Fate/argento sister   作:金髪大好き野郎

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今回二話分を圧縮しているので半端なく長いです。まさか二万文字超えるとは・・・たまげたなぁ・・・。

そしてお待たせ間桐陣営救済回。ちょっと急展開だけど、楽しんでみてね!楽しんでみてねッッ!!(大事なことなので以下略

追記
宝具名のミスを修正しました。


第六話・希望の銀光

 冬木市。周囲が山と海に囲まれた自然豊かな地方都市。

 中央の未遠川を境界線に東側が近代的に発展した「新都」、西側が古くからの町並みを残す「深山町」に分かれた変わった街並みを持ち、名前からして寒冷気候そうであるのだが実は割と暖かいという色々特徴的な場所。

 柔らかい日差しは街を照らし、十月下旬だと言うのに相変わらず暖かい気温を保つ様はある意味過ごしやすい環境を人々に与えているのだろう。広い草原があれば転がって眠ってもいいほどだ。

 

 そんな冬木市最寄りの空港の滑走路に、空気を裂きながら小型のジェット機が着陸する。

 イギリスから離陸したそれはとある会社から買い取った小型双発多目的輸送機An-26。静かに地へ舞い降りたそれはゆっくりとその動きを止め、タラップが取り付けられると遂にその出入り口が開かれる。

 

「ここが冬木か。名前通り、寒いな」

「そこまで寒くも無いと思うよ? まぁ、イギリスと比べれば寒いだろうけど」

 

 An-26から降りてきたのは灰色のトレンチコートと黒いミニスカート、そして茶色のロングブーツで身を包んだ銀髪銀眼の美女。誰もが一度は振り返り、どこかの国の王族か何かと勘違いしそうな雰囲気を纏いながら周囲を魅了する。

 身に付けている服こそ質素な庶民の服ではあるが、それでも比較的上質な素材を使っているのか彼女が着るだけでファッションショーに出ても良いほどに高貴さを放っている。

 

 対して、後から出てきた黒髪のやや中性的な見た目の男性の服装は、黒のロングレザーコートに灰色の長ズボンと飾り気のない簡素なものだった。しかし着ている本人が派手なものを好まない性格だと一目で理解出来るせいで、雰囲気に合っているのは否めない。

 

 そんな対極に位置する二人が並んで歩く様は実に異色さを放っていた。

 

「しかし随分薄い反応だな。生前、空を飛んだことでもあるのか?」

「まぁ、ね。言い忘れたけど、私ライダー適正もあるから」

「……まさか竜に乗って空を飛んだとか言わないよな?」

「へぇ、よくわかったね」

「いや、もう驚かないぞ。お前のトンデモさはもう味わい尽くした」

 

 小さく笑い、風で銀髪を揺らすアルフェリアは日が差す空を見る。

 

「そもそもお前、霊体化できるのに何でわざわざ生身で飛行機に乗ったんだ? 親父の残した代物だから別に費用も掛かりやしなかったが。・・・パイロットの雇用代は掛かったが」

「そりゃ生身の方がいいよ。霊体化って、そんなにいい感触でもないし。自分の存在が『溶ける』って言えばわかりやすいかな。こう……広がるような」

「ま、お前がしたいならそれでいいがな」

 

 ヨシュアはカーゴドアの開いた貨物室に入り、そこに存在していた自動車――――ロールス・ロイス・ファントムVIのトランクに放り込む。

 冬木に来る前にイギリスで買い取り、事前に輸送させておいた車体だ。

 

 しかしただの自動車では無い。徹底的に改造され、装甲部分は対物ライフルの直撃でも耐えられる超硬度タングステン製装甲に。窓ガラスは全て重機関銃の乱射を防げる強化ガラス。エンジンは大型化させて最高速を325Km/hまで伸ばし、更にニトロも搭載したことで瞬間最高速度は500Km/hを超える化け物へと変化した。

 

 更に念には念を重ね、サーヴァントに攻撃されても安心なように全ての個所に魔術的措置を施しており、既に『自動車』と呼べる代物かどうかもわからないモンスターマシンと化したロールスロイス。たとえロケットランチャーが直撃しようが傷一つ付かないであろうそれは、もはや動く要塞と言ってもよかった。

 

 その運転席にアルフェリア(・・・・・・)が乗り込む。

 

 何故男のヨシュアが運転しないのかと言うと――――実を言うとヨシュアはバイク免許こそ持っているが、自動車免許を持っていない。故に車の運転はできない。

 免許を持っていないのはアルフェリアも同じことなのだが、彼女はサーヴァントとして『騎乗』スキルを持っている。どちらかと言えばアルフェリアの方が安全性は高いだろうと判断した結果だ。

 

 セイバーでもライダーでもない彼女が何故それを持っているかと言うと、単純に彼女固有のスキルだからだ。そのランクはA++。生前直感だけで竜種を乗りこなしていたのだから、ある意味当然のランクと言える。

 そのせいでライダークラスの意味が消えつつあるのだが。

 

 ロールスロイスで空港を後にし、冬木市内に入る二人。

 ヨシュアは初めて見る異国の風景を物珍しそうな目で眺め、アルフェリアは初めての運転にワクワクしている。少なからず人生を楽しんでいると言っていいのだろう。

 

「で、どう? 初めて国の外に出た気分は」

「…………新鮮な気分だな。まるで別の世界にでも放り込まれたような気分だ」

「じゃ、その気分をたっぷり楽しんでよね。これから色々と忙しくなるんだからさ」

 

 まるで田舎から上京したような若者の反応に、アルフェリアは若干苦笑する。これは十八歳になった青年の反応なのだから、今までどれだけ閉鎖的な暮らしをしていたのかが伺える。

 ある意味、この聖杯戦争は彼に取っていいきっかけになったと言えるだろう。

 下手すれば一生、あの国を出ずに暮らしたのかもしれないのだから。

 

 そのまま観光がてらに街を一回りし、二人は目的の場所に到着した。

 

 二人が目的地としていた場所は、冬木市深山町の中に存在する比較的高い格の霊地。一番良質な霊地である遠坂邸をAランクとすればこの場所はC~Bの中間程。そこまでいいとも言えず、しかし悪いとも言えないこの土地は遠坂が売りに出していたものを買い取ったものである。

 それに中途半端と言っても、冬木の霊地は軒並み高い質を誇る。他の土地と比べれば十分と言えるほどの場所であった。

 

 そして、その土地の上には小さな一軒家が建てられている。

 西洋風の建築であり、日本風の家宅の多い深山町ではかなり浮いていた。更に言えばかなり幽霊屋敷化が進んでおり、壁には緑色の蔦が大量に張り付き、庭は雑草だらけ。

 この様子では中も埃だらけで掃除でもしなければまともな生活はできないだろう。

 当然その掃除も並大抵の労力では済まない。

 

 しかし、それは二人が『ただの一般人』の場合だ。

 

 アルフェリアは早速外部からの監視を遮断するため、周囲に魔力漏洩を防ぐ結界を張りながら銀色の表紙で造られた書物――――『湖光を翳す銀の書(ホロウレコード・グリモワール)』を開いた。

 

 瞬間、一定範囲が無色透明な魔力の膜につつまれる。

 

 この動作だけで外部からの認識の阻害、外敵の自動迎撃、侵入者即時感知の魔術が展開された。キャスタークラスのスキル『陣地作成』と宝具の魔術工房自動作成機能を組み合わせた『神殿』の形成。本来ならば並大抵の努力では作れないはずの代物なのだが、アルフェリアの規格外の魔術師適正と宝具の効力がそれを可能にした。殆どのキャスター涙目の所業である。

 

 一瞬にして風変わりした住宅の周囲を軽く見まわし、作業が無事に終わったことを確認するとアルフェリアはもう一つの作業を始める。

 

「それじゃ、Auto cleaning(自動修正開始)

 

 パンパン、とアルフェリアが手を軽く叩くと、空間に穴が開きそこから大量の掃除道具が現れる。

 それらはまるで自分の意思を持つかの様に、主に言われるがまま宙に浮きながら掃除を始めた。まるでファンタジーでみるような光景だ。メルヘンチックとも言うだろう。

 

 しかしこれは、見た目に反して結構高度な魔術だ。

 自動的に汚れなどを感知し綺麗にする。言うだけならば簡単だが、いわばこれは自立した使い魔を幾つも作り出すようなものだ。並の魔術師に可能なことでは無い。

 それをたった一小節でこなしてしまうのだから、アルフェリアの魔術の腕が分かるだろう。彼女は攻撃魔術こそあまり得意ではないが、こういった補助のための魔術なら彼女の右に出る者はいない。

 

「この様子ならあと三、四時間あれば綺麗になりそうだね。ヨシュアはこの後どうするの?」

「集めた情報を整理して、各陣営への対策を立てる。参加マスターの情報だけなら一通り集まったからな。経歴からその対策ぐらいは練れるだろう」

「じゃあ私は少し時間を貰うよ。少しやりたいことがあるし」

「ああ。構わないぞ。……ただし、厄介事は起こすなよ」

「ふふっ、善処はするよ」

 

 そう言ってアルフェリアはすぐさま敷地内を出ていった。

 遠ざかっていくその後姿を見て、ヨシュアは半分呆れた表情でこう呟いてしまう。

 

「……あれは絶対に事を起こすつもりの顔だな」

 

 ため息を吐きながら、ヨシュアは空を仰いだ。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 間桐邸。

 

 人気のない場所でひっそりと佇んでいるそれは、人が住んでいるかどうかも怪しいほど古ぼけており、割れた窓ガラスは放置され、雑草は一切処理されていないせいでそこら中に生い茂っている。おかげで間桐邸周辺は虫や蛇の格好の巣窟と化しているのは、近所の子供たちの間では有名だった。稀に珍しい虫が取れることでも有名な子供たちの大人気の虫取りスポットではあるが――――基本的にどんな者でも間桐邸には近づかない。森の中に入っても、絶対に一定の距離は保つようにしているのが近所の人々の暗黙の了解だ。

 

 近づいた者は誰一人として帰らない。そんなうわさが流れているからだ。

 とはいえ未だ消えた人はいないが、その不気味さがその噂の信憑性を高めているせいで大人でも滅多に立ち寄らない冬木屈指の危険区域である。

 

 そして、その間桐邸の地下で苦しみ悶えている影が一つ。

 顔半分が硬直して左目からは光が失われ、その肌は士気色と変色し生気が全く感じられず、髪に至ってはどれほどの精神的疲労を積み重ねたのか真っ白になるまで色が抜けている。

 この者が日本人だと、誰に言えば信じてくれようか。

 

 彼の名は間桐雁夜(まとうかりや)

 聖杯戦争のマスターの一人だ。

 

 だが既に彼は体中に住み着き己の体を食いつぶそうとする刻印虫が起こす激痛と破壊により、寿命が一ヶ月程度にまで削られている。にもかかわらずその傍に立つ老人、間桐臓硯は手助けをするどころかその様子を楽しんでいる。

 

「――――呵々々々(カカカカ)! 雁夜よ、サーヴァントの召喚で魔力を消費したとはいえ、もう果てそうではないか。ん? どうじゃ、今の気分は」

「黙れッ…………クソジジイが! 手を貸す気がないならさっさと消えろ!」

「ククク……安心するがよい。刻印虫からお前に必要な最低限の魔力は送っておる。数時間もすれば時期に動けるようになるわ」

「そうだ。それでいい……これから俺は時臣を殺しに行くんだ。こんな所でくたばれるかよ……!」

「意気込みだけは一人前じゃのう。我が孫ながら末恐ろしいわい。後一ヶ月の命じゃがな。呵々ッ」

「言ってろ、老害がッ……」

 

 魔術の素養はあれど、一年前まで全く修練などしてこなかった雁夜に本来ならばマスター権が委ねられることはなかった。だが彼は己の体の中に刻印虫と呼ばれる虫を寄生させ、それを疑似的な魔術回路とすることである程度の魔術を扱えるようにまでなったのである。

 それでも、三流魔術師の域を出ないものではあるが。もし雁夜が令呪の優先権が与えられた『始まりの御三家』たる間桐で無ければ、ここまでしようが令呪が宿る事は無かっただろう。

 

 逆に言えばこうまでしてようやく令呪を得ることができたという事ではあるが。

 

「クソッ、バーサーカーの野郎……霊体化していてもアホみたいに魔力を吸って行きやがる……!」

「おぬしが未熟なだけじゃろうに」

「ッ……わかってることを一々指摘するな。それより、約束を忘れていないだろうな」

「勿論じゃとも。聖杯を得ることができれば、桜はおぬしに渡そう。二言は存在せん」

「最後の最後に忘れたとか抜かすなよ、ジジイめ」

 

 そう。雁夜は聖杯に託す願いはない。厳密に言えば『聖杯を得る』こと自体が目的なのだ。

 

 この間桐邸の中には四人の者がいる。一人は人間と呼べるかは怪しいが。

 間桐家の裏の支配者である間桐臓硯、魔術を忌み嫌い家を出た落伍者である間桐雁夜、魔術の素養が皆無であり実質臓硯の傀儡である間桐鶴野――――そして、遠坂から引き入れた養子である間桐桜。

 

 雁夜の望みは間桐から桜を切り離すこと。一年前から桜は臓硯により、魔術回路を多く備えた子を産むための『胎盤』として虫による凌辱を受けている。それは一般人の感性を持つ雁夜からしてみれば地獄より悍ましい何かだ。何せ、知人の娘――――今でも片思いを抱いている女性の娘が虫に犯される光景など、理性が吹っ飛び発狂してもおかしくない。

 

 故に彼は願ったのだ。桜の救いを。そしてその母親である遠坂葵の幸せを。

 

 そして桜を捨てた父親――――魔術師である遠坂時臣への、復讐を。

 

「必ず、必ず殺してやる……時臣ィ……!」

 

 だが彼は己の矛盾に気付かない。

 愛した女性の幸せを願うにも関わらず、その夫を奪い幸せを失わせるという矛盾に。

 

 何年も積み重なった嫉妬と現状への焦燥感から、正常な判断ができなくなっているのだ。むしろここまで身体を変質させて狂わない方がどうかしているのだが。

 むしろ雁夜はよく耐えた方だ。

 

 ある程度心の余裕ができれば、彼も己の中にある矛盾に気付くはずなのだが――――桜が虫に犯され続けている限り、その可能性は限りなく低いだろう。

 それほど今の彼は追い詰められているのだ。

 一般人の感性を持つ者が蠱毒の中に放り込まれて、一年も正気を保てる方が異常だ。

 

 ――――遠坂家当主である遠坂時臣は優れた魔術師だ。刻印虫を体内に住まわせただけの急造の魔術師である雁夜では、その足元にも及ばないであろう。何せ魔術協会総本部である時計塔の卒業生。落伍者である雁夜に敵う道理はない。

 

 だが今の彼にはサーヴァントという巨大な「切り札」が存在している。

 限定的にではあるが、雁夜は時臣の足元にしがみ付くことができたのだ。

 

 その優越感に浸りながら、雁夜は自分が召喚したサーヴァントについて考えを巡らし始める。

 

 狂戦士(バーサーカー)

 

 本来ならば霊格の低い英霊を狂化、狂わせることで力の底上げをするクラス。雁夜のように腕が未熟なマスターがサーヴァントを強化することで足りない穴の埋め合わせを行うクラスであるが、「理性がない」「燃費が悪い」「一部の能力が使用不可能になる」という大きなデメリットを負っているクラスでもある。

 

 事実、未熟なマスターが一番召喚してはいけないクラスだ。三流魔術師である雁夜に向いているクラスは宝具が低燃費のランサーか、魔力を殆ど必要としないアサシン、またはマスターからの魔力が供給されなくてもある程度自由に行動できるアーチャーだろう。

 が、魔術師としてはへっぽこの雁夜が召喚した場合、魔力不足によりそのステータスが大幅にダウンしてしまう。今行われようとしている第四次聖杯戦争は大半が一級の魔術師ぞろいの魔境。勝ち残るにはスペックの底上げを行う必要があったのだ。

 

 実を言えば聖杯戦争においてステータスはあまり重要視するところでは無い。本人の基本スペックが高かろうが技術で劣っていれば優劣は変化する。

 昔の魔術師の思想に囚われた臓硯だからこそパワータイプを選んだのだろうが、雁夜の特性を考えれば近代の英霊を召喚した方が優勝は十分狙えた。

 

 元ルポライターの雁夜は情報収集が得意なのだ。それを組み合わせ、テクニカル重視の近代英霊を最大限まで使いこなせば、ジャイアントキリングも夢ではなかった。

 

 だが既にサーヴァントは召喚した後。今更ごちゃごちゃ言っても既に時遅し。

 

 そして、雁夜が召喚したのは高名なる湖の騎士ランスロット。数多の武功により『円卓最強』という異名まで持つ、間違いなく強力なサーヴァントである。

 ……なのだが、その燃費は本来のクラスであるセイバーで呼ばれても一級の魔術師でもなければ十分に運用できないほど。バーサーカーになりその悪燃費はさらに悪化し、戦闘を一回行うだけで雁夜の寿命は凄まじい勢いで削られていくだろう。

 現に現界するだけで吐血しかねないのだ。

 計算された戦闘でも行わない限り、雁夜に優勝の二文字はない。

 

 計算(それ)も、長年の妄執で不可能になっているのであるが。

 

「――――――――む?」

「……なんだジジイ。ついに耄碌したか」

「フン、何とでも言って置け。今しがた屋敷の周りに張ってある結界に違和感を感じた。恐らく、侵入者だろうな。反応の大きさから見て上級の使い魔――――いや、まさか」

「おい、まさかもうサーヴァントが来たとか言わないよな。まだ開始宣言すらされてないんだぞ?」

「――――残念ながらそれを待つつもりは相手方にはないらしい。出るがいい雁夜よ。準備運動にはちょうどいいじゃろうよ」

「クッ……力を温存しておかなきゃ時臣を殺せないって言うのに……」

 

 倒れそうな体に鞭打ち、雁夜は霊体化した自分のサーヴァントを実体化させる。

 

 今は臓硯の補助があるおかげで負担はいくらか軽減されてはいるが、やはり体の力が大きく弱っていく感覚がある。これで負担が少なくなっているのだから、補助がない場合一体どうなるのだろうかと考えるとぞっとする。

 

 だが桜を助けるため――――そう思えば雁夜の中から力が湧き上がる。

 人は目的のためならば己の限界すら越えられるのだ。雁夜も例外ではない。

 死人同然の身体を動かし、雁夜は呟く。

 

「大丈夫だ。俺のサーヴァントは最強なんだ……!(集中線)」

 

 謎ポーズを決めて、雁夜は侵入者を迎撃するために待ち続ける。

 相手がサーヴァントであれば目的はこの自分だ。ならばこちらから向かわずともあっちから勝手に来てくれる。

 

 故に待つ。

 

 そして勝つのだ。桜のために。

 

 

 

「――――知ってはいたけど、本当に虫唾が走るぐらい不快な場所だね。蟲蔵(ココ)

 

 

 

 上の階からの階段を、誰かが降りてきた。

 令呪が反応する。間違いなくサーヴァントであると雁夜は直感する。

 

「……ほぅ」

「ッ、な……?」

 

 だが、その衣装につい気が抜け落ちてしまう。

 

 サーヴァントと思わしき女性が着用していたのは、明らかに現代の衣装であった。灰色のトレンチコートと黒いミニスカート、そして茶色のロングブーツ。霊体化できるサーヴァントが服を着るという事に疑問を持つが、むしろ『どこの時代の英霊』という事を隠すにはこれ以上に適した方法は無いだろう。アレならば確かに正体を知ることは難しそうだ。

 

 しかし、それ以上に。

 美人であった。片思いに焦がれる雁夜でさえ、一瞬とはいえその感情が抜け落ちてしまうほどに。

 

 雁夜はすぐさま首を振って気を取り直すが、それでも頬を紅潮させてしまった自分を心の中で罵倒する。もう心に決めた人がいると言うのに、なんて最低の人間なんだ、と。

 その相手は人妻であるのだが。

 

「……貴方が間桐雁夜? であってるよね」

「あ、ああ。そうだ。俺が間桐雁夜だ。お前は一体」

「キャスターのサーヴァント。ちょっと用事があってここに来たんだ」

「……用事だと?」

 

 戦闘では無く用事と告げたキャスターのサーヴァントは、ゆっくりと視線を動かし雁夜の隣に居る臓硯を見る。

 その視線には明らかなほどの敵意が満ちていた。

 

「間桐臓硯――――いや、マキリ・ゾォルケンって呼んだ方がいいかな」

「クッ、呵呵呵々!!! その名を知っているとは、貴様のマスターはよほど歴史が深い家柄の様だな。それで、この老いぼれに何の用じゃ? わざわざ虫の餌になりに来たわけでもあるまい」

「ええ。そうね……害虫の駆除に来たと言えばわかる?」

「――――呵々ッ」

 

 その挑発で臓硯は笑いをこぼし、間桐邸に住み着く数えきれないほどの虫を呼び寄せる。

 まるで黒い津波だ。飲み込まれれば魔術師であろうとその命はない物に等しい。

 それを見てキャスターは気色悪い物を見たといった顔をし、大きな舌打ちをする。

 女性としてその反応は当然だ。大量の虫を見て喜ぶ女性は居ないだろう。喜ぶのはそれこそ超ド級の変態ぐらいだ。長年見てきて既に見慣れてしまった雁夜であっても、苦い顔を隠しきれないほど不快感を感じているのだから。

 

「雁夜よ。ご客人だ。相手をしてやれ」

「わかっている!」

 

 臓硯を嫌悪するという事に関してはキャスターに共感する雁夜ではあるが、アレはサーヴァント。いずれ敵になるであろう存在。ならば臓硯と協力できる今、倒しておかない手はない。

 雁夜は令呪の宿った右手を突き出し、バーサーカーに命令を下す。

 

「バーサーカー! キャスターを倒し――――……バーサーカー?」

 

 しかし、雁夜はサーヴァントと繋がったパスから異常を感じ取る。

 理性を無くしているはずのバーサーカーが、先程から一切呻き声を上げずキャスターを傍観しているのだ。

 

 信じられない物を、見てしまったかのように。

 

 

「――――A,Aaaaa,Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 突然バーサーカーが、押さえていた感情を爆発させたのか間桐邸を揺るがすほどの雄たけびを上げる。

 それを見たキャスターは、小さくクスリと微笑を浮かべた。

 

「久しぶり、って言えばいいのかな。まぁ、貴方がこうなってしまったのは、ある意味必然かな。それなりに対策はしたはずなんだけど。…………糞真面目なあなたに『悩むな』って言う方が難しいよね」

「Aaa,Aaaaaaaa!!!」

「……やれやれ、死んだ後でも私に苦労を掛けさせるね、貴方は。――――それでも一応、覚悟はしてたよ。だから」

「A,Aaaaarrrrrrrrrrr――――Arfelia(アルフェリア)aaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」

「おいで、ランスロット(・・・・・・)

 

 湖の騎士は、狂乱しながら敵に突進していく。

 だがその声は。

 

 どこか、懺悔するような感情が感じられた。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 そんなわけで、この私アルフェリアは桜ちゃんを助けるために間桐邸へと攻め込んだわけですが、案の定ランスロットが立ちはだかっています。しかも寄りにもよって蟲爺がサポートしているせいでやりにくいったらありゃしない。

 

 予定では臓硯はさっさと引っ込んで、ランスロットと私のタイマン勝負となる筈だったのだが……世の中そう上手くは行かないらしい。虫程度、私の周囲に展開されている魔力障壁で近づけもしないが、それでも障壁を削られ続けているので魔力の消費が加速しているのだ。実に嫌がらせ大好きジジイらしい仕業である。

 

 戦闘可能時間は――――五分というところか。マスターに負担を掛けず自前の魔力だけでランスロットを倒し切るなら、その辺が限界時間と言うところだろう。

 

「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

「――――ッ、流石に衰えてはいないね!」

 

 ランスロットが繰り出す疾風怒濤のラッシュ。手足を使った格闘術は、かつて私が教え込んだ『素手を舐めてはいけない』という教訓通り鍛え続けていたらしい。狂化しているのにもかかわらず技の冴えが一切落ちていないことから、彼がいかに途轍もない技量を誇っていたかが分かる。

 変則的にして直線的。一発一発が限りなく致命打に近いそれを躱し逸らしながら、カウンターをランスロットの腹に叩き込む。

 

「Guuuuuaaaaaaa!?!?」

「反応が遅い! 立て直しはどんな相手でも最速で! 詰めが甘いよランスロット!!」

「Uoooaaaaaarrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!」

 

 きつい一発を貰ったランスロットは私との距離を空け、戦況の立て直しを図る。

 だが理性がないからか、忘れている。

 私がキャスターだという事を。

 

「――――『湖光を翳す銀の書(ホロウレコード・グリモワール)』」

 

 名を呟きながら私の手に一冊の本が具現化する。

 これこそ私が生前に残した唯一の聖遺物。その一冊はその事実を翳し、幻想種の皮や聖樹の紙で作られた書物は歴史による神秘を溜め込み、名前を与えられたことで宝具へと昇華された。。

 無尽蔵に魔力を生み出し、開くだけで詠唱を破棄してAランクの魔術を行使できる最高峰の魔導書。

 そのページが、今開かれた。

 

「死にたくなければ避けてよねェッ!!」

 

 背後に展開される無数の魔法陣。全てがAランクの破壊力を持つ固定砲台。

 容赦のない魔力の塊は破壊の力となって撃ち出される。その弾幕はランスロットを包むように展開され――――それをランスロットは素手で弾き飛ばし、他の魔力弾に当てて相殺する。

 

 ランスロットはバーサーカーの身でありながら対魔力スキルを保有する。しかしそのランクはE。気休め程度にしかならないそれであるが――――ただ一点にのみその効力を集中させた場合、Aランクの魔力弾であっても『触れる』程度のことはできる。

 それを利用しランスロットは魔力弾を逸らし、宝具により己の力と変えて他の魔力弾を撃ち落し続けた。

 凡そ人間業とは思えぬ所業に、流石の私も引き攣った笑いをこぼす。

 

 こいつ、ここまで強かったのか。

 

「ごっ、はぁっ……! ぐっ、ぉぉおおっ……! っよ、し…………いいぞ、バーサーカーァッ! そのままキャスターを殺せェッ!!」

「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」

 

 血を吐きながら叫ぶ雁夜の声に応じる様に、ランスロットが地を蹴りこちらに向かってくる。

 その速度は人間からしてみれば高速以外の何物でもない。亜音速の弾丸となりランスロットは私へと突進してくる。

 

 だが悲しいかな。

 今のランスロットでは、どうあっても私は倒せない。

 長時間の戦闘は不可能。奥の手(アロンダイト)は使用不可。理性も無いせいで技術はあっても直線的な戦い方しかできない。

 そんな状態となったランスロットが、私に敵う道理はない。

 

「――――Aaaa!?」

 

 魔術により作り出された魔力の鎖で足を雁字搦めにされたランスロットは重心を崩して地面に膝をついてしまう。

 その隙を見逃す私では無く、転がるランスロットの腹に渾身の蹴りを叩き込み、宙に浮かした。

 

「A,ga」

「貴方は強いよ、ランスロット。でもね――――」

 

 宙に舞い上がったランスロットに追いつき、その鳩尾に掌底を叩き込み、顎を裏拳で打ち、脳天を肘で叩き、肩の骨を打撃で外し、確実に行動不能にした後に私は大きく足を振り上げる。

 

 

今回も(・・・)、私の勝ちだよ」

 

 

 音速の脳天踵落としが炸裂し、空気の輪を作りながらランスロットは間桐邸の床に叩き落された。

 大きなクレーターができるほどの速度で地面と衝突した黒い鎧の戦士は、死にはしなかった物の見事に気絶。床に身を埋め込んだまま痙攣して動かなくなってしまった。

 

 軽やかに着地した私は、服についた埃を払い落しながらランスロットのマスターである間桐雁夜を見つめる。

 

「あ、ぐ、ぁが…………ッ!?」

 

 刻印虫に体を貪り食われているのか、床でのた打ち回って血を吐いていた。

 これではまともな治療をしない限り明日を生きられるかも怪しいだろう。むしろよく耐えたと言える。

 

 視線を変えて、歯ぎしりをしている間桐臓硯を見る。

 その顔を悔しさで歪めてはいたが、どこか余裕があるようにも感じた。そりゃ当然だ。本体は此処には居ないのだから、死ぬ心配がない。ならば余裕もできるだろう。

 

 ――――まぁ、もう何しようが無駄だが。

 

「よくもやってくれたな、キャスターよ。だがその戦闘力は称賛に値する。そこで、だ。儂と協力せんか?」

「…………私の目的を忘れたの?」

「そう言うな。この老いぼれのせめてもの願いを叶えてくれれば、望むものを出そう。聖杯も使った後に譲ろうではないか!」

 

 胡散臭い。

 

 この一言に尽きる。アレが律儀に約束を守る玉には見えない。

 十中八九途中で裏切る光景しか浮かばないのだから、ある意味徹底している。

 あれが若いころは世界平和を謳うイケメンだったのだから、世の中本当にわからない。

 

 

「――――爺さま?」

 

 

 その時、ようやく騒ぎを聞いて来た目的の人物が現れた。

 

 まだ年頃の少女のはずなのに、この世の絶望を見た様な光の無い目をしている少女は、ふらふらと生気のない動きで蔵に入ってくる。

 その少女の名は、間桐桜。

 間桐臓硯により全てを狂わされた聖杯戦争最大の被害者である。

 

「おお、桜や。これはお前の気にすることでは無い。下がっておれ」

「でも……おじさん、気絶してるよ?」

「この未熟者にはお似合いの結末よ。後で虫共の餌にでもしてくれるわい。――――それで、答えは?」

「…………少し待って」

 

 私は幼い桜の傍に近付き、その肩に触れる。

 桜は怯えた顔で肩をピクリと震わせるが、目線を合わせた私の瞳をのぞき込むと直ぐに震えを止める。

 

 さて、さっさと用事を済ませようか。

 もうここには居たくない。

 

「桜ちゃん、でいいよね。……貴女は、今どうしたい?」

「え……わ、たし…………は」

「今、貴女には二つの選択肢がある。一つはこのままこの間桐に住み、地獄のような生活に戻る。もう一つは――――この家を出て、私の知り合いに世話になる事。どっちにしたい?」

 

 これは桜自身に選ばせなければならない。

 強制することは彼女のためにならない。このまま精神の成長を止め、二度と今後の人生に光を見いだせない可能性が出てくるからだ。

 

 故に選ばせる。

 希望の光を刺して、手を伸ばさせてやるのだ。

 

「私、は――――もう、嫌です」

 

 桜は絞り出すように言う。

 その瞳にもう一度光と涙を浮かべ、熱い滴は頬を伝う。

 

「もう、ここに居たくないです……。帰りたい…………お姉ちゃんと、お母さんが居る家に……っ」

「――――もう一度聞くよ。桜、貴女は、どうしたい?」

「ッ――――ここから、出たい! 家族に、お姉ちゃんに、会いたいっ……! だか、ら……助け、てっ……!」

「よく言えました」

 

 肩を震わせる桜の体を抱いて、ぽんぽんと頭を撫でる。

 ようやく、年相応の感情が戻り始めた。リハビリは辛いだろうが、何とかしていくしかあるまい。

 

 泣き崩れた桜を抱き上げ、私は元凶である間桐臓硯を睨みつける。

 

「…………成程。最初から桜が目的だった、というわけか。まさか、遠坂の小童の差し金か?」

「いや。これはマスターにも言ってない、完全に私の独断だよ。――――でも、その事実を知ってももう意味はないよ。貴方は此処で死ぬんだから」

「クッ、苦呵呵呵呵呵呵呵呵々ッ!!! 殺せるというのか? この儂を? 魔術師である貴様が気づいていないはずあるまい。儂の本体は桜の心臓と同化しておる。儂を殺すという事は――――」

 

 

「――――もう黙れよ、お前」

 

 

 魔術を使い、桜を一時的に眠らせ――――即座にその胸へと具現化させた『夢幻なる理想郷(アルカディア)』を突き刺した。

 本体を貫かれたことによって、臓硯が胸を押さえて苦しみ出す。

 

「―――――――ッガ、アァガ、ナ、ナゼ――――!?」

 

 だが剣で貫かれた桜の胸からは血が一切出てこなかった。

 剣がすり抜けたように。

 

「私の宝具は森羅万象あらゆるものを切り裂く絶対切断の剣。――――私が斬りたいもの『だけ』を斬るなんて、朝飯前なのよ。まさか、私が対策も無しに突っ込んできた馬鹿に見えたの?」

「バ、カナ…………コノ、ワシガ――――コンナ、トコロデェェェエエエエ…………ッ!!!」

「死になさいマキリ・ゾォルケン。冬木に来た時点で、貴方は死んでいたのよ」

「キサマァァアアアアッ…………キャァァァァァスタァァァァァアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

 具現化させた『夢幻なる白銀(アルカディア)』が消えると同時に、臓硯の体を構成していた虫がボロボロと崩れ落ち、ただの虫と変わり果てる。

 

 臓硯という魂が死んだのだ。命令を出す主が消えたことで間桐邸内の虫が暴れ出し、刻印虫を体内に埋め込んでいる桜や雁夜が苦しみ出すが、私は持前の治癒魔術を使う事でどうにか症状を抑えて虫の駆除を始める。

 ただし雁夜だけは駆除では無く虫の活性化を納める程度に抑えておく。彼にはまだやってもらわねばならないことがあるのだ。治療はその後だ。非常に申し訳なく思うが、その後にちゃんと治療するので少しだけ我慢してもらおう。

 

「ふぅ……。ま、ひとまずは結果オーライってところかな」

 

 治療を終えた私は価値のある物品や聖遺物を回収し、桜と雁夜、そしてランスロット。ついでに鶴野を回収して間桐邸を後にする。

 もうここに用はない。臓硯と言う頭を失った以上、もう間桐はその歴史を終えたのだ。

 

 魔術で屋敷に火を放ち、それにより中に住み着いた虫が残らず焼け死んでいく。

 その光景を後に、私は無事帰還するのであった。

 

 しかし、一つ気になることがあった。

 

「ランスロットと戦った時――――なんか、力が抜けた様な……気のせい、かな?」

 

 一つの不安を、私は抱いた。しかし気分のせいだと結論付ける。既に身体の異常は無いし、魔術で調べてみても特に異常は見られなかった。だから、私はこの問題を頭から拭い消してしまう。

 

 それが後にとんでもない障害になると知らず。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 微睡の中で、その男――――雁夜は少しずつ己の自我を取り戻していく。

 

 一度は死んだと思い倒れた彼は、こうして自分の意識があることが不思議に感じられていた。

 指は動く。足も動く。

 紛れも無くそれは、生きているという証。きっと体は悲惨な状態だろうが、それでも生きていたのだ。

 

 そして――――彼の脳裏に最初に浮かんだのは、ある少女の姿。

 

 魔術師という外道に全てを狂わされ、絶望の深淵に落とされた片思いの女性の愛娘。

 

 

「――――ッ、桜ちゃん!!」

 

 

 殆ど反射に近い反応で勢いよく上半身を起こす雁夜。彼はあまりに焦ってしまったせいでまともに周囲の状況確認すら行わず、自分が護りたいと思った少女の名を口にする。

 

 一度落ち着きを取り戻し、首を振って周囲を確認してみると――――雁夜の隣には椅子に座り濡れたタオルを持った青年が、茫然とした顔で佇んでいた。

 様子を見るからに、こちらの看病をしていたのだろう。よく見れば雁夜の体は包帯などでグルグル巻きにされており、適切な処置が施されているのが分かる。

 

 しかし、焦る雁夜は感謝の言葉も言わずに近くに居た少年の肩を揺らし始めた。

 

「おい、桜ちゃんはっ、いや、紫色の髪の子を見なかったか! 頼む、答えてくれ!」

「まっ、待て! 少し落ちつけ馬鹿! 傷が――――」

「これが落ち着いて――――ッぐぉおぉおあああぁぁぁあ…………!!?!?」

 

 たださえボロボロだった雁夜の体は無数の傷が生じており、処置により塞いではいたが本人が暴れたことでいくつかの傷が開いて血が包帯に滲み出す。

 突然の痛みに対応できず雁夜はそのまま横に倒れた。それでも彼は動こうとするが、体がそれを許さない。既に限界を越えて酷使し続けていた肉体は、一度の回復により既に自動防御を開始したのだ。むしろ先程動けた方が不思議でならないぐらいである。

 

「いわんこっちゃない………少しは自分の体を気にしろ」

「くっ……桜、ちゃんは…………?」

「安心しろ。お前の隣でぐっすり寝ているよ」

「え?」

 

 雁夜が首を回して自分の隣を見ると、白い患者服を着た少女がすやすやと眠っていた。

 紫色の髪に見慣れた顔つき。間違いなく間桐桜その者である。

 それを見て雁夜は安心したのか、体中の力が抜ける。彼女が無事だったことに、それだけ安堵しているのだ。

 

 そしてようやく冷静に思考を巡らせ始める。

 此処は何処なのか。そして彼は、自分を看病している青年は誰なのか。

 

「君は一体……?」

「キャスターのマスター、と言えばわかるか?」

「ッ、キャスター!?」

「心配するな。攻撃はしないし、この子を人質に取りもしない。殺すつもりならとっくに殺してる」

「……それは、そうだが」

 

 聖杯戦争に置いてマスターは殺すべき対象だ。

 サーヴァントが強力な兵器ではあるが、戦うにはそのための燃料(魔力)が必要となる。その燃料(魔力)を補給する役割を持つマスターの脱落はサーヴァントの脱落に繋がるというわけだ。

 わざわざ戦車を破壊するより、中に居る操縦士を殺した方が早く決着を付けられる、と言えばわかりやすいだろう。

 

 だが目の前に居る青年――――ヨシュアは雁夜を殺さない。

 とある取引のためでもあり、また無益な殺生をヨシュアは嫌悪するからだ。

 逆に言えば、必要な犠牲は厭わないというわけであるが。

 

「バーサーカーのマスター、間桐雁夜。お前と取引をしたい」

「取引? だが、俺は――――」

「別に無茶を要求するわけじゃない。……ただ、この聖杯戦争は降りてもらうがな」

「……そう、か」

 

 わかってはいた。同じ聖杯戦争に参加している以上、マスターは互いに殺し殺されの関係だ。同盟を組もうが最後には殺し合う関係になる。最後の一組にならない限り、聖杯はマスターを選ばない。

 だからどんな悲惨な結果になろうとも、魔術師同士の殺し合いである以上誰もが覚悟を持って戦争をしている。

 目の前の青年を非情だと責める道理はない。

 

 そう、雁夜は思った。

 

「言って置くが、別にお前は殺さないぞ。俺が持ちかける取引は――――」

「――――あ、起きたんだ。予想より早かったね」

 

 ヨシュアが話を始めようとした瞬間、白銀の美女――――アルフェリアが部屋に入ってきた。

 真っ白なエプロンを着た彼女は白い雪の様な手は小さなお盆を持っており、その上にはお粥の入った皿があった。

 きっと、料理を作ってきたのだろう。

 サーヴァントが料理? と雁夜は困惑するが、あちらはそんな事気にもかけずに雁夜へと近づきその上体を起こす。

 

「キャ、キャスター、か?」

「ん? そうだけど。それより口開けて。はい」

「え、いや、えと……なんかこのお粥、光って――――」

「開けろ」

「アッハイ」

 

 ほとんど強迫に近い形で雁夜は口を空けさせられ、レンゲで掬った輝くお粥を口に入れられた。

 

 ――――とてつもなく美味かった。最近までまともな料理を口にしていない反動で、それが酷く美味に思えた。

 

 塩加減が絶妙で、米の柔らかさも実に良い。病人に配慮して作られたそれは、今の雁夜にとって最高の美食であった。

 元々衰弱しきっており、流動食どころかブドウ糖の点滴で栄養補給していた雁夜だ。アルフェリアの作る料理はきっと至高の食事なのだろう。

 雁夜は一口食べて食欲を酷く刺激されたのか、アルフェリアからレンゲと粥を奪い取りガツガツと口の中にかきこんでいく。

 下品な動作ではあったが、それを二人は咎めはしない。

 他人の目線を気にしないで食事をしてしまうほどに追い詰められていた証拠なのだから。

 

 何より、天上の料理人と評されるアルフェリアの料理だ。弱っている病人からすればそれは賢者の石に他ならない。むしろこの反応が正常でもある。

 

 たった数分で粥を食べ終え、雁夜は「ふーっ」と一息つく。

 久しぶりの満足感で気が抜けてしまう雁夜。敵の本拠地に居ると言うのに、何という体たらく。

 別に敵対する気もない二人には関係のない話であるが。

 

「……そういえば、臓硯は。あのクソジジイはどうなったんだ。まさか逃げられたり――――」

「大丈夫、きっちり消したから。間違いなく確実に。屋敷も今頃黒焦げになっているだろうし、生きている可能性は万が一にもないよ」

「そうか。それなら、いい。あのジジイは、生きていてもいいことはないからな」

 

 雁夜にとって臓硯とは恐怖の対象であった。

 何をしても敵わない。魔術師として遥か格上の臓硯は、家の中で間桐を意のままに支配していた。

 その臓硯が死んだ。それは雁夜が様々な抑圧から解放され、自由になったという事であった。

 

「ん……? じゃあ、兄貴は」

「あのひょろモヤシの事? 少しの金と住処を与えてあげたら速攻でこの屋敷を出ていったよ。凄まじい行動力だったね、彼」

「……あんの馬鹿兄貴が」

 

 最初から期待してはいなかったが、雁夜は自身の兄である鶴野に対して毒づく。

 だが責められまい。彼もまた臓硯の被害者だ。毎日毎日臓硯に恐怖し、その言いなりになってきた彼に自由は無かった。故に、その束縛から解放された以上彼にこの冬木に留まる理由はない。

 

 兄は兄なりに自分の道を歩み始めたのだと雁夜は無理やり納得する。煮え切らないが、あの馬鹿を一々気にしていても仕方ないからだ。と雁夜は頭の中から兄の存在を消した。

 

 もう、二度と会うことはないのだから。

 

 ある程度体を快復させた雁夜は隣で眠る桜を見る。

 とても安らいだ寝顔があった。

 そうだ。自分はこれを見るために、あの日々を耐えてきたのだ。予定とは少々違うが、桜が救われたという事は何にも代えがたい救済だ。

 

 残るは遠坂時臣への復讐。桜をあんな目に合わせた奴に死を――――そこまで考え、ふと何かの違和感が引っかかる。

 

「話を戻していいか?」

「あ、ああ。続けてくれ」

 

 しかしヨシュアからの呼びかけにより、雁夜は一旦思考を切る。

 自分の身と桜を助けてくれた者達だ。忌み嫌う魔術師ではあるが、それなりの要求に応えるつもりは雁夜には存在していた。自分ができることなど高が知れているが、それでも自分のできる範囲では彼はやるつもりであった。

 

「まずこちらの要求は三つ。一つ目はバーサーカーのマスター権、令呪全画をキャスターへ譲渡すること。二つ目は聖杯戦争におけるこちらまたは同盟関係者への敵対行動の恒常的禁止。キャスターに関する情報の開示もこれに含まれる。そして三つめは――――間桐家現当主として間桐桜をエーデルシュタイン家へと移籍させることへの認可だ」

「な――――」

 

 一つ目と二つ目はまだわかる。聖杯戦争においてサーヴァントの情報は最重要であると言ってもいい。その情報の漏洩を防ぐのだから、マスターとしては当然の行動だ。バーサーカーの使役も、アレが強力なサーヴァントである以上自分の手駒にしたいという考えは理解できるし、ある意味当然だ。戦力の増加は聖杯戦争の優勝に近付くという事実なのだから。

 

 だが、三つめだけは雁夜は納得できなかった。

 

 間桐桜の移籍――――つまり彼は桜を自分の養子にするという事だ。

 なにせ遠坂家の娘だ。魔術の素養は十分に備わっているし、後継者として選ぶならば確かに有りだろう。

 

 それでも雁夜は『納得』できない。

 

 魔術と言うのは一般人からしてみれば『外道』の所業を軽々と行う狂人どもが使う、忌むべき象徴。その酷さは桜を見れば――――間桐が特殊であるという事もあるが――――一目瞭然だ。

 あんな外道から脱却できたのに、また引き入れると言うのか。

 雁夜は激昂しそうになり――――しかしヨシュアがそれを制する。「説明はする」と言って。

 

「三つ目の要求について説明する。少し落ち着け。冷静になれ。別に実験材料にする気も凌辱する気も皆無だ。するならわざわざお前に言うはずがないだろうが」

「っ、だが、しかしっ…………!」

「押さえろ。会話の前に拳を出してどうする」

 

 肩を震わせながら、雁夜は持てる理性全てを使い自分を抑える。

 そうでもしなければ、目の前の青年を殴り倒しそうなほどに激怒しているのだから。

 

「まず、間桐桜の属性は知っているか?」

「……いや、知らない。だが、間桐の魔術である『水』でない事だけは知っている」

「架空元素・虚数だそうだ」

「なんだ、それは?」

 

 初めて聞く単語に雁夜は首を傾げ、それを見たヨシュアは深いため息をつく。

 

「百年に一人生まれるかどうかの稀有な属性だ。例えるなら……凄く珍しい宝石と思えばいい」

「それがどう話に繋がる?」

「間桐桜の属性は、魔導の家門の庇護が無ければ即座にホルマリン漬けにされるほどだ。と言えばわかるか?」

「何だと!? そんな事認められるはずが――――」

「平気で人体実験をやらかす魔術師に何言っても無駄だ。この世には人の命を金で買い取って大量の魔力結晶に変えやがる生粋の気狂いもいるんだぞ? それにホルマリン漬けの人間なんて、時計塔の地下にごまんといる。まぁ、大体が封印指定の奴らだが」

「…………だったら尚更、お前に桜は預けられない! 桜ちゃんは俺が守る!」

「守れるのか?」

 

 ヨシュアの冷たい一言が雁夜の胸に突き刺さる。

 自覚したのはまず己の無力さ。自分ではどうやっても一流の魔術師には対抗できないし、そもそも良くて後一ヶ月の命。自分が死ねば、自然と桜は身寄りがなくなる。

 

 その後はどうなるだろうか。

 簡単だ。桜の属性を狙う魔術師共が群がり、悲惨な結末になるだろう。

 その過程でどうやっても桜は実験材料にされる。雁夜の選んだ選択は、桜の『確実な死』でもあるのだ。

 

 それを知り、雁夜の額から脂汗が滲み始める。

 

「言って置くが俺は魔術師じゃなくて『魔術使い』だ。根源なんざ目指すつもりもない」

「口だけなら、どうとでも言える」

「本当に徹底した魔術嫌悪者だなお前は。――――わざわざ用意した『コレ』が無駄にならずに済んだことを喜べばいいのか」

 

 パラリ、と雁夜の目の前に一枚の羊皮紙が突き付けられる。

 

「……これは?」

自己強制証明(セルフ・ギアス・スクロール)。決して違約不可能な取り決めをする時にのみ使用される、もっとも容赦のない呪術契約の一つ。自分の魔術刻印の機能を用いて術者本人にかける強制の呪いは、いかなる手段用いても解除不可能。――――要するに絶対に違反できない契約だ」

「魔術刻印を使う……? だが、俺には魔術刻印なんて――――」

「キャスターが間桐臓硯の死体から既に回収して、もうお前に移植済みだ。と言っても、魔術行使もできないし、自動回復効果もない飾りだがな。それでも契約に使うことはできる」

 

 わざわざ宝石や魔術措置を施した羊皮紙まで用意したそれを、ヨシュアは雁夜へと差し出す。

 受け取った雁夜はその内容にざっと目を通す。

 内容はこうだった。

 

 

【束縛対象:ヨシュア・エーデルシュタイン及び間桐雁夜

 エーデルシュタイン、間桐の刻印が命ず:下記条件の成就を前提とし:制約は戒律となりて例外なく対象を縛るもの也:

 

 :制約:

 

 聖杯戦争終了までエーデルシュタイン家第十一代目継承者ヨシュア・エーデルシュタインは間桐雁夜及び間桐桜を例外なく守護することを約束し、またその両者への傷害行動の一切を恒久的に禁ずる。

 また、庇護者たる間桐雁夜はキャスター及びヨシュア・エーデルシュタインに関する一切の情報を口外を禁ずる。

 

 :条件:

 

 ・間桐雁夜は以下の条件全てを満たせ。

 【己の所持する令呪全画をキャスターへと移譲】

 【間桐桜を正式な手続きでエーデルシュタイン家へ移籍することへの全面的な容認】

 

 以上の条件を満たした場合制約が発動されることとする:】

 

 ざっと見た限り、これ以上ないほどの契約であった。

 これにサインするだけで自分と桜はキャスターという、バーサーカーを一瞬で撃退せしめたサーヴァントの保護下に入ることができる。聖杯戦争において護りだけならばキャスターの右に出る者はいない。『陣地作成』のスキルにより、キャスターの魔術工房は一個の要塞となって中に居る者全てを護り抜くのだから。

 

 だからこそ、雁夜は困惑した。

 何故顔も見知ったばかりの自分たちにここまでしてくれるのか。

 余りにもこちらにとって都合が良すぎて、逆に勘ぐってしまうのだ。何か裏があるのではないかと。

 

 雁夜は衝動的に問う。

 

「なんで、ここまでしてくれるんだ? アンタ達は今日知り合ったばかりだし、縁も無ければ義理も恩もない。俺たちを助ける理由なんて、無いはずだろ」

「……アンタ、本気で言ってるのか?」

 

 その問いに青年は酷く呆れた様な顔をして、告げる。

 余りにも単純な答えを。

 

「困っている奴を助けるのに、一々理由が必要か?」

「…………は?」

「やりたいからやった。救いたかったから救った。それだけだ。……それともなんだ、偽善だと笑い飛ばしたいのかお前は」

「――――――――いや」

 

 雁夜はヨシュアの瞳を見て、その言葉に偽りはないと確信する。

 そう。助けたかったから助けた。それだけなのだ。細かい理由など要らない。目の前でどうしようもなく困り果てた奴が居るならば、救える力を持っているならば、大義名分など無くとも動く。

 

 人を助けるのに理由は要らない。

 

 そんな単純なことを、雁夜は忘れていて、今ようやく思い出した。

 こういった馬鹿を――――

 

「……お人よしだな」

「好きに言えよ」

 

 人々は『お人よし』と呼ぶのだと。

 

 その時雁夜から一切の迷いが消えた。理解したのだ。この者にならば、桜を預けられると。

 きっとあの子を、幸せにしてくれるだろうと。

 ただの勘ではあったが、雁夜は確信に近い感情を以て頷いた。

 

「ペンをくれ」

「いいのか? お前の嫌う魔術の道にその子を引きこんで」

「どうせ俺は長くとも、後数ヶ月しか生きられない。死んだ後じゃ、桜ちゃんは守れない。なら、信頼できる奴に任せた方がいい。例え魔術師でも――――俺はお前を信用できる奴だと理解した。それじゃあ、駄目か?」

「……ほら、ペンだ」

 

 苦笑いを浮かべながらヨシュアは持参していた万年筆を雁夜へと渡す。

 それを受け取り雁夜は素早く自分の名前を羊皮紙に記入し、その後自らの右手を突き出す。

 

「令呪だ。全部持って行ってくれ。もう、俺には必要ない」

 

 そうだ。もう必要ない。雁夜はそう自分に言い聞かせた。

 

 憎き時臣への恨みは晴れない。だが雁夜は気づいた。自身の矛盾を。愛する者から夫を奪うと言う、幸せを願っているのにもかかわらずそれを奪うという間違いを。

 

 故に心を一新する。残り少ない自身の余生をどう使うか、決めたのだ。

 自分は桜の傍で、可能な限り彼女を幸せにするための努力をする。それが報われるのかどうかはわからないが、雁夜はそれでもその行いが『間違いではない』と断言できた。

 決心がついた彼の瞳に熱が燈る。

 

 それを見届け、アルフェリアがその右手を雁夜の手に被せた。

 瞬間、雁夜の右手にあったはずの令呪が次々とアルフェリアの手へと移されていく。両者の承認により容易く令呪の移譲が行われたのだ。普通なら不可能な行為ではあるが、神代の魔術師に比肩するだろう魔術師であるアルフェリアならばこの程度は造作もない事だった。

 

 雁夜は令呪の消えた己の右手を擦る。

 これで彼は正式に聖杯戦争最初の脱落者となった。だが、それに悔いはなく、むしろ雁夜にとっては望んだ結末であった。

 桜を救うと言う望みを果たせたのだから。

 

「これにて制約は起動する。今から俺たちはお前達に一切の危害を加えることはできなくなった。安心していいぞ」

「……ありがとう。アンタ達は俺たちの恩人だ」

「そう言う事は、幸せになってから言え。今日はもう休め。その間にキャスターがお前さんの体内を綺麗にしてくれる」

「虫を、取り除けるのか?」

「――――期待させて悪いけど、体内の虫を取り除いてしっかり養生しても二十年生きられるかどうかだよ。流石に私でも壊れ切った肉体を完全に元通りにすることは難しいからね」

「いや十分だ。一ヶ月の命が二十年だ。むしろ感謝する。……でも桜は」

「大丈夫。桜ちゃんは十分治療可能だよ。私が保証する」

 

 その言葉を聞いて、雁夜は笑いながらベッドに倒れる。

 

 張り詰めていた気が抜け、更にこれ以上ないほどの希望まで与えられた。

 もうこのまま死んでも悔いはない。そう言いたげに、雁夜は安らかな表情で再び微睡についた。

 数日間は寝たままでもおかしく無い状態だったのだ。これを覆してたった半日程度で起きたのは、本人の凄まじいまでの精神力が起こした奇跡だ。

 

 ヨシュアは雁夜の精神を称え、その身に毛布を被せ直す。

 

「間桐雁夜……予想以上に凄まじい人間だったな」

「一途だからねぇ、彼は」

「そういう事言ってるんじゃねぇよ。……で、治療は大丈夫なんだろうな」

「任せて。彼が覚悟を示したんだから、それに見合う結果を引き出さないとね。過去最高の出来に仕上げるよ」

 

 両手に魔力を迸らせながら、アルフェリアは雁夜の治療を開始する。

 

 優しき命の光が、雁夜の身を包み込んだ。

 

 

 

 

 




長い(白目)。自分でもくっそ長いと思ってしまった。何せ今までの二倍の量。圧縮しすぎだよぉ・・・・!!でも話の切れが悪くて起こった悲劇なんだ。だから仕方ないじゃない。人間だもの(´・ω・)

でもカリヤーン的にはハッピーエンド。バッドな展開ばかりだったこの作品で「一応」幸せを掴めた。ある意味幸運A。

・・・ま、彼にはまだ活躍してもらうけどね。


あとさりげなく登場した最強のカリヤーン。

カリヤーン「俺のサーヴァントは最強なんだ!(謎ガッツポーズ」

これが無いとカリヤーン伝説は始まらない。

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