、アルフェリア。時間指定とか、されたか?」
「……全くされてないね」
「………玄関でも片づけようか」
「………うん」
何とも言えない気持ちで、アルフェリアたちは粉々になった玄関の修復を始める。
そしてアルフェリアは家の強度をもっとあげようと、密かに心の中で決めたのだった。
こうして、波乱だらけの昼が終わりを告げた。
朗報:ジャンヌ、堕ちる。
早かったね(知ってた)。健啖家だからね。美味しい料理出されたらシカタナイネ。
さて、ご存じだとは思いますが展開が色々早いです。たぶん二日目で聖杯問答始まると思う。だって三日目から一気に荒れだすからね。穏やかな今の内にやれることやって置かないとね。
というわけで、次回は(たぶん)聖杯問答編です。お楽しみに!!!
・・・因みに今回一番かわいそうなのはウェイバーちゃんでした、まる。