・・・むしろよく数時間程度で一個完成したなぁ、と自分でも驚いてる。でも確認あんまりやってないから少し抜けが多いかも。
ミス多くても許してネ。何でもしますから!
追記・指摘された箇所を修正しました。
追記2・表現を追加しました。
追記3・設定追加により少しだけ表現変更。
キャメロット城内に存在する円卓。合計十三人が席を囲むその場所の空気は、氷の様に冷たく、鉛の如く重々しい物へと変じていた。
原因は、進行してくるのが過去最大規模の敵軍という事実の判明。
たださえ疲労困憊のブリテンであるのに、二十万もの軍勢が攻めてくると言うのは生半可な事態では無い。こちらは用意できて精々一、二万程度。十倍以上ある戦力差なのにもかかわらず、全員が人間を遥かに超越した身体能力の持ち主。
かくいう私も、いつもの笑顔はどこかに消えていた。
死徒が二十万いる? ああ、いいさ。それは別に問題ない。やろうと思えば殲滅可能な戦力だ。
問題はそれを引き連れてきた犬と背後を追随している大蜘蛛。
ガイアの怪物、プライミッツ・マーダー。
水星のアルテミット・ワン、ORT。
人間――――霊長類に対し絶対的な殺害権を持ち、守護者が七騎存在することでどうにか制御可能な怪物。
水星から来訪した星の最強種にして、その場に居るだけで空間を侵食する地上の
どうしようもないほど、過剰戦力であった。
抑止力がいよいよ本腰を上げてきたというわけだ。それこそブリテンをどんな手段を使ってでも滅すと言うように。わざわざ眠っていた大蜘蛛とガイアの怪物を起こして仕掛けてきたのだから、何が何でも私と言う異分子を排除し、歴史を修正するつもりなのだろう。
ブリテンの存続は、すなわち人理の崩壊。本来あるべき歴史が崩れ去り、未来で生まれるであろう人類の繁栄が一瞬にして崩れ去る。ただ抑止力は脱線した線路を直そうとしているだけなのだ。取り返しのつかない事態になる前に。
だが、滅びを受け入れない者たちがいる。
滅亡に抗おうとする民がいる。
国を守ろうとする王がいる。
お前たちが滅びなければ全てが狂ってしまう。だから滅びろ?
ふざけるな。
そんな戯言のために今まで血を流して来たわけじゃない。わざわざ滅びの運命を辿るために騎士達を犠牲にしたつもりもない。払った犠牲を無に還せと言うのならば、我々は最後まで足掻こう。
だから抑止力は――――抵抗さえ許さない戦力を送り込んできた。
最強と絶対。
これでは抗うにも抗えない。何せ立っている次元が既に異なっている。
人類すべてを抹殺できる狂犬と、万物を水晶にする星の体現者。
ブリテン全ての戦力を使っても『奇跡』が起きなければ打倒どころか撃退すら不可能。
敵の詳細がブリテン一の魔術師マーリンから告げられ、全員が沈黙する。
重い空気は息苦しいと感じられるほど鈍重になっており、誰もが喉から声を出そうとしない。
弱音を全身全霊でこらえているのだ。
こんな状況、誰もが泣き叫びたくなる。
「…………で、アーサー王。これを聞いてもまだ考えは改めないつもりかい?」
「…………………………………」
円卓に取り付けられた玉座に座り、表情を青くしながら重々しく沈黙するアルトリア。
状況は最悪を振りきっている。
最善の選択は『国を捨て逃げる』こと。しかし逃げた先で受け入れてくれる場所が見つかるとは限らないし、一日二日で万を優に超える国民すべてを敵軍にバレずに国から出すことなど不可能。見つかれば確実に半分以上が死に至るだろう。
運び出せる食料の備蓄も少ない以上、国民全員に安定して食料を配給できるのも節約して二週間程度。
それ以前にブリテンは外敵から襲われていた立場故、外国との国交などとっくの昔から断絶されている。当てもない。手段も不完全。結果も最悪より多少マシ。それに――――どんな道を選ぼうが『ブリテンが滅ぶ』という結果は免れない。
最善の行動で最悪より一段良い結果しか生めない。
その事実が、アルトリアの心を深く抉る。
戦っても逃げても結果は同じ。
だが、戦って勝てば国が存続できる可能性はある。逃げればその可能性はない。
故にアルトリアは王として、国のために戦うことを選んだ。
抗う事を、選択した。
それがどれだけ難しいことかを理解しても尚、諦めなかった。
「やれやれ……一度決めたら変えない頑固さだけは、昔から変わらないね」
「――――マーリン。至急全ての宮廷魔術師を動員し、軍勢を少しでも減らせそうな魔術の用意を。保管庫にある素材や触媒はすべて使っても構いません」
「了解したよ、アーサー。…………しかしアルフェリア、どうしたんだい先程からだんまりして。何か良い作戦でも思いついたのかい?」
まるで試すような顔でマーリンは私を見てきた。
普段なら顔面に一発入れているだろうが、今回ばかりは我慢だ。もう一刻の猶予も余裕も無い以上おふざけは今日でおしまい。私は持てる全ての叡智を使い、アレを撃退する術を考えなければならない。
「……二十万の軍勢については、私の考えた作戦があれば撃退は可能だよ」
『――――――――!』
それを聞いてマーリン以外の全員が顔を驚愕に染める。
絶望的な戦力差を覆すことができると聞いたのだ。そこに一筋の希望を見た円卓の騎士らは、私の次の言葉をただじっと待つ。
「アイツ等には弱点がある。日が出ているとき、奴らは酷く弱体化する。……でも、奴らは夜にしか動こうとしない。決戦も強制的に真夜中になるでしょうね」
真祖や死徒というのは日中では非力になってしまう。人間よりは多少強いだろうが、それでも夜の状態と比べればはるかに弱体化しており、再生能力も鈍っているので頑張れば一般騎士でも倒せるだろう。日差しの強さによってはそのまま焼け死ぬ。
しかしアイツ等はそれを避けるため、昼は地中に潜り夜に行動を開始する。故に自然と決戦の場は夜になってしまう。当然、夜に戦えばこちらの勝算は低くなる。
だがこちらにはジョーカーがある。
疑似太陽という対吸血鬼戦での最強の切り札が。
「ガウェイン、貴方の聖剣は太陽の現身。最大出力を保ったまま宙に浮かばせれば太陽の代用品になりえる。アイツ等にとってその剣は天敵以上の何物でもない」
「では、これを使って私が戦えばいいのですね?」
「いいえ。貴方は後方で私が作った魔術礼装で魔力のバックアップを受けながら後方支援に徹してもらいます。貴方は此度の戦いでの勝利の鍵。死ぬことは許されない」
「ッ!? ですが、私は――――」
「皆の勝利のためです。わかってください、ガウェイン。貴方が死ねば万が一も無くなる」
「…………わかり、ました。その役目を負いましょう」
騎士が前線で戦えないことほど不名誉なことはない。彼もまた純粋に皆を守るために前へ出て戦いたいのだ。犠牲を一つでも減らすために、己が強きを挫き弱きを守る存在だと自覚しているからこその悔み。だが彼がいなくなれば戦う条件すら整えられなくなる。彼の死はそのまま敗北へつながる以上、死ぬ可能性の高い最前線に置くことはできない。
誠実な彼の気持ちは汲んであげたいが、今回ばかりは耐える。
耐えなければ、勝てない。
「そして、ガウェイン以外の円卓の騎士は全員前線で『時間稼ぎ』をして貰います。例外はありません。私が合図を送るまで全ての戦域に置いて近接戦闘を禁じます」
時間稼ぎ。その言葉に疑問を覚える者が首を傾げる。
敵が弱ったのならばそのまま潰していけばいいと思っているのだろう。だが駄目だ。それは最悪の選択に他らない。
何せ相手には、人間を確実に殺せる真性の化物が存在するのだ。下手に突っ込めば二度と帰ってこれなくなる。
プライミッツ・マーダー。霊長類を殺す『権利』を持つ白き獣。
実力では無い。『権利』だ。あの犬に近付けば人間である限り確実に殺される。例外は無く、人間である限りアレに勝てるものは存在しない。当然私も例外では無く、近づけば即座に抹殺されるだろう。
そんな物に集団で突っ込むなど自殺以外の何物でもない。あの軍団に近付くことは即ち絶対に死ぬことを意味するのだ。
故に『時間稼ぎ』。前線に出る者は例外なくプライミッツ・マーダーを軍勢から『離す』まで一定距離からの牽制に徹してもらう。
「…………待ってください、アルフェリア。貴方の役割は何です? その口ぶりから、最前線で指揮をとるわけでもなさそうですが」
「その通りです、ランスロット。――――私は後方に居る大蜘蛛を叩きます」
『な――――』
私の言葉が信じられないのか、全員が唖然とする。
だが事実だ。二言は無い。私は軍勢の中を突っ切り、後ろを追随しているORTを止めに行く。アレは存在するだけで世界を塗り替え全てを水晶に変える災厄。物理手段でしか倒せないのに、纏った装甲は地上の如何なる物質よりも硬く、柔らかく、温度耐性があり、鋭い物質でできている化物だ。恐らく地球に居る限りアレは倒せない。
しかし倒せるとは思っていないし、倒すつもりも毛頭ない。あくまで『足止め』だ。アレが飽きるまで粘り続け、帰ってもらう。凄まじく確率の低い賭けだが、現状を打破できる手段がそれしかないのだからしょうがない。
……素直に帰ってくれればいいが。
言葉も何も通じない暴力装置だ。『足止め』ができなかった場合の対処法も一応用意してあるが……正直あまり使いたくはない。下手すれば自分も死ぬのだから。
一人の命で星の最強種を撃退できれば御の字ともいえるだろうが、あくまで最後の手段として取って置きたい。
「駄目です! それでは姉さんが危険すぎます!!」
「アレを止められなければ全てが消える。ブリテンの民も、貴方たちも例外なく水晶に変えられる。誰かがその足を止めなければならない」
「でも、それは姉さんも同じでしょう!?」
「外界からの干渉をカットする魔術礼装があるから多少は防げるよ。何時まで持つかはわからないけど。でもアレ、私じゃないとただの外套だからね。だからもう、私にしかできない」
「そん、な…………どうして、姉さんが行かなけれならないのですか……っ!」
「……………………」
わかってはいる。アレを相手にすることは死ぬことと同義だ。いくら水晶への変質を食い止められるとはいえ、アレは単純なスペックも桁違い。全長40メートルを誇る最強の身体は筋力、敏捷共に最高クラス。特殊能力無しでの単純な力比べでも勝てないだろう。
正直、怖い。
アレは人の言葉など通じないし、こちらの常識など鼻で笑い飛ばしている。生き残れる確率は万に一つ――――いや確実にそれを下回っている。
だが誰かがやらねば全員が死ぬ。二十万の死徒を、プライミッツ・マーダーを撃退できても全員がクリスタルの彫刻へと変えられるのだ。当然、異星の存在にこちらに手加減する義理も理由も無いし、されたとしてもその絶対的な立場は揺るぎない。
鼠が恐竜と戦って勝てるだろうか。
否。それはもう戦いでは無く一方的な蹂躙に過ぎない。
私が相手にしようとする相手は、そう言う存在なのだ。次元が違う最強の一。
はっきり言って『足止めをする』という発想自体増上慢に他ならない。どこの世界に生身の人間が豪速で突っ込んでくるダンプカーを素手で止められると言うのだろうか。
私がアルテミット・ワンだったら話も変わってくるのだろうが、それはどんなにあがいてもあり得ない。
笑うしかない。
「…………アル、貴方は王。王は国のために選択しなければならない」
「ッ……………!!」
しかし私は口を開く。
例え可能性が那由他の果てに存在していようが、私は立ち上がるだろう。
家族を守るために。
だがそれを選ぶのは私では無い。
「私を取るか、国を取るか」
選択を突きつける。
彼女にとって、最も残酷な選択を。
それでもアルトリアは選ばねばならない。王であるが故に、選択を強いられる。
……まったく、酷い姉だ。
「私、は――――」
「――――ふざけんなッ!!」
突然モードレッドが円卓に拳を叩き付け立ち上がった。
その声は怒気に満ちており、発せられる怒りは全ての者へと向けられていた。
「貴方はっ…………貴方はあの人に死ねと、そう仰るのですか!! アーサー王!!」
「う、ぁ………………っ」
その通りだ。
行けと言えば私は死ぬ。生き残る可能性はあるだろうが、生き残っても無事に済んではいないだろう。
それでもそれは国にとって必要な犠牲だ。
例え限りなく低い可能性であろうと、国が存続できるのならば――――
「ッぐ、ぅぅぅぅぅうぁぁぁああああああァァァァァァァァアアアアアアアアアッッ!!!!!!」
アーサー王が両拳を円卓に叩き付けた。
叩き付けた場所から割れ目が広がり、しかし円卓は壊れない。だがこれはこのキャメロット城の基盤であり土台。最大級の防護障壁が張られているだろう円卓が破壊寸前までに陥る力は、この場全員にアーサー王の激情を理解させる。
「――――アルフェリア・ペンドラゴンに…………命じます…………!」
「アーサー王ッ!! 貴様――――ッ!? テメェッ!! 放せガウェイン!! クソッ、クソぉぉぉおおおッッ!!」
暴れるモードレッドはガウェインやその他の騎士に拘束され、場を離される。
そして――――宣告が下された。
「貴方の独断行動を、許可します――――」
嗚咽に塗れた声で、アルトリアはそう告げた。
◆◆◆◆◆◆
キャメロット城の傍に広がる花畑。様々な種類の花が植えられたその場所は、居るだけで心が休まる場所として密かに城の使用人の間で愛用されている場だ。
そこに、白い竜が横になって眠っていた。
人など一口で飲み込みそうなほど巨大な竜。本来ならば居るだけで国中の騎士に討伐命令が出されるだろうが、この竜は唯一の例外。
私、アルフェリアのペットなのだから。
「ハク、気持ちいい?」
『グルルルル…………』
「ふふっ、喜んでくれたようで何よりだよ」
出撃猶予の間、私は白銀の鱗を持つ竜――――ハクと過ごしていた。
幾多の戦場を共に飛び抜けてきた戦友。五年以上そんな関係なのだから、もう主従関係では無く相棒の様な関係になっていた。私もそれにおおむね満足している。
頭を撫でるとハクは鼻を鳴らし、私の頬を舐めてくる。お返しのつもりなのだろうか。よだれで顔がヌメヌメする。でも一種の愛情表現のはずなので、素直に受け取る。
「――――僕に負けず劣らずの外道だねぇ、アルフェリア」
「……何か用、マーリン?」
そして今一番会いたくなかったクソジジイが現れたことで、私の顔が嫌悪で歪む。
こいつは基本的に一つの目的に拘らない。必要となればどんな手段でも目的を達成しようとするが、それ以外では基本的に場を掻きまわすだけの傍迷惑極まりない存在なのだ。だから、こいつが現れたという事は何か重要なことでも告げに来たか、単純に私をいじりに来たかだ。
顔からして確実に後者だろうけど。
人間に欠片も価値を見いだせない破綻者だからこそ、そんな不可解な行動をするのだろうが。
登場人物では無く、劇全体を愛するからこそ。
結局、私には終ぞこいつの本質が見抜けなかった。
「いやいや。ただ君が落ち込んでないか見に来ただけだよ」
「用事がないなら話しかけないでよ」
「辛辣だな。仮にも自分の師だと言うのに」
「…………世間話でもしたいなら他の奴とやってよ。例えば……あ、いや、貴方の人間関係で世間話できそうな奴私しかいなかった。はぁ……でも今は、そういう気分じゃないから」
「そりゃそうだ。死にに行くんだから」
……こいつ、此処で殺してやろうか。
濃密な殺気を向けても、マーリンが眉一つ動かさない。いつも通りの気色悪い笑顔のままだ。
マーリンの存在に心底殺意を覚えながら、私はハクの頭を撫で続ける。
「アーサー王……アルトリアは落ち込んでいたよ。あれでは、もう王の役目を負うのは無理だね。僕の目も鈍ってきたのかな?」
「キングメーカーの名前に泥に塗られたのが気に入らなかった?」
「まさか。僕は人間たちが付けた下らない肩書に興味はない。それに、僕は今とても機嫌が悪い。自分で作り上げた脚本を、世界と言う第三者に滅茶苦茶にされたからね」
「そう」
冷たい言葉を送っても、花の魔術師は気にも留めない。興味のない存在からどんな言葉が送られようが、気にする必要は無いということだろう。それがこいつの強みであり、嫌悪すべきもの。
マーリンは天を仰いだ。
しかしその表情には、喜怒哀楽というものが一切存在しない。
「アルフェリア、君は僕が初めて興味を示した存在だ。まるで荒野に孤独に咲いている一輪の花――――僕にとって君は、そんな存在だ。世界で唯一『浮いて』いて、だからこそ君に感情を動かされた」
「…………」
「君を失うことは、僕にとっても悲しいことだ」
「だから行かないでおくれ我が愛しの君よ――――なんて言ったらぶっ殺すぞ」
「言わないよ。君の選択だ。僕が口出しをする権利はない。けど、そうだね…………君は自分を卑下する傾向がある。もっと自己価値を高くしなよ。そうすれば、自分がいなくなることで悲しむ存在が無数にいると気づくんじゃないか?」
「……は?」
「まぁ、今更いった所でもう全部遅いけどね。じゃあ、せいぜい頑張ってくれよ。今回ばかりは、僕も全力で補助するからさ」
意味のわからない事を言ってマーリンは立ち去った。
言いたいことだけ言ってさっさと帰るとは、昔から気まぐれなのは全く変わらないなあのジジイは。
『グルル』
「……ハク。次が最後の戦い。でも、貴方はどうしたい? 今なら、まだ逃げられるよ?」
『グルルル!!』
「ははは。頑固だね、君も。……うん、私も、覚悟を決めないとね」
そうだ。私も、もう心を決めるしかない。
既に後戻りはできないのだ。ならば突き進むしかあるまい。例えその道が業火に包まれていようとも、後に続く者が居るのならば、喜んで先を進もう。
それに、私は家族を守りたい。
みんなを。ブリテンに居る全ての者達を。
帰るべき居場所を、守りたいのだ。
例え、私が帰れなくなろうとも。
「―――――――姉上ッ!」
姉上。私をそう呼ぶ存在は、キャメロットでは一人しか存在しない。
白と赤を基本色とした鎧を身に纏った、私の妹そっくりの顔を持つ一人の少女。
私のもう一人の家族。
モードレッドが、顔を歪めながら私の前に立っていた。
「なんで、なんでだよ、姉上! なんで自分から死地に行こうとする!! なんでっ…………俺を一人にする気かよ!!」
悲痛な叫びを漏らしながら、涙で顔をグシャグシャにしたモードレッドは私の胸に飛び込んだ。
私はそれに対して、頭を撫でて泣き止ませようとすることしかできなかった。
「私がやらなきゃ、皆死ぬ」
「知らない! そんな事知るもんかッ!! 姉上が居るなら俺はそれでいい! だから、だからっ……居なく、ならないでくれ…………!」
「…………ごめんなさい、モードレッド」
もう、謝ることしかできない。
誰の意見も聞かず、自分勝手に死にに行く。私の行動はそう言う物だ。モードレッドが、私を家族だと、姉だと思ってくれるものの声も聞かず、ただ自分がやりたいようにやって――――そして死ぬのだ。
最低だ。最低の姉だ。
愛する家族に涙を流させる奴は、そうとしか言えまい。
「どうしてだよ! みんな可笑しいだろッ!! なんで姉上が……何でみんな何も言わないんだよ! そこまでこの国が大事かよ! 死ぬのが怖けりゃみんなで逃げればいいだろ!」
だが敵がそれを許さない。
逃げる過程で、きっと何千人も何万人も死んでしまう。逃げた先でも生き続けられる保証はない。
だから戦うのだ。自分たちの居場所を守るために。
私という存在が消えることで、それは保たれるだろう。それでもブリテンはいずれ滅びるだろう。だが、私は家族に、少しでも長く生きてもらいたいのだ。その中でアルトリアとモードレッドは、親子の関係を築かせてあげたい。
それは紛れも無く自己満足だ。
相手の感情も考慮しない、勝手な子供の我が儘。
わかっている。だけど、止まらない。止めてはならない。
けど、できることなら――――
「……そうだね、生きたい。うん。家族みんなで、平和な時間を過ごしてみたい」
最後の最後に、そんな小さな望みが生まれる。
そうだ。今まで一度も、そんなことはなかった。みんなで、本当の家族みたいに穏やかな時間を過ごす。
アルトリアやケイ兄さんだけじゃない。モードレッドも、ランスロットも――――仲間では無く、家族として共に暮らしてみたいのだ。
「今決めたよ、モードレッド。絶対に、生きて帰る」
「……本当、か?」
「勿論。最後まで足掻いて、足掻き続けて――――生き残って見せる。貴方のためにも、皆のためにも」
「っ……ぜ、絶対、絶対だからな! 約束だぞ!」
死にたくない。
死ねない。
家族を残して先に逝けるものか。
ああ、何を弱気になっていたんだ私は。ただ生きる。生きて帰る。それだけの事じゃないか。
モードレッドの頭を優しく胸に抱く。
この瞬間が、ずっと続けばいい。
だから――――また作るんだ。
みんなと一緒に歩める、そんな時を。
◆◆◆◆◆◆
平原を進む不死者の群れ。
村があれば食い尽くし、森があればなぎ倒し、ありとあらゆる障害物を排除しながら突き進む死徒と真祖の軍勢は、ただただ突き進む。
世界から下された『異物』の排除のために。
何者もその進行を阻むことはできず、抵抗する者は皆その血を吸われ尽くされミイラへと変えられてゆく。
その先頭を突き進む白き狂獣。
霊長類に属するならばいかなる障害をも飛び越えて『抹殺』する、地上最強最速の殺人者。一人の黒き吸血姫に仕える最強の僕、プライミッツ・マーダーは抑止力に下された命令のままに、世界の汚れを取り除くために歩を進める。
その一歩は相手に死を届ける死神の歩み。
如何なる存在であれ、人間である以上プライミッツ・マーダーに勝ち目はない。
狂獣が持つ『絶対的な殺害権』というものは、そういう物だ。
防ぐ手立てなど無い。
故に抑止力は異物が人間であることを利用し、この狂った化け物を差し向けたのだ。
そしてその最後尾には巨大な神殿ほどもありそうなほど巨大な大蜘蛛。
巨大な円盤を背負い、十本の脚を生やした蜘蛛の様な異星人は周囲を水晶に変えながら進む。そこに存在するだけで周囲に異界を生じさせる化け物は、自身の兄弟――――地球に対して害を与えられる存在を確実に排除するため殺意を満ちさせながら巨体を動かす。
その体はいかなる物質よりも強固な物。地上に存在するあらゆる物質を使っても、この絶対者は傷付けることも叶わない。
その化物二体が、自分たちが進む先に強烈な畏怖を抱く。
ナニカが居る。
自分たちに取って脅威となる――――否、なる可能性を持つ者が、存在している。
霊長の殺人者が。
水星の大蜘蛛が。
同時にそう見抜き、故に自身に確約する。
――――そいつは確実に抹殺する、と。
アルフェリア「生きたい」
犬「コロス」
蜘蛛「■■■」
アルフェリア「・・・生きたい(切実)」
・・・アルフェリアさん、強く生きて。
あとモーさん、ちょっとデレ過ぎじゃないかな。
そうなった経緯は次回ということで。それではバイナラー。
ああ、また原稿を書き直す作業が始まる・・・。