Fate/argento sister   作:金髪大好き野郎

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遂に無職だった主人公に職が・・・! そんなほのぼの回です。たぶん。


第十一話・就職しました

 長らくブリテンを苦しめてきた卑王ヴォーティガーンの打倒。

 その事実が人々に広まるのにそう時間は掛からなかった。一夜にしてブリテン島は歓声に包まれ、戦いを終えた兵士たちは喜びの涙を浮かべる。

 

 そして、そのヴォーティガーンを倒したのは次代のブリテンの王であるアーサー・ペンドラゴン。

 

 ――――そういうこと(・・・・・・)になって広まっていく。

 

 都合の良い事実が広まるのを騎士王と名高いアルトリアが容易く許容するはずがなく、少しだけ苦悶の表情を見せている。何せ、己の姉が立てた功績を奪ってしまった形になった。自分も共に戦っていたとはいえ、決定打を与えたのは紛れも無く自身の姉君、アルフェリア・ペンドラゴン。

 

 彼女の存在が公に認められるのはそう難しいことでは無い。今こそまだ円卓の騎士達にしかその存在を知られていないが、一度知られてしまえばマーリンの弟子、竜を従えた猛者、などといった事実がそれを加速させるだろう。止めは『アーサーの義姉』という物だろうか。

 長きに渡って隠されていた事実が明らかになると、円卓の騎士達は彼女の扱いに困り果ててしまうことになった。

 騎士王の身内というだけで十分な政治的交渉材料となりえる。故に今後のアルフェリアの処遇についての『会議』が行われようとしている。

 

 場所は、彼らが長らく仮の拠点としていた古城。その最奥部に巨大な円卓が置かれている。

 囲む椅子の数は合計十三。その中でも飛び切り巨大な椅子に、アルトリアは座していた。

 

 そしてその他の椅子に座するのは円卓の騎士。ブリテンでも有数の一騎当千の功績を立てた猛者のみが座ることを許された十二の座に君臨する最強軍団。

 

 頭脳派のサー・ケイなどの例外が混じってはいるが、ほとんどが単身で千の軍勢を蹴散らせるブリテンきっての人間兵器たちが円卓を囲んでの大会議。並の人間ではその気迫に呑まれかねないほどの圧力に満ち溢れている。

 

 現在のメンバーはケイを始めとして、ガウェイン、ランスロット、ベディヴィエール、トリスタン、パーシヴァル、アグラヴェイン、ガレス、ガヘリス、ユーフェイン、パロミデスの十一人。アーサー王含めて未だ十二人と不完全ではあるのだが、一人一人が竜を相手取れる規格外と思えば十分すぎる戦力だろう。

 ……逆にこれだけ居ても幻想種の群れとようやく拮抗できるという、ブリテン島の異常環境の証明者であるのが難儀なものである。

 

 そしてその円卓たちが会議対象とする者が十一番目の席に座している。

 耀く程美しい銀髪銀眼、間違いなくアルフェリアその人だ。

 別に円卓の騎士になったわけでは無く、単純に座る場所がなかったので座っただけなのだが――――仮とはいえ栄誉ある円卓の騎士が座るべき場所に座っているというのだから、殆どの騎士からは冷たい目線を向けられていた。

 

 当の本人は全く気にしていない様子でドライフルーツを咀嚼して居るほど余裕なのだが。

 

「……では、本当に王の義姉ということで、間違いないのですね?」

「ええ。見間違うはずがありません」

 

 ベディヴィエールが複雑な表情で唸る。どでかい面倒事の種が何の兆しも無く現れたのだ。頭痛もするだろう。

 アーサー王はそんなこと知ってか知らずか、姉が無事だったことに喜びを感じて笑顔になっている。これが騎士たちがむやみに怒るに怒れない理由だ。

 というより、一体誰が敬拝すべき王の身内に辛辣な態度や言葉を投げられるだろうか。

 できたとしても許されるのは同じ身内であるサー・ケイぐらいであろう。

 

「困りましたね。これは、非情に由々しき事態です」

「それは何故ですか、ベディヴィエール?」

「王の身内というだけで、巨大な政治的価値が生じるのです。あのようなか弱そうなお人では、拉致に会う可能性が高い。しかし常時警護をさせるにも人手が足りなくなる今では――――」

「それは問題ないかと」

「…………ガウェイン卿?」

 

 あの女性に対しては人一倍優しいガウェインがきっぱりと「問題ない」と言い切る。

 あのガウェインが女性を蔑ろにするとはとても思えない。だからこそ騎士たちはその異様な事態に困惑の顔色を浮かべる。

 色々熟知しているランスロットやガウェイン、ケイなどは涼しい顔のままなのが更に困惑を大きくする。

 実力派達が揃いも揃ってそんな態度なのだ。

 

 つまりは、そう言う事なのだろう。

 

「ガウェイン卿、まさか…………あのお方が、円卓の騎士に並ぶ実力を持つと?」

「はい。騎士としての勘ですが、王の義姉からはとてつもない何かを感じました。可能性は高いかと」

「その勘は正しいですよ、ガウェイン。私が保証しましょう」

「ランスロット卿!?」

「……あのお方は我々と並ぶ――――いえ、越えている。何せ、数年前の出来事とはいえ、私が一分持たずに手も足も出ずに地に叩き伏せられたのだから」

 

 ランスロットがそう述べると、殆どの騎士達が顔をひきつらせた。

 円卓最強が『手も足も出なかった』と断言した。いくら数年前とはいえ、その実力は一線を画していたのは想像に難くないだろう。そしてそのランスロットが一分持たなかったほどの実力。しかもそれは数年前の事だ。現在はどれぐらいの実力になっているのかは全く想像できないだろう。

 最低でも、竜を素手で躾けられるほどの実力者なのは間違いない。

 

「更に、魔術にも秀でている。自衛に関しては問題ないどころか問題外だと思いますが」

「し、しかしそれでは、逆に扱いに困ると言いますか……」

「一時的といえど聖槍にまで認められたお人だ。人格面も精神面も、十分すぎるでしょう。個人的には円卓への加入を推薦できるほどです」

「かのランスロット卿がそこまで言うとは……私も推薦します。あれほどの御方は、むしろ入れるべきです」

「ガウェイン卿まで……」

 

 円卓の二強が推薦するほどの者。ここまで来ると異常にしか感じられなかった。

 その意見に否定的なベディヴィエールとしては、単純に女性であるが故に戦場に出したくないという理由であった。この時代では女性は戦う者では無く守られるべき者。非力の象徴でもあった。

 二人の言葉は、それを根本からひっくり返す発言だったのだ。混乱も無理はない。

 

 今もドライフルーツをパクパクと食べている人畜無害そうな少女が、とてもそんな人とは思えない。

 しかし嘘をつかない円卓きっての糞真面目組二人が断言した以上、蔑ろにもできない。

 扱いに困るとは、そう言う事である。

 

「…………ねぇ、お話はもう終わり?」

 

 退屈そうな顔でアルフェリアが言い放つ。重大な会議だというのにその声音は子供の論争をひたすら聞いているかのようなもの。一部の騎士たちは何様だ、と心の中で憤慨しているだろう。

 

「いえ、貴女の処遇については今しがた話し合っており――――」

「? そんなに難しいことじゃないでしょ、それ」

「………?」

 

 ベディヴィエールが散々頭を悩ませているのにもかかわらず、アルフェリアはそれを『難しいことじゃない』と一蹴する。

 そして――――衝撃の提案が述べられた。

 

「だって私の存在を公にしなければいいだけじゃない」

「……………………え!?」

「ほら。私の事を知ってるのって、まだ貴方たちだけでしょ? じゃあ緘口令でも敷いて言わなければいいじゃない。そこまで悩むことかな?」

「しかしそれではあなたが」

「まぁ、永久に表沙汰にはならない代わりに、誰にも知られないでしょうね」

 

 アルフェリアが今言っているのは『自分を歴史に残すな』という事だ。

 騎士に取って後世に名が残るのはこの上ない名誉である。特に、円卓の騎士となればその名は数百年以上残り続けるだろう。それは紛れも無く誇ってよいことであり、ブリテンの騎士達の一種の目標なのだ。

 

 そしてアルフェリアはそれを自分から捨てた。

 騎士王の姉君としての役を捨て、歴史に名を残させずこの場を収めろと言ったのである。

 さすがのサー・ケイも、この提案には目を丸くしていた。

 

「でも構わないよ、私は。別に有名になりたいわけではないし」

「だけどそれではあまりにも、貴女が不憫だ……!」

「ふふっ、お気遣いありがと。優しい人は好きだよ、ベディヴィエールさん」

「っ……あ、ありがとうございます」

 

 不意打ち気味に放たれたアルフェリアの微笑を直視して、ついベディヴィエールは顔を赤くして背けてしまう。

 騎士といえど彼も男児。美麗な女性の笑顔は誰から見ても美しいものなのだ。

 因みにこの笑顔で円卓の半数以上の者の心が動いた。

 

(……妹を一瞬とはいえ異性として意識してしまうとは。いや、血のつながりは無いからいいのか? いやでも)

(王が女性だったのならば、あのような人柄なのだろうか。おっと、私のガラティーンが夜なのにも関わらず三倍に……)

(やはり貴女はお美しいです、アルフェリア。今の笑顔はニミュエの名に賭けて魂に刻んでおきましょう)

 

 主にそんな感想だったのは言うまい。

 

「けど、私はもう決めたから。大好きないも――――弟を影で支えるって」

「…………わかりました。貴方のお気持ちを尊重しましょう」

 

 そして会議が終了する。

 結論としては『アルフェリア・ペンドラゴンという存在について一切の他言を禁止』。普通の騎士ならば死刑宣告同然だろうに、当の本人が希望しているのだから何も言えない。

 

 騎士たちの気持ちを察したのかしていないのか、アルフェリアは何かを思いついた様に手を叩いた。

 

「そうだ、折角だし夕食にしようか。みんなまだ何も食べていないよね?」

「え? ええ、一般の騎士たちはもう食べ終えたでしょうが……料理はもうほとんど残っていないかと」

 

 今日はヴォーティガーンを倒した日だ。それを祝して騎士たちの間で盛大な宴が行われており、普段は絶対にしないであろう食材の大量消費を行っている。

 並べられた料理は野菜の盛り合わせや潰した物や大雑把に切った――――

 

「……あれが、料理?」

「違うのですか?」

「私には豚の餌に見えたんだけど」

 

 要するに適当に会った食材を切ったり煮たり潰したりしたものを盛っただけの、料理とも言えない何かである。例えるなら家畜の餌だ。

 食に疎いブリテンとはいえ、外部から来た人間(ランスロット)昔それをはるかに凌駕(アルトリアと)した料理を食した人間(サー・ケイ)はそれを話題にした瞬間思いつめたような表情になる。

 

 誰だって最高ランクの肉の後に焼け焦げた肉の塊を出され続ければ、心も荒れる。

 

「どういうことでしょうか? もしかして量が足りなかったのですか? 残念ながらこのガウェイン、昼で無いといつもの三倍の量を出せない――――」

「黙れマッシュメーカー。野菜を潰した物を盛りつけただけの代物を料理とは言わない」

「なん、ですって……! しかし王は何も言わず平らげていましたよ!?」

「アンタ人の家族になんてもん食わせてんだぁぁぁぁあああ!?」

 

 余談だが、円卓の中で一番料理ができるのはベディヴィエールである。

 料理人が不在の際に騎士たちが行う料理担当の時間割がほぼ六割以上が彼になっているので、他の者の料理スキルがいかに酷いかわかるだろう。いや、それ以前に料理と呼べるものを作れる者自体このブリテンにはほとんど存在していないのだが。

 まともな物と言えば希少な穀物で作られるパンぐらいだろうか。そのパンも美味と呼べるほどのものでもないが。

 

 額に青筋を浮かべたアルフェリアは円卓を叩いて立ち上がる。

 その様子に何故かアルトリアがこれでもかというほど目を輝かせた。

 

 ……十年ぶりにまともな食事を食べられるのだから、そりゃ嬉しいだろう。

 

「いいでしょう……あなた方に本当の料理と言う物を見せてあげる。是非、その舌を唸らせて料理と言う物を根本的に馬鹿にしてる頭を残らず粉々にしなさいな?」

 

 アルフェリアが空間に穴を空けて、その中に入っていく。

 残された騎士たちはその言葉に対しごくりと喉を鳴らした。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 ブリテンはやっぱり飯マズでした。死にたい。

 目の前に潰した野菜のデカ盛り出されて「料理です」と言われたらどうする。私なら皿を渡した奴の顔に叩き付けているね。

 

 というわけで虚数空間の中に用意した厨房で、仕入れた食材をたっぶり使って晩餐を用意することにした。

 皆疲れているみたいだから、回復のためにたんぱく質重視の肉料理をメインにするか。だけど偏り過ぎは駄目だから野菜も混ぜて、ソースはあんまり凝ると口に合わないかもしれないからデミグラスがいいかな。

 幸い材料も調理環境も十分。片っ端から仕込みをして調理を開始していく。

 

 

 

 ~中略~

 

 

 

「よし、完成!」

 

 騎士たちの目の前に並べられた大量の料理。実に十一人前をどうにか二時間程度で用意し終えることができた。

 いやぁ大変だった。戦闘後だというのにまた疲労がたまってしまった。今日はゆっくり休もう。

 

『…………………………』

「ん? みんな、どうしたの?」

 

 全員が目の前の料理を呆けた顔で見ていた。

 一体どうしたというのだろう。まさか嫌いなものでも入っていたか? いや、でも流石に十人全員が共通して嫌う物とか……心当たりはない。

 恐る恐ると言った様子でアルトリアが口を開く。

 

「姉さん、その……本当に食べても、いいのでしょうか」

「はい? そりゃ、食べるために用意したんだから当たり前でしょうに」

「……では、失礼して」

 

 アルトリアが最初に、仔牛のカツレツをフォークで取り一口。

 むっしゃむっしゃという音が静寂が広がる場に響き渡る。

 

 そして、アルトリアがブワッと涙を流した。

 

 なんでさ。

 

「っ、ひっ、ぐ……う、ぐぅっ………………!」

「え、何で泣いてるの? え? え?」

「これですっ、私が求めていたのはこれなのですっ! あんな料理とも言えない家畜の餌を食すこと十年…………乗り越えてきた甲斐がありましたっ…………!」

 

 十年もアレを食べさせられ続けたというのなら、その心情たるや穏やかなものでは無かっただろう。

 つか、ブリテンにまともな料理ができる奴はいなかったのか。『比較的』料理のできるベディヴィエールさえも料理初心者のような出来だったのでお察し状態なんだけど。

 

 そんなアルトリアの様子に何かを感じたのか、騎士たちは次々と料理を口に運んだ。

 瞬間、全員一人残らずその双眸に涙を浮かばせる。

 

「…………これが噂に聞く神の晩餐なのでしょうか」

「なぜっ、なぜ私は……私が今まで食してきたものは何だったのだ!」

「今ならば蛮族の軍勢も蹴散らせるような気がします」

「もう何も怖くない」

「……腕を上げたな、アルフェリア。兄として嬉しく思う」

「ええ、確かにこれは凄まじい……! 今まで溜まった疲労が消えていくようです」

 

 一人死亡フラグ立ててないか。

 なんにせよ気に入ってもらえて何よりだ。料理人として己の出した料理が喜ばれるというのは至上の喜びなのだ。うんうん、よかったよかった。

 

「――――姉さん、もしよければ宮廷料理人として私に仕えられませんか?」

『名案です王よッ!!!!』

「…………え?」

 

 何故か円卓総一致。というか目がマジだった。たぶん『死んでもこちら側に引き込む』という決意をしているような目がほとんど。

 

 ――――あ、これ断ったら全員と鬼ごっこする羽目になるわ。

 

 最悪の顛末を予知し、それを避けるために快く承諾することにする。

 

「いいよ。アルと一緒に居られるなら、どこでも」

『うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 

 何でこいつらこんなにテンション高いの。そこまで料理を気に入ってくれたのか。ていうか私の存在価値は料理か。料理だけなのか。こうなったら世界一の料理人でも目指してみようかな……。

 

 

 

 そんなコントは真夜中まで続き、騒ぎ疲れた騎士たちは眠りにつく。

 食器の後片付けという役目を全部私に押し付けた後で。しかも気持ちよく寝ているもんだから起こすのも悪いと思ってしまう。

 一人寂しく、一番の功労者である私がどうしてこんな夜遅くまで皿洗いなどせねばならんのか。

 軽いため息を吐きながら、最後の皿を洗い終えて凝り固まった身体を伸ばす。

 

 今日も色々あった。

 さっさと寝ようと前もって用意された古城の自室に入り、ベッドに腰掛ける。

 お世辞にもいいとは言えないが、ベッドがあるだけマシか。

 

「…………姉さん」

「アル?」

 

 意外にもまだ寝ていなかった妹が、突然何処からともなくやってきた。

 着ている鎧は脱いでおり、パッと見少年とは思えない。いや完全に少女だ。というかあれだけ女顔なのになんで性別気づかないんだ円卓の騎士。マーリンが何か細工でもしているのか? それともあいつら全員ホモなのか?

 

「こんな時間まで寝ないでどうしたの? お腹下した?」

「いえ、違いますよ。もう。姉さんは私を何だと思っているんですか」

「勿論、大切な家族だよ」

「……ええ、そうですね。姉さんらしい答えです」

「どーも」

 

 アルトリアが苦笑しながら、私の隣に腰掛ける。

 仄かに漂う香りは花の香りか。とても甘い匂いがした。――――ああ、またトリップしてしまう。

 

「私は……信じていました。いずれ、姉さんが帰ってくると」

「約束だからね。大好きな妹との」

「ええ。ですが、私はたった一度だけそれを諦めたことがあります。姉さんは帰ってこないと。何か危険な目に遭い……死んでしまった、と。思ってしまったのです」

 

 まぁ、死にかけるような大事に巻き込まれたのは確かだけどね。

 

「でも、姉さんは帰ってきてくれた。今はそれが、とてもうれしいです」

「そりゃ私もアルに会いたかったよ。十年間もアルが居なくて、毎日毎日寂しい思いをしたよ」

「……私も、そうかもしれません」

 

 ……いや流石に妹を抱き枕にできなくて毎晩やきもきする気持ちとはまた違う気がするんですけど。

 しかし、寂しかったのは確かだろう。長い間共に居た家族が突然いなくなる空虚感は、想像を絶する。特に、一方的に去られた立場としては倍以上に。

 

「姉さん。約束してくれますか。もう、私の傍から離れないと。ずっと、共に居てくれると」

「勿論――――と、言いたいところだけど、こんな状況だからね」

「…………? それは、どういう」

「ブリテンを狙っているのは、ヴォーティガーンに招き入れられたサクソン人だけじゃない。もうすぐ別の略奪者がやってくる。生まれ故郷を追われた人たちがね」

「ッ!? まさか、まだ争いが続くと……そうおっしゃるのですか!?」

「残念ながら、ね。だから、保証はできない。私も戦うから」

「それは――――」

「だって、アルも戦うんでしょ? 妹が戦地に赴いているのに、後ろでめそめそと引き籠る趣味はないよ、私は」

 

 決意に満ちた私言葉に、アルトリアはうつむいてしまう。

 そして泣きそうな顔で私を見上げながら、私の腕を自分の体で抱きしめた。

 

 あ、やばい。上目遣いやばいって。鼻血出る。鼻から愛情あふれちゃう。

 

「……すみません、姉さん。今だけ、王ではなく、妹として――――甘えていいでしょうか」

「ふふっ。聞かなくてもわかるでしょ? ほら、おいで」

「……はいっ」

 

 ボフッとアルトリアが私の胸に飛び込み、そのままベッドに横たわる。

 久しぶりの添い寝。とても心が落ち着いた。下手すれば昇天しかねないほどに。

 気を強く保ちながら、ぎゅーっと妹の華奢な体を抱きしめる。柔らかい。甘い。スウィート。今なら根源至れそう。

 

「姉さん…………大好きです」

「あはは、私もだよ」

 

 あ、やば――――可愛すぎて意識、が――――――――――。

 

 そうして私の夜はひとまず終局を迎えた。

 

 

 

 

 




悲報:主人公、妹の香りを掻くだけでトリップする。なんぞこれ。

追記・誤字修正しました。
追記2・指摘された箇所を修正しました。

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