今回の話はモルガン編です。確定している結果が結果だけにアレな感じになってるけどね!ほのぼの成分も(若干)あるよ。七割シリアスだがな!(半ギレ
仕方ないじゃない。モルガンのキャラが情報少なすぎて弄りにくかったんだから・・・
因みに没案としてガウェインと愉快な仲間たちによるおっぱい談義(巨乳貧乳議論)が繰り広げられる予定でしたが、長すぎるのでカットしました。
男どもの猥談を延々と書く気持ちって何とも言えないもんだね(・ω・)
話をしよう
今から語る話は、もう訪れることのない過去の一時。かつての騎士王が尊いと評し、永劫に続けばいいと願い――――そして、消え去った日常の一幕。
モルガン・ル・フェイという女がいた。
彼女は数々の魔術を修め、ブリテンだけでなく世界的に見ても魔術師としては上位に位置するほどの実力を持っていた。では、ここでひとつ問いを投げよう。
彼女は何のためにそんなことを学んだ? 誰のために? 何を求めて?
それを聞けば彼女はこう答えるだろう。
復讐のため、と。
理由を語るには少し昔話をすることになる。まず彼女はブリテンの先代王、ウーサー・ペンドラゴンの娘である。だがその一身に愛を注がれることはなく、彼女は父親と死別することになる。それでも彼女は天涯孤独では無かった。同じ血を継ぎ、父から一人だけ愛を注がれ期待を受けて育った妹――――アルトリア・ペンドラゴンが居たのだから。
しかし、彼女は妹に何かを感じることは無かった。
ただの一人の小娘として目すら向けず、モルガンは一人孤独に己の人生を歩んだ。
それから程なくして十年。彼女の妹であるアルトリア・ペンドラゴンは名をアーサーと偽り、ブリテンを統べる王となった。モルガンは何を思ったか――――妹に、嫉妬した。
自分はこんな陰鬱な魔女としての人生を歩んでいるにもかかわらず、妹は父からの愛を独り占めしただけでなく王という華々しい役目を得た。この違いは何だと、彼女は自分自身に問う。しかしその答えは、永遠に出てこない。
何処で間違えた、何処で躓いた、何処で何処で何処で――――幾度となく繰り返される答えのない自問自答。その末に彼女は、愚かにもアルトリアを憎み、その王座を奪おうと画策を始めることとなる。
まず女性であった己の妹君であるアルトリアを魔術によって擬似性転換させ、同じく魔術で幻惑して精子を採取。その後自身の卵子で育て、王のコピー、クローンと言える存在であるホムンクルス――――モードレッドを造り上げた。
そして息子の一人であるアグラヴェインと「いずれ王を倒し、その身が王となる」と吹き込んだモードレッドをキャメロットへと送り込み、国家の転覆を謀ったのだった。
――――しかし、それはモードレッドが円卓の騎士となった頃から全てが変わり始めた。
何を思ったのか、彼女は「俺は今のままで満足しているからお前の思惑なんざ知らん」と宣言し、モルガンの手から離れ始めたのだ。保険として送って置いたアグラヴェインに至っては黙々と仕事を続けるだけで一切の言葉もない。
それに憤りを覚えたモルガンは、モードレッドに隠していた彼女の出生の秘密を明かした。自分は人間ですらなく、王のコピーとして作り上げられた怪物。それを知ってさぞ落ち込むだろう――――と思いきや、何故か目を輝かせて顔を隠すための兜を脱ぎ捨て飛び出していった。
突然の奇行に唖然としたが、様子を見ればどうやらアーサー王に自身の出生を自分から暴露しに言ったではないか。モルガンは思わず不敵な笑みを浮かべながらそれを遠見の魔術で眺め、予想通りモードレッドが自身の存在を否定されたことに絶望し――――予想外の光景が広がって絶句する。
モルガンが何度も干渉しようとし、何度も返り討ちにあってきた宮廷料理人にして妹の義姉――――アルフェリア・ペンドラゴンがその場に現れ、場を収めたのだった。更に、モードレッドの出生を知っても尚、受け入れていたのだ。
あり得ない。そう呟いても事態は一向に好転しない。
そうしてモルガンは理解する。モードレッドによる王座剥奪は失敗に終わったのだと。
何故だ? ……考えるまでもない。
アルフェリア・ペンドラゴン――――マーリンなどの『規格外』な人種に収まる、モルガンの天敵にして何時も邪魔をしてくる仇敵でもあるあの女性。意識しているのかしていないのかはわからないが、モルガンの策略を悉く邪魔をしてきた彼女はついにモルガンにとって最後の策謀であるモードレッドすら撃沈させたのだ。
ここまで邪魔をしてくれると最早清々しい何かを感じ始める。立て続けの失敗続きと今まで積み上げてきたモノが一瞬にして崩落させられたモルガンは憎々し気に銀髪の女性を睨みつけた。
己にとっての、最大の『敵』を。
何週間か過ぎた頃か、人目につかない様にボロキレの布に身を包んだモルガンは、魔術研究用の薬草を摘むため都外れの森林に来ていた。
その場所はこのブリテンの中でもかなりエーテルが濃い場所で、そこに生える植物は軒並み質の良い魔術薬草として使うことができるのだ。同時にその薬草を食べる強力な魔獣なども徘徊しているので、余程の実力者でもなければ滅多に出入りもできやしないが。
モルガンは当然、その魔獣たちを簡単に退けらえる実力を持っていた。いつもの調子で魔術で出した風の刃で魔獣の首を切り飛ばしながら奥へと進み、藁で作った籠を片手にモルガンは表情の消えた顔で足を運ぶ。
そして気づいた。殺した覚えのない魔獣の死骸が多数転がっていることに。
つまり、自分より先に誰かが来ているということ。小さな舌打ちをしながらモルガンは愛用の杖を構え、足音を殺しながら薬草の生えた場所へと進み続け、ついに目的地にたどり着く。そしてそこには自分より先についた先客が――――
――――いなかった。もぬけの殻で、人影一つありやしない。
「…………はぁ。何をやっているんだか、私は」
拍子抜けしたモルガンは小さなため息をつく。
大方かなり前に誰かが出入りし、既に薬草を摘んで帰ったのだろう。高々そんなことのために警戒などしたのかとモルガンは自分の慎重すぎる行動に呆れ、張り詰めさせていた気を緩ませる。
だからだろう。
ずっと自分の背後を付けて来ていた魔獣の不意打ちに気付かなかったのは。
「――――っ!?」
気が付けばモルガンの脇腹は大きく抉られていた。そして彼女のすぐ近くには真っ黒な影で構成された狼の様な魔獣。鋭い牙を彼女の血で濡らしながら、血肉の様に赤い目でモルガンを捕食者の視線で睨みつける。
急いで治癒の魔術を施そうとするモルガン。此処で彼女の実戦経験の無さが仇となる。彼女は傷など無視し、先に魔術で魔獣を仕留めるべきだった。しかし誰かと正面から争ったことも無く、保身だけを思ってきた彼女にそんな判断ができるはずもない。
そのことに気が付いた時は既に全てが遅く、モルガンの首に魔獣の鋭利な牙が突き立てられる――――寸前、魔獣の頭部が爆散した。
「……え?」
突然のことに言葉を失い、モルガンは脇腹から来る激痛のことなど忘れたのか尻もちをついても、呻き声一つ上げなかった。死んだと思った。もうだめかと思った――――だが、生きている。生きていた。
誰かに、助けられたのだ。それに感謝すればいいのかどうか、今まで一度も誰かに助けられたことのなかったモルガンはわからなかった。
それでも――――純白の弓を携え、矢を射たままの姿勢で止まっていた彼女は、美しいと思ってしまった。
前まで憎んでいたはずのアルフェリア・ペンドラゴンを目の前にしても、モルガンはただ――――その姿を、見上げていた。
「まさか薬草取りに来ていたら、後から来た人が魔獣に襲われていたなんてね。驚いたよ。…………よし、傷跡も残ってないし、もう動いて大丈夫だよ。立てる?」
「……………………」
アルフェリアはその後ぼうっとしているモルガンに治療を施した。きっと茫然自失としているモルガンを心配してやったことなのだろうが、治療された本人からしてみれば恨んでいる相手に情けをかけられたも同然。屈辱以外の何物でもない。
わずかな怒りを顔に出しながらモルガンは差し出されたアルフェリアの手を叩き払い、無言で立ち上がろうとした。
――――が、魔獣に襲われ腰が抜けていたのか、モルガンはそのままバランスを崩して転んだ。
彼女の顔が羞恥に染まり、悔し気に歪んだ顔で振り返れば苦笑いを浮かべたアルフェリアの顔。それを見てモルガンはますます顔を険しくする。
「ほら、言わんこっちゃない」
「黙りなさい……! 貴方なんかの手を借りなくったって……うっ」
無理に体を動かそうとしても体に力が入らない。恥ずかしさのあまりモルガンはプルプルと震え、乾いた笑いを漏らしながらアルフェリアは彼女の体を適度な木の幹に預けさせる。
実のところアルフェリアはモルガンを担いで安全圏まで行こうとした。しかしモルガン自身が頑なに拒否して居ることから、無理やりは不味いと判断し一人で立てるまで傍に居ることにしたのだろう。モルガンほどの魔術師ならば護身程度問題もないだろうが、それでも『孤独』という状態は人を歪ませる。
故に、アルフェリアは彼女を孤独にさせないために、傍に居ようと思ったのだった。
それでも、モルガンの表情は晴れない。憎いと思っている者に助けられた挙句こんな無様まで晒してしまったから無理も無いだろうが。彼女は暗い顔で俯き、そのまま黙ってしまった。
「えっと……貴女、名前は?」
気まずいと思ったか、アルフェリアがモルガンにそう問う。
名前を問われたモルガンは無視しようとしたが――――流石に助けられた身としては、何かしないといけないだとうと思い始め、彼女は渋々返事をする。
「……モルガン。モルガン・ル・フェイよ。知ってるでしょ、湖の魔女の」
「…………ああ、モルガンか。うん、知ってるよ」
湖の魔女――――決して大きくもないが小さくもない湖に居を構える彼女は巷ではそう呼ばれていた。そしてその湖はその影響か、誰も近づこうとしない場所としても有名である。当然だ。悪質な魔女が住み着いている場所に誰が好んで近づくだろうか。
そしてアルフェリアもまたその噂や名前は知っていた。また、悪い噂も。しかし、アルフェリアの顔からは一切の侮蔑や哀れみはなかった。何故、と思ったモルガンは警戒を続けながらそれを問う。
「……私が誰なのか知って、それでも離れないの? 私は、魔女よ」
「うん。それで? 魔女だから、この場所を離れる理由になるのかな」
至極当然のように、アルフェリアはそう返す。
この返事にはモルガンも呆気にとられ――――彼女は理由もわからず怒りを見せる。
「ふざけないで! どうせ、貴女も私のことを、心では蔑んでいるんでしょう……! もういいから、帰って! 顔も見たくないッ……!」
「それを決めるのは貴女じゃなくて私だよ。――――離れないよ、私は」
「ッ……このっ」
生意気だ、と。そう憤りを覚えたモルガンは殆ど衝動的にアルフェリアの頬を叩く。
しかし――――彼女は文句も言わなければ不満さえ漏らさず、モルガンに笑顔を向け続ける。それが溜まらなく気に入らなくて、モルガンは身体を魔術で強化しアルフェリアを無理矢理押し倒す。抵抗は、なかった。
息を荒げるモルガン。胸の内に眠る憤怒を、嘆きを、憎悪を、彼女は今漏らし始める。
アルフェリアの首を絞めるという形で。
「貴方が、貴方達が……! 貴方たちさえいなければッ……こんな、こんな……!!」
「ぐ、ぅっ、あ……が…………!」
「絶対に、許さない……私の幸福を奪っていったあの子も……そんなあの子に幸せを与える貴方も……!! 殺してやるっ……全員、殺して――――」
「――――姉、さ……ん」
その言葉に、モルガンの肩が震える。
血は繋がってない。そんなはずがない。しかし、その面識はどこかアルトリアに似ている。だからだろう。こうも遠慮なく、殆ど関わりもなかった者の首を憎悪を露わに絞められるのは。
だからこそ――――姉と呼ばれたことで、初めて彼女は涙を流す。暖かい言葉に、求めていた幸福を、少しだけ感じてしまったが故に。
「だ、まれッ…………黙れ黙れ黙れぇぇエッ!! どんなに泣き喚こうが、絶対に、貴女は、貴女だけは私の手でっ……私の、手でッ……………!」
「ごめ、ん……な、さ……」
「っ、ぐ、ぅぁあぁぁアァァア!!」
涙を流しながら、モルガンは手をアルフェリアから放して握りこぶしを作り、そのまま彼女の顔を殴りつける。
何度も、何度も、何度も。泣き叫びながら。今まで詰み上がった全ての感情を清算するように。子供の様に、モルガンは妹の顔を殴り続ける。
「あの子がいなければ、私は父に愛されてた……! あの子がいなければ、あの子があの子がァッ……!! アルトリアが、私の幸福全てを奪っていった! なら、取り返すっ……全部、私の幸せを全部……! そうしてようやく、私の孤独は終わる!」
「…………本当、に?」
「っ……?」
「本当に、今の姉さんは――――孤独、なの?」
「それは――――」
モルガンの手が止まる。
確かに、彼女は父親に愛を注がれなかっただろう。それだけは決して変わらぬ事実だ。だが、それでも――――それは彼女が孤独であるという理由になりえない。
彼女に慕ってくれる騎士がいる。教えを請う魔術師見習いがいる。決して多くはない、しかし居ないわけでは無い。モルガンは――――孤独では無い。ただ本人が、己に取って眩しすぎるそれを見ようとしないだけ。
唇を震わせながら、モルガンは涙を流す瞳でアルフェリアを睨む。
それでも彼女たちが憎いのは変わらないと――――そう、自分に言い聞かせる様に。
「私は貴女が、憎い。私に無い物、全て持ってる貴女が…………っ! 私を差し置いて幸せになってる、貴女がっ! 同情しないでよ! 憐れまないでよ! そんなことするなら貴女の全部を寄越しなさい!! 私は、私はっ……」
「――――大丈夫だよ」
「何、が――――!?」
何度も殴られ腫れた顔でも、アルフェリアは笑顔を崩さずモルガンへと微笑む。
そして彼女はモルガンの頬を撫でて、小さく告げる。
「私が――――貴方を愛する、から」
一瞬、何を言われたのかモルガンは理解出来なかった。
万人に『魔女』と蔑まれ、腹違いの実の妹――――アルトリアにさえ憐れまれていた自分を、『愛する』と言ったのだ。会ってからまだ数時間も経たないはずの彼女は。
嘘だ、と否定するのはどんなに簡単か。しかしモルガンにはできなかった。彼女の、アルフェリアの目は偽りもなく、ただ純粋な目だったのだから。
だからこそわからなくなる
どうして彼女が自分などを愛するのか。
「……違う、嘘よ、そんなはずは――――」
「あはは……遅くなっちゃって、ごめんね? だからその分、愛するから。姉さん」
「そんなはずない! だって、私は魔女で―――今貴女に、酷いことして……っ!」
「えへへへ。初めての、姉妹喧嘩かな?」
「っ……馬鹿……!」
何処までも笑みを崩さないアルフェリアを見て、モルガンは――――折れた。
抱いていた憎しみは何処かへ消え、彼女の中にはもう悲哀の情だけが残ってしまう。己を愛そうとした義妹に暴力を振るったという事実に罪悪感を感じながら、彼女は必死に治癒魔術を使って自身が作り上げた義妹の顔の腫れを治していった。
アルフェリアが何処までも真摯に向き合ったことで、湖の魔女は憎悪を忘れてしまう。
無い物を、与えられて。
初めて――――家族からの愛を、身に受けて。
そんなこんなで今、二人は同じ木の下で腰を下ろして木々の隙間から見える空を眺めていた。
色々なことが一度に起こり過ぎて、先程とは違う意味で何を話せばいいのかわからないのだろう。また、まだちゃんと話したことがないのも、原因の一つだ。
「……私はね、ただ愛されたかったのよ」
感慨深そうに、モルガンは始めて他人に己の事を語る。
絶対に他人に話すことが無いと思っていた自身の本心。どんなに慕ってくれたものでも、どんなに親切にしてくれた者でも決して語ることのなかったそれは、ついに語られ始めることになった。
「もし、私が天涯孤独なら『嫉妬』なんてしていなかった。出来の良い妹がいなかったなら……私はただの魔術師で終わっていたでしょう。でも父から一方的に愛され、期待され、王になったあの子を見て――――『悔しい』って、『羨ましい』って思ったの。……眩しすぎて、憧れて、絶対になれないって理解して居ても……私はあの子のように、アルトリアのようになりたかった。……一度だけでも、愛されたかったのよ。誰かに」
彼女は、ただ『愛されたい』だけだった。誰かに求められたかった。
昔の彼女なら自身の本心など押し殺せていただろうが――――己の妹君を、ブリテンの王となり国民の羨望を一味に受けるアルトリアを見て、それは不可能になった。
己が欲しい物を全て持ってしまった妹を見て、己の不甲斐なさを見せつけられて、嫉妬に逃げた。得られないから、奪おうとした。それが間違っていることだと、知っていながらも。
嫉妬に狂った魔女は幾度も凶行を重ね――――その末に、救いの光を見た。
血は繋がっていなくとも、こんな惨めな自身を愛そうとしてくれるもう一人の妹に。
「……ねぇ、アルフェリア。私は、いつかあの子と姉妹みたいに振舞えるのかしら」
「そう、だね……過去の過ちは、やり直せない」
重々しい口調でそれを告げるアルフェリア。しかし直ぐに「それでも」と言葉を続ける。
諦めないという意思が籠った目で、空を見ながら。
「やり直すことはできなくとも、積み上げた物が崩れてしまったとしても――――未来があるなら、もう一度詰み上げられる。まだ終わってない。終わっていないのなら……少しでもいい。一から、積み上げていこう。姉さん」
「……難しそうね。でも……やる前から諦めたりなんてしない。だって……いえ、何でもないわ」
「え?」
「――――さて、もう私は帰ります。貴女も、気を付けて帰りなさい」
「あ…………」
少し悲しそうな顔でアルフェリアが手を伸ばすが、モルガンは微笑を浮かべて少しだけ振り返りその手を優しく取った。
初めて、心の底から笑いながら。
「明日も、また会える。違う?」
「……ふふっ。うん、明日会いに行くよ。必ず」
その日、魔女は人となる。
遅すぎた温もりをその白い手で感じて、かつて得られなかったと嘆いた『愛』を胸に――――ずっと変わらなかった色のない世界に、一人の妹の手によって色を灯した彼女は、『優しさ』を覚えたのだった。
人を、愛せたのだった。
◆◆◆◆◆◆
「――――というわけでお邪魔しまーす!!! 姉さん起きてるー?」
「ブフォッ!? ごほっ、げほふがふっげほっ!?」
翌日、モルガン宅にて。
湖の魔女の日課は朝の紅茶にて始まる。まだ早朝故に覚醒しきれていない頭を芳醇な香りを漂わせる紅茶を啜ることで優雅に、美しく脳を目覚めさせるのだ。そうしてモルガンが朝のティータイムを満喫していると――――満面の笑みを浮かべたアルフェリアが玄関の木製扉を蹴破って入り、あまりの素っ頓狂な光景にモルガンが啜っていた紅茶を噴き出してむせた。
過去最高に混沌まみれの朝だと、モルガンはむせながら達観したような心境になる。
愛しの義妹が来てくれて嬉しくもあるのだが。
「あ、驚かせた? ごめん」
「い、いえ、大丈夫よ。むせただけだから……会いに来ていいといったのは私だし」
「あはは……そういえば姉さん、朝食は済ませてる?」
「いえ。私は料理したことはないし、そもそも朝は食べない主義――――」
「駄目だよちゃんと食べなきゃー。それだから胸も小さいんだよ?」
「胸は関係無いでしょう胸は!?」
実は気にしているコンプレックスをさりげなく言い当てられ反射的に抗議してしまうモルガン。そんな姉の様子を見て満足したのか、アルフェリアは「厨房を借りるよ」と言って虚数空間から取り出した食材片手に厨房へと行ってしまった。
噴き出してしまったことで床を濡らしている紅茶だった液体をボロ布で抜きながら、モルガンは遠目にアルフェリアの料理姿を眺める。その後姿は、何とも言えない良妻感溢れる様。ついつい見惚れてしまうほどだ。
「……まるで私が妹ね」
こんな事なら料理の一つや二つ覚えておくんだったと、若干後悔するモルガンであった。
しかし同時に妹の可憐な姿を見られて嬉しいと思ったりして――――かなりシスコン化が進んで行っていることに自覚がないまま、彼女の症状はどんどん進化(悪化)していく。果たして何処まで行くのだろうか湖の魔女は。
しばらくして、木製の皿に数々の料理を乗せたアルフェリアが戻ってきた。
メニューは魚のムニエルと、カリカリに焼き上がった目玉焼きにソーセージ。添えられるように置かれたバターロールなど、軽めの朝食だった。
それでも今のブリテンでは十分御馳走と言えるレベルなのだから、初めて見る料理に思わずモルガンは喉をごくりと鳴らしてしまう。
「……いただくわね」
香ばしい料理の香りを楽しみながら、モルガンはムニエルを一口。
噛むたびに溢れる肉汁。仄かなハーブの爽やかさやちょうどいい塩・胡椒加減。しつこくないレモンのサッパリ差がまた食欲を引き立てる。
満足げに笑いながら食事をするなど、初めての経験かもしれない。そうモルガンは柄にもない事を思った。
「美味しい?」
「……ええ、文句も出ないぐらい」
「えへへ、それは良かった」
見てるだけでつられて笑いそうなほどの満面の笑みで、アルフェリアはニコニコと笑う。しかしその笑顔には何処か悲し気な感情も籠っていた。それに気づいたことが顔に出たのか、モルガンの顔を見たアルフェリアは苦笑交じりに食事をしながら、その理由を話し始める。
「……実は今日ね、アルとモードレッドを誘ってみたんだ。一緒に姉さんのところに行かないかって」
「随分無謀ね……」
「うん。予想通り、見事に突っぱねられちゃったよ。『いくら貴女の頼みでもそれはできない』ってさ。ちょっとだけ期待してたけど……少し、残念だったかな」
家族関係以外の問題なら何やられても基本的に気にしない天然気質のアルフェリアはともかく、アルトリアやモードレッドに対してモルガンは少なからず因縁が存在している。少なくとも一日二日で直ぐに直るような溝では無い。色々、遅すぎたのだ。
「勝手に性転換させてクローンを作ったり、挙句そのクローンを道具として育てられたんだから、無理も無いわよ。……私も、自身の業は直ぐに清算できるとは思ってないわ」
「でも――――いつかきっと、皆で暮らしてみたいかな。きっと、悪くないと思うんだ」
「……そう、ね」
それぞれが特殊な事情を抱えているが、それでもきっと何時か、そんな光景が作れれば――――
「――――よしっ! 今日は料理の修行をしよう!」
「……は?」
「頑張ってアルとモードレッドの胃袋を掴むんだ! 仲良くなるにはきっとそれが効果覿面……だと思う!」
「いやそれただの憶測――――」
「ていうか姉さん私生活ズボラ過ぎ! 少しは部屋を片付けてよ! さっき台所で『大人気!馬鹿でもわかるモテモテ変身方法①』って本転がってたんだよ? 台所に本があるって――――」
「あああ――――っ!! あああ――――っ!! その話やめて! 本のこと忘れて! 忘れなさい! 今すぐ!」
「大丈夫だよ! 見た目若いし全然いけるいける!」
「余計なお世話よ!?」
顔を赤くしながら怒鳴るその様は、とても魔女と呼べるほどの残忍さも、冷酷さも無かった。
本当に、ただの姉妹の様な。そんな会話をしていた。ずっと、魔女と、悪女と蔑まれてきた彼女が。ようやく――――小さな日常を得られた瞬間だった。
その後の彼女は、昔の嫉妬深い様など一切感じられないほど丸くなった。
義妹と共に散歩したり、釣りをしたり、魔術について語り合ったり、買い物に行ったり、互いに創った料理を食べさせ合ったり、贈り物をしたり――――本当の家族として、モルガンは『幸せ』を感じていた。
元々、嫉妬の感情がない本当の彼女はただの女性だ。足りなかった、欲しかったものを得られたが故に、彼女は本当の自分を取り戻し、一人の姉としてふるまえたのだ。
ささやかな家族との幸せ。それが、嫉妬におぼれた魔女が得た物。
だけど――――彼女は、それで満足した。否、それが彼女が求めていた物だった。愛し愛される環境こそ、湖の魔女が求めていた宝石。
ようやく得られた、かけがえのない、大切な宝物。
故に、それが消えた瞬間彼女はまた狂うことになる。
モルガンが唯一愛し、また愛してくれた者が消えた大蜘蛛との大決戦後――――アルフェリア・ペンドラゴンの戦死という知らせは当然、彼女の耳にも届いた。
彼女はその瞬間、全てを失った時以上の絶望を味わう。
ずっと続くと思っていた幸せが、もう消えてしまったと、悟ってしまったから。
狂った魔女は家に籠り、何度も死者蘇生のための魔術を試した。
何度も、何度も、何度も。何百人という民を犠牲にし、霊脈が枯れるほどに魔術を使って、試し続けた。愛する者の魂を呼び戻そうと。狂った心でただ一心不乱に、彼女は試行錯誤を重ねた。
試して、試して、試して、――――
――――試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して試して――――全て、失敗に終わった。
幾万の試行を重ねた末に得られた結果は――――もう、愛した妹は戻ってこないという事実。
きっと大丈夫。また取り戻せる。絶対に、そうして見せる――――そう己に誓い、心が壊れて廃人になっても可笑しくないほどに、全てを出し切ったモルガンは血涙を流しながら、思う。
何故、
何故、
何故、何故何故何故――――向ける方向すら失った憎悪と怨念はやがてブリテンという国に向けられることになる。モルガンがブリテンに対し、己の最愛の妹を犠牲にして続く価値を見いだせなかった故に。
アグラヴェインを唆し、王妃と騎士の不義を公表し国を大混乱に陥れた。
息子の一人であるガウェインを操り、王都を滅茶苦茶に荒らした。
外部から侵略者を引き入れ、この国を再度戦火に放り込んだ。
残忍さを取り戻した魔女は狂気のままに動き続けた。ブリテンへ復讐するために。愛してくれる者が消え、独り取り残された己の全てを使い、彼女はブリテンという国そのものの歴史を終わらせようと動き続けた。筋肉は千切れ、骨は砕け、肌はボロボロになり、それでも彼女は止まらない。
もはや彼女に、自身の身を案じる感情は残っていなかったのだから。
だが、そんな彼女にもついに終わりの時が訪れる。
モルガンは最後の仕上げに、かつてのブリテンの最終防壁役であり、今となってはもうその数は全盛期の半分以下になってしまっている円卓の騎士の一人――――自身の子であるモードレッドを、彼女は己の運命を変えた森へと誘った。
無為の民を人質に取り、『一人で指定された場所まで来るように』という手紙を送った結果はものの見事に成功。本当に何の策もせず、モードレッドは一人で薬草が自生している森へと来た。
冷酷な笑いを浮かべながら、モルガンはモードレッドに洗脳の魔術をかけようとして――――
彼女を守る魔術措置が施された鎧によって術が弾かれ、逆に自分が斬り捨てられてしまった。
そして今、モルガンとモードレッドは対峙していた。
血まみれの魔女は巨大な木の幹にその背を預けながら、赤雷の騎士はわずかに差し込む月光を背に。
これが母と子の、久々の再開だというのだから――――現実とは、残酷なものである。
「……モード、レッド」
「――――馬鹿なことしやがってよ。まさか本当に、俺が何の対策も無しに腕の立つ魔術師に近付くとでも思ったのか? 昔のテメェなら、とっくの前に気が付いていただろ」
「……そう、ね。ええ……私も、もう歳って、ことかしら」
モードレッドの鎧は、アルフェリアが一度壊してしまった際に改良を施してある。強度だけでなく、様々な魔術から装着者を守る様に対魔術障壁も張られているのだ。だからこそモードレッドはいつも通りの様子でモルガンに近付けた。そうでなければ、一人でのこのこ来るはずもないだろう。
例え鎧の護りがなくとも、モードレッドは民のために一人で突っ込むだろうが。
当然そうして居たら間違いなく洗脳されて終わり。最悪の結果を迎えなかったのは、ひとえにアルフェリアという存在が居たおかげだ。
それを説明され、モルガンは一瞬だけ茫然として……笑顔を、浮かべた
「――――あの子が、私を止めてくれたって、事なのかしら」
体からだんだんと血液が失われ、感覚が消えていくというのに――――モルガンは、自分でもわからず笑みを浮かべていたのだ。
狂った自分を、また
はたまた、その両方か。
「モルガン。アンタの事は嫌いだが――――たった一つだけ、感謝していることがある」
「…………? 貴女が、私に? 一体、何を……」
利己的な感情で生み出し、その身に一切の愛情など注がなかった。だからモードレッドが自分に感謝する道理も理由も無い――――だけど、違った。
その感謝はごく当たり前で、子が親に対して思える一つの感情。
静かに、モードレッドの口からそれは告げられた。
「――――俺を生んでくれて、感謝する。
「…………ぁ、ぁあ……」
久しく流していなかった感謝の涙を、モルガンは感激の嗚咽混じりに流す。
今だけ彼女は、一人の母として――――立派に育った子を見た。
堕落した自分をその手で裁いてくれた、強くなった我が子を。
「……それだけだ。で……何か、言い残すことは」
「――――モードレッド」
「ああ」
涙を流しながら、モルガンは母としての微笑を浮かべ――――今できる最大の感謝を、娘へと送った。
「生まれてきてくれて、今まで生きてきてくれて……ありがとう。貴方は、私の自慢の……娘です。遅すぎますが……最期に、ようやく、気がつけました……!」
「……………………っ」
「こんな不甲斐ない母を、許してください。願わくば貴女に、救いがあらんことを………」
最期にその言葉を娘に託し、モルガンはその瞳を音もなく閉じる。
もうすぐ訪れる、自身の死を待つために。
(アルフェリア…………もし、貴女が生きていたならば――――)
その脳裏に浮かんだのは、かつて想像し――――もう、叶わない夢の光景。
家族皆で、笑顔を浮かべて過ごす平和な一場面。
モルガンが生涯通して唯一心底から望んだ、優しい願い。
(――――そんな生活も、夢では無かったのかも、しれませんね)
こうして――――湖の魔女の生涯は、幕を閉じた。
モードレッドは見る。既に生気が消えてしまった母の亡骸を。その肉体は度重なる無理によって幾度も欠け、ボロボロになっていた。凡人からすればその様は『醜い』と言えるだろう。だが、その場にいたモードレッドはそんなことは一切思わず――――静かに眠る母の姿を、美しいと評した。
「――――……母上…………」
悲痛なる子の呟きが、月夜に昇った。
・・・結局お前もアルフェリアスキー(シスコン)かよ!!!
と思ったそこの貴方は悪くない。一家全員がシスコン(アルフェリア:シスコン アルトリア:シスコン モードレッド:姪だけどシスコン モルガン:シスコン ケイ兄さん:シスコン)ってどういうことだよ!私の小説シスコンが跳梁跋扈しすぎじゃないですかねぇ・・・・!!( ;´Д`)
そして嫉妬の魔女さえ改心させた(後に悪化させたが)アルフェリアさんのコミュ力よ。流石我らがチート姉貴!俺たちにできないことを(ry
おまけ:円卓+αのアルフェリアさんに対しての気持ち(一部除く)
<円卓組>
アルトリア「大好きで、頼りがいがあって……世界一大好きな姉さんです!」
モードレッド「うぉぉぉぉぉぉぉ姉上ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!( ;∀;)」
ケイ兄さん「俺とってのアイツ?・・・ただの兄妹だよ(意訳:俺はあいつに相応しくないから、あいつにとって俺はただの兄貴で十分だ)」
ランスロット「素晴らしい女性です。正直ギネヴィアより彼女・・・いえ、何でもありません」
ガウェイン「夜でも私のガラティーンが三倍になれる女性です!(無邪気な笑顔)」
トリスタン「第二のイゾルデ・・・ああ、悲しい。彼女に恋愛観がないことが実に悲しい・・・(ポロロン)」
ガレスちゃん「え?その・・・あこがれの人です!」
アグラヴェイン「・・・・初めて、恋慕と言う物を抱いた相手だ」
ベディヴィエール「尊敬する人です。騎士としても、人としても。・・・・異性として、ですか?その・・・私は、あの人には相応しくないので」
ギャラハッド「母としての愛情を注いでくれた大切な人です。命を差し出しても守りたいと・・・そう、誓いました・・・ですが、それは・・・」
パーシヴァル「・・・守れなかった、お人だ」
ガヘリス「・・・・・・初めて、自分に対し怒れる機会を、くれた人だ」
<第四次鯖>
AUO「アレは俺が手にするにふさわしい物だ。財の八割を投げ捨ててもいいぞ?」
兄貴「一度でいい。本気で矛を交えてみてぇ・・・。会話こそしなかったが、ありゃ良い女だ。ちっとだけ優しいスカサハって感じがする」
征服王「あれだけの女傑にはあったことがない。故に、余の妻とし、共に世界を制覇する喜びを分かち合いたい所存である!」
静謐「・・・?そうですね、一目見ただけですが・・・優しそうな人でした。できることなら、触れてみたい・・・」
ポンコツ聖女「・・・頼むから被害を広げないでください(泣)」