Fate/argento sister   作:金髪大好き野郎

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待たせたな!そして残念今回もギャグ回だよ!聖杯戦争始まったのに始まらないんだけどどういうことですか橘さん!オンドゥルルラギッタンディスカー!

・・・まぁ、楽しんでみていってね!(キラッ☆

追記

細かい部分を修正しました。

追記2

ランスロットの服装描写を追加。

追記3

描写の一部を変更。


第八話・聖杯戦争ってなんだっけ

 深山町、柳洞寺。

 

 冬木という日本でも屈指の霊地の中で最もマナが濃い場所であり、実質日本最高峰の霊地であるその場所の地下には天然の鍾乳洞が形成されている。

 

 更にその鍾乳洞の中には大聖杯――――聖杯戦争の中核を担う世界最高クラスの魔力炉心が設置されており、それがあるからこそサーヴァントという膨大な魔力を必要とする存在はこうして少々の魔力で現界することが可能になっている。つまりそれがなくなれば聖杯戦争そのものが破綻する。それほどに重要な代物が、その最奥部に存在している。

 

 私は苦い顔をしながら、その鍾乳洞の入り口の前に立っていた。その状態は実は一時間以上前から続いていた。だがそれは私の意思に反することであった。

 先程から懸命に体を先に動かそうとしても、動かない。この体を形作る『器』そのものが行動を拒否しているのだ。

 

 大聖杯への干渉という行為を。

 

「……やっぱり駄目か」

 

 剣を向けることもできなければ鍾乳洞の中に入ることさえ敵わない。この体が聖杯が用意した器である以上、聖杯によって下される命令は絶対の物となる。懐に不穏な代物を入れるなど、聖杯でも御免という事だろう。

 本音を言えば大聖杯に直接干渉して、聖杯の中身を染めている『この世全ての悪(アンリ・マユ)』を摘出したかったのだが――――世の中そこまで上手くないらしい。

 

 一時間の奮闘の末、私は渋々諦めた。

 

 これ以上やれば大聖杯から予備の魔力を使ったサーヴァント数体を差し向けられかねないし、それ以前に魔力のバックアップを解除される恐れがある。

 

 私の魔力生産力が膨大とはいえ、弱体化後の私では全ての手段を動員してランスロットを実体化させられるだけの余裕を確保できる程度なのだ。聖杯のバックアップが途切れれば、良くて二日持って終わりだろう。当然、一切戦闘を行わない前提でだ。

 

(……生前の状態ならサーヴァント七騎を保有しても十分な魔力を余裕で確保できたのになぁ)

 

 出来ないとわかっていながらも、失ってしまった力に後悔を抱かずにはいられない。あれでも一応地道に努力を積み重ねて得た力だ。積み重ねてきた物を自分から落としてきたとはいえ、無くしてしまったのだから少しだけ後悔してしまう。

 

 落としてこなければ、此処に来ることさえままならなかったのだけれど。

 

 汚染原因の排除と言う目論見が失敗したことに溜息をつきはしたが、私は気分を入れ替えて周囲の自然を堪能しながら柳洞寺の長大な石段を降りていくことにする。

 まだ、全てが終わったわけでは無い。小聖杯という大聖杯の制御装置を使えば汚染の除去も不可能ではないのだから。

 だから諦めず、少しずつ頑張ろう。

 

 そう、私は小さく決意した。

 

 息を吸えば周りに生えている木々が生み出す綺麗な酸素が肺に飛び込んでくる。体全体を駆け抜ける爽やかさについつい顔を緩めながらも、平和な今を可能な限り楽しんだ。

 

 もしかすれば、もう二度と見て感じられないかもしれないのだから。

 

(…………ん?)

 

 石段を降り続けていると、こちらに上がってくる男が見えてきた。

 参拝客なのだろうかと思いながら、私は適当にその男を観察してみる。別に変な意味はない。聖杯戦争中なのだから、不意打ちを避けるためにもできる限り警戒はすべきだろう。

 されたところでヘラクレス並の一撃でもないと余裕で返り討ちにできるのだが。

 

 その男は――――何というか、虚ろであった。

 

 生気のない白髪はまともに手入れされておらずボサボサになって肩まで垂れており、着ている分厚い漆黒のロングコートの隙間から微かに見える肌はゾンビの様に青白い。そして髪の間から見える双眸は――――血の様に真っ赤だった。

 

 そこで私は警戒を一段階上げる。

 

(――――本当に……人間?)

 

 その特徴は吸血鬼――――死徒の様であった。

 

 だが今は早朝。朝日が地表を明るく照らし、これでもかというほど光を振り注がせている時間帯だ。死徒がそんなところに出てみれば速攻で灰になって消えるだろう。だから恐らく、死徒という事は無い。

 だけど私は、根拠こそない勘ではあるがあの男がどうしても人間とは思えなかった。

 

 纏っている雰囲気が、余りにも人離れしていたのだから。

 

 敵意は感じられない。否、最初からこちらなど眼中にないのだろう。これを良しとするか悪しとするかは個人の問題だろうが、とりあえず私は面倒事に発展しなさそうだと安堵した。余計なしがらみを今の時期に増やしたくはないのだから。

 

 そう思っている間にも男はそのままこちらに昇ってきて、私の隣に来たところで「ようやく」こちらに気が付いた様に目を大きく開いた。

 

 こちらとしてはやっとか、と言いたくなったが。

 

 気づかなくとも全然構わないけど。別に拗ねてないよ? ホントウダヨ?

 

 しかし先程からこの男、何を黙っているのだろうか。

 何か言いたげかなおで何十秒も硬直しており、何ともいえない空気となっていた。もう帰っていいかな、とか思い始めた時、ついに男が口を開く。

 

 

「――――イヴ?」

 

 

 が、出てきたのは全く脈絡のない単語であり、私はつい頭の上に疑問符を浮かべた様な顔になってしまう。

 

「え?」

「……いや、すまない。亡くした妻に、似ていたのでな」

「あ、えっと……」

 

 かと思いきやとんでもなく暗い過去を聞かされる羽目になった。何故だ。私の幸運パラメーターは高いはずなのに。まさか悪運が高いとかそんな類なんじゃなかろうな。

 男はそのまま何とも言えない顔で沈黙し、じっと私の顔を射抜かんと凝視し続ける。

 

 ――――その眼は、泥のように濁っていた。

 

 深い絶望を味わい、そのまま抜け出せなくなったような――――そんな瞳が、こちらを向き続けている。名状しがたい圧力に押されて、本能的に一歩後ずさってしまう。

 

「あの、私の顔に何か……?」

「……ああ、申し訳ない。気を悪くしたのなら謝ろう。ただ少し、寺を見に来ただけなのだ。怪しい者では無い」

 

 何処から見ても怪しげなオーラぷんぷん放ちながら、その台詞は無いんじゃないでしょうか。そんな素朴な疑問を浮かべた私はきっと悪くない。

 

 男の言葉に虚偽は無かった。私の直感スキルがそう判断しているのだから、恐らく敵では無いのだろう。少し早計かもしれないが、怪しい人物を一々敵性判定していたらこちらの頭がパンクする。何事も適度にする方が自分にも他人にも迷惑をかけない寸法ということだ。

 

 張り詰めていた心を解して肩の力を抜き、不穏要素が消えたことで気を楽にしながら私は再度石段を降り始める。

 やはり少し気が高ぶり過ぎていた様だ。少しはリラックスすることも考えるべきか。

 拠点に帰ったら読書や昼寝などで、偶には自分に休みを与えるのも良いだろう。

 

(これでアルが抱き枕できれば文句なしなんだけどなぁ……)

 

 そんなシスコンな考えを浮かべた時、ふと背後から小さな呟きが聞こえた。

 

 

「……愛した者さえ忘れるほど、老いてしまったというわけか。私は」

 

 

 深い悲しみに満ちた、そんな呟きが。

 反射的に振り返ると――――もう男の姿は消えていた。

 

 一体、何だったのだろうか。

 

「……はぁ、考えても仕方ないか」

 

 気にしても変わらない事は一々考えず心の片隅に置くべきである。少なくとも聖杯戦争という一大事が始まると言うのに、そんな余計なことに気をかけていては駄目だろう。

 今は目先の事に集中すべき時。ラーメンを食べている時うどんの事を考える馬鹿はいないだろう。そう言う事なのだ。なんか違うかもしれないけど。

 

 それに私は今から、五人分の朝食を作らなければならない。

 現在は午前七時半ほど。少し早いが、商店街に行けば良さそうな食材も買い込めるだろう。

 

「さて――――食材の買い出しにでも行きますか!」

 

 改めてそう口にすることで自分を奮い立たせる。

 

 朝食は一日の始動燃料。何事も朝食を食べねば始まらない。動くにも考えるにもエネルギーと言う物は欠かせないのだから。

 そう言うわけで、忙しくなる今日からはより腕を振るうと気合を入れることにする。

 

 なんか聖杯戦争全然関係ないような気がしなくも無いが――――細かい事は気にしないのが世の中の生き方なのだ。だから気にするな。イイネ?

 

 そんな感じで私は、今日の朝食のメニューを考えながら石段を降りるのであった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 香ばしい朝食の香りがリビングに漂う。

 スキルの恩恵があるとはいえ、十分すぎるほど卓越した料理の腕を持つ私の作ったベーコンエッグサンドは腹の空いている者ならば容赦なくその空腹感を増す凶器であり、フラフラとまだ寝ぼけている者達を無意識に引き寄せる。

 

 お前らはゾンビかと苦笑しながら、出てきた三人――――ヨシュア、雁夜、桜の三人を洗面所に押し込み、出来上がった朝食を更に持ってテーブルに置いたりしててきぱきと食事の用意を済ませる。

 終わった頃に丁度寝癖を直したパジャマ姿の三人が、口から涎を垂らしながら椅子に座し始めた。犬かお前らは。

 

「わぁ……おいしそう」

「さ、サーヴァントというのは、こんな料理も作れるのか?」

「いや、アイツが特殊なだけだ。スキルの影響だよ」

 

 などと会話を交わしながら、三人は一緒に手を合わせて「いただきます」と言い、食事を開始した。

 同時に一口――――直後、雁夜と桜の体が固まった。更に、その眼から大量の涙を流し始める。そこまで美味かったのか。

 

「くぅっ……なぜ、なぜ俺は今まで……!」

「美味しいよぉ……」

「……懐かしい反応だな」

 

 いや、泣くほど美味しいと思ってくれるならこちらも喜ばしいのだが、流石に私もどういった反応をすればいいのかわからない。何というか、初めて私の料理を口にした円卓たちのような反応で。いや、喜ぶべきなのだろうけど。

 ヨシュアは何度か食べたことがあって慣れてきたのか、すっかり普通の反応になっている。正直彼の味覚がどうなっているのか気になってしまう。あの料理に舌を慣らしてしまったら、他の料理は一体どんな味になっていることやら。しばらくは他の奴に料理を出させるべきなのかもしれない。

 

 そんなことを考えながら、私は令呪からランスロットへと念話を送る。

 何を遠慮しているのか、先程から全然姿を現さないのだ。だから直接命令して引き摺り出さねばならないだろう。

 

 呼ばれたランスロットは呆れ半分といった顔で実体化する。

 

「……アルフェリア、私はサーヴァントなので食事の必要は――――」

「はいはい。さっさと座る! ……もしかして、私の料理は食べたくないの? 折角用意したのに……」

「わかりました今すぐ食べましょう!」

 

 食べてもらえないのかぁ、と悲しんでいたらランスロットが凄まじい速さで手のひらを返した。やっぱりお腹空いてたんじゃないか、と思いながら私もそれに倣って椅子に座り自分の分を食べていく。

 

 と、此処で伝えねばならないことがあるのを思い出した。

 

「ヨシュア、ランスロット。ご飯食べた後は街を見回りに行くからね」

「見回り? どうしてだ?」

「……敵地偵察、でしょうか」

「まぁ、それもあるけどね。少し霊脈を操作しに質の良い霊地を探そうかと」

「はぁ?」

 

 この場所の霊脈は質がいいと言えばいいのだが、やはり少し心もとない。かと言って更に上質な霊地は既に御三家に抑えられているせいで下手に干渉できない。この場所もどうにか工面して手に入れた、今のところ手に入れられる最高の霊地なのだ。

 

 だが、私と言う悪燃費サーヴァントを十分に補助できるかと言えば答えはNOだ。

 私を十全に運用したいのならば遠坂邸や柳洞寺。あとは後天的に改造されて霊地になった冬木市民会館ぐらいか。今日はとりあえずそこら辺を回って霊脈をこの場所に接続する予定である。

 

 勿論霊脈の改変・接続には多大な時間が掛かる。ので、護衛としてランスロットを連れて行くのだ。これに関してはランスロットを事前に確保しておいてよかったと思った。

 

「れ、霊脈に手を加えるって……普通それは一流魔術師数十人掛かりでやることだぞ?」

「え? でも私、生前は良く霊脈から直接魔力を引き摺り出したり経路改変したりしてたけど? 現地に行けば二時間ぐらいでこの場所に繋げられるよ?」

「……お前は俺の予想を悉く凌駕してくれるな」

「ヨシュア、アルフェリアは常識にとらわれないお方なのです。考えても無駄ですよ」

「ああ。俺もそう思った」

「ねぇ、それ悪口? 悪口だよね?」

「「いえ、全く」」

「…………」

 

 私はできることを言っただけなのに、どうしてこんな呆れた目線を向けられなければならんのだろうか。別にいいけど。明日朝食にたっぷりマスタードを仕込む罰を与えるし。……いや、スキルのせいでそれすら美味に感じられたら罰にならないしなぁ……。

 

 あ、そう言えば今日からサーヴァントの衝突が始まる頃だろう。なら罰としてランスロットには戦闘偵察にでも行ってもらおう。余り罰になってないような気がするが、どうせ使い魔を作って放つぐらいならランスロットを使った方が確実だろうし、使わない手は無い。

 ヨシュアは……明日の朝にドッキリでも仕掛けるか。うん、それがいい。

 

「……なぁ、今、『アルフェリア』って聞こえたんだが。気のせいか?」

「安心してください雁夜。今の貴方は死に体ですが、まだボケは来てませんよ」

「おいランスロット今の台詞どういう意味だ!? つかまだってなんだ!? 俺はまだ三十代だッ!」

「え? 老けてたから四十ぐらいだと思ってたんだが」

「お前らなぁ……」

 

 目ざとい、いや耳ざといなカリヤーン。いや、あれだけ私の名前言ってれば気づかない方がおかしいのか。

 雁夜をいじりながらヨシュアは彼の問いに答える。隠す意味も無いしね。

 

「キャスターの真名はアルフェリア・ペンドラゴン。現代の料理の下地を整えたとされる美食の開拓者だよ」

 

 料理人としての側面の方が有名な英霊も中々いないと思うの。ま、まぁ下手に大英雄扱いされるよりはそっちの方が穏やかなので悪くは無いけど――――

 

 

「――――あ、あの『悪鬼羅刹の狂戦士』か!?」

 

 

 ……は?

 

「ちょっと待ってその二つ名何!? って言うか私後世にどんな名前付けられてんの!?」

「ん? そりゃ『戦神』『勝利の戦女神』『天上の料理人』『救国の聖女』『冷徹な鉄仮面』『慈愛の聖母』『食の救世主』『赤き血姫』『白銀の流星』『銀の竜騎姫』『神聖処女』『冷酷無比の狂血女王』『悪鬼羅刹の狂戦士』『人間戦術核兵器』――――」

「どんだけ変な二つ名付けられてるの私ッ!? っていうか最後の完全に最近付けられたっぽいんだけど!?」

「伝承が伝承だからな。皆面白がって付けまくってるんだよ。おかげで逸話が凄まじく誇大解釈されて、今はお前は『古代チート系登場人物』筆頭になってるぞ。例えるなら、ヘラクレスみたいな」

「実際に見たことがある私からしてみれば、誇大解釈じゃなくて忠実に再現しているのですがね」

「ランスロット!?」

 

 何故か話の矛先が私に向き始めた。どうしてこうなった。

 確かに生前は核兵器と揶揄されても可笑しくない被害をBANZOKUどもに与えたけど、数十万単位で殺戮したことはあるけどさぁ……! もうちょっと穏やかな二つ名は無かったのか……!!

 

 そうやって卓上に突っ伏して真っ暗なオーラを滲み出していると、とてとてと可愛らしい足音を立てながら桜が私の傍まで駆け寄り――――ギュッと私の腕を抱きしめた。

 

 ――――天使だね。間違いない。

 

「ア、アルフェリアさんは……凄いんですねっ! かっこいい、ですっ……!」

「……ふふっ、ありがと、桜ちゃん」

 

 何だろうね。最近アルトリウム成分が不足しているせいで思考が乱雑になってきた。

 しかし、代替になるエネルギーを今発見した。桜ちゃん成分、通称サクラニウム。新たなエネルギー発見によりシスコンパワー活動時間延長を――――うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお我慢できないぃぃいいいいいいいいいい!!!

 

 私は半分無意識に近寄ってきた桜を抱きしめて膝の上に乗せる。

 桜ちゃん可愛い。カワイイ。半ば思考放棄状態になった私の脳内はそんな単語で埋め尽くされる。

 

「わ、あっ」

「うんうん、桜ちゃんは優しい子だね。……あぁ、柔らかい。ねえ桜ちゃん、一回だけ『お姉ちゃん』って呼んでくれるかな?」

「……お、お姉、ちゃん」

 

 ――――吐血しかけた。

 

 サクラニウム補給完了。もう何も怖くない。

 

「我が生涯に、一片の悔いなし――――あ、でもアルトリウムをもう一回だけ補給したか、った……」

「ちょっ、アルフェリア!? なんか白く燃え尽き始めたぞ!?」

「お気になさらずヨシュア。アレはアルトリウム不足の症状なので。王が不在になる遠征時に割と頻繁に起こる事ですから、いつもの事です」

「それでいいのか湖の騎士!?」

「もう、ゴールしてもいいよね……」

「まだスタート地点だからなァッ!?」

 

 ああ、我が愛しの妹よ。君は何処に――――。

 

 そんなテンションで私たちの朝食は終わった。なんかカオスな状況になっているような気がしなくも無い。だが大丈夫だ、問題ない。慣れればランスロットの様に優雅に紅茶を飲めるぐらいにはなるから。

 こうして騒がしい朝は、混沌な感じで幕を閉じるのであった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「――――はぁぁ…………」

 

 現在、冬木市民会館近くの公園。

 そこの小さなベンチで俺、ヨシュア・エーデルシュタインは疲労から来る深い溜息を吐いていた。

 街の見回りという名目で様々な店を五時間近く振り回されながら連れまわされれば、疲れもするだろう。女子に引っ張られる男というのはこういう気持ちなのだろうか。

 

 と、愚痴はそこまでにしよう。

 今俺たちは冬木市民会館にて霊脈を拠点まで引っ張る仕込みをしている。あの場所の霊地は一人の魔術師が運用すならば十分な質を誇ってはいるが、アルフェリアを動かすには少々心もとない。そういった理由で『他の霊地から霊脈を敷いて質を底上げする』という作業を取り行っているのだ。

 

 セカンドオーナーに見つかれば説教どころかその場で殺されかねない行動であるが――――曰く、『バレなきゃ問題ない』らしい。まぁ、見つからなければ咎められるはずもないので当然か。

 

 そんな訳で、今現在アルフェリアは市民会館内にて作業をしている。勿論人に見つからないような場所で慎重に。とはいえ見つかる可能性があるので強力なサーヴァントであるランスロットを連れてだ。因みにランスロットは鎧姿のままでは出歩くことはできないので、アルフェリアが事前に購入しておいたダークスーツを着歩いている。おかげで女性たちからは黄色い声が飛び交うようになった。罪深い奴だ。

 

 で、戦力外である俺はこうやって一人で休憩している。別にサーヴァント相手にタメを張れると言いたいわけでは無いが……それでも仲間外れにされた気分で、少々居心地が悪い。

 

「……惚れた女も自分で護れないとは、情けねぇ」

 

 超一級サーヴァント相手に何を言っていると自嘲する。人の身で人を越えた超越者を守る? 隕石素手で受け止めてからほざけと自分に言い聞かせた。

 

 俺は、弱い。比べる対象がおかしすぎるが、それでも『弱い』のだ。

 神秘の薄い現代ではどれだけ努力しようが人の範疇から外れることは不可能に近いし、強力な宝具の類もまた作り出せない。加えて俺の魔術は決定打に欠けるという事実。

 何でもできると思ったわけじゃない。

 それでも、アイツを守りたいという願いは――――一度でいいから叶えてみたい。

 

「いっそ、聖杯に『俺を強くしてくれ』とでも頼んでみるか?」

 

 そう考えて直ぐに『愚か』と切り捨てる。

 聖杯なんていう胡散臭い物にこの願いを託してどうする。これは自分の力で成し遂げるべきモノ。他人どころか怪しい道具に頼るなど、男が泣く。

 

 難儀なものだなと、近くの自販機で購入した缶コーヒーを啜る。

 

 いつもより、コーヒーが苦い。錯覚だろうが、そう感じた。

 

 

「――――おい、お前」

 

 

 何の前振りも無く、そんな声をかけられる。声の高さからすると、大体十代後半ほどの少女の物だろうか。

 何か厄介事に巻き込まれなければいいが、と思いながら声のした方を振り向いてみると――――目と鼻の先に少女の顔らしきモノが存在していた。

 

「どわっ!?」

「……むー、ん~? おい、動くな」

「なっ、ななな……」

 

 肩をがっしり掴まれて動きを制限された挙句、声をかけてきた金髪の少女は俺の身体を(まさぐ)り臭いを嗅ぎ始める。何だ、そういう特殊性癖の持ち主なのか。

 

 改めてみれば恰好も結構アレだった。へそ丸出しのチューブトップに紅いレザージャケット、そして凄まじく短いショートパンツという露出狂か何かと勘違いしてしまうほどのファッション。顔から見て恥じらいも何もないから、本当に露出狂か何かじゃないのかこいつ。

 

「すんすん…………懐かしい臭いだな。これは、何だ……?」

「ま、待て待て! お前誰だ!? 初対面の奴の体臭嗅ぐとか正気かお前!?」

「るっせぇ、黙ってろ。えーと……うーんと……いや、まさか。ありえねぇ。こいつから姉上の匂いがするなんて――――」

 

 何やら意味不明なことをぶつぶつと呟いているが俺には関係ない。

 さっさと振り払って逃げようとするが――――俺の肩を掴んでいる力は、並大抵の物では無かった

 

 まるで巨大な岩にでも挟まったような力。

 こんな小柄で華奢な少女が出せる力では無いはず。その時俺の脳裏にある予測が走る。

 それを理性で否定しようとしたが、その時『決定打』が出された。

 

 

セイバー(・・・・)! 急に駆けだして、どうしたの?」

 

 

 ――――その言葉に、顔をひきつらせた。

 

 セイバー。それは聖杯戦争に置いて最優のクラスと言われるサーヴァント。

 それが今、俺に肩を掴んでいる少女の事ならば――――絶体絶命ではないのか、この状況は。

 

 否定する材料を見つけるために、先程決定打をくれた駆け寄ってくる子供の右手の甲を見てみると――――見事に、令呪らしきモノが刻まれている。

 

 不味い。

 

 令呪を使って呼び出す――――しかし周りに人が多過ぎる。何とか誤魔化しても確実にペナルティを食らって聖杯戦争を勝ち抜くことが難しくなってしまうだろう。

 なら俺のすべきことは何だ。

 どうすればこの状況を潜り抜けられる。

 

(俺が、もっと強ければっ……)

 

 セイバーの拘束を振りほどけるほど強かったならば、何とかこの状況を打破できたかもしれない。

 そんな後悔が胸を満たし、俺は反射的に息を呑む。

 

「いや、こいつから知ってる臭いがしてな。……おい、どうした。急にすげぇ汗流して。具合悪いのか?」

「……セイバー。そろそろ放してあげれば?」

「おっと、そうだったな。すまん」

 

 ――――呆気なく拘束が解かれた。

 

 ……ドウイウコトダ? こいつ等は俺をマスターだと知ってこんなことをしたわけじゃないのか?

 

 よく見ればセイバーのマスターらしき子供からは微弱な魔力しか感じられない。令呪は他の令呪の存在を感知できるとはいえ、俺の令呪はアルフェリアの高度な隠蔽魔術に隠されているせいで感知はほぼ不可能。

 恐らく、非正規のマスターという事だろう。当然、此方がマスターだとわかる筈もないし、その戦闘能力も皆無なはず。

 

 ならばここで静かに仕留めて――――

 

 だが、相手は子供――――

 

 汗を流しながら突き付けられた二つの選択を凝視する。

 考えろ。最善の行動を。何をすべきかを。今ここで選択して――――

 

 

「ヨシュアー!」

 

 

 気の抜けた呼びかけに思わず吹き出しかけた。

 何という最悪のタイミングで現れてくれやがりますかあの能天気娘はぁぁぁああああああっ!!! 脳内で悲鳴を上げながら、俺はこちらにやってくるアルフェリアとランスロットに向かって「来るな」と叫ぼうとする。

 

 ――――だが、彼女の表情が急に変わったことでそれは止まる。

 

 アルフェリアはまるで、もう二度と会えないと思っていた知人とばったり出会ってしまったような顔だった。ランスロットも同様な顔を浮かべている。

 対してセイバーは――――茫然とした顔で泣いていた。

 

 状況が、全く理解できない。一体何がどうなっているのか。

 朝とはまた違う方向で状況が混沌に陥り、この場の誰もが動かなくなってしまう。時間が止まってしまったかのように。

 

 そしてその停滞は、アルフェリアの呟きで壊れることになった。

 

「……モードレッド、なの?」

「――――姉、上……? 本当、に……嘘じゃ、ないよな? 幻覚じゃないよな!?」

「モードレ「姉上ぇぇええええええええええええ!!!」ってきゃあっ!?」

 

 硬直していたセイバーが号泣しながらアルフェリアに突進して抱き付いた。

 その勢いを殺し切れず地面に倒れてしまうが、セイバーはお構いなしに抱き付いた身体を離さず泣き声を上げる。

 

「うぉぉぉおおおおおおおおおお姉上ええええええええええええ!!!」

「え、ちょ、モードレッドっ!? 此処でそんな大声――――ひゃぁっ!? どっ、何処触ってるの!?」

「うぇぇええええぇぇえぇぇええええええん!!」

「お、お尻と背中はっ……ま、待って、お願いだからぁっ…………っうひゃぁ!?」

 

 

 ……何だこれ。

 

 

 周りの人々の視線が刺さる今、俺はただただその疑問を脳内で反響させていた。

 もう一度言おう。

 

 ――――何だこれは。どうすればいいのだ……っ!

 

 答えは帰ってくるはずもなく。

 セイバー改めモードレッドが泣き止むまで、そんな混沌とした状況は続くのであった。

 

 周りの人たちが変人を見るような視線で俺たちを見ていたのは、言うまでもないだろう。

 

 ……聖杯戦争って、なんだっけ。

 

 そんな哲学的な問いが、俺の中に生まれ始めたのはまた別の話だ。

 

 

 

 




遂に邂逅姉上と姉上大好きっ子。そして広がるカオス空間。シリアスさんが息してないの!誰か助けてあげて!え、愉悦?俺もしたいよ!!(泣

因みに今回結構難産でした。戦闘回はすらすら書けるのに日常になると遅筆になるのはなんでなんでしょうかねぇ・・・・


~その頃~日本行き飛行機内

アヴェトリア「・・・(姉さんに呼ばれた気がする)」
アイリ「・・・(気まずい)」

~その頃~とあるビル内

切嗣「・・・・(部屋の隅で体育座り)」
舞弥「・・・・(どうしよう)」

うわぁ・・・(愉悦

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