ポケットモンスターCLEAR   作:マンボー

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 大変遅くなりました。申し訳ありません。
 とりあえず、イエロー誕生日おめでとう!


七十九話『vsリザードン 番外編⑥』

 

「……ここは」

 

 瞼を開けると見知った風景がぼんやりと瞼の内に映りこんでくる。

 どうやら、自分は自室に寝かされていたらしい。

 未だ混乱の渦中にある脳細胞をフル稼働させ、目覚めた少年"クリア"は自身の状況を出来うる限り早めに整理する。

 "アカネ"の報告から始まった先の事件、幻のポケモン"アルセウス"を巡る死闘の幕開け、その裏で起こったクリアと"ホルス"改め"カラレス"との二度目の邂逅――。

 その刹那の時まで思い出して、そしてクリアがその先の出来事まで推察しようとした、その時だった。

 

「フッ、遅い目覚めだな。クリアよ」

 

 不意に、とても懐かしい声が彼の鼓膜を揺さぶる。

 

「……え? 今の声って……」

 

 一瞬、ただの幻聴だと思った。

 意識がはっきりとしていない自身の脳が出したほんの僅かばかりの異常だと。

 だが彼のそんな考えを、彼の瞳は真っ向から否定する。

 

 "ヤナギ"。視線の先にいた人物、彼の事をクリアという少年は知っている。

 

 その人物は、かつてジョウトとカント―の二つの地方を震撼させた、元チョウジジムジムリーダーだった。

 そして同時に、とある一人の少女と同等程に"現在のクリア"という人物に影響を与えたであろう存在だった。

 何の前触れも無く。

 そんな彼が、約五年の時を超えて再びクリアの眼前に現れたのである。

 

「どうした、まるで幽霊でも見たかの様な顔だな」

 

 驚愕のあまりか完全に固まってしまったクリアまるで茶化す様にヤナギは言った。

 だがそんなクリアの対応も、そしてそう言われてしまうのも仕方がない。

 

 ヤナギという人物は、かつての騒乱の果てに幻のポケモン"セレビィ"と共に"時間の狭間"の中へと消えた。

 そして虹色の羽と銀色の羽、二つのキーアイテムを所持していなければ生存すら困難な場所に取り残された彼の先を想像する事は、そう難しい事では無い。

 故に、クリアが完全に固まってしまう程驚くのも無理もない事なのである。

 

「……だがしかし、お前が驚くのも無理もないだろう」

 

 そんなクリアの心境を察してか、ヤナギは微笑を浮かべたままそう切り出して、

 

「無論説明はしよう。私は居間の方にいる、まずは着替えて顔でも洗ってさっぱりしろ。話はそれからだ」

 

 有無など待たず、ヤナギはそう言って部屋を退室し、そして残されたクリアは訳も分からず言われるがまま、身支度を始める。

 そうして手早く身支度を済ませ、居間の扉を開いたクリアは開口一番に、

 

「……どうしてこうなってるんだ?」

 

 

 

 ――と、言うのもである。

 そこにいた人物面々、シズクやヤナギは当然として、彼ら以外の人の面子がその部屋の中には存在していて、そんな室内の様子にクリアは激しく違和感を覚えたのだ。

 

「来たか、クリア」

 

 見慣れた車いすに腰を下ろし、お茶を啜りながらそう言うヤナギ。

 

「目覚めて何よりですジムリーダー。来客があったので上がってもらってます」

 

 相変わらずとエプロン姿が妙に様になる元悪の組織幹部"シズク"は最早見慣れたジムの風景。

 

「あ、クリア! よかった、目が覚めたんだね!」

 

 そう言って黄色のポニーテールをふわりと揺らす"イエロー"という少女については、度々ジムにも訪れているクリアにとっても最も親しい者の一人である。居てもおかしくはない。

 

「ふむ、これは中々に、美味な茶だ」

 

 ――問題はこいつである。

 シズクが淹れたお茶に口をつける青年。その奇抜な外見を見間違う等とてもじゃないが不可能であり、故にクリアは彼の存在から激しい困惑を覚えている。

 ドラゴン使いの"ワタル"。

 それが青年の名であり、またそれは同時に、かつてのスオウ島決戦時にクリアがイエローと共に挑んだ相手の名でもあった。

 何食わぬ顔でジムに居座るワタルと、そのワタルと顔を突き合わせても特に何の反応も無いイエロー。

 果たしてクリアが寝ていた間に何があったのか。

 そんな疑問にかられた直後であった。

 

「……さて」

 

 クリアの耳にヤナギの声が届く。

 

「ではこれまでの出来事を大まかに振り返るとしようか、私やワタルが何故この場にいるか、その理由と共にな」

 

 

 

 ヤナギが語り、クリアを含め他の者も彼の言葉に耳を貸す。

 シント遺跡の戦いは、どうやらクリアが思っていた以上に重要かつ重大な戦いであったらしい。

 冗談でも、何かの例え話でも無く正真正銘の"世界を賭けた戦い"。シンオウとジョウトの地の存亡を賭けた戦いが、シント遺跡の中で繰り広げられていたのだ。

 ジョウト図鑑所有者とロケット団四将軍のプレート争奪戦から始まり、復活した"ディアルガ"、"パルキア"、"ギラティナ"の衝突、その影響による崩壊を防ぐ為に実現した"奇跡"とも言うべき"図鑑所有者と悪の組織の者との共闘"。

 ヤナギ、ワタル、そして"サカキ"による加勢に、崩壊を防ぐ鍵となるアルセウスへの訴えかけに成功した"ゴールド"。

 

 アルフの遺跡でクリアが"黒いバンギラス"と、更に"ホルス"改め"カラレス"と戦闘していた間、彼の知らないところではその様な事が起こっていたらしい。

 そうしてクリアが気絶した直後、窮地にあった彼を救ったのは、元マグマ団三頭火にして伝説のエンテイをパートナーに加えた"ホカゲ"に、ヒワダのジムリーダーである"ツクシ"と、かつてのクリアの手持ちであったカモネギの"ねぎま"とヤドキングの"ヤドンさん"であったという。

 彼らの活躍でどうにか最悪の事態を回避し、カラレスを退けた後、シント遺跡へと向かっていた者達が合流。

 その後はセレビィの薬で全快となったサカキは団を引き連れ撤退し、ゴールド達ジョウト図鑑所有者の面々を始め、残りの者もひとまずは自身の生活の中へと戻っていったという事だった。

 

 以上が、クリアが目を覚ます"三日前"の出来事である。

 

「……え、俺三日も眠ってたのか……?」

「うん、ボクがクリアの怪我を知ったのが"戦いから丸一日経ってから"で、それから急いでジムまで来て、また二日経ったから大体それ位」

 

 自然な形でクリアの横にちょこんと座ったイエローがクリアの呟き、もとい独り言に律儀に答えた。

 

「それだけ受けた傷が大きかったという事だ。お前が戦ったという黒いバンギラスと、カラレスという男から受けたダメージがな」

 

 "エース"に至ってはまだジムで療養中です。そう付け加えられたシズクの言葉に、クリアは苦虫を噛み潰した様な表情を一瞬見せて、

 

「……なるほど大体の事は分かったよ。師匠がこの世界にいる理由と、それにワタルがこのジムにいるのも、多分先の事件関連の事だね」

 

 気を取り直して、そう切り出すが、

 

「その言い方では少し語弊があるな」

 

 ワタルの事情は、どうやらクリアの予想とは少し違うところにあるらしい。

 

「"先の事件"、つまりそれがシント事件の事を指しているのならば、それは当然"正"だ」

 

 どこか勿体ぶった様なワタルの言葉、気づけばクリア以外の者達も先までよりも更に真剣にワタルの言葉耳を傾けている。

 それもそのはず、実のところ、これからワタルが話す内容については、その場にいる者全員初めて聞く事柄だったのである。

 

「だがそれが同時にシント事件の事のみを指しているのならば、それは"否"。私のこれまでの行動は、ある一人の人物とその者に関連する全ての事件を追っていただけに過ぎないのだ」

「……ある、人物?」

 

 不意に誰かが呟いた。

 そしてそれを合図に、会話の主導権は自然とヤナギからワタルへと移る。

 これまでのあらましを全て説明しきったヤナギから、これからの事について語るワタルへと。

 

「現在唯一行方知れずとなっているカント―四天王"キクコ"。ここ近年起こった比較的規模の大きいいくつかの事件に、彼女が関わっていると俺は睨んでいる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 "キクコ"。そのキーワードを聞いた各々の反応は様々だった。

 特に何の反応も見せない者、聞き覚えのある名から視線を合わせる者達、そしてどこか懐かしむ様に目を細める者。

 そんな中、一度クリアと視線を合わせてから、再びワタルへと向き直ったイエローは、かつて敵対した集団の長に対し口を開く。

 

「もしかして、ワタルはずっと昔の仲間を探してたの?」

 

 それは、この場において決して必要な質問ではなかった。

 何故キクコを追っていたのか、そしてどうしてキクコが怪しいと思ったのか。普通ならばこんな質問が飛び出してくるはずなのである。

 だがイエローは、その様なこの場においては当然出てくる"キクコに関する質問"よりも先にまず、"ワタル自身に関する質問"を投げかけたのだ。

 

 当然、当の本人でもあるワタルは一瞬だけ、呆気にとられた様な顔をして、

 

「……フッ、変わらないな、イエロー・デ・トキワグローブ」

 

 その時のワタルは一瞬だけ、以前の彼の面影を僅かに感じさせながら彼女に答える。

 

「君の言う通りだ。最初私は事件等とは関係なく、キクコの足取りを追っていた。あれは仮面の男(マスク・オブ・アイス)事件から少し経ったある日の事だった、ふとかつての仲間たちの事が気にかかったのだ」

 

 そう続けるワタルの顔には、かつての暴力性は見られなかった。

 

「ジョウト四天王となり、新たな仲間を得ていたシバ。地元に帰郷し、独自の交流を広めていたカンナ。私が特別気にするまでもなく、かつての私の仲間たちは強く立派に、自分の道を歩んでいた……ただ一人を除いてはな」

「それが……キクコ、なの?」

「あぁ、彼女に関してだけは追えば追う程謎と、そして疑惑が強まっていった。明らかに自身の痕跡を消している節があったのだ。そして、私がキクコに疑いの目を向ける事件が"バトルフロンティア"で起こった」

「"バトルフロンティア"、それはガイル……アオギリ総帥(リーダー)が起こした事件の事ですか?」

「そうだ。"ガイル事件"と呼ばれるこの事件、当時首謀者の協力者として二名の男女が確認されている。そしてそれは……ヤナギ老人、その二名の男女は恐らくかつて貴方が育てていた仮面の子供達(マスクド・チルドレン)の二人です」

「……ブルーとシルバーは当然除外されるとして、イツキとカリンは今となってはジョウト四天王の一角という事は私も知っている……とすれば」

 

 一度区切って、そして重たい表情のまま、ヤナギはその名を口にする。

 

「シャム、カーツ……そうか、あの二人は未だ闇の中にいるのか」

 

 "仮面の子供達"。それはかつてのヤナギが犯した最も重い罪の一つだ。

 例え、今となってはそのほとんどが自分の生き方を掴み取っていたとしても、自身の計画の為、未来ある子供の人生を強引に使わせてしまった罪とその意識は、恐らく彼の中から一生消える事はないのだろう。

 ましてやそれが、例え自ら志願してヤナギの教育を受けた二人であっても彼にとっては他の者達と同様であり、その二人が未だに闇の世界で生きているとなれば尚更なのだ。

 

「仮面の男事件の直後の"短期間の間のみ"、キクコが彼らと共に行動していたという裏付けは既にとっている」

 

 短期間の間のみ、という事実は恐らく、その後に関してはキクコが隠ぺい工作を行った証拠だろう。

 ワタルは脱線しかかった話を本筋に戻し言葉を続けて、

 

「"キクコが拾った二人の男女と酷似した人物"が事件当時バトルフロンティアで確認されており、この事から私はキクコとその一味に関する調査を本格的に始めた。そして先日、直に奴らと戦ったホカゲの証言から私は自分の推測を確信へと変えたのだ」

 

 そしてワタルは、その日最も険しい表情で言うのだった。

 

「これはかつてキクコと共に行動していた俺の推測であり、確信だ。遠くない将来、奴らとの戦いが起こるぞ。それも、これまで起こった数々の事件を遥かに凌ぐ規模のものがな……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからすぐ、ワタルは忠告だけ告げるとジムを去った。

 

「今日話した事はあくまで私の推測の域を出ない、よって一部の例外を除きあなた方にしか話してはいない。この情報をどう扱うかは、あなた方の判断に任せよう」

 

 その日告げられた事実とワタルの推測。それは恐らく決して無碍にしてはいけないものだ。

 キクコ、ゴーストポケモンを操るカント―四天王の一角、その人物が各地の事件の闇に潜み、何かしらの準備を行っている。

 もしそれが本当だとすれば、それはかなりの大事なのだろう。

 なにせキクコは四天王事件の際から、何かと裏で手を引き、また計画の為の準備も抜かりなく行うからだ。

 そしてその事を、かつて共にいたワタルは良く知っている。

 故に、彼は旅立つのである。

 

「これから当分は情報収集と調査の日々だ、また何か分かったら追って連絡しよう」

 

 何分現在分かっている事は限りなく少ない。

 キクコが各地の事件に関与していた理由や、彼女の目的、戦力の大きさ。そして本人の所在地等々、上げ始めたらキリが無く、そしてこれらの調査を行えるのは限りなく少数だ。

 何故ならこれらの事柄の調査を、それも裏工作を得意とする者を相手に調べるのだ。

 キクコの事をよく知っている人物であり、万が一にでも戦闘まで発展した場合生き残れる程の強者。これが此度の調査で確実に求められるスキルであり、そしてワタルはそのどちらの要素も備えている。

 尤も、旅立つのは何も彼一人だけではない。

 

「……アンタも行くんだな。ホカゲ」

「あぁ、クリア、お前との戦闘(バトル)は次の機会までとっておくぜ」

 

 ホカゲはワタルの助手役として彼に同行する事にしたらしい。いくらワタルと言えども、相手がキクコとなると危険な事にはやはり変わりない。故の同行であり、

 

「それ俺自身も奴らに借りがある。行かない理由はねぇんだよ」

 

 彼には彼なりの理由があるらしい。

 

「ねぇ、ワタル」

「……どうした? イエロー・デ・トキワグローブ」

 

 そして旅立ちの間際、カイリューに跨ったワタルにイエローが声を掛けていた。

 それはかつての宿敵同士の対話。

 今となってはワタルも敵ではなくなり、過去の彼からは考えられない程に丸くなっていたが、それでも独特の緊張感が漂う。

 果たしてここにきて、このタイミングで彼女は何を口にするのか。

 その問いから、何故かクリアまでもが不思議と緊張の面持でいたが、

 

「偶には……」

 

 だがイエローは、かつての宿敵の満面の笑みを浮かべて言うのであった。

 

「偶には、トキワにも帰ってきてよ。ボクも"森"も歓迎するからさ!」

「……あぁ、そうだな。偶には、里帰りもいいかもしれないな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 チョウジジムから飛び立って、ワタルは次なる目的地目指して飛行を続ける。

 隣には道すがら出会い、そして同行者となったホカゲが彼のリザードンの背に乗りそこにいる。

 去り際に放たれた少女の言葉、その言葉で少しだけ、ワタルは過去の罪から来る自責の念から救われた気がした。

 だが、まだである。

 彼はまだ、全てを清算してはいない。

 彼の四天王事件は、未だ終わりを迎えていないのだ。

 

(キクコよ、お前の目的は大体推察出来る。そして理解も出来る。だからこそ、かつての仲間だった俺が……私が絶対に貴女を止める……!)

 

 夜明けの時。

 その身一杯に朝日の光を受けながら、尚もワタルは進み続ける。

 新らたな仲間と共に、かつての仲間を止める為の戦いへと。

 目指す目的地は――"シンオウ地方"。

 

 

 

 

 

 

 

 

 チョウジジムの一室で、一体の黒いリザードンが毛布をかけられ横たわり眠っていた。

 必要な治療は既に施され、後はただ安静に努めれば直に全快となるらしい。

 

「だから、別にいいよイエロー。今は戦いも無いんだしゆっくりと治す。エースもそれを望んでいるはずだ」

「……うん。ボクもそう思うよ」

 

 翳しそうになった右手を引っ込めながらイエローは答えた。

 "癒す者"、イエローは傷ついたポケモンを癒し、そしてその心を読み取る能力を持っているのだ。

 

 ワタルとホカゲは去って行ったが、その頃にはもう日も暮れていた為、イエローはもう一晩だけチョウジジムに泊まる事になった。

 その事をクリアが彼女の叔父に伝えた時、かなりの大声で色々と釘を刺された事を彼女は知らないし、これからも知る必要はない。

 チョウジジムの一室で、少年と少女は傷ついた一体のリザードンを前に少しの間無言でいた。

 そうして、最初に口を開いたのはイエローだった。

 

「ボク、嬉しかったんだ」

「……ワタルの事か?」

「うん、昔は戦って、傷つけあったけど、だけど今はこうして分かり合えたんだから!」

「あぁ、そうだな、ワタルとイエローは同じトキワの能力を持った仲間同士だしな」

「うん!」

 

 アルフの遺跡での激戦がまるで嘘の様な心地の良い時間。微笑を浮かべたクリアに笑いかける少女の笑顔の所為か、これまでの疲れも何処かへと消えていく。

 

「分かり合える、か……」

「え?」

「……いや、何でもない。そろそろ寝ようか」

「え、あ、うん。そうだね。もう大分遅くなっちゃったし」

「そうそう、それに明日は君を早くトキワに返さないと、俺が叔父さんに怒られるしな」

「むぅ、仕方ないけど、叔父さんは昔から……というより、昔以上に最近は過保護な気がするなぁ」

「……まぁ、それは仕方がない事じゃないかな。うん」

 

 そしてイエロー用に貸し出された部屋の前で彼らは足を止める。

 無論、部屋は別々である。当然である。

 

「じゃあクリア、また明日ね」

「あぁ、おやすみイエロー」

「うん、おやすみ!」

 

 室内へと消えていく少女の背中、少女の姿を最後まで見送ってから、そしてクリアは再び歩き出す。

 

「……悪いがイエロー、君はきっとキクコ達とだって最後には分かり合えると思っているんだろうが、俺はそうは思わない」

 

 誰に言うでもない独り言が、クリアの鼓膜のみを揺すり、その脳裏には別れ際にワタルから告げられたある事実が浮かび上がる。

 

『それと、これは私の完全な勘だが、先の事件でアルフの遺跡に現れた"カラレス"と名乗る青年と"サキ"についてもキクコの一味であると考えている』

 

『ホカゲが言った、「私たちのボス」と確かにサキがそう言うのを聞いたと。俺はそれがキクコだと考える』

 

『だから奴らと万が一遭遇しても戦ってはいけない。キクコとその一味は不気味な存在だ。何が起こるか分からない』

 

 それがワタルの忠告。無論、クリアも極力はその言葉を意識する様に心がける気でいる。

 しかし――、

 

(俺は多分、あの二人と出会えば戦ってしまう。何故かは分からないが、多分理屈じゃない。俺とあの二人の間には深い因縁がある。俺はとてもそんな気がするんだ……それに)

 

 その時脳裏に浮かんだのは二つの記憶、かつての苦渋の思い出。

 ナナシマ時と、今回の事件の記憶。

 少女の石化と、彼のエースが負った負傷。

 そして次の言葉は、思いがけずに自然と口から出ていた。

 

「返さねばならない借りは、俺にもある……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから未明、シンオウ地方のとある場所にて。

 

「フェフェフェ、やはり、隠れて動くのもそろそろ限界かね」

「カント―四天王ワタル。確かに彼なら独自の情報網も持っているでしょうし、キクコ様の事もよく理解している。ある意味国際警察より厄介な相手だ」

「はっ、ちょこまか探られんのは性に合わねぇな。なんなら俺がこれから潰してくるか?」

「フッ、正面からぶつかれば、奴を潰せたとしても私たち側にも相応の被害があるだろうな」

「それに奇襲しようにも、奴は一度それで痛い目を見ている。あのレベルの奴に二度目はまず成功しないだろうな」

「なに構いやしないさ、そろそろが潮時だった。それだけさね」

 

 そう言った老婆(キクコ)は重い腰を上げる。そして彼女に続いて、サキが、カラレスが、シャムが、カーツが各々立ち上がる。

 全員が立ち上がる頃を見計らい、そうして一体のゲンガーを従えたキクコは言う。

 

「準備は終わった。動くよ、お前たち」

 

 シンプルでいて、かつ力強い言葉だった。

 

「さぁ、終わりを始めに行こうじゃないか……! フェーフェフェフェ……!」

 

 


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