ポケットモンスターCLEAR   作:マンボー

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五十一話『vsプラスル&マイナン 空の柱、幻の島』

 

 

「"ニードルアーム"!」

 

 少年の叫ぶ様な指示の後、ノクタスの"ニードルアーム"の針が波に打ち上げられた一個のカバンを貫き、岩礁へと突き刺し固定する。

 それを見た少年は安堵の表情を一瞬浮かべ、すぐに自身のカクレオンへと指示を出した。

 先程のカバンを取る様に、少年の命を受けて、彼のカクレオンがその自慢の舌を器用に伸ばし岩礁へと貼り付けられたカバンを捉え、そして少年の下へとカバンを引き寄せる。

 少年と、もう一人は小柄な老人、二人の人物を乗せたゴムボートの上に一匹のポケモンが衰弱し切った身体を晒し倒れる。

 カバンの中にあった一個のモンスターボール、その中から現れた緑のポケモンはこの嵐の海の中、カバンと共に長時間の間漂っていたのだろう、息も絶え絶えの状態で少年は急いで手持ちのロゼリアに"アロマセラピー"の指示を出した。

 少しの間技をかけ続け、緑のポケモン、キモリの呼吸が安定する頃を見計らい、次に少年は"くさぶえ"をロゼリアに指示し、キモリの体力回復の為睡眠を誘う。

 

「ほう、中々のポケモン捌きだ」

 

 キモリの睡眠が深くなってきた頃、まるで見計らった様に不意に少年達の頭上から声が聞こえる。

 その声の主、緑髪の少年に質問を告げる人物は言う、"何故危険性の高いニードルアーム"を使ったのかと。

 脅しを掛ける様な強い声色で質問された少年、"ミツル"は答える、"自身のポケモンを信じたから。ノクタスなら必ずやってのけると、それしか自分には出来ない"と。

 そして彼等の問答を、ミツルと共にいた老人、ゲムは意味深な微笑を浮かべて見守っていた。

 

「ふ、見違えたな、ミツル君」

 

 ミツルの答えを聞いて、満足気にそう言って降りてくるのは、フライゴンに乗った黒髪の、凛々しい印象を持った一人の男性。

 その男性を、ミツルは知っていた。そしてその男性を呼んだのは、何を隠そうミツルと共にいた老人ゲムだった。

 クリアとイエローと別れ、キナギタウンに身を寄せていたミツル、そんな彼の隠れた才能を見出したゲムが独自のツテから目の前の男性へと連絡をつけたのである。

 年の功とも言うべきか、エニシダや目の前の男性と知り合っているという辺り、このゲムと名乗る一見弱々しい小柄な老人もまた、只者では無いのかもしれない。

 

「ではミツル君、あの時、トウカで果たせ無かった君の願い、今からそれを叶えに行こうじゃないか!」

 

 突然、フライゴンに乗って飛来した"ホウエン地方最強のジムリーダー"トウカジムの"センリ"の言葉、嵐の中の彼の言葉を発端として、そうしてミツルの戦いの幕は上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暴風雨が吹き荒れる131番水道でクリアは意識を取り戻した。

 どうやら直に地べたに寝転がっていたらしく、突風に乗って頬へと降りかかる雨粒が覚醒し切っていない頭を無理矢理叩き起こしてくる。

 目を覚ました数秒間、眠気眼で遠くを見つめていたクリアだったが、暫くしてようやく事態を理解したらしい、跳ねる様に彼は飛び起きて、

 

「……ここは、あれ……俺確か海の中で……」

 

 片言にそう呟いて、その視線は自然と腰のボールの下へと注がれる。

 心配気な表情のP、何故か荒々しく闘争心を燃やすエース、そして寂しそうな顔を向けるタマザラシ、どうやらクリアの手持ち達は皆無事らしくその事に、彼は一先ず胸を撫で降ろす。

 一瞬、意識を失った後ホカゲとシズクを救出したレヴィが帰還し、そこからクリアを救出したのかとも思ったクリアだったが、どうやらその様な事は無いらしく、レヴィの姿等どこにも見当たらない。

 しかし、だからと言ってクリアはさしてレヴィの身の心配はしていなかった。

 レヴィ自身、チョウジにいる間も普段からエースと飽きる事無く闘っていたのだ、多少の事で危険に陥る様な鍛え方をしたポケモンでは無い。

 

 よって上記の理由から、クリアはまず周囲の状況を確認し、自身の身に何が起こったのかを推測する事に専念する。

 クリア自身、今彼がどこに立っているのかを理解していない。

 人工の石造りの建造物らしき場所、その最下層に立っているらしいクリアはまずは外へと目を向ける。

 そこにあるのは変わる事無く、荒れ狂う程の雨嵐が吹き荒れ、とてもじゃないが海水浴等とは言ってられない光景がその眼前には広がっている。

 ――そう、彼の前には猛り白波を上げ、いくつかの渦を作る大海原が広がっているのだ。

 視界は悪く、数メートル先の海を視認する事は出来ないが、飛んで来る海水の塩辛さがその巨大な水溜りが"海"である事を証明している。

 

「そう言えば、あれから一体どれだけ経ったんだろ……」

 

 呟き、クリアは海へと背を向けた。

 彼が海底洞窟で失敗し、意識を手放して今まで、たった数時間しか経過していない、という保障等どこにも無かった。

 何分死んだ様に眠っていたのである、その間の記憶や感覚等当然あるはずも無く、事情を知っているだろうポケモン達に聞こうにも、"癒す者"のイエローが傍にいないとなればそれもまた敵わない。

 海底洞窟で、クリアは一度は二つの宝珠、紅色の宝珠と藍色の宝珠を奪取する事に成功するも、その宝珠の力の影響の所為もあって計画は失敗、二つの宝珠は取り返され二つの組織のリーダーへと渡り、そしてアクア団総帥アオギリの策略によりクリアはその二つの組織の幹部、ホカゲとシズクの両名と共に海の藻屑となりかけた。

 宝珠から逆流して来る超古代ポケモンの力に翻弄されながらも、レヴィの力でどうにかホカゲとシズクを脱出させる事に成功はする、しかしクリア自身は力の波に飲み込まれそこで意識は一度途切れ、次に気を取り戻した時は現実の波に飲まれ、その全身から全ての力が抜け出した後だったのだ。

 

 そうして嵐の海で一人、もう何度目かになる死と向き合って意識を失ったクリアだったのだが、どうしたものか今も変わらず、五体満足健全な身体で今こうして地に足をつけている。

 

 一体どうして今の状況になったのか、結局クリアには理解出来なかった。

 少しの間熟考するも、レヴィが戻って来た様子は無く、周囲に他の人の気配も無い。

 最も可能性が高い予想はボールの中のタマザラシが外に出てクリアをこの場所まで引っ張ってきた、とうものだが、しかし彼のタマザラシはまだ幼年期、泳ぎもそこまで上手くないらしく、とてもじゃないが嵐の海を人一人引っ張り泳ぎきるとはとても思えない。

 考えても考えても、納得のいく予想も答えも出て来る事無く、終いには、

 

「よし、この問題は保留にしよう……それにしても」

 

 考える事を止め、一先ずは目の前の問題へと目を向ける事にしたのである。

 そう判断してクリアは雨風に晒される事覚悟の上で、少しだけ外へと身を出して自身今いる建造物、その実態を確認する為に視線を少しずつ上に移動させて、直後彼は、その余りに迫力ある風景に圧倒された。

 雲を突き抜けて高く聳える塔、この嵐の中でも揺らぐこと無く立ち続ける長方の巨大な一本の柱がクリアの眼前に広がっていたのだ。

 その迫力に言葉を失いつつも、すぐにクリアは再度頭を働かせる。止まない風雨を目覚めた超古代ポケモン、カイオーガの影響と仮定して、そしてその事からまだクリアがホウエン地方にいると判断して、

 

「まさかここは、"そらのはしら"か……?」

 

 空の柱、そう呟いたクリアの予想は的中していた。その塔は131番水道に位置する場所に存在し、その存在はあまり巷には出回っていない塔の存在。

 そして同時に、クリアは最早濃く靄のかかった様な記憶の海から、一つの情報をどうにか探し出す。

 探す出す情報は唯一つ、今彼の眼前に聳える空の柱、そこに住まう一匹のポケモン、"もう一匹の超古代ポケモン"の情報だ。

 

 自然と目付きは鋭くなっていた、周囲の状況から恐らく未だ超古代ポケモンの脅威は続いていると予想して、なれば目の前に転がった好機を逃す手は無いと考える。

 超古代ポケモン"レックウザ"の捕獲――クリア自身、そして彼の現在の手持ち達の体力は、先の戦いの疲労や、長時間海水に使っていた事によりとうに限界に達しているが、それでもクリアは短期決戦を臨む覚悟を決めた。

 どちらにしても、この嵐と雨ではエースによる飛行に頼る事は出来ない、このまま手を拱いていては今度こそ、食糧難等のどうしも無く不恰好な理由で人知れず果ててしまうだろう。

 そうなる前に、レックウザを捕獲し、空の柱から脱出する事、クリアはまずその一点のみを目標に掲げる事にしたのだ。

 

「……大丈夫だ、次こそは、失敗しないでやれる……!」

 

 先の失敗の影響だろう、無自覚に震える身体は恐らく雨水で濡れた体温低下の影響では無い。

 いくら心の中で覚悟を決めたと言っても、一度超古代ポケモンの力に屈した事はまだクリアの記憶にも新しい事実だ。

 それもグラードンとカイオーガの場合は二つの宝珠、紅色の宝珠と藍色の宝珠という媒介となり、力の影響を軽減させる為の道具があったにも関わらず、彼はその力の逆流に耐え切る事が出来なかったのである。

 ならば当然、超古代ポケモンの一匹であるレックウザにも同様の現象が簡単に予想出来る。

 それも宝珠が無い分、その難易度は遥かに高い事は必死、もう何度も体験している事ながら、"ゲーム"と"現実"の違いをひしひしとクリアはその肌で感じ取っていたのだ。

 

 だがそれで怖気づく訳にもいかない、何の準備も無く、唯一安全に海を渡れるレヴィがいない今、クリアは目指すしか無い。

 そう感じて、意を決してクリアが空の柱を登ろうと足を動かそうとした時だった。

 何か重量級のものが背後に落ちる音が耳に届き、次に数人の足音と気配を察知する。

 上階へと続く階段の手前、近づいて来る足音を背中に感じながら、警戒の色を強くしてクリアは振り返る。

 ――だがそこにいた三人の人物、その中の二人の顔を見て、クリアは一気に張り詰めた警戒を解いた、必要ないと判断しての事だったからだ。

 

「あれ、もしかしてクリアさんですか?」

「もしかしなくてもね、そういうミツルこそ、どうしてここに?」

 

 空の柱、天まで届く巨大建造物の眼下で彼等は再会した。

 カイナのコンテスト会場で出会い、キナギタウンで別れた二人の少年、クリアとミツル、そしてそれは正式に譲渡されたかどうかの違いはあれど、今は共に図鑑を持った所有者同士の邂逅。

 それと同時にキナギタウンのゲム、そしてホウエン最強のジムリーダーセンリ。嬉しい再会と出会いを切欠に、彼等は暫くその場に停滞する事となったのである。

 彼等の目的は唯一つ、偶然か必然か"共通の目的"を持った者同士の邂逅、目指すは第三の超古代ポケモン――"レックウザ"。

 

 

 

 

 

 

 

 

 嘘の様な穏やかな陽だまり、暖かな草木と土の匂いがする場所。

 現在のホウエン地方は超古代ポケモン、グラードンとカイオーガの激突で、異常なまでの日照りと暴風雨で丁度半々に両断され、そんな過ごしやすい気候の場所等どこにも存在しないかの様に思われていた。

 だがそんな幻の様な場所で、二人の少年少女は目を覚ます。

 ホウエンコテンスト制覇を目指すルビーと、ホウエンジム制覇を目指すサファイア、二人のホウエン図鑑所有者だ。

 彼等は海底洞窟でマグマ団の頭領マツブサと、アクア団の総帥アオギリと激突し、そのまま暴走した二人に強引に連れられてルネシティへと辿りついた。

 そこで彼等は、フエンの活火山の活動を停止させた、自然エネルギーを打ち消す隕石"グラン・メテオ"の力を使い、二匹の超古代ポケモンの暴走を止めようと画策、計画は成功したかに見えた。

 しかし実際には、完全に紅色の宝珠と藍色の宝珠にとり憑かれたマツブサとアオギリの二名を解放するまでに留まり、今尚グラードンとカイオーガは暴れ戦い、ルビーとサファイアの二人はその時起こった衝撃に巻き込まれ、今の今まで気を失っていたのだ。

 

「ここは……」

「分からない、あの激しい戦い、ホウエン中の大混乱とは全く関係無い様な、穏やかな場所……」

 

 そうして目覚めた彼等二人は、気絶する寸前まで行われていた熾烈な争いを思い出し、そんな争いとは全く正反対な今自身達がいる場所に違和感を覚えつつ、身を起こす。

 その時、彼等は聞こえた足音と掛けられた第三者の声に二人同時に振り向く。

 そこにいたのは四人の人間、子供が三人と、紳士的でダンディズムな大人が一人。

 

「ボンジュールご両人、ようこそ最終特訓の地へ。私はアダン、ミクリの師でこの度彼の頼みでルネシティジムリーダーに復帰した者、そしてこの二人もまたジムリーダー、トクサネジムのフウとランです」

 

 (うやうや)しく丁寧なお辞儀をして簡単な自己紹介を述べるアダン、彼の放った"師"の単語に驚きを隠せないでいるルビー。

 それもまた仕方無い、ルビーにとって元ルネジムリーダーのミクリとは師匠と呼び慕う人物であり、そんな師匠の師となるとルビー自身にとってもその瞬間から、無関係な人物では無くなる。

 尤も、まだアダンはミクリの師という証を見せた訳でも無く、ルビー達自身半信半疑であるが、そんな疑惑はすぐに払拭される事となるのだろう。

 ――だがその前に、もう一人、アダンから紹介を受けていない"麦藁帽子を被った人物"へとルビーとサファイアの二人は自然と視線を動かした。

 一人だけ紹介されなかった人物に対し、疑念と興味が沸いたのだろう、そんな彼等の視線に若干の戸惑いを見せつつ、彼女もまた自ら自身の簡単な紹介をする。

 

「えぇと、ボクはトキワの森のイエローです、よろしくお願いします、ホウエン図鑑所有者のルビーさん、サファイアさん!」

 

 そうして、幻島の地で彼等は出会った。

 一時の間のみだが図鑑を持っていた元図鑑所有者の少女と、ホウエンの地で新たに図鑑を手にした二人の少年少女の出会いは、驚く程平凡な挨拶で締めくくられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジョウト地方とカントー地方、二つの地方からホウエン地方へと訪れていた二人の少年少女、クリアとイエロー。

 クリアの骨休みを兼ねたホウエン旅行、主にカントー図鑑所有者の一人であるブルーの策略により、共にこのホウエンの土を踏んだ彼等だったが、それもまた図鑑所有者の定めか、彼等は三度巨悪と対峙する事となった。

 四天王、仮面の男と続く二つの巨悪、マグマ団とアクア団、強大な力を持った"二つ"の組織だ。

 送り火山、トクサネジムリーダーのフウとランと共に戦い、戦いあってすぐに成行きで別行動となった二人のトレーナーだったが、それから数度と無く日が昇り沈んで、そして既に現実時間で約三週間の時間が過ぎようとしていた。

 

 

 

「いけプラスル、"うそなき"!」

「今ったいマイナン! "でんげきは"!」

 

 顔の造形が似ている二人の少年少女と彼等が指示する二匹のバネブーを相手に、此方もまた先の二人より少しだけ年上の少年少女、そして彼等の操る二匹のポケモンの、息の合ったコンビネーションでプラスルとマイナンのコンビ技が炸裂する。

 "マボロシ島"、その名の通り、滅多に人の目に触れる事無く文字通り"マボロシ"の様に消失と出現を繰り返すことで知られるホウエン地方の島の一つ。

 そんな場所で、彼等の修行は行われていた。

 ルビーとサファイア、ホウエン図鑑所有者にして、ホウエンの未来を託された二人の若きトレーナーだ。

 今彼等はこうして、ダブルバトルを得意とするトクサネジムのジムリーダー、フウとランの二人を相手にダブルバトルの修行を行い、それが一段落つくとルネシティのジムリーダー、アダンによる精神修行へと入る、という修行プランを繰り返していた。

 トクサネジムの二人のジムリーダーとのダブルバトルは近い決戦の日の為、そして精神修行はルネシティでのグラードンとカイオーガの激突、その際に彼等二人についてしまった二つの宝珠、紅色の宝珠と藍色の宝珠をコントロールする術を身に付ける為のもの。

 そして、休息が少ない厳しい修行を繰り広げる彼等二人とほぼ同時に、もう一人、普段はなれないバトルの修行をする者がいた。

 

「今だよ、デリバード!」

 

 ルネの新ジムリーダー"アダン"のキングドラ相手に、デリバードの"ふぶき"が降りかかり、そうしてデリバードは"永久氷壁"の冷気を持ってして、アダンのキングドラを"こおり"状態へと状態を変移させる。

 それを見て、アダンが戦闘終了の合図を送り、麦藁帽子の少女、イエローもまたそれに応えた。

 

「見事ですイエロー……それにしてもこのデリバード、よく育てられている」

「は、はい、ありがとうございますアダンさん……と言ってもデリバードは元々ボクが育てたポケモンでは無いのですけど」

「ふむ、件の少年、ジョウト地方のジムリーダー"クリア"少年の事ですね」

 

 小さく首を縦に振り頷いて、イエローはアダンから視線を逸らしデリバード、続いて彼女の近くに寄り添う美しい蒼のポケモン、グレイシアのVへと視線を移した。

 この二匹の氷ポケモン、送り火山でマグマ団のホカゲを追ったクリアが結果的にイエローに残していったポケモン達、成行きとはいえ何の気兼ねも無く大事なポケモン達を残していける辺り、クリアという少年がどれ程このイエローという少女を信頼しているか簡単に推測出来る。

 

 送り火山でクリアと別れてから、イエローはミクリの前任であり事実上後任にも当たるルネシティの新ジムリーダー、アダンと合流した。

 フウとランの二人が信頼を寄せているという事も大きく、またイエローはホウエンの地理や事情には詳しく無く、単独で行動するよりはアダンと合流した方が色々と都合が良かったのである。

 そうして暫くは、最早いつもの事だと慣れたのか、今回はクリアの言う事を聞いて単独でマグマ団へと潜入した彼からの連絡をイエローは大人しく待っていた。

 ――だがその間にも事は進み、ルネシティでの超古代ポケモン、マグマとアクアの二つの組織のリーダー、そしてホウエン図鑑所有者の二人、彼等を中心とした騒動の一度目の決着、その結果現在の彼女はこのマボロシ島にいるのである。

 グラン・メテオの爆発、その衝撃からルビーとサファイアを救ったイエロー含むアダン一行はそのまま幻島を最終特訓の地と定め、この地に足を降り立った。

 イエロー自身、完全に行方を晦ましたクリアを探しに行きたい気持ちが日に日に増幅していたのだが、だがイエローは思いとどまり、今回の騒動でもしも自身の力が必要になった時、その時の事を想定して自身もまたルビーやサファイアと同様にポケモン修行を行う事にしたのだ。

 そしてイエローがクリア捜索を踏みとどまった理由、それは一重にクリアが過去の経験から学び、そして彼自身ジムリーダーという重要な役職についている為、基本無茶はしないだろうと、クリアを信じてそう決めていたのだ。

 尤もその信頼をクリアは見事なまでに裏切っていたが、この時点でそれをイエローが知る術等存在しない。

 

 

「でもイエローさんから聞いた時は驚いたよ、まさかクリアさんがジムリーダーだったなんて」

「でもまぁ納得はしたわ、通りで強いはずだもの……身分を隠してジム戦挑んで来た事は一先ず置いておいてね」

 

 いつの間に近くに来ていたのか、一旦休憩を挟んだのだろうフウとランの二人が会話に割って入り、ランの言葉に曖昧な笑みで答えるイエロー、それに続けて、

 

「確かつい最近ですよね、その人がチョウジタウンのジムリーダーに就任したのって……僕がジョウトにいた時、結構話題になってましたよ」

「しかもポケモン図鑑を持ったあたし達の"先輩"に当たるお人なんよね、図鑑所有者でジムリーダーって、凄かお人やねー」

 

 白と緑の帽子を被った少年と、緑と白のバンダナを被った少女もまた会話へと入って来る。先程までダブルバトルの練習をしていた二人、ホウエン図鑑所有者のルビーとサファイアだ。

 ちなみに図鑑所有者の中でジムリーダーを務めるのはクリアだけでは無くもう一人、マサラタウンのグリーンがおり、またイエローが尊敬するトレーナー、レッドもまた一度はジムリーダー試験に合格した人物であり、決してクリアだけが特別な訳では無い。

 その事を一人知ってるイエローはまたも曖昧な笑いでその場を濁し、

 

「いいえ、皆さんが思ってる程凄いって事は無いですよ……クリアは全然、特別なんかじゃないです」

 

 その場において、クリアという人物の最も近くにいた少女はそう言って笑った。

 "導く者"と称され、二度にも渡り巨悪との戦いに巻き込まれ、一度は死んで蘇生した人物の事を、あくまでも"普通の人間"だと、彼女は彼等五人の人物達に語るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、単身マグマ団へと潜入し、海底洞窟で妨害に失敗、嵐の大海原へと放り出され、次に空の柱で目覚めたクリアは、その後空の柱五十回――最上階にて彼もまた修行に励んでいた。

 空の柱で目覚めた直後、偶然ミツルとゲムの両名と再会したクリアは、一先ずはその場に留まり彼等の行動についていく事にしたのだ。

 それというのも、第一に彼等は空の柱から離れようとは思っておらず、当然クリア、そして現在唯一の長距離移動要員のエースの体力にもこの天候では難があり、流石に空の柱からは離れられない。

 第二に、トウカジムのジムリーダーというセンリと、レックウザが住まうと仮定される空の柱、その組み合わせに只ならぬ予感をクリアは感じて、それもまた彼の決断の一旦を担っていた。

 グラードンとカイオーガの二体が復活し、大混乱に陥っているホウエン地方、そんな時、そんな場面でのこの組み合わせなのだ、並々ならぬ事情があるに違いない、そう判断したクリアは一先ず彼等についていく事にしたのである。

 

 そうして自身とポケモンの力のみで空の柱、五十階を駆け上がり、ミツルがクリアとセンリの二人と合流するまでも、そして合流してからも、彼等はひたすらに自身のポケモン達と、自身等の技量を鍛えていた。

 多くを語らない性格のセンリは、クリアやミツルにも未だ目的を明かしていないが、それでも彼等との特訓は海底洞窟で破れたクリアにとっては有り難いものであり、力と技と心を鍛える一番の近道になったと思えていた。

 

 

「そろそろ、教えてくれてもいい頃合じゃないかと思うんだ」

「え?」

 

 だがそれもそろそろ潮時というものである。

 空の柱五十階、それより先の上階へと続く階段はもう存在せず、現段階での最上階にて、クリアとミツルは束の間の休息を取っていた。

 休息に必要な物資はセンリやゲムがどこから持って来たのか十分な量を用意しており、後一月は空の柱に篭っていても問題無いと言っても良い程だ。

 この訓練で進化してしまった元ラルトスのキルリア、ルビーの手持ちのRURUとミツルが腹ごしらえのお結びを持って、突然そんな事を言い出したクリアを見た。

 

「決まってるよ、センリさんと俺達が今ここで特訓している理由さ」

 

 そう言いながら無造作に一つのお結びを手に取り、少し離れた位置にいるエースへと投げるクリア、それを落とさず空中で平らげるエース。

 その様子を満足そうに見て、続ける様にクリアは言った。

 

「正直、今のホウエン地方があまり悠長な事をしてられない位、危機的な状況ってのは俺でも分かる。そしてセンリさんはジムリーダー、俺が言うのも何だけど、本来なら事態の収拾に尽力してなければいけないんじゃないのだろうか」

「……うん、実は僕もずっとその事については考えてました、だけどセンリさんは何も言いませんし……まぁでも、確かに不安ではあります」

 

 そう言って気弱な笑顔を浮かべるミツルの表情の変化に、クリアは今更ながら驚きを感じる。

 カイナ、キナギと出会ったミツルは、非常に身体が弱く、常に今にも倒れそうな青い顔で咳込んでいた、そんな少年だった。

 だが今目の前にいる彼は、確かに完全な健康体――と言える程では無いものの、それでも以前よりは遥かに血色よく、咳き込む回数も大幅に減っている。

 それというのも彼等が修行している場所、空の柱という高度が高く、酸素濃度が地上よりも低い場所という立地条件が関係していた。

 一回で吸い込む空気量が少なく、嫌でも多くの空気を欲する事となるその場所では、地上で暮らすよりも短期間でミツルの弱かった心臓を鍛え、彼の心肺機能を何倍にも強化されていたのだ。

 だがミツルのそんな事情は唯の結果の一つに過ぎない、レックウザの存在を知っているクリアはどうしてもその考えを改める事が出来なかったのである。

 

(修行を始めてもう何週が経過したのか、そろそろセンリさんに直接問い質して……)

 

 クリアの心中の呟きは途中で中断された。

 ビクンと、何かに反応する様に身体を震わせたエースの姿がクリアの視界に入ったからである。

 身体を震わせた後、ミツルの背後、その先の階段を見つめるエース、そんなエースの行動にクリアもまた一気に緊張状態を極限まで持っていった。

 仮にも冗談でそんな態度を取る事等、クリアのエースには考えられなかったのである。

 そして背となっている為ミツルの眼にはエースの姿は映っておらず、またその為エースの急な反応には当然気づかない。

 しかし急に雰囲気を一変させたクリアにミツルは驚きを隠しきれないながらも、その迫力に並々ならぬ事情を察知したミツルもまた背後を振り返る、それと同時に次第に大きくなる足音、そしてミツルが振り返るのとその人物が最上階に到達するのはほぼ同時だった。

 

「あぁ、ようやく会えましたか。でもまさか最上階にいるとは、これなら最初から飛んで登った方が早かったですね」

 

 現れたのはスキンヘッドの男、クリアにとっては少なからず縁のある、アクア団のマークが入った青のバンダナを頭につけた男性。

 その姿を視界に捉えた瞬間、クリアの行動は早かった。

 すぐにエースへと目配せして、早口でミツルへと用件を告げ、目の前の"敵"へと注意を払う。

 

「ミツル、今すぐセンリさんの所へ、こいつはアクア団の幹部……敵だ」

「探しましたよ、チョウジジムジムリーダー"クリア"」

 

 傍らに"傷だらけのドククラゲ"を連れた男性、アクア団SSSシズクの突然の来襲により、クリアとミツル、二人の少年の"戦いの為の準備期間"は終わりを迎えようとしていた。

 

 




毎回毎回、プロットと違う内容になってる本編に驚きを感じる。
後進行速度、なんで元のプロットの半分も進んでいないのか。

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